特許第5757663号(P5757663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5757663セシウム除去用水浄化フィルターカートリッジおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5757663
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】セシウム除去用水浄化フィルターカートリッジおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/06 20060101AFI20150709BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20150709BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
   G21F9/06 521M
   B01D39/16 A
   G21F9/06 521F
   G21F9/12 501F
   G21F9/12 501J
   G21F9/12 501K
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-232396(P2011-232396)
(22)【出願日】2011年10月24日
(65)【公開番号】特開2013-88411(P2013-88411A)
(43)【公開日】2013年5月13日
【審査請求日】2014年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000201881
【氏名又は名称】倉敷繊維加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100175190
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 裕明
(74)【代理人】
【識別番号】100106596
【弁理士】
【氏名又は名称】河備 健二
(72)【発明者】
【氏名】玉田 正男
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 典明
(72)【発明者】
【氏名】植木 悠二
(72)【発明者】
【氏名】中野 正憲
(72)【発明者】
【氏名】近石 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】見上 隆志
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−090259(JP,A)
【文献】 特開平09−253432(JP,A)
【文献】 特表2010−534560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/06
G21F 9/12
B01D 39/00−41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン製メルトブロー不織布を巻き回してなる濾過層(A)と、濾過層(A)の上からスルホン基を付加した不織布を巻き回してなる濾過層(B)と、さらに、濾過層(B)の上からゼオライト粒子を表面に固定した不織布を巻き回してなる濾過層(C)とからなる3種類の機能性不織布によって濾過層が構成されることを特徴とするセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジ。
【請求項2】
前記濾過層(A)を構成するポリオレフィン製メルトブロー不織布は、平均繊維径が2〜8μm、通気度が10〜50cc/cm/sの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の水浄化フィルターカートリッジ。
【請求項3】
前記濾過層(B)を構成する機能性不織布は、平均繊維径が6〜25μmの範囲より選ばれたポリエチレン製不織布を基材とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の水浄化フィルターカートリッジ。
【請求項4】
前記濾過層(C)を構成する機能性不織布は、平均繊維径が10〜25μmの範囲から選ばれるポリエステル又はポリオレフィン繊維で構成される不織布上に、平均粒子径が5〜1,000μmのゼオライト粒子を、樹脂バインダまたはホットメルト接着剤により、固定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水浄化フィルターカートリッジ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジの製造方法であって、
