(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記勾配は、現在のサンプリングタイミングにおける測定温度から、現在のサンプリングタイミングまでにサンプリングされた測定温度のうち最高測定温度を差し引いた差分として算出することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電子体温計。
【背景技術】
【0002】
電子体温計は、測定方式では実測式体温計と予測式体温計に大別され、測定部位では口中で測定する場合と腋窩で測定する場合に大別される。
【0003】
ここで、体温とは身体の中心部の温度であり、外気温の影響を受けて変化している腋窩の皮膚表面の温度とは異なる。しかしながら、体温計を腋に当て腋を閉じて一定時間温めると、体温計が表示する温度は「平衡温」に近づく。この平衡温が身体中心部の温度であり、温め始めてから平衡温になるまでには10分以上必要とされている。
【0004】
つまり、実測式体温計は、正確に平衡温を測定するには、基本的に10分以上の検温時間を要する。
【0005】
ちなみに、予測式体温計は、測定した温度をもとに、体温計に内蔵された予測機能により上記平衡温を予測演算して表示するもので、検温時間が10〜90秒と大幅に短縮されている。
【0006】
実測式体温計では上記のとおり測定温度が平衡温に達するには比較的長い時間を要するので、途中の温度上昇が緩やかになった時点で、検温が平衡温に近づいていることを測定者に知らせる告知ブザーを鳴らすようにしている場合がある。検温開始から告知ブザー発出までの時間は平均2分〜5分程度である。測定者は、告知ブザーが鳴った時の表示温度から体温に近い温度を知ることができる。なお、正しく検温するにはその後も測定し続ける必要がある。
【0007】
上述のような実測式体温計では、どのような条件のときに告知ブザーを発するかが一つの技術的ポイントとなる。
【0008】
かかる点について開示した文献として、特許文献1の電子体温計がある。
【0009】
特許文献1の電子体温計では、温度センサの測定温度をサンプリングタイミングごとに記憶し、サンプリングタイミングごとに測定温度の変化率を算出し、所定値以下の変化率が所定回数連続したときに収束した、すなわち平衡温に近い体温に達したと判断するようにしている。
【0010】
具体的には、サンプリングタイミング1,2,・・・,n−1,nごとの測定温度を、T(1),T(2),・・・,T(n−1),T(n)
とした場合に、あるサンプリングタイミングでの測定温度と、kサンプリングタイミング前の測定温度との差分を変化率Δと定義する。すなわち、
Δ=T(n)−T(n−k)
である。
【0011】
そして、収束を判定する変化率Δの判定値αをあらかじめ定めておき、
Δ≦α
を満たすΔのサンプリング数が、あらかじめ定めた所定回数であるm回連続した場合に収
束したと判断するようにしている。
【0012】
特許文献1では、さらに測定温度をピークホールドしており、各サンプリング値はそれより以前に測定されたピーク値より大きい場合にのみ更新されるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、腋窩において正しく体温を測定するためには、体温計の先端を、体軸と体温計の角度を30〜45°程度として腋窩に入れ、体温計を挟んだ手の肘を脇腹に密着させて腋窩を完全に閉じ、測定中体温計が動かないように固定している必要がある。
【0015】
逆にいうと、最初の当て方が不適切であったり、あるいは測定中に測定者が身体を動かしたりしてしまい体温計がずれてしまったような場合には、告知ブザーのタイミングで表示される体温が不適切なものとなる可能性がある。
【0016】
たとえば、測定者が動いたことにより、体温計が腋窩の正しい位置から一旦ずれ再び正しい位置に戻った場合を考える。
図12はそのような状態が発生した場合の、測定温度の時間変化を示している。
【0017】
このような場合には、通常測定温度は図の点線のように推移すべきところ、ずれたことにより実線のように推移してしまう。すると、通常であれば時間t2のA点において、勾配が緩やかになったことにより告知ブザーが発せられるはずだったものが、B点においても同様の勾配が算出されたことにより、時間t1において告知ブザーが発せられてしまうことが懸念される。この場合、通常告知ブザーとともに表示されるべき測定温度は、平衡温T0に近いT2であるのに対し、平衡温T0と乖離した測定温度T1を表示してしまうことになる。
【0018】
