【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、その第1の聴覚装置を備えている聴覚システムが提供される。その第1の聴覚装置は、無線ネットワーク内の他の装置との間で無線データ通信を行うための第1の受信器を有する。その第1の聴覚装置はさらに、その無線ネットワークのプロトコルに従って無線データ通信を制御するように適合された第1の通信制御装置を有していてもよい。その無線ネットワークのプロトコルに従って、他の装置の第2の送信器は、フレーム内の複数のタイムスロットのうちの特定の1つのタイムスロットにおいて、無線データを送信するように制御され、その第1の聴覚装置の第1の受信器は、繰り返して、活性化された(activated)時間枠(time period)内ではデータの受信が可能とされ、不活性化された(de-activated)時間枠内ではデータの受信が不可能とされる。好ましくは、その第1の通信制御装置は、さらに、データ送信用のタイムスロットと活性化された時間枠とが同時に重なるように、活性化された時間枠と不活性化された時間枠との合計時間が、一つのフレームの継続時間(duration)と異なるように、例えば長く調節することによって、その第1の聴覚装置をネットワーク内のもう一つの装置に同期させるように適合されている。
【0010】
第1の通信制御装置は、その第1の聴覚装置が他の装置からのデータ受信を行うと、活性化された時間枠と不活性化された時間枠の合計時間を、一つのフレームの時間に等しく調節するようにさらに適合されていてもよい。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、無線ネットワーク内の複数の装置の間の通信方法が提供される。この方法は、
フレーム内の複数のタイムスロットから選択された一つのタイムスロットで、その無線ネットワークに接続された第1の装置からデータを無線送信するステップと、
第2の装置について、活性化された時間枠内ではデータ受信を可能とし、不活性化された時間枠内ではデータ受信を不可能とするステップと、
データ送信のためのタイムスロットと活性化された時間枠とが同時に重なるようにするために、活性化された時間枠と不活性化された時間枠の合計時間が、一つのフレームの継続時間とは異なるように調節することによって、例えば長く調節することによって、その無線ネットワーク内で、その第2の装置を第1の装置に同期させるステップとを備えている。
【0012】
本聴覚システムと方法は、ネットワーク内の複数の装置、例えば、聴覚装置、遠隔制御器、調整装置、携帯電話、メディアプレーヤ、ヘッドセット、ドアベル、警報システム、テレコイルリプレイスメント(tele coil replacement)のような放送システム等々の相互接続を可能とする。
【0013】
その聴覚装置は、補聴器、耳鳴り緩和装置、耳鳴り治療装置、ノイズ抑制装置など、あるいは、そのような装置の二つかそれ以上の組み合わせであってもよい。
【0014】
聴覚装置の受信器と送信器は、ノルディックセミコンダクタ(Nordic Semiconductor)社のラジオチップ「nRF24l01」のようなラジオチップの中に備えられてよい。しかしながら、このタイプのラジオチップは、送信時と受信時の両方において、かなりの量の電流を消費する。従来のZnO
2電池は、ある限られた時間枠しか、概して1ミリ秒しか、必要な電流量を供給できるにすぎない。必要とされる電流量の連続供給は、デジタル信号処理回路が適切に動作することを停止する電圧以下に供給電圧を低下させる。さらに、ZnO
2電池は、通信中にラジオチップに電流を供給した後に、復旧するための時間を必要とする。一般的に、そのラジオチップのデューティサイクル、すなわち、ラジオのターンオン時間とターンオフ時間との合計時間に対するラジオのターンオン時間の百分率は、10%より小さく保持されなければならない。
【0015】
本ネットワークプロトコルによれば、ネットワーク内のすべての装置が、いつ送信し、いつ受信するかを知るために、ネットワーク内で装置は同期されている。さらに、受信と送信は、短いバーストで実行される。
【0016】