先ず、カートリッジの巻き芯に、濾過層(A)としてポリオレフィン製メルトブロー不織布を複数回巻き回し、次いで、濾過層(A)の上から、濾過層(B)としてスルホン基付加の不織布を複数巻き回し、さらに、濾過層(B)の上から、濾過層(C)としてゼオライト粒子を表面に固定した不織布を巻き重ねて、3種の濾過層を構成することを特徴とするセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に存在する有害金属、特に放射性セシウムを除去するための水浄化フィルターカートリッジおよびその製造方法に関し、より詳しくは、地下水、上水、工業用水、農業水産業用水または汚染土壌の洗浄水に含まれる有害金属、特に放射性セシウムを効率よく捕集する水浄化フィルターカートリッジおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水、上水、飲料水、工業用水、農業水産業用水、各種生活用水などに含まれる有害金属としては、ヒ素、鉛、カドミウム、アンチモン、放射性セシウム同位元素などが挙げられる。近年、特に環境対策の一環として、こうした水中からの有害金属の除去が求められ、安価で効率よく短時間で水質を改善することが求められている。
【0003】
従来から用いられている水浄化方法の例をいくつか挙げると、先ず、吸着剤と凝集沈殿剤を使用する沈降方式が挙げられる。例えば、水槽、貯水設備に吸着剤を投入し、凝集沈殿剤を加えて有害金属を捕集する方法である。吸着剤として、ゼオライト、フェロシアン化化合物、顔料の一種プルシアンブルーなどが提案され、使用されている。
しかしながら、この方法は、大掛かりな定置型の浄化漕が必要であり、沈降時間も非常に長く、且つ吸着剤や凝集沈殿剤を使用するため、処理水を上水や農水産物用水として利用することには、多くの安全上の課題を抱えている。また、凝集沈殿物は、多量の水分を含み、その処分や保管にも多くの課題を抱えている。
一方、浸透作用を利用した逆浸透膜(RO膜)も使用されるが、濾過速度が遅く、装置が大型化することから、大量消費型の用水や地域対応の水質浄化には、浄水コスト及び処理量の制約等の課題は避けられない。
さらに、セシウム(放射性セシウムを含む)は、水中に陽イオンとして存在する他に、微小な地下土壌のダスト(以下、パーティクルともいう。)に強く吸着されており、水中に微粒子として懸濁しても存在する。こうした浮遊パーティクルについては、上述の方法は、十分な濾過除去の機能を有しない。
【0004】
上記の技術上の課題解決の方法として、通水性不織布にグラフト技術を応用して、金属イオン交換基を付与することにより、温泉水に溶存する有用・有害金属を吸着することができる吸着材が提案されている(特許文献1参照。)。
このような不織布製吸着材は、吸着速度も速いため、濾過処理の速度も速く、衛生安全上及び使用後の廃棄処理に手間がかからず、水浄化には好ましいものであるが、その反面、グラフト重合技術(例えば、特許文献2、3等参照。)を用いる多段階反応プロセスを経るだけに、製造コストが高く、大量の汚染水を安価に浄化するという経済面のニーズに適合しにくい。また、水中に微量に混在するカルシウム、マグネシウム、カリウムなども余分に吸着し、これによってセシウムを捕集する吸着容量を侵食するため、使用寿命が実質的に短くなるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−026588号公報
【特許文献2】特開平11−279945号公報
【特許文献3】特開2008−229586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、地下水や上水、土壌洗浄水、各種排水などに含まれる放射性セシウムを簡便にかつ経済的に除去し、廃棄処理も、容易な水処理用フィルターカートリッジおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、かかる従来技術の問題点を解決するため、鋭意研究の結果、特定の3種類の機能性不織布を濾材として順次巻き回して積層し、コンパクトなカートリッジユニットとすることによって、さらに、これを従来の水処理装置に交換フィルタとして組み入れることにより、効率的かつ経済的に水を浄化できるフィルターカートリッジ(以下、単にカートリッジともいう。)を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る特定の3種類の機能不織布とは、(1)平均繊維径が2〜8μmの範囲の極細繊維からなるメルトブロー法不織布、(2)スルホン基付加不織布、および(3)ゼオライト粒子を添着または挟合により固定した不織布である。
