(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5757686
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年7月29日
(54)【発明の名称】微晶質ペプチド懸濁液の徐放性
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20150709BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20150709BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20150709BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20150709BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20150709BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20150709BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150709BHJP
【FI】
A61K37/02
A61K9/10
A61K9/19
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/12
A61P43/00 111
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2010-16716(P2010-16716)
(22)【出願日】2010年1月28日
(62)【分割の表示】特願2003-526373(P2003-526373)の分割
【原出願日】2002年8月27日
(65)【公開番号】特開2010-95533(P2010-95533A)
(43)【公開日】2010年4月30日
【審査請求日】2010年3月1日
【審判番号】不服2013-10840(P2013-10840/J1)
【審判請求日】2013年6月10日
(31)【優先権主張番号】60/317,616
(32)【優先日】2001年9月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510157351
【氏名又は名称】メディカル リサーチ カウンシル テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】Medical Research Council Technology
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【復代理人】
【識別番号】100182534
【弁理士】
【氏名又は名称】バーナード 正子
(72)【発明者】
【氏名】ロマーノ デゲンギ
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ ブゥティニョン
【合議体】
【審判長】
松浦 新司
【審判官】
小川 慶子
【審判官】
関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−310595(JP,A)
【文献】
特開平3−101695(JP,A)
【文献】
国際公開第00/47234(WO,A1)
【文献】
特表平9−509145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72, 47/00-47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ac−D−Nal−D−Cpa−D−Pal−Ser−Tyr−D−Hci−Leu−Ilys−Pro−D−Ala−NH2トリフルオロアセテートが、水性媒体中に、25mg/ml以上の濃度で懸濁されている、微晶質水性懸濁液。
【請求項2】
Ac−D−Nal−D−Cpa−D−Pal−Ser−Tyr−D−Hci−Leu−Ilys−Pro−D−Ala−NH2スルフェートが、水性媒体中に、25mg/ml以上の濃度で懸濁されている、微晶質水性懸濁液。
【請求項3】
等張剤を含有する、請求項1または2記載の懸濁液。
【請求項4】
等張剤がマンニトールである、請求項3記載の懸濁液。
【請求項5】
微結晶が、5〜150μmの粒度を有する針状である、請求項1から4までのいずれか1項記載の懸濁液。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の懸濁液を凍結乾燥して凍結乾燥配合物を製造する方法。
【請求項7】
請求項1から5までのいずれか1項記載の懸濁液を凍結乾燥し、得られた凍結乾燥配合物を水又は緩衝溶液で復元する、疎水性ペプチドの注射可能な流体の乳白色微晶質の水性懸濁液の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
活性成分の徐放性を提供する処方物において、生物学的に活性なペプチドを動物及びヒトにもたらすことがしばしば必要とされている。このような処方物は、マイクロカプセル、微粒剤又はインプラント可能な杆状体の形の生分解性及び生物学的適合性ポリマー中に活性成分を配合することにより、又はそれとは別に、機械的装置、例えばマイクロポンプ又は非生分解性容器を使用することにより提供され得る。ペプチドが水性媒体中で高度に可溶性である場合、ペプチドは非分解性ポリマー、例えばセルロース誘導体との錯体として処方されてもよいし、非経口注射の際にゲルを形成し、活性ペプチドが徐放するようなポリマー溶液と混合されてもよい。
【背景技術】
【0002】
