【文献】
REISS U. et al.,Sphingosine-phosphate lyase enhances stress-induced ceramide generation and apoptosis.,J. Biol. Chem.,2004年,Vol.279 No.2,p.1281-1290,Abstract
【文献】
LE STUNFF H., et al.,Role of sphingosine-1-phosphate phosphatase 1 in epidermal growth factor-induced chemotaxis.,J. Biol. Chem.,2004年,Vol.279 No.33,p.34290-34297
【文献】
KIM D.H. et al.,Elevation of sphingoid base 1-phosphate as a potential contributor to hepatotoxicity in fumonisin B1,Arch. Pharm. Res.,2007年,Vol.30 No.8,p.962-969
【文献】
SERRA M. et al.,Sphingosine 1-phosphate lyase, a key regulator of sphingosine 1-phosphate signaling and function.,Adv. Enzyme Regul.,2009年11月13日,Vol.50 No.1,p.349-362
【文献】
SCHWAB S.R. et al.,Lymphocyte Sequestration Through S1P Lyase Inhibition and Disruption of S1P Gradients.,Science,2005年,Vol.1735 No.5741,p.1735-1739
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スフィンゴシン1−リン酸リアーゼの活性を阻害する化合物を同定、選択または試験する方法であって、(i)スフィンゴシン1−リン酸リアーゼを発現する細胞を播種して培養する工程、(ii)該細胞に、放射能標識された脂質基質および被験化合物を混合して培養する工程、(iii)該細胞を溶解する工程、または該細胞の培養上清を分取する工程、(iv)リン酸化された脂質と結合するが、リン酸化されていない脂質とは結合しない担体材料に(iii)の細胞溶解物、または培養上清を接触させる工程、および(v)該担体に結合している放射能標識されたリン酸化脂質量を測定する工程、(vi)被験化合物を含まない場合と比較してリン酸化された脂質量が増加していることを指標としてスフィンゴシン1−リン酸リアーゼの活性が阻害されていると判断する工程、を含み、前記担体がシンチレーション近接アッセイ(SPA)ビーズであることを特徴とする方法。
炎症性腸疾患、自己免疫疾患、多発性硬化症もしくはアレルギー性疾患を予防または治療するための化合物を同定、選択または試験するための請求項1乃至11のいずれか一つに記載の方法。
自己免疫疾患が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、全身性皮膚硬化症、シェーグレン症候群、結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発動脈炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎、ウェゲナー肉芽腫症または混合性結合組織病である、請求項12に記載の方法。
アレルギー性疾患が、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎、気管支喘息、小児喘息、食物アレルギー、薬物アレルギーまたは蕁麻疹である、請求項12に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、直接または間接的なSPL阻害作用によってS1Pまたはジヒドロスフィンゴシン1−リン酸(以下、dhS1P)量を増加させる化合物を迅速、簡便、そして高感度に見出すことを目的とする、培養細胞を用いたスクリーニング法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、被験化合物の細胞内S1P量増加作用を、トリチウム(
3H)などのラジオアイソトープ標識S1PまたはdhS1Pを用いて、シンチレーション近接アッセイ(scintillation proximity assay; SPA)で迅速、簡便に測定する方法、およびアッセイ時に使用する培地中のビタミンB
6類濃度を調節することによって被験化合物のSPL阻害作用の検出感度を大幅に向上させられることを見出し、本発明を完成させた。なお、上記のSPAを応用したスフィンゴシンキナーゼ阻害剤の無細胞系でのアッセイ方法が知られている(国際公開パンフレットWO02/027318)が、本発明で示される培養細胞に化合物を作用させてのS1P量を測定するものではなく、被験化合物のSPL阻害作用の検出感度の向上を示すものでもない。また、in vivoにおけるTHIの効果がビタミンB
6類の投与によって解除されることが知られていた(Science. 2005;309(5741):1735−1739.)が、in vitroにおいてビタミンB
6類の除去によってTHI等のSPL阻害作用の検出感度が向上可能であることは確認されておらず、本発明に記載のアッセイ法を使用することによって初めて達成された。