上記機能性不織布(1)は、放射性セシウムなどの有害金属を吸着している微小のパーティクルを物理的に高精度かつ高速度で捕集する機能を持たせた濾材であり、これを濾過出口側である最下流側(巻き芯側)に配するものである。
また、上記機能性不織布(2)は、水中のセシウムをイオン交換によって高精度に吸着する機能濾材である。
さらに、上記機能性不織布(3)は、例えば、ゼオライト粒子を表面に固定した不織布であって、セシウムや他の金属陽イオンを吸着し、上記機能性不織布(2)のプレフィルタの役目をさせる吸着濾材として、最上流(流入側)の位置に配するものである。
本発明は、上記の構成によって、これら3種類の機能性不織布を一つのフィルタユニットに組み入れた、セシウム除去用水浄化用フィルターカートリッジ及びその製造方法を提供できるものである。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ポリオレフィン製メルトブロー不織布を巻き回してなる濾過層(A)と、濾過層(A)の上からスルホン基を付加した不織布を巻き回してなる濾過層(B)と、さらに、濾過層(B)の上からゼオライト粒子を表面に固定した不織布を巻き回してなる濾過層(C)とからなる3種類の機能性不織布によって濾過層が構成されることを特徴とするセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジが提供される。
【0009】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記濾過層(A)を構成するポリオレフィン製メルトブロー不織布は、平均繊維径が2〜8μm、通気度が10〜50cc/cm/sの範囲にあることを特徴とする水浄化フィルターカートリッジが提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記濾過層(B)を構成する機能性不織布は、平均繊維径が6〜25μmの範囲より選ばれたポリエチレン製不織布を基材とすることを特徴とする水浄化フィルターカートリッジが提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記濾過層(C)を構成する機能性不織布は、平均繊維径が10〜25μmの範囲から選ばれるポリエステル又はポリオレフィン繊維で構成される不織布上に、平均粒子径が5〜1,000μmのゼオライト粒子を、樹脂バインダまたはホットメルト接着剤により、固定することを特徴とする水浄化フィルターカートリッジが提供される。
【0010】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明に係るセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジの製造方法であって、
先ず、カートリッジの巻き芯に、濾過層(A)としてポリオレフィン製メルトブロー不織布を複数回巻き回し、次いで、濾過層(A)の上から、濾過層(B)としてスルホン基付加の不織布を複数巻き回し、さらに、濾過層(B)の上から、濾過層(C)としてゼオライト粒子を表面に固定した不織布を巻き重ねて、3種の濾過層を構成することを特徴とするセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水浄化フィルターカートリッジは、上述のように、3種の異なる濾過層で構成され、通水においては、それらの機能は、以下のとおりである。
先ず、上流側(流入側)に配置される濾過層(C)のゼオライト固定不織布によって、水中に含まれる雑多な金属イオン、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの金属イオンを吸着するとともに、水中に含まれる粗大なパーティクルを物理的に捕集する。
次に、その下流に配置する濾過層(B)のスルホン化不織布によって、高精度にセシウムイオンを捕捉する。すなわち、濾過層(C)は、セシウム吸着のプレフィルタの役目をなし、濾過層(B)のセシウムイオン吸着容量を保つ役目をなす。
しかしながら、これらの濾過層では、流入してくる極めて微小なパーティクルまでは十分には捕捉できない。しかも、このパーティクルは、セシウムを吸着しているものが含まれる。このような微小パーティクルを捕捉するために、極細繊維からなるメルトブロー不織布を用いた濾過層(A)を、最下流側に設ける。
