特許第5757580号(P5757580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5757580
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】新規な細胞外分泌型ヌクレアーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/16 20060101AFI20150709BHJP
   C12N 9/22 20060101ALI20150709BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20150709BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20150709BHJP
   C12Q 1/44 20060101ALI20150709BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALN20150709BHJP
   C12R 1/465 20060101ALN20150709BHJP
【FI】
   C12N9/16 ZZNA
   C12N9/22
   C12N15/00 A
   C12N1/20 A
   C12Q1/44
   !C12Q1/68 Z
   C12N9/22
   C12R1:465
   C12N1/20 A
   C12R1:465
【請求項の数】12
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-534053(P2012-534053)
(86)(22)【出願日】2011年9月15日
(86)【国際出願番号】JP2011071132
(87)【国際公開番号】WO2012036241
(87)【国際公開日】20120322
【審査請求日】2014年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-207598(P2010-207598)
(32)【優先日】2010年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-21987
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】森 梢
(72)【発明者】
【氏名】大田 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】秦田 勇二
(72)【発明者】
【氏名】中村 信之
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 征行
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 Biochim Biophys Acta.,2007年,Vol.1770, No.4,p.630-637
【文献】 Biochem J.,1995年,Vol.306, Pt.1,p.93-100
【文献】 DEFINITION endonuclease/exonuclease/phosphatase [Streptomyces sp. e14].,[online],2010年 6月,ACCESSION ZP_06707258,Retrieved on 2011.10.11,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/ZP_06707258
【文献】 Biochim Biophys Acta.,2005年,Vol.1721, No.1-3,p.116-123
【文献】 Biochem J.,1982年,Vol.203, No.1,p.77-84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二本鎖DNA、一本鎖DNAおよびRNAを基質とし、かつ、精製後に1mM MgClおよび1mM CaClを含む20mM Tris/HCl、pH 8.5において37℃で30分間二本鎖DNAに供した際の比活性がベンゾナーゼ(登録商標)の比活性と同程度またはそれより高く、かつ、分子量がゲルろ過クロマトグラフィー法で16,000である、ストレプトマイセス属細菌であるStreptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)由来の細胞外分泌型ヌクレアーゼ。
【請求項2】
二価金属イオンとして、Mg2+またはMn2+を要求する、請求項1に記載のヌクレアーゼ。
【請求項3】
(1)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列、
(2)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列、または
(3)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列
を含み;かつ、二本鎖DNA、一本鎖DNAおよびRNAを基質とし、かつ、精製後に1mM MgClおよび1mM CaClを含む20mM Tris/HCl、pH 8.5において37℃で30分間二本鎖DNAに供した際の比活性がベンゾナーゼ(登録商標)の比活性と同程度またはそれより高い、ヌクレアーゼ。
【請求項4】
二本鎖DNAおよび一本鎖DNAを基質とし、かつ、100mM Naの存在下での比活性がNaを添加しない場合の比活性と比べて60%以上であり、かつ、分子量がSDS−PAGE法で66,500である、ストレプトマイセス属細菌であるStreptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)由来の細胞外分泌型ヌクレアーゼ。
【請求項5】
二価金属イオンとして、Mg2+を要求する、請求項に記載のヌクレアーゼ。
【請求項6】
(a)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列、
(b)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列、または
(c)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列
を含み;かつ、二本鎖DNAおよび一本鎖DNAを基質とし、かつ、100mM Naの存在下での比活性がNaを添加しない場合の比活性と比べて60%以上である、ヌクレアーゼ。
【請求項7】
ヌクレアーゼ活性成分として請求項1〜のいずれか1項に記載のヌクレアーゼおよび/または請求項のいずれか1項に記載のヌクレアーゼを含む粗酵素。
【請求項8】
Streptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)を培養して、請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞外分泌型ヌクレアーゼを得ることを含む、細胞外分泌型ヌクレアーゼの製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の製造方法により得られる、細胞外分泌型ヌクレアーゼまたはその粗酵素。
【請求項10】
Streptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)。
【請求項11】
核酸を含む試料に請求項1〜のいずれか1項に記載のヌクレアーゼおよび/または請求項のいずれか1項に記載のヌクレアーゼを供して前記核酸を分解することを含む、核酸を分解する方法。
【請求項12】
前記核酸がDNAである、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2010年9月16日出願の日本特願2010−207598号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、新規な細胞外分泌型ヌクレアーゼ、その製造方法、および該製造方法に用いられる新規なストレプトマイセス属細菌に関する。また、本発明は、該細胞外分泌型ヌクレアーゼを用いた、核酸を分解する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヌクレアーゼ(Nuclease)とは核酸を特異的に分解する核酸分解酵素の総称である。ヌクレアーゼをデオキシリボ核酸やリボ核酸などの核酸へ作用させると、核酸中の糖とリン酸との間のホスホジエステル結合は加水分解し、ヌクレオシドが生成する。
【0004】
ヌクレアーゼは、EC番号(Enzyme Commission numbers)としてEC.3.1であるエステル加水分解酵素の一つとして分類されている。また、ヌクレアーゼは、RNAを分解するリボヌクレアーゼとDNAを分解するデオキシリボヌクレアーゼとに分類される他、分解の型式によっても分類され得る。
【0005】
核酸を配列途中の内部(endo−)から切断するのを触媒する酵素はエンドヌクレアーゼと呼ばれる。エンドヌクレアーゼの代表的なものとしては、種々の制限酵素が挙げられる。それに対して、核酸配列の外側(exo−)から内部に向けて、核酸の5’端または3’端から削るように核酸を切断するのを触媒する酵素をエキソヌクレアーゼと呼ぶ。エキソヌクレアーゼの代表的なものとしては、エキソヌクレアーゼIIIなどが知られている。
【0006】
現在、ヌクレアーゼは、研究室スケールから工業スケールまで、多種多様な場面で使用されている。たとえば、ヌクレアーゼを用いれば、その核酸分解活性により細胞抽出液の粘性を下げることができる。そこで、細胞抽出液中のタンパク質その他の目的物質を単離および精製する際に、ヌクレアーゼを用いれば、プロセス時間の短縮、目的物質の収量向上、遠心分離法による分画の改善(ペレットと上清との分離性)、溶液の円滑なろ過(特に限外ろ過)、クロマトグラフィー工程の効率向上などが期待できる。また、核酸が非特異的に吸着するウイルスやインクルージョンボディなどを単離および精製する際にヌクレアーゼを用いれば、これらの収率を向上させることが期待できる。さらに、生体試料を解析するためのELISA、クロマトグラフィー、2D−PAGEやフットプリント解析などのサンプル調製にヌクレアーゼを用いれば、不要な核酸による測定誤差を回避できる。
【0007】
このような種々のスケールおよび場面で使用できるヌクレアーゼとして、セラチア spp(Serratia spp.)に由来するエンドヌクレアーゼが知られている(それぞれ特許文献1および2として特許第2604365号明細書および米国特許第5173418号明細書を参照、特許文献1および2の記載はここに特に開示として援用される)。セラチア属微生物の中には日和見感染菌として、病原性をもつものがある。そこで、特許文献1に記載のエンドヌクレアーゼは、遺伝子組換え技術により大腸菌を用いて細胞外に分泌される細胞外分泌型酵素として製造されている。なお、特許文献1に記載のセラチア sppに由来するエンドヌクレアーゼは、商品名ベンゾナーゼ(登録商標)として市販されている(非特許文献1として"ベンゾナーゼ ユニークなエンドヌクレアーゼ"、[online]、平成20年1月1日、メルク株式会社、[平成22年7月30日検索]、インターネット〈URL:http://www2.merck.co.jp/japan/chemical/pdf/info_pdf/071225_Benzonase_16p.pdf〉を参照、非特許文献1の記載はここに特に開示として援用される)。
【0008】
非病原性微生物由来のヌクレアーゼとしては、放線菌の一種ストレプトマイセス属細菌(Streptomyces spp.)が産生するヌクレアーゼが知られている(それぞれ非特許文献2〜7としてBiochem.J.1995 306,93−100;Biochem.J.1992 281,231−237;Appl Microbiol Biotechnol.1995 Nov;43(6):1056−1060;Biochimica et Biophysica Acta(BBA)−General Subjects,Volume 1721, Issues 1−3,18 January 2005,116−123;FEMS Microbiology Letters,Volume 237,Issue 2,15 August 2004,273−278;およびProcess Biochemistry Volume 40,Issues 3−4,March 2005,1271−1278を参照、非特許文献2〜7の記載はここに特に開示として援用される)。非特許文献2および3に記載のヌクレアーゼは細胞内蓄積型酵素として生産される。それに対して、非特許文献4〜7に記載のヌクレアーゼは細胞外に分泌される細胞外分泌型酵素である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2604365号明細書
【特許文献2】米国特許第5173418号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】"ベンゾナーゼ ユニークなエンドヌクレアーゼ"、[online]、平成20年1月1日、メルク株式会社、[平成22年7月30日検索]、インターネット〈URL:http://www2.merck.co.jp/japan/chemical/pdf/info_pdf/071225_Benzonase_16p.pdf〉
【非特許文献2】Santiago CAL, Jesus F. APARICIO, Clara G.DE LOS REYES-GAVILAN, Rebeca G. NICIEZA and Jesus SANCHEZ, Biochem. J. 1995 306, 93-100
【非特許文献3】Jesus F. APARICIO, Carlos HARDISSON andJesus SANCHEZ, Biochem.J. 1992 281, 231-237
【非特許文献4】Vukelic B, Ritonja A, Vitale L., ApplMicrobiol Biotechnol. 1995 Nov;43(6):1056-1060.