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1) スフィンゴシン1−リン酸リアーゼの活性を阻害する化合物を同定、選択または試験する方法であって、(i)スフィンゴシン1−リン酸リアーゼを発現する細胞を播種して培養する工程、(ii)該細胞に、標識された脂質基質および被験化合物を混合して培養する工程、(iii)該細胞を溶解する工程、または該細胞の培養上清を分取する工程、(iv)リン酸化された脂質と結合するが、リン酸化されていない脂質とは結合しない担体材料に(iii)の細胞溶解物、または培養上清を接触させる工程、および(v)該担体に結合しているリン酸化されている脂質量を測定する工程、(vi)被験化合物を含まない場合と比較してリン酸化された脂質量が増加していることを指標としてスフィンゴシン1−リン酸リアーゼの活性が阻害されていると判断する工程、を含む方法。
(2) 脂質基質がスフィンゴシンまたはジヒドロスフィンゴシンであることを特徴とする(1)に記載の方法。
(3) 工程(i)および/または(ii)において、ビタミンB
6類の濃度が通常の培地よりも低い培地を用いて細胞を培養することを特徴とする、(1)または(2)に記載の方法。
(4) ビタミンB
6類の濃度が20μM以下であることを特徴とする、(3)に記載の方法。
(5) ビタミンB
6類の濃度が1μM以下であることを特徴とする、(3)に記載の方法。
(6) ビタミンB
6類の濃度が100nM以下であることを特徴とする、(3)に記載の方法。
(7) 被験化合物の添加の前に細胞がビタミンB
6類を含まない培地で洗浄されており、工程(ii)において培地がビタミンB
6類を実質的に含まないことを特徴とする、(3)に記載の方法。
(8) 担体がSPAビーズであることを特徴とする、(1)乃至(7)のいずれか一つに記載の方法。
(9) SPAビーズが、RNA結合ケイ酸イットリウムSPAビーズであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
(10) 工程(i)および/または(ii)において、セラミドシンターゼ阻害剤が添加されることを特徴とする、(1)乃至(9)のいずれか一つに記載の方法。
(11) セラミドシンターゼ阻害剤がフモニシンB1であることを特徴とする、(10)に記載の方法。
(12) 炎症性腸疾患、自己免疫疾患、多発性硬化症もしくはアレルギー性疾患を予防または治療するための化合物を同定、選択または試験するための(1)乃至(11)のいずれか一つに記載の方法。
(13) 炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎またはクローン病である、(12)に記載の方法。
(14) 自己免疫疾患が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、全身性皮膚硬化症、シェーグレン症候群、結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発動脈炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎、ウェゲナー肉芽腫症または混合性結合組織病である、(12)に記載の方法。
(15) アレルギー性疾患が、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎、気管支喘息、小児喘息、食物アレルギー、薬物アレルギーまたは蕁麻疹である、(12)に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスクリーニング法によって、SPL阻害作用によってS1PまたはdhS1P量を増加させる化合物を迅速、簡便、そして高感度に見出すことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.新規SPL活性測定系の構築
新たに構築したスクリーニング法の原理を
図1に示す。なお、本明細書中におけるスクリーニング法とは、スフィンゴシン1−リン酸リアーゼの活性を阻害する化合物を同定、選択または試験する方法を意味する。培養細胞に標識された脂質基質、例えば
3H標識スフィンゴシン(
3H−Sph)または
3H標識ジヒドロスフィンゴシン(
3H−dhSph)を添加して細胞内に取り込ませた後、内在的に発現している、または強制発現させたスフィンゴシンキナーゼ(SPHKs)によって、リン酸化された脂質、例えば
3H標識S1P(
3H−S1P)または
3H標識dhS1P(
3H−dhS1P)に変換させる。これらのリン酸化脂質は、速やかにSPLによる非可逆的切断またはS1Pホスファターゼ(SPPs)による脱リン酸化を受けるが、このときSPL活性を阻害することによって分解速度を遅らせ、これらを細胞内に蓄積させる。すなわち、被験化合物の添加時において、被験化合物の非添加時と比較して
3H−S1Pまたは
3H−dhS1Pの細胞内における蓄積量が増加していれば、該被験化合物はSPL阻害活性を有すると判断することができる。また、ある種の細胞株では細胞内で生成されたS1PまたはdhS1Pは細胞外に分泌されることが示されており(Proc Natl Acad Sci USA.2006;103(44):16394−16399)、細胞内に蓄積された
3H−S1Pまたは
3H−dhS1Pの一部は細胞外に分泌されると考えられる。従って、培養上清中の
3H−S1Pまたは
