(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分散液に前記粘着付与剤Lを配合する際は、前記粘着付与剤Lを35℃以上に加温した状態で該粘着付与剤Lを前記分散液に添加する、請求項4または5に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の説明において、同様の作用を奏する部材または部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0017】
本発明により提供される粘着シートは、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える。かかる粘着剤層を基材(支持体)の片面または両面に有する形態の基材付き粘着シートであってもよく、上記粘着剤層が剥離ライナー(剥離面を備える基材としても把握され得る。)に保持された形態等の基材レスの粘着シートであってもよい。ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。なお、上記粘着剤層は典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。また、本発明により提供される粘着シートは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。あるいは、さらに種々の形状に加工された形態の粘着シートであってもよい。
【0018】
ここに開示される粘着シートは、例えば、
図1〜
図6に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。このうち
図1,
図2は、両面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。
図1に示す粘着シート1は、基材10の両面(いずれも非剥離性)に粘着剤層21,22が設けられ、それらの粘着剤層が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有している。
図2に示す粘着シート2は、基材10の両面(いずれも非剥離性)に粘着剤層21,22が設けられ、それらのうち一方の粘着剤層21が、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有している。この種の粘着シート2は、該粘着シートを巻回して他方の粘着剤層22を剥離ライナー31の裏面に当接させることにより、粘着剤層22もまた剥離ライナー31によって保護された構成とすることができる。
【0019】
図3,
図4は、基材レスの両面粘着シートの構成例である。
図3に示す粘着シート3は、基材レスの粘着剤層21の両面21A,21Bが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有する。
図4に示す粘着シート4は、基材レスの粘着剤層21の一方の表面(粘着面)21Aが、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有し、これを巻回すると、粘着剤層21の他方の表面(粘着面)21Bが剥離ライナー31の背面に当接することにより、他面21Bもまた剥離ライナー31で保護された構成とできるようになっている。
【0020】
図5,
図6は、片面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。
図5に示す粘着シート5は、基材10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられ、その粘着剤層21の表面(粘着面)21Aが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31で保護された構成を有する。
図6に示す粘着シート6は、基材10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられた構成を有する。基材10の他面10Bは剥離面となっており、粘着シート6を巻回すると該他面10Bに粘着剤層21が当接して、該粘着剤層の表面(粘着面)21Bが基材の他面10Bで保護されるようになっている。
【0021】
片面粘着タイプまたは両面粘着タイプの基材付き粘着シートにおいて、粘着剤層を支持(裏打ち)する基材としては、各種の樹脂フィルム類(ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム等)、紙類(和紙、上質紙等)、各種の繊維状物質の単独または混紡等による織布や不織布等の布類、ゴムシート類(天然ゴムシート等)、発泡ポリクロロプレンゴム等の発泡体からなる発泡体シート類(発泡ポリウレタンシート等)、金属箔類(アルミニウム箔等)、これらの複合体等を用いることができる。基材は、単層の形態を有していてもよく、積層された形態を有していてもよい。基材の厚さは目的に応じて適宜選択できるが、一般的には10μm〜500μm(好ましくは10μm〜200μm)である。耐反撥性の観点からは、厚さ10μm〜50μmの基材の使用が有利である。
【0022】
ここに開示される技術は、両面粘着タイプの基材レスまたは基材付き粘着シート(例えば、軟質ポリウレタン等の弾性発泡体と被着体とを貼り合わせる用途に使用され得る両面粘着シート)に特に好ましく適用され得る。基材付き両面粘着シートにおける好ましい基材としては、かかる形態の粘着シートの分野において周知ないし慣用の不織布を好ましく用いることができる。例えば、木材パルプ、綿、麻(例えばマニラ麻)等の天然繊維から構成される不織布;ポリエステル繊維、レーヨン、ビニロン、アセテート繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等の化学繊維(合成繊維)から構成される不織布;材質の異なる二種以上の繊維を併用して構成された不織布;等を使用可能である。なお、ここでいう「不織布」は、主として粘着テープその他の粘着シートの分野において使用される粘着シート用不織布を指す概念であって、典型的には一般的な抄紙機を用いて作製されるような不織布(いわゆる「紙」と称されることもある。)をいう。
【0023】
粘着剤層の厚みは、例えば5μm〜200μm(好ましくは10μm〜100μm)程度であり得る。ここでいう粘着剤層の厚みは、基材の両面に粘着剤層が設けられた両面粘着シートの場合、その片面当たりの粘着剤層の厚みをいう。軟質ポリウレタン等の弾性発泡体に貼り付けて使用され得る粘着シートでは、該発泡体に対する良好な軽圧着粘着力を得るために、該発泡体に貼り付けられる粘着剤層の厚みを30μm以上(好ましくは40μm以上)とすることが有利である。一方、他の粘着物性とのバランスや粘着シートの生産性等の観点からは、粘着剤層の厚みを100μm以下とすることが好ましい。ここに開示される粘着シートの好ましい一態様は、粘着剤層の厚みが40μm〜80μm(典型的には50μm〜70μm、例えば60μm前後)であって、かつ、上記特性(A)(好ましくは、さらに上記特性(B)および(C)の一方または両方)を満たす粘着シートである。例えば、上記厚みの粘着剤層を不織布の両面に設けてなる両面粘着シート、上記厚みの粘着剤層からなる基材レス両面粘着シート、基材の片面に上記厚みの粘着剤層を有する片面粘着シート、等であり得る。
【0024】
剥離ライナーとしては、粘着シートの分野において周知ないし慣用のものを適宜選択して用いることができる。例えば、各種の樹脂フィルム類、紙類、布類、ゴムシート類、発泡体シート類、金属箔、これらの複合体(例えば、紙の両面にオレフィン樹脂がラミネートされた積層構造のシート)等からなる基材の表面に、必要に応じて剥離処理が施された構成の剥離ライナーを好適に用いることができる。
【0025】
