【文献】
豊原敬文 他,CKD患者の尿毒症物質と早期診断マーカーの網羅的解析,日本腎臓学会誌,日本,2010年 5月25日,Vol.52,No.3,Page.340
【文献】
秋山泰利 他,CE−MSを用いた血液透析前後の尿毒症物質除去効率の網羅的解析,日本腎臓学会誌,日本,2010年 5月25日,Vol.52,No.32,Page.378
【文献】
Alberghini A, Recalcati S, Tacchini L, Santambrogio P, Campanella A, Cairo G.,Loss of the von Hippel Lindau tumor suppressor disrupts iron homeostasis in renal carcinoma cells.,J Biol Chem.,2005年,Vol.280,No.34,Page.30120-30128
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】腎疾患患者(慢性腎臓患者)41人の患者背景を示す図である。
【
図2】血漿中において、eGFRと正又は負の相関が見い出されたカチオンを示す図である。左側の表は、スピアマンの相関係数によりeGFRと有意な負の相関が見い出されたカチオンを表し、右側の表は、eGFRと有意な正の相関が見い出されたカチオンを表す。なお、物質名の背景が灰色の物質は、eGFRとの相関が有意であり、かつ、その相関が新規に見い出された物質である。
【
図3】血漿中において、eGFRと正又は負の相関が見い出されたアニオンを示す図である。左側の表は、eGFRと負の相関が見い出されたアニオンを表し、右側の表は、eGFRと正の相関が見い出されたアニオンを表す。なお、物質名の背景が灰色の物質は、eGFRとの相関が新規に見い出された物質である。ところで、eGFRと負の相関がある物質とは、腎機能の改善に伴って、濃度が低下する物質であり、すなわち、腎機能の悪化に伴って、濃度が上昇する物質である。また、eGFRと正の相関がある物質とは、腎機能の改善に伴って、濃度が上昇する物質であり、すなわち、腎機能の悪化に伴って、濃度が低下する物質である。
【
図4】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。
【
図5】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図6】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図7】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。
【
図8】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。
【
図9】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。
【
図10】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。
【
図11】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図12】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。
【
図13】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。
【
図14】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図15】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。
【
図16】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図17】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図18】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図19】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。
【
図20】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。
【
図21】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。
【
図22】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。
【
図23】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図24】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。
【
図25】eGFRと負の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図26】eGFRと正の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、
【
図27】eGFRと正の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図28】eGFRと正の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。
【
図29】eGFRと正の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図30】eGFRと正の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。
【
図31】eGFRと正の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。
【
図32】eGFRと正の相関が見い出されたカチオンについて、そのカチオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。
【