3H−dhS1P量が増加していれば、同じく該被験化合物はSPL阻害活性を有すると判断することができる。なお、このときセラミドシンターゼ阻害剤(例えば、フモニシンB1)やSPPsの阻害剤を処理しておくことにより、シグナル/バックグラウンド比の向上や、SPL特異的な化合物の取得確率向上が期待できる。また、S1Pホスファターゼ遺伝子またはセラミドシンターゼ遺伝子をノックアウトまたはノックダウンすることによっても同様の効果が期待できる。S1Pホスファターゼ遺伝子としては、S1P phosphatase−1、S1P phosphatase−2を、またセラミドシンターゼ遺伝子としては、LAG1 homolog,ceramide synthase 1乃至6を挙げることができる。
【0010】
本発明で使用される培養細胞は、マウス胸腺上皮由来細胞株であるIT−79MTNC3細胞等の細胞をSPL蛋白質の発現を指標として適宜選択することが可能である。また、293細胞、CHO細胞、NIH−3T3細胞、COS7細胞などの培養細胞に、SPL遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した細胞を使用することも可能である。SPL遺伝子として使用される遺伝子は、GenBankにアクセッション番号:NM_003901で登録されたヒトSPL遺伝子、アクセッション番号:NM_009163で登録されたマウスSPL遺伝子、またはアクセッション番号:NM_173116で登録されたラットSPL遺伝子を挙げることができるが、SPL活性を有する蛋白質をコードする遺伝子である限り、上記の遺伝子群に限定されない。
【0011】
細胞内に蓄積した
3H−S1Pまたは
3H−dhS1Pの放射活性は、適当な溶液を用いて細胞を溶解した後に、担体となるシンチレーション試薬(例えば、RNA Binding YSi SPA Scintillation Beads、PerkinElmer)と混合し、シンチレーション測定機を用いることにより検出する。また、培養上清に上記の担体を加えることによって、培養上清中の
3H−S1Pまたは
3H−dhS1Pの放射活性を測定することが可能である。これにより、細胞溶解液または培養上清中に共存する
3H−Sph/
3H−dhSphや、SPL反応によって生成する各種分解産物の影響を受けずに、
3H−S1Pまたは
3H−dhS1Pの放射活性のみを選択的に検出する。この方法を用いることによって、有機溶媒を用いる抽出操作を必要とせずに、細胞内に蓄積した、または培養上清に分泌された
3H−S1Pまたは
3H−dhS1P量を簡便、迅速に測定することが可能となり、脂質抽出操作が必要であった既存の方法に比較して、検体処理能力が格段に向上する。
【0012】
本発明において細胞の溶解に使用される溶液の共通の性質として、細胞を溶解する能力を有すること、および担体と
3H−S1P/
3H−dhS1Pの結合(およびシンチレーション発光)を妨げないことを挙げることができる。従って、上記の溶液には、Triton、ノニデット等の界面活性剤が含まれていることが必要である。なお、本明細書の実施例では細胞の溶解に使用されるバッファーとして、市販のバッファーの混合物を使用しているが、使用可能な溶液はこれに限定されるものではない。例えば50mM Tris−HCl(pH=7.5)、1mM Na
3VO
4、1mM NaF、0.1%BSA、1%Triton X−100等の自作バッファーを用いた場合でも、本発明の方法で細胞内に蓄積したリン酸化された標識脂質が測定可能であることが確認されている。
【0013】
さらに、アッセイ時に使用する培地中のビタミンB
6類の濃度を調節することにより、被験化合物の効果濃度を低下させ、アッセイ系としての感度を向上させる。通常の細胞培養に使用される培地には、ビタミンB
6類であるピリドキシンが5〜20μM程度含まれているが、これより低い濃度を選択することによって、感度を向上させることが可能である。最も感度を高めるためには、ビタミンB
6類を完全に除去した培地を使用する。これにより、従来法ではin vitroのSPL阻害作用が見出されていなかった化合物(例えばTHI)についても、その作用を検出することが可能となる。試験に用いる培養細胞の由来種ごとに適切なビタミンB
6類の濃度を選択することによって、より生体内に近い条件で被験化合物を評価することが可能となる。本発明のアッセイ系における好適な培地はビタミンB
6類の濃度が1μM以下の培地であり、より好適にはビタミンB
6類の濃度が100nM以下の培地であり、さらに好適には、被験化合物の添加の前に細胞がビタミンB
6類を含まない培地で洗浄されており、ビタミンB
6類を実質的に含まない培地である。
【0014】
このアッセイ法は96穴、384穴などのマルチウエルプレートを用いて実施できるため、容易にオートメーション化することができる。従って、細胞内SPLを直接または間接的に阻害する化合物を高速多検体スクリーニングによって選抜することが可能となる。
【0015】