ここに開示される粘着シートは、上記特性(A)を満たすことによって特徴づけられる。すなわち、自由状態(外力が加わらない状態)において厚さ10mmの軟質ウレタンフォームに、該ウレタンフォームが厚さ5mmに圧縮される条件(換言すれば、上記軟質ウレタンフォームを50%の厚みに圧縮する条件)で圧着された場合において、圧着から30分後における180°引き剥がし粘着力(軽圧着粘着力)が1.5N/20mm以上である。上記軟質ウレタンフォームとしては、株式会社イノアックコーポレーションの商品名「ECS」(灰色)(以下、単に「ECSフォーム」ということもある。)を使用する。このECSフォームは、密度22±2kg・m
3、硬さ(JIS K6400−2(2004)に規定するD法による。)107.9±22.6Nのポリエーテルウレタンフォームである。
【0026】
上記軽圧着粘着力は、より具体的には、例えば以下のようにして測定することができる。まず、性能評価の対象となる粘着シートを所定幅の帯状(典型的には短冊状)にカットして試料片を作製する。このとき、上記粘着シートが基材レスまたは基材付きの両面粘着シートの形態である場合には、取扱性向上および粘着シートの補強のために、あらかじめ一方の粘着面に適当な裏打ち材を貼り付けておくことが好ましい。裏打ち材としては、例えば、厚み20μm〜30μm程度(典型的には25μm)のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを好ましく採用することができる。試料片の幅(粘着面の幅)は、通常は20mmとすることが好ましいが、異なる幅Xmmの試料片を用いる場合であっても、該試料片を用いて得られた測定結果に20/Xを乗じることにより、その測定結果を幅20mm当たりの粘着力に換算することができる。以下の説明では、20mm幅の試料片を用いるものとする。試料片の長さは、被着体に対する十分な貼付け長さを確保し得るように設定すればよい。通常は、上記貼付け長さ(粘着面の長さ)を20mm以上とすることが適当であり、50mm以上とすることがより好ましい。
【0027】
被着体としては、厚さ10mm、幅30mm、長さ100mmのECSフォームを使用する。通常は、より大きな(広い)面積を有する厚さ10mmのECSフォームシートを上記サイズの帯状にカットしたものを、上記被着体として好ましく使用することができる。
【0028】
23℃の環境下において、被着体としての厚さ10mmのECSフォームに上記試料片を、該被着体が厚み5mmに圧縮されるようにして貼り付ける。このとき、被着体が過度に圧縮されたり、あるいは圧縮が不足したりすることを防止するために、被着体の外周に厚み5mmの治具を配置するとよい。例えば
図7に示すように、被着体42の幅方向の両側に、若干の隙間を空けて、厚み5mmの棒状(四角柱状)の治具44,45を配置するとよい。治具44,45の材質は特に限定されないが、被着体42よりも硬質のものを用いることが好ましい。被着体が厚み5mmに圧縮される条件で試料片を圧着する操作は、例えば、被着体の表面と試料片の粘着面とを対向させ、典型的には適当な部材を用いて該部材が上記治具の上面に当接するまで試料片の背面を被着体に押圧する(押し付ける)ことにより、好ましく実施することができる。
【0029】
圧着強度を均一化するため、試料片を背面から被着体に押圧する部材としては、円柱状の外形を有する部材を好ましく採用することができる。押圧用部材の好適例として、直径が80mm〜90mm(例えば85mm)程度の円柱状部材が挙げられる。かかる部材を試料片の背面に、該試料片の長手方向に沿って30cm/分の速度(上記部材の移動速度、すなわち円柱の軸の移動速度をいう。)で一往復させることが好ましい。例えば
図8に示すように、円柱状のローラ46を治具44,45の上面に沿って転動させるとよい。ローラ46の重さまたは該ローラ46により付与される荷重は、該ローラ46の下端が治具44,45の上端に当接するまで被着体42を圧縮し得る重さまたは荷重に設定する。ローラ46としては、例えば、重さ2kg程度のものを好ましく使用することができる。
とができる。
【0030】
このようにして被着体に貼り付けた試料片を、圧着から30分間23℃の環境下に保持した後、JIS Z 0237(2004)に準拠して、23℃、50%RHの測定環境にて引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力を測定する。この測定は、市販の引張試験機を用いて行うことができる。測定長さ(引き剥がし長さ)は10mm以上とすることが好ましく、20mm以上とすることがより好ましい。異なる試料片を用いて2回以上(より好ましくは3回以上)の測定を行い、それらの測定結果の平均値を採用することが好ましい。ここに開示される粘着シートの好ましい態様では、上記軽圧着粘着力が1.8N/20mm以上(さらに好ましくは2.5N/20mm以上)である。軽圧着粘着力の上限は特に制限されないが、ECSフォーム自体の強度を考慮すると、通常は10N/20mm以下である。なお、引き剥がし開始直後または引き剥がし途中において、粘着シートが被着体との界面で剥離するのではなく、粘着シートとともに被着体の一部が残部から剥がれる剥離態様となった場合には、軽圧着粘着力が少なくとも1.5N/20mm以上であるものと推測することができる。
【0031】
ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、該粘着シートがさらに特性(B)を満たす。すなわち、厚さ10mmのECSフォームで裏打ちされた幅10mm、長さ50mmの粘着シートを試料片として使用し、該試料片の長手方向の一端から10mmまでの部分を厚さ2mmのABS板に圧着し、残りの部分をABS板の端から他方の面に折り返して圧着し、これを23℃、50%RHの環境下に24時間、次いで70℃の環境下に2時間保持した後、上記試料片の長手方向の一端がABS板表面から浮いた距離(浮き距離)を測定する耐反撥性試験において、上記浮き距離が2mm以下である。
【0032】
上記耐反撥性試験は、より具体的には、例えば以下のようにして実施することができる。まず、粘着シートの背面(性能評価の対象となる粘着面とは反対側の面)に、厚さ10mmのECSフォームを貼り合わせる。上記粘着シートが基材レスまたは基材付きの両面粘着シートの形態である場合には、性能評価の対象となる粘着面とは反対側の粘着面に上記ECSフォームを圧着すればよい。上記粘着シートが片面粘着シートの形態である場合には、適当な両面粘着テープ(例えば、日東電工株式会社の両面粘着テープ、商品名「No.512」)を用いて、上記粘着シートの背面に上記ECSフォームを固定するとよい。このECSフォーム付き粘着シートを幅10mm、長さ50mmの短冊状に裁断して試料片を作製する。
【0033】
23℃において、
図9に示すように、試料片50の粘着面のうち長手方向の一端50Aから10mmまでの部分(すなわち、幅10mm、長さ10mmの接着面積)を、厚さ2mmのABS板52の一方の面52Aに貼り付ける。このとき、試料片50の一端50Aから10mmの一をABS板52の外周端に合わせ、試料片50の残りの部分がABS板52から外方向に垂直に延びるように試料片50を配置する。上記貼り付けは、重さ2kg、直径90〜100mm(例えば95mm)のローラを上記部分に約30cm/分の速度で一往復させる条件で行う。そして、
図10に示すように、試料片50の残りの部分(幅10mm、長さ40mm)をABS板52の端から他方の面52Bに折り返して貼り付ける。
【0034】
これを23℃、50%RHの環境下に24時間放置し、さらに70℃の環境下に2時間放置した後、一方の面52A側(接着面積が幅10mm、長さ10mmの側)において、試料片50の一端50AがABS板52の表面52Aから浮き上がった高さ(浮き距離;mm)を測定する。なお、
