【実施例】
【0081】
1.培養上清中に存在する核酸分解酵素の活性染色による検出
プラスミドDNAに対する核酸分解活性を指標としたスクリーニングにより、培養上清中に核酸分解酵素を分泌高生産する深海由来Streptomyces sp.MBE174(以下、MBE174ともよぶ)を単離した。本菌株が培養上清中に生産する核酸分解酵素は、SDS−PAGEおよびDeoxyribonucleic acid sodium salt from salmon testes(シグマアルドリッチ社製、Cat no.D1626−1G)を基質とした活性染色により、分子量約66.5kDaおよび17〜21kDaの低分子領域に分布を持つ複数個のタンパクであることが分かった。
【0082】
2.MBE174の分類学的位置
MBE174の16S rRNA遺伝子配列(1483塩基対)を解析したところ、Streptomyces akiyoshiensis NBRC12434
T(AB184095)、S.viridochromogenes NBRC3113
T(AB184728)、S.paradoxus NBRC14887
T(AB184628)、S.collinus NBRC12759
T(AB184123)、S.griseoflavus LMG19344
T(AJ781322)に99%一致した。これより、本菌株はストレプトマイセス属細菌であると判断される。種レベルでの同定には更なる分類学的解析を要する。
【0083】
3.低分子核酸分解酵素Nuclease Sの精製
分子量約17〜21kDaの低分子核酸分解酵素(Nuclease Sと命名、以下NucSと省略する)を、陰イオン交換(SuperQ)、ハイドロキシアパタイト、陽イオン交換(CMセファロース)、ヘパリンアフィニティー(
図1を参照)、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて精製した。精製の概要を表1に示した。
【表1】
【0084】
NucSについて、1mM MgCl
2、1mM CaCl
2を含む20mM Tris/HCl、pH8.5中で37℃における比活性を測定したところ(以下、この条件の測定法を標準比活性測定法ともよぶ)、3.6×10
6U/mg−proteinであり、非常に高い比活性を示した。ここで1Uは、サケ精子DNA 1mg/mL(インビトロジェン社製、Cat no.15632−011)を基質とし、酵素を作用させた場合に、30分間に260nmの吸光度を1上昇させる酵素量を示している。参考として、NucSについて、最も比活性が高いとカタログに記載されている市販の核酸分解酵素であるベンゾナーゼ(Benzonase)(登録商標)の比活性をカタログ記載の条件(37℃)で、同基質を用いて、測定したところ、9.4×10
5U/mg−proteinであった。この結果から、NucSはベンゾナーゼの約3.8倍高い比活性を有することが分かった。
【0085】
Superdex G75(GEヘルスケア社製)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより分子量を測定したところ、分子量約16kDaの溶出位置をピークトップとしてカラムより溶出された。この値は、SDS−PAGE上で産出された酵素の分子量(約17〜21kDa)とよく一致したことから、NucSはモノマーとして存在していると判断される。Novex(登録商標)IEF pH3−10 gel(インビトロジェン社製)を用いて等電点を測定したところ、pIは10であった。
【0086】
SDS−PAGE後の酵素タンパク質を分子量ごとに切り出し、トリプシン消化後、LC−MS/MS分析に供したところ、切り出したすべてのタンパク質において共通のアミノ酸配列を持つペプチドALPTPVSAATAR(配列表の配列番号27)を検出した。National Center for Biotechnology Information(NCBI,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、BLASTP programs 2.2.24+(引用文献:Stephen F.Altschul,Thomas L.Madden,Alejandro A.Schaffer,Jinghui Zhang,Zheng Zhang,Webb Miller,and David J.Lipman (1997), Nucleic Acids Res.25:3389−3402を参照、本文献の記載はここに特に開示として援用される)を用いて、Non−redundant protein databaseに対して相同性検索を行なった。その結果、このアミノ酸配列は、データベース上に登録されている分泌型タンパク質(secreted protein)分子量23kDa(S.scabiei 87.22由来、S.griseoflavus Tu4000由来他)の一部に一致した。また、これまで生化学的性質が発表されているS.rimosus由来核酸分解酵素のN末端配列APPTPPDTATARにも相同性(8/12アミノ酸)を示した。これらの結果より、MBE174の生産する17〜21kDaの低分子量の核酸分解酵素群は同一遺伝子から転写翻訳された後に、酵素タンパク質C末端部分においてプロテアーゼ等により低分子化を受けた産物であると判断された。
