特許第5757846号(P5757846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5757846
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/04 20060101AFI20150716BHJP
【FI】
   F01P7/04 S
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-235565(P2011-235565)
(22)【出願日】2011年10月27日
(65)【公開番号】特開2013-92128(P2013-92128A)
(43)【公開日】2013年5月16日
【審査請求日】2014年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 孝治
(72)【発明者】
【氏名】大治 直樹
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−44507(JP,A)
【文献】 実開昭55−142622(JP,U)
【文献】 特開昭51−55834(JP,A)
【文献】 特開平5−321665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に付随するラジエータまたはエアコンディショナのコンデンサを冷却するファンの回転を制御する制御装置であって、
バッテリ及び発電機の双方からファンモータに電力を供給して当該ファンを駆動するものとし、
所定のファン駆動条件が成立したことを条件としてファンを起動するにあたり、発電機の発電電圧を一旦下げた上でファンモータに電力を供給してファンを回転させ、その後発電機の発電電圧を再び上昇させる
ことを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に付随するラジエータまたはエアコンディショナのコンデンサを冷却するファンの回転制御に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される内燃機関の冷却方式には空冷式と水冷式とがあるが、水冷式のものでは、冷却水が流通するラジエータに走行風やファンによる気流を当てて冷却水の放熱、温度降下を図っている。ラジエータファンは、例えば、センシングしている冷却水温が所定の閾値以上となったときに起動する。即ち、バッテリ及び発電機(オルタネータ)とファンモータとを接続する電気回路上に設けられているリレースイッチをONにしてファンモータに通電し、ファンを回転駆動する(例えば、下記特許文献を参照)。また、このラジエータファンは、同じエンジンルームに収められているエアコンディショナのコンデンサを流通する冷媒の冷却にも充てられる。
【0003】
リレーをONにしてファンモータに通電すると、ファンモータ及びファンが急速に回転を始める。ファンの回転の起動に伴い、騒音が急に立ち上がるように感じられることがある。特に、車両の停車中において、エンジンルームに走行風が流れ込まず冷却水温が上昇してラジエータファンが起動すると、比較的静謐な車内に大きなファン駆動音が響くこととなりかねず、NV性能の面で不都合であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−299852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ラジエータまたはコンデンサを冷却するファンの起動に伴う騒音の問題を実効的に軽減することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、内燃機関に付随するラジエータまたはエアコンディショナのコンデンサを冷却するファンの回転を制御するにあたり、バッテリ及び発電機の双方からファンモータに電力を供給して当該ファンを駆動するものとし、所定のファン駆動条件が成立したことを条件としてファンを起動するにあたり、発電機の発電電圧を一旦下げた上でファンモータに電力を供給してファンを回転させ、その後発電機の発電電圧を再び上昇させることとした。
【0007】
ここで、ファン駆動条件の具体例としては、ラジエータまたはコンデンサを流通する流体の温度が所定の閾値以上となったとき、内燃機関のクランクシャフトとエアコンディショナのコンプレッサとの間に介在するマグネットクラッチが締結(エアコンディショナがON)されたとき、冷却水温センサのダイアグノーシスにより当該センサの異常を検出したとき、等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ラジエータまたはコンデンサを冷却するファンの起動に伴う騒音の問題を実効的に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態における内燃機関の全体構成を示す図。
図2】同実施形態におけるファンモータへの給電回路及び制御装置を示す回路図。
図3】同実施形態におけるラジエータファンの制御例を示すタイミング図。
図4】同実施形態におけるラジエータファンの制御例を示すタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。この内燃機関は、筒内直接噴射式のものであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)と、各気筒1内に燃料を噴射するインジェクタ11と、各気筒1に吸気を供給するための吸気通路3と、各気筒1から排気を排出するための排気通路4と、吸気通路3を流通する吸気を過給する排気ターボ過給機5と、排気通路4から吸気通路3に向けてEGRガスを還流させる外部EGR装置2とを具備している。
【0011】
吸気通路3は、外部から空気を取り入れて気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、過給機5のコンプレッサ51、インタクーラ32、電子スロットルバルブ33、サージタンク34、吸気マニホルド35を、上流からこの順序に配置している。
【0012】