被験化合物としては、化合物、微生物の代謝産物、植物や動物組織の抽出物、それらの誘導体またはそれらの混合物等を挙げることができる。また、SPLの発現量を低下するように設計された核酸またはその誘導体(アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、dsRNA、siRNA等を含む)を、被験化合物として使用することも可能である。被験化合物の投与量や濃度は適宜設定するか、または例えば希釈系列を作製するなどして複数種の投与量を設定してもよく、固体、液体等適当な状態で投与することができ、適当なバッファーに溶解するか、あるいは安定化剤等を加えてもよい。本発明のスクリーニング法では培養細胞を用いており、被験化合物を培地に添加して使用する。被験化合物ついては、培養開始時から添加してもよいし、培養途中で添加しても良く、また、添加の回数も1回に限らない。被験化合物存在下で培養する期間も適宜設定してよいが、好ましくは30分乃至2週間であり、より好ましくは、2時間乃至72時間であり、さらに好ましくは5時間乃至24時間である。なお、実施例における化合物処理時間は5時間であるが、この処理時間に限定されるものではない。
【0016】
2.本発明において使用されるアッセイ方法と担体材料
いくつかのアッセイ形式を、本発明の方法を実施するために使用することができるが、好ましいアッセイ形式は、シンチレーション近接アッセイ(SPA)などのシンチレーションアッセイである。SPA技術は、PPOなどの有機シンチラントを含有するシンチラントビーズの使用を伴う。アッセイは通常、水性環境ではそのエネルギーが容易に消失する低エネルギー放射線を放射する、
3H、
125I、
14C、
35Sまたは
33Pなどの放射性同位体を使用して水性緩衝液中で行われる。例えば、
3Hにより放射される電子は、6keVの平均エネルギーを有するにすぎず、水中では非常に短い経路長を有する。これらの同位体の1つで標識された分子が、直接的に、またはビーズに以前に結合させられた別の分子との相互作用を介してビーズ表面に結合した場合、放射される放射線により、シンチラントが活性化され、光が発生する。発生する光の量は、ビーズに結合している標識された分子の量に比例しており、液体シンチレーション(LS)カウンターで簡便に測定することができる。標識された分子がビーズに結合していない場合、その放射エネルギーは、ビーズに到達する前に周りの水性溶媒によって吸収され、光が発生しない。したがって、結合したリガンドはシンチレーションシグナルをもたらすが、遊離状態のリガンドは非常に低いバックグラウンドをもたらし、したがって、従来の放射性リガンド結合アッセイの特徴である時間のかかる分離工程の必要性がなくなる。アッセイにおいて必要とされる操作は数回の簡単なピペット操作工程に減らされ、これにより、より良好な正確性および再現性ならびにより大きいスループットが得られる。
【0017】
より好ましい態様において、本発明の方法は、放射能標識されたリン酸化脂質(例えば、スフィンゴシン−1−P)をSPAビーズに結合させることを含む。結合は、他の結合手段も考えられ得るが、好ましくは、ケイ酸イットリウムビーズまたは酸化イットリウムビーズとの化学的または物理的な相互作用を介して行われる。より具体的には、結合は、リン酸化された基質のリン酸基と担体表面との相互作用(すなわち、共有結合的な結合とは異なる結合)による。標識されたリン酸化されていない脂質(例えば、
3H−Sphまたは
3H−dhSph)がSPHKsによってリン酸化を受け、標識されたリン酸化脂質(例えば、
3H−S1Pまたは
3H−dhS1P)が生成される。生じたリン酸化脂質は通常SPLによって速やかに分解されるが、SPLの作用を阻害する化合物を添加することによって、標識されたリン酸化脂質量の増加が観察される。
【0018】
次に、本発明は、特定の担体材料を使用してSPL活性を阻害する化合物をスクリーニングする新規な方法を開示する。担体材料は、リン酸化された脂質などのSPL反応の基質と結合する能力を有するが、リン酸化されていない脂質などの基質と結合する能力を有していない。したがって、担体に結合した脂質の量は、培養細胞のSPL活性に対して負の相関を示す。担体は、リン酸化された脂質とリン酸化されていない脂質との該識別を可能にする官能基(抗体または他の反応基など)を含み得るか、あるいは該脂質を識別する能力を有する物質から構成され得る(またはそのような物質を含み得る)。
【0019】
担体は、少なくとも一部が、ケイ酸塩、ポリビニルトルエン(PVT)、(ポリ)アクリルアミド、アガロース、セファロース、ポリスチレンなどから構成され得る。担体材料の具体的な例には、WGA、ストレプトアビジン、ポリリシンなどのリガンドで場合によりコーティングされたPVTまたはケイ酸塩物質が挙げられる。より好ましい物質は、酸化イットリウムもしくはケイ酸イットリウム(YtSi)(これらは場合によりコーティングもしくは官能化される)、またはPVTを含む。
【0020】
より好ましい態様において、担体はシンチラント(すなわち、有機シンチラント)を含有する。シンチラントは、好ましくは、水に不溶性であり、標識された脂質が担体に結合したときに、より高いエネルギー状態に励起され得る。シンチラントは、好適な装置(例えば、シンチレーションカウンター)を使用して検出される十分な光エネルギーをもたらさなければならない。シンチラントの典型的な例には、ジフェニルオキサゾール(PPO)がある。このシンチラントは、β線を放出する放射性同位体によって効率的に励起される。
【0021】
本発明において使用される好適な担体材料は市販品の中に見出すことができ、例えば、PerkinElmer製品のWGAコーティングPVTビーズ(RPNQ0001)、PEI処理WGA PVTビーズ(RPNQ0003)、ストレプトアビジンコーティングPVTビーズ(RPNQ0007)、ポリリシンコーティングケイ酸イットリウムビーズ(RPNQ0010)、WGAコーティングケイ酸イットリウムビーズ(RPNQ0011)、ストレプトアビジンコーティングケイ酸イットリウムビーズ(RPNQ0012)およびRNA結合ケイ酸イットリウムSPAビーズ(RPNQ0013)または膜結合酸化イットリウムSPAビーズ(RPNQ0280)などがある。