【0087】
本アミノ酸配列を用いた、上記のBLASTP programs 2.2.24+による相同性検索の結果、上述のsecreted protein[Streptomyces griseoflavus Tu4000由来](アクセッション番号ZP_05541504)に加えて、secreted protein、[Streptomyces avermitilis MA−4680由来](アクセッション番号NP_827004)、secreted protein[Streptomyces coelicolor A3(2)由来](アクセッション番号NP_626595.1)などの一部に含まれるアミノ酸配列に完全に一致した。続いて、これらのアミノ酸配列をコードする塩基配列、およびその1000bp上流、1000bp下流の塩基配列をNCBIデータベースより取得し、GENETYX(登録商標)−MAC Version 12.1.0 ソフトウエアを用いて、アライメントした。本アライメント塩基配列に基づき、フォワードとリバースプライマーからなるプライマーセットA(配列表の配列番号7および8)およびB(配列表の配列番号9および10)を設計した。プライマーセットAのフォワードプライマーおよびリバースプライマーをそれぞれprimer set A F、およびprimer set A Rとも表記し、後述のいずれのプライマーセットに用いられたプライマーもこれらに準じて表記した。MBE174の総DNAを鋳型として、プライマーセットAを用いたPCRにより約0.3kbの増幅DNA断片、プライマーセットBを用いたPCRにより約0.5kb増幅DNA断片を得た。PCR反応は、TaKaRa LA Taq(登録商標)ポリメラーゼ(タカラバイオ社製)および製品に添付のバッファーを使用し、熱変性97℃にて20秒、アニーリング55−63℃にて1分、伸長反応72℃ 1.5分からなるサイクルを30回繰り返す方法を用いた。続いてこの増幅断片の塩基配列の解析を行なった。得られた塩基配列に基づき、プライマーセットC(配列表の配列番号11および12)を作成した。MBE174の総DNAを鋳型として、プライマーセットCを用いたPCRにより約0.3kbの増幅DNA断片を取得し、本断片の塩基配列を解析した。上記アライメント塩基配列とNucSの塩基配列解析により得られた塩基配列に基づき、プライマーセットD(配列表の配列番号13および14)を作成した。MBE174の総DNAを鋳型として、プライマーセットDを用いたPCRにより約0.3kbの増幅DNA断片を取得し、本断片の塩基配列を解析しnucS遺伝子5’末端配列を得た。一方で、MBE174の総DNAを制限酵素PstIで消化し、TaKaRa LA PCR in vitro Cloning Kit(タカラバイオ社製、Cat no.RR015)に含まれるPstIカセットを連結した。このDNA混合物を鋳型として、プライマーセットE(配列表の配列番号15および16)を用いてPCR反応を行なった。得られたPCR反応物を鋳型として、さらにプライマーセットF(配列表の配列番号17および18)を用いて、約1.2kbの増幅断片を取得し、nucS遺伝子の3’末端塩基配列を解析した。上記プライマーセットA〜Fを用いたPCRにより得られたDNA増幅断片の全塩基配列をアセンブルし、nucS遺伝子全長の塩基配列(配列表の配列番号5)を明らかにした。本酵素の遺伝子配列は、最も近いもので、S.coelicolor A3(2)ゲノム配列上のputative secreted proteinをコードする領域に88%(552/626塩基)、S.avermitilis MA−4680ゲノム配列上のputative secreted proteinをコードする領域に85%(533/623塩基)、S.scabiei 87.22ゲノム配列上のputative secreted proteinをコードする領域に85%(533/624塩基)一致した。また、本遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列表の配列番号3)は、最も近いもので、S.coelicolor A3(2)のsecreted proteinに83%(178/214アミノ酸)、S.viridochromogenes DSM40736およびS.griseoflavus Tu4000のsecreted proteinに82%(177/214アミノ酸)一致した。データベースに登録されているすべての遺伝子やタンパク質を対象とした検索により、本遺伝子とそのアミノ酸配列に相同性を示す塩基配列は検出されるものの、単離精製・機能的、酵素化学的解析がなされた報告例のあるタンパクは皆無である。したがって、NucSタンパク質およびnucS遺伝子は、これまでに報告のない新規なものと推察される。
【0088】