図33】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図34】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図35】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図36】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図37】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図38】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図39】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図40】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図41】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図42】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図43】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図44】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図45】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。
【
図46】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図47】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図48】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図49】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図50】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図51】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図52】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図53】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図54】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図55】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図56】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。
【
図57】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図58】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図59】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図60】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図61】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図62】eGFRと負の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。
【
図63】eGFRと正の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図64】eGFRと正の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図65】eGFRと正の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図66】eGFRと正の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、一次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図67】eGFRと正の相関が見い出されたアニオンについて、そのアニオンの濃度とeGFRとの相関関係を示し、二次式で近似した図である。なお、「*」は、eGFRとの負の相関が新規に発見されたものであることを示す。
【
図68】eGFRとの相関について、本件早期腎疾患マーカー物質と、シスタチンCとを比較した結果を示す図である。
【
図69】eGFRとの相関について、本件早期腎疾患マーカー物質と、1−メチルアデノシンとを比較した結果を示す図である。
【
図70】eGFRとの相関について、本件早期腎疾患マーカー物質と、N−アセチルグルコサミンとを比較した結果を示す図である。
【
図71】eGFRとの相関について、本件早期腎疾患マーカー物質と、γ−ブチロベタインとを比較した結果を示す図である。
【
図72】eGFRとの相関について、本件早期腎疾患マーカー物質と、セバシン酸とを比較した結果を示す図である。
【
図73】eGFRとの相関について、本件早期腎疾患マーカー物質と、シス−アコニット酸とを比較した結果を示す図である。
【
図74】eGFRとの相関について、本件早期腎疾患マーカー物質と、ホモバニリン酸とを比較した結果を示す図である。
【
図75】血漿サンプル中の本件早期腎疾患マーカー物質(γ−ブチロベタイン、N−アセチルグルコサミン)の濃度を、eGFR値に応じたグループ毎に示した図である。
【
図76】血漿サンプル中の本件早期腎疾患マーカー物質(N−アセチルグルコサミン、1−メチルアデノシン)の濃度を、eGFR値に応じたグループ毎に示した図である。
【
図77】血漿サンプル中の本件早期腎疾患マーカー物質(シス−アコニット酸、セバシン酸)の濃度を、eGFR値に応じたグループ毎に示した図である。
【
図78】血漿サンプル中の本件早期腎疾患マーカー物質(ホモバニリン酸)の濃度を、eGFR値に応じたグループ毎に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の腎疾患の判定方法(本発明の第1の発明)
本発明の腎疾患の判定方法としては、被検血液試料中に存在する、以下の腎疾患マーカー物質(以下、「本件腎疾患マーカー物質」とも表示する。)から選ばれる1種又は2種以上の腎疾患マーカー物質を検出又は定量する工程を有する方法であれば特に制限されない。
(eGFRとの負の相関を持つカチオンである腎疾患マーカー物質):N−アセチルグルコサミン(N-acetylglucosamine)、γ−ブチロベタイン(γ-butyrobetaine)、オフタルム酸(ophthalmate)、N−ε−アセチルリジン(N-epsilon-acetyllysine)、シトシン(cytosine)、ヒポタウリン(hypotaurine)、7−メチルグアニン(7-methylguanine)、メチオニンスルホキシド(methionine sulfoxide)、アスパラギン(Asn);
(eGFRとの正の相関を持つカチオンである腎疾患マーカー物質):2−アミノ酪酸(2-aminobutyrate)、グルタミン酸(Glu);