【0022】
本発明で使用される標識された脂質は、好ましくは放射能標識されている。放射能標識は、
3H、
125I、
14C、
35S、
33Pまたは
32Pを含む様々な放射性同位体を使用して行うことができる。放射性同位体は、好ましくは、水性環境においてそのエネルギーが容易に消失する低エネルギー放射線を放出するものである。結合していない標識された基質は、担体材料に含有されるシンチラントを本質的には活性化しないことが必要である。同位体の性質は、シンチラントのタイプに依存してもまた選択され得る。例えば、PPOがシンチラントとして使用される場合、同位体は、好ましくは例えば
3Hなど、β線を放射するものである。
【0023】
アッセイのために使用される標識された脂質の量は当業者によって調節され得る。典型的な実験では、0.01〜10μM、好ましくは0.02〜1μMの脂質が、0.01〜0.5μCiの
3H−Sphまたは
3H−dhSphが各アッセイについて使用される。なお、本明細書の実施例中では、0.05μCiの標識基質を1μMの濃度で使用しているが、アッセイに使用される標識された脂質の放射活性および濃度はこれに限定されるものではない。アッセイに使用される細胞数は、該細胞の有するSPL活性に依存し、当業者によって調節され得る。
【0024】
3.SPL阻害剤を含有する医薬
本発明のスクリーニング方法によって見出される化合物またはその薬学的に許容され得る塩は、優れたS1Pリアーゼ阻害能を有するので、免疫系の活動を抑制することができる。従って、炎症性腸疾患(IBD)(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病など)、自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、全身性皮膚硬化症、シェーグレン症候群、結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発動脈炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎、ウェゲナー肉芽腫症、混合性結合組織病など)、多発性硬化症(MS)、アレルギー性疾患(例えば、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎、気管支喘息、小児喘息、食物アレルギー、薬物アレルギー、蕁麻疹など)を予防または治療するために、あるいは、移植に対する拒絶反応を抑制するための医薬組成物の有効成分として、本発明のスクリーニング方法によって見出される化合物またはその薬学的に許容され得る塩を用いることができる。
【0025】
本発明のスクリーニング方法によって見出される化合物またはその薬学的に許容され得る塩を有効成分として含有する医薬組成物は、哺乳動物(例えば、ヒト、ウマ、ウシ、ブタなど、好ましくはヒト)に投与される場合には、全身的または局所的に、経口または非経口で投与され得る。
【0026】
本発明の医薬組成物は、投与方法に応じて適切な形態を選択し、通常用いられている各種製剤の調製法によって調製できる。
【0027】
経口用の医薬組成物の形態としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。かかる形態の医薬組成物の調製は、添加剤として通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、膨潤剤、膨潤補助剤、コーティング剤、可塑剤、安定剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、保存剤、緩衝剤、希釈剤、湿潤剤などを必要に応じて適宜選択し、常法に従って製造され得る。
【0028】
非経口用の医薬組成物の形態としては、注射剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、湿布剤、貼付剤、噴霧剤、吸入剤、スプレー剤、点眼剤、点鼻剤、座剤、吸入剤などが挙げられる。かかる形態の医薬組成物の調製は、添加剤として通常用いられる安定化剤、防腐剤、溶解補助剤、保湿剤、保存剤、抗酸化剤、着香剤、ゲル化剤、中和剤、溶解補助剤、緩衝剤、等張剤、界面活性剤、着色剤、緩衝化剤、増粘剤、湿潤剤、充填剤、吸収促進剤、懸濁化剤、結合剤などを必要に応じて適宜選択し、常法に従って製造され得る。
【0029】
本発明のスクリーニング方法によって見出される化合物またはその薬学的に許容され得る塩の投与量は、症状、年齢、体重などにより異なるが、経口投与の場合には、1日1〜数回、成人一人一回当たり、化合物換算量で1〜2000mg、好ましくは1〜400mgであり、非経口投与の場合には、1日1〜数回、成人一人一回当たり、化合物換算量0.01〜500mg、好ましくは0.1〜300mgである。
【0030】
実施例
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
SPAによる
3H−dhS1Pの検出
3H−dhS1P(60Ci/mmol、American Radiolabeled Chemicals、ART0618)または