図10において、符号502は粘着シートを、符号504は該粘着シートの一方の粘着面に圧着されたウレタンフォームを示している。この耐反撥性試験は、2つ以上(より好ましくは3つ以上)の異なる試料片を用いて行い、それらの浮き距離の平均値を試験結果として採用することが好ましい。ここに開示される粘着シートの好ましい態様では、上記浮き距離が1mm以下であり、より好ましくは0mmである(すなわち、ABS板からの浮きが認められない)。
【0035】
ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、該粘着シートがさらに特性(C)を満たす。すなわち、幅10mm、長さ20mmの接着面積でフェノール樹脂板に貼り付け、その接着面に平行な方向に500gの荷重を付与して23℃の環境下に保持する保持力試験において、保持時間が1時間以上である。この保持力試験は、例えば、後述する実施例に記載の方法で好ましく実施することができる。この保持力試験は、2つ以上(より好ましくは3つ以上)の異なる試料片を用いて行い、1時間以内に一つでも試料片が落下した場合には保持力不足(保持時間が1時間未満)と判定するものとする。上記保持試験において1時間後も試料片がフェノール樹脂板に保持されており、その1時間後における1時間後のズレ幅(各試料片の平均値)が5mm以下である粘着シートが好ましく、3mm以下(例えば2mm以下)である粘着シートがさらに好ましい。
【0036】
次に、ここに開示される粘着シートの粘着剤層についてより詳しく説明する。この粘着剤層は、アクリル系水分散型粘着剤組成物を用いて形成されたものである。上記粘着剤組成物は、水性溶媒と該水性溶媒に分散したアクリル系ポリマーとを含む分散液である。上記アクリル系ポリマーは、上記粘着剤組成物に含まれる不揮発分(粘着剤層形成成分、以下「粘着剤」ともいう。)のうち40質量%以上(典型的には40〜95質量%)を占めることが好ましく、50質量%以上(典型的には50〜90質量%、例えば55〜85質量%)を占めることがより好ましい。また、上記粘着剤に占めるアクリル系ポリマーの質量割合は、典型的には95質量%以下であり、通常は90質量%以下(例えば85質量%以下)とすることが好ましい。粘着剤に占めるアクリル系ポリマーの質量割合が多すぎる場合または少なすぎる場合には、粘着特性のバランスが崩れやすくなることがある。
【0037】
アクリル系ポリマーとしては、アルキル(メタ)アクリレートを主構成単量体成分(モノマー主成分、すなわちアクリル系ポリマーを構成するモノマーの総量(以下「全モノマー成分」ということもある。)のうち50質量%以上、典型的には50〜99.8質量%を占める成分)とするものを好ましく採用し得る。好ましい一態様では、このアルキル(メタ)アクリレート含有割合が全モノマー成分の70質量%以上(典型的には70〜99.5質量%)であり、例えば80質量%以上(典型的には80〜99.5質量%)である。また、上記アルキル(メタ)アクリレートの含有割合が全モノマー成分の90質量%以上(典型的には90〜99質量%)であってもよい。かかるアクリル系ポリマーは、所定のモノマー原料を重合(典型的にはエマルション重合)することにより合成され得る。通常、上記モノマー原料におけるモノマー組成は、該モノマー原料を重合して得られるアクリル系ポリマーの共重合組成(共重合割合)に概ね対応する。
【0038】
なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイルおよびメタクリロイルを、「(メタ)アクリル」はアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0039】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素原子数1〜20(以下、かかる炭素原子数の範囲をC
1−20と表記することがある。)のアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルから選択される一種または二種以上を好適に用いることができる。好ましい一態様では、全モノマー成分のうち70質量%以上(典型的には70〜99.5質量%)がC
1−14アルキル(メタ)アクリレートであり、例えばC
1−10アルキル(メタ)アクリレートである。C
1−10アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。例えば、ブチルアクリレート(BA)および2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)の一方または両方を、合計で、全モノマー成分の40質量%以上(典型的には40〜98質量%)、より好ましくは50質量%以上(典型的には50〜95質量%)含有するモノマー組成を好ましく採用することができる。アルキル(メタ)アクリレートとしてBAおよび2EHAを組み合わせて用いる場合、それらの使用比率は特に制限されない。
【0040】
上記アクリル系ポリマーには、任意成分として、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な他のモノマー(以下「共重合性モノマー」ともいう。)が用いられていてもよい。例えば、カルボキシル基、アルコキシシリル基、水酸基、アミノ基、アミド基、エポキシ基等から選択される一種または二種以上の官能基を有するエチレン性不飽和単量体を用いることができる。これら官能基含有モノマーは、アクリル系ポリマーに架橋点を導入するのに役立ち得る。共重合性モノマーの種類およびその含有割合(共重合割合)は、使用する架橋剤の種類およびその量、架橋反応の種類、所望する架橋の程度(架橋密度)等を考慮して適宜設定することができる。
【0041】
このような官能基含有モノマーのうち、カルボキシル基を有するモノマーまたはその酸無水物から選択される一種または二種以上を好ましく用いることができる。カルボキシル基含有モノマーの具体例としては、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物;等が挙げられる。官能基含有モノマー成分の実質的に全部がカルボキシル基含有モノマーであってもよい。なかでも好ましいカルボキシル基含有モノマーとして、AAおよびMAAが例示される。これらの一方を単独で用いてもよく、AAとMAAとを任意の割合で組み合わせて用いてもよい。
【0042】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記アクリル系ポリマーにAAおよびMAAが共重合されている。かかる共重合組成のアクリル系ポリマーを含む粘着剤組成物によると、より耐反撥性に優れた粘着シートが実現され得る。AAとMAAとの質量比(AA:MAA)は、例えば凡そ1:10〜10:1の範囲とすることができ、通常は凡そ1:4〜4:1(例えば1:2〜2:1)の範囲とすることが好ましい。カルボキシル基含有モノマーを共重合させる場合、その共重合量(複数種類のカルボキシル基含有モノマーを用いる場合にはそれらの合計量)は、全モノマー成分の例えば0.5〜15質量%程度とすることができ、通常は1〜10質量%(好ましくは2〜6質量%、例えば3〜5質量%)程度とすることが適当である。
【0043】
好ましく使用し得る官能基含有モノマーの他の例として、アルコキシシリル基を有するモノマーが挙げられる。かかるアルコキシシリル基含有モノマーの具体例としては、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。このようなアルコキシシリル基含有モノマーを共重合させることは、軽圧着粘着性と保持力とをより高レベルで両立可能な粘着シートを実現する上で有利な手法となり得る。アルコキシシリル基含有モノマーを共重合させる場合、その共重合量は、全モノマー成分の0.005〜0.05質量%(例えば0.01〜0.03質量%)程度とすることができる。ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記アクリル系ポリマーに、上記官能基含有モノマーとして、少なくともアルコキシシリル基含有モノマー、AAおよびMAAが共重合されている。実質的にアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシシリル基含有モノマー、AAおよびMAAのみからなるアクリル系ポリマーであってもよい。