(eGFRとの負の相関を持つアニオンである腎疾患マーカー物質):イセチオン酸(isethionate)、グルコン酸(gluconate)、トランス−アコニット酸(trans-aconitate)、ピメリン酸(pimelate)、イソクエン酸(isocitrate)、N−アセチル−β−アラニン(N-acetyl-beta-alanine)、N−アセチルグルタミン酸(N-acetylglutamate)、セバシン酸(sebacate)、4−オキソペンタン酸(4-oxopentanoate)、シス−アコニット酸(cis-aconitate)、ホモバニリン酸(homovanillate)、アジピン酸(adipate)、シトラマレイン酸(citramalate)、2−イソプロピルマレイン酸(2-isopropylmalate)、トレオン酸(threonate)、N−アセチルアスパラギン酸(N-acetylaspartate)、4−ヒドロキシ−3−メトキシマンデル酸(4-hydroxy-3-methoxymandelate)、オキサミン酸(oxamate)、グルタル酸(glutarate)、アゼテート(azetate)、フタル酸(phthalate)、マロン酸(malonate)、シトラコン酸(citraconate)、キナ酸(quinate)、コハク酸(succinate)、システイン−S−硫酸(cysteine S-sulfate)、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸(4-hydroxy-3-methoxybenzoate);
(eGFRとの正の相関を持つアニオンである腎疾患マーカー物質):4−メチル−2−オキソペンタン酸(4-methyl-2-oxopentanoate)、2−オキソイソペンタン酸(2-oxoisopentanoate)、乳酸(lactate)、オクタン酸(octanoate)、2−オキソグルタル酸(2-oxoglutarate)。なお、本発明の腎疾患の判定方法の精度をより高める観点からは、2種以上の本件腎疾患マーカー物質を併用する方法もある。
【0014】
本発明の腎疾患の判定方法によれば、被検血液試料の提供者が腎疾患であるかどうかや、該提供者の腎疾患の症状の程度を判定することができる。
【0015】
前述の本件腎疾患マーカー物質の中でも、推定糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR)との相関係数がより高い点で、N−アセチルグルコサミン、γ−ブチロベタイン、N−ε−アセチルリジン、シトシン、オキサミン酸;2−アミノ酪酸、グルタミン酸;イセチオン酸、グルコン酸、トランス−アコニット酸、ピメリン酸、イソクエン酸、N−アセチル−β−アラニン、N−アセチルグルタミン酸、セバシン酸、4−オキソペンタン酸、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸、アジピン酸、シトラマレイン酸、2−イソプロピルマレイン酸、トレオン酸、N−アセチルアスパラギン酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシマンデル酸;4−メチル−2−オキソペンタン酸、2−オキソイソペンタン酸;を好適に例示することができる。
【0016】
また、クレアチニンをはじめとする現在使用されている腎不全マーカー物質は、主に糸球体濾過率を指標としたマーカーである点、eGFRを計算しなければならない点など不十分な点が多い。しかし、本件腎疾患マーカー物質の中でも、N−アセチルグルコサミン(
図5)、γ−ブチロベタイン(
図6)、N−ε−アセチルリジン(
図11)、ヒポタウリン(
図14)、7−メチルグアニン(
図16)、メチオニンスルホキシド(
図17)、アスパラギン(
図18)、2−アミノ酪酸(
図27)、グルタミン酸(
図29)、セバシン酸(
図33)、シス−アコニット酸(
図34)、ホモバニリン酸(
図35)、アジピン酸(
図36)、シトラマレイン酸(
図37)、2−イソプロピルマレイン酸(
図38)、N−アセチルアスパラギン酸(
図39)、4−ヒドロキシ−3−メトキシマンデル酸(
図40)、オキサミン酸(
図41)、グルタル酸(
図42)、アゼテート(
図43)、フタル酸(
図44)、マロン酸(
図46)、シトラコン酸(
図47)、キナ酸(
図48)、コハク酸(
図49)、システイン−S−硫酸(
図50)、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸(
図51)、4−メチル−2−オキソペンタン酸(
図63)、2−オキソイソペンタン酸(
図64)、乳酸(
図65)、オクタン酸(
図66)の31種類の腎疾患マーカー物質は、eGFRとの相関式が一次式に近似しており、被験者(被検血液試料の提供者)のeGFRの複雑な計算式を必要とせずに、腎疾患の判定に用いることができるため、より簡便な腎疾患マーカー物質として好適に用いることができる。また、上記の31種類の腎疾患マーカー物質は、早期の腎疾患の判定・検出に好適に用い得ると考えられる。
【0017】
なお、上記の本件腎疾患マーカー物質のうち、腎機能の悪化に伴って濃度が上昇する本件腎疾患マーカー物質(eGFRの低下と共に血液中に有意に蓄積する物質)としては、N−アセチルグルコサミン、γ−ブチロベタイン、オフタルム酸、N−ε−アセチルリジン、シトシン、ヒポタウリン、7−メチルグアニン、メチオニンスルホキシド、アスパラギンからなる陽イオン群や、イセチオン酸、グルコン酸、トランス−アコニット酸、ピメリン酸、イソクエン酸、N−アセチル−β−アラニン、N−アセチルグルタミン酸、セバシン酸、4−オキソペンタン酸、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸、アジピン酸、シトラマレイン酸、2−イソプロピルマレイン酸、トレオン酸、N−アセチルアスパラギン酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシマンデル酸、オキサミン酸、グルタル酸、アゼテート、フタル酸、マロン酸、シトラコン酸、キナ酸、コハク酸、システイン−S−硫酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸からなる陰イオン群を例示することができ、腎機能の悪化に伴って濃度が低下する本件腎疾患マーカー物質(eGFRの低下と共に血液中に有意に減少する物質)としては、2−アミノ酪酸、グルタミン酸からなる陽イオン群や、4−メチル−2−オキソペンタン酸、2−オキソイソペンタン酸、乳酸、オクタン酸、2−オキソグルタル酸からなる陰イオン群を例示することができる。
【0018】
また、本件腎疾患マーカー物質のうち、1−メチルアデノシン、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸は、eGFRが少し低下したグループ(eGFR30−59)においても、健常者における濃度と有意差が見られたため、早期腎疾患の判定・検出や、腎疾患の高感度での判定・検出に特に好適に用いることができ、中でも、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸、中でも特にシス−アコニット酸は、健常者における濃度がかなり低いため、早期腎疾患の判定・検出や、腎疾患の高感度での判定・検出のために、とりわけ優れた腎疾患マーカーとなる。