3H−dhSph(60Ci/mmol、American Radiolabeled Chemicals、ART0460)を細胞融解バッファー(Cisbio社製IP−One Tb Kitのコンポーネントである、IP−One Tb conjugate & lysis bufferとIP1 stimulation buffer(1×)の3:7混合液)で段階希釈した。
【0032】
全放射活性を調べるために、上記の
3H標識化合物の希釈液それぞれ50μLを5mLの液体シンチレーター(Hionic−Fluor、PerkinElmer)と混合して、液体シンチレーションカウンター(Aloka)により放射活性を測定した。
【0033】
既存の分離抽出法の効率を調べるために、上記の
3H標識化合物の希釈液それぞれ50 μLに対して、50μLの0.2M水酸化ナトリウム溶液と100μLのクロロホルム:メタノール(2:1)混合液を添加し、激しく攪拌した後に8,400G、室温で3分間遠心し、水層を70μLとって5mLの液体シンチレーターと混合後、液体シンチレーションカウンターで放射活性を測定した。
【0034】
SPAによる
3H−dhS1Pの検出効率について調べるために、RNA Binding YSi SPA Scintillation Beads(SPAビーズ、PerkinElmer、RPNQ0013)を終濃度50%のグリセロールを含むように8倍希釈した。これを96穴白色プレート(OptiPlate−96(white,96−well)、PerkinElmer)に20μLずつ分注した後、上記の
3H標識化合物の希釈液それぞれ50μLを添加して混合し、透明なプレートシール(TopSeal−A、PerkinElmer)で覆って室温、遮光下で一晩放置した。翌日、マイクロプレートシンチレーションカウンター(TopCount NXT、PerkinElmer)で放射活性を測定した。
【0035】
結果を
図2に示す。SPAによって、従来のアルカリ−クロロホルム抽出法と同等の効率で、
3H−dhS1Pを選択的に検出できた。
【実施例2】
【0036】
siRNA導入が及ぼす各種効果の確認
1)細胞培養および培地
マウス胸腺上皮由来細胞株(IT−79MTNC3細胞、ヒューマンサイエンス振興財団細胞バンク)は、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM,Invitrogen)(DMEM−10%FBS)を用いて37℃、5%CO
2存在下で培養された。トランスフェクションやアッセイで使用する際には、0.05%トリプシン−EDTA(Invitrogen)を用いて剥離させたのち、遠心して細胞を回収した。化合物を処理したり
3H−dhSphを取り込ませたりする際には、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA,Sigma)を含むDMEM(DMEM−0.1%BSA)または0.1%BSAを含むビタミンB
6類除去ダルベッコ変法イーグル培地(VB
6−free DMEM、細胞科学研究所)(VB
6−free DMEM−0.1%BSA)を使用した。
【0037】
2)siRNAトランスフェクション
Nucleofector Solution L(Lonza)で1×10
6細胞/100μLに調製したIT−79MTNC3細胞に、マウスSPLに対する3種配列のsiRNA(Silencer select Pre−designed siRNA、Ambion、s73643〜s73645)またはネガティブコントロールsiRNA(QIAGEN)を200pmol添加し、Nucleofector II(Amaxa)を用いて、プログラムT−030でトランスフェクションした。
【0038】
3)リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析
ノックダウン効率を調べるために、トランスフェクションした細胞をDMEM−10%FBSに懸濁し、細胞培養用6穴プレート(住友ベークライト)に2×10
5細胞/ウエルで播種して、37℃、5%CO
2存在下で24時間または48時間培養した。培養後のIT−79MTNC3細胞からRNA抽出用キット(RNeasy Mini Kit、QIAGEN)を用いて全RNAを抽出し、さらにPrimeScript 1st strand cDNA Synthesis Kit(タカラバイオ)を用いてcDNAを調製した。これを鋳型として、QuantiTect SYBR Green PCR Kit(QIAGEN)と、マウスグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子またはマウスSPL遺伝子に対する特異的プライマー(Perfect Real Time Primer、タカラバイオ)を用いて、リアルタイムPCRシステム(Mx4000 Multiplex Quantitative PCR System、Stratagene)により、各々のサンプルのSPL mRNAの相対定量解析を行った。結果は、ネガティブコントロールsiRNA導入細胞のSPL mRNA発現量に対する比として算出した。
【0039】
4)siRNAトランスフェクションした細胞ライセート中のSPL活性測定
SPL遺伝子をノックダウンしたIT−79MTNC3細胞のライセートを調製するために、トランスフェクションした細胞をDMEM−10% FBSに懸濁し、細胞培養用12穴プレート(住友ベークライト)に1.5×10
5細胞/ウエルで播種して、37℃、5%CO
