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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記の(a)、(b)、(d)、又は(e)の塩基配列を有し、SNP(rs8101030)を検出するためのプライマー又はプローブとして用いることができることを特徴とする高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチド。
(a)配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列のSNP(rs8101030)を含む15〜60塩基長の部分配列である塩基配列。
(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列。
(d)配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列のSNP(rs8101030)を含む15〜60塩基長の部分配列である塩基配列。
(e)前記(d)の塩基配列と相補的な塩基配列。
下記の(a)、(b)、(d)、又は(e)の塩基配列を有し、SNP(rs4808521)を検出するためのプライマー又はプローブとして用いることができることを特徴とする高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチド。
(a)配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列のSNP(rs4808521)を含む15〜60塩基長の部分配列である塩基配列。
(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列。
(d)配列番号4で表される塩基配列、又は配列番号4で表される塩基配列のSNP(rs4808521)を含む15〜60塩基長の部分配列である塩基配列。
(e)前記(d)の塩基配列と相補的な塩基配列。
下記の(a)、(b)、(d)、又は(e)の塩基配列を有し、SNP(rs17796739)を検出するためのプライマー又はプローブとして用いることができることを特徴とする高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチド。
(a)配列番号5で表される塩基配列、又は配列番号5で表される塩基配列のSNP(rs17796739)を含む15〜60塩基長の部分配列である塩基配列。
(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列。
(d)配列番号6で表される塩基配列、又は配列番号6で表される塩基配列のSNP(rs17796739)を含む15〜60塩基長の部分配列である塩基配列。
(e)前記(d)の塩基配列と相補的な塩基配列。
下記の(a)、(b)、(d)、又は(e)の塩基配列を有し、SNP(rs901792)を検出するためのプライマー又はプローブとして用いることができることを特徴とする高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチド。
(a)配列番号7で表される塩基配列、又は配列番号7で表される塩基配列のSNP(rs901792)を含む15〜60塩基長の部分配列である塩基配列。
(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列。
(d)配列番号8で表される塩基配列、又は配列番号8で表される塩基配列のSNP(rs901792)を含む15〜60塩基長の部分配列である塩基配列。
(e)前記(d)の塩基配列と相補的な塩基配列。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
すなわち、適正に高血圧発症のリスクを評価するためには、高血圧感受性遺伝子高血圧発症との相関性の高い有用な高血圧感受性遺伝子を、遺伝子マーカーとして用いることが好ましい。しかしながら、これまでに報告されている高血圧感受性遺伝子は、保有の有無と高血圧発症との相関性は観察されているものの、相関の程度は不十分であり、より信頼性の高い遺伝子マーカーの開発が望まれている。
【0011】
本発明は、保有の有無と高血圧発症との相関性が十分に高く、高血圧発症のリスク判定に用いることができるSNPからなる遺伝子マーカー、及び該SNPを用いた高血圧発症リスク判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、TRIC−A遺伝子欠損マウスが、高血圧症状を呈することを見出した。さらに研究を進めた結果、TRIC−A遺伝子及びその近傍に存在する6種のSNPのうち、SNP(rs8101030)、SNP(rs4808521)、SNP(rs17796739)、及びSNP(rs901792)が、高血圧の遺伝子マーカーとして非常に有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明の第一の発明は、TRIC−A遺伝子のSNP(一塩基多型)を含むTRIC−A遺伝子のSNPからなり、前記SNPが、SNP(rs8101030)、SNP(rs4808521)、SNP(rs17796739)、及びSNP(rs901792)からなる群より選択されることを特徴とする高血圧の遺伝子マーカーを提供するものである。
また、本発明の第二の発明は、遺伝子マーカーを用いて、高血圧発症リスクを判定する方法であって、(a)ヒト個体から採取された核酸の、SNP(rs8101030)、SNP(rs4808521)、SNP(rs17796739)、及びSNP(rs901792)からなる群より選択される1以上をタイピングする工程と、(b)前記工程(a)により得られたタイピング結果に基づき、前記ヒト個体の高血圧発症リスクを判定する工程と、を有
し、前記工程(b)において、SNP(rs8101030)がAA型、CA型、CC型の順にリスクが高いと判定する、前記工程(b)において、SNP(rs4808521)がGG型、GA型、AA型の順にリスクが高いと判定する、前記工程(b)において、SNP(rs17796739)がTT型、TC型、CC型の順にリスクが高いと判定する、又は前記工程(b)において、SNP(rs901792)がCC型、TC型、TT型の順にリスクが高いと判定することを特徴とする、高血圧発症リスク判定方法を提供するものである。