分子量が約17〜21kDaであるNucSは(SDS−PAGE後のその分子領域に含まれる全てのタンパク質を分子量ごとに切り出し、トリプシン消化後、LC−MS/MS分析に供した結果)、上記のように、全てのタンパク質において共通のアミノ酸配列を持つペプチドALPTPVSAATARがあった。NucSの分子量は、SDS−PAGE法により最も分子量が小さい場合が約17kDaであることより、NucSのアミノ酸配列(214アミノ酸)のうち、共通アミノ酸配列ALPTPVSAATARをN末端の起点として17kDaと算出される共通アミノ酸配列(157アミノ酸)を、NucSのコア配列(配列表の配列番号1)とした。データベースに登録されている配列との比較により、NucSのコア配列はStreptomyces griseoflavus Tu4000のsecreted proteinあるいはS−layer domain−containing proteinに86%(136/157アミノ酸)、Streptomyces coelicolor A3(2)のsecreted proteinとStreptomyces lividans TK24のsecreted protein 等に85%(135/157アミノ酸)一致した。
【0089】
4.66.5kDaの核酸分解酵素Nuclease Lの精製
分子量約66.5kDaの核酸分解酵素(Nuclease Lと命名、以下NucLと省略する)を疎水性(ブチルトヨパールおよびフェニルセファロース)、ヘパリンアフィニティークロマトグラフィーを用いて電気泳動的に単一バンドになるまで精製した(
図2を参照)。精製の概要を表2に示した。
【表2】
【0090】
NucLについて、1mM MgCl
2、1mM CaCl
2を含む20mM Tris/HCl、pH8.5中、37℃における比活性は5.6×10
4U/mg−proteinであった。Novex(登録商標)IEF pH3−10 gel(インビトロジェン社製)を用いて、等電点を測定したところ、pIは7.0であった。次に、精製酵素のN末端アミノ酸配列を決定したところ、DSVRIHDIQGTTRであることが分かった。この配列は、Streptomyces scabiei 87.22のゲノムにコードされる推定タンパク質(putative secreted hydrolase)、S.avermitilis MA−4680のゲノム上にコードされる推定タンパク質(large secreted protein)にそれぞれ12/13アミノ酸、一致した。
【0091】
さらに精製酵素をSDS−PAGE後にトリプシン消化し、LC−MS/MS分析に供したところ、Streptomyces avermitilis MA−4680、Streptomyces griseoflavus Tu4000のゲノム配列にコードされる2つの推定タンパク質large secreted protein[Streptomyces griseoflavus Tu4000由来](アクセッション番号ZP_05541988)、large secreted protein[Streptomyces avermitilis MA−4680由来](アクセッション番号NP_827523)のアミノ酸配列と一致する、短いアミノ酸配列(6−21アミノ酸)が計8カ所検出された。続いて、large secreted protein[Streptomyces avermitilis MA−4680由来](アクセッション番号NP_827523)のアミノ酸配列を用いて、BLASTP programsによる相同性検索を行なったところ、large secreted protein[Streptomyces sviceus ATCC 29083](アクセッション番号ZP_06916237)、large secreted protein[Streptomyces viridochromogenes DSM 40736由来](アクセッション番号ZP_05530648)、putative hydrolase[Streptomyces scabiei 87.22由来](アクセッション番号YP_003492557)large secreted protein[Streptomyces coelicolor A3(2)由来](アクセッション番号NP_626174)、large secreted protein[Streptomyces ghanaensis ATCC 14672由来](アクセッション番号ZP_04688952)、large secreted protein[Streptomyces griseoflavus Tu4000由来](アクセッション番号ZP_05541988)に約80%の相同性を示した。これらのタンパクのアミノ酸配列をNCBIデータベースより取得し、GENETYX(登録商標)−MAC Version 12.1.0 ソフトウエアを用いて、アライメントした。本アライメントアミノ酸配列に基づき、保存性の高い領域を選択し、プライマーセットG(配列表の配列番号19および20)を作成した。MBE174の総DNAを鋳型として、プライマーセットGを用いたPCRにより約1.6kbの増幅DNA断片配列を取得し、塩基配列の解析を行なった。得られた塩基配列を基に、primer set H R(配列表の配列番号21)を設計した。また一方で、large secreted protein[Streptomyces griseoflavus Tu4000由来](アクセッション番号ZP_05541988)をコードする塩基配列の上流に存在する塩基配列1000bpおよび)large secreted protein[Streptomyces coelicolor A3(2)由来](アクセッション番号NP_626174)をコードするを塩基配列の上流に存在する塩基配列1000bpをNCBIデータベースより取得し、これらに保存された配列に基づき、primer set H F(配列表の配列番号22)を作成した。