かかる問題が発生するのは、上記従来技術においては、測定温度曲線が通常の曲線からずれた場合においても、収束状態の発生回数条件mが固定されていることに起因し、B点においてもこの条件を充足する限り告知ブザーが発せられてしまうからである。
【0019】
このような問題、すなわち告知時において不適切な温度を表示し、測定者に不正確な体温情報を与えてしまうという問題は、体温計が正しい位置からずれた場合に限らず、腋窩への当て方が不適切で、測定温度の上昇勾配が通常の曲線に対しなだらかとなったような場合にも発生し得る。また、測定時の環境温度が通常の温度帯から高い方向もしくは低い方向にずれ、環境温度と体温との温度差が大きくなった場合にも発生し得る。
【0020】
たとえば、腋窩への当て方が不適切であると腋窩の皮膚表面から体温計への体温の熱が伝わりにくくなるため、測定温度の上昇勾配が通常の曲線に対しなだらかとなる。この場合に、発生回数条件mが固定されていると、測定温度曲線上の通常時と同じ変化率の部分で告知ブザーが発出されることになるが、そのとき表示されている温度は平衡温からより離れた温度になっている。つまり、測定温度曲線上の充分に安定していない領域において告知ブザーを発し、測定者に不適切な体温情報を報知してしまう虞がある。
【0021】
このことは、環境温度が低い影響で腋窩の皮膚表面の温度も低くなり、身体の中心の体温が腋窩の皮膚表面を通じて温度センサに伝わりにくくなって、測定温度曲線がなだらか
になる場合も同様である。
【0022】
以上のように、従来技術においては、電子体温計を用いた体温測定において、測定者が身体を動かす等して体温計の位置がすれてしまったような場合、また腋窩への当て方が不適切で測定温度の上昇曲線が通常よりなだらかとなったような場合、あるいは測定環境温度が通常想定するよりも高/低いずれかにずれた場合、つまり以上を総じていえば、測定温度の上昇曲線が通常予測されるものからずれてしまったような場合においても、適切な温度で告知ブザーを発するという点において改善の余地があった。
【0023】
本発明は、以上のような背景技術に鑑みてなされたものであり、測定者による電子体温計の取り扱いあるいは測定環境温度等に依存せず、ブザー告知時に安定した測定温度を確認できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上述した課題を解決するため、本発明の電子体温計は、温度を測定する温度測定手段と、温度測定手段により測定された温度をサンプリングタイミングごとに記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶された測定温度に基づき、サンプリングタイミングごとに測定温度の勾配を算出する勾配検出手段と、勾配検出手段により算出された勾配が、あらかじめ定められた第一の所定値以下である時間を計時する計時手段と、計時手段による計時時間が、あらかじめ定められた所定時間以上連続した場合に、告知信号を発生する安定検出判断手段と、を有する電子体温計において、
勾配検出手段は、現在のサンプリングタイミングにおける測定温度から、あらかじめ定められた第一のサンプリング数だけ前のサンプリングタイミングにおける測定温度を差し引いた温度幅を算出し、温度幅が第一の所定値以下であるあらかじめ定めた第二の所定値より小さいときに、安定検出判断手段は計時時間の所定時間を増加させることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、測定者が身体を動かすなどして電子体温計が腋窩の正しい位置からずれた場合、すなわち測定温度曲線が通常予測される曲線からずれた場合においても、告知ブザーの発出を判断する判定時間を標準値から増減させて、つまり告知ブザーの発出タイミングにいわば保護をかけて、告知時に安定した体温を確認できるようにすることができる。
【0027】
また、好ましくは、計時手段は、計時時間を初期状態に戻す初期化機能をさらに備え、温度幅が第二の所定値より小さいときに、さらに計時手段の計時時間を初期化させる。
【0028】
また、
本発明の電子体温計は、温度を測定する温度測定手段と、温度測定手段により測定された温度をサンプリングタイミングごとに記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶された測定温度に基づき、サンプリングタイミングごとに測定温度の勾配を算出する勾配検出手段と、勾配検出手段により算出された勾配が、あらかじめ定められた第一の所定値以下である時間を計時する計時手段と、計時手段による計時時間が、あらかじめ定められた所定時間以上連続した場合に、告知信号を発生する安定検出判断手段と、を有する電子体温計において、測定開始後あらかじめ定められた時間の経過後に算出された、現在のサンプリングタイミングにおける測定温度から、あらかじめ定められた第二のサンプリング数だけ前のサンプリングタイミングにおける測定温度を差し引いた変化率に基づいて、所定時間を増減させる。