このように、本発明の水浄化フィルターカートリッジは、水に含まれるセシウムイオンやセシウムを吸着している微小パーティクルを、高精度且つ高速度で捕捉することができ、経済性に配慮した、小型で処理能力の高い交換型の水浄化に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジの構造を説明する模式図である。
図2】本発明のセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジの濾過性能を評価する通液試験装置の概要を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジ及びその製造方法について、項目毎に詳細に説明する。
本発明のセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジは、ポリオレフィン製メルトブロー不織布を巻き回してなる濾過層(A)と、濾過層(A)の上からスルホン基を付加した不織布を巻き回してなる濾過層(B)と、さらに、濾過層(B)の上からゼオライト粒子を表面に固定した不織布を巻き回してなる濾過層(C)とからなる3種類の機能性不織布によって濾過層が構成されることを特徴とする。
また、本発明のセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジの製造方法は、先ず、カートリッジの巻き芯に、濾過層(A)としてポリオレフィン製メルトブロー不織布を複数回巻き回し、次いで、濾過層(A)の上から、濾過層(B)としてスルホン基付加の不織布を複数巻き回し、さらに、濾過層(B)の上から、濾過層(C)としてゼオライト粒子を表面に固定した不織布を巻き重ねて、3種の濾過層を構成することを特徴とする。
【0014】
1.濾過層(A)
本発明において、流出側にある最下流の濾過層(A)(以下、A層ともいう。)を構成するメルトブロー不織布の詳細について、説明する。
このA層の不織布は、カートリッジの最下流に位置して、上流から来る浮遊微粒子を物理的に捕捉する役目を担う。浮遊微粒子には、以下に述べるセシウムを吸着した遊離ゼオライトや土壌パーティクルも含まれる可能性がある。
したがって、これらのパーティクルを物理的に濾過するために、捕集効率の高い不織布を用いる必要があり、その目的により、平均径が2〜8μmの範囲の繊維で構成され、その通気度が、10〜50cc/cm/sの範囲に調節されたメルトブロー不織布を用い、これを巻き回して、物理的濾過の機能を有する濾過層を形成させる。
ここで、このメルトブロー不織布の目付重量は、巻き回し加工性の観点から、12〜30g/mの範囲から選ばれ、必要に応じて、予め熱ロールカレンダで圧密し、通気度を調整する。このようにして、メルトブロー不織布の繊維径、通気度、目付重量を調節して、粒子の濾過精度、通液抵抗、濾過寿命などを調整する。
また、このメルトブロー不織布の材質は、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンから選ばれ、特に、細い繊維径を得るには、ポリプロピレンが原料として適している。
【0015】
2.濾過層(B)
次に、本発明において、上記濾過層(A)の上流で、濾過層(C)の下流側の中間に配置される濾過層(B)(以下、B層ともいう。)を構成する不織布について説明する。
この不織布は、不織布の製法により長繊維系と短繊維系に大別され、その繊維径は全体としては、平均径6〜25μmの範囲より選ばれるが、以下の述べるように、各々の製法に適した繊維径(平均繊維径)の範囲から選ばれる。
すなわち、短繊維系不織布として、ポリエチレンを素材とする平均繊維径が10〜25μmの範囲で構成されるサーマルボンド不織布、又は、長繊維系不織布として、ポリエチレンを素材とする平均繊維径が6〜10μmの繊維で構成されるメルトブロー不織布のいずれかの不織布を基材とし、これに、イオン交換基を付与して、セシウムを吸着させる。
【0016】
上記の不織布に、各種のイオン交換性官能基を付与することについては、それ自体、すでに知られた方法がある(例えば、前記特許文献2及び3参照。)。
しかしながら、セシウムを吸着する能力の高い官能基は、これまでに知られておらず、そのため、以下に述べる方法によって、ポリエチレン不織布に、各種の官能基を付与して、セシウムの吸着性を調査した。
【0017】