【非特許文献5】Zuzana Brnakova, Andrej Godany and JozefTimko, Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - General Subjects, Volume 1721,Issues 1-3, 18 January 2005, 116-123
【非特許文献6】Sumedha S. Deshmukh and Vepatu Shankar,FEMS Microbiology Letters, Volume 237, Issue 2, 15 August 2004, Pages 273-278
【非特許文献7】Nitin S. Patil, Sumedha S. Deshmukh andVepatu Shankar, Process Biochemistry Volume 40, Issues 3-4, March 2005, Pages1271-1278
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1および2に記載のヌクレアーゼならびに非特許文献1に記載のベンゾナーゼは、非病原性微生物を用いて製造せしめるものである。しかし、これらのヌクレアーゼは、遺伝子組換え大腸菌によって生産されるため、由来微生物の生産性と比べて生産性が低い。したがって、工業的規模のヌクレアーゼを得るためには、生産工程の繰返しまたは長期化などが必要となり、作業的、経済的および時間的な負担の増大が問題となる。そこで、ヌクレアーゼの生産方法としては、遺伝子組換え技術を使わず、天然の非病原性微生物を用いて生産するのが望ましい。
【0012】
非特許文献2および3に記載のヌクレアーゼは、非病原性微生物体内に蓄積される、細胞内蓄積型の酵素である。したがって、これらのヌクレアーゼを得るためには、ヌクレアーゼを蓄積させた微生物体を破砕し、次いで得られた微生物破砕物からヌクレアーゼを分離精製しなければならない。そこで、非特許文献2および3に記載のヌクレアーゼを得る工程は複雑であり、かつ、不純物が混入する可能性が高いとの問題がある。
【0013】
それに対して、非特許文献4〜7に記載のヌクレアーゼは、非病原性微生物の体外に分泌される細胞外分泌型の酵素であり、上記した特許文献1および2ならびに非特許文献1〜3に記載のヌクレアーゼを製造する際に生じる問題は起こらない。
【0014】
しかし、非特許文献4〜7に記載のヌクレアーゼは、非常に活性が低いという共通の問題がある。非特許文献4〜7に記載のヌクレアーゼの比活性は、非特許文献1に記載の単位に換算すると、それぞれ、3.5×10U/mg−protein、9.7×10U/mg−protein、1.3×10U/mg−proteinおよび3.2×10U/mg−proteinであり、非特許文献1に記載のヌクレアーゼと比較して3〜100倍程度活性が低い。
【0015】
また、非特許文献4および5に記載のヌクレアーゼは、NaClによって酵素活性阻害を受け易い。非特許文献4に記載のヌクレアーゼの10mM NaClの存在下での比活性は、非特許文献4に記載の標準活性条件と比べて、32%である。非特許文献5に記載のヌクレアーゼの100mM NaClの存在下での比活性は、非特許文献5に記載の標準活性条件と比べて、40〜50%である。したがって、非特許文献4および5に記載のヌクレアーゼを希釈等する際に、一般的に広く用いられているPBSなどのNaCl含有緩衝液を使用することができない。また、微生物の培養を介する産業的な製造工程では、菌体濁度を上げるために100mM以上の一価金属塩が含まれる高栄養の培地を用いて微生物を培養するのが一般的である。このような培養により得た培養液中の核酸の分解は、塩濃度が高い条件下で実施され得る。
【0016】
非特許文献6および7に記載のヌクレアーゼは、精製酵素としてEDTAによって透析した場合、完全に活性を喪失する。この活性を回復させるにはMn2+が要求され、Mg2+などの他の二価金属イオンでは代用できない。マンガン塩は非常に高価であり、かつ、残留毒性の危険がある。
【0017】
したがって、非特許文献4〜7に記載のヌクレアーゼは、比活性が低い、NaClによって酵素活性阻害を受け易い、酵素活性について要求される二価金属イオンがMn2+に限定されるといった問題により、工業的規模での核酸分解に際して利用されていなかった。
【0018】
そこで、天然の非病原性微生物が細胞外に分泌し、かつ、従来のヌクレアーゼよりも比活性が高い、工業的規模での核酸分解に有用なヌクレアーゼを提供することを、本発明が解決しようとする第1の課題とした。また、天然の非病原性微生物が細胞外に分泌し、酵素活性に対するNaClの影響が小さく、かつ、酵素活性についてマンガンよりも安価かつ毒性の小さい二価金属イオンを要求する、工業的規模での核酸分解に有用なヌクレアーゼを提供することを、本発明が解決しようとする第2の課題とした。さらに本発明が解決しようとする別の課題として、上記ヌクレアーゼを製造する方法および該方法に供され得る非病原性微生物を提供することがある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、鋭意研究を積み重ねた結果、培養液中に比活性の高いヌクレアーゼを分泌する微生物を深海から単離することに成功した。次いで該微生物を同定した結果、放線菌の一種である非病原性のストレプトマイセス属細菌であることがわかり、本発明者らはこの微生物をStreptomyces sp.MBE174と名付けた。
【0020】
Streptomyces sp.MBE174の培養液からヌクレアーゼ活性を示すタンパク質分画を分離および精製したところ、二本鎖DNA、一本鎖DNAおよびRNAを基質とし、かつ、非特許文献1に記載のベンゾナーゼより比活性が高いヌクレアーゼ(NucS)と、二本鎖DNAおよび一本鎖DNAを基質とし、高濃度のNaの存在下で比活性を維持し、かつ、マンガンよりも安価かつ毒性の小さいマグネシウムを要求し得るヌクレアーゼ(NucL)との2種類のヌクレアーゼが得られた。
【0021】
上記NucSおよびNucLは、Streptomyces sp.MBE174の増殖とともに、ヌクレアーゼ活性を維持して培養液中に分泌されるものであった。したがって、Streptomyces sp.MBE174の培養液やこの培養液の乾燥物および簡易に精製したものは、NucSおよびNucLの2種類のヌクレアーゼを含む粗酵素として、工業的規模での核酸分解に供され得る、有用性の高いものである。
本発明は、上記知見に基づいて完成された発明である。
【0022】
したがって、本発明によれば、二本鎖DNA、一本鎖DNAおよびRNAを基質とし、かつ、精製後に1mM MgClおよび1mM CaClを含む20mM Tris/HCl、pH 8.5において37℃で30分間二本鎖DNAに供した際の比活性がベンゾナーゼ(登録商標)の比活性と同程度またはそれより高い、ストレプトマイセス属細菌由来の細胞外分泌型ヌクレアーゼが本発明の第一の態様のヌクレアーゼとして提供される。
好ましくは、分子量が、SDS−PAGE法で17,000〜21,000である。
好ましくは、二価金属イオンとして、Mg2+またはMn2+を要求する。
好ましくは、ストレプトマイセス属細菌が、Streptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)である。
【0023】
本発明の別の側面によれば、
(1)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列、
(2)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列、または
(3)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む、ヌクレアーゼが本発明の第二の態様のヌクレアーゼとして提供される。
【0024】
本発明の別の側面によれば、二本鎖DNAおよび一本鎖DNAを基質とし、かつ、100mM Naの存在下での比活性がNaを添加しない場合の比活性と比べて60%以上である、ストレプトマイセス属細菌由来の細胞外分泌型ヌクレアーゼが本発明の第三の態様のヌクレアーゼとして提供される。
好ましくは、分子量が、SDS−PAGE法で約66,500である。
好ましくは、二価金属イオンとして、Mg2+を要求する。
好ましくは、ストレプトマイセス属細菌が、Streptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)である。
【0025】
本発明の別の側面によれば、
(a)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列、
(b)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列、または
(c)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む、ヌクレアーゼが本発明の第四の態様のヌクレアーゼとして提供される。
【0026】
本発明の別の側面によれば、ヌクレアーゼ活性成分として本発明の第一または第二の態様のヌクレアーゼおよび/または本発明の第三または第四の態様のヌクレアーゼを含む粗酵素が提供される。
【0027】
本発明の別の側面によれば、Streptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)を培養して、少なくとも1種の細胞外分泌型ヌクレアーゼを得ることを含む、細胞外分泌型ヌクレアーゼの製造方法が提供される。
【0028】
本発明の別の側面によれば、本発明の製造方法により得られる、細胞外分泌型ヌクレアーゼまたはその粗酵素が提供される。
【0029】
本発明の別の側面によれば、Streptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)が提供される。
【0030】
本発明の別の側面によれば、核酸を含む試料に本発明の第一または第二の態様のヌクレアーゼおよび/または本発明の第三または第四の態様のヌクレアーゼを供して前記核酸を分解することを含む、核酸を分解する方法が提供される。
好ましくは、前記核酸がDNAである。
【発明の効果】
【0031】
本発明のヌクレアーゼは天然の非病原性微生物であるストレプトマイセス属細菌の一種が細胞外に分泌するものであることから、本発明のヌクレアーゼを生産するストレプトマイセス属細菌の培養液や該培養液の乾燥物や粗精製物を粗酵素として利用することができる。また、本発明のヌクレアーゼは、従来のヌクレアーゼと比べて比活性が高い、または、高塩濃度存在下でも活性を維持しつつ、要求される二価金属イオンがマグネシウムであるとの特徴を有することから、工業的規模での核酸分解に供され得るものである。
【0032】
本発明の2種のヌクレアーゼは、たとえば、塩濃度によって使い分けができる。具体的には、低塩濃度の環境下では、比活性の大きい一方の酵素(たとえば、NucS)による迅速なDNAおよびRNAの分解が可能であり、高塩濃度の環境下では他方の酵素(たとえば、NucL)によるDNA分解およびRNAの蓄積が期待できる。したがって、本発明の2種のヌクレアーゼを含む混合物を用意すれば、塩濃度を変化させることによって、所望の核酸の分解および蓄積が達成できる。
【0033】