全ての上記の処方物は、例えば懸濁流体の体積が大きいこと、又は非分解性の装置を排除する必要があることといった欠点及び制限を有する。ゲルを形成するペプチドの場合には、活性成分の所望の徐放作用を妨げる生物学的利用能がしばしば問題となる。
【0003】
ペプチドの物理化学的観点に依る問題点の幾つかは、R. Deghenghi著、"Antarelix"in Treatment with GnRH Analogs:Controversies and Perspectives"、M. Filicori and C. Flamigni編、The Parthenon Publishing Group, New York and London 1996,第89-91頁に記載されている。更なる問題点はJ. Rivier著、"GnRH analogues towards the next millennium"in GnRH Analogues、B. Lunenfeld編、The Parthenon Publishing Group, New York and London 1999,第31-45頁、並びにその他の研究者、例えばM.F. Powellら著、"Parenteral Peptide Formulations: Chemical and Physical Properties of Native LHRH and Hydrophobic Analogues in Aqueous Solution"in Pharmaceutical Research, Vol. 8, 1258-1263 (1991)に記載されている。
【0004】
更に、上記問題点を回避する新規の処方物及び投与法が必要とされており、本発明はこの必要性に取り組むものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】R. Deghenghi著、"Antarelix"in Treatment with GnRH Analogs:Controversies and Perspectives"
【非特許文献2】M. Filicori and C. Flamigni編、The Parthenon Publishing Group, New York and London 1996,第89-91頁
【非特許文献3】J. Rivier著、"GnRH analogues towards the next millennium"in GnRH Analogues
【非特許文献4】B. Lunenfeld編、The Parthenon Publishing Group, New York and London 1999,第31-45頁
【非特許文献5】M.F. Powellら著、"Parenteral Peptide Formulations: Chemical and Physical Properties of Native LHRH and Hydrophobic Analogues in Aqueous Solution"in Pharmaceutical Research, Vol. 8, 1258-1263 (1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の課題は、上記の欠点を有していない新規の疎水性ペプチドのゲル形成を回避する方法、水中の疎水性ペプチドと対イオンとの流体の乳白色微晶質の水性懸濁液、疎水性ペプチドの徐放性処方物の製造法、疎水性ペプチドの注射可能な流体の乳白色微晶質の水性懸濁液の製造法および該方法により得られる水性懸濁液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は疎水性ペプチドのゲル形成を回避する方法に関する。この方法は有利に、ゲルを形成することなく、ペプチドの流体の乳白色微晶質の水性懸濁液を生じさせるのに十分な量及びモル比で、疎水性ペプチドと対イオンとを接触させることを特徴とする。
【0008】
更に本発明は、ペプチド及び対イオンが、混合の際にゲルを形成することなく懸濁液を形成するのに十分な量及びモル比で存在することを特徴とする、水中の疎水性ペプチドと対イオンとの流体の乳白色微晶質の水性懸濁液に関する。
【0009】
ゲルの回避により、注射可能な懸濁液を処方することができる。上記水性懸濁液を非経口的に(即ち皮下又は筋肉内で)哺乳動物、例えばヒトに注射した場合、疎水性ペプチドの長時間の徐放性が得られる。
【0010】
有利に、対イオンは強酸、例えばトリフルオロ酢酸又は硫酸の塩である。又、疎水性ペプチドはGnRH類似体であってよく、有利にGnRHアンタゴニストである。更に有利なGnRHアンタゴニストは、強酸塩、例えばトリフルオロアセテート又はスルフェートの塩の形のアザリンB、アバレリックス、アンチド、ガニレリックス、セトロレリックス又はFE200486の群から選択される。Ac−D−Nal−D−Cpa−D−Pal−Ser−Tyr−D−Hci−Leu−Ilys−Pro−D−Ala−NH
2トリフルオロアセテート及びAc−D−Nal−D−Cpa−D−Pal−Ser−Tyr−D−Hci−Leu−Ilys−Pro−D−Ala−NH
2スルフェートは最も有利な化合物である。
【0011】
疎水性ペプチド塩は有利に25mg/ml以上の濃度で水性媒体中に懸濁されており、酸:ペプチドのモル比は少なくとも1.6:1である。ペプチド塩は少なくとも部分的に約5〜150μmの粒度を有する針状である。
【0012】