このように、本無線ネットワークプロトコルによれば、補聴器のような聴覚装置は、例えば従来のZnO
2電池によって十分に供給できる低い電力消費量でのデータ通信が可能となる。
【0017】
一実施形態では、受信器と通信制御装置は、周波数多様化方式あるいはスペクトラム拡散方式によって動作し、すなわち、その無線ネットワークで利用される周波数の範囲は、多数の周波数チャネルに分割され、そしてデータ通信は、送信がその周波数の範囲全体にわたって分配されるように、予め決められた方式によって、チャネルを切り換える。
【0018】
好ましくは、ネットワーク内の装置が、ネットワークの履歴に頼ることなく、任意の時点においてそのネットワークがどの周波数チャネルを使用するかを計算できるようにする、周波数ホッピングのアルゴリズムが提供される。例えば、現在の周波数チャネル番号に基づき、疑似乱数発生器が次の周波数チャネル番号を計算する。これはそのネットワーク内で、ある一つの新しい装置の同期を可能とし、例えば、その新しい装置は、そのネットワーク内で既に接続されている装置と同一の疑似乱数発生器を備えている。したがって、獲得中に現行の周波数チャネル番号を受信すれば、その新しい装置は、そのネットワーク内の他の装置と同じ次の周波数チャネル番号を計算する。
【0019】
スペクトラム拡散方式に従って動作しているネットワークでは、その通信はノイズに対して低い感度を有する。それは、ノイズは一般的に特定の周波数チャネルに存在しており、通信は、短い時間枠で、特定の周波数チャネルで実行され、その後、通信は別の周波数チャネルに切り換えられるからである。
【0020】
さらに、いくつかのネットワークが近接して共存してよい。例えば、2人以上の聴覚装置の使用者が、ネットワークの混信無しで、同じ部屋に居ることができる。というのは、2つのネットワークが1つの特定の周波数チャネルを同時に使う確率は非常に低いからである。同様に、その聴覚装置のネットワークは、同じ周波数バンドを使用する他の無線ネットワーク、ブルートゥース(Bluetooth(登録商標))ネットワーク、あるいは他の無線ローカルエリアネットワークと共存していてもよい。本発明による聴覚装置は、両耳補聴器システムに組み込まれることが好ましく、2つの補聴器は、例えば、オーディオ信号、信号処理パラメータ、信号処理プログラムの識別番号のような制御データ等々のようなデータのデジタル交換のために、無線ネットワークを通して相互接続され、任意に、他の装置、例えば遠隔制御装置のようなもの等と、相互接続される。
【0021】
ネットワーク内の装置の受信器と送信器は、時分割多元接続 (TDMA) のフレーム構造に従って動作してよく、ここで時間は、一組の番号付きのタイムスロットを備えているフレームに分割される。ネットワーク内の異なる装置は、それぞれ特定のタイムスロットで通信を行う。従って、ネットワーク内で接続されている時、それらの装置のフレームは同期されている。
【0022】
獲得(acquisition)とは、そのネットワーク内の他の装置とまだ同期されていない装置を同期させる過程である。確立されたネットワーク内では、一つの主装置が、同期のデータを、例えばリンク管理パッケージの中に含まれたデータを、ネットワーク内の他の装置、いわゆる従属装置らを主装置に同期させるために、規則正しく送信する。
【0023】
ネットワークは1つ以上の主装置を備えてよく、例えば2つの主ネットワーク内に2つの主装置があってよく、そこでは、一方の装置がある時間枠内で主装置として動作し、そして他方の装置は他の時間枠内で主装置として動作する。このように、一方の装置は、一方の時間枠内では主装置として、他方の時間枠内では従属装置として動作してもよい。例えば、両耳聴覚システムのような2つの聴覚装置を備えた聴覚システムでは、その2つの聴覚装置は、交互に、そのネットワークの主装置として動作してもよい。好ましくは、その主装置は聴覚装置である。それはその聴覚装置の使用者は、ネットワークを使用する時、その聴覚装置を常に携帯するからである。
【0024】
