特許第5757624号(P5757624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人国立高等専門学校機構の特許一覧

<>
  • 特許5757624-抗アレルギー因子のスクリーニング方法 図000002
  • 特許5757624-抗アレルギー因子のスクリーニング方法 図000003
  • 特許5757624-抗アレルギー因子のスクリーニング方法 図000004
  • 特許5757624-抗アレルギー因子のスクリーニング方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5757624
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】抗アレルギー因子のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20150709BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-260592(P2011-260592)
(22)【出願日】2011年11月29日
(65)【公開番号】特開2012-233873(P2012-233873A)
(43)【公開日】2012年11月29日
【審査請求日】2014年3月18日
(31)【優先権主張番号】特願2011-96513(P2011-96513)
(32)【優先日】2011年4月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100116573
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 幸司
(72)【発明者】
【氏名】川原 浩治
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐一
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−177126(JP,A)
【文献】 特表2007−501203(JP,A)
【文献】 特開2009−014524(JP,A)
【文献】 特開2012−229164(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/144501(WO,A1)
【文献】 岩元 彬, 他.,A01p In vitroアレルギーモデルにおけるイチゴ抽出物の抗アレルギー作用,日本農芸化学会・中四国・西日本支部 日本食品栄養・食糧学会九州・沖縄支部 日本食品科学工学会西日本支,日本,2009年10月30日,p.59
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内の抗体生産細胞が生産するIgE抗体の生産を抑制する物質をスクリーニングする抗アレルギー因子のスクリーニング方法であって、
細胞株に発現するNOVタンパク質との結合親和性を用いて、前記IgE抗体の生産を抑制することによる抗アレルギー効果を発揮する被検物質をスクリーニングする判定ステップを含む抗アレルギー因子のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記判定ステップにおいて、前記NOVタンパク質との結合親和性が、前記NOVタンパク質と抗アレルギー物質でないものとの結合親和性よりも高い被検物質をスクリーニングする、請求項1記載の抗アレルギー因子のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー因子のスクリーニング方法に関し、特に生体内の抗体生産細胞が生産するIgE抗体の生産を抑制する物質をスクリーニングする抗アレルギー因子のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市型疾患である花粉症やハウスダストによるアレルギー患者数は急速に増大している。特に花粉症は全国民の15〜20%が患者であるとされている。さらに将来的に、この数字は増えるとも言われており、深刻化している状況である。一方で、花粉症の症状は、鼻水や咳、目の痒みなど生活上に多大な影響を与える疾患であるにも関わらず、致命的ではないため、多くは本人の忍耐に依存し、また、病院でも様々な治療法が試されているものの、決め手となる治療法はなく、症状が激しい場合にステロイド系の抗炎症剤による緩和治療を行っている現状である。
【0003】
この強い炎症抑制作用をもつステロイド系の抗炎症剤は、ステロイドが生体内のホルモンの一部であるため体内では炎症抑制作用だけでなくホルモンとしての生理作用を有しているため、強い副作用も指摘されている。そのため、医師の厳密な管理の下で使用することが重要であり、また、患者はそうした副作用の影響を懸念する意見も多い。なお、機能性食品は医薬のように疾病治癒を目指すものではないが、日常の食生活に取り入れることで、手軽に疾病予防や疾病の症状緩和をもたらすため、患者の生活の質を改善することが可能になる手段として大きな期待が寄せられている。