【0044】
上記官能基含有モノマーは、通常、全モノマー成分のうち15質量%以下(例えば0.5〜15質量%、好ましくは1〜10質量%)の範囲で用いることが好ましい。官能基含有モノマー成分の使用量が多すぎると、凝集力が高くなりすぎて粘着特性(例えば接着力)が低下傾向となることがあり得る。
【0045】
アクリル系ポリマーに共重合され得るモノマー(共重合性モノマー)の他の例として、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の非芳香族性環含有(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族性環含有(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;等が挙げられる。さらに他の例として、一分子内に複数の重合性官能基を有する多官能モノマー、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。あるいは、かかる多官能モノマーを実質的に使用しなくてもよい。
【0046】
上記アクリル系ポリマーのモノマー組成は、そのガラス転移温度(Tg)が−70℃〜−10℃(典型的には−60℃〜−20℃)の間となるように決定することが好ましい。Tgが高すぎると、弾性発泡体に対する軽圧着粘着性が不足しがちである。一方、Tgが低すぎると耐反撥性や保持力が不足しやすくなる傾向にある。ここで、アクリル系ポリマーのTgとは、該アクリル系ポリマーを構成する各モノマーの単独重合体(ホモポリマー)のTgおよび該モノマーの質量分率(共重合割合)に基づいてフォックス(FOX)の式から求められる値をいう。ホモポリマーのTgとしては、公知資料である日刊工業新聞社の「粘着技術ハンドブック」またはWiley-Interscienceの「ポリマーハンドブック(Polymer Handbook)」に記載の値を採用するものとする。例えば、2EHAについては−70℃、BAについては−54℃、メチルアクリレート(MA)については8℃、メチルメタクリレートについては105℃、シクロヘキシルメタクリレートについては66℃、酢酸ビニルについては32℃、AAについては106℃、MAAについては228℃を採用するものとする。
【0047】
かかるモノマーを重合させてアクリル系ポリマーの水分散液を得る方法としては、公知または慣用の重合方法を採用することができ、なかでもエマルション重合法を好ましく用いることができる。エマルション重合を行う際のモノマー供給方法としては、全モノマー原料を一度に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等を適宜採用することができる。モノマーの一部または全部(典型的には全部)をあらかじめ水(典型的には、水とともに適当量の乳化剤が使用される。)と混合して乳化し、その乳化液(モノマーエマルション)を反応容器内に一括、連続あるいは分割して供給してもよい。重合温度は、使用するモノマーの種類、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば20℃〜100℃(典型的には40℃〜80℃)程度とすることができる。
【0048】
重合時に用いる重合開始剤としては、重合方法の種類に応じて、公知または慣用の重合開始剤から適宜選択することができる。例えば、エマルション重合法において、アゾ系重合開始剤を好ましく使用し得る。アゾ系重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。
【0049】
重合開始剤の他の例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、過酸化水素等の過酸化物系開始剤;等が挙げられる。重合開始剤のさらに他の例として、過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤が挙げられる。かかるレドックス系開始剤の例としては、過酸化物(過酸化水素水等)とアスコルビン酸との組み合わせ、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ等が挙げられる。
【0050】
このような重合開始剤は、単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、通常の使用量であればよく、例えば、全モノマー成分100質量部に対して0.005〜1質量部(典型的には0.01〜1質量部)程度の範囲から選択することができる。
【0051】
上記重合には、必要に応じて、従来公知の各種の連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。かかる連鎖移動剤は、例えば、n−ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類から選択される一種または二種以上であり得る。なかでもn−ラウリルメルカプタンの使用が好ましい。連鎖移動剤の使用量は、モノマー原料100質量部に対して例えば凡そ0.001〜0.5質量部程度とすることができる。この使用量が凡そ0.02〜0.05質量部程度であってもよい。
【0052】
かかるエマルション重合によると、アクリル系ポリマーが水に分散したエマルション形態の重合反応液が得られる。ここに開示される技術における水分散型アクリル系ポリマーとしては、上記重合反応液または該反応液に適当な後処理を施したものを好ましく用いることができる。あるいは、エマルション重合方法以外の重合方法(例えば、溶液重合、光重合、バルク重合等)を利用してアクリル系ポリマーを合成し、該ポリマーを水に分散させて調製された水分散型アクリル系ポリマーを用いてもよい。
【0053】
水分散型アクリル系ポリマーの調製に当たっては、必要に応じて乳化剤を用いることができる。乳化剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれも使用可能である。通常は、アニオン系またはノニオン系の乳化剤の使用が好ましい。このような乳化剤は、例えば、モノマー原料をエマルション重合させる際や、他の方法で得られたアクリル系ポリマーを水に分散させる際等に好ましく使用することができる。アニオン系乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が例示される。ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が例示される。また、これらのアニオン系またはノニオン系乳化剤にラジカル重合性基(プロぺニル基等)が導入された構造のラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)を用いてもよい。あるいは、かかるラジカル重合性基を有しない乳化剤のみを使用してもよい。
【0054】
このような乳化剤は、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量は、アクリル系ポリマーをエマルジョンの形態に調製することが可能な使用量であればよく、特に制限されない。通常は、アクリル系ポリマー100質量部当たり、固形分基準で例えば0.2〜10質量部(好ましくは0.5〜5質量部)程度の範囲から選択することが適当である。