先ず、不織布として、平均径が18μmの高密度ポリエチレン短繊維(JNC株式会社製)をサーマルボンド法で不織布にしたものを、基材(目付重量:85g/m2、厚み0.21mm)として使用した。尚、基材としては、これに限定されない。
この不織布に、50kGyのγ線を照射し、照射後の該高密度ポリエチレン不織布を、予め窒素置換(窒素バブリング)したエマルション状態のモノマー溶液に浸漬し、55℃に保持しながら、エマルショングラフト重合反応を4時間行った。
使用したグラフトモノマー溶液は、液量全体重量基準で、グリシジルメタクリレート(GMA)5%と界面活性剤であるTween20(関東化学株式会社製)を0.5%含む純水エマルション溶液である。グラフト重合反応後のグラフト率を評価したところ、GMAグラフト率は、120%であった。
【0018】
次に、このGMAをグラフト重合した不織布に、各種のイオン交換性モノマーを転化付与した。
以下に、強カチオン性の代表例として、スルホン基を転化付与する方法を述べる。
スルホン基の導入には、10%亜硫酸ナトリウム水溶液を用い、80℃、9時間反応させて、スルホン基を導入した。下式に示すスルホン化転化率(%)として、スルホン基に転化される前のエポキシ基のモル数に対するエポキシ基から転化したスルホン基のモル数の割合を算出した。
転化率(%)=100×エポキシ基から転化したスルホン基のモル数/スルホン基に転化される前のエポキシ基のモル数
【0019】
スルホン化後の当該不織布の目付重量は230g/m、転化率は45%であった。これから、不織布単位重量当りのイオン交換当量は、1.7meq/gと計算される。また、このときのスルホン化不織布の厚みは、0.83mmであった。
【0020】
上記と同様に、GMAをグラフトした不織布を用いて、強アニオン性の代表として、トリメチルアミンを用いて、4級アミノ基を付加させた。
同様に、前記GMAグラフト不織布に、弱アニオン基として、イミノジエタノールを、また、キレート基として、イミノジ酢酸を付加した。これらの転化条件については、スルホン化と同様に、表1に示した。
これらのイオン交換基を付与した不織布について、セシウムの吸着性能を以下に示す試験方法で評価した。以下にその吸着性能測定試験方法を示す。
【0021】
[分析機器]
ICP質量分析装置:サーモエレクトロン社製 Series II
測定質量数(m/z):Cs(133)
内部標準元素:In(115)Cs
【0022】
[測定液の調整方法]
(i)セシウム標準液(1,000ppm)を純水で200倍に希釈し、濃度5ppmのセシウム溶存液を作成する。
(ii)次に、上記セシウム溶存液200mlをプラスティックビーカーに採り、この液中に測定試料1gを投入し、1時間撹拌する。
(iii)次に、撹拌前後の液を採取し、セシウム含有量を測定する。
尚、本試験においては、市販のセシウム標準液を使用し、放射性同位元素セシウム137の代わりとして評価した。
【0023】
[測定結果]
表1に測定結果を示す。この表1より、セシウムを吸着するのは、スルホン化した不織布と、それに次ぐキレート基であるイミノジ酢酸基のみである。これらの結果から、本発明の濾材としては、特にスルホン基を付与した不織布(以下、スルホン化不織布ともいう。)が最も吸着能力が高く、望ましいことが見出された。
また、天然ゼオライト(クリノプチロライト、三井金属資源開発株式会社の商品名“イワミライト”、粒径1,000μm)を試料(1g)として、上記と同じ方法で吸着性を測定し、この測定結果も表1に示した。同表1から、天然ゼオライトにおいても、スルホン化不織布と、ほぼ同等のセシウムの吸着が認められた。
【0024】
【表1】
【0025】
3.濾過層(C)
次に、本発明において、流入側にある最上流に配置される濾過層(C)(以下、C層ともいう。)を構成する、ゼオライト粒子を表面に固定した不織布と、ゼオライト及びゼオライトを不織布上に固定する方法について説明する。
【0026】
(3−1)ゼオライト
ゼオライトは、多孔質結晶性アルミノ珪酸塩の総称であり、天然、人工、合成のものがあるが、いずれを用いてもよい。特に、天然ゼオライト、なかでもクリノプチロライト(clinoptilolite)とモルデナイト(mordenite)は、我が国に豊富に産出し、安価に安定的に調達できるため、本発明に用いるのには好ましい。
一般に、天然ゼオライトは、その主成分がアルミニウムの含水珪酸塩化合物からできた多孔質の結晶構造体であり、その表面は、負に帯電して、アルカリ金属類ナトリウム、カリウムやアルカリ土類カルシウム、マグネシウムなどのイオンを吸着している。これらのイオン類と、セシウムや鉛、カドミウムなどの安定性の高いイオンとが接触すると、イオン交換が起こり、後者がゼオライト表面に置換・吸着される。