【0029】
この場合、腋窩への当て方が不適切で、測定温度曲線がなだらかになったような場合においても、告知ブザー発出時に安定した温度を表示することが可能となる。
【0030】
また、好ましくは、測定開始時の環境温度と所定時間の増減値との関係をあらかじめ定めたテーブルをさらに有し、安定検出判断手段は、測定開始に際してテーブルを参照し、温度測定手段が測定した環境温度に応じて所定時間を増減させる。
【0031】
この場合、電子体温計と環境温度との温度差が大きい場合には、告知ブザー発出時に安
定した温度を表示することが可能となる。また、電子体温計と環境温度との温度差が小さい場合には、告知ブザーのタイミングを早め、測定者にとって使いやすい電子体温計とすることができる。
【0032】
また、好ましくは、勾配は、現在のサンプリングタイミングにおける測定温度から、現在のサンプリングタイミングまでにサンプリングされた測定温度のうち最高測定温度を差し引いた差分として算出する。
【発明の効果】
【0033】
本発明の電子体温計によれば、測定者による体温計の取り扱いあるいは測定環境温度等に依存せず、ブザー告知時に安定した体温を確認できるようにすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0036】
まず、
図1および
図2を参照して、本発明にかかる電子体温計10の構成を説明する。
【0037】
図1において、電子体温計10の外観は、腋窩に挟まれて体温を測定する温度センサ11a、測定した体温を表示する表示部14、電源をON/OFFするスイッチ16、本体19を含んで構成されている。
【0038】
図2を参照して、電子体温計10のハードウエアは、温度センサ11aおよび温度センサからのアナログ測定信号をディジタル信号に変換するA/D変換器11bからなる温度測定部11、表示部14、検温が終了に近づいていることを知らせるブザー15、スイッチ16、およびこれらに接続されたCPU12から構成されている。
【0039】
(第1の実施形態)
本実施形態は、電子体温計10が腋窩の正しい位置からずれ再び正しい位置に戻った場合においても、告知ブザーが
図12のB点に示される不適切なタイミングで発しないようにしたものである。
【0040】
電子体温計10の体温測定時の動作を、
図3および
図4を参照して説明する。
図3は、CPU12内部の主に体温測定に関連した構成を示している。
【0041】
図3において、温度測定部11は、温度センサ11aが測定した温度をディジタル信号で出力する。
【0042】
温度読取部20は、サンプリングタイミングごとに温度測定部11が測定している温度を読み込む。
【0043】
温度記憶部21は、CPU12の内部に設けられており温度読取部20がサンプリングタイミングごとに読み込んだ測定値を記憶するとともに勾配検出部23に勾配の算出に必要な測定値を出力する。
【0044】
勾配検出部23は、温度記憶部21から出力された測定値から検温の収束を判定するための勾配および温度センサ11aが腋窩の適切な位置から外れているか否かを判定するためずれ検出温度幅を算出する。勾配検出部23は、算出した勾配が検温の収束を示していない場合は時間カウンタ24のカウントをリセットする信号を出力する。また、勾配検出部23は、算出した勾配およびずれ検出温度幅を安定検出判断部25に出力する。さらに、最新の測定値が最大測定値であれば最大測定値記憶部22に測定値を出力する。
【0045】
最大測定値記憶部22は、サンプリングタイミングごとに測定された温度の最大値を記憶する。勾配検出部23により勾配が算出された後、最新のサンプリングタイミングの測定値が最大値となっていれば、勾配検出部23から測定値を受け取り更新して記憶する。そして、最大測定値記憶部22は、記憶する最大測定値が32℃以上となると時間カウンタ24のカウントをONにする信号を出力する。
【0046】
時間カウンタ24は、測定の開始時点でカウントをリセットされ、最大測定値記憶部22からの信号で安定検出を判定するための時間のカウントを開始する。そして、時間カウンタ24は、安定検出判断部25にカウントを出力する。時間カウンタ24は、勾配検出部23から出力されたリセット信号によりカウンタをリセットする。