【0055】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記粘着剤組成物が、水分散型アクリル系ポリマーに加えて、さらに、以下の条件:30℃において液状であり;および、水酸基価が50mgKOH/g以上である;を満たす粘着付与剤(液状粘着付与剤(liquid tackifier))Lを含有する。ここで、30℃において液状であるとは、30℃における粘度が2000Pa・s以下(典型的には10〜2000Pa・s)であることをいう。粘着剤組成物の調製容易性(例えば、水分散型アクリル系ポリマーへの配合しやすさ)の観点からは、30℃における粘度が1700Pa・s以下であることがより好ましい。
【0056】
この粘度の値としては、実質的に不揮発分のみからなる(すなわち、粘度を低下させるために有機溶剤で希釈したり水分散液の形態に調製されたりしていない;典型的には不揮発分含量が95〜100質量%の)粘着付与剤Lについて、市販のB型粘度計を用いて、ローターNo.7、回転数2rpm、液温30℃、測定時間1分の条件で測定される値を採用することができる。
【0057】
また、水酸基価の値としては、JIS−K0070(1992)に規定する電位差滴定法により測定される値を採用することができる。具体的な測定方法は以下に示すとおりである。
[水酸基価の測定方法]
1.試薬
1)アセチル化試薬としては、無水酢酸約12.5g(約11.8ml)を取り、これにピリジンを加えて全量を50mlにし、充分に攪拌したものを使用する。または、無水酢酸約25g(約23.5ml)を取り、これにピリジンを加えて全量を100mLにし、充分に攪拌したものを使用する。
2)測定試薬としては、0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液を使用する。
3)その他、トルエン、ピリジン、エタノールおよび蒸留水を準備する。
2.操作
1)平底フラスコに試料約2gを精秤採取し、アセチル化試薬5mlおよびピリジン10mlを加え、空気冷却管を装着する。
2)上記フラスコを100℃の浴中で70分間加熱した後、放冷し、冷却管の上部から溶剤としてトルエン35mlを加えて攪拌した後、蒸留水1mlを加えて攪拌することにより無水酢酸を分解する。分解を完全にするため再度浴中で10分間加熱し、放冷する。
3)エタノール5mlで冷却管を洗い、取り外す。次いで、溶剤としてピリジン50mlを加えて攪拌する。
4)0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液を、ホールピペットを用いて25mL加える。
5)0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液で電位差滴定を行う。得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。
6)空試験は、試料を入れないで上記1)〜5)を行う。
3.計算
以下の式により水酸基価を算出する。
水酸基価(mgKOH/g)=[(B−C)×f×28.05]/S+D
ここで、
B: 空試験に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、
C: 試料に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、
f: 0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、
S: 試料の質量(g)、
D: 酸価、
28.05: 水酸化カリウムの分子量56.11の1/2、
である。
【0058】
上記酸価の値としては、JIS−K0070(1992)に規定する電位差滴定法により測定される値を採用する。具体的な測定方法は以下に示すとおりである。
[酸価の測定方法]
1.試薬
1)溶剤としては、ジエチルエーテルとエタノールとを4:1の体積比で混合攪拌したものを使用する。
2)測定試薬としては、0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液を使用する。
3)指示薬としては、フェノールフタレイン溶液を使用する。
2.操作
1)溶剤にフェノールフタレイン溶液を数滴加え、0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液で中和する。
2)ビーカーに試料約5gを精秤採取し、上記1)で中和した溶剤50mlを加え、パネルヒーター(80℃)上で完全に攪拌溶解させる。
3)0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液で電位差滴定を行う。得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。
3.計算
以下の式により酸価を算出する。
酸価(mgKOH/g)=(B×f×5.611)/S
ここで、
B: 試料に用いた0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、
f: 0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、
S: 試料の質量(g)、
D: 酸価、
5.611: 水酸化カリウムの分子量56.11の1/10、
である。
【0059】
かかる条件を満たす粘着付与剤Lを配合することにより、他の粘着特性とのバランスを大きく損なうことなく、弾性発泡体(例えば軟質ウレタンフォーム)に対する軽圧着粘着性を顕著に向上させることができる。より高い軽圧着粘着性を実現するためには、水酸基価65mgKOH/g以上の粘着付与剤Lを用いることが好ましい。水酸基価100mgKOH/g以上(さらには150mgKOH/g以上、例えば200mgKOH/g以上)の粘着付与剤Lを用いてもよい。一般に、粘着付与剤の水酸基価が高くなると、該粘着付与剤の30℃における粘度は上昇する傾向にある。ここに開示される技術においては、30℃における粘度が2000Pa・s以下(より好ましくは1700Pa・s以下)となる範囲で、なるべく水酸基の高い粘着付与剤Lを用いることにより、軽圧着粘着性を向上させる効果がよりよく発揮され得る。水酸基価の上限は特に制限されないが、上記粘度との兼ね合いから、通常は、500mgKOH/g以下(例えば300mgKOH/g以下)のものを好ましく使用し得る。
【0060】
粘着付与剤Lは、かかる粘度および水酸基価の条件に合致する種々の材料を、単独で、または二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。例えば、ロジン系、テルペン系、炭化水素系、エラストマー系等の材料を粘着付与剤Lとして使用し得る。ロジン系の粘着付与剤としては、ロジンエステル(例えば、未変性ロジンのエステル化物;水添ロジン、不均化ロジン等の変性ロジンのエステル化物)等が例示される。テルペン系の粘着付与剤としては、テルペン樹脂、該テルペン樹脂をフェノール変性したテルペンフェノール樹脂等が例示される。炭化水素系の粘着付与剤としては、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂(キシレン樹脂等)、水素添加炭化水素樹脂、クマロン系樹脂、クマロンインデン系樹脂等が例示される。エラストマー系の粘着付与剤としては、アクリルオリゴマー、ウレタンオリゴマー等が例示される。特に限定するものではないが、粘着付与剤Lの分子量は10,000以下であることが好ましく、通常は5,000以下(例えば3,000以下、さらには500以下)のものが好ましい。
【0061】
ここに開示される技術にとり好ましい粘着付与剤Lの例として、ロジンエステル、テルペンフェノール樹脂、およびアクリルオリゴマーが挙げられる。なかでもロジンエステルおよびテルペンフェノール樹脂が好ましい。特に好ましい粘着付与剤Lとして、水酸基価150mgKOH/g以上(典型的には150〜300mgKOH/g)のテルペンフェノール樹脂が挙げられる。
【0062】