このことより、ゼオライトの吸着能力は、単位重量当たりの表面積の大きいものが優位と考えられるが、本発明においては、工業的、経済的かつ加工ハンドリング上、好ましい範囲があり、平均粒子径が5〜1,000μm、好ましくは5〜500μmの範囲から選択し、且つ以下に述べる不織布への固定方法により、さらに好適な範囲より選択する。
【0027】
(3−2)ゼオライトの不織布への固定方法
次に、本発明におけるゼオライトの不織布への固定方法と選定粒子径について、説明する。
本発明において、用いられるゼオライト粒子の径は、上述のように平均粒子径として、5〜1,000μmの範囲から選ばれるものであるが、以下に述べる不織布への固定方法によって、その粒子径が使い分けられる。
【0028】
(固定方法−1)
本固定方法−1では、平均粒子径が、5〜1,000μm、好ましくは5〜500μm、より好ましくは5〜50μmの範囲のゼオライトを、エマルジョン化した樹脂バインダとともに、水に分散させ、これに、不織布を含浸添着ののち、乾燥して、不織布上に、固定する。
粒子径をこの範囲に規定する理由は、粒子径がこの範囲より大きいと、水中での沈降が早く、含侵処理での添着量にムラを生ずるためであり、また、この範囲より小さいと、ゼオライトの微小化のための粉砕コストの上昇を招き、かつ、樹脂バインダの中に埋没して、吸着効果が低減するためである。
また、樹脂バインダとしては、例えば、ラテックスバインダ、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、アクリレートの共重合体、メタクリレートの共重合体、スチレンブタジエン共重合体、スチレンアクリル共重合体、エチレンビニルアセテート共重合体、ニトリルゴム、アクリルニトリルブタジエン共重合体、ポリビニルアルコールなどが挙げられ、アクリル系やスチレンアクリル共重合体などが好ましい。
【0029】
(固定方法―2)
本固定方法−2では、平均粒子径が、5〜1,000μm、好ましくは100〜1、000μmの範囲から選ばれたゼオライトにホットメルト性の樹脂パウダー又は低融点短繊維を混合し、これを不織布上に散布したのちに、加熱し、ホットメルト又は低融点短繊維を溶融したところに、他の不織布を積層して、全層を圧着ののち冷却して、ゼオライトを2層の不織布の間に、挟合する。
【0030】
以上の方法において、ゼオライトを不織布上に固定する目的は、通水時において、セシウムなどの有害物質を吸着したゼオライトがカートリッジから脱離し、下流側に流出することを防ぐためである。また、カートリッジ内のゼオライト粒子の移動をなくして、健全な通液路を確保するためである。すなわち、ゼオライト粒子のみをカートリッジに充填すると、通水中に充填状態に粗密の部分ができて偏流が生じ、均一な通液状態が保てないためである。これに対して、不織布にゼオライト粒子を固定しておけば、充填粒子間に適度の間隔が常に保てるので、常に万遍なく流路が確保され、当カートリッジに使用されたゼオライトが有効に活用される。
【0031】
(3−3)ゼオライト粒子を表面に固定した不織布
また、このC層において、このようにゼオライトを固定する不織布基材は、目付重量が40〜100g/m、厚みが0.1〜0.6mm、平均繊維径が10〜25μmの範囲から選ばれたポリエステルまたはポリオレフィンを素材とする不織布が望ましい。さらには、この不織布の製法に基づく種類は、特に制約はないが、スパンボンド法不織布、サーマルボンド法不織布、湿式法不織布、メルトブロー法不織布などから、適宜選択することが望ましい。
C層に使われる不織布の要件は、カートリッジ加工に最低限必要な強度と適度の通水性及びスペース節約のために、できる限り薄い厚みのものが好ましく、上記の不織布緒元の範囲から選ばれることが望ましい。また、その素材としては、カートリッジ加工時での成形性(熱溶接を含む)、使用後の処理、たとえば減容、溶融、焼却などに容易に対応できるものとして、ポリエステルまたはポリオレフィン素材が好ましい。
さらに、本発明において、不織布基材へのゼオライト粒子の固定量は、前記の固定方法−1では、不織布1mあたり、50〜150g/m範囲が妥当である。これは用いる不織布の目付重量と厚みにより含侵・添着量が制約されるためである。また、前記の固定方法−2では、不織布1mあたり、100〜300g/mの範囲が妥当である。このゼオライト固定量が大き過ぎると、仕上がり厚みが過大となり、巻き回し加工が難しくなるためである。
【0032】
4.水浄化用フィルターカートリッジ