また、本発明の高塩濃度の環境下で活性を維持する酵素(たとえば、NucL)は、RNAを分解せずに、DNAを分解できる。このようなRNAを分解しないという特性を活かして、たとえば本発明の酵素を、RNAを特異的に調製する方法へ使用することが可能である。
【0034】
本発明のヌクレアーゼを用いれば、細胞抽出液中のタンパク質その他の目的物質を単離および精製する場合に、プロセス時間の短縮、目的物質の収量向上、遠心分離法による分画の改善(ペレットと上清との分離性)、溶液の円滑なろ過(特に限外ろ過)、クロマトグラフィー工程の効率向上、ウイルスやインクルージョンボディなどの収率向上、ELISA、クロマトグラフィー、2D−PAGEやフットプリント解析などの測定誤差の回避などが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】部分精製NucSのSDS−PAGEと活性染色を示した図である。
図2】精製NucLのSDS−PAGEと活性染色を示した図である。
図3】NucSのpHと活性との関係性を示した図である。
図4】NucLのpHと活性との関係性を示した図である。
図5】NucSおよびNucLの温度と活性との関係性を示した図である。
図6】NucSおよびNucLの熱安定性試験の結果を示した図である。
図7】NucLの酵素活性に対する一価塩(NaCl)の影響を示した図である。
図8】NucLの酵素活性に対する一価塩(KCl)の影響を示した図である。
図9】NucSおよびNucLの酵素活性に対する二価金属塩(MgCl)の影響を示した図である。
図10】NucSおよびNucLの酵素活性に対する二価金属塩(MnCl)の影響を示した図である。
図11】NucLの酵素活性に対するリン酸塩の影響を示した図である。
図12】環状プラスミドDNAに対するNucS、NucLおよびベンゾナーゼの分解様式の解析結果を示した図である。
図13】NucLによる環状プラスミドDNAの分解結果を示した図である。
図14】NucSによる環状プラスミドDNAに対する分解反応初期における反応結果を示した図である。
図15】NucLによる環状プラスミドDNAに対する分解反応初期における反応結果を示した図である。
図16】NucSによる直鎖二本鎖DNAの分解結果を示した図である。
図17】NucLによる直鎖二本鎖DNAの分解結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明のヌクレアーゼは、ストレプトマイセス属細菌由来の細胞外分泌型ヌクレアーゼに関する。本発明のヌクレアーゼは、その性質、機能および構造により2つの酵素群に分類される。以下では本発明のヌクレアーゼを「ヌクレアーゼA」および「ヌクレアーゼB」という名称により説明する。
【0037】
[1]本発明のヌクレアーゼA
本発明のヌクレアーゼAは、二本鎖DNA、たとえば、スーパーコイル型およびリラックス型などの二本鎖DNA、一本鎖DNAおよびRNAを基質とするヌクレアーゼに関する。本発明のヌクレアーゼAは、精製後に1mM MgClおよび1mM CaClを含む20mM Tris/HCl、pH 8.5において37℃で30分間二本鎖DNAに供した際の比活性がベンゾナーゼ(登録商標)の比活性と同程度またはそれより高いとの特徴を有する。
【0038】
本明細書における「ベンゾナーゼ(登録商標)」とは、非特許文献1において製品名「ベンゾナーゼ グレードI(99%) 250U/μL for biotechnology」として記載されている、市販のヌクレアーゼをいう。後述する実施例により示される1mM MgClおよび1mM CaClを含む20mM Tris/HCl、pH 8.5において37℃で30分間二本鎖DNAに供した際のベンゾナーゼ(登録商標)の比活性は、9.4×10U/mg−proteinである。
【0039】
本明細書における「ベンゾナーゼ(登録商標)の比活性と同程度」とは、ベンゾナーゼの比活性に近似する値であれば特に制限されず、たとえば、ベンゾナーゼの比活性の±10%以内、好ましくは±5%以内、より好ましくは±2%以内をいう。本明細書における「ベンゾナーゼ(登録商標)の比活性より高い」とは、ベンゾナーゼの比活性より高ければ特に制限されず、たとえば、ベンゾナーゼの比活性の1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2.0倍以上、さらに好ましくは2.5倍以上、より好ましくは3.0倍以上である。
【0040】
ベンゾナーゼの比活性と比べる際は、本発明のヌクレアーゼAは精製されたものを用いる。本発明のヌクレアーゼAの精製は、陰イオン交換(SuperQ)、ハイドロキシアパタイト、陽イオン交換(CMセファロース)、ヘパリンアフィニティーおよびゲルろ過クロマトグラフィーを用いて精製される。本発明の好ましい態様である、後述する実施例に記載のNucSは、精製後の比活性が3.6×10U/mg−proteinである。それに対して、ベンゾナーゼ(登録商標)の比活性は、9.4×10U/mg−proteinである。したがって、精製後の本発明のヌクレアーゼAの比活性は、ベンゾナーゼの比活性の約3.8倍であることが好ましい。
【0041】
本発明のヌクレアーゼAの基質特異性は、二本鎖DNA、一本鎖DNA、RNAなどの種々の核酸を基質として1mM MgClおよび1mM CaClを含む20mM Tris/HCl、pH 8.5において37℃で30分間供して、これらの基質の分解活性を調べることで測定する。
【0042】
本発明のヌクレアーゼAは、基質および比活性が上記した通りのものであれば特に制限されないが、好ましくは、分子量がSDS−PAGE法で17,000〜21,000であり、および/または二価金属イオンとしてMg2+またはMn2+を要求する。
【0043】
本発明のヌクレアーゼAは、上記した基質への触媒活性および比活性の他、分子量および二価金属要求性などを指標として、ストレプトマイセス属細菌、たとえば、深海(水面下200m以下の海)に生息するストレプトマイセス属細菌を培養した培養上清中のヌクレアーゼ活性を調べるスクリーニング法により単離することが可能である。深海に生息するストレプトマイセス属細菌として好ましいのは、Streptomyces sp.MBE174である。なお、このStreptomyces sp.MBE174は、独立行政法人産業技術総合研究所の特許生物寄託センター(〒305−8566 茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6)に2010年7月27日付けで受託番号FERM P−21987として寄託されている。
【0044】
本発明のヌクレアーゼAの具体的な態様は、(1)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列、(2)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列、または(3)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む、ヌクレアーゼである。
【0045】
上記(1)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むヌクレアーゼは、分子量がSDS−PAGE法で17,000〜21,000である酵素群であり、共通配列としてALPTPVSAATAR(配列表の配列番号27)を有する。配列表の配列番号1は、共通アミノ酸配列ALPTPVSAATARをN末端の起点として17kDaと算出される共通アミノ酸配列(157アミノ酸)を指す。本発明のヌクレアーゼAのより具体的な態様は、後述する実施例に記載のNucSであり、214アミノ酸(配列表の配列番号3)からなるヌクレアーゼである。
【0046】
上記(2)のアミノ酸配列の「1から数個のアミノ酸の欠失、置換または付加」における「1から数個」の範囲は、上記(2)のアミノ酸配列を含むヌクレアーゼの精製後の比活性が、1mM MgClおよび1mM CaClを含む20mM Tris/HCl、pH 8.5において37℃で30分間二本鎖DNAに供する条件下で、ベンゾナーゼ(登録商標)の比活性と同程度またはそれより高くなる範囲であれば特に限定されないが、たとえば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。また、「アミノ酸の欠失」とは配列中のアミノ酸残基の欠落もしくは消失を意味し、「アミノ酸の置換」は配列中のアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置き換えられていること、および「アミノ酸の付加」とは配列中に新たなアミノ酸残基が付け加えられていることをそれぞれ意味する。
【0047】
「1から数個のアミノ酸の欠失、置換または付加」の具体的な態様としては、1から数個のアミノ酸が別の化学的に類似したアミノ酸で置き換えらた態様がある。たとえば、ある疎水性アミノ酸を別の疎水性アミノ酸に置換する場合、ある極性アミノ酸を同じ電荷を有する別の極性アミノ酸に置換する場合などを挙げることができる。このような化学的に類似したアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において知られている。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0048】
上記(3)のアミノ酸配列における「相同性」は、上記(3)のアミノ酸配列を含むヌクレアーゼの精製後の比活性が、1mM MgClおよび1mM CaClを含む20mM Tris/HCl、pH 8.5において37℃で30分間二本鎖DNAに供する条件下で、ベンゾナーゼ(登録商標)の比活性と同程度またはそれより高くなる範囲である90%以上であり、好ましくは93%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは97%以上、なおさらに好ましくは99%以上である。
【0049】
本発明のヌクレアーゼAを取得する方法は制限されるものではなく、上記したスクリーニング法以外にも、たとえば、配列表の配列番号1および3の記載を参照して、物理化学的に合成してもよいし、遺伝子工学的に配列表の配列番号1および3に記載のアミノ酸配列をコードする核酸から作成してもよい。
【0050】
[2]本発明のヌクレアーゼB
本発明のヌクレアーゼBは、二本鎖DNA、たとえば、スーパーコイル型およびリラックス型などの二本鎖DNAおよび一本鎖DNAを基質とし、かつ、RNAを実質的に基質としないヌクレアーゼに関する。
【0051】
本発明のヌクレアーゼBは、100mM Naの存在下での比活性がNaを添加しない場合の比活性と比べて60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上であるとの特徴を有する。
【0052】
本発明のヌクレアーゼBの比活性に対するNaの影響は、1mM MgClと0〜100mM NaClを含む10mM Tris/HCl、pH8.5中で、Deoxyribonucleic acid sodium salt from salmon testes 0.4mg/mL(シグマアルドリッチ社製、Cat no.D1626−1G)を基質として、各NaCl濃度の核酸分解活性を25℃で測定することにより調べることができる。
【0053】
