【0039】
「HIV融合インヒビターポリペプチド」とは、とりわけ、膜融合が原因のHIウイルスによる感染していない細胞の感染の阻害を含む、膜融合に関連する事象または膜融合事象自体を阻害するポリペプチドである。HIV融合インヒビターポリペプチドは、一つの態様において、直鎖状ポリペプチドである。例えば、それは、一つの態様におけるように、HIV gp41外部ドメイン由来である。例えば、DP107またはDP178などである。HIV融合インヒビターポリペプチドのアミノ酸配列は、5〜100個のアミノ酸残基からなり、一つの態様において、10〜75個のアミノ酸残基からなり、さらなる態様において、15〜50個のアミノ酸残基からなる。一つの態様において、HIV融合インヒビターポリペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 13およびSEQ ID NO: 32〜42からなる群より選択される。HIV融合インヒビターポリペプチドのさらなる例は、米国特許第5,464,933号、米国特許第5,656,480号、米国特許第6,013,263号、米国特許第6,017,536号、米国特許第6,020,459号、米国特許第6,093,794号、米国特許第6,060,065号、米国特許第6,258,782号、米国特許第6,348,568号、米国特許第6,479,055号、米国特許第6,656,906号、国際公開公報第1996/19495号、国際公開公報第1996/40191号、国際公開公報第1999/59615号、国際公開公報第2000/69902号、および国際公開公報第2005/067960号において見出され得る。例えば、HIV融合インヒビターポリペプチドのアミノ酸配列は、米国特許第5,464,933号のSEQ ID NO: 1〜10;米国特許第5,656,480号のSEQ ID NO: 1〜15;米国特許第6,013,263号のSEQ ID NO: 1〜10および16〜83;米国特許第6,017,536号のSEQ ID NO: 1〜10、20〜83、および139〜149;米国特許第6,093,794号のSEQ ID NO: 1〜10、17〜83、および210〜214;米国特許第6,060,065号のSEQ ID NO: 1〜10、16〜83、および210〜211;米国特許第6,258,782号のSEQ ID NO: 1286および1310;米国特許第6,348,568号のSEQ ID NO: 1129、1278〜1309、1311、および1433;米国特許第6,479,055号のSEQ ID NO: 1〜10、および210〜238;米国特許第6,656,906号のSEQ ID NO: 1〜171、173〜216、218〜219、222〜228、231、233〜366、372〜398、400〜456、458〜498、500〜570、572〜620、622〜651、653〜736、739〜785、787〜811、813〜823、825、827〜863、865〜875、877〜883、885、887〜890、892〜981、986〜999、1001〜1003、1006〜1018、1022〜1024、1026〜1028、1030〜1032、1037〜1076、1078〜1079、1082〜1117、1120〜1176、1179〜1213、1218〜1223、1227〜1237、1244〜1245、1256〜1268、1271〜1275、1277、1345〜1348、1350〜1362、1364、1366、1368、1370、1372、1374〜1376、1378〜1379、1381〜1385、1412〜1417、1421〜1426、1428〜1430、1432、1439〜1542、1670〜1682、1684〜1709、1712〜1719、1721〜1753、1755〜1757;または国際公開公報第2005/067960号のSEQ ID NO: 5〜95を含む群より選択され得る。
【実施例】
【0063】
材料および方法
組み換えDNA技術
Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989)に記載されているような標準的な方法を用いて、DNAを操作した。分子生物学用試薬を、製造業者の指示に従って使用した。
【0064】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントを、化学合成により調製した。所望の遺伝子セグメントを、遺伝子合成により調製した。合成した遺伝子断片を、特定の発現ベクター中にクローニングした。サブクローニングした遺伝子断片のDNA配列を、DNA塩基配列決定法により確認した。
【0065】
タンパク質測定
結合体のタンパク質濃度を、アミノ酸配列に基づいて計算したモル吸光係数を用いて、280 nmでの光学密度(OD)を測定することにより決定した。
【0066】
実施例1
発現プラスミドの作製