粘着付与剤Lの使用量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して例えば5質量部以上とすることができ、通常は10質量部以上(例えば15質量部以上)とすることにより良好な効果が得られる。他の粘着特性(例えば、耐反撥性および保持力の一方または両方)とのバランスの観点からは、粘着付与剤Lの使用量を60質量部以下とすることが適当であり、通常は50質量部以下(例えば45質量部以下)とすることが好ましい。
【0063】
水性溶媒とアクリル系ポリマーと粘着付与剤Lとを含む粘着剤組成物(分散液)を調製する方法としては、水分散型アクリル系ポリマーに粘着付与剤Lを添加して混合する方法を好ましく採用することができる。ここに開示される技術の好ましい一態様において、粘着付与剤Lは、意図的に有機溶媒で希釈したり、あらかじめ水分散液(エマルション)化したりすることなく、実質的に不揮発分のみからなる形態で添加することができる。このことによって、粘着剤組成物(ひいては粘着シート)の生産性が向上する、環境負荷が軽減される、より粘着性能のよい粘着シートが形成される、のうち少なくとも一つの効果が実現され得る。水分散型アクリル系ポリマーに粘着付与剤Lを添加する際には、該粘着付与剤Lを温めてから加えることが好ましい。この加温の程度は、通常は30℃以上とすることが好ましく、より好ましくは35℃以上である。このことによって、水分散型アクリル系ポリマーと粘着付与剤Lとを、より容易かつ適切に混合することができる。製造操作の容易性(例えば取扱性)等の観点から、通常は、粘着付与剤Lの温度を60℃以下とすることが適当であり、50℃以下とすることが好ましい。
【0064】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記粘着剤組成物が、上記粘着付与剤Lに加えて、軟化点が60℃以上(したがって30℃では固体状)の粘着付与樹脂Hをさらに含有する。かかる粘着付与樹脂Hとしては、ロジン系、テルペン系、炭化水素系、エポキシ系、ポリアミド系、フェノール系、ケトン系等の、アクリル系粘着剤の分野において一般的な各種の粘着付与樹脂を用いることができる。ロジン系粘着付与樹脂としては、未変性ロジン、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)、それらのエステル化物(ロジンエステル)、不飽和脂肪酸変性物等が挙げられる。これらのうち、軟化点が80℃以上(より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上、特に好ましくは135℃以上)のものを、粘着付与樹脂Hとして好ましく採用し得る。かかる粘着付与樹脂Hによると、より高性能な(耐反撥性および保持力の少なくとも一方がより改善された)粘着シートが実現され得る。粘着付与樹脂Hの軟化点の上限は特に制限されず、例えば凡そ170℃以下とすることができる。このような粘着付与樹脂Hは、単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。好ましい一態様では、上記粘着付与樹脂Hとしてロジン系の粘着付与樹脂を使用する。粘着付与剤Lとしてのロジンエステル、テルペンフェノール樹脂またはアクリル系オリゴマーと、軟化点135℃以上のロジン系粘着付与樹脂(例えば、重合ロジンエステル)Hとを組み合わせることにより、特に良好な結果が実現され得る。
【0065】
なお、ここでいう粘着付与樹脂Hの軟化点は、JIS K 5902およびJIS K 2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定された値として定義される。具体的には、試料をできるだけ低温ですみやかに融解し、これを平らな金属板の上に置いた環の中に、泡ができないように注意して満たす。冷えたのち、少し加熱した小刀で環の上端を含む平面から盛り上がった部分を切り去る。つぎに、径85mm以上、高さ127mm以上のガラス容器(加熱浴)の中に支持器(環台)を入れ、グリセリンを深さ90mm以上となるまで注ぐ。つぎに、鋼球(径9.5mm、重量3.5g)と、試料を満たした環とを互いに接触しないようにしてグリセリン中に浸し、グリセリンの温度を20℃プラスマイナス5℃に15分間保つ。つぎに、環中の試料の表面の中央に鋼球をのせ、これを支持器の上の定位置に置く。つぎに、環の上端からグリセリン面までの距離を50mmに保ち、温度計を置き、温度計の水銀球の中心の位置を環の中心と同じ高さとし、容器を加熱する。加熱に用いるブンゼンバーナーの炎は、容器の底の中心と縁との中間にあたるようにし、加熱を均等にする。なお、加熱が始まってから40℃に達したのちの浴温の上昇する割合は、毎分5.0プラスマイナス0.5℃でなければならない。試料がしだいに軟化して環から流れ落ち、ついに底板に接触したときの温度を読み、これを軟化点とする。軟化点の測定は、同時に2個以上行い、その平均値を採用する。
【0066】
粘着付与樹脂Hの使用量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して例えば5質量部以上とすることができ、通常は10質量部以上(例えば15質量部以上)とすることにより良好な効果が得られる。他の粘着特性(例えば軽圧着粘着性)とのバランスの観点からは、粘着付与樹脂の使用量を50質量部以下とすることが適当であり、通常は40質量部以下(例えば30質量部以下)とすることが好ましい。粘着付与樹脂Hは、該樹脂が水に分散した水性エマルションの形態で好ましく使用され得る。例えば、アクリル系ポリマーの水分散液と粘着付与樹脂Hの水性エマルションとを混合することにより、これらを所望の割合で含有する粘着剤組成物を容易に調製することができる。
【0067】
ここに開示される技術において、粘着付与剤Lと粘着付与樹脂Hとを併用する場合、それらの合計使用量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して、例えば10〜100質量部とすることができ、通常は20〜75質量部(例えば30〜70質量部)とすることが適当である。粘着付与剤Lと粘着付与樹脂Hとの使用量比(L:H)は、質量基準で、例えば10:1〜1:3とすることができ、通常は5:1〜1:2(例えば3:1〜1:1)とすることが好ましい。
【0068】
上記粘着剤組成物は、上記水分散型アクリル系ポリマーに、必要に応じて、一般的な架橋剤、例えばカルボジイミド系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、シランカップリング剤等から選択される架橋剤が添加されたもの(後添加、すなわちアクリル系ポリマーの合成後に該架橋剤が添加されたもの)であってもよい。かかる架橋剤は、単独でまたは二種以上を組み合わせて使用し得る。あるいは、このような架橋剤の後添加が実質的に行われていない粘着剤組成物であってもよい。例えば、アクリル系ポリマーにアルコキシシリル基含有モノマーが共重合されている場合において、後添加の架橋剤を実質的に使用しない構成を好ましく採用し得る。
【0069】
上記粘着剤組成物は、必要に応じて、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有するものであり得る。該組成物に含有され得る他の任意成分としては、粘度調整剤、レベリング剤、可塑剤、充填剤、顔料、染料等の着色剤、安定剤、防腐剤、老化防止剤等の、水性粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤が例示される。このような各種添加剤については、従来公知のものを常法により使用することができ、特に本発明を特徴づけるものではないので、詳細な説明は省略する。
【0070】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0071】
<例1>