また、本発明の第三の発明は、下記の(a)、(b)、(d)、又は(e)の塩基配列を有し、SNP(rs8101030)を検出するためのプライマー又はプローブとして用いることができることを特徴とする高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドを提供するものである;(a)配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列のSNP(rs8101030)を含む
15〜60塩基長の部分配列である塩基配列、(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列、(d)配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列のSNP(rs8101030)を含む
15〜60塩基長の部分配列である塩基配列、(e)前記(d)の塩基配列と相補的な塩基配列。
また、本発明の第四の発明は、下記の(a)、(b)、(d)、又は(e)の塩基配列を有し、SNP(rs4808521)を検出するためのプライマー又はプローブとして用いることができることを特徴とする高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドを提供するものである;(a)配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列のSNP(rs4808521)を含む
15〜60塩基長の部分配列である塩基配列、(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列、(d)配列番号4で表される塩基配列、又は配列番号4で表される塩基配列のSNP(rs4808521)を含む
15〜60塩基長の部分配列である塩基配列、(e)前記(d)の塩基配列と相補的な塩基配列。
また、本発明の第五の発明は、下記の(a)、(b)、(d)、又は(e)の塩基配列を有し、SNP(rs17796739)を検出するためのプライマー又はプローブとして用いることができることを特徴とする高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドを提供するものである;(a)配列番号5で表される塩基配列、又は配列番号5で表される塩基配列のSNP(rs17796739)を含む
15〜60塩基長の部分配列である塩基配列、(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列、(d)配列番号6で表される塩基配列、又は配列番号6で表される塩基配列のSNP(rs17796739)を含む
15〜60塩基長の部分配列である塩基配列、(e)前記(d)の塩基配列と相補的な塩基配列。
また、本発明の第六の発明は、下記の(a)、(b)、(d)、又は(e)の塩基配列を有し、SNP(rs901792)を検出するためのプライマー又はプローブとして用いることができることを特徴とする高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドを提供するものである;(a)配列番号7で表される塩基配列、又は配列番号7で表される塩基配列のSNP(rs901792)を含む
15〜60塩基長の部分配列である塩基配列、(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列、(d)配列番号8で表される塩基配列、又は配列番号8で表される塩基配列のSNP(rs901792)を含む
15〜60塩基長の部分配列である塩基配列、(e)前記(d)の塩基配列と相補的な塩基配列。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第一の発明である高血圧の遺伝子マーカーは、保有の有無と高血圧発症との相関性が十分に高いSNPからなる遺伝子マーカーである。このため、本発明の高血圧の遺伝子マーカーを用いた本発明の第二の発明である高血圧発症リスク判定方法を用いることにより、より信頼性の高い判定結果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、高血圧とは、循環系障害等の障害を誘発するおそれのあるレベルにまで全身の動脈圧が一過性又は持続的に高くなる状態を意味する。高血圧の具体的な定義は特に限定されないが、例えば、日本高血圧学会が定めた、「高血圧治療ガイドライン2004」(JSH2004)に準拠し、収縮期血圧/拡張期血圧が140/90mmHg以上である状態を意味する。降圧薬等を服用していない状態で、収縮期血圧が140mmHg以上であり、拡張期血圧が90mmHg以上である場合に加えて、収縮期血圧が140mmHg未満であるが、拡張期血圧が90mmHg以上である場合や、拡張期血圧が90mmHg未満であるが、収縮期血圧が140mmHg以上である場合も含まれる。また、高血圧には主に、本態性高血圧と二次性高血圧に大別され、90%以上は本態性高血圧に分類されるが、本発明においては、本態性高血圧であることが好ましい。
【0017】
本発明において、高血圧の遺伝子マーカーとは、高血圧の遺伝要因のマーカーとなる遺伝子を意味する。本発明の高血圧の遺伝子マーカーは、SNPを含み、その対立遺伝子(アレル)として、高血圧感受性遺伝子を含む。
【0018】
本発明において、高血圧発症リスクとは、高血圧の易罹患性(高血圧への罹りやすさ)をいう。すなわち、本発明において、あるヒト個体が高リスク群であるとは、該ヒト個体が高血圧を発症する危険率が高いと予想されることを意味し、低リスク群であるとは、該ヒト個体が高血圧を発症する危険率が低いと予想されることを意味する。
【0019】
本発明において、SNPは、好ましくは公共データベースに登録されたSNPであって、そのリファレンス番号から特定可能なSNPである。例えば、NCBI(National center for Biotechnology Information)のSNPデータベース(dbSNP BUILD124)のリファレンス番号であるrs番号により特定されるSNPや、東京大学医科学研究所が整備した日本人のSNPのデータベースJSNP(登録商標)(http://snp.ims.u−tokyo.ac.jp/index_ja.html)のリファレンス番号であるIMS−JST番号により特定されるSNP等がある。
【0020】
後記実施例1に示すように、TRIC−A遺伝子及びTRIC−B遺伝子の遺伝子型が、それぞれ、野生型、TRIC−Bへテロ欠損体、TRIC−Aホモ欠損体、及び、TRIC−Aがホモ欠損であり、かつTRIC−Bへテロ欠損である変異体(TRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損体)である各マウスの血圧を、Tail−cuff法により測定したところ、TRIC−Aがホモ欠損であるTRIC−Aホモ欠損体及びTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損体において、徐脈及び高血圧が観察された。