本発明のヌクレアーゼBの基質特異性は、本発明のヌクレアーゼAの基質特異性と同様にして調べることができる。
【0054】
本発明のヌクレアーゼBは、基質およびNaに対する安定性が上記した通りのものであれば特に制限されないが、好ましくは、分子量がSDS−PAGE法で約66,500であり、および/または二価金属イオンとしてMg2+を要求する。
【0055】
本発明のヌクレアーゼBは、上記した基質への触媒活性およびNaに対する安定性の他、分子量および二価金属要求性などを指標として、ストレプトマイセス属細菌、たとえば、深海(水面下200m以下の海)に生息するストレプトマイセス属細菌を培養した培養上清中のヌクレアーゼ活性を調べるスクリーニング法により単離することが可能である。深海に生息するストレプトマイセス属細菌として好ましいのは、Streptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)である。
【0056】
本発明のヌクレアーゼBの具体的な態様は、(a)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列、(b)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列、または(c)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む、ヌクレアーゼである。
【0057】
上記(a)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むヌクレアーゼは、分子量がSDS−PAGE法で66,500であり、N末端部にシグナルペプチドを含まない成熟タンパク(575アミノ酸)である。本発明のヌクレアーゼBのより具体的な態様は、後述する実施例に記載のNucLであり、607アミノ酸(配列表の配列番号4)からなり、N末端にシグナルペプチドを含む。
【0058】
上記(b)のアミノ酸配列の「1から数個のアミノ酸の欠失、置換または付加」における「1から数個」の範囲は、上記(b)のアミノ酸配列を含むヌクレアーゼの100mM Naの存在下での比活性がNaを添加しない場合の比活性と比べて60%以上である範囲であれば特に限定されないが、たとえば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。また、上記(b)のアミノ酸配列における「アミノ酸の欠失」、「アミノ酸の置換」および「アミノ酸の付加」の意味ならびに「1から数個のアミノ酸の欠失、置換または付加」の具体的な態様は、本発明のヌクレアーゼAの具体的態様である(2)のアミノ酸配列で説明したのと同様である。
【0059】
上記(c)のアミノ酸配列における「相同性」は、上記(c)のアミノ酸配列を含むヌクレアーゼの100mM Naの存在下での比活性がNaを添加しない場合の比活性と比べて60%以上である範囲である85%以上であり、好ましくは88%以上であり、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上、なおさらに好ましくは99%以上である。
【0060】
本発明のヌクレアーゼBを取得する方法は制限されるものではなく、上記したスクリーニング法以外にも、たとえば、配列表の配列番号2および4の記載を参照して、物理化学的に合成してもよいし、遺伝子工学的に配列表の配列番号2および4に記載のアミノ酸配列をコードする核酸から作成してもよい。
【0061】
[3]本発明の粗酵素
本発明の粗酵素は、ヌクレアーゼ活性成分として本発明のヌクレアーゼA、本発明のヌクレアーゼBまたはこれら2種のヌクレアーゼを含む。本発明の粗酵素において、本発明のヌクレアーゼAおよびヌクレアーゼBの存在比は特に制限されず、基質となる核酸の種類や濃度、これらのヌクレアーゼの活性に影響を与える物質の種類や濃度などに応じて適宜選択できる。
【0062】
本発明の粗酵素は、含有する本発明のヌクレアーゼAおよび/またはヌクレアーゼBの性質を示す。本発明の粗酵素によれば、たとえば、低塩濃度の環境下では、比活性の大きい本発明のヌクレアーゼAによる迅速なDNAおよびRNAの分解が期待でき、高塩濃度の環境下では本発明のヌクレアーゼBによるDNA分解およびRNAの蓄積が期待できる。したがって、本発明の粗酵素によれば、塩濃度を変化させることによって、所望の核酸の分解および蓄積が達成できる。
【0063】
本発明の粗酵素は、本発明のヌクレアーゼAおよびヌクレアーゼBを生産するストレプトマイセス属細菌、好ましくはStreptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)を培養して得られる培養物として製造可能である。
【0064】
[4]本発明の製造方法
本発明の製造方法は、Streptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)を培養して、少なくとも1種の細胞外分泌型ヌクレアーゼを得ることを含む、細胞外分泌型ヌクレアーゼの製造方法である。具体的には、Streptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)を常法にしたがって適当な培地に接種して適切な条件下で培養し、得られた培養物から細胞外分泌型ヌクレアーゼを採取してなる、細胞外分泌型ヌクレアーゼの製造方法である。細胞外分泌型ヌクレアーゼとして好ましいのは、本発明のヌクレアーゼAおよび/または本発明のヌクレアーゼBである。
【0065】
本発明の製造方法は、大別すると、(a)Streptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)を培養して、細胞外分泌型ヌクレアーゼ含有培養物を得る工程、及び(b)該培養物から細胞外分泌型ヌクレアーゼを得る工程の二つの工程を含む。
【0066】
Streptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)の培養に用いる栄養培地としては、ストレプトマイセス属細菌用の培地として知られているものを広く使用でき、たとえば、YMA(Yeast extract−Malt extract Agar)培地(イーストエキス 4.0g/l、モルトエキス 10.0g/l、グルコース 4.0g/l、寒天 18.0g/l;pH 7.3)やアルブミン培地(エッグアルブミン 0.25g/l、グルコース 1.0g/l、KHPO 0.5g/l、MgSO・7HO 0.2g/l、Fe(SO 1%溶液 1ml、寒天 18.0g/l;pH 6.8−7.0)などの合成培地の他に天然培地も使用でき、好ましくはイーストエキス 4.0g/l、モルトエキス 10.0g/l、グルコース 30.0g/l、ポリペプトンS 50.0g/l、炭酸カルシウム 6.0g/l;pH無調整を使用できる。ただし、培養物をそのまま粗酵素として用いる場合、培地調製において、pHや一価塩、二価金属塩、リン酸塩、その他酵素活性に影響する化合物の濃度には注意を要する。所望のヌクレアーゼ活性に応じて、これらの濃度を増減させることが好ましい。
【0067】
培養法としては液体培養法(振とう培養法もしくは通気攪拌培養法)が好ましく、工業的には通気攪拌培養法が好ましい。Streptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)の培養は、通常、温度20〜45℃、好ましくは25〜40℃、pH5〜9、好ましくは6〜8から選ばれる条件で好気的に実施する。培養時間はStreptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)が増殖し始める時間以上の時間であればよく、好ましくは8〜120時間であり、さらに好ましくは所望のヌクレアーゼ活性が最大値に達成する時間までである。菌体増殖を確認する方法は特に制限はないが、たとえば、培養物を採取して顕微鏡で観察してもよいし、吸光度で観察してもよい。また、培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常は、0.5〜20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、撹拌したり、通気に酸素を追加したりすればよい。培養方式は、回分培養、流加培養、連続培養または灌流培養のいずれでもよい。
【0068】
上記のようにして培養して得られた培養物から、細胞外分泌型ヌクレアーゼを採取する。細胞外分泌型ヌクレアーゼの採取法は、一般の酵素の採取の手段に準じて行うことができる。たとえば、固液分離などの通常知られる手段によって細胞を除いた後に培養上清を粗酵素として用いることができる。固液分離には、通常知られる方法を制限なく利用することができ、例えば、培養物そのものをそのまま遠心分離する方法、培養物に濾過助剤を加えることや濾過助剤をプレコートしたプレコートフィルターなどにより濾過分離する方法、平膜、中空糸膜などを用いる膜濾過分離する方法などが採用される。
【0069】
粗酵素は、そのままで使用することもできるが、精製して使用することもできる。例えば、ここに挙げるものに限定されるものではないが、得られた粗酵素を、熱処理などの耐熱性の差を利用する方法;透析、限外ろ過、レジンカラム、ゲルろ過、ゲルろ過クロマトグラフィーおよびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動などの分子量の差を利用する方法;塩沈澱、硫安沈殿、アルコール沈殿およびその他の溶媒沈澱などの溶解性の差を利用する方法;DEAE−トヨパール樹脂などを用いるイオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;ブチルトヨパール樹脂などを用いる疎水クロマトグラフィーおよび逆相クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;吸着クロマトグラフィーなどの物理化学的な吸着性の差を利用する方法;等電点電気泳動および等電点クロマトグラフィーなどの等電点の差を利用する方法といった通常知られる方法を単独または組み合わせて供することにより、工業用途の精製酵素を調製できる。
【0070】
粗酵素及び精製酵素は、固定化することもできる。たとえば、イオン交換体への結合法、樹脂および膜などとの共有結合・吸着法、高分子物質を用いた包括法などを採用することができる。
【0071】
本発明の製造方法によって得られる細胞外分泌型ヌクレアーゼまたはその粗酵素は、本発明の別の態様として提供される。また、本発明の製造方法に用いられるストレプトマイセス属細菌であるStreptomyces sp.MBE174(受託番号:FERM P−21987)もまた、本発明の別の態様として提供される。
【0072】
本発明の製造方法の別の態様としては、本発明のヌクレアーゼAをコードするDNAの塩基配列、たとえば、配列表の配列番号5に記載の塩基配列や本発明のヌクレアーゼBをコードするDNAの塩基配列、たとえば、配列表の配列番号6に記載の塩基配列を参照して、本発明のヌクレアーゼAおよびヌクレアーゼBをコードするDNA断片を物理化学的または遺伝子工学的に合成し、次いで合成したDNA断片をベクターに組み込み、次いでDNA断片を組み込んだ組換えベクターを宿主細胞に挿入して形質転換体を作製し、この形質転換体を培養することにより細胞外分泌型ヌクレアーゼを得ることを含む、細胞外分泌型ヌクレアーゼを製造する方法が提供される。