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器にイオン交換水40部を入れ、窒素ガスを導入しながら60℃にて1時間以上攪拌した。次いで、この反応容器に2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(重合開始剤)0.1部を投入し、系を60℃に保ちつつ、ここにモノマーエマルションを3時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマーエマルションとしては、2EHA70部、アクリル酸メチル30部、AA1.5部、MAA2.5部、n−ラウリルメルカプタン(連鎖移動剤)0.033部、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社の商品名「KBM−503」)0.02部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2部を、イオン交換水30部に添加して乳化したものを使用した。モノマーエマルションの滴下終了後、さらに3時間60℃に保持し、次いで35%過酸化水素水0.2部およびアスコルビン酸0.6部を添加した。系を常温まで冷却した後、10%アンモニウム水の添加によりpH7に調整した。このようにして、アクリル系ポリマーエマルションを得た。
【0072】
上記アクリル系ポリマーエマルションに対し、該エマルションに含まれるアクリル系ポリマー100部当たり、粘着付与樹脂として軟化点160℃の重合ロジンエステルの水性エマルション(荒川化学工業株式会社の商品名「E−865NT」)を固形分基準で20部添加して混合した。さらに、pH調整剤としての10%アンモニウム水および増粘剤としてのポリアクリル酸(東亞合成株式会社の商品名「アロンB−500」)を適宜使用して粘着剤組成物A0を調製した。この粘着剤組成物A0に、液状粘着付与剤として水酸基価96mgKOH/gのロジンエステル(荒川化学工業の商品名「KE−364E」)を固形分基準で40部添加し、粘度調整用のイオン交換水を適宜使用して、pHを7.2、粘度を10Pa・sに調整した。このとき、上記粘着剤組成物A0および上記液状ロジンエステルは、あらかじめ両者を40℃に加温したうえで混合した。このようにして本例に係る粘着剤組成物A1を得た。なお、上記粘度は、B型粘度計を使用して、ローターNo.5、回転数20rpm、液温30℃、測定時間1分の条件で測定した。
【0073】
上記粘着剤組成物A1を、シリコーン系剥離剤による剥離処理層を有する剥離ライナー(王子特殊紙株式会社の商品名「75EPS(M)クリーム(改)」)に塗布し、100℃で2分乾燥して、厚み約60μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層付き剥離ライナーを2枚用意し、それらの粘着剤層を不織布基材(大福製紙株式会社の商品名「SP原紙−14」)の両面にそれぞれ貼り合わせて粘着シートを作製した。この粘着シートの両粘着面は、該粘着シートの作製に使用した剥離ライナーによってそのまま保護されている。
【0074】
<例2>
本例では、例1で用いたKE−364Eに代えて、液状粘着付与剤として水酸基価116mgKOH/gのロジンエステル(荒川化学工業株式会社の商品名「KE−364C」)40部を使用し、これをKE−364Eと同様に40℃に加温して添加した。その他の点については例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0075】
<例3>
本例では、例1で用いたKE−364Eに代えて、液状粘着付与剤として水酸基価155mgKOH/gのテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社の商品名「YP−90LL」)20部を40℃に加温して添加した。その他の点については例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0076】
<例4>
本例では、例1で用いたKE−364Eに代えて、液状粘着付与剤として水酸基価126mgKOH/gのアクリルオリゴマー(東亞合成株式会社の商品名「UH2041」)20部を40℃に加温して添加した。その他の点については例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0077】
<例5>
本例では、KE−364Eを使用しない点以外は例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0078】
<例6>
本例では、例1で用いたKE−364Eに代えて、液状粘着付与剤として水酸基価10mgKOH/gの水添ロジンメチルエステル(丸善油化商事株式会社の商品名「M−HDR」)40部を40℃に加温して添加した。その他の点については例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0079】
<例7>
本例では、例1で用いたKE−364Eに代えて、液状粘着付与剤として水酸基価25mgKOH/gのテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社の商品名「YSポリスターT30」)40部を40℃に加温して添加した。その他の点については例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0080】
<例8>
本例では、例1で用いたKE−364Eに代えて、液状粘着付与剤として水酸基価25mgKOH/gのキシレン樹脂(フドー株式会社の商品名「ニカノールH80」)40部を40℃に加温して添加した。その他の点については例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0081】
<例9>
本例では、例1で用いたKE−364Eに代えて、液状粘着付与剤として水酸基価20mgKOH/gのアクリルオリゴマー(東亞合成株式会社の商品名「UH2000」)20部を40℃に加温して添加した。その他の点については例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0082】
<例10>
本例では、例1で用いたKE−364Eに代えて、液状粘着付与剤として水酸基価が実質的に0mgKOH/gのアクリルオリゴマー(東亞合成株式会社の商品名「UH2000」)20部を40℃に加温して添加した。その他の点については例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0083】
<例11>
本例では、例1で用いたKE−364EおよびE−865NTに代えて、軟化点125℃、水酸基価200mgKOH/gのテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社の商品名「マイティエースK125」)20部を、酢酸エチルにて50%に希釈して添加した。その他の点については例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0084】
<例12>
本例では、例1で用いたKE−364EおよびE−865NTに代えて、軟化点125℃、水酸基価140mgKOH/gのテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社の商品名「マイティエースG125」)20部を、酢酸エチルにて50%に希釈して添加した。その他の点については例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0085】
<例13>
本例では、例1で用いたKE−364EおよびE−865NTに代えて、軟化点が120℃であって水酸基価が実質的に0mgKOH/gのロジン樹脂(荒川化学工業株式会社の商品名「スーパーエステルNS−121」)30部を、酢酸エチルにて50%に希釈して添加した。その他の点については例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0086】