【0021】
また、野生型マウスとTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウスに対して、アンジオテンシン受容体、RhoK、a1受容体、エンドセリン受容体、及びバソプレシン受容体に対する阻害薬を適用した場合でも、両マウス群において顕著な差は観察されなかった。この結果から、これらの昇圧液性因子は、TRIC−A遺伝子欠損体において発症している高血圧とは無関係であることが示唆された。一方で、ムスカリン受容体作動薬を適用した場合には、TRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウスでは、野生型マウスよりも大きな収縮期血圧の低下が観察された。すなわち、TRIC−A欠損により引き起こされる高血圧は、昇圧ペプチド等の分泌亢進ではなく、血管機能の異常に起因するものと推測された。
【0022】
さらに、TRIC−Aホモ欠損マウス及びTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウスに対して自律神経拮抗薬を適用した場合でも、両マウス群における高血圧症状は保持されたことから、TRIC−A欠損により引き起こされる高血圧は、交感神経活動の亢進によるものではないことも示唆された。一方で、自律神経拮抗薬の適用により、TRIC−Aホモ欠損マウス及びTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウスは、野生型マウスと同様の内因性心拍数を示した。したがって、TRIC−A欠損マウスの徐脈症状は、高血圧による圧受容器反射の亢進による二次的な異常であると考えられる。
【0023】
心臓、脳、腎臓、骨格筋、腸間膜等の細動脈において、血管内腔圧上昇により発生する血管緊張を筋原性収縮(myogenic tone)と呼ぶ。この筋原性収縮は、微小循環調節に関わる重要な機能であり、高血圧や微小血管スパスムとの関連が注目されている。そこで、後記実施例2に示すように、野生型マウス、TRIC−Aホモ欠損マウス、及びTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウスから、代表的な末梢抵抗血管である腸間膜動脈(mesenteric artery)を摘出し、大動脈(リング)に対してはマグヌス管を用いて張力測定を行い、腸間膜動脈に対しては筋原性収縮の測定を行った。この結果、TRIC−A欠損マウス由来の血管では、定常時筋原性収縮が各内圧で顕著に上昇している(血管内径が収縮している)ことが観察された。これらの結果から、TRIC−A欠損は、内皮又は平滑筋細胞の機能異常を誘導し、血圧を上昇させることが示唆された。
【0024】
このように、TRIC−A欠損により高血圧が引き起こされるため、本発明者らは、TRIC−A遺伝子の遺伝子型が高血圧マーカーとして機能し得る可能性があると考えた。そこで、TRIC−A遺伝子及びその近傍にある6つのSNPについて、本態性高血圧を発症しているヒトの集団(本態性高血圧群)と、正常血圧であるヒトの集団(正常血圧群)のサンプルに対してタイピングを行った。この結果、後記実施例3に示すように、SNP(rs8101030)、SNP(rs4808521)、SNP(rs17796739)、及びSNP(rs901792)という、連鎖不平衡にある4つのSNPが、高血圧と有意な関連を示した。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0025】
<高血圧の遺伝子マーカー>
本発明の第一の発明である高血圧の遺伝子マーカーは、TRIC−A(trimeric intracellular cation−A)遺伝子及びその近傍にあるSNPを含むものである。具体的には、SNP(rs8101030)、SNP(rs4808521)、SNP(rs17796739)、及びSNP(rs901792)からなる群より選択されるSNPであることを特徴とする。該遺伝子マーカーが含むこれらのSNPは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。例えば、SNP(rs17796739)のみであってもよく、SNP(rs17796739)とSNP(rs901792)と
【0026】
ここで、SNP(rs8101030)は、C/A多型であり、後記実施例3の結果から明らかであるように、正常血圧群と比較した場合に高血圧群において、CアレルよりもAアレルの頻度が有意に高く、高血圧の遺伝子マーカーとして有用である。
【0027】
また、SNP(rs4808521)は、A/G多型であり、後記実施例9の結果から明らかであるように、正常血圧群と比較した場合に高血圧群において、AアレルよりもGアレルの頻度が有意に高く、高血圧の遺伝子マーカーとして有用である。
【0028】
また、SNP(rs17796739)は、C/T多型であり、後記実施例3の結果から明らかであるように、正常血圧群と比較した場合に高血圧群において、CアレルよりもTアレルの頻度が有意に高く、高血圧の遺伝子マーカーとして有用である。
【0029】
さらに、SNP(rs901792)は、T/C多型であり、後記実施例3の結果から明らかであるように、正常血圧群と比較した場合に高血圧群において、TアレルよりもCアレルの頻度が有意に高く、高血圧の遺伝子マーカーとして有用である。
【0030】
<高血圧発症リスク判定方法及び高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチド>
本発明の第二の発明である高血圧発症リスク判定方法は、本発明の第一の発明の遺伝子マーカー(以下、本発明の高血圧の遺伝子マーカーということがある。)を用いて高血圧発症のリスクを判定する方法である。具体的には、(a)ヒト個体から採取された核酸の、SNP(rs8101030)、SNP(rs4808521)、SNP(rs17796739)、及びSNP(rs901792)からなる群より選択される1以上をタイピングする工程と、(b)前記工程(a)により得られたタイピング結果に基づき、前記ヒト個体の高血圧発症リスクを判定する工程と、を有することを特徴とする。SNP(rs8101030)、SNP(rs4808521)、SNP(rs17796739)、及びSNP(rs901792)は、いずれも多型ごとに高血圧の発症し易さが統計学上有意に異なるため、同定されたSNPの遺伝子型から、高血圧発症リスクを判定することができる。
【0031】