排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42、過給機5の駆動タービン52及び三元触媒41を配置している。加えて、タービン52を迂回する排気バイパス通路43、及びこのバイパス通路43の入口を開閉するバイパスバルブであるウェイストゲートバルブ44を設けてある。ウェイストゲートバルブ44は、アクチュエータに制御信号lを入力することで開閉操作することが可能な電動ウェイストゲートバルブであり、そのアクチュエータとしてDCサーボモータを用いている。
【0013】
排気ターボ過給機5は、駆動タービン52とコンプレッサ51とを同軸で連結し連動するように構成したものである。そして、駆動タービン52を排気のエネルギを利用して回転駆動し、その回転力を以てコンプレッサ51にポンプ作用を営ませることにより、吸入空気を加圧圧縮(過給)して気筒1に送り込む。
【0014】
外部EGR装置2は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものである。外部EGR通路の入口は、排気通路4におけるタービン52の上流の所定箇所に接続している。外部EGR通路の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ33の下流の所定箇所、具体的にはサージタンク34に接続している。外部EGR通路上にも、EGRクーラ21及びEGRバルブ22を設けてある。
【0015】
内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0016】
入力インタフェースには、車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるエンジン回転信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ33の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するアクセル開度センサから出力されるアクセル開度信号c、吸気通路3(特に、サージタンク34)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、内燃機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号e、吸気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム信号f、エアコンディショナが作動しているか否かに関する作動信号g、車載バッテリ61の充電状態を示唆する指標を検出するセンサから出力されるバッテリ状態信号h等が入力される。エアコンディショナの作動信号gは、運転者がエアコンディショナをONにするべく手動操作したスイッチから発される信号であったり、オートエアコンシステムを司るオートエアコンECUから発される信号であったりする。バッテリ状態信号hは、例えばバッテリ電流、バッテリ電圧及びバッテリ温度を表示する。
【0017】
出力インタフェースからは、インジェクタ11に対して燃料噴射信号h、点火プラグ(のイグニッションコイル)に対して点火信号i、EGRバルブ22に対して開度操作信号j、スロットルバルブ33に対して開度操作信号k、ウェイストゲートバルブ44に対して開度操作信号l、ラジエータファンを回転させるファンモータ64に通電する電気回路上のリレースイッチ63に対して起動信号m、発電機(オルタネータ)62が発電する電圧を制御する電圧レギュレータ621に対して電圧指示信号n等を出力する。
【0018】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、gを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、EGR量(または、EGR率)及びEGRバルブ22の開度、ラジエータファンのON/OFF、発電機62の発電電圧といった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能であるので説明を割愛する。しかして、運転パラメータに対応した各種制御信号h、i、j、k、l、m、nを出力インタフェースを介して印加する。
【0019】
内燃機関に付随するラジエータ(図示せず)やエアコンディショナのコンデンサ(図示せず)は、車両のエンジンルームに収められており、エンジンルームに吹き込む走行風によって空冷され得る。さらに、ラジエータまたはコンデンサの近傍には電動のラジエータファンを付設しており、機関の冷却水やエアコンディショナの冷媒の温度が高まった場合に必要に応じてファンを駆動、ファンが起こす気流をラジエータやコンデンサに吹き当て、ラジエータやコンデンサにおける放熱の効果を促進するようにしている。
【0020】
図2に示すように、ラジエータファンを回転駆動するファンモータ64は、バッテリ61及び発電機62の双方に電気的に接続し、バッテリ61及び発電機62の双方から電力供給を受けることができる。
【0021】
発電機62は、内燃機関のクランクシャフトから回転駆動力の伝達を受けて発電する。クランクシャフトと発電機62との間には、断接切換可能なマグネットクラッチ(図示せず)が介在している。ECU0(または、オートエアコンECU)は、バッテリ61の充電量が減少したときや、エアコンディショナや照明灯その他の補機が要求する電力需要が高まったときに、マグネットクラッチに通電して当該クラッチを締結し、クランクシャフトから発電機62に駆動力が伝達されるようにする。逆に、バッテリ61の充電量が十分に高いとき、補機が要求する電力需要が低いときには、マグネットクラッチへの通電を遮断して当該クラッチを切断し、内燃機関にかかる負荷を軽減して燃費の向上を図る。
【0022】
発電機62には、既知のものと同様の電圧レギュレータ(ICレギュレータ)621が内蔵されている。電圧レギュレータ621は、発電機62が発電する電圧の大きさを調整する素子である。ECU0は、電圧レギュレータ621に発電電圧を指令する信号nを送信する。この信号を受け取った電圧レギュレータ621は、発電機62の出力電圧がECU0による指令値に合致するように、発電機62のロータコイルに流れる電流を断続的に制御する。発電機62の出力電圧は、内燃機関の運転領域(エンジン回転数及び/または要求負荷)及びバッテリ61の充電量に応じて決定する。