初期獲得は、新しいネットワークが確立される時に実行される。例えば二つの聴覚装置の電源が投入され、互いに同期を得るために獲得を実行し、それによってネットワークが確立する。それ以上の装置は、その聴覚装置によって実行された獲得と同様な方法で、もしくは異なる獲得方式に従って獲得を実行して、その確立されたネットワークに接続されてもよい。
【0025】
好ましくは、新しい装置は、ネットワークによって自動的に認識され、そしてそのネットワークと相互接続される。
【0026】
同期は、例えば、聴覚装置のターンオン、手動の同期の活性化で、自動的に周期的な同期の初期化、等で実行されてもよい。
【0027】
ネットワーク内のどの装置も、それ自身の識別番号、例えば32ビットの番号を有している。二人の使用者が、同一の識別を有する聴覚装置を所有する確率は無視できるので、世界で唯一の識別番号は必要ない。
【0028】
聴覚システムは、2.4GHzの産業科学医療用(ISM)のバンドで動作してもよい。そのISMバンドは、例えば1MHz のバンド幅の80個の周波数チャネルに分割されてよい。周波数ホッピングTDM方式が好ましい。獲得中、その周波数ホッピング方式は、より迅速に獲得するために、低減された数の周波数チャネル、例えば16チャネル以下、好ましくは4から8チャネル、を備えていてもよい。その周波数チャネルが低減された組のチャネルは、獲得チャネルである。好ましくは、その獲得チャネルは、ネットワークで利用されている周波数バンド内にわたって均等に分配される。
【0029】
1つのタイムスロットの継続時間は、例えば 1250μs(ブルートゥース(登録商標)の最小のスロットの長さの2倍)であってよい。そのスロットは0から255まで番号が付けられている。
【0030】
256個のスロット、つまり、スロット0からスロット255は、1つのフレームを構成する。フレームにも番号が付けられている。
【0031】
スロットの長さの選択に影響する要因として、システムに必要なより短い遅延およびヘッダとPLLロッキングに関する所望の小さいオーバーヘッドがある。好ましくは、スロットの長さは625μsの倍数であり、本発明によるプロトコルを、ブルートゥース(登録商標)対応の装置で実施し易くなる(すなわち阻害しない)。
【0032】
各スロット(スロット128を除く)は、特定の一装置による送信に使用され、ネットワーク内でのデータの衝突を防止する。どの従属装置も、スロット128で送信してよく、そのために、このスロットでは衝突が起こり得る。主装置は、タイミングの情報をスロット0で送信する。従属装置のスロットとフレームのカウンタは、ネットワークの主装置のそれぞれのカウンタと同期化される。
【0033】
装置は、データを送信するのに、1つまたは2つ以上のスロットを使用してよい。スロットは、与えられた装置の製造中に割り付けられてもよく、獲得中に動的に割りつけられてもよい。好ましくは、割り付け表は主装置に記憶される。
【0034】
獲得は、例えば、装置がスロット「0」のリンク管理パッケージを受信し、スロット「128」でそれに応答することが成功した時に、達成されてもよい。
【0035】
聴覚装置の電力消費をより低くするように、その聴覚装置の受信器と送信器は、活性化される。すなわち、例えばそれらに対応する各々のタイムスロットにおいてのみターンオンするように、めいめい受信や送信のために動作することができる。さらに、ビットレートは次のようなシステム内で増減することができる。すなわち、低ビットの転送レートが必要な場合、トランシーバは、その短い時間内だけ活性であればよい。このようにして電力が節約できる。
【0036】
装置がネットワークで動作できるように接続されるためには、そのタイミングが、ネットワーク内の他の装置に同期される必要があり、それによってそれらの装置の受信器と送信器の活性化(activation)と不活性化(deactivation)のタイミング、例えばターンオンとターンオフのタイミングが適切に同期され、そのネットワークに接続されている装置の間の通信が可能となる。
【0037】