まず、工程(a)として、ヒト個体から採取された核酸の、SNP(rs8101030)、SNP(rs4808521)、SNP(rs17796739)、及びSNP(rs901792)からなる群より選択される1以上をタイピングする。
本発明において、SNPをタイピングするとは、核酸の塩基配列を解析し、SNPを検出し、多型を同定することを意味する。例えば、判定対象である核酸のSNP(rs8101030)が、CC型、CA型、AA型のいずれであるのかを同定する。
【0032】
SNPタイピングに供される核酸は、ヒト個体から採取されたものであれば、特に限定されるものではなく、血液や体液等の生体試料(検体)中に含有される核酸や、これらの生体試料等から抽出された核酸であってもよく、これらの核酸を鋳型として増幅された核酸であってもよい。また、生体試料中に含有されるRNAから逆転写酵素を用いて合成されたcDNAであってもよい。
【0033】
SNPのタイピング方法は、通常SNPの検出に用いられている方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、Invader(商標、Third Wave Technologies社)法、TaqMan(商標、Applied Biosystems社)法、MALDI−TOF質量分析法、マイクロアレイ法、シークエンス法、PCR(Polymerase Chain Reaction)等の塩基配列増幅法を利用した検出法等が挙げられる。特に、TaqMan法、PCR法、マイクロアレイ法等のように、各多型に特異的にハイブリダイズするプライマーやプローブを用いてSNPを検出する方法であることが好ましい。例えば、PCR法では、野生型アレルにのみ完全に相補的なポリヌクレオチドを野生型プライマーとし、変異型アレルにのみ完全に相補的なポリヌクレオチドを変異型プライマーとした場合に、SNPを含む核酸を鋳型として各プライマーを用いてPCRを行い、PCR産物が得られるか否かによりSNPの遺伝子型を同定することができる。同様に、野生型アレルにのみ完全に相補的なポリヌクレオチドを野生型プローブとし、変異型アレルにのみ完全に相補的なポリヌクレオチドを変異型プローブとした場合に、SNPを含む核酸が固定されたマイクロアレイを用いて各プローブを用いた場合にハイブリダイズするか否かによりSNPの遺伝子型を同定することができる。これらの各SNPに特異的なプローブやプライマーを用いる方法は、シークエンス法等と異なり、SNPを直接識別するため、より信頼性が高く、また、SNPタイピングに要する時間が短く済み、簡便である。
【0034】
なお、各SNPに特異的なプライマーを用いてPCRを行った場合に得られるPCR産物の検出は、PCR産物を検出・定量する場合に通常用いられるいずれの方法によって行っても良い。例えば、電気泳動法により検出してもよく、SYBR Green等の蛍光インターカレーターを用いたリアルタイムPCRにより検出してもよく、一分子蛍光分析法により検出してもよい。
【0035】
本発明及び本願明細書において、本発明の第一の発明である遺伝子マーカーに係る4種のSNPを検出するためのプライマー又はプローブとして用いることができるポリヌクレオチドを、高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドという。高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドは、該SNPを含むゲノムDNAの該SNPを含む部分領域又はその相補鎖にハイブリダイズし得るポリヌクレオチドであれば、特に限定されるものではない。より判定の信頼性を高められるため、遺伝子マーカーであるSNPを含むゲノムDNAの部分領域又はその相補鎖と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドであることが好ましい。高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドの塩基長やTm値等は、タイピング方法や反応条件等を考慮して、適宜決定することができるが、高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドの塩基長としては、10〜60塩基長であることが好ましく、15〜50塩基長であることがより好ましい。
【0036】
なお、本発明において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、5×SSC(150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム、pH7.4)+0.3%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)中で熱変性した後、65℃で4〜16時間のハイブリダイゼーションし、常温の2×SSC+0.1%SDS、及び、2×SSCでそれぞれ5分間洗浄し、0.05×SSCでリンスすること等が挙げられる。
【0037】
このような高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドの設計は、当該技術分野においてよく知られている方法のいずれを用いても行うことができる。例えば、公知のゲノム配列データと汎用されているプライマー設計ツールを用いて、簡便に設計することができる。該プライマー設計ツールとして、例えば、Web上で利用可能なPrimer3等がある。また、公知のゲノム配列データは、通常、国際的な塩基配列データベースである、NCBIや、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)等において入手することができる。
【0038】
このようにして設計した高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドは、当該技術分野においてよく知られている方法のいずれを用いても合成することができる。例えば、ポリ合成メーカーに合成をされ依頼してもよく、市販の合成機を用いて独自に合成してもよい。
【0039】
SNP(rs8101030)を検出するためのプライマー又はプローブとしては、特に、下記の(a)〜(f)の何れかの塩基配列を有している本発明の第三の発明である高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチド(以下、SNP(rs8101030)検出用ポリヌクレオチドという。)を用いることが好ましい。
(a)配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列のSNP(rs8101030)を含む部分配列である塩基配列。
(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列。