【0019】
また、上記の被検血液試料としては、被験者(被検血液試料の提供者)の血液に由来する試料である限り特に制限されず、血液試料そのものであってもよいし、その血液試料から得られた血清試料や血漿試料であってもよいが、検出や定量のより高い精度を得る観点から、血漿試料を好適に例示することができる。
【0020】
上記の本件腎疾患マーカー物質の検出又は定量方法としては、本件腎疾患マーカー物質を検出又は定量し得る限り、物理化学的方法であっても生物学的方法であってもよいが、検出感度の点で物理化学的方法を好適に例示することができ、中でも、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)やキャピラリー電気泳動質量分析計(CE−MS)等の質量分析計(MS)を用いた方法をより好適に例示することができ、少量のサンプルから数百種類以上の物質を同時測定できることから、CE−MSを用いた方法を特に好適に例示することができる。
【0021】
本発明の腎疾患の判定方法においては、本件腎疾患マーカー物質の検出結果又は定量結果をコントロールと比較することにより、被検血液試料の提供者が腎疾患であるかどうか、又は、該提供者の腎疾患の症状の程度を評価する工程をさらに有することが好ましい。上記のコントロールとしては、腎疾患非罹患者(好ましくは健常者)の血液試料(より好適には、被検血液試料と同種の血液試料)中の本件マーカー物質の検出結果又は定量結果(好ましくは、後述の「基準値」)を好適に例示することができる。例えば、上記方法にて定量した被検血液試料中の本件腎疾患マーカー物質を濃度換算し、その濃度を、腎疾患非罹患者の血液試料中の本件腎疾患マーカー物質濃度より設定した基準値と比較することによって、被検血液試料の提供者が腎疾患であるかどうかを評価することができる。ここで、「基準値」とは、陽性又は陰性を判定するための値をいう。この基準値は、例えば、腎機能の悪化に伴って濃度が上昇する本件腎疾患マーカー物質の場合は、「腎疾患非罹患者の血液試料中の特定の本件腎疾患マーカー物質の濃度の平均値」+(α×標準偏差(SD)という数式において、αとして、0.5、1、2又は5を用いることによって、設定することができ、腎機能の悪化に伴って濃度が低下する本件腎疾患マーカー物質の場合は、「腎疾患非罹患者の血液試料中の特定の本件腎疾患マーカー物質の濃度の平均値」−(α×標準偏差(SD)という数式において、αとして0.5、1、2又は5を用いることによって、設定することができる。なお、濃度の分布が正規分布である集団では、いずれの数式においても、αとして2を用いることが多い。
【0022】
具体的には、腎疾患非罹患者の集団を対象として、その血液試料中の本件腎疾患マーカー物質を定量して、上記の式により基準値を設定し、その本件腎疾患マーカー物質が腎機能の悪化に伴って濃度が上昇するもの(N−アセチルグルコサミン、γ−ブチロベタイン、オフタルム酸、N−ε−アセチルリジン、シトシン、ヒポタウリン、7−メチルグアニン、メチオニンスルホキシド、アスパラギン、イセチオン酸、グルコン酸、トランス−アコニット酸、ピメリン酸、イソクエン酸、N−アセチル−β−アラニン、N−アセチルグルタミン酸、セバシン酸、4−オキソペンタン酸、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸、アジピン酸、シトラマレイン酸、2−イソプロピルマレイン酸、トレオン酸、N−アセチルアスパラギン酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシマンデル酸、オキサミン酸、グルタル酸、アゼテート、フタル酸、マロン酸、シトラコン酸、キナ酸、コハク酸、システイン−S−硫酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸)である場合は、被検血液試料中のその本件腎疾患マーカー物質の濃度が、コントロール(好ましくは基準値)より高い値を示した場合に、被検血液試料の提供者を陽性(腎疾患に罹患)と評価することができ、また、前述の被検血液試料中のその本件腎疾患マーカー物質の濃度がコントロールよりも高い程度を、該提供者の腎疾患の症状の重さの程度であると評価することができる。
【0023】
一方、用いる本件腎疾患マーカー物質が腎機能の悪化に伴って濃度が低下するもの(2−アミノ酪酸、グルタミン酸、4−メチル−2−オキソペンタン酸、2−オキソイソペンタン酸、乳酸、オクタン酸、2−オキソグルタル酸)である場合は、被検血液試料中のその本件腎疾患マーカー物質の濃度がコントロール(好ましくは基準値)より低い値を示した場合に、被検血液試料の提供者を陽性(腎疾患に罹患)と評価することができ、また、前述の被検血液試料中のその本件腎疾患マーカー物質の濃度がコントロールよりも低い程度を、該提供者の腎疾患の症状の重さの程度であると評価することができる。なお、基準値は、被検血液試料中の本件腎疾患マーカー物質を検出する度に毎回算出する必要はなく、例えば、様々な種類の血液試料についてあらかじめ基準値を測定しておき、血液試料の種類毎に検量線を作成しておけば、被検血液試料と同種の血液試料の基準値を検索するなどしてすぐに用いることができる。なお、本件腎疾患マーカー物質が検出できない場合は濃度0として扱えばよい。
【0024】
また、本件腎疾患マーカー物質は、腎疾患の病態の管理に利用することもできる。腎疾患の病態を管理するには、例えば、上記方法にて定量した被検血液試料中の本件腎疾患マーカー物質を濃度換算し、その濃度からeGFRを評価すること等によって行なうことができる。本明細書において病態の管理とは、病状の重篤度の把握及び予後の観察をいう。
【0025】
本発明の腎疾患の判定方法により判定することができ、又は、病態の管理を行なうことのできる腎疾患としては、慢性腎不全、急性腎不全、糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、腎硬化症、免疫複合体腎症、ループス腎炎、糖尿病性腎症、薬剤性腎障害、高血圧性腎障害、多発性嚢胞腎、IgA腎症などを好適に例示することができ、中でも、慢性腎不全、急性腎不全、糖尿病性腎症などをより好適に例示することができる。
【0026】
本発明の早期腎疾患の判定方法(本発明の第2の発明)
現在一般的に使用されている公知の腎疾患マーカー物質としては、クレアチニンやシスタチンCが挙げられる。これらの公知の腎疾患マーカー物質の尿中の濃度は、GFRの低下と共に徐々に上昇するものの、特に末期の腎疾患では急激に上昇する二次曲線に近い上昇カーブを描く(
図68〜74参照)。また、上記の公知の腎疾患マーカー物質は、早期の腎疾患ではその濃度の上昇が緩やかであることから、早期の腎疾患を検出するには不向きであった。また、上記の公知の腎疾患マーカー物質の濃度からeGFRを算出する際にも複雑な計算式を必要とした。そこで、本発明者らは、eGFRと有意な相関がある64種類の腎疾患マーカー物質に関して、eGFRとの関係をより詳細に検討し、eGFRとの相関が一次式に近似する早期腎疾患マーカー物質を見い出した。