【0023】
ECU0は、所定のファン駆動条件が成立したことを条件として、ファンモータ64に通電してラジエータファンを起動する。ファン駆動条件には、以下の何れか少なくとも一つが含まれる。
・エンジン回転数が所定以上かつ内燃機関の冷却水温が所定の閾値以上である
・冷却水温を検出する水温センサが異常または故障している
・エアコンディショナが稼働している。即ち、クランクシャフトとコンプレッサとの間に介在するマグネットクラッチを締結している
しかして、本実施形態では、ファンモータ64に通電してファンを起動する当初、発電機62の発電電圧を一時的に低下させ、その後発電電圧を再上昇させる制御を実行する。
【0024】
図3は、ECU0による制御の一例である。図3に示す例では、冷却水温が閾値KFANON以上となったとき、ECU0がリレースイッチ63をONに切り替えてファンモータ64に通電する一方、冷却水温が閾値KFANOFF以下となったとき、ECU0がリレースイッチ63をOFFに切り替えてファンモータ64への通電を遮断する。
【0025】
その上で、リレースイッチ63をONにした時点で、ECU0から電圧レギュレータ621に指令する発電電圧の値を、内燃機関の運転領域やバッテリ61充電量に応じて決定する値よりも一旦低い値とする。しかる後、電圧レギュレータ621に指令する発電電圧の値を、内燃機関の運転領域やバッテリ61充電量に応じて決定する元の値に徐々に近づけてゆく。
【0026】
図4は、ECU0による制御の他の例である。図4に示す例でも、冷却水温が閾値KFANON以上となったとき、ECU0がリレースイッチ63をONに切り替えてファンモータ64に通電し、冷却水温が閾値KFANOFF以下となったとき、ECU0がリレースイッチ63をOFFに切り替えてファンモータ64への通電を遮断する。
【0027】
図4に示す例において、冷却水温が閾値KFANON以下の場合、ファンモータ64には通電していない。バッテリ電圧は、そのときの充電量等に応じた値(例えば、約14V)を示す。冷却水温が上昇して閾値KFANON以上となると、ファンモータ64への通電が開始され、バッテリ電圧降下が生じる(例えば、約13V)。この際、ECU0から電圧レギュレータ621に指令する発電電圧を、敢えてバッテリ電圧以下の低位値とする。これにより、ファンモータ64に印加される電圧はバッテリ電圧となり、ファンモータ64及びファンは比較的低い回転数にて回転する。回転が穏やかな分、ファンモータ64やファンから発生する騒音も穏やかとなる。
【0028】
その後、ラジエータの放熱よりも内燃機関の発熱の方が大きい場合には、冷却水温が上昇を続ける。尤も、ラジエータファンを回し始めてからは、それ以前と比べて温度上昇のスピードが緩やかになる。
【0029】
冷却水温がより高い閾値KFANON+以上となった暁には、ECU0から電圧レギュレータ621に指令する発電電圧を、バッテリ電圧を超える高位値(例えば、約14.5V)に向けて徐々に引き上げる。結果、ファンモータ64にバッテリ電圧よりも高い電圧が印加されることとなり、ファンモータ64及びファンが比較的高い回転数にて回転するようになるので、ラジエータにおける放熱効果がより高まり、冷却水温が抑制される。
【0030】
また、クランクシャフトとエアコンディショナのコンプレッサとをつなぐマグネットクラッチが締結されたとき、ECU0がリレースイッチ63をONに切り替えてファンモータ64に通電し、同マグネットクラッチが切断された(凍結防止用サーミスタが働いてコンプレッサを停止させた場合を含む)とき、若しくは冷媒の温度が十分に低下したと判断されるとき(ファンを起動してから所定以上の時間が経過した等)に、ECU0がリレースイッチ63をOFFに切り替えてファンモータ64への通電を遮断するようにしてもよい。この場合にも、リレースイッチ63をONにした時点で、電圧レギュレータ621に指令する発電電圧の値を一旦バッテリ電圧以下の低位値とし、その後ある程度以上の時間が経過してもマグネットクラッチが切断されない、若しくは冷媒の温度が低下しないならば、電圧レギュレータ621に指令する発電電圧の値をバッテリ電圧を超える高位値に向けて徐々に引き上げてゆく。
【0031】
本実施形態によれば、内燃機関に付随するラジエータまたはエアコンディショナのコンデンサを冷却するファンの回転を制御する制御装置0であって、バッテリ61及び発電機62の双方からファンモータ64に電力を供給して当該ファンを駆動するものとし、所定のファン駆動条件が成立したことを条件としてファンを起動するにあたり、発電機62の発電電圧を一旦下げた上でファンモータ64に電力を供給してファンを回転させ、その後発電機62の発電電圧を再び上昇させる制御装置0を構成したため、ファンの回転駆動に伴う騒音の立ち上がりが緩やかとなり、運転者その他の搭乗者が感じ取る騒音の大きさが実効的に抑制される。
【0032】
本実施形態の制御は、既存の車両に一般的に実装されているECU0及びリレースイッチ63、電圧レギュレータ621をそのまま利用して実行することができる。従って、別途制御回路等を組み込む必要がなく、低コストにて実現できる。
【0033】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。制御対象であるファンがエアコンディショナのコンデンサに気流を吹き当てるものであり、コンデンサを流通する冷媒の温度をセンシングできる場合、冷媒の温度が閾値を上回ったときにファンを起動することとし、その起動にあたって、発電機62の発電電圧を一旦下げた上でファンモータ64に電力を供給してファンを回転させ、その後発電機62の発電電圧を再び上昇させる制御を行うことができる。
【0034】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関に付随するラジエータファンの制御に利用できる。
【符号の説明】
【0036】
0…制御装置(ECU)
61…バッテリ
62…発電機
64…ファンモータ
図1
図2
図3
図4