(c)前記(a)又は(b)の塩基配列において、SNP(rs8101030)以外の1〜数個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列であって、当該塩基配列からなるポリヌクレオチドが、前記(a)又は(b)の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列。
(d)配列番号2で表される塩基配列、又は配列番号2で表される塩基配列のSNP(rs8101030)を含む部分配列である塩基配列。
(e)前記(d)の塩基配列と相補的な塩基配列。
(f)前記(d)又は(e)の塩基配列において、SNP(rs8101030)以外の1〜数個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列であって、当該塩基配列からなるポリヌクレオチドが、前記(d)又は(e)の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列。
【0040】
なお、配列番号1で表される塩基配列及び配列番号2で表される塩基配列の第136番目の塩基がSNP(rs8101030)である。また、上記(a)〜(c)の何れかの塩基配列を有しているポリヌクレオチドは、SNP(rs8101030)のAアレルを検出し得るポリヌクレオチドであり、上記(d)〜(f)の何れかの塩基配列を有しているポリヌクレオチドは、SNP(rs8101030)のCアレルを検出し得るポリヌクレオチドである。
【0041】
SNP(rs4808521)を検出するためのプライマー又はプローブとしては、特に、下記の(a)〜(f)の何れかの塩基配列を有している本発明の第四の発明である高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチド(以下、SNP(rs4808521)検出用ポリヌクレオチドという。)を用いることが好ましい。
(a)配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列のSNP(rs4808521)を含む部分配列である塩基配列。
(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列。
(c)前記(a)又は(b)の塩基配列において、SNP(rs4808521)以外の1〜数個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列であって、当該塩基配列からなるポリヌクレオチドが、前記(a)又は(b)の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列。
(d)配列番号4で表される塩基配列、又は配列番号4で表される塩基配列のSNP(rs4808521)を含む部分配列である塩基配列。
(e)前記(d)の塩基配列と相補的な塩基配列。
(f)前記(d)又は(e)の塩基配列において、SNP(rs4808521)以外の1〜数個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列であって、当該塩基配列からなるポリヌクレオチドが、前記(d)又は(e)の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列。
【0042】
なお、配列番号3で表される塩基配列及び配列番号4で表される塩基配列の第142番目の塩基がSNP(rs4808521)である。また、上記(a)〜(c)の何れかの塩基配列を有しているポリヌクレオチドは、SNP(rs4808521)のAアレルを検出し得るポリヌクレオチドであり、上記(d)〜(f)の何れかの塩基配列を有しているポリヌクレオチドは、SNP(rs4808521)のGアレルを検出し得るポリヌクレオチドである。
【0043】
SNP(rs17796739)を検出するためのプライマー又はプローブとしては、特に、下記の(a)〜(f)の何れかの塩基配列を有している本発明の第五の発明である高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチド(以下、SNP(rs17796739)検出用ポリヌクレオチドという。)を用いることが好ましい。
(a)配列番号5で表される塩基配列、又は配列番号5で表される塩基配列のSNP(rs17796739)を含む部分配列である塩基配列。
(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列。
(c)前記(a)又は(b)の塩基配列において、SNP(rs17796739)以外の1〜数個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列であって、当該塩基配列からなるポリヌクレオチドが、前記(a)又は(b)の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列。
(d)配列番号6で表される塩基配列、又は配列番号6で表される塩基配列のSNP(rs17796739)を含む部分配列である塩基配列。
(e)前記(d)の塩基配列と相補的な塩基配列。
(f)前記(d)又は(e)の塩基配列において、SNP(rs17796739)以外の1〜数個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列であって、当該塩基配列からなるポリヌクレオチドが、前記(d)又は(e)の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列。
【0044】
なお、配列番号5で表される塩基配列及び配列番号6で表される塩基配列の第131番目の塩基がSNP(rs17796739)である。また、上記(a)〜(c)の何れかの塩基配列を有しているポリヌクレオチドは、SNP(rs17796739)のCアレルを検出し得るポリヌクレオチドであり、上記(d)〜(f)の何れかの塩基配列を有しているポリヌクレオチドは、SNP(rs17796739)のTアレルを検出し得るポリヌクレオチドである。
【0045】
SNP(rs901792)を検出するためのプライマー又はプローブとしては、特に、下記の(a)〜(f)の何れかの塩基配列を有している本発明の第六の発明である高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチド(以下、SNP(rs901792)検出用ポリヌクレオチドという。)を用いることが好ましい。
(a)配列番号7で表される塩基配列、又は配列番号7で表される塩基配列のSNP(rs901792)を含む部分配列である塩基配列。