融合ポリペプチドFP-1、FP-2、およびFP-3を、組み換え手段により調製した。それらを、大腸菌における高レベル発現のための担体タンパク質としてコアストレプトアビジンを用い、大腸菌においてより大きな融合タンパク質として発現させた。トリプシン(FP-1およびFP-2)またはエンドプロテイナーゼLysC(FP-3)のいずれかを用いたインビトロの酵素的切断により、所望のポリペプチドを放出させた。
【0067】
コアストレプトアビジン担体融合タンパク質の設計
ポリペプチドFP-1(SEQ ID NO: 76=GR+SEQ ID NO: 05+SEQ ID NO: 52+SEQ ID NO: 37)、FP-2(SEQ ID NO: 77=GR+SEQ ID NO: 82+SEQ ID NO: 75+SEQ ID NO: 13)、およびFP-3(SEQ ID NO: 78=GR+SEQ ID NO: 83+SEQ ID NO: 50+SEQ ID NO: 40)を、それぞれ独自のトリプシンまたはLysCエンドプロテイナーゼ切断部位を含有するGRまたはGKプロテアーゼリンカーを介して、コアストレプトアビジン配列(SEQ ID NO: 81)に融合させた。
【0068】
コアストレプトアビジンをコードする核酸、短いエンドプロテイナーゼリンカー(GR)をコードする核酸、セルピンフィンガーポリペプチドをコードする核酸、リンカーをコードする核酸、およびHIV融合インヒビターペプチドをコードする核酸を含むコアストレプトアビジン融合遺伝子を、応じた核酸セグメントの連結により、公知の組み換え方法および技術で構築した。ポリペプチドF1、F2、およびF3をコードする核酸配列は、化学合成により作製し、その後、増幅のために大腸菌プラスミド中にライゲーションした。サブクローニングした核酸配列を、DNA塩基配列決定法により検証した。
【0069】
基礎の/出発となる大腸菌発現プラスミド4980の作製および説明
プラスミド4980(4980-pBRori-URA3-LACI-SAC)は、大腸菌におけるコアストレプトアビジンの発現のための発現プラスミドである。それは、プラスミド1966(1966-pBRori-URA3-LACI-T-リピート;EP-B 1 422 237において報告されている)由来の3142塩基対の長さのEcoRI/CelII断片の、435塩基対の長さのコアストレプトアビジンをコードするEcoRI/CelII断片とのライゲーションにより生成した。
【0070】
コアストレプトアビジン大腸菌発現プラスミドは、以下の要素を含む:
‐大腸菌における複製のための、ベクターpBR322由来の複製開始点(Sutcliffe, G., et al., Quant. Biol. 43 (1979) 77-90による2517-3160位の塩基対に対応する)、
‐大腸菌pyrF変異体株の相補によるプラスミド選択を可能にする(ウラシル栄養要求性)、オロチジン5'-ホスファートデカルボキシラーゼをコードするサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のURA3遺伝子(Rose, M., et al., Gene 29 (1984) 113-124)、
‐以下で作られているコアストレプトアビジン発現カセット
‐Stueber, D.ら(下記参照)による合成リボゾーム結合部位を含む、T5ハイブリッドプロモーター(Bujard, H., et al., Methods. Enzymol. 155 (1987) 416-433およびStueber, D., et al., Immunol. Methods IV (1990) 121-152によるT5-PN25/03/04ハイブリッドプロモーター)、
‐コアストレプトアビジン遺伝子、および
‐2種のバクテリオファージ由来転写ターミネーターである、λ-T0ターミネーター(Schwarz, E., et al., Nature 272 (1978) 410-414)およびfdターミネーター(Beck, E., and Zink, B., Gene 1-3 (1981) 35-58)、ならびに
‐大腸菌由来のlacI抑制遺伝子(Farabaugh, P.J., Nature 274 (1978) 765-769)。
【0071】
FP-1、FP-2、およびFP-3融合ポリペプチド発現プラスミドの作製
a)プラスミド4981
プラスミド4981(4981-SAC-セルピン1-T1249)は、大腸菌におけるコアストレプトアビジン-FP-1タンパク質の発現のためのプラスミドである。それは、以下の232塩基対の長さのNheI/CelII-F1遺伝子セグメント(F1ポリペプチドをコードするSEQ ID NO: 84)
の、3547塩基対の長さのNheI/CelII-4980プラスミド断片中への挿入により調製した。
【0072】
b)プラスミド4982
プラスミド4982(4982-SAC-セルピン2-T651)は、大腸菌におけるコアストレプトアビジン-FP-2タンパク質の発現のためのプラスミドである。それは、以下の181塩基対の長さのNheI/CelII-F2遺伝子セグメント(F2ポリペプチドをコードするSEQ ID NO: 85)