【0073】
[5]本発明の方法
本発明の方法は、核酸を含む試料に本発明のヌクレアーゼA、本発明のヌクレアーゼBまたはこれら両方を供して前記核酸を分解することを含む、核酸を分解する方法に関する。
【0074】
本発明のヌクレアーゼAおよびヌクレアーゼBは、固体状または液体状の粗酵素および精製酵素として利用することができる。本発明のヌクレアーゼAおよびヌクレアーゼBは、通常知られる方法で固定化させた固定化酵素として使用することもできる。
【0075】
核酸を含む試料における水性媒体としては、核酸分解反応を妨げるものでなければ特に制限されないが、たとえば、水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液としては、たとえば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液などが採用されるが、本発明のヌクレアーゼAはリン酸イオンやナトリウムイオンにより活性阻害が生じる可能性があるため、これらを含まないトリス塩酸緩衝液などが好ましい。
【0076】
本発明のヌクレアーゼAおよびヌクレアーゼBの使用量は特に制限はないが、核酸分解の効率および経済性の観点から、たとえば、本発明のヌクレアーゼAの使用量は核酸10μgに対して1×10−6から50U(単位)であり、好ましくは1×10−5から10Uであり、より好ましくは1×10−4から1Uであり、さらに好ましくは1×10−3から1×10−1Uであり;本発明のヌクレアーゼBの使用量は核酸10μgに対して1×10−4から50Uであり、好ましくは1×10−3から20Uであり、より好ましくは1×10−2から10Uであり、さらに好ましくは1×10−1から1Uである。核酸の濃度は、溶液に溶解し得る範囲であれば特に限定されない。
【0077】
核酸分解反応は本発明のヌクレアーゼAおよびヌクレアーゼBが活性を有し、安定に維持される温度付近、たとえば、25〜35℃で実施することが好ましい。pHは本発明のヌクレアーゼAおよびヌクレアーゼBが活性を有し、安定に維持される条件下で行うことが好ましく、たとえば、7.5〜9.5で行うのが適当である。上記条件で十分な核酸分解が見られた時点で反応を終了するが、反応は通常1〜100時間で終了する。
【0078】
核酸分解反応終了後、核酸を含む試料中に標的物質が含まれている場合は、標的物質を分離精製し、本発明のヌクレアーゼAおよびヌクレアーゼBは別途回収する。標的物質や核酸を含む試料の性質に応じて、反応液を60〜135℃、好ましくは65〜100℃に加熱して酵素を失活させるか、またはpHの低下(塩酸等の酸の添加)などの適当な手段によって酵素を失活させて反応を停止してもよい。
【0079】
核酸を含む試料としては、二本鎖DNA、一本鎖DNA、RNAなどを含む試料が想定されるが、本発明のヌクレアーゼAおよびヌクレアーゼBのいずれの酵素の基質となり得る二本鎖DNAおよび一本鎖DNAなどのDNAを含む試料であることが好ましい。
【0080】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0081】
1.培養上清中に存在する核酸分解酵素の活性染色による検出
プラスミドDNAに対する核酸分解活性を指標としたスクリーニングにより、培養上清中に核酸分解酵素を分泌高生産する深海由来Streptomyces sp.MBE174(以下、MBE174ともよぶ)を単離した。本菌株が培養上清中に生産する核酸分解酵素は、SDS−PAGEおよびDeoxyribonucleic acid sodium salt from salmon testes(シグマアルドリッチ社製、Cat no.D1626−1G)を基質とした活性染色により、分子量約66.5kDaおよび17〜21kDaの低分子領域に分布を持つ複数個のタンパクであることが分かった。
【0082】
2.MBE174の分類学的位置
MBE174の16S rRNA遺伝子配列(1483塩基対)を解析したところ、Streptomyces akiyoshiensis NBRC12434(AB184095)、S.viridochromogenes NBRC3113(AB184728)、S.paradoxus NBRC14887(AB184628)、S.collinus NBRC12759(AB184123)、S.griseoflavus LMG19344(AJ781322)に99%一致した。これより、本菌株はストレプトマイセス属細菌であると判断される。種レベルでの同定には更なる分類学的解析を要する。
【0083】
3.低分子核酸分解酵素Nuclease Sの精製
分子量約17〜21kDaの低分子核酸分解酵素(Nuclease Sと命名、以下NucSと省略する)を、陰イオン交換(SuperQ)、ハイドロキシアパタイト、陽イオン交換(CMセファロース)、ヘパリンアフィニティー(図1を参照)、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて精製した。精製の概要を表1に示した。
【表1】
【0084】
NucSについて、1mM MgCl、1mM CaClを含む20mM Tris/HCl、pH8.5中で37℃における比活性を測定したところ(以下、この条件の測定法を標準比活性測定法ともよぶ)、3.6×10U/mg−proteinであり、非常に高い比活性を示した。ここで1Uは、サケ精子DNA 1mg/mL(インビトロジェン社製、Cat no.15632−011)を基質とし、酵素を作用させた場合に、30分間に260nmの吸光度を1上昇させる酵素量を示している。参考として、NucSについて、最も比活性が高いとカタログに記載されている市販の核酸分解酵素であるベンゾナーゼ(Benzonase)(登録商標)の比活性をカタログ記載の条件(37℃)で、同基質を用いて、測定したところ、9.4×10U/mg−proteinであった。この結果から、NucSはベンゾナーゼの約3.8倍高い比活性を有することが分かった。
【0085】
Superdex G75(GEヘルスケア社製)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより分子量を測定したところ、分子量約16kDaの溶出位置をピークトップとしてカラムより溶出された。この値は、SDS−PAGE上で産出された酵素の分子量(約17〜21kDa)とよく一致したことから、NucSはモノマーとして存在していると判断される。Novex(登録商標)IEF pH3−10 gel(インビトロジェン社製)を用いて等電点を測定したところ、pIは10であった。
【0086】
SDS−PAGE後の酵素タンパク質を分子量ごとに切り出し、トリプシン消化後、LC−MS/MS分析に供したところ、切り出したすべてのタンパク質において共通のアミノ酸配列を持つペプチドALPTPVSAATAR(配列表の配列番号27)を検出した。National Center for Biotechnology Information(NCBI,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、BLASTP programs 2.2.24+(引用文献:Stephen F.Altschul,Thomas L.Madden,Alejandro A.Schaffer,Jinghui Zhang,Zheng Zhang,Webb Miller,and David J.Lipman (1997), Nucleic Acids Res.25:3389−3402を参照、本文献の記載はここに特に開示として援用される)を用いて、Non−redundant protein databaseに対して相同性検索を行なった。その結果、このアミノ酸配列は、データベース上に登録されている分泌型タンパク質(secreted protein)分子量23kDa(S.scabiei 87.22由来、S.griseoflavus Tu4000由来他)の一部に一致した。また、これまで生化学的性質が発表されているS.rimosus由来核酸分解酵素のN末端配列APPTPPDTATARにも相同性(8/12アミノ酸)を示した。これらの結果より、MBE174の生産する17〜21kDaの低分子量の核酸分解酵素群は同一遺伝子から転写翻訳された後に、酵素タンパク質C末端部分においてプロテアーゼ等により低分子化を受けた産物であると判断された。
【0087】
本アミノ酸配列を用いた、上記のBLASTP programs 2.2.24+による相同性検索の結果、上述のsecreted protein[Streptomyces griseoflavus Tu4000由来](アクセッション番号ZP_05541504)に加えて、secreted protein、[Streptomyces avermitilis MA−4680由来](アクセッション番号NP_827004)、secreted protein[Streptomyces coelicolor A3(2)由来](アクセッション番号NP_626595.1)などの一部に含まれるアミノ酸配列に完全に一致した。続いて、これらのアミノ酸配列をコードする塩基配列、およびその1000bp上流、1000bp下流の塩基配列をNCBIデータベースより取得し、GENETYX(登録商標)−MAC Version 12.1.0 ソフトウエアを用いて、アライメントした。本アライメント塩基配列に基づき、フォワードとリバースプライマーからなるプライマーセットA(配列表の配列番号7および8)およびB(配列表の配列番号9および10)を設計した。プライマーセットAのフォワードプライマーおよびリバースプライマーをそれぞれprimer set A F、およびprimer set A Rとも表記し、後述のいずれのプライマーセットに用いられたプライマーもこれらに準じて表記した。MBE174の総DNAを鋳型として、プライマーセットAを用いたPCRにより約0.3kbの増幅DNA断片、プライマーセットBを用いたPCRにより約0.5kb増幅DNA断片を得た。PCR反応は、TaKaRa LA Taq(登録商標)ポリメラーゼ(タカラバイオ社製)および製品に添付のバッファーを使用し、熱変性97℃にて20秒、アニーリング55−63℃にて1分、伸長反応72℃ 1.5分からなるサイクルを30回繰り返す方法を用いた。続いてこの増幅断片の塩基配列の解析を行なった。得られた塩基配列に基づき、プライマーセットC(配列表の配列番号11および12)を作成した。MBE174の総DNAを鋳型として、プライマーセットCを用いたPCRにより約0.3kbの増幅DNA断片を取得し、本断片の塩基配列を解析した。上記アライメント塩基配列とNucSの塩基配列解析により得られた塩基配列に基づき、プライマーセットD(配列表の配列番号13および14)を作成した。MBE174の総DNAを鋳型として、プライマーセットDを用いたPCRにより約0.3kbの増幅DNA断片を取得し、本断片の塩基配列を解析しnucS遺伝子5’末端配列を得た。一方で、MBE174の総DNAを制限酵素PstIで消化し、TaKaRa LA PCR in vitro Cloning Kit(タカラバイオ社製、Cat no.RR015)に含まれるPstIカセットを連結した。このDNA混合物を鋳型として、プライマーセットE(配列表の配列番号15および16)を用いてPCR反応を行なった。