(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列。
(c)前記(a)又は(b)の塩基配列において、SNP(rs901792)以外の1〜数個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列であって、当該塩基配列からなるポリヌクレオチドが、前記(a)又は(b)の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列。
(d)配列番号8で表される塩基配列、又は配列番号8で表される塩基配列のSNP(rs901792)を含む部分配列である塩基配列。
(e)前記(d)の塩基配列と相補的な塩基配列。
(f)前記(d)又は(e)の塩基配列において、SNP(rs901792)以外の1〜数個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列であって、当該塩基配列からなるポリヌクレオチドが、前記(d)又は(e)の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列。
【0046】
なお、配列番号7で表される塩基配列及び配列番号8で表される塩基配列の第141番目の塩基がSNP(rs901792)である。また、上記(a)〜(c)の何れかの塩基配列を有しているポリヌクレオチドは、SNP(rs901792)のCアレルを検出し得るポリヌクレオチドであり、上記(d)〜(f)の何れかの塩基配列を有しているポリヌクレオチドは、SNP(rs901792)のTアレルを検出し得るポリヌクレオチドである。
【0047】
その他、工程(a)において用いられる各高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドは、検出対象の遺伝子の塩基配列と相補的又は相同的な配列以外にも、SNPタイピングを阻害しない程度において、付加的な配列を有することができる。該付加的な配列として、例えば、制限酵素認識配列や、核酸の標識に供される配列等がある。また、各高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドは、SNPタイピング結果の検出や解析を容易にするために、SNPタイピングを阻害しない程度において、標識物質を付加することができる。該標識物質は、通常ポリヌクレオチドの標識に用いられる化合物であれば特に限定されるものではない。該標識物質として、例えば、放射性同位体、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン等の低分子化合物等がある。
【0048】
また、ヒト個体から採取された核酸、高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチド等の、SNPタイピングにおいて用いられる量は、特に限定されるものではなく、通常用いられる量で用いることができる。また、ポリメラーゼ等の酵素や、ヌクレオチド、反応用バッファー等は、特に限定されるものではなく、通常SNPタイピングを行う場合に用いられるものを、通常用いられる量で用いることができる。
【0049】
次に、工程(b)として、工程(a)により得られたタイピング結果に基づき、前記ヒト個体の高血圧発症リスクを判定する。例えば、高血圧発症リスクは、下記表4〜9等のオッズ比を利用して判定してもよい。その他、本発明の高血圧の遺伝子マーカーについてメタアナリシスを行って得られるオッズ比を利用して判定してもよく、本発明の高血圧の遺伝子マーカーについてコホート研究を行って得られる相対危険度(リスク比)を利用して判定してもよく、他の従来公知の統計手法を用いて統計学的に処理した値を利用して判定してもよい。
【0050】
具体的には、SNP(rs8101030)のタイピング結果を用いる場合には、AA型、CA型、CC型の順にリスクが高いと判定することができる。
また、SNP(rs4808521)のタイピング結果を用いる場合には、GG型、GA型、AA型の順にリスクが高いと判定することができる。
また、SNP(rs17796739)のタイピング結果を用いる場合には、TT型、CT型、CC型の順にリスクが高いと判定することができる。
さらに、SNP(rs901792)のタイピング結果を用いる場合には、CC型、TC型、TT型の順にリスクが高いと判定することができる。
【0051】
また、本発明の遺伝子マーカーは、単独よりも組み合わせることにより、より適確に高血圧発症リスクを判定することができる。この際、その他の高血圧の遺伝子マーカーと組み合わせて使用することもできる。組み合わせる遺伝子マーカーは、特に限定されるものではなく、公知の高血圧の遺伝子マーカーを組み合わせてもよい。
【0052】
その他、工程(b)における高血圧発症リスクの判定は、工程(a)により得られたタイピング結果と、遺伝子マーカー以外の1以上の高血圧の危険因子を組み合わせて行ってもよい。遺伝子マーカー以外の危険因子として、例えば、ヒト個体の性別、年齢、BMI値、脳血管疾患の有無、心疾患の有無、喫煙の有無、飲酒量、総コレステロール値、HDLコレステロール値、中性脂肪値、空腹時血糖値等がある。
【0053】
工程(a)におけるSNPタイピングを、マイクロアレイ法を用いて行う場合には、固相担体上に、SNP(rs8101030)検出用ポリヌクレオチドと、SNP(rs4808521)検出用ポリヌクレオチドと、SNP(rs17796739)検出用ポリヌクレオチドと、SNP(rs901792)検出用ポリヌクレオチドとの少なくとも1が固定されているマイクロアレイを用いることが好ましい。
【0054】
なお、本発明においてマイクロアレイとは、固相担体上にプローブとなるポリヌクレオチドが、位置を特定できるように固定された検出デバイスのことを言い、プローブ(ポリヌクレオチ)が固相化された担体自体は分散性であってもよく、検出時に位置が特定できるように2次元的な固相担体上に固定化できる状態であればよい。
【0055】
また、工程(a)におけるSNPタイピングに用いる高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチド等をキット化することにより、より簡便に工程(a)のSNP(rs8101030)、SNP(rs4808521)、SNP(rs17796739)、及びSNP(rs901792)からなる群より選択される1以上のSNPのタイピングに用いられるSNPタイピングキットとして、SNP(rs8101030)検出用ポリヌクレオチドと、SNP(rs4808521)検出用ポリヌクレオチドと、SNP(rs17796739)検出用ポリヌクレオチドと、SNP(rs901792)検出用ポリヌクレオチドと、固相担体上にこれらの高血圧発症リスク判定用ポリヌクレオチドの少なくとも1が固定されているマイクロアレイと、からなる群より選ばれる1以上を含むものであることが好ましい。