の、3547塩基対の長さのNheI/CelII-4980プラスミド断片中への挿入により調製した。
【0073】
c)プラスミド4983
プラスミド4983(4983-SAC-セルピン3-T2635)は、大腸菌におけるコアストレプトアビジン-FP-3タンパク質の発現のためのプラスミドである。それは、以下の232塩基対の長さのNheI/CelII-F3遺伝子セグメント(F3ポリペプチドをコードするSEQ ID NO: 86)
の、3547塩基対の長さのNheI/CelII-4980プラスミド断片中への挿入により調製した。
【0074】
実施例2
大腸菌におけるコアストレプトアビジン融合タンパク質の発現
コアストレプトアビジン融合タンパク質4981、4982、および4983の発現のために、大腸菌栄養要求性(PyrF)の相補により抗生物質フリーのプラスミド選択を可能にする大腸菌宿主/ベクター系を使用した(例えば、EP-B 0 972 838および米国特許第6,291,245号参照)。
【0075】
融合タンパク質を、大腸菌株CSPZ-2(leuB, proC, trpE, thi-1, ΔpyrF)において発現させた。
【0076】
選択培地におけるpyrF栄養要求性の相補による形質転換および細胞培養
大腸菌K12株CSPZ-2(leuB, proC, trpE, thi-1, ΔpyrF)を、前の段階において得られた発現プラスミド(それぞれ4981、4982、および4983)で形質転換させた。形質転換したCSPZ-2細胞を、最初に37℃で寒天プレート上で増殖させ、その後、0.5%カザミノ酸(Difco)を含有するM9最小培地中で振盪培養において0.6〜0.9の550 nmでの光学密度(OD550)まで増殖させ、続いて、IPTG(1〜5 mmol/lの最終濃度)で誘導した。
【0077】
37℃での4〜16時間の誘導期の後、細胞を遠心分離により収集し、50 mmol/lリン酸カリウム緩衝液、pH 6.5で洗浄し、さらなる加工処理まで-20℃で保存した。
【0078】
発現解析
発現解析のために、3 OD550nm単位(1 OD550nm=1の550 nmでのODを有する1 mlの細胞懸濁液)の遠心分離した培養培地由来の細胞沈殿物を、0.25 mlの10 mmol/lリン酸カリウム緩衝液、pH 6.5に再懸濁し、超音波処理(50%強度での30秒の2パルス)により細胞を溶解した。不溶性の細胞成分を沈降させ(遠心分離、14,000 rpm、5分)、上清を1/5の容積の5×SDS試料緩衝液と混合した(1×SDS試料緩衝液:50 mmol/lトリス-HCl、pH6.8、1% SDS、50 mmol/l DTT、10%グリセロール、0.001%ブロモフェノールブルー)。不溶性の細胞破片分画(沈殿物)を、0.3 mlの1×SDS試料緩衝液に再懸濁し、試料を5分間、95℃でインキュベーションして、再び遠心分離した。続いて、タンパク質をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)(Laemmli, U.K., Nature 227 (1970) 680-685)により分離し、クマシーブリリアントブルーR色素で染色した。
【0079】
合成したコアストレプトアビジン融合タンパク質は均質であり、不溶性のタンパク質凝集物、いわゆる封入体(IB)の形態で、不溶性の細胞破片分画のみにおいて見出された。発現率は、すべてのクローンにおいて測定精度の範囲内で匹敵し、大腸菌タンパク質全体に対して30%〜60%の間であった。
【0080】
実施例3
コアストレプトアビジン融合タンパク質の組み換え生産のための大腸菌の10 lの高細胞密度発酵
前培養:
前培養物を調製するために、1000 mlエルレンマイヤーフラスコにおいて、300 mlのM9プラス培地(0.5%カザミノ酸、ならびに各々0.9 g/lのTrp、Pro、およびLeuを追加したM9培地)に、それぞれプラスミド4981、4982、および4983で形質転換した大腸菌CSPZ-2の1 mlのグリセロールストックを接種した。3.0のOD578nmに達するまで、約6時間、37℃で、150 rpmの傍心振盪機上で培養物をインキュベーションした。
【0081】
10 lの流加主発酵:
発酵の初めに、前培養物を10リットルの発酵槽中に移した。主培養を、グルコースの代わりに1.4%グリセロール、2%カザミノ酸、ならびに各々0.1%のアミノ酸Trp、Leu、およびProを含有する、規定されたM9塩培地において、20のOD578nmまで増殖させた。続いて、培養へのグリセロール酵母用量(ストック溶液:30%酵母エキスおよび33%グリセロール)の供給を開始し、その流速を、培養物のpH値の動向に応じて0.8〜3.5 ml/分の間で変動させ、それにより補正液(H
3PO
4、KOH)のいかなるさらなる添加も回避した。pHは、pH 7.0に維持し、撹拌機速度を制御することにより、pO