【0004】
ところで、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は医学的にはI型アレルギー又は即時型アレルギーと呼ばれており、多くの研究者が発症メカニズムを研究している。今までに解明された知見によれば、以下のことが分かっている。まず、呼吸によって吸入されたアレルゲンである花粉は、体内の免疫反応としてIgE型の抗体と結合する。さらに、花粉とIgE抗体の結合物がマスト細胞(肥満細胞)と結合する。このことにより、このマスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンという化学物質が放出され、これらの物質が鼻や目、気道の炎症を発生させる。つまり、花粉の体内侵入に対して、IgE型の抗体がアレルギーの引き金物質となっている。したがって、IgE型抗体の生体内における減少がアレルギー症状の抑制方法のひとつとなる。
【0005】
また、本願発明者達は、ヒトのアレルギーの体内動態をモデル化したヒト末梢血リンパ球細胞による培養系を独自に構築し、食品成分中から抗アレルギー効果を示す成分の特定を行ってきた。この技術は、具体的には、アレルギーの引き金マーカー物質であるIgE抗体を生産するヒト血液細胞を培養するアレルギー発症モデル検出系の技術であり、血液細胞の培養液中に被検物質が添加されてIgE抗体生産量の減少が測定されて行われる。このような技術であれば、従来、マウス等の実験動物を大量に用いて検査する手法と異なり、10日前後の培養日数で数百種の検体を同時に検査できるため、極めて効率が高い。さらに、ヒト細胞を用いることから、探索した因子中の効果のある成分が見いだされた場合、生体でも効果を発揮する可能性が高く、探索に必要な時間的な短縮も可能である。また、探索した因子と細胞の相互作用を検討することで、因子の作用メカニズムを細胞レベルで解明できるため、食品機能の科学的な評価が可能であるなどの多くの優れた利点を有する(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Immunol.Methods 233(2000)pp.33−40 発行所Elsevier社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の細胞を用いるアレルギー発症モデル検出系は、生体から分離した免疫に関わる血液細胞を利用することから、検定の都度、健常人のドナー(提供者)から同意を得て血液細胞を提供してもらう必要があった。そのため、結果として検定に使用できる細胞数に限りがあるという問題があった。また、細胞の提供者による個人差が最終的な検定の結果に影響を与え、試験結果として得られたデータの再現が困難であるなどの問題があった。
【0008】
ゆえに、本発明は、利用できる細胞数も簡単に確保でき、かつ、個人差などの影響を受けない被検物質の抗アレルギー効果の再現性も期待できることを可能にする抗アレルギー因子のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者達は、血液由来の初代細胞を用いた抗アレルギースクリーニング系としてのアレルギー発症モデル検出系のメカニズムを詳細に検討し続けてきた。提供された血液細胞により、IgE抗体を生産するBリンパ球や免疫制御作用を有するTリンパ球などの混合細胞培養が実施された。この混合細胞培養において、Bリンパ球のIgE抗体の生産に伴って、Tリンパ球の細胞膜上にNOV遺伝子由来のタンパク質が発現していることが分かった。NOV遺伝子由来タンパク質は、細胞内で細胞活動の情報伝達物質であり、細胞の増殖信号および細胞の接着に関わる信号(シグナル伝達物質)に関与しているとされている。しかしながら、その働きは未だ研究中であり、報告はほとんどない。本願発明者達は、被検物質の抗アレルギー効果(抗アレルギー因子)に伴い、NOV由来タンパク質の発現量が変化することを見いだした。本願発明者達は、アレルギー発症モデル検出系の細胞群に、発症のない細胞群と比較してNOV遺伝子発現が5倍以上増大することを発見した。
【0010】
すなわち、本願発明者達は、Tリンパ球の細胞膜上のNOV由来のタンパク質の発現量が減少すると、それに伴いアレルギーの引き金物質であるIgE抗体の生産量が抑制されたことを見いだした。さらに、本願発明者達は、このNOV由来タンパク質が、抗アレルギー物質を被検物質にすると、被検物質に特異的に結合する性質を有することを併せて見いだした。言い換えれば、IgE抗体の生産量を抑制して、抗アレルギー効果を発揮する因子の探索には、IgE抗体量を調べる方法だけでなく、以下のスクリーニングを行えばよいことが判明した。
【0011】