本発明の水浄化用フィルターカートリッジの構造について、図1に基づいて、概要を説明する。
図1は、カートリッジの断面を示す。カートリッジの最内層A(3)は、有孔の巻き芯(4)に巻き回しされ、順次、B層(2)、C層(最外層)(1)が積層、配置されている。
尚、有孔の巻き芯(一般にコアと呼ばれる)の例として、ポリエチレン、ポリプロピレンの射出成型品、ネット製品、不織布の積層成形品などが使用でき、巻き回しに耐える形状保持強度と通水性が確保されるものであれば、特に特定されるものではない。
各層の巻き数については、浄化する原水の状況により、任意に、適宜変更される。通水は、OUT−IN方式によって、最外側C層から入り、B層、A層を順次通過して、中空多孔状の巻き芯部(4)に到達し、中空内部(5)よりカートリッジ外に排出される。
本発明の水浄化用フィルターカートリッジは、水中のセシウムなどのイオンを吸着する機能の他に、微小パーティクルを捕集する機能も合わせ持つので、好ましくは、各濾材不織布の繊維径を選定する際に、勾配を持たせ、その繊維径が、最上流側C層>中間層B層>最下流側A層となるように選択して、早期の捕捉パーティクルによる目詰まりを防ぐ、いわゆるデプス型濾材構成とすることが可能であり、好ましい。
【0033】
5.水浄化用フィルターカートリッジの製造方法
本発明のセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジの製造方法は、先ず、カートリッジの巻き芯に、濾過層(A)としてポリオレフィン製メルトブロー不織布を複数回巻き回し、次いで、濾過層(A)の上から、濾過層(B)としてスルホン基付加の不織布を複数巻き回し、さらに、濾過層(B)の上から、濾過層(C)としてゼオライト粒子を表面に固定した不織布を巻き重ねて、3種の濾過層を構成することを特徴とするものである。
これらの構成要件については、上記で説明したとおりである。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明を実施例で具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
尚、本発明の要諦を説明するために、予めカートリッジのA、B、Cの濾材層を構成する各種機能不織布の作製要領、及び通液試験法と装置を以下に説明する。これらは、本発明の基本原理を説明するためであって、これらに限定されるものではない。
【0035】
[ポリプロピレン製メルトブロー不織布の選定]
A層に用いるメルトブロー不織布は、本実施例1〜2においては、前述の好ましい範囲の中から以下のものを、市販品(三井化学製、ポリプロピレン製メルトブロー不織布、商品名シンテックス)より選定し、これを 最下流A層を形成する不織布とした。
目付重量:30g/m
平均繊維径:4μm
厚み:0.3mm
通気度:40cc/cm/sec
【0036】
[スルホン化不織布の調製]
本実施例においては、B層不織布として、前述の段落[0018]〜[0019]に記載したスルホン化不織布(表1)を用いた。
【0037】
[ゼオライト固定不織布―1の調製]
先ず、本発明の実施例1において使用するC層のゼオライト固定不織布−1(以下ゼオライト不織布1と略記)について説明する。
前記の[固定方法―1]により、粒子径50μm(250メッシュ)の天然ゼオライト(クリノプチロライト、三井金属資源開発株式会社の商品名“イワミライト”)を用い、これに水とアクリル樹脂エマルジョン(バインダ樹脂)を加えて混合し、ゼオライトの水分散体を調合した。
この調合液に、平均繊維径20μmの短繊維で構成される目付重量45g/m、厚み0.25mmのサーマルボンド法不織布を含侵し、加熱乾燥して、ゼオライトを添着・固化した。ゼオライトの添着量は、1mあたり101gのものが得られた。このゼオライト不織布1の厚みは、0.6mmであり、巻き回し加工に適した強度と柔軟性を有するものであった。
【0038】
[ゼオライト固定不織布―2の調製]
また、本発明の実施例2において使用するC層のゼオライト固定不織布―2(以下ゼオライト不織布2と略記する。)について説明する。
前記の[固定方法―2]により、粒子径が500〜1,000μmの天然ゼオライト(モルデナイト、三井金属資源開発株式会社の商品名“MGイワミライト”)を用い、平均粒子径20μmの短繊維からなるサーマルボンド法不織布(目付重量60g/m)の上に、150g/mとなるように散布した。また、散布したゼオライトには、適量のホットメルト接着剤(EVAパウダー)を混合した。