MBE174の総DNAを鋳型として、primer set H R、primer set H Fの組み合わせからなるプライマーセットHを用いたPCRにより約0.5kbの増幅DNA断片を取得し、塩基配列の解析を行ない、nucL遺伝子5’末端配列を得た。またMBE174の総DNAを制限酵素PstIで消化し、TaKaRa LA PCR in vitro Cloning Kit(タカラバイオ社製、Cat no. RR015)に含まれるPstIカセットを連結しDNA混合物を鋳型として、プライマーセットI(配列表の配列番号23および24)を用いてPCR反応を行なった。得られたPCR反応物を鋳型として、さらにプライマーセットJ(配列表の配列番号25および26)を用いて、約1.3kbの増幅断片を取得し、nucL遺伝子の3’末端塩基配列を解析した。上記プライマーセットG〜Jを用いたPCRにより得られたDNA増幅断片の全塩基配列をアセンブルし、nucL遺伝子全長の塩基配列(配列表の配列番号6)を明らかにした。本酵素の遺伝子配列は、最も近縁なもので、S.coelicolor A3(2)のゲノム配列のputative large secreted proteinをコードする領域に84%(1587/1872塩基)、S.avermitilis MA−4680ゲノム上のputative large secreted proteinをコードする領域に81%(1508/1859塩基)一致した。また、本遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列表の配列番号4)は、最も近縁なもので、S.coelicolor A3(2)のゲノム上にコードされるputative large secreted proteinに80%(491/613アミノ酸)、S.ghanaensis ATCC14672のゲノム上にコードされるlarge secreted proteinに80%(488/609アミノ酸)一致した。データベースに登録されているすべての遺伝子やタンパクを対象とした検索により、本遺伝子に相同性を示す塩基配列は検出されるものの、単離精製・機能的、酵素化学的解析がなされた報告例のあるタンパクは皆無である。したがって、NucLタンパク質およびnucL遺伝子は、これまでに報告のない新規なものと推察される。
【0092】
nucLがコードする全アミノ酸配列(607アミノ酸)のうち、N末端のシグナルペプチドを切断した配列をNucL成熟タンパク(575アミノ酸)とした(配列表の配列番号2)。このNucL成熟タンパクは、National Center for Biotechnology Information(NCBI,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、BLASTP programs 2.2.24+を用いて、Non−redundant protein databaseに対する相同性検索の結果、Streptomyces coelicolor A3(2)、Streptomyces lividans TK24の(putative)large secreted proteinと81%(465/574アミノ酸)、Streptomyces ghanaensis ATCC 14672のlarge secreted proteinに80%(467/577アミノ酸)一致した。
【0093】
5.NucSとNucLの生化学的性質
NucSとNucLの生化学的性質の試験結果を以下に示す。
(1)酵素活性に対するpHの影響
各pHにおける核酸分解活性は、1mM MgCl
2、1mM CaCl
2を含む20mM 2−モルホリノエタンスルホン酸,一水和物/NaOH(MES,pH5.5〜7.0)、3−モルホリノプロパンスルホン酸/NaOH(MOPS,pH7〜8)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸/NaOH(TAPS,pH8〜9)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸/NaOH(CHES,pH9〜9.5)、またはN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸/NaOH(CAPS,9.5〜10)中で、Deoxyribonucleic acid sodium salt from salmon testes 0.4mg/mL(シグマアルドリッチ社製、Cat no.D1626−1G)を基質として、25℃で15分間測定した。NucSはpH 8.5、NucLはpH 8.8付近が最適反応pHであることが分かった(
図3および
図4を参照)。
【0094】
(2)酵素活性に対する温度の影響
1mM MgCl
2、1mM CaCl
2を含む20mM Tris/HCl、pH8.5中で15分間、各温度条件における核酸分解活性を測定したところ、NucSは55℃、NucLは45℃付近が最適反応温度であることが分かった(