2存在下で24時間または48時間培養した。培養後のIT−79MTNC3細胞を回収し、120μLのホモジェナイズバッファー(50mM HEPES−NaOH(pH=7.4)、0.15M NaCl、10%Glycerol、1mM EDTA、1mM DTT、Complete protease inhibitor cocktail(Roche))を添加し、ソニケーター(HandySonic、トミー精工)で超音波処理を施した後、1,000G、4℃で3分間遠心して得た上清を細胞ライセートとした。このうち一部を用いて、Bradford法によるタンパク定量を実施した。
【0040】
細胞ライセート中のSPL活性を測定するために、ホモジェナイズバッファーにて0.6mgタンパク質/mLに希釈し、基質である
3H−dhS1P(3.4nM)と反応バッファー(0.1M リン酸カリウム溶液(pH=7.4)、25mM NaF、5mM Na
3VO
4、1mM EDTA、1mM DTT、0.1%Triton X−100、2μMcold dhS1P)と混合して50μLとし、37℃で1時間反応させた。氷上で1時間反応させたものを陰性対照とした。反応後に50μLの0.2M水酸化ナトリウム溶液と100μLのクロロホルム:メタノール(2:1)混合液を添加し、激しく攪拌した後に8,400G、室温で3分間遠心し、有機層を30μLとって5mLの液体シンチレーターと混合後、液体シンチレーションカウンターで放射活性を測定した。得られたカウントはSPL反応による分解産物量を反映しているものとし、結果はネガティブコントロールsiRNA導入細胞のSPL活性に対する比として算出した。
【0041】
5)siRNAトランスフェクションした細胞のSPA
SPL遺伝子をノックダウンしたIT−79MTNC3細胞内の
3H−dhS1Pの蓄積をSPAで検出するために、トランスフェクションした細胞を25μM フモニシンB1(Enzo Life Sciences)を含むDMEM−10%FBSに懸濁し、細胞培養用96穴プレート(住友ベークライト)に1×10
4細胞/ウエルで播種して、37℃、5%CO
2存在下で24時間または48時間培養した。培養上清を一旦除去した後、8.3nM
3H−dhSphおよび1μM dhSph(Enzo Life Sciences)を含むDMEM−0.1%BSAを50μL添加して、37℃、5%CO
2存在下で30分間培養した。培養上清を除去した後、70μLの細胞融解バッファーを加えて室温で2時間放置した。このうち50μLを、予め96穴白色プレートに20μLずつ分注したSPAビーズ(終濃度50%のグリセロールを含むように8倍希釈したもの)と混合し、透明なプレートシールで覆って室温、遮光下で一晩放置した。翌日、マイクロプレートシンチレーションカウンターで放射活性を測定した。
【0042】
結果を
図3に示す。siRNA導入によって、SPL mRNA発現量は24時間後で86%以上、48時間後で67%以上抑制された。また、これに応じたライセート中SPL活性の低下も確認できた。さらに、構築したSPAによって、細胞内
3H−dhS1Pの蓄積を検出することができた。
【実施例3】
【0043】
既知阻害剤を用いたSPL活性測定
1)既知SPL阻害剤を用いたSPA
被験化合物の
3H−dhS1P蓄積作用を評価するために、IT−79MTNC3細胞を25μMフモニシンB1を含むDMEM−10%FBSに懸濁し、細胞培養用96穴プレートに1×10
4細胞/ウエルで播種して、37℃、5%CO
2存在下で一昼夜培養した。翌日、培養上清を一旦除去した後、段階希釈した被験化合物を含むDMEM−0.1%BSA(またはVB
6−free DMEM−0.1%BSA)を40μL添加して37℃、5%CO
2存在下で4.5時間培養した後、83nMの
3H−dhSphおよび5μM dhSphを含むDMEM−0.1%BSA(またはVB
6−free DMEM−0.1%BSA)を10μL添加して、37℃、5%CO
2存在下で30分間培養した。培養上清を除去した後、70μLの細胞融解バッファーを加えて室温で2時間放置した。このうち50μLを、予め96穴白色プレートに20μLずつ分注したSPAビーズ(終濃度50%のグリセロールを含むように8倍希釈したもの)と混合し、透明なプレートシールで覆って室温、遮光下で一晩放置した。翌日、マイクロプレートシンチレーションカウンターで放射活性を測定した。なお、VB
6−free DMEMを用いて実施する場合は、被験化合物を含む培地を添加する前に150μLのVB
6−free DMEM−0.1% BSAで2回洗浄することにより、播種時に用いたDMEMに含まれるVB
6類のキャリーオーバーを防止した。
【0044】
2)細胞内S1PのLC−MS測定
被験化合物のS1P蓄積作用を評価するために、IT−79MTNC3細胞を25μMフモニシンB1を含むDMEM−10%FBSに懸濁し、細胞培養用24穴プレートに5×10
4細胞/ウエルで播種して、37℃、5%CO
2存在下で一昼夜培養した。翌日、培養上清を一旦除去した後、段階希釈した被験化合物を含むDMEM−0.1%BSA(またはVB
6−free DMEM−0.1%BSA)を450μL添加して37℃、5%CO
2存在下で4.5時間培養した後、10μM Sph(Enzo Life Sciences)を含むDMEM−0.1%BSA(またはVB
6−free DMEM−0.1%BSA)を50μL添加して、37℃、5%CO
2存在下で30分間培養した。培養上清を除去し、PBSで洗浄した後に細胞を回収し、アセトニトリル:1M塩酸(4:1)混合液を150μL添加してソニケーターで超音波処理を施した。S1P量は、LC−MSにより三菱化学メディエンス株式会社で測定された。なお、VB