【0047】
安定検出判断部25は、勾配検出部23で算出された勾配と時間カウンタ24のカウントに基づいて検温が安定したか否かを判定する。その際、安定検出判断部25は、勾配検出部23で算出されたずれ検出温度幅に基づいて、検温が安定したか否かを判定するための収束判定時間を変更する。そして、安定検出判断部25は、検温が安定したと判定するとカウント終了信号をブザー制御部26に出力する。
【0048】
ブザー制御部26は、安定検出判断部25からカウント終了信号をうけブザー15を鳴らす。
【0049】
つぎに、本実施形態において、告知ブザーの不適切なタイミングでの発出を防ぐ構成について説明する。
【0050】
温度読取部20が測定値を読み取るサンプリングタイミングの時間(間隔)は任意に設定可能である。本実施形態ではこれを1秒とし、「i」番目のサンプリングタイミングに対する測定温度をT(i)で表記する。すなわち、T(i)は測定を開始してからi秒後の測定温度である。
【0051】
サンプリングタイミングnにおける測定温度をT(n)、サンプリングタイミングnよ
り前までに測定された最大測定値をTmax、サンプリングタイミングnよりj秒前のサンプリングタイミングにおける測定値をT(n−j)として必要となるパラメータについて以下のように定義する。
「勾配」g:g=T(n)−Tmax (℃)
「収束判定値」α (℃)
「収束判定時間」t0 (秒)
「ずれ検出温度幅」Δ1:Δ1=T(n)−T(n−j) (℃)
「ずれ検出判定値」β (℃)
ここで、「ずれ検出温度幅」、「ずれ検出判定値」の「ずれ」とは、電子体温計の温度センサ11aが腋窩の適切な位置から外れることを意味している。
【0052】
本実施形態では、勾配gをピークホールドした測定値Tmaxとサンプリングタイミングにおける測定値T(n)との差で検出し、この勾配gがあらかじめ定めた一定値である収束判定値α以内となった時に、測定温度曲線が緩やかになりつつあると判断する。すなわち、本実施形態では、勾配gを検温の収束を判定するための温度幅として用いている。
【0053】
αの値は任意に設定可能であるが、本実施形態ではこれを0.00℃(T(n)とTmaxの小数点以下2桁までを比較して上昇してないことを判定するための値)とする。
【0054】
収束判定時間t0は、安定検出判断部25が検温の安定を判定するための時間カウンタ24のカウント時間であり、g≦0.00となっている時間がt0秒間続いたことをもって告知ブザー発出タイミングとしている。t0の値は任意に設定できるが、本実施形態ではこれを8秒としている。
【0055】
なお、g>0.00が成立すると時間カウンタ24に対してリセット信号を発し、そのリセット信号を受けた時間カウンタ24はカウントを初期化する。すなわち、未だ勾配gが緩やかになっていないと判断して時間カウンタ24のカウントをリセットし続けるか、あるいは一旦は緩やかになったことを検出したが、未だ不安定であると判断してリセットする。つまり、g≦0.00が8秒間連続しない限り時間カウンタ24のカウントは常にリセットされる。
【0056】
本実施形態では、さらに、告知ブザーの不適切なタイミングでの発出を防ぐための、ずれ検出温度幅Δ1を導入している点に特徴がある。すなわち、CPU12は、原則g≦0.00が8秒続くと告知ブザーを発するが、時間カウンタ24のカウント中に、パラメータΔ1によってずれを検出すると、時間カウンタ24のカウントをリセットし、かつ、t0に1を加算する、つまり、収束判定時間t0を8秒から9秒と長くする。
【0057】
ずれ検出温度幅Δ1におけるjの値は任意に設定可能であるが、本実施形態ではj=8としている。また、ずれ検出判定値βも適宜に設定可能であるが、本実施形態ではβを0.00とし、Δ1<β=0.00が成立したことをもってずれが発生したと判断する。
【0058】
図4は、電子体温計10の動作を説明するフローチャートである。
【0059】
電子体温計10の電源がONになるとCPU12はまず時間カウンタ24のカウントをリセットする(S402)。
【0060】
つぎに、温度読取部20は、サンプリングタイミングごとに温度測定部11で測定した温度を読み込む(S404)。
【0061】
温度記憶部21は、サンプリングタイミングごとの測定温度をCPU内のメモリに記憶
する(S406)。
【0062】
CPU12の勾配検出部23は、勾配gおよびずれ検出温度幅Δ1を算出する(S408)