【0027】
本発明の早期腎疾患の判定方法としては、被検血液試料中に存在する、以下の早期腎疾患マーカー物質から選ばれる1種又は2種以上の腎疾患マーカー物質(以下、「本件早期腎疾患マーカー物質」とも表示する。)を検出又は定量する工程を有することを特徴とする判定方法であれば特に制限されない。
(eGFRとの負の相関を持つカチオンである早期腎疾患マーカー物質):1−メチルアデノシン、N−アセチルグルコサミン、γ−ブチロベタイン、3−メチルヒスチジン、ヒドロキシプロリン、トリメチルアミン−N−オキシド、アシンメトリックジメチルアルギニン(ADMA)、N−ε−アセチルリジン、キヌレニン、インドール−3−酢酸、ヒポタウリン、N,N−ジメチルグリシン、7−メチルグアニン、メチオニンスルホキシド、アスパラギン;
(eGFRとの正の相関を持つカチオンである早期腎疾患マーカー物質):バリン、2−アミノ酪酸、グアニド酢酸、グルタミン酸、ロイシン;
(eGFRとの負の相関を持つアニオンである早期腎疾患マーカー物質):セバシン酸、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸、アジピン酸、シトラマレイン酸、2−イソプロピルマレイン酸、N−アセチルアスパラギン酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシマンデル酸、オキサミン酸、グルタル酸、アゼテート、フタル酸、クエン酸、マロン酸、シトラコン酸、キナ酸、コハク酸、システイン−S−硫酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸;
(eGFRとの正の相関を持つアニオンである早期腎疾患マーカー物質):4−メチル−2−オキソペンタン酸、2−オキソイソペンタン酸、乳酸、オクタン酸;
なお、本発明の早期腎疾患の判定方法の精度をより高める観点からは、2種以上の本件早期腎疾患マーカー物質を併用する方法もある。
【0028】
また、本件早期腎疾患マーカー物質のうち、1−メチルアデノシン、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸は、eGFRが少し低下したグループ(eGFR30−59)においても、健常者における濃度と有意差が見られたため、早期腎疾患の判定・検出や、腎疾患の高感度での判定・検出に特に好適に用いることができ、中でも、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸、中でも特にシス−アコニット酸は、健常者における濃度がかなり低いため、早期腎疾患の判定・検出や、腎疾患の高感度での判定・検出のために、とりわけ優れた腎疾患マーカーとなる。
【0029】
本発明の早期腎疾患の判定方法によれば、被検血液試料の提供者が早期腎疾患であるかどうかや、該提供者の早期腎疾患の症状の程度を判定することができる。
【0030】
前述の本件早期腎疾患マーカー物質のうち、1−メチルアデノシン、3−メチルヒスチジン、ヒドロキシプロリン、トリメチルアミン−N−オキシド、アシンメトリックジメチルアルギニン(ADMA)、キヌレニン、インドール−3−酢酸、N,N−ジメチルグリシン、バリン、グアニド酢酸、ロイシン、クエン酸は、腎疾患との関連は知られていたが、eGFRとの相関式が一次式に近似する事、すなわち、早期腎疾患マーカー物質として用い得ることは本発明者らが初めて明らかにしたものである。
【0031】
本発明の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法(本発明の第3の発明)
本発明の腎疾患予防・治療剤のスクリーニング方法としては、腎機能が低下した非ヒト動物に被検物質を投与する工程A;該非ヒト動物から血液試料を採取する工程B;該血液試料中に存在する、腎疾患マーカー物質(N−アセチルグルコサミン、γ−ブチロベタイン、オフタルム酸、N−ε−アセチルリジン、シトシン、ヒポタウリン、7−メチルグアニン、メチオニンスルホキシド、アスパラギン、2−アミノ酪酸、グルタミン酸、イセチオン酸、グルコン酸、トランス−アコニット酸、ピメリン酸、イソクエン酸、N−アセチル−β−アラニン、N−アセチルグルタミン酸、セバシン酸、4−オキソペンタン酸、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸、アジピン酸、シトラマレイン酸、2−イソプロピルマレイン酸、トレオン酸、N−アセチルアスパラギン酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシマンデル酸、オキサミン酸、グルタル酸、アゼテート、フタル酸、マロン酸、シトラコン酸、キナ酸、コハク酸、システイン−S−硫酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸、4−メチル−2−オキソペンタン酸、2−オキソイソペンタン酸、乳酸、オクタン酸、2−オキソグルタル酸)から選ばれる1種又は2種以上の腎疾患マーカー物質を検出又は定量する工程C;血液試料中に存在する腎疾患マーカー物質の検出結果又は定量結果をコントロールと比較することにより、前記非ヒト動物の腎機能を評価する工程D;を有している限り特に制限されないが、前記工程Dとしては、腎機能の悪化に伴って濃度が上昇する本件腎疾患マーカー物質の濃度が、コントロールよりも低い場合、又は、腎機能の悪化に伴って濃度が低下する本件腎疾患マーカー物質の濃度が、コントロールよりも高い場合に、前述の被検物質を腎疾患の予防・治療剤と評価する工程D’を好適に例示することができる。
【0032】
上記非ヒト動物としては、非ヒト哺乳動物を好適に例示することができ、中でも、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等を好適に例示することができる。
【実施例1】
【0033】
[腎疾患患者の背景]
東北大学病院受診中の慢性腎臓病患者41人から、後述のCE−MS解析の対象となる血漿サンプルを採取した。なお、本研究計画は東北大学倫理委員会にて予め承認を受けており、患者個人各々に情報提供した後、患者各々から承認を得て血漿サンプルの採取を行った。これらの患者の背景は、平均年齢が62.9±14.6歳であり、41人中26人が男性、15人が女性であった。これらの患者の推定糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR)を、日本腎臓学会により推奨される推定式を用いて算出したところ、平均で24.4±13.9ml/min/1.73m
2であり、また、全ての患者がCKD(慢性腎不全)の基準である60ml/min/1.73m
2以下に分類されていた。なお、eGFRを算出するための上記推定式は男性の場合は、「eGFR=194×[年齢]
−0.287×[血中クレアチニン(mg/dl)]
−1.094」であり、女性の場合は、「eGFR=194×[年齢]
−0.287×[血中クレアチニン(mg/dl)]