したがって、本発明の第一の観点は、生体内の抗体生産細胞が生産するIgE抗体の生産を抑制する物質をスクリーニングする抗アレルギー因子のスクリーニング方法であって、細胞株に発現するNOV由来タンパク質との関係により、IgE抗体の生産を抑制することによる抗アレルギー効果を発揮する被検物質をスクリーニングする判定ステップを含むものである。
【0012】
具体的には、IgE抗体の産生を抑制する成分を探索するためのアッセイ方法であって、NOV由来タンパク質をプローブ(探索針)として、このNOV由来タンパク質と結合する被検物質が抗アレルギー物質であることを特徴とするスクリーニング手法である。抗アレルギー物質としてスクリーニングするものとして成功した具体例には、例えばイチゴ由来のグリセロアルデヒド3リン酸脱水素酵素というタンパク質が挙げられる。本願発明者達は、タンパク質性の抗アレルギー物質は検知可能だと判断している。そして、理論的には、NOVタンパク質と結合すればよいので、分子量が100以上あるような物質であれば、基本的にはスクリーニング可能と判断している。なお、本願発明者によって、タンパク質ではないが、現時点では、お茶の抗アレルギー物質と言われているカテキン類も、本スクリーニング系で調べることができることが分かっている。
【0013】
本発明の第二の観点は、抗アレルギー効果のある物質をスクリーニングする具体的な新規方法として、試薬であるNOVタンパク質と直接結合する能力の高い物質が該当物質であるとする方法である。すなわち、判定ステップにおいて、NOV由来タンパク質との結合親和性を比較して、高い被検物質をスクリーニングするものである。発明者らは、細胞株が、ヒトTリンパ球性白血病細胞株であり、NOV由来タンパク質が、遺伝子NOV由来のタンパク質である場合について、実験により具体的に示した。
【0014】
本発明の第三の観点は、もう一つのスクリーニング新規方法として、NOVタンパク質が細胞膜上に発現しているTリンパ球を利用して、このTリンパ球の細胞培養液中に被検物質を添加した際、この細胞膜上のNOVタンパク質発現量が減少すれば、被検物質は抗アレルギー物質であるとする方法である。すなわち、判定ステップにおいて、前記細胞株の培養液中に前記被検物質を添加した場合に、前記細胞株が発現するNOV由来タンパク質の発現量を抑制する被検物質をスクリーニングするものである。発明者らは、細胞株が、ヒトT細胞性白血病細胞株Molt−4である場合について、実験により具体的に示した。Molt−4は無限増殖能を持つ細胞株であるため、継代培養することが可能になり、培養環境を一定に保つことができる。このことから、結果として、利用できる細胞数も簡単に安定して確保でき、かつ、個人差などの影響を受けない被検物質の抗アレルギー効果の再現性も期待できる。
【0015】
本願発明で使用しうる被検物質は、食品素材、食品の組成物、化学物質等である。これらの調製は、水溶性の物質の場合、水や生理食塩水、培養培地などを用いて行われ、非水溶性の場合、エタノールやメタノール、ジメチルスルホキシドなどの溶媒を用いて溶解させて行わればよい。
【発明の効果】
【0016】
本願の発明によれば、今までに無い抗アレルギー因子のスクリーニング方法が得られる。そして、スクリーニングに利用できる細胞数も簡単に確保でき、かつ、個人差などの影響を受けない被検物質の抗アレルギー効果の再現性も期待できることを可能にする抗アレルギー因子のスクリーニング方法が得られる。具体的には、細胞株による再現性の高い抗アレルギー因子の探索が可能になり、さらに、生化学的にNOVタンパク質と被検物質との結合能を調べることにより、極めて迅速且つ簡便に抗アレルギー物質をスクリーニングできることも可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】NOV由来タンパク質発現細胞の発現量とIgE抗体生産抑制効果との相関を示したグラフである。
図2図1に示した場合に用いた被検物質のIgE抗体生産量を示したグラフである。
図3】ヒト培養細胞株を用いて細胞内でのNOV遺伝子の発現比較したグラフである。
図4】NOV由来タンパク質と抗アレルギー因子との結合能の比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、IgE生産抑制効果によって抗アレルギー能を有する物質のアッセイ方法に関する。より具体的には、本発明では、抗体生産細胞のIgE生産量の抑制に連動して作用するNOV由来タンパク質が被検物質と結合するため、その結合能を、例えば生体分子間相互作用装置などで検出する。このことにより、その結合親和性が高い物質をIgE産生抑制物質、ひいては、抗アレルギー物質として評価可能なアッセイ方法が実現できる。これは、NOV由来タンパク質をプローブとして生体分子間相互作用装置であるBIACOREセンサーチップCM5に固定化し、このチップに被検物質を作用させ、その結合を検出することで実現する。ここで、NOV由来タンパク質を細胞膜上に発現するヒトT細胞性白血病細胞株Molt−4がある。このヒトT細胞性白血病細胞株Molt−4の培養は、一般的な動物細胞培養方法で用いる牛胎児血清を増殖因子として10%程度含むRPMI1640培地などの基本合成培地を用いることにより可能である。なお、培養培地はこれに限らず、動物細胞培養培地であれば、市販の無血清培地なども利用できる。