新しい装置は、獲得方式によってネットワークの主装置に同期されてもよく、その新しい装置は、その受信器をネットワークのフレームレートとは異なるレートで活性化し、それによって、その後にその新しい装置の受信器が、ネットワークの主装置からの同期データの送信中に活性化されてもよい。その主装置からの同期データを受信すると、その新しい装置のフレームタイミングがネットワークのフレームタイミングと一致するように同期され、その結果、その新しい装置の受信器の活性化レートがそのフレームレートと一致するように調節される。
【0038】
この獲得方式は、実行中の電力消費が低く、そして速い。
【0039】
電力供給の制限の無い装置は、単にネットワークの主装置からの同期データが受信されるまで受信器を活性化したままに保持することによって、ネットワークに同期させることができ、同期データの受信が単一のフレームの継続時間内に得られる。そのような装置、例えば遠隔制御器、調整装置、携帯電話、メディアプレーヤ、ヘッドセット、ドアベル、警報システム、放送システム等は、獲得中にそれらのフレームレートを変える必要が無い。
【0040】
ネットワークプロトコルは、ネットワーク内2つ以上の主装置を受容することもできる。例えば、2つの聴覚装置は、交互にネットワークの主装置として動作してよく、それによって、一方の聴覚装置があるタイムスロットで主装置として動作し、そして他方の聴覚装置が他のタイムスロットで主装置として動作して、そしてはじめの聴覚装置は次のフレーム内の同じタイムスロットで再び主装置として動作する、という具合である。
【0041】
好ましくは、両耳聴覚装置では、左耳の聴覚装置と右耳の聴覚装置の両方がネットワークの主装置である。2つの主ネットワークでは、2つの主装置は、2つの装置のいずれがそのネットワークの主装置になるかを交渉する仕事から開放される。このように、プログラムコードの節約と電力消費の節約が、2つの主装置において得られる。
【0042】
周波数ホッピングを利用しているネットワークでは、装置の周波数ホッピングアルゴリズムもまた同期されねばならない。新しい装置は、獲得方式によってネットワークの主装置に同期されてもよく、ここでその新しい装置は、ネットワークの周波数ホッピングレートとは異なる周波数ホッピングレートで周波数ホッピングを実行し、それによってその後にその新しい装置によって受信に利用されている周波数チャネルが、ネットワーク主装置によって送信に利用されている周波数チャネルと少しの時間後に一致する。例えば、その主装置は、4個のチャネルの周波数チャネルジャンプの配列(sequence):A−B−C−Dを繰り返してよく、そして一方で、その新しい装置、例えば2つの主ネットワークの他の主装置は、獲得中に、その周波数チャネルの一つを再利用して、例えばチャネルAを再利用して:A−A−B−C−Dで繰り返し、それによって、その後に、その主装置とその新しい装置は、同じ周波数チャネルで通信する。
【0043】
同期すると、周波数ホッピングアルゴリズムは、獲得中よりも多くの周波数チャネルを含むより長い配列を発生する。
【0044】
タイミングを制御するのに用いられるクロック信号の精度には限りが有り、無線ネットワークに接続された様々の装置は、完璧な精度でそのタイムスロットを同期できない。例えばそのネットワーク内で受信する参加者は、いつ受信を開始するかを、送信する参加者と同意できないかもしれない。これは、いくらかのマージンが必要であることを意味し、つまり、聴覚装置のネットワーク回路は、各々のタイムスロットよりも長い時間枠の間、電源が供給される必要があることを意味する。
【0045】
より正確なタイミングによって電力消費は低くなるが、通常、この解決策は、嵩高の構成部品(水晶)を組み込む必要がある。
【0046】
しかしながら、この通信制御装置は、受信器の活性化から実際のデータ受信までの遅れ時間を測定するようにさらに適合されていてもよい。すなわち受信されたデータフレームの開始が検知されてもよく、そしてその遅れ時間は記録されてよい。タイムスロットが次に出現した時、受信の開始は、前のタイムスロットの受信中に測定した遅れ時間に従って調節されてよく、すなわち進められたり遅れさせられたりしてよい。このようにして受信器の活性化時間を減らすことにより、電力消費を低くする。
【0047】
本発明の上記およびその他の特徴と利点は、添付図面を参照して、その代表的な実施形態を詳細に説明することによって、当業者には、より明らかになるであろう。