図5を参照)。
【0095】
(3)熱安定性試験
1mM MgCl
2、1mM CaCl
2を含む20mM Tris/HCl、pH8.5中で、各温度で30分熱処理後の残存活性を測定した(
図6を参照)。氷浴中に保存しておいた酵素の活性を100%とした。その結果、NucSは45℃まで安定であり、NucLは35℃まで安定であった。
【0096】
(4)酵素活性に対する一価塩の影響
NucSおよびNucLについて一価塩の影響を調べた。1mM MgCl
2と0〜1000mM NaClを含む10mM Tris/HCl、pH8.5中で、Deoxyribonucleic acid sodium salt from salmon testes 0.4mg/mL(シグマアルドリッチ社製、Cat no.D1626−1G)を基質として、各NaCl濃度の核酸分解活性を25℃で15分間測定した。NucS活性はNaCl濃度が低い場合に高く、NucLは1000mMまでのNaCl濃度存在条件でも活性を維持することが分かった(
図7を参照)。KClを用いた場合にもほぼ同様の結果が得られた(
図8を参照)。
【0097】
(5)酵素活性に対する二価金属塩の影響
NucSおよびNucLについて二価金属塩の影響を調べた。1mM CaCl
2と、0〜20mM MgCl
2あるいはMnCl
2を含む20mM Tris/HCl、pH8.5中に、基質としてDeoxyribonucleic acid sodium salt from salmon testes 0.4mg/mL(シグマアルドリッチ社製、Cat no.D1626−1G)を加えた反応液に、NucSあるいはNucLを添加、氷中で30分間インキュベートした後、核酸分解活性を25℃で15分間測定した。NucS、NucLは活性に二価の金属塩を要求した。NucS、NucLは0.25〜5mM MgCl
2存在下で高い活性を示した(
図9を参照)。またNucSは1〜2mM MnCl
2存在下でMgCl
2存在下とほぼ同等の活性を示した(
図10を参照)。なお、本試験では酵素安定性を高めるために、すべての反応液に1mM CaCl
2を添加した。
【0098】
(6)酵素活性に対するリン酸塩の影響
NucSおよびNucLについてリン酸塩の影響を調べた。1mM MgCl
2、1mM CaCl
2を含む0〜40mMリン酸カリウム緩衝液、pH8.5中で、Deoxyribonucleic acid sodium salt from salmon testes 0.4mg/mL(シグマアルドリッチ社製、Cat no.D1626−1G)を基質として、核酸分解活性を25℃で15分間測定した。NucSはリン酸塩に強く阻害され、0.5mM以上のリン酸塩により活性を失った。一方、NucLはNucSと比較して、リン酸塩に対して優れた耐性を示し、10mMのリン酸カリウム存在下でも50%の活性を保持することができた。(
図11を参照)
【0099】
(7)酵素活性に対する各種化学物質の影響
氷浴上で表3中の化合物と1時間接触させたのち、標準比活性測定方法で酵素活性を測定した(表3を参照)。表3に示すように、NucSとNucLはZnCl
2、CuCl
2、EDTAによって強く阻害された。また、NucSはジメチルスルホキシドやジメチルホルムアミドに高い耐性を示し、NucLはSDSに高い耐性を示した。なお、水に難溶の化合物はジメチルスルホキシドに溶解した後、酵素液に添加した。添加後のジメチルスルホキシドの終濃度は5%とし、5% ジメチルスルホキシド存在下での活性を100%とした。
【表3】
【0100】
6.NucSとNucLによる核酸分解のパターンと基質特異性
(1)NucSおよびNucLの環状プラスミドDNAに対する分解様式の解析
プラスミド精製キット(HiSpeed(登録商標)Plasmid Midi Kit;キアゲン社製、Cat no.12643)を用いて精製した環状プラスミドDNA(pUC18)を基質として、NucSおよびNucLそれぞれの核酸分解様式を解析した。標準比活性測定方法による、プラスミド溶液(約2〜10μg)に対して、下の表にある異なる酵素量の酵素液をそれぞれ添加して、25℃で15分間核酸分解反応を行なった。分解後の反応液を1%アガロースゲル電気泳動に供し、その分解されたDNAの分解様式を解析した。酵素濃度を変化させて分解したときの様子(25℃の反応)を
図12に示した。参考として、ベンゾナーゼ(同ユニット数)を用いた場合の試験結果も合わせて
図12に示した。なお、各レーンの説明は表4に示した。
【表4】
【0101】
続いて、NucLの酵素量を0.5Uに上げ、プラスミドが完全に分解できるか試験した(
図13を参照)。これらの結果より、NucSおよびNucLは、環状プラスミドDNAを、スーパーコイル型、リラックス型の形状に関わらず、単独酵素でプラスミドを完全に分解することが可能であることが分かった。
【0102】
(2)NucSおよびNucLの環状DNAに対する分解反応初期における反応様式の解析
標準比活性測定方法による、NucSおよびNucLの環状DNA(pUC18プラスミド)に対する分解反応初期における反応様式を解析した(
図14および