CPU12の最大測定値記憶部22は、勾配を検出した後、最新のサンプリングタイミングの測定値が最大値である場合、最大測定値記憶部22は、最大値Tmaxを更新する(S410)。
【0063】
時間カウンタ24は、カウントがONであるか否かを判定し、時間カウンタ24のカウントがOFFの場合(S412でNO)は、S414に進み最大測定値記憶部22が記憶するTmaxが32℃以上であるか否かを判定する(S414)。最大測定値記憶部22が記憶するTmaxが32℃以上の場合(S414でYES)は、時間カウンタ24はカウントをONに切り替えて(S418)、表示制御部(図示しない)は表示部14の表示を最大測定値記憶部22が記憶するTmaxに更新する(S420)。
【0064】
一方、S414で最大測定値記憶部22が記憶するTmaxが32℃未満の場合(S414でNO)に、表示制御部は、表示部14の表示を“L”として(S416)S404に戻る。
【0065】
S412で時間カウンタ24のカウントがONである場合(S412でYES)、S420に進み表示制御部は表示部14の表示を最大測定値記憶部22が記憶するTmaxに更新する。
【0066】
つぎに、勾配検出部23は、算出した勾配gについてg≦0.00が成立するか否か判断する(S422)。g≦0.00が、成立していない場合(S422でNO)S402に戻り、成立している場合(S422でYES)は、測定温度曲線の勾配gが緩やかになりつつあると判断しつぎに進む。勾配検出部23は測定温度のピーク値が上昇するかあるいは一定幅以内で変化しないかを監視している。
【0067】
ついで、勾配検出部23は、Δ1<0.00が成立するか否か判断する(S424)。Δ1<0.00が成立している場合(S424でYES)は、ずれが発生したと判断して、t0を1秒長くし(S426)、S402に戻って時間カウンタ24のカウントをリセットする。
【0068】
一方、S424で、Δ1≧0.00が成立していれば(S424でNO)、すなわちずれの検出がなければS428に進み、CPU12の安定検出判断部25は時間カウンタ24のカウントがt0に達したか否か判断する。
【0069】
安定検出判断部25で時間カウンタ24のカウントが収束判定時間t0としての8秒間をカウントし終わったと判定する(S428でYES)と、安定検出判断部25は、ブザー制御部26に対しブザー発出信号を発し、それを受けたブザー制御部26はブザー15を鳴らす(S430)。以上のようにして、告知ブザーが発せられる。
【0070】
S428においてカウントが終了していない場合(S428でNO)は、時間カウンタ24のカウントをインクリメントして(S432)、S404に戻り、再び温度測定値の読み込みを行って、S404からの動作を繰り返す。
【0071】
ここで、時間カウンタ24によるカウント中にg>0.00が成立すると(S422でNO)、S402に戻って時間カウンタ24のカウントはリセットされ、S404の測定値の読み取りからの動作を繰り返すことになる。
【0072】
なお、電子体温計10は、告知ブザーを発した後も、測定者が体温計を腋窩から外さない限り、温度を測定し続けることができる。
【0073】
つづけて
図5を参照し、本実施形態におけるずれの検出原理とその作用について説明する。
【0074】
図5は、
図12におけるB点近傍を拡大したものであり、サンプリングタイミングn、n−1、n−2、n−8、n−9、n−10における測定温度T(n)、T(n−1)、T(n−2)、T(n−8)、T(n−9)、T(n−10)を図示している。電子体温計10が腋窩の正しい位置からずれたことにより、測定曲線は腋窩の正しい位置からずれずに測定されるなだらかな上昇曲線からずれ、一旦極大値をとった後、サンプリングタイミングn−2付近から下降し始めている。
【0075】
ずれ検出温度幅Δ1をずれ検出判定値とともに再掲する。本実施形態では、j=8と設定しているので、下式が成立したときにずれが検出されたと判断される。
Δ1=T(n)−T(n−8) < 0.00
ここで、
図5から、サンプリングタイミングn−1における T(n−1)−T(n−9)>0.00 を経過した後、サンプリングタイミングnで T(n)−T(n−8)<0.00 となり、Δ1<0.00 すなわち、Δ1<βが成立し、電子体温計10にずれが生じたと判断される。つまり、ずれ検出温度幅Δ1は、電子体温計10が腋窩の適切な位置からずれたことにより、上昇しつつある測定温度曲線が下降した領域を検出して、電子体温計10の位置がずれたと判断するようにしている。
【0076】