得られたPCR反応物を鋳型として、さらにプライマーセットF(配列表の配列番号17および18)を用いて、約1.2kbの増幅断片を取得し、nucS遺伝子の3’末端塩基配列を解析した。上記プライマーセットA〜Fを用いたPCRにより得られたDNA増幅断片の全塩基配列をアセンブルし、nucS遺伝子全長の塩基配列(配列表の配列番号5)を明らかにした。本酵素の遺伝子配列は、最も近いもので、S.coelicolor A3(2)ゲノム配列上のputative secreted proteinをコードする領域に88%(552/626塩基)、S.avermitilis MA−4680ゲノム配列上のputative secreted proteinをコードする領域に85%(533/623塩基)、S.scabiei 87.22ゲノム配列上のputative secreted proteinをコードする領域に85%(533/624塩基)一致した。また、本遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列表の配列番号3)は、最も近いもので、S.coelicolor A3(2)のsecreted proteinに83%(178/214アミノ酸)、S.viridochromogenes DSM40736およびS.griseoflavus Tu4000のsecreted proteinに82%(177/214アミノ酸)一致した。データベースに登録されているすべての遺伝子やタンパク質を対象とした検索により、本遺伝子とそのアミノ酸配列に相同性を示す塩基配列は検出されるものの、単離精製・機能的、酵素化学的解析がなされた報告例のあるタンパクは皆無である。したがって、NucSタンパク質およびnucS遺伝子は、これまでに報告のない新規なものと推察される。
【0088】
分子量が約17〜21kDaであるNucSは(SDS−PAGE後のその分子領域に含まれる全てのタンパク質を分子量ごとに切り出し、トリプシン消化後、LC−MS/MS分析に供した結果)、上記のように、全てのタンパク質において共通のアミノ酸配列を持つペプチドALPTPVSAATARがあった。NucSの分子量は、SDS−PAGE法により最も分子量が小さい場合が約17kDaであることより、NucSのアミノ酸配列(214アミノ酸)のうち、共通アミノ酸配列ALPTPVSAATARをN末端の起点として17kDaと算出される共通アミノ酸配列(157アミノ酸)を、NucSのコア配列(配列表の配列番号1)とした。データベースに登録されている配列との比較により、NucSのコア配列はStreptomyces griseoflavus Tu4000のsecreted proteinあるいはS−layer domain−containing proteinに86%(136/157アミノ酸)、Streptomyces coelicolor A3(2)のsecreted proteinとStreptomyces lividans TK24のsecreted protein 等に85%(135/157アミノ酸)一致した。
【0089】
4.66.5kDaの核酸分解酵素Nuclease Lの精製
分子量約66.5kDaの核酸分解酵素(Nuclease Lと命名、以下NucLと省略する)を疎水性(ブチルトヨパールおよびフェニルセファロース)、ヘパリンアフィニティークロマトグラフィーを用いて電気泳動的に単一バンドになるまで精製した(図2を参照)。精製の概要を表2に示した。
【表2】
【0090】
NucLについて、1mM MgCl、1mM CaClを含む20mM Tris/HCl、pH8.5中、37℃における比活性は5.6×10U/mg−proteinであった。Novex(登録商標)IEF pH3−10 gel(インビトロジェン社製)を用いて、等電点を測定したところ、pIは7.0であった。次に、精製酵素のN末端アミノ酸配列を決定したところ、DSVRIHDIQGTTRであることが分かった。この配列は、Streptomyces scabiei 87.22のゲノムにコードされる推定タンパク質(putative secreted hydrolase)、S.avermitilis MA−4680のゲノム上にコードされる推定タンパク質(large secreted protein)にそれぞれ12/13アミノ酸、一致した。
【0091】
さらに精製酵素をSDS−PAGE後にトリプシン消化し、LC−MS/MS分析に供したところ、Streptomyces avermitilis MA−4680、Streptomyces griseoflavus Tu4000のゲノム配列にコードされる2つの推定タンパク質large secreted protein[Streptomyces griseoflavus Tu4000由来](アクセッション番号ZP_05541988)、large secreted protein[Streptomyces avermitilis MA−4680由来](アクセッション番号NP_827523)のアミノ酸配列と一致する、短いアミノ酸配列(6−21アミノ酸)が計8カ所検出された。続いて、large secreted protein[Streptomyces avermitilis MA−4680由来](アクセッション番号NP_827523)のアミノ酸配列を用いて、BLASTP programsによる相同性検索を行なったところ、large secreted protein[Streptomyces sviceus ATCC 29083](アクセッション番号ZP_06916237)、large secreted protein[Streptomyces viridochromogenes DSM 40736由来](アクセッション番号ZP_05530648)、putative hydrolase[Streptomyces scabiei 87.22由来](アクセッション番号YP_003492557)large secreted protein[Streptomyces coelicolor A3(2)由来](アクセッション番号NP_626174)、large secreted protein[Streptomyces ghanaensis ATCC 14672由来](アクセッション番号ZP_04688952)、large secreted protein[Streptomyces griseoflavus Tu4000由来](アクセッション番号ZP_05541988)に約80%の相同性を示した。これらのタンパクのアミノ酸配列をNCBIデータベースより取得し、GENETYX(登録商標)−MAC Version 12.1.0 ソフトウエアを用いて、アライメントした。本アライメントアミノ酸配列に基づき、保存性の高い領域を選択し、プライマーセットG(配列表の配列番号19および20)を作成した。MBE174の総DNAを鋳型として、プライマーセットGを用いたPCRにより約1.6kbの増幅DNA断片配列を取得し、塩基配列の解析を行なった。得られた塩基配列を基に、primer set H R(配列表の配列番号21)を設計した。また一方で、large secreted protein[Streptomyces griseoflavus Tu4000由来](アクセッション番号ZP_05541988)をコードする塩基配列の上流に存在する塩基配列1000bpおよび)large secreted protein[Streptomyces coelicolor A3(2)由来](アクセッション番号NP_626174)をコードするを塩基配列の上流に存在する塩基配列1000bpをNCBIデータベースより取得し、これらに保存された配列に基づき、primer set H F(配列表の配列番号22)を作成した。MBE174の総DNAを鋳型として、primer set H R、primer set H Fの組み合わせからなるプライマーセットHを用いたPCRにより約0.5kbの増幅DNA断片を取得し、塩基配列の解析を行ない、nucL遺伝子5’末端配列を得た。またMBE174の総DNAを制限酵素PstIで消化し、TaKaRa LA PCR in vitro Cloning Kit(タカラバイオ社製、Cat no. RR015)に含まれるPstIカセットを連結しDNA混合物を鋳型として、プライマーセットI(配列表の配列番号23および24)を用いてPCR反応を行なった。得られたPCR反応物を鋳型として、さらにプライマーセットJ(配列表の配列番号25および26)を用いて、約1.3kbの増幅断片を取得し、nucL遺伝子の3’末端塩基配列を解析した。上記プライマーセットG〜Jを用いたPCRにより得られたDNA増幅断片の全塩基配列をアセンブルし、nucL遺伝子全長の塩基配列(配列表の配列番号6)を明らかにした。本酵素の遺伝子配列は、最も近縁なもので、S.coelicolor A3(2)のゲノム配列のputative large secreted proteinをコードする領域に84%(1587/1872塩基)、S.avermitilis MA−4680ゲノム上のputative large secreted proteinをコードする領域に81%(1508/1859塩基)一致した。また、本遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列表の配列番号4)は、最も近縁なもので、S.coelicolor A3(2)のゲノム上にコードされるputative large secreted proteinに80%(491/613アミノ酸)、S.ghanaensis ATCC14672のゲノム上にコードされるlarge secreted proteinに80%(488/609アミノ酸)一致した。データベースに登録されているすべての遺伝子やタンパクを対象とした検索により、本遺伝子に相同性を示す塩基配列は検出されるものの、単離精製・機能的、酵素化学的解析がなされた報告例のあるタンパクは皆無である。したがって、NucLタンパク質およびnucL遺伝子は、これまでに報告のない新規なものと推察される。
【0092】
nucLがコードする全アミノ酸配列(607アミノ酸)のうち、N末端のシグナルペプチドを切断した配列をNucL成熟タンパク(575アミノ酸)とした(配列表の配列番号2)。このNucL成熟タンパクは、National Center for Biotechnology Information(NCBI,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、BLASTP programs 2.2.24+を用いて、Non−redundant protein databaseに対する相同性検索の結果、Streptomyces coelicolor A3(2)、Streptomyces lividans TK24の(putative)large secreted proteinと81%(465/574アミノ酸)、Streptomyces ghanaensis ATCC 14672のlarge secreted proteinに80%(467/577アミノ酸)一致した。
【0093】
5.NucSとNucLの生化学的性質
NucSとNucLの生化学的性質の試験結果を以下に示す。
(1)酵素活性に対するpHの影響