図15を参照)。本結果より、NucSはエンド型様式の分解活性を持つと推察される。また、NucLは、Desai and Shankar(Eur. J. Biochem.267,5123-5135,2000を参照、本文献の記載はここに特に開示として援用される)によって報告例のある一本鎖特異的なエンド型核酸分解酵素に類似した反応パターンを示した。一本鎖特異的核酸分解酵素による環状プラスミドDNAの分解は、一本鎖のエンド型切断の蓄積による低分子化によって進むと考えられている。
【0103】
(3)二本鎖直鎖DNAの分解パターン
標準比活性測定方法による、環状DNA(pUC18プラスミド)を制限ヌクレアーゼBamHI(5’−突出末端を生じる)、SacI(3’−突出末端を生じる)、SmaI(平滑末端を生じる)を用いて直鎖状にした基質を用いて、NucSおよびNucLを用いた分解反応を行なった(
図16および
図17を参照)。なお、各レーンの説明は表5に示した。
【表5】
【0104】
本結果により、NucSおよびNucLは、DNA鎖末端の構造に関わらず直鎖状二本鎖DNAを単独酵素で分解することが可能であることが分かった。また、
図12と
図16および
図17との比較により、NucSは、環状DNAと直鎖状二本鎖DNAを同様の効率で分解することが分かった。一方、NucLは環状DNAに比べて、直鎖状二本鎖DNAをより効率良く分解した。また、反応途中で観察される分解の進んでいないDNAの最大サイズがNucSでは反応開始から一定であるのに対し(
図16のレーン5〜8の主なバンド)、NucLではサイズの低下が起きている(
図17のレーン3とレーン4〜8の主なバンドを比較)。これはNucLによるDNA分解が、ランダムな位置というよりもむしろ末端部分でより効率良く起きていること、すなわちエキソ型分解反応が進んでいること示唆する。以上の結果から、NucLはエンドエキソ型と呼ばれる反応様式を有すると推定される。
【0105】
(4)一本鎖DNAと二本鎖DNA、RNAに対する反応性試験
15分間の標準比活性測定方法による、低温で溶解したサケDNA(二本鎖DNA)と95℃、10分間の熱変性後の同DNA(一本鎖DNA)に対する各酵素の反応性を試験した。その結果、NucSは未変性DNAと熱変性DNAを同程度の効率で分解するが、NucLは未変性DNAに比べて熱変性後DNAを、約5倍の高い効率で分解することが分かった。すなわち、NucLは一本鎖DNAに効率良く作用する酵素であると言える。また、RNA(酵母由来mRNA)に対する分解活性を測定した結果、NucSはRNA分解活性を示したが、NucLはRNA分解活性を示さなかった。
【0106】
(5)ホスホジエステラーゼ、ホスファターゼ活性試験
ビス(p−ニトロフェニル)リン酸、p−ニトロフェニルリン酸を基質として、Tomoyedaら(Archives of biochemistry and biophysics.131(1),191-202,1969を参照、本文献の記載はここに特に開示として援用される)の方法に従い、1mM MgCl
2、1mM CaCl
2および1%グリセロールを含む100mM Tris/HCl、pH8.5中で、0.2%上記基質とする反応液を用いて、両方酵素のホスホジエステラーゼ活性、ホスファターゼ活性を25℃で測定した。その結果、NucSはホスホジエステラーゼおよびホスファターゼ活性をどちらも持たないが、NucLはホスホジエステラーゼおよびホスファターゼの両活性を有することが分かった。
【0107】
7.まとめ
NucSは、市販核酸分解酵素に比べて格段に高い比活性を持ち、低塩濃度条件下で種々の核酸(一本鎖と二本鎖の直鎖および環状DNA、RNA)を効率良くエンド型に分解する。NucLは広い塩濃度条件下でDNA(一本鎖と二本鎖の直鎖および環状DNA)をエンドエキソ型に分解する。したがってNucSおよびNucLを併用することにより、広範な条件において優れた核酸分解活性が期待される。また両酵素は、Mn
2+の添加を必要とせず、低濃度(1mM)のMg
2+およびCa
2+存在下で高い活性を示すこと、また本酵素の生産菌は培養が容易で、安全性が高いと考えられるストレプトマイセス属細菌であることから、食品や医薬品製造時の核酸分解工業用酵素として有望と考えられる。核酸分解酵素高生産放線菌Streptomyces sp. MBE174を培養することによって、また本酵素をコードする新規遺伝子を用いて、核酸分解酵素を安価に提供することが可能であると考えられる。
【0108】
配列表に記載の配列は以下の通りである:
No.1 NucSのコア配列
ALPTPVSAATARGYLASLKVAPENRTGYKRDLFPHWITQSGTCNTRETVLKRDGTNVVTDAACAATSGSWYSPFDGATWTAASDVDIDHLVPLAEAWDSGASAWTTAQRQAFANDLTRPQLLAVTDTVNQSKGDKDPAEWMPPRAAYHCTYVRAWVQ;
No.2 NucL成熟タンパク