所望の場合には、水性分散液は等張剤、例えばマンニトールを含有してよい。又、水性懸濁液は製薬学的に認容性の賦形剤を含有してよい。有利に、懸濁液は乾燥されて、水又は緩衝溶液と混合することにより復元可能な凍結乾燥状態にされる。この乾燥された懸濁液を含有する凍結乾燥された配合物、及び乾燥された懸濁液の製造法は、本発明の付加的な実施態様である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明によるテベレリックス(teverelix(登録商標))トリフルオロアセテートの懸濁液のラットへの皮下注射により得られた薬力学的効果(テストステロン抑制)を表すグラフである。
【
図2】
図2は本発明によるテベレリックストリフルオロアセテートの懸濁液を注射したラットにおける、数週間に亘るペプチドテベレリックスの徐放性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
驚異的にも、トリフルオロアセテート(TFA)又はスルフェートの塩としての式Ac−D−Nal−D−pClPhe−D−Pal−Ser−Tyr−D−Hci−Leu−Lys(iPr)−Pro−D−Ala−NH
2(テベレリックス、GnRHアンタゴニスト)のペプチドの高濃縮水性懸濁液が、その疎水性特性から予想されるようなゲルを形成せず、その代わりに、動物又はヒトへの非経口注射が容易であり、活性成分を数週間に亘って放出する微晶質の乳白色の懸濁液を形成することを見出した(
図1及び2参照)。このような挙動は、インビボでの生物学的利用能が劣悪であり、予想通り不所望のゲルを形成するような他の塩、例えばアセテートからは導き出されない。
【0015】
本発明は、微晶質の高濃度懸濁液の形のそのようなペプチドの延長された遅延放出を得つつ、どのように疎水性ペプチドのゲル化を抑制するか、という問題の簡単でかつ洗練された解決法である。
【0016】
本発明の更なる利点はこのような懸濁液の体積が小さく、微細な針を通じた非経口注射を可能にし、このようにして、注射される材料の局所的な許容量が改善されることである。このような注射において、ペプチドの量は懸濁液を投与すべき哺乳動物の体重1kg当たり約0.1〜5mgである。
【0017】
対イオンの量は有利に、塩を形成させるのに必要な量を超える量である。この量は典型的にはペプチド1モル当たり酸少なくとも1.6モル、有利に2モル以上である。更に、最も望ましい徐放特性を得るために、注射可能な懸濁液を濃縮するのが望ましい。濃縮とは、ペプチドの量が処方物の2.5質量%を上回るべきであることを指す。
【0018】
懸濁液を凍結乾燥又は噴霧乾燥により乾燥することにより、そのままの貯蔵が可能であり、かつ注射可能な処方物を調製すべき場合には水又は緩衝溶液で復元することができる、凍結乾燥された配合物を形成することができる。
【実施例】
【0019】
実施例1
5%マンニトール200μLをLHRHアンタゴニストであるテベレリックストリフルオロアセテート約15mgに添加した。ヴォルテックス(Vortex)を用いて混合物を1分間撹拌し、流動性の乳白色真珠光沢の懸濁液を得た。懸濁液は長さ約10μmの微結晶から成る。微結晶は凝集してウニ様構造を形成し得る。懸濁液をラットに皮下注射し(1mg)、テストステロン抑制の薬力学的効果を45日間を上回ってもたらした(
図1)。薬物速度論的分析は、数週間に亘るペプチドの徐放性を示した(
図2)。
【0020】
実施例2
水200μLをLHRHアンタゴニストであるテベレリックストリフルオロアセテート約15mgに添加した。ヴォルテックス(Vortex)を用いて混合物を1分間撹拌し、流動性の乳白色真珠光沢の懸濁液を得た。
【0021】
実施例3
水200μLをLHRHアンタゴニストであるテベレリックスアセテート約15mgに添加した。ヴォルテックス(Vortex)を用いて混合物を1分間撹拌し、透明ゲルを得た。TFA20μL(3モル/モル)をゲルに添加し、流体の流動性の乳白色真珠光沢の懸濁液を形成させた。
【0022】
実施例4
100mMのTFA200μLをLHRHアンタゴニストであるテベレリックスアセテート約15mg(2モル/モル)に添加し、流動性の乳白色懸濁液を得た。更に、75mMのTFA200μLをLHRHアンタゴニストであるテベレリックスアセテート約15mg(1.5モル/モル)と混合した後、透明ゲルを得た。別の実験において、種々の濃度のTFA100μLをLHRHアンタゴニストであるテベレリックスアセテート7.5mgに、TFA/テベレリックスのモル比1〜3で添加した。1.6以上のモル比で流動性の乳白色懸濁液が得られ、その他のモル比でゲルが得られた。
【0023】
実施例5
150mMのTFA200μLを5〜30mgの量のLHRHアンタゴニストであるテベレリックスアセテート(濃度は25〜150mg/mlである)に添加した。濃度100mg/ml以下で流動性の乳白色の懸濁液を得た。
【0024】
実施例6
150mMのTFA200μLをLHRHアンタゴニストであるテベレリックスアセテート約15mg(3モル/モル)に添加し、混合後に流動性の乳白色の懸濁液を得た。懸濁液を一晩凍結乾燥させた。凍結乾燥物に水又は5%マンニトール200μLを添加し、混合及び復元後に流動性の乳白色の懸濁液を得た。
【0025】
実施例7
150mMのTFA1μLをLHRHアンタゴニストであるテベレリックスアセテート約75mg(3モル/モル)に添加し、混合後に流動性の乳白色の懸濁液を得た。懸濁液を一晩凍結乾燥させた。水及びpH4.0の0.2Mアセテート緩衝液1mLを凍結乾燥物に添加し、混合及び復元後に流動性の乳白色の懸濁液を得た。この懸濁液は室温で少なくとも3日間安定であった。
【0026】
実施例8
250mMのH
2SO
4 100μLをLHRHアンタゴニストであるテベレリックスアセテート7.5mg(5モル/モル)に添加し、数時間後に流動性の乳白色の懸濁液を得た。懸濁液は長さ約100μmの微結晶から成る。微結晶は凝集してウニ様構造を形成し得る。懸濁液を一晩凍結乾燥させた。凍結乾燥物に水又は5%マンニトール100μLを添加し、混合及び復元後に流動性の乳白色の懸濁液を得た。