各pHにおける核酸分解活性は、1mM MgCl、1mM CaClを含む20mM 2−モルホリノエタンスルホン酸,一水和物/NaOH(MES,pH5.5〜7.0)、3−モルホリノプロパンスルホン酸/NaOH(MOPS,pH7〜8)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸/NaOH(TAPS,pH8〜9)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸/NaOH(CHES,pH9〜9.5)、またはN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸/NaOH(CAPS,9.5〜10)中で、Deoxyribonucleic acid sodium salt from salmon testes 0.4mg/mL(シグマアルドリッチ社製、Cat no.D1626−1G)を基質として、25℃で15分間測定した。NucSはpH 8.5、NucLはpH 8.8付近が最適反応pHであることが分かった(図3および図4を参照)。
【0094】
(2)酵素活性に対する温度の影響
1mM MgCl、1mM CaClを含む20mM Tris/HCl、pH8.5中で15分間、各温度条件における核酸分解活性を測定したところ、NucSは55℃、NucLは45℃付近が最適反応温度であることが分かった(図5を参照)。
【0095】
(3)熱安定性試験
1mM MgCl、1mM CaClを含む20mM Tris/HCl、pH8.5中で、各温度で30分熱処理後の残存活性を測定した(図6を参照)。氷浴中に保存しておいた酵素の活性を100%とした。その結果、NucSは45℃まで安定であり、NucLは35℃まで安定であった。
【0096】
(4)酵素活性に対する一価塩の影響
NucSおよびNucLについて一価塩の影響を調べた。1mM MgClと0〜1000mM NaClを含む10mM Tris/HCl、pH8.5中で、Deoxyribonucleic acid sodium salt from salmon testes 0.4mg/mL(シグマアルドリッチ社製、Cat no.D1626−1G)を基質として、各NaCl濃度の核酸分解活性を25℃で15分間測定した。NucS活性はNaCl濃度が低い場合に高く、NucLは1000mMまでのNaCl濃度存在条件でも活性を維持することが分かった(図7を参照)。KClを用いた場合にもほぼ同様の結果が得られた(図8を参照)。
【0097】
(5)酵素活性に対する二価金属塩の影響
NucSおよびNucLについて二価金属塩の影響を調べた。1mM CaClと、0〜20mM MgClあるいはMnClを含む20mM Tris/HCl、pH8.5中に、基質としてDeoxyribonucleic acid sodium salt from salmon testes 0.4mg/mL(シグマアルドリッチ社製、Cat no.D1626−1G)を加えた反応液に、NucSあるいはNucLを添加、氷中で30分間インキュベートした後、核酸分解活性を25℃で15分間測定した。NucS、NucLは活性に二価の金属塩を要求した。NucS、NucLは0.25〜5mM MgCl存在下で高い活性を示した(図9を参照)。またNucSは1〜2mM MnCl存在下でMgCl存在下とほぼ同等の活性を示した(図10を参照)。なお、本試験では酵素安定性を高めるために、すべての反応液に1mM CaClを添加した。
【0098】
(6)酵素活性に対するリン酸塩の影響
NucSおよびNucLについてリン酸塩の影響を調べた。1mM MgCl、1mM CaClを含む0〜40mMリン酸カリウム緩衝液、pH8.5中で、Deoxyribonucleic acid sodium salt from salmon testes 0.4mg/mL(シグマアルドリッチ社製、Cat no.D1626−1G)を基質として、核酸分解活性を25℃で15分間測定した。NucSはリン酸塩に強く阻害され、0.5mM以上のリン酸塩により活性を失った。一方、NucLはNucSと比較して、リン酸塩に対して優れた耐性を示し、10mMのリン酸カリウム存在下でも50%の活性を保持することができた。(図11を参照)
【0099】
(7)酵素活性に対する各種化学物質の影響
氷浴上で表3中の化合物と1時間接触させたのち、標準比活性測定方法で酵素活性を測定した(表3を参照)。表3に示すように、NucSとNucLはZnCl、CuCl、EDTAによって強く阻害された。また、NucSはジメチルスルホキシドやジメチルホルムアミドに高い耐性を示し、NucLはSDSに高い耐性を示した。なお、水に難溶の化合物はジメチルスルホキシドに溶解した後、酵素液に添加した。添加後のジメチルスルホキシドの終濃度は5%とし、5% ジメチルスルホキシド存在下での活性を100%とした。
【表3】
【0100】
6.NucSとNucLによる核酸分解のパターンと基質特異性
(1)NucSおよびNucLの環状プラスミドDNAに対する分解様式の解析
プラスミド精製キット(HiSpeed(登録商標)Plasmid Midi Kit;キアゲン社製、Cat no.12643)を用いて精製した環状プラスミドDNA(pUC18)を基質として、NucSおよびNucLそれぞれの核酸分解様式を解析した。標準比活性測定方法による、プラスミド溶液(約2〜10μg)に対して、下の表にある異なる酵素量の酵素液をそれぞれ添加して、25℃で15分間核酸分解反応を行なった。分解後の反応液を1%アガロースゲル電気泳動に供し、その分解されたDNAの分解様式を解析した。酵素濃度を変化させて分解したときの様子(25℃の反応)を図12に示した。参考として、ベンゾナーゼ(同ユニット数)を用いた場合の試験結果も合わせて図12に示した。なお、各レーンの説明は表4に示した。
【表4】
【0101】
続いて、NucLの酵素量を0.5Uに上げ、プラスミドが完全に分解できるか試験した(図13を参照)。これらの結果より、NucSおよびNucLは、環状プラスミドDNAを、スーパーコイル型、リラックス型の形状に関わらず、単独酵素でプラスミドを完全に分解することが可能であることが分かった。
【0102】
(2)NucSおよびNucLの環状DNAに対する分解反応初期における反応様式の解析
標準比活性測定方法による、NucSおよびNucLの環状DNA(pUC18プラスミド)に対する分解反応初期における反応様式を解析した(図14および図15を参照)。本結果より、NucSはエンド型様式の分解活性を持つと推察される。また、NucLは、Desai and Shankar(Eur. J. Biochem.267,5123-5135,2000を参照、本文献の記載はここに特に開示として援用される)によって報告例のある一本鎖特異的なエンド型核酸分解酵素に類似した反応パターンを示した。一本鎖特異的核酸分解酵素による環状プラスミドDNAの分解は、一本鎖のエンド型切断の蓄積による低分子化によって進むと考えられている。
【0103】
(3)二本鎖直鎖DNAの分解パターン
標準比活性測定方法による、環状DNA(pUC18プラスミド)を制限ヌクレアーゼBamHI(5’−突出末端を生じる)、SacI(3’−突出末端を生じる)、SmaI(平滑末端を生じる)を用いて直鎖状にした基質を用いて、NucSおよびNucLを用いた分解反応を行なった(図16および図17を参照)。なお、各レーンの説明は表5に示した。
【表5】
【0104】
本結果により、NucSおよびNucLは、DNA鎖末端の構造に関わらず直鎖状二本鎖DNAを単独酵素で分解することが可能であることが分かった。また、図12図16および図17との比較により、NucSは、環状DNAと直鎖状二本鎖DNAを同様の効率で分解することが分かった。一方、NucLは環状DNAに比べて、直鎖状二本鎖DNAをより効率良く分解した。また、反応途中で観察される分解の進んでいないDNAの最大サイズがNucSでは反応開始から一定であるのに対し(図16のレーン5〜8の主なバンド)、NucLではサイズの低下が起きている(図17のレーン3とレーン4〜8の主なバンドを比較)。これはNucLによるDNA分解が、ランダムな位置というよりもむしろ末端部分でより効率良く起きていること、すなわちエキソ型分解反応が進んでいること示唆する。以上の結果から、NucLはエンドエキソ型と呼ばれる反応様式を有すると推定される。
【0105】
(4)一本鎖DNAと二本鎖DNA、RNAに対する反応性試験
15分間の標準比活性測定方法による、低温で溶解したサケDNA(二本鎖DNA)と95℃、10分間の熱変性後の同DNA(一本鎖DNA)に対する各酵素の反応性を試験した。その結果、NucSは未変性DNAと熱変性DNAを同程度の効率で分解するが、NucLは未変性DNAに比べて熱変性後DNAを、約5倍の高い効率で分解することが分かった。すなわち、NucLは一本鎖DNAに効率良く作用する酵素であると言える。また、RNA(酵母由来mRNA)に対する分解活性を測定した結果、NucSはRNA分解活性を示したが、NucLはRNA分解活性を示さなかった。
【0106】
(5)ホスホジエステラーゼ、ホスファターゼ活性試験
ビス(p−ニトロフェニル)リン酸、p−ニトロフェニルリン酸を基質として、Tomoyedaら(Archives of biochemistry and biophysics.131(1),191-202,1969を参照、本文献の記載はここに特に開示として援用される)の方法に従い、1mM MgCl、1mM CaClおよび1%グリセロールを含む100mM Tris/HCl、pH8.5中で、0.2%上記基質とする反応液を用いて、両方酵素のホスホジエステラーゼ活性、ホスファターゼ活性を25℃で測定した。その結果、NucSはホスホジエステラーゼおよびホスファターゼ活性をどちらも持たないが、NucLはホスホジエステラーゼおよびホスファターゼの両活性を有することが分かった。
【0107】
7.まとめ
NucSは、市販核酸分解酵素に比べて格段に高い比活性を持ち、低塩濃度条件下で種々の核酸(一本鎖と二本鎖の直鎖および環状DNA、RNA)を効率良くエンド型に分解する。NucLは広い塩濃度条件下でDNA(一本鎖と二本鎖の直鎖および環状DNA)をエンドエキソ型に分解する。したがってNucSおよびNucLを併用することにより、広範な条件において優れた核酸分解活性が期待される。また両酵素は、Mn2+の添加を必要とせず、低濃度(1mM)のMg2+およびCa2+存在下で高い活性を示すこと、また本酵素の生産菌は培養が容易で、安全性が高いと考えられるストレプトマイセス属細菌であることから、食品や医薬品製造時の核酸分解工業用酵素として有望と考えられる。核酸分解酵素高生産放線菌Streptomyces sp. MBE174を培養することによって、また本酵素をコードする新規遺伝子を用いて、核酸分解酵素を安価に提供することが可能であると考えられる。
【0108】
配列表に記載の配列は以下の通りである:
No.1 NucSのコア配列
ALPTPVSAATARGYLASLKVAPENRTGYKRDLFPHWITQSGTCNTRETVLKRDGTNVVTDAACAATSGSWYSPFDGATWTAASDVDIDHLVPLAEAWDSGASAWTTAQRQAFANDLTRPQLLAVTDTVNQSKGDKDPAEWMPPRAAYHCTYVRAWVQ;
No.2 NucL成熟タンパク