DSVRIHDIQGTTRISPYAGRQVADVPGVVTGVRDHGSSRGFWFQDPRPDDDPATSEGVFVFTGSAPGVEAGDAVTVSGTVSEFVPGGTASGNQSLTEITRPTVTVVSRGNPVPDPVVVSARSVPHAYAPAGDAAANGSVNALPLRPDRYALDYYESLEGMNVQVADARVVGATDPYTELWVTVKPGENASPRGGTVYGSRDAQNTGRLQIQTLGVPAGFPAADVGDTLAGATTGPLDYNQFGGYTLVARSLGTLTAGGLARETTREQHRDELSVATYNVENLDPSDGTFAAHAEAIVRNLRSPDIVSLEEIQDDNGATDDGTVTAGVTVGKLIDAVVAAGGPRYDWRSVDPVDKADGGQPGGNIRQVFLFDPRRVSFADRPGGDAVTATGVVKVRGKAALTHSPGRVDPANPAWLNSRKPLAGEFSFRGRTVFVIANHFASKGGDQGLTSQYQPPARSSETQRHLQATAVNTFVKQILAVQKNADVIALGDINDFEFSGTTERLEAGGALWSAVRSLPPGERYSYVYQGNSQVLDQILVSPSIRRGHLSYDSVHINAEFHDQISDHDPQVLRYRP;
No.3 NucS
MPKLYARRRFAVLAALTGLIASAGLFHGPAASAALPTPVSAATARGYLASLKVAPENRTGYKRDLFPHWITQSGTCNTRETVLKRDGTNVVTDAACAATSGSWYSPFDGATWTAASDVDIDHLVPLAEAWDSGASAWTTAQRQAFANDLTRPQLLAVTDTVNQSKGDKDPAEWMPPRAAYHCTYVRAWVQVKYYYGLSVDTAEKTALTNRLAGC;
No.4 NucL
MASQSVTRLAALTVAATCSAASVVVLGPPAHADSVRIHDIQGTTRISPYAGRQVADVPGVVTGVRDHGSSRGFWFQDPRPDDDPATSEGVFVFTGSAPGVEAGDAVTVSGTVSEFVPGGTASGNQSLTEITRPTVTVVSRGNPVPDPVVVSARSVPHAYAPAGDAAANGSVNALPLRPDRYALDYYESLEGMNVQVADARVVGATDPYTELWVTVKPGENASPRGGTVYGSRDAQNTGRLQIQTLGVPAGFPAADVGDTLAGATTGPLDYNQFGGYTLVARSLGTLTAGGLARETTREQHRDELSVATYNVENLDPSDGTFAAHAEAIVRNLRSPDIVSLEEIQDDNGATDDGTVTAGVTVGKLIDAVVAAGGPRYDWRSVDPVDKADGGQPGGNIRQVFLFDPRRVSFADRPGGDAVTATGVVKVRGKAALTHSPGRVDPANPAWLNSRKPLAGEFSFRGRTVFVIANHFASKGGDQGLTSQYQPPARSSETQRHLQATAVNTFVKQILAVQKNADVIALGDINDFEFSGTTERLEAGGALWSAVRSLPPGERYSYVYQGNSQVLDQILVSPSIRRGHLSYDSVHINAEFHDQISDHDPQVLRYRP;
No.5 nucS遺伝子
ATGCCGAAGCTCTACGCGCGTCGACGGTTCGCCGTCCTCGCCGCGCTCACCGGACTCATAGCCTCCGCCGGGCTCTTCCACGGTCCGGCCGCCTCCGCCGCCCTCCCCACGCCGGTCAGCGCCGCCACCGCCCGCGGCTACCTCGCCTCCCTGAAGGTGGCCCCCGAGAACCGCACCGGCTACAAGCGCGACCTCTTCCCCCACTGGATCACGCAGTCCGGCACCTGCAACACCCGCGAGACCGTCCTCAAACGCGACGGCACCAACGTCGTCACCGACGCCGCCTGCGCCGCCACCAGCGGCAGTTGGTACTCGCCCTTCGACGGGGCCACCTGGACCGCCGCCTCCGACGTCGACATCGACCACCTCGTCCCGCTGGCCGAGGCGTGGGACTCCGGCGCGAGCGCCTGGACCACGGCCCAGCGCCAGGCGTTCGCCAACGACCTGACACGTCCTCAGCTCCTCGCCGTCACCGACACCGTGAACCAGTCCAAGGGCGACAAGGACCCGGCCGAGTGGATGCCGCCCCGGGCCGCCTACCACTGCACCTACGTACGCGCCTGGGTGCAGGTGAAGTACTACTACGGCCTCTCGGTCGACACCGCCGAGAAGACGGCGCTCACGAACCGGCTCGCCGGCTGCTGA;
No.6 nucL遺伝子
TTGGCCAGCCAGTCCGTCACGCGCCTCGCCGCGCTCACCGTCGCCGCCACCTGTTCGGCGGCGTCCGTCGTCGTCCTCGGTCCGCCCGCGCACGCCGACTCCGTGCGCATCCACGACATCCAGGGCACCACCAGGATCTCCCCGTACGCCGGCCGCCAGGTCGCCGACGTGCCCGGCGTCGTCACCGGAGTCCGCGACCACGGCTCCTCCCGGGGCTTCTGGTTCCAGGACCCGCGGCCCGACGACGACCCCGCCACCAGCGAGGGAGTGTTCGTCTTCACCGGCTCGGCCCCCGGGGTCGAGGCCGGCGACGCGGTCACCGTCTCCGGCACGGTCTCGGAGTTCGTGCCCGGCGGGACCGCCTCCGGCAACCAGTCGCTCACCGAGATCACCCGGCCCACGGTCACCGTGGTCTCCCGCGGCAACCCGGTGCCGGACCCGGTCGTCGTCTCGGCCCGCTCCGTGCCGCACGCCTACGCCCCGGCGGGCGACGCCGCCGCGAACGGCTCCGTCAACGCCCTGCCCCTGCGGCCCGACCGCTACGCCCTGGACTACTACGAGTCCCTGGAGGGCATGAACGTCCAGGTGGCCGACGCCCGCGTGGTCGGCGCGACCGACCCGTACACCGAGCTGTGGGTGACGGTGAAGCCCGGCGAGAACGCGAGCCCCCGGGGCGGCACCGTCTACGGCTCCCGCGACGCGCAGAACACCGGGCGGCTGCAGATCCAGACCCTGGGCGTACCAGCCGGCTTCCCCGCCGCCGACGTGGGCGACACCCTCGCGGGCGCCACCACCGGCCCGCTCGACTACAACCAGTTCGGCGGCTACACCCTGGTCGCCCGTAGTCTCGGCACGCTCACCGCCGGCGGGCTCGCCCGCGAGACGACCCGGGAGCAGCACCGCGACGAGCTGTCGGTGGCCACGTACAACGTCGAGAACCTCGACCCCTCCGACGGCACCTTCGCCGCGCACGCGGAGGCGATCGTCCGGAACCTGCGCTCACCGGACATCGTGTCCCTGGAGGAGATCCAGGACGACAACGGCGCCACGGACGACGGCACGGTGACCGCCGGCGTGACGGTGGGCAAGCTGATCGACGCCGTCGTCGCGGCCGGCGGCCCGCGCTACGACTGGCGCTCGGTGGACCCCGTCGACAAGGCGGACGGCGGGCAGCCGGGCGGCAACATCCGCCAGGTGTTCCTCTTCGACCCGCGGCGGGTCTCCTTCGCCGACCGTCCCGGCGGGGACGCGGTCACCGCGACCGGGGTGGTGAAGGTGCGCGGCAAGGCGGCGCTGACCCACTCCCCCGGCCGGGTCGACCCCGCGAACCCCGCCTGGCTGAACAGCCGCAAGCCGCTGGCCGGCGAGTTCTCGTTCCGCGGGCGGACGGTCTTCGTGATCGCCAACCACTTCGCGTCCAAGGGCGGCGACCAGGGGCTGACCTCCCAGTACCAGCCGCCGGCGCGGAGTTCGGAGACCCAGCGCCACCTCCAGGCGACGGCGGTGAACACCTTCGTCAAGCAGATCCTGGCGGTCCAGAAGAACGCGGACGTCATCGCCCTCGGCGACATCAACGACTTCGAGTTCTCCGGCACGACGGAACGCCTGGAGGCCGGCGGCGCGCTCTGGTCGGCGGTCAGGTCGCTGCCGCCGGGCGAGCGCTACTCGTACGTCTACCAGGGCAACAGCCAGGTGCTCGACCAGATCCTGGTGAGCCCGTCGATCCGGCGCGGGCACCTGTCCTACGACAGCGTGCACATCAACGCCGAGTTCCACGACCAGATCAGCGACCACGACCCGCAGGTGCTGCGGTACCGCCCCTGA;
No.7 primer set A F
CGCATG(C/T)C(A/G)AAG(G/T)TCTACG;
No.8 primer set A R
A(A/G)CTGCCGCTGGTGG;
No.9 primer set B F
AGCGGCAG(C/T)TGGTACTC;
No.10 primer set B R
ACCCGCGATCTGGAAGG;
No.11 primer set C F
GCTACAAGCGCGACCTCTTC;
No.12 primer set C R
TGGACTGGTTCACGGTGTC;
No.13 primer set D F
AACTGCCGCTGGTGG;
No.14 primer set D R
CTGAGCAGTATGTCGACGGTC;
No.15 primer set E F
GCTACAAGCGCGACCTCTTC;
No.16 primer set E R
GTTAGAACGCGTAATACGAC;
No.17 primer set F F
CTGGGTGCAGGTGAAGTACTAC;
No.18 primer set F R
GTAATACGACTCACTATAGG;
No.19 primer set G F
GGCTTCTGGAT(A/G/C)CAGGACCC;
No.20 primer set G R
CTGCGGGTCGTGGTCG;
No.21 primer set H R
CGGTGAGCGACTGGTTG;
No.22 primer set H F
CAGTACATGGC(C/T)GAAACCTTGAC;
No.23 primer set I F
CGAGTTCTCGTTCCGCG;
No.24 primer set I R
GTTAGAACGCGTAATACGAC;
No.25 primer set J F
ATCGCCAACCACTTCGC;
No.26 primer set J R
GTAATACGACTCACTATAGG;
No.27 NucSの共通配列
ALPTPVSAATAR。