−1.094×[0.739]」である。これらの慢性腎臓患者41人の患者背景を
図1に示す。
【0034】
図1に示されているように、これらの患者の慢性腎臓病の原因(原疾患)としては、アルポート症候群が1人(2.4%)、アレルギー性腎症が1人(2.4%)、ANCA関連腎症が1人(2.4%)、大動脈炎症候群が1人(2.4%)、両側腎梗塞が1人(2.4%)、糖尿病性腎症が8人(19.5%)、巣状糸球体硬化症が3人(7.3%)、糸球体硬化症が4人(9.7%)、水腎症が1人(2.4%)、IgA腎症が9人(21.9%)、リポ蛋白糸球体症が1人(2.4%)、ループス腎症が2人(4.8%)、膜性増殖性糸球体炎が1人(2.4%)、膜性腎症が2人(4.8%)、多発嚢胞腎が1人(2.4%)、原発性腎症が2人(4.8%)、腎結核が1人(2.4%)、サルコイドーシスが1人(2.4%)であった。また、これらの患者の基礎疾患としては、10人が心血管病、12人が糖尿病、40人が高血圧を罹患していた。さらに、これらの患者41人中11人が喫煙者であった。これらの患者が内服している薬剤の種類としては、アロプリノールが12人(29.2%)、アンジオテンシン受容体拮抗薬が30人(73.1%)、AST−120が5人(12.1%)、エリスロポエチンが6人(14.6%)、スタチンが8人(19.5%)であった。
【実施例2】
【0035】
[腎疾患患者の血漿中の物質の解析]
本発明者らは、実施例1で採取した腎疾患患者全員の血漿サンプルについて、CE−MSを用いて網羅的解析を行い、これら血漿サンプルに含まれる物質の分析を行なった。具体的には以下のような方法で行なった。
【0036】
内標準物質を調整したメタノール溶液を、実施例1で得られた各血漿サンプルに添加して撹拌し、さらにクロロホルムを加えて撹拌し、4600gで5分間遠心分離した後、上清を限外ろ過フィルター(分画分子量5000)にとり、4℃、9100gで2時間遠心分離した後、ろ液を遠心濃縮してCE−TOFMSにて測定を行った。その際、312種類の陽イオンと193種類の陰イオンを網羅的に同時測定した。その結果、66種類の陽イオンと50種類の陰イオンが、慢性腎不全患者の血漿中より検出された。検出された物質(以下、「検出物質」と表示する。)の分子量は73.0m/zから460.1m/zの間であった。検出物質のうち、腎不全時に蓄積する物質を検索するために、本発明者らは、検出物質とeGFRの相関を、スピアマン順位相関検定を用いて解析した。検出物質のうち陽イオン(Cation)の結果を
図2に示し、陰イオン(Anion)の結果を
図3に示す。なお、
図2及び
図3はそれぞれ相関係数の高い順に上から表示している。これらの検出物質のうち、相関関係についてのP値が0.05以下であった物質を、eGFRと有意な相関があると見なした。そしてさらに解析を進め、eGFRと有意な相関がある陰イオン、陽イオンの中でも、eGFRの低下とともに有意に蓄積する物質30種類と、eGFR低下とともに有意に減少する物質35種類の合計65種類の物質が同定された。
【0037】
図2に示すように、陽イオンでeGFRの低下とともに有意に蓄積する物質として、クレアチニン(creatinine)、シンメトリックジメチルアルギニン(SDMA)、グアジニノコハク酸(guanidino succinate)、シトルリン(citrulline)、1−メチルアデノシン(1-methyladenosine)、N−アセチルグルコサミン(N-acetylgulusosamine)、γ−ブチロベタイン(γ-butyrobetaine)、オフタルム酸(ophthalmate)、3−メチルヒスチジン(3-methylhistidine)、ヒドロキシプロリン(hydroxyproline)、トリメチルアミン−N−オキシド(trimethylamine N-oxide)、アラントイン(allantoin)、アシンメトリックジメチルアルギニン(ADMA)、N−ε−アセチルリジン(N-epsilon-acetyllysine)、キヌレニン(kynurenine)、シトシン(cytosine)、インドール−3−酢酸(indole-3-acetate)、ヒポタウリン(hypotaurine)、N,N−ジメチルグリシン(n,n-dimethylglycine)、7−メチルグアニン(7-methylguanine)、メチオニンスルホキシド(methionine sulfoxide)、アスパラギン(Asn)が同定された。また、
図2に示すように、陽イオンでeGFRの低下とともに有意に減少する物質として、トリプトファン(Trp)、バリン(Val)、チロシン(Tyr)、2−アミノ酪酸(2-aminobutyrate)、グアニド酢酸(guanidoacetate)、グルタミン酸(Glu)、ロイシン(Leu)が同定された。
【0038】
一方、
図3に示すように、陰イオンでeGFRの低下とともに有意に蓄積する物質として、イセチオン酸(isethionate)、グルコン酸(gluconate)、トランス−アコニット酸(trans-aconitate)、ピメリン酸(pimelate)、3−インドキシル硫酸(3-indoxylsulfate)、イソクエン酸(isocitrate)、N−アセチル−β−アラニン(N-acetyl-beta-alanine)、N−アセチルグルタミン酸(N-acetylglutamate)、セバシン酸(sebacate)、4−オキソペンタン酸(4-oxopentanoate)、シス−アコニット酸(cis-aconitate)、ホモバニリン酸(homovanillate)、アジピン酸(adipate)、シトラマレイン酸(citramalate)、2−イソプロピルマレイン酸(2-isopropylmalate)、トレオン酸(threonate)、馬尿酸(hippurate)、N−アセチルアスパラギン酸(N-acetylaspartate)、4−ヒドロキシ−3−メトキシマンデル酸(4-hydroxy-3-methoxymandelate)、オキサミン酸(oxamate)、グルタル酸(glutarate)、アゼテート(azetate)、フタル酸(phthalate)、クエン酸(citrate)、マロン酸(malonate)、シトラコン酸(citraconate)、キナ酸(quinate)、コハク酸(succinate)、システイン−S−硫酸(cysteine S-sulfate)、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸(4-hydroxy-3-methoxybenzoate)が同定された。
また、
図3に示すように、陰イオンでeGFRの低下とともに有意に減少する物質として、4−メチル−2−オキソペンタン酸(4-methyl-2-oxopentanoate)、2−オキソイソペンタン酸(2-oxoisopentanoate)、乳酸(lactate)、オクタン酸(octanoate)、ピルビン酸(pyruvate)、2−オキソグルタル酸(2-oxoglutarate)が同定された。
【0039】