DSVRIHDIQGTTRISPYAGRQVADVPGVVTGVRDHGSSRGFWFQDPRPDDDPATSEGVFVFTGSAPGVEAGDAVTVSGTVSEFVPGGTASGNQSLTEITRPTVTVVSRGNPVPDPVVVSARSVPHAYAPAGDAAANGSVNALPLRPDRYALDYYESLEGMNVQVADARVVGATDPYTELWVTVKPGENASPRGGTVYGSRDAQNTGRLQIQTLGVPAGFPAADVGDTLAGATTGPLDYNQFGGYTLVARSLGTLTAGGLARETTREQHRDELSVATYNVENLDPSDGTFAAHAEAIVRNLRSPDIVSLEEIQDDNGATDDGTVTAGVTVGKLIDAVVAAGGPRYDWRSVDPVDKADGGQPGGNIRQVFLFDPRRVSFADRPGGDAVTATGVVKVRGKAALTHSPGRVDPANPAWLNSRKPLAGEFSFRGRTVFVIANHFASKGGDQGLTSQYQPPARSSETQRHLQATAVNTFVKQILAVQKNADVIALGDINDFEFSGTTERLEAGGALWSAVRSLPPGERYSYVYQGNSQVLDQILVSPSIRRGHLSYDSVHINAEFHDQISDHDPQVLRYRP;
No.3 NucS
MPKLYARRRFAVLAALTGLIASAGLFHGPAASAALPTPVSAATARGYLASLKVAPENRTGYKRDLFPHWITQSGTCNTRETVLKRDGTNVVTDAACAATSGSWYSPFDGATWTAASDVDIDHLVPLAEAWDSGASAWTTAQRQAFANDLTRPQLLAVTDTVNQSKGDKDPAEWMPPRAAYHCTYVRAWVQVKYYYGLSVDTAEKTALTNRLAGC;
No.4 NucL
MASQSVTRLAALTVAATCSAASVVVLGPPAHADSVRIHDIQGTTRISPYAGRQVADVPGVVTGVRDHGSSRGFWFQDPRPDDDPATSEGVFVFTGSAPGVEAGDAVTVSGTVSEFVPGGTASGNQSLTEITRPTVTVVSRGNPVPDPVVVSARSVPHAYAPAGDAAANGSVNALPLRPDRYALDYYESLEGMNVQVADARVVGATDPYTELWVTVKPGENASPRGGTVYGSRDAQNTGRLQIQTLGVPAGFPAADVGDTLAGATTGPLDYNQFGGYTLVARSLGTLTAGGLARETTREQHRDELSVATYNVENLDPSDGTFAAHAEAIVRNLRSPDIVSLEEIQDDNGATDDGTVTAGVTVGKLIDAVVAAGGPRYDWRSVDPVDKADGGQPGGNIRQVFLFDPRRVSFADRPGGDAVTATGVVKVRGKAALTHSPGRVDPANPAWLNSRKPLAGEFSFRGRTVFVIANHFASKGGDQGLTSQYQPPARSSETQRHLQATAVNTFVKQILAVQKNADVIALGDINDFEFSGTTERLEAGGALWSAVRSLPPGERYSYVYQGNSQVLDQILVSPSIRRGHLSYDSVHINAEFHDQISDHDPQVLRYRP;
No.5 nucS遺伝子
ATGCCGAAGCTCTACGCGCGTCGACGGTTCGCCGTCCTCGCCGCGCTCACCGGACTCATAGCCTCCGCCGGGCTCTTCCACGGTCCGGCCGCCTCCGCCGCCCTCCCCACGCCGGTCAGCGCCGCCACCGCCCGCGGCTACCTCGCCTCCCTGAAGGTGGCCCCCGAGAACCGCACCGGCTACAAGCGCGACCTCTTCCCCCACTGGATCACGCAGTCCGGCACCTGCAACACCCGCGAGACCGTCCTCAAACGCGACGGCACCAACGTCGTCACCGACGCCGCCTGCGCCGCCACCAGCGGCAGTTGGTACTCGCCCTTCGACGGGGCCACCTGGACCGCCGCCTCCGACGTCGACATCGACCACCTCGTCCCGCTGGCCGAGGCGTGGGACTCCGGCGCGAGCGCCTGGACCACGGCCCAGCGCCAGGCGTTCGCCAACGACCTGACACGTCCTCAGCTCCTCGCCGTCACCGACACCGTGAACCAGTCCAAGGGCGACAAGGACCCGGCCGAGTGGATGCCGCCCCGGGCCGCCTACCACTGCACCTACGTACGCGCCTGGGTGCAGGTGAAGTACTACTACGGCCTCTCGGTCGACACCGCCGAGAAGACGGCGCTCACGAACCGGCTCGCCGGCTGCTGA;
No.6 nucL遺伝子
TTGGCCAGCCAGTCCGTCACGCGCCTCGCCGCGCTCACCGTCGCCGCCACCTGTTCGGCGGCGTCCGTCGTCGTCCTCGGTCCGCCCGCGCACGCCGACTCCGTGCGCATCCACGACATCCAGGGCACCACCAGGATCTCCCCGTACGCCGGCCGCCAGGTCGCCGACGTGCCCGGCGTCGTCACCGGAGTCCGCGACCACGGCTCCTCCCGGGGCTTCTGGTTCCAGGACCCGCGGCCCGACGACGACCCCGCCACCAGCGAGGGAGTGTTCGTCTTCACCGGCTCGGCCCCCGGGGTCGAGGCCGGCGACGCGGTCACCGTCTCCGGCACGGTCTCGGAGTTCGTGCCCGGCGGGACCGCCTCCGGCAACCAGTCGCTCACCGAGATCACCCGGCCCACGGTCACCGTGGTCTCCCGCGGCAACCCGGTGCCGGACCCGGTCGTCGTCTCGGCCCGCTCCGTGCCGCACGCCTACGCCCCGGCGGGCGACGCCGCCGCGAACGGCTCCGTCAACGCCCTGCCCCTGCGGCCCGACCGCTACGCCCTGGACTACTACGAGTCCCTGGAGGGCATGAACGTCCAGGTGGCCGACGCCCGCGTGGTCGGCGCGACCGACCCGTACACCGAGCTGTGGGTGACGGTGAAGCCCGGCGAGAACGCGAGCCCCCGGGGCGGCACCGTCTACGGCTCCCGCGACGCGCAGAACACCGGGCGGCTGCAGATCCAGACCCTGGGCGTACCAGCCGGCTTCCCCGCCGCCGACGTGGGCGACACCCTCGCGGGCGCCACCACCGGCCCGCTCGACTACAACCAGTTCGGCGGCTACACCCTGGTCGCCCGTAGTCTCGGCACGCTCACCGCCGGCGGGCTCGCCCGCGAGACGACCCGGGAGCAGCACCGCGACGAGCTGTCGGTGGCCACGTACAACGTCGAGAACCTCGACCCCTCCGACGGCACCTTCGCCGCGCACGCGGAGGCGATCGTCCGGAACCTGCGCTCACCGGACATCGTGTCCCTGGAGGAGATCCAGGACGACAACGGCGCCACGGACGACGGCACGGTGACCGCCGGCGTGACGGTGGGCAAGCTGATCGACGCCGTCGTCGCGGCCGGCGGCCCGCGCTACGACTGGCGCTCGGTGGACCCCGTCGACAAGGCGGACGGCGGGCAGCCGGGCGGCAACATCCGCCAGGTGTTCCTCTTCGACCCGCGGCGGGTCTCCTTCGCCGACCGTCCCGGCGGGGACGCGGTCACCGCGACCGGGGTGGTGAAGGTGCGCGGCAAGGCGGCGCTGACCCACTCCCCCGGCCGGGTCGACCCCGCGAACCCCGCCTGGCTGAACAGCCGCAAGCCGCTGGCCGGCGAGTTCTCGTTCCGCGGGCGGACGGTCTTCGTGATCGCCAACCACTTCGCGTCCAAGGGCGGCGACCAGGGGCTGACCTCCCAGTACCAGCCGCCGGCGCGGAGTTCGGAGACCCAGCGCCACCTCCAGGCGACGGCGGTGAACACCTTCGTCAAGCAGATCCTGGCGGTCCAGAAGAACGCGGACGTCATCGCCCTCGGCGACATCAACGACTTCGAGTTCTCCGGCACGACGGAACGCCTGGAGGCCGGCGGCGCGCTCTGGTCGGCGGTCAGGTCGCTGCCGCCGGGCGAGCGCTACTCGTACGTCTACCAGGGCAACAGCCAGGTGCTCGACCAGATCCTGGTGAGCCCGTCGATCCGGCGCGGGCACCTGTCCTACGACAGCGTGCACATCAACGCCGAGTTCCACGACCAGATCAGCGACCACGACCCGCAGGTGCTGCGGTACCGCCCCTGA;
No.7 primer set A F
CGCATG(C/T)C(A/G)AAG(G/T)TCTACG;
No.8 primer set A R
A(A/G)CTGCCGCTGGTGG;
No.9 primer set B F
AGCGGCAG(C/T)TGGTACTC;
No.10 primer set B R
ACCCGCGATCTGGAAGG;
No.11 primer set C F
GCTACAAGCGCGACCTCTTC;
No.12 primer set C R
TGGACTGGTTCACGGTGTC;
No.13 primer set D F
AACTGCCGCTGGTGG;
No.14 primer set D R
CTGAGCAGTATGTCGACGGTC;
No.15 primer set E F
GCTACAAGCGCGACCTCTTC;
No.16 primer set E R
GTTAGAACGCGTAATACGAC;
No.17 primer set F F
CTGGGTGCAGGTGAAGTACTAC;
No.18 primer set F R
GTAATACGACTCACTATAGG;
No.19 primer set G F
GGCTTCTGGAT(A/G/C)CAGGACCC;
No.20 primer set G R
CTGCGGGTCGTGGTCG;
No.21 primer set H R
CGGTGAGCGACTGGTTG;
No.22 primer set H F
CAGTACATGGC(C/T)GAAACCTTGAC;
No.23 primer set I F
CGAGTTCTCGTTCCGCG;
No.24 primer set I R
GTTAGAACGCGTAATACGAC;
No.25 primer set J F
ATCGCCAACCACTTCGC;
No.26 primer set J R
GTAATACGACTCACTATAGG;
No.27 NucSの共通配列
ALPTPVSAATAR。
【受託番号】
【0109】
Streptomyces sp.MBE174 FERM P−21987
図1
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図3
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図5
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]