以上の各例に係る粘着シートの作製において使用した液状粘着付与剤の物性と添加量を表1に示す。表中、例11〜13については、液状粘着付与剤に代えて使用した粘着付与樹脂につき、その軟化点(性状欄に記載)、水酸基価および添加量を示している。
【0088】
<ウレタンフォームに対する軽圧着粘着力の測定>
被着体として、厚さ10mmの軟質ウレタンフォーム(株式会社イノアックコーポレーションの商品名「ECS」(灰色))を幅30mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを用意した。
図7に示すように、このウレタンフォーム(ECSフォーム)42の幅方向の両側に、それぞれ約0.1mmの間隔を空けて、厚さ5mmのABS製部材(ウレタンフォームが圧縮されたときの厚みを規制するための治具;ここでは厚さ2.5mmのABS板を2枚重ねたものを5mm厚治具として使用した。)44,45を配置した。
【0089】
23℃の環境下において、例1〜13により作製した各粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面に厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを試料片とした。上記試料片の他方の粘着面から剥離ライナーを、該試料片の長手方向の一端から約2/3の位置まで剥がした。
図8に示すように、これにより露出した粘着面40Bを下にして試料片40をウレタンフォーム42上に載置し、その試料片40の長手方向に重さ2kg、直径85mmのローラ46を30cm/分の速度で一往復させて圧着した。このとき、ローラ46は、ウレタンフォーム42を圧縮しつつ、治具44,45の上端に沿って転動した。
【0090】
このようにして、すなわち、幅20mm、長さ約100mmの貼付け面積でウレタンフォームに圧着した試料片を、23℃に30分間保持した後、JIS Z 0237(2004)に準拠し、引張試験機を用いて、23℃、50%RHの測定環境にて引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力を測定した。測定長さは少なくとも10mm以上とした。各例に係る粘着シートからそれぞれ3つの試料片を作製し、それらを用いた3回の測定結果の平均値を算出した。
【0091】
<耐反撥性試験>
23℃の環境下において、各粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面を厚さ10mmの軟質ウレタンフォーム(株式会社イノアックコーポレーションの商品名「ECS」(灰色))上に載置し、上記試料片の長手方向に重さ5kgのローラ(0.05MPa相当)を一往復させて圧着した。これを幅10mm、長さ50mmに裁断して試料片を作製した。
【0092】
図9に示すように、この試料片50の他方の粘着面から剥離ライナーを剥がし、これにより露出した粘着面の長手方向の一端50Aから10mmまでの部分(すなわち、幅10mm、長さ10mmの接着面積)を、厚さ2mmのABS板52の一方の面52Aにおける外縁部に、重さ2kg、直径95mmのローラを約30cm/分の速度で一往復させて圧着した。次いで、
図10に示すように、試料片50の残りの部分をABS板52の端から他方の面52Bに折り返して貼り合わせた。これを23℃、50%RHの環境下に24時間放置し、さらに70℃の環境下に2時間放置した後、試料片50の一端50Aの浮き距離を測定した。各例に係る粘着シートからそれぞれ3つの試料片を作製し、これらの試料片の浮き距離の平均値を算出した。
【0093】
なお、
図10において、符号502は粘着シートを、符号504は該粘着シートの一方の粘着面に圧着されたウレタンフォームを示している。
【0094】
<保持力試験>
23℃の環境下において、各粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面に厚さ25μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅10mmにカットして、各例に係る粘着シートからそれぞれ3つの試料片を作製した。これらの試料片の他方の粘着面から剥離ライナーを剥がし、これにより露出した粘着面を、被着体としてのフェノール樹脂板に、幅10mm、長さ20mmの接着面積にて貼り付けた。これを23℃の環境下に30分間放置した後、フェノール樹脂板を垂下し、試料片の自由端に500gの荷重を付与した。JIS Z 0237(2004)に準じて、該荷重が付与された状態で23℃の環境下に1時間放置した。最初の貼り付け位置からの試料片のズレ距離(mm)を測定した。1時間経過後、3つの試料片のうち一つでも試料片が落下した場合には、保持時間1時間未満と判定した(表2では「落下」と示している。)。それ以外の場合には、3つの試料片につき、それぞれ最初の貼り付け位置からの試料片のズレ距離(mm)を測定し、それらの平均値を算出した。
【0095】
<SUS粘着力の測定>
23℃の環境下において、各粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、露出した粘着面に厚さ25μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを試料片とした。上記試料片の他方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、これにより露出した粘着面を、被着体としてのステンレス(SUS304)板に、2kgのローラを1往復させて圧着した。これを23℃に30分間保持した後、JIS Z 0237(2004)に準拠し、引張試験機を用いて、23℃、50%RHの測定環境にて引張速度300mm/分の条件で180°引き剥がし粘着力を測定した。各例に係る粘着シートから3つの試料片を作製し、これらの試料片を用いた3回の測定結果の平均値を算出した。
【0096】
<PP粘着力の測定>
被着体としてポリプロピレン(PP)板を用いた点以外はSUS粘着力の測定と同様にして、180°引き剥がし粘着力を測定した。各例に係る粘着シートから3つの試料片を作製し、これらの試料片を用いた3回の測定結果の平均値を算出した。
【0097】
得られた結果を表2に示す。表中、耐反撥性試験の結果において「>10mm」とは、試料片50のうちABS板の表面52Aに貼り付けられた部分が該表面からほぼ完全に浮きあがり、ABS板の表面52Bに貼り付けられている部分とのなす角度が90°よりも大きくなった状態に相当する。
【0099】
表2に示されるように、例1〜4に係る粘着シートは、いずれも1.5N/20mmを上回る軽圧着粘着力を示し、耐反撥性にも優れていた。粘着付与材Lとしてロジンエステルまたはテルペンフェノール樹脂を用いた例1〜3は、軽圧着粘着力およびSUS,PP粘着力が特に良好であった。なかでも、水酸基価100mgKOH/g以上(より具体的には150mgKOH/g以上)の液状テルペンフェノール樹脂を用いた例3によると、軽圧着粘着力と保持力とをより高いレベルで両立させることができた。
【0100】
これに対して、例1〜4から粘着付与材Lを除いた例5では、例1〜4に比べて軽圧着粘着力が著しく低下し、耐反撥性も低下した。水酸基価が50mgKOH/gに満たない液状粘着付与剤を用いた例6〜10では、いずれも、例1〜4に比べて1/2〜1/3程度の軽圧着粘着力しか得られなかった。また、固形の粘着付与樹脂を用いた例11,12では、これらの粘着付与樹脂は例3,4と同等またはそれ以上の水酸基価を有するにもかかわらず、水酸基価がほぼ0mgKOH/gの粘着付与樹脂を用いた例13と同程度の低い軽圧着粘着力しか得られず、耐反撥性も不良であった。