この散布状態の不織布を連続的に加熱炉に導入し、ホットメルトを溶融させた上に、同じ仕様のサーマルボンド法不織布を積層し、冷却ロールにて、圧接冷却して、ゼオライトを挟み合わせた2層の不織布からなるゼオライト不織布2を作製した。
得られた不織布の総厚みは0.8mmであり、巻き回し加工に適した強度と柔軟性を有するものであった。
【0039】
[カートリッジの通液試験方法と装置]
以下に示す実施例と比較例において、カートリッジの濾過性能を評価する通液試験の方法及び装置の概略を、図2を用いて説明する。
先ず、試験液は、前記の段落[0022]に示す方法により、純水中にセシウム濃度を5ppmとなるように調整し、図2の通液試験装置内に導入される。
試験液は、カートリッジ内をOUT−INで通過するように、ハウジング(11)の流入管(12)よりカートリッジ内に導入され、排出管(13)より外部に設けられた吸引ポンプによって排出される。ハウジング内には、カートリッジ(15)が上下エンドキャッブ(14、14‘)を介して固定されており、試験液は、カートリッジ(15)の外側より流入し、各層内部を通過し、カートリッジのコア芯空間を通して排出管(13)より外部に排出される。
【0040】
[セシウムの分析]
上記の通液試験にて濾過液を採取し、前記の分析装置を用いて、液中のセシウム濃度を測定した。
【0041】
[パーティクル測定法]
純水に、市販されている1μm標準ダストを加え、これを、セシウムを吸着した微粒子ダストと想定し、10L/minで通液したときのダストの通過をパーティクルカウンター(Hiac Royco Model 8000A)を用いて計測し、カートリッジの捕集率を計測した。
【0042】
[実施例1]
カートリッジの巻き芯に、上記のメルトブロー不織布を3周巻き回して、A層とした。
次に、この上に、上記のスルホン化不織布を6周巻き回して、B層とした。
次に、この上から、上記のゼオライト固定方法―1によるゼオライト不織布―1を20周巻き回して、C層とした。
この層構成によるロール状不織布層の端面とポリエチレン製のエンドキャップを熱板溶接により接合して、外径約65mm、内径30mm、高さ125mmのカートリッジを製作した。
このカートリッジを、図2に示すようにハウジング内に装着し、前記の方法によりセシウム5ppm水溶液の通液試験を実施した。通水量は、10L/minとし、1分後の濾過液を採取し、セシウム濃度を測定した。その結果を表2に示す。
また、パーティクルの捕集率を上記の「パーティクル測定法」により計測した。その結果を、同じく表2に示す。
この通液試験とパーティクル計測は、以下の実施例2及び比較例1、2についても、同様に実施した。
【0043】
[実施例2]
C層に用いるゼオライト不織布において、ゼオライトを固定法―2により固定した不織布を用い、これを16周巻き回して、外径をほぼ同一(約65mm)とした以外は、すべて実施例1と同じとした。
表2に通液試験によるセシウム濃度及びパーティクル捕集率を示す。
表2に示すように、実施例1及び実施例2は、共に十分なセシウム吸着能力とパーティクル捕集性能を示した。
【0044】
[比較例1]
実施例1、2の対比として、A層のメルトブロー不織布を使用しない例を比較例1とした。
評価結果を表3に示すが、この例では、パーティクルの捕集性能が低く、従って、セシウムを吸着した微粒子ダストを通過させてしまうと、考察される。
【0045】
[比較例2]
比較例1と同様に、実施例1,2の対比として、B層のスルホン化不織布を使用しない例を比較例2とし、表3に示した。
この通液試験において、濾過後のセシウム濃度が2.5ppmであり、実施例1,2に比べて、セシウム吸着性能が劣っている。これは、通液の速度に対して、ゼオライトの吸着速度が追い付かないためと推察される。このことにより、B層スルホン化不織布を併用する必要が認められる。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の水浄化用フィルターカートリッジは、水中に存在するセシウムを簡便かつ高効率で除去するものとして、見出されたものである。本発明の水浄化用フィルターカートリッジは、3種の異なる機能性不織布で構成され、地下水、上水、工業用水、農業用水の浄化の他、土壌や汚泥の洗浄排水のからの放射性セシウムの除去に、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 濾過層(C)
2 濾過層(B)
3 濾過層(A)
4 巻き芯部
5 中空内部
11 ハウジング
12 流入管
13 排出管
14、14’ エンドキャッブ
15 カートリッジ
図1
図2