【0056】
<TRIC−A遺伝子欠損小動物>
前述のように、TRIC−A遺伝子を欠損させた小動物は、高血圧症状を呈する。このため、TRIC−A遺伝子欠損小動物は、高血圧病態モデルとして使用することができる。なお、本発明及び本願明細書において、「高血圧病態」には、高血圧のみならず、高血圧に起因して発症する疾患、若しくは発症が高血圧と何らかの因果関係があると推察される疾患も含まれる。このような疾患としては、例えば、
心臓、血管系、脳、腎臓等の疾患・障害が挙げられる。また、例えば、TRIC−A遺伝子欠損小動物は、カルシウム拮抗薬や高血圧薬のスクリーニングのための試験動物として使用することができる。
【0057】
本発明において用いられるTRIC−A遺伝子欠損小動物は、コンベンショナルな欠損小動物であってもよく、組織特異的や時期特異的にTRIC−A遺伝子を欠損させるコンディショナルな欠損小動物であってもよい。なお、TRIC−A遺伝子欠損小動物は、相同組み換えを利用した方法等、遺伝子欠損動物を作製する際に用いられる公知の手法の中から適宜選択して用いることができる。また、本発明及び本願明細書において、実験小動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ等が挙げられる。
【実施例】
【0058】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例1] TRIC遺伝子欠損マウスの血圧測定
野生型マウス、TRIC−Bへテロ欠損マウス、TRIC−Aホモ欠損マウス、及び、TRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウスの血圧を測定した。
なお、各欠損マウスは、非特許文献1に記載の方法で作製した。具体的には、まず、TRIC−A遺伝子又はTRIC−B遺伝子の第1番目のエキソンの末端にネオマイシン耐性遺伝子を組み込んだターゲッティングベクターを作製し、当該ターゲッティングベクターをエレクトロポレーション法によりES細胞に導入して遺伝子相同組み換えによりES細胞に導入し、相同的遺伝子組換えが起こったES細胞を選別した。インジェクション法により、この遺伝子組換えES細胞を胚盤胞期のマウス胚中に注入して作製したキメラ胚を偽妊娠マウスの子宮に移植し、生殖細胞が組換えES細胞由来の細胞により形成されているキメラマウスを得た。このキメラマウス同士を交配することにより、各欠損マウスを得た。
【0060】
血圧測定は、8〜12週齢の雌雄のマウスを用いて、Tail−cuff法により行った。各マウスにつき1日5回を3日間測定し、得られた測定値の中から最大値及び最小値を除いた3回分を、1匹分のデータとした。測定結果を表1に示す。表1中、「BW」は体重(body weight)を、「HR」は心拍数(heart rate)を、「SBP」は収縮期血圧(systolic blood pressure)を、「DBP」は拡張期血圧(diastolic blood pressure)を、「MBP」は平均血圧(mean blood pressure)を、それぞれ意味する。また、「WT」は野生型マウスを、「B+/−」はTRIC−Bへテロ欠損マウスを、「A−/−」はTRIC−Aホモ欠損マウスを、「A−/−B+/−」はTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウスを、それぞれ意味し、「n」は、測定に用いたマウスの数を意味する。さらに、p値は、全て野生型マウスに対するものである。この結果、TRIC−Aがホモ欠損であるTRIC−Aホモ欠損体及びTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損体において、徐脈及び高血圧が観察された。
【0061】
【表1】
【0062】
さらに、野生型マウスとTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウス(各6匹)に対して、アンジオテンシン受容体、RhoK、a1受容体、エンドセリン受容体、及びバソプレシン受容体に対する阻害薬、並びにムスカリン受容体に対する作動薬を適用し、血圧の変化を観察した。アンジオテンシン受容体blockerとしてCandesartan(
図1中、「Cande」)を、RhoK阻害薬としてY−27632を、a1 blockerとしてPrazosinを、エンドセリン受容体阻害薬としてBQ123を、バソプレシン受容体阻害薬としてOPC−21268を、ムスカリン受容体作動薬としてカルバコール(CCh)を、それぞれ用いた。
具体的には、各マウスについて、薬剤適用前の収縮期血圧と、薬剤の腹腔内投与後15〜30分の収縮期血圧とをTail−cuff法により測定し、薬剤適用前の収縮期血圧に対する薬剤投与後の収縮期血圧の変化率(ΔSBP)を算出した。算出結果を
図1に示す。なお、バソプレシン受容体阻害薬は血圧を変化させなかったため、図示を省略した。この結果、各薬物の血圧に対する効果には、両マウス群において顕著な差は観察されなかった。したがって、これらの昇圧液性因子は、TRIC−A遺伝子欠損体において発症している高血圧とは無関係であることが示唆された。
【0063】
次に、野生型マウス、TRIC−Aホモ欠損マウス、及びTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウス(各7匹)に対して、自立神経拮抗薬であるatropineとmetoprololを適用し、血圧の変化を観察した。具体的には、各マウスについて、4mg/kgのatropine、4mg/kgのmetoprolol、又は4mg/kgのatropineと4mg/kgのmetoprololとの両方を、それぞれ投与し、投与前(表中、「Before」)と投与後(表中、「After」)の収縮期血圧及び心拍数を測定し、その変化を調べた。表2に収縮期血圧(SBP)の測定結果を、表3に心拍数(HR)の測定結果を、それぞれ示す。この結果、TRIC−Aホモ欠損マウス及びTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウスに対しては、atropine又はmetoprololを適用した場合でも、高血圧症状は保持された。一方で、心拍数は、TRIC−Aホモ欠損マウス及びTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウスは、atropine又はmetoprololの適用により、野生型マウスと同様の内因性心拍数を示した。