eGFRと有意な相関が認められたこれらの64種類の物質(陽イオン及び陰イオン)のうち、クレアチニン(creatinine)を始めとするいくつかの物質は、これまでに腎不全との相関が報告されている物質であった。これらの64種類の物質のうち、eGFRとの有意な相関関係が新規に見い出された合計43種類(11種類の陽イオン、32種類の陰イオン)の物質については、
図2又は3において、物質名の背景を灰色とした。例えば、陽イオンでeGFRの低下とともに有意に蓄積する物質の中でも、N−アセチルグルコサミン(N-acetylglucosamine)、γ−ブチロベタイン(γ-butyrobetaine)、オフタルム酸(ophthalmate)、N−ε−アセチルリジン(N-epsilon-acetyllysine)、シトシン(cytosine)、ヒポタウリン(hypotaurine)、7−メチルグアニン(7-methylguanine)、メチオニンスルホキシド(methionine sulfoxide)、アスパラギン(Asn)は、今回の研究で、腎不全との相関が初めて見い出された物質であった。
【0040】
また、陽イオンでeGFRの低下とともに有意に減少する物質の中でも、2−アミノ酪酸(2-aminobutyrate)、グルタミン酸(Glu)は、今回の研究で、腎不全との相関が初めて見い出された物質であった。
【0041】
一方、陰イオンでeGFRの低下とともに有意に蓄積する物質に関しては、その大部分が今回新たに腎不全との相関が発見された物質であった。具体的には、イセチオン酸(isethionate)、グルコン酸(gluconate)、トランス−アコニット酸(trans-aconitate)、ピメリン酸(pimelate)、イソクエン酸(isocitrate)、N−アセチル−β−アラニン(N-acetyl-beta-alanine)、N−アセチルグルタミン酸(N-acetylglutamate)、セバシン酸(sebacate)、4−オキソペンタン酸(4-oxopentanoate)、シス−アコニット酸(cis-aconitate)、ホモバニリン酸(homovanillate)、アジピン酸(adipate)、シトラマレイン酸(citramalate)、2−イソプロピルマレイン酸(2-isopropylmalate)、トレオン酸(threonate)、N−アセチルアスパラギン酸(N-acetylaspartate)、4−ヒドロキシ−3−メトキシマンデル酸(4-hydroxy-3-methoxymandelate)、オキサミン酸(oxamate)、グルタル酸(glutarate)、アゼテート(azetate)、フタル酸(phthalate)、マロン酸(malonate)、シトラコン酸(citraconate)、キナ酸(quinate)、コハク酸(succinate)、システイン−S−硫酸(cysteine S-sulfate)、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸(4-hydroxy-3-methoxybenzoate)が、今回の研究で、腎不全との相関が初めて見い出された物質であった。
【0042】
また、陰イオンでeGFRの低下とともに有意に減少する物質の中では、4−メチル−2−オキソペンタン酸(4-methyl-2-oxopentanoate)、2−オキソイソペンタン酸(2-oxoisopentanoate)、乳酸(lactate)、オクタン酸(octanoate)、2−オキソグルタル酸(2-oxoglutarate)が、今回の研究で、腎不全との相関が初めて見い出された物質であった。
【0043】
以上のように、eGFRの低下と有意に相関のある合計43種類のこれらの物質は、腎疾患マーカー物質として使用し得ることが新たに示された。
【実施例3】
【0044】
[早期腎疾患マーカー物質の検索]
現在一般的に使用されている公知の腎疾患マーカー物質としては、クレアチニンやシスタチンCが挙げられる。これらの公知の腎疾患マーカー物質の尿中の濃度は、GFRの低下と共に徐々に上昇するものの、特に末期の腎疾患では急激に上昇する二次曲線に近い上昇カーブを描く。また、上記の公知の腎疾患マーカー物質は、早期の腎疾患ではその濃度の上昇が緩やかであることから、早期の腎疾患を検出するには不向きであった。また、上記の公知の腎疾患マーカー物質の濃度からeGFRを算出する際にも複雑な計算式を必要とした。そこで、本発明者らは、上記実施例2でeGFRと有意な相関があると認められた64種類の腎疾患マーカー物質に関して、eGFRとの関係をより詳細に検討し、より早期に腎不全等の腎疾患を検出し得る腎疾患マーカー物質や、eGFRをより簡単に算出し得る腎疾患マーカー物質の選抜を試みた。
【0045】
具体的には、実施例2で見い出された64種類の腎疾患マーカー物質のそれぞれについて、横軸をeGFRの値とし、縦軸をその腎疾患マーカー物質の血漿中濃度としたグラフを作成し(
図4〜67)、その腎疾患マーカー物質の血漿中濃度とeGFRとの間のスピアマンの相関係数が高く、かつ、その相関式一次式に近似して増減する物質を選抜した。なお、一次式に近似する変化を示す腎疾患マーカー物質の場合、eGFRとの関係は、その腎疾患マーカー物質の血漿中濃度をIn(Cp)で表した際に、In(Cp)=β1(eGFR)+αと示される。一方、クレアチニンやシスタチンCのように二次式に近似する物質の場合、血漿中濃度はIn(Cp)=β1(eGFR)
2+β2(eGFR)+αとして示される。ここで、(eGFR)
2を独立の変数として扱い、その際の対数尤度比(log likelihood ratio)を計算する事によって、相関式が一次式あるいは二次式のどちらにより近似するかを評価した。この結果、陽イオンでeGFRが低下するとともに体内に有意に蓄積する22種類の物質(
図4〜25)の中でも、1−メチルアデノシン、N−アセチルグルコサミン、γ−ブチロベタイン、3−メチルヒスチジン、ヒドロキシプロリン、トリメチルアミン−N−オキシド、アシンメトリックジメチルアルギニン(ADMA)、N−ε−アセチルリジン、キヌレニン、インドール−3−酢酸、ヒポタウリン、N,N−ジメチルグリシン、7−メチルグアニン、メチオニンスルホキシド、アスパラギンは、eGFRとの相関式が一次式に近似する事が分かった。また、陽イオンでeGFRが低下するとともに有意に減少する7種類の物質(
図26〜32)の中でも、バリン、2−アミノ酪酸、グアニド酢酸、グルタミン酸、ロイシンはeGFRとの相関式が一次式に近似する事が分かった。一方、陰イオンでeGFRが低下するとともに有意に蓄積する30種類の物質(
図33〜62)の中でも、セバシン酸、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸、アジピン酸、シトラマレイン酸、2−イソプロピルマレイン酸、N−アセチルアスパラギン酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシマンデル酸、オキサミン酸、グルタル酸、アゼテート、フタル酸、クエン酸、マロン酸、シトラコン酸、キナ酸、コハク酸、システイン−S−硫酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸は、eGFRとの相関式が一次式に近似する事が分かった。さらに、陰イオンでeGFRが低下するとともに有意に減少する5種類の物質(