6−free DMEMを用いて実施する場合は、被験化合物を含む培地を添加する前に600μLのVB
6−free DMEM−0.1% BSAで2回洗浄することにより、播種時に用いたDMEMに含まれるVB
6類のキャリーオーバーを防止した。
【0045】
3)化合物処理した細胞ライセート中のSPL活性の測定
被験化合物を処理した細胞のライセートを調製するために、IT−79MTNC3細胞を25μMフモニシンB1を含むDMEM−10%FBSに懸濁し、細胞培養用12穴プレートに1×10
5細胞/ウエルで播種して、37℃,5%CO
2存在下で一昼夜培養した。翌日、培養上清を一旦除去した後、段階希釈した被験化合物を含むDMEM−0.1% BSA(またはVB
6−free DMEM−0.1% BSA)を500μL添加して37℃、5% CO
2存在下で4.5時間培養した後、10μM dhSphを含むDMEM−0.1% BSA(またはVB
6−free DMEM−0.1%BSA)を55μL添加して、37℃、5%CO
2存在下で30分間培養した。PBSで洗浄した後にIT−79MTNC3細胞を回収し、150μLのホモジェナイズバッファーを添加してソニケーターで超音波処理を施した後、1,000G、4℃で3分間遠心して得た上清を細胞ライセートとした。このうち一部を用いて、Bradford法によるタンパク定量を実施した。なお、VB
6−free DMEMを用いて実施する場合は、被験化合物を含む培地を添加する前に1mLのVB
6−free DMEM−0.1% BSAで2回洗浄することにより、播種時に用いたDMEMに含まれるVB
6類のキャリーオーバーを防止した。
【0046】
化合物処理した細胞から調製したライセート中のSPL活性を測定するために、ホモジェナイズバッファーにて1mgタンパク質/mLに希釈し、基質である
3H−dhS1P(3.4nM)と反応バッファー(0.1M リン酸カリウム溶液(pH=7.4)、25mM NaF、5mM Na
3VO
4、1mM EDTA、1mM DTT、0.1%Triton X−100、2μMcold dhS1P)と混合して50μLとし、37℃で1時間反応させた。氷上で1時間反応させたものを陰性対照とした。反応後に50μLの0.2M水酸化ナトリウム溶液と100μLのクロロホルム:メタノール(2:1)混合液を添加し、激しく攪拌した後に8,400G、室温で3分間遠心し、有機層を30μLとって5mLの液体シンチレーターと混合後、液体シンチレーションカウンターで放射活性を測定した。得られたカウントはSPL反応による分解産物量を反映しているものとし、各サンプルのSPL活性は、化合物非処理群に対する比として算出した。
【0047】
図4は、通常条件下での各種アッセイ結果を示す。非特異的SPL阻害剤である4−デオキシピリドキシン(DOP)は、SPAで濃度依存的なレスポンスを示した。同様に、細胞内S1P量や、ライセート中SPL活性についても、ほぼ同じ濃度域でDOPの作用を検出した。
【0048】
図5は、VB
6−free DMEM使用条件での各種アッセイ結果を示す。非特異的SPL阻害剤である4−デオキシピリドキシン(DOP)のSPAにおける効果濃度は、通常DMEM使用時に比べて大幅に低下した。さらに、THIにも濃度依存的な作用を検出した。これらの被験化合物は、細胞内S1P量や、ライセート中SPL活性についても、ほぼ同じ濃度域で作用を示した。
【0049】
なお、別途、ビタミンB
6類のSPL活性阻害作用に対する影響を確認したところ、通常のDMEM(約20μMのピリドキシンを含む)を用いた場合のDOPのEC50は46μMであったが、1μMピリドキシン存在下では1.6μM、100nMピリドキシン存在下では27nMであった。また、THIは通常のDMEMを用いた場合、または1μMピリドキシン存在下ではSPL活性に対する阻害作用は観察できなかったが、100nMピリドキシン存在下でのEC50は約250μMであり、SPL阻害活性が観察可能であった。このようにビタミンB
6類の濃度を通常の細胞培養に使用される培地よりも低下させることによって、SPL阻害作用測定の感度を向上させることが可能であった。
【実施例4】
【0050】
フモニシンB1処理の影響検討
フモニシンB1処理によるシグナル/バックグラウンド比の向上効果について検討するために、IT−79MTNC3細胞を0または25μMフモニシンB1を含むDMEM−10%FBSに懸濁し、細胞培養用96穴プレートに1×10
4細胞/ウエルで播種して、37℃、5%CO
2存在下で一昼夜培養した。翌日、培養上清を一旦除去した後、DOPを含む(または含まない)DMEM−0.1%BSAを40μL添加して37℃、5%CO
2存在下で4.5時間培養した後、42nMの
3H−dhSphおよび5μM dhSphを含むDMEM−0.1%BSAを10μL添加して、37℃、5%CO
2存在下で30分間培養した。培養上清を除去した後、70μLの細胞融解バッファーを加えて室温で2時間放置した。このうち50μLを、予め96穴白色プレートに20μLずつ分注したSPAビーズ(終濃度50%のグリセロールを含むように8倍希釈したもの)と混合し、透明なプレートシールで覆って室温、遮光下で一晩放置した。翌日、マイクロプレートシンチレーションカウンターで放射活性を測定した。
【0051】
結果を
図6に示す。フモニシンB1を予め処理しておくことによって、アッセイのシグナル/バックグラウンド比を向上させることが可能であった。