これらの結果から、TRIC−A欠損により引き起こされる高血圧は、交感神経活動の亢進によるものではないこと、及び、徐脈症状は、高血圧による圧受容器反射の亢進による二次的な異常であることが示唆された。
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
[実施例2] TRIC遺伝子欠損マウスの腸間膜動脈の筋原性収縮測定
野生型マウス(1匹)、TRIC−Aホモ欠損マウス(3匹)、及びTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウス(3匹)から腸間膜動脈を摘出し、両端にガラス毛細管を挿入した灌流血管標本を作製し、ビデオカメラを搭載した顕微鏡にセットすることで、血管径の変化を観察することで、筋原性収縮の測定を行った。
図2は、各マウス群の腸間膜動脈の血管径の変化を示している。
図2(A)は、血管内圧を10〜90mmHgまで増大させた時の血管径の変化を示し、
図2(B)は、70mmHg負荷時の筋原性収縮(灌流液をカルシウムイオンフリーにしたときの血管径との差)を示している。
図2(A)に示すように、TRIC−Aホモ欠損マウスは、野生型マウスに比べて各内圧での血管径は小さかった。また、
図2(B)の70mmHg負荷時の例を示すように、TRIC−Aホモ欠損マウスは、野生型マウスよりも筋原性収縮が大きく、血管が常に収縮していると考えられた。
さらに、10
−7Mのphenylephrine又は10
−7Mのacetylcholine(ACh)で処理した場合の血管径を、処理前と比較して、その変化を調べた。phenylephrine処理により血管は収縮し、acetylcholine処理により血管は弛緩する。具体的には、灌流液にphenylephrine又はacetylcholineを添加する前の血管径と、添加後の血管径とを測定し、添加前の血管径に対する添加後の血管径の変化量を算出した。
図3は、phenylephrine(A)及びacetylcholine(B)を処理した場合の血管径の変化の測定結果を示した図である。この結果、腸管膜動脈では、両欠損マウスと野生型マウスでは、phenylephrine収縮に大きな差異はみられなかった。一方、acetylcholine単独処理の場合には、野生型マウスでは血管径にほとんど変化がみられなかったが、TRIC−Aホモ欠損マウスとTRIC−Aホモ・TRIC−Bへテロ欠損マウスでは、acetylcholine処理により血管が顕著に弛緩した。この結果は、両欠損マウスにおいて、定常状態の筋原性収縮が大きくなっていることとも一致した。
このように、抵抗血管である腸管膜動脈において、TRIC−A欠損マウス由来の血管では、定常時筋原性収縮が各内圧で顕著に上昇している(血管内径が収縮している)ことが観察された。これらの結果から、TRIC−A欠損は、内皮又は平滑筋細胞の機能異常を誘導し、血圧を上昇させることが示唆される。
【0067】
なお、実施例1及び2の結果から、リアノジン受容体(RyR2)とカルシウムイオン依存性カリウムイオンチャネル(BK)が中核となる血管平滑筋内の弛緩性膜電位調節機構の破綻が、TRIC−A欠損マウスで想定される。
【0068】
[実施例3] TRIC−A遺伝子及びその近傍のSNPと高血圧との相関
一般地域住民及び高血圧患者を対象とし、SNPの遺伝子型と高血圧との関連を調べた。
まず、対象者から採取した末梢血中の白血球からDNA抽出キットであるQIAamp DNA Blood Kit(キアゲン社製)を用いて、それぞれのゲノムDNAを抽出した。得られたゲノムDNAを、GenomiPhi DNA Amplification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて増幅した。増幅したDNAをbuffer AE(キアゲン社製)を用いて50倍に希釈したものを、SNPタイピングに供した。
各対象者の増幅済みゲノムDNAを鋳型として、SNP(rs2279448)、SNP(rs8101030)、SNP(rs4808521)、SNP(rs2279449)、SNP(rs17796739)、及びSNP(rs901792)をTaqManプローブ法で解析した。各SNPの検出には、特異的なTaqMan Pre−Designed SNP Genotyping Assay(アプライドバイオシステムズ社製)を用いた。具体的には、増幅済みゲノムDNA溶液2.0μLに、2.5μLのTaqMan Universal Master Mix(アプライドバイオシステムズ社製)、0.05μLの各多型に特異的なTaqMan Pre−Designed SNP Genotyping Assay、0.45μLの蒸留水を加えて反応溶液を調整した後、PCR法による伸長反応に供した。伸長反応は、52℃で2分間、ついで95℃で10分間の加温の後、95℃で15秒間、60℃で1分間の加温を60回繰り返した。伸長反応後に、7900HT Fast リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて蛍光強度を測定することにより、遺伝子多型をタイピングした。使用したTaqManプライマーの型番は、rs2279448がC__15967838_10、rs8101030がC__29997177_10、rs4808521がC__31765885_10、rs2279449がC__15967837_10、rs17796739がC__34044004_10、rs901792がC__1975557_10である。遺伝子解析は、本態性高血圧患者1119例、正常血圧者1140例を対象に行った。
【0069】
同定されたSNPの遺伝子型と高血圧との相関を、相関解析(アソシエーション法)により解析した。具体的には、対象者を、ヒト本態性高血圧群(収縮期血圧140mmHg以上、及び/又は拡張期血圧90mmHg以上、及び/又は降圧薬服用)と正常血圧群(高血圧群以外)とに分類し、上記で同定された多型の頻度を解析した。統計学的な解析手法としてはχ二乗検定を用いた。解析結果を表4〜9に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
【表7】
【0074】
【表8】
【0075】
【表9】
【0076】
この結果、表中のp値から明らかであるように、SNP(rs8101030)、SNP(rs4808521)、SNP(rs17796739)、及びSNP(rs901792)の4種のSNPが、高血圧と有意な関連を示した。
これらの結果から、この4種のSNPの遺伝子型を調べることにより、高血圧を発症する相対危険度を判定出来ることが明らかである。