【0019】
このMolt−4細胞の培養では、適切な細胞密度に調製した細胞懸濁液に、被検物質を培養液中に5%以内の終濃度になるよう添加することが行われる。数日間培養後、Molt−4細胞を回収して、細胞膜上のNOVタンパク質に結合する特異抗体を利用して蛍光色素でマーキングし、その蛍光量の増減を数値化して、蛍光量が減少したものを抗アレルギー物質とする。
【0020】
なお、NOVタンパク質と被検試料との結合能の評価は、生体分子間相互作用装置を使用しているが、必ずしもこれに限らない。すなわち、タンパク質同士の結合の評価には、酵素抗体法やウェスタンブロッティング法などの生化学的評価法があり、これを利用することも可能である。
【0021】
以下に本発明の実施例を例示するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
[リンパ球の分離]
ヒト末梢リンパ球を取得するために、健常者の末梢血を密度勾配遠心法により血液分離した。健常人から末梢血をヘパリン入り真空管に採集し、あらかじめ15ml遠心管に分注しておいた4mlの血液分離剤(Ficoll;GE Healthcare)の上に液面を乱さないように5mlの末梢血を重層し、400×g、30minの条件で遠心した。そして、最上層の血漿の層を取得し、−24℃で保存した。次に、血漿層とFicoll層の間にあるリンパ球を回収後、基本合成培地ERDF(Kyokuto Seiyaku)で洗浄し、400×g、5minの条件で遠心、洗浄を3回繰り返した。取得したリンパ球は、−85℃で凍結保存し、解凍後はリンパ球をERDF培地で洗浄して使用した。
【0023】
[生体外アレルギー発症モデル細胞培養系]
5%ウシ胎児血清(FBS;Trace)及び10%ヒト血漿を含むERDF培地中に、生体外に取り出した2.5×106cells/mlのヒト末梢血リンパ球と免疫賦活剤としてムラミルジペプチド(MDP;SIGMA)を10mg/ml、インターロイキン−2、−4、−6(IL−2、−4、−6;R&D)を10ng/ml、さらにスギ花粉抗原(Cryj1;HAYASHIBARA)を100ng/mlの終濃度で加え、生体外アレルギー発症モデル培養系とした。添加した免疫賦活剤の主な働きは、MDPによる抗原への免疫応答を高めるアジュバンド活性、IL−2によるT細胞の増殖・分化の促進、IL−4によるIgEクラススイッチ誘導、IL−6によるB細胞の分化誘導である。これらの免疫賦活剤とCryj1を加えたヒト末梢血リンパ球を96穴プレートに各200ml分注し、37℃の5%COインキュベータにて10日間培養してIgE抗体産生を誘導した。なお、この培養系に含まれるヒト血漿とヒト末梢血リンパ球は同一個体のものを使用した。
【0024】
[NOV由来タンパク質発現細胞とIgE抗体生産抑制効果との相関]
細胞の膜上に存在する分子を蛍光色素で標識することにより、定量的に解析可能なフローサイトメーターを用いて、細胞膜上のNOV由来タンパク質の発現確認を行なった。生体外アレルギー発症モデル細胞培養系でIgE抗体の生産を抑制する効果、すなわち、抗アレルギー効果を有する被検物質を添加して10日間培養した。Goat anti NOV IgG(R&D社,AF1640)とDonkey anti goat Ig’s FITC(Santa Cruz Biotechnology社,SC-3853)を用いてモデル培養系の細胞を蛍光抗体法による標識を行った。そして、細胞膜上のNOV分子の相対量を測定した。図1は、NOV由来タンパク質発現細胞の発現量とIgE抗体生産抑制効果との相関を示したグラフである。図1(A)の対照実験と比較して、図1(B)の抗アレルギー物質を添加した方が、グラフのピークが左にずれていることから、発現量が減少していることが分かる。図2は、図1に示した場合に用いた被検物質のIgE抗体生産量を示したグラフである。図2に示されているように、抗アレルギー効果を有する被検物質の入った培養系の細胞のみに、NOV由来タンパク質の発現が抑制されたことが示されている。
【実施例2】
【0025】
[NOV由来タンパク質を細胞膜上に発現している細胞の同定]
現在、NOV由来タンパク質を発現している細胞に関する報告がない。したがって、数種のヒト培養細胞株を用いて細胞内でのNOV遺伝子の発現を調べることで、どの細胞に発現しているかを同定した。使用した細胞株はヒトBリンパ球系細胞株SK729-1、ヒトTリンパ球系細胞株MOLT−4、ヒトBリンパ球系細胞株DND39を用いた。これらの細胞からRNAを抽出後、cDNAを合成し、リアルタイムPCRを行った。