図63〜67)のなかでも、4−メチル−2−オキソペンタン酸、2−オキソイソペンタン酸、乳酸、オクタン酸は、eGFRとの相関式が一次式に近似する事が分かった。
【0046】
以上のことから、1−メチルアデノシン、N−アセチルグルコサミン、γ−ブチロベタイン、3−メチルヒスチジン、ヒドロキシプロリン、トリメチルアミン−N−オキシド、アシンメトリックジメチルアルギニン(ADMA)、N−ε−アセチルリジン、キヌレニン、インドール−3−酢酸、ヒポタウリン、N,N−ジメチルグリシン、7−メチルグアニン、メチオニンスルホキシド、アスパラギン、バリン、2−アミノ酪酸、グアニド酢酸、グルタミン酸、ロイシン、セバシン酸、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸、アジピン酸、シトラマレイン酸、2−イソプロピルマレイン酸、N−アセチルアスパラギン酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシマンデル酸、オキサミン酸、グルタル酸、アゼテート、フタル酸、クエン酸、マロン酸、シトラコン酸、キナ酸、コハク酸、システイン−S−硫酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸、4−メチル−2−オキソペンタン酸、2−オキソイソペンタン酸、乳酸、オクタン酸は、eGFRとの相関式が一次式に近似する腎疾患マーカー物質であることが示された。腎疾患マーカー物質の中でも、腎疾患の初期から濃度が変化し、腎疾患が進行するにつれて、一次式に近い形で直線的に濃度が上昇する上記の43種類の腎疾患マーカー物質は、早期腎疾患の判定・検出に好適に用い得る早期腎疾患マーカー物質と考えられる。なお、早期腎疾患マーカー物質のうち、1−メチルアデノシン、3−メチルヒスチジン、ヒドロキシプロリン、トリメチルアミン−N−オキシド、アシンメトリックジメチルアルギニン(ADMA)、キヌレニン、インドール−3−酢酸、N,N−ジメチルグリシン、バリン、グアニド酢酸、ロイシン、クエン酸は、腎疾患との関連は知られていたが、eGFRとの相関式が一次式に近似する事、すなわち、早期腎疾患マーカー物質として用い得ることは本発明者らが初めて明らかにしたものである。また、かかる43種類の早期腎疾患マーカー物質は、被験者(被検血液試料の提供者)のeGFRの複雑な計算式を必要とせずに、腎疾患の判定に用いることができるため、より簡便な腎疾患マーカー物質として好適に用いることができると考えられる。
【実施例4】
【0047】
[シスタチンCとの比較]
現在一般的に使用されている公知の腎疾患マーカー物質のうち、クレアチニンについては既に
図19において、eGFRとの相関式が二次式に近似することを示した。そこで、現在、クレアチニンに代わる腎不全マーカー物質と言われているシスタチンCについても、eGFRとの相関式を調べることとした。具体的には、実施例1で採取した腎疾患患者全員の血漿サンプルについて、実施例2と同様にCE−MSを用いて、これら血漿サンプルに含まれるシスタチンCの分析を行った。次いで、この分析結果を利用して、eGFRとシスタチンCとの相関関係を調べた。その結果を
図68に示す。この結果から分かるように、シスタチンCもまた、eGFRの低下と共に徐々に血中濃度が上昇するものの、特に末期の腎疾患では急激に上昇する二次曲線に近い上昇カーブを描いた。したがって、クレアチニンだけでなく、シスタチンCもまた、本件早期腎疾患マーカー物質のようには、早期腎疾患の判定には不向きであることが示された。なお、参考のため、
図69〜74に、eGFRとの相関について、本件早期腎疾患マーカー物質と、公知の腎疾患マーカー物質(クレアチニン及びシスタチンC)とを比較した図を6つ示す。これらの図に示されるように、本件早期腎疾患マーカー物質は、eGFRの落ち込みに対して、クレアチニンやシスタチンCよりも敏感な濃度変化を示した。以上の結果から、本件早期腎疾患マーカー物質は、従来の腎疾患マーカー物質と比較して、早期腎疾患の判定において、特に優れていることが示された。
【実施例5】
【0048】
[腎疾患患者の血漿中の腎疾患マーカー物質濃度と、健常者の血漿中のかかる濃度との比較]
前述の実施例2や3において、腎疾患患者の血漿中の腎疾患マーカー物質の濃度や、かかる患者のeGFRの解析を行った。この解析結果を、健常者場合と比較するために、健常者の血漿中の腎疾患マーカー物質の濃度を測定することとした。
【0049】
まず、健常者18人から、前述のCE−MS解析の対象となる血漿サンプルを採取した。これらの健常者の背景は、平均年齢が55歳であり、全員が男性であった。これらの健常者のeGFRを、日本腎臓学会により推奨される前述の推定式を用いて算出したところ、全ての健常者が正常の基準である60ml/min/1.73m
2以上に分類されていた。
【0050】
これらの健常者から採取した血漿サンプルについて、前述の実施例2記載の方法と同じ方法でCE−MS解析を行い、γ−ブチロベタイン、N−アセチルグルコサミン、1−メチルアデノシン、シス−アコニット酸、セバシン酸、ホモバニリン酸の計6種類の物質の濃度を測定した。次いで、これらの各物質の濃度の平均値を算出した。また、前述の実施例2で腎疾患患者の血漿サンプル中の濃度を測定した物質のうち、前述の6種類の各物質の濃度について、腎疾患患者のeGFR値に応じた3つのグループ(eGFR30−59、eGFR15−29、eGFR15>)毎に平均値を算出した。前述の6種類の各物質について、健常者のグループ(nomal)、eGFRが30−59の腎疾患患者のグループ(eGFR30−59)、eGFRが15−29の腎疾患患者のグループ(eGFR15−29)、eGFRが15以下の腎疾患患者のグループ(eGFR15>)ごとに表示した結果を
図75〜78に示す。なお、
図75の下段において、健常者のうちの2人のN−アセチルグルコサミン濃度が他の全員の該濃度と極端に離れていたため、この2人のN−アセチルグルコサミン濃度を異常値として除外したものを
図76の上段に示している。また、
図75〜78の左側のパネルは、測定濃度を個別にドットとして表したものであり、右側のパネルは、グループ毎に平均した棒グラフを表したものである。
【0051】
図75〜78の結果から分かるように、6種類の物質のうち、1−メチルアデノシン、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸は、eGFRが低下するにつれて物質濃度が上昇する傾向が見られた上に、eGFRが少し低下したグループ(eGFR30−59)においても、健常者における濃度と有意差が見られ、中でも、シス−アコニット酸、ホモバニリン酸、中でも特にシス−アコニット酸は、健常者における濃度がかなり低いかったため(
図77及び78)、特に優れた腎疾患マーカーとなることが示された。