2値を50%に保持した。70のOD578nmで、1.5 mmol/l IPTGを添加した。160〜180のOD578nmで、発酵を終了した。
【0082】
生物体量の収集:
発酵槽の内容物を、フロースルー遠心分離(13,000 rpm、13 l/h)で遠心分離し、収集した生物体量を、さらなる加工処理まで-20℃で保存した。
【0083】
実施例4
細胞溶解およびIBの調製
200 g大腸菌細胞(湿重量)を1リットルの0.1 mol/lトリス-HCl、pH7.0に0℃で懸濁し、300 mgリゾチームを添加して、20分間、0℃でインキュベーションした。続いて、高圧分散により機械的に、細胞を完全に溶解し、2 mlの1 mol/l MgCl
2および10 mg DNAseを添加することにより、30分間、25℃で、DNAを消化した。その後、500 mlの60 mmol/l EDTA、6%Triton X-100、および1.5 mol/l NaCl、pH 7.0を溶解溶液と混合し、さらに30分間、0℃でインキュベーションした。続いて、不溶性成分(細胞破片およびIB)を、遠心分離により沈降させた。沈殿物を、1リットルの0.1 mol/lトリス-HCl、20 mmol/l EDTA、pH 6.5に懸濁し、30分間、25℃でインキュベーションして、遠心分離により、IB調製物を単離した。
【0084】
実施例5
F1、F2、およびF3を含有するコアストレプトアビジン融合タンパク質の可溶化、酵素による放出、ならびにF1、F2、およびF3ポリペプチドの精製
前実施例において得られた封入体を、2回、各々100mMリン酸カリウム緩衝液、pH 6.5、500 mM塩化ナトリウム、20 mM EDTA、および再蒸留水で、洗浄した。10 mlの30 mM水酸化カリウム溶液の添加により、1グラム(湿重量)の沈殿した封入体を溶解させた。30分の撹拌後、1 Mホウ酸の添加により、pH値をpH 8.9に変化させた。可溶化およびpH調整の後、F1およびF2を含有するコアストレプトアビジン融合タンパク質を、トリプシン(1:25000 w/w)で酵素的に消化し、他方、F3を含有するコアストレプトアビジン融合タンパク質を、LysC(1:20000 w/w;10μlの10μM LysC溶液)で酵素的に消化した。溶液を、15℃で一晩インキュベーションした。10倍モル過剰のアプロチニンの添加により、トリプシン消化を停止させた。rec SerETIアフィニティークロマトグラフィーにより、残留プロテアーゼを精製して除去した。F3のLysC消化は、rec SerETIアフィニティークロマトグラフィーのみにより停止させた。
【0085】
放出されたF1、F2、およびF3融合ポリペプチドを、Eurospher C8クロマトグラフィーカラムを用いた逆相クロマトグラフィーにより精製した。
【0086】
実施例6
融合ポリペプチドおよびα1-アンチトリプシンのタンパク質複合体の形成
PBS(リン酸緩衝生理食塩水、1 mM KH
2PO
4、10 mM Na
2HPO
4、105 mM NaCl、2.7 mM KCl)中の25μMα1-アンチトリプシンを、37℃で、4〜5倍過剰の融合ポリペプチド(例えば、125μM)と共に24時間インキュベーションした。より長いインキュベーション時間を用いても、タンパク質複合体のさらなる形成はもたらされなかった。インキュベーション後、サイズ排除濾過により、タンパク質複合体を、複合体形成していないセルピンフィンガーポリペプチドから分離した。ほぼ同一の分子量の分子を含む分画を、混ぜ合わせた。混ぜ合わせた分画を濃縮し、試料をSDS-PAGEゲルにアプライした。SDS-PAGEゲル上の個々のバンドを、1D-Image-Master(Amersham Bioscience)を用いて分析し、タンパク質複合体の分画を定量化して、分子量の差を測定した。混ぜ合わせて濃縮した分画の活性を、BIAcoreにより測定した(
図3参照)。反応混合物において、二量体α1-アンチトリプシン(125 kDa、約14%)、タンパク質複合体(60 kDa、約15%)、および単量体α1-アンチトリプシン(55 kDa)が検出された。
【0087】
実施例7
BIAcore解析
すべての表面プラズモン共鳴測定を、BIAcore 3000機器(GE Healthcare Biosciences AB, Sweden)上で、25℃で行った。化学的に調製したHIV HR1ペプチド
を、製造業者の指示(GE Healthcare Biosciences AB, Sweden)に従って、CM5バイオセンサーチップ上に固定化した。融合ポリペプチドを25 nMの濃度に希釈し、50μl/分の流速で5分にわたって注入した。その後、様々な混ぜ合わせた分画から得られたタンパク質複合体を、250 nMおよび80 nMの濃度になるよう同一緩衝液中に希釈し、50μl/分の流速で5分にわたって注入した。後に、センサーチップを、1分間、PBS、pH 8.0、0.005%(v/v)Tween 20で再生させた。データ解析を、BIAevaluationソフトウェア(BIAcore, Sweden)で行った(
図4参照)。