【0026】
A)RNAの抽出
ISOGEN(日本ジーン社,311-02501)を用いて培養細胞1×10cellsを破砕し、これに0.2mlのクロロホルム(和光純薬社,038-02606)を加え、15秒間激しく震盪し室温で5分間静置させた後、12K×g、4℃で15分間遠心した。遠心後、水層を回収し、0.5mlのイソプロパノール(和光純薬社,168-21675)を加えて室温で10分間静置した。その後、12K×g、4℃で10分間遠心して上澄み液を取り除き、70%のエタノール(和光純薬社,057-00456)を加えた。続いて、12K×g、4℃で5分間再び遠心し、上澄み液を捨て、5分間風乾した。これにRNA濃度5μg/9μlになるようにddH2Oを加え、RNA試料とした。
【0027】
B)cDNAの合成
単離したRNAからcDNAを合成するために、ThermoScriptTM RT-PCR System(Invitrogen,11146-016)を用いた。Random Hexamer 1μl、RNA9μl、10mM dNTP Mix 2μlをそれぞれ混和し、65℃で5分間インキュベートした。その後、5×cDNA Synthsis Buffer 4μl、0.1M DTT 1μl、RNaseOUTTM(40U/μl)1μl、DEPC-treated water 1μl、ThermoScriptTM RT(15units/μl)1μlをそれぞれに加え、混和した。その後、25℃で10分間、50℃で50分間、85℃で5分間反応させ、cDNAを合成した。その後、RNase H 1μlを加え、37℃で20分間インキュベートし、残存RNAを分解した。
【0028】
C)リアルタイムPCR(NOV)
cDNAを鋳型として、cDNA 1μl、Forward Primer 1μl、Reverse Primer 1μl、iQTMSYBR(登録商標) Green Supermix(BIORAD社,170-8882)12.5μl、DEPC-treated water 9.5μlを混和し、NOV遺伝子のリアルタイムPCRを行なった。また、内部標準としてβ-actinを用いた。この際のPCR条件は、95℃で3分間酵素を活性化し、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒を、40サイクルで実施した。用いたプライマーは下記の配列である。
【0029】
NOV
Forward primer:5’-TGGTCCCTCATAGCCCTCAG-3’(配列番号:1)
Reverse primer:5’-CCCTGCTAATATGCTGTTTCTGC-3’(配列番号:2)
【0030】
β-actin
Forward primer:5’-GACTTCGAGCAAGAGATG-3’(配列番号:3)
Reverse primer:5’-GCCAGACAGCACTGTGTT-3’(配列番号:4)
【0031】
図3は、ヒト培養細胞株を用いて細胞内でのNOV遺伝子の発現比較したグラフである。その結果、図3に示すように、MOLT−4細胞株にNOV遺伝子が多く発現していることが分かった。このことから、NOV由来のタンパク質は、ヒトTリンパ球系細胞株に発現していた。抗アレルギー効果の検出方法であるIgE抗体の生産抑制と本願発明で用いるTリンパ球細胞膜上のNOV由来タンパク質発現量の減少との間には相関関係があり、さらに、無限増殖能を有するMolt−4細胞株を用いて、NOV由来タンパク質発現量を検討することで、新規の抗アレルギー因子探索手法が確立できた。
【実施例3】
【0032】
[NOV由来タンパク質と抗アレルギー因子の結合能の評価]
NOV由来タンパク質と抗アレルギー因子との結合能を評価するため、分子同士の結合を動力学的に測定可能な生体分子間相互作用装置BIACOREを用いて測定した。すなわち、NOV由来タンパク質(R&D社,1640-NV)をBIACOREセンサーチップCM5(BIACORE社,BR-1000-12)に固定化し、抗アレルギー効果が認められる物質と抗アレルギー効果が認められない物質を120秒間流路に流して、NOV由来タンパク質との結合親和性をグラフ化した。図4は、NOV由来タンパク質と抗アレルギー因子との結合能の比較したグラフである。図4に示すように、抗アレルギー因子は、対照実験と比較して高い結合能を示すグラフの変化が記録されている。その結果、NOV由来タンパク質と抗アレルギー物質とは、結合親和性が高く、逆に、抗アレルギー物質でないものは、結合親和性は極めて低いことが分かった。抗アレルギー因子探索に、NOVタンパク質そのものを用いて、被検物質との結合能を測定することで新規に抗アレルギー因子を探索可能であることが分かった。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]