以上のような原理により電子体温計10のずれを検出すると、先述したように、CPU12は収束判定時間t0に1を加えてこれを9秒とし、時間カウンタ24のカウントをリセットする。収束判定時間t0を長くすることにより、測定温度曲線上の勾配gがさらに緩やかな領域で収束するように変更するのである。この変更により収束条件がより厳しくなり、収束タイミングがより後にずらされる。そのため、サンプリングタイミングn以降通常予測される測定温度曲線に復帰するまでの間で、たとえば
図12のB点近傍で、告知ブザーが発出するのを防止することができるのである。
【0077】
以上述べたように、本実施形態の電子体温計10によれば、測定者が身体を動かすなどして電子体温計10が腋窩の正しい位置からずれた場合、すなわち測定温度曲線が通常予測される曲線からずれた場合においても、告知ブザーの発出タイミングを判断する収束判定時間を標準値から増加させて、つまり告知ブザーの発出タイミングにいわば保護をかけて、告知時に安定した体温を確認できるようにすることができる。
【0078】
なお、収束判定時間t0の増加値は1秒に限られず任意に設定することができる。
また、温度下降の程度を、たとえばT(n)とT(n−1)の差T(n)−T(n−1)によって判定し、その差に応じてt0の増加値を決めるようにしてもよい。このようにすれば、さらに告知ブザーの不適切なタイミングでの発出を有効に防ぐことができる。
【0079】
上記実施形態ではt0の増加と時間カウンタ24のカウントのリセットの双方を行っているが、いずれか一方のみを行うようにしてもよい。さらに、告知ブザーの発出するタイミングが大幅に遅くなることを防止するために、t0の変更回数に上限を設けてもよい。
【0080】
また、測定開始後一定時間を経過した後は、最大測定値は平衡温に近づいていると考えられるので、自動的にずれ検出機能をOFFするようにしてもよい。
【0081】
(第2の実施形態)
図6ないし
図8を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0082】
本実施形態は、測定開始時に、電子体温計10の腋窩への当て方が不適切であった場合、あるいは測定開始後に腋窩の正しい位置からずれてしまい、その状態が保たれている場合において、告知ブザーが不適切なタイミングで発出することを防止するものである。
【0083】
第2の実施形態の体温測定に関連した構成は、第1の実施形態で説明した
図3の構成に対して、勾配検出部23が算出するΔ1(ずれ検出温度幅)を変化率Δ2に置き換えたものである。
【0084】
図6は、測定開始時に電子体温計10の腋窩への当て方が適切でない場合の測定温度の曲線を実線で示し、併せて適切な場合、つまり通常の場合の測定温度曲線を点線で示している。同図に示すように、腋窩への当て方が適切でないと、適切な場合と比較して腋窩の皮膚表面から電子体温計10の温度センサ11aへ体温の熱が伝わりにくくなるため測定温度曲線の勾配がなだらかとなる。測定開始後に腋窩の正しい位置からずれ、その状態が保たれた場合は、
図6の点線の途中から勾配がなだらかになる。
【0085】
このような状態が発生すると、通常であれば点線上の点Cで告知ブザーが鳴り、電子体温計10の表示部14は測定温度T1を表示しているべきであるところ、点Cと同様の勾配を有する実線上の点Dで告知ブザーを発出し、表示部14は測定温度T2を表示することになる。
【0086】
すると、電子体温計10は、測定温度曲線上の未だ充分に安定していないサンプリングタイミングにおいて告知ブザーを発し、測定者に不適切な体温情報を報知してしまうという問題が発生する。
【0087】
そこで、本実施形態では、測定開始から一定時間、たとえば50秒経過した時点における変化率Δ2を算出し、このΔ2と変化率判定値γとを比較して、測定温度曲線が通常予測される以上になだらかになっていないかどうかを判定するようにしている。すなわち、Δ2=T(n)−T(n−i)<γ
が成立したときに、測定温度曲線が通常予測される以上になだらかになっていると判定し、収束判定時間t0にあらかじめ定められた時間だけ加算して、より勾配gが小さい領域で収束するようにしている。
【0088】
Δ2におけるiは任意に設定可能であるが、本実施形態ではi=8としている。また、γおよび上記加算時間は任意に設定することができるが、たとえばそれぞれ0.08℃、2秒とすることができる。測定開始後Δ2を算出するまでの時間もむろん50秒に限られず、任意に設定することが可能である。
【0089】
これを具体的に図示したのが
図7である。測定開始後50秒後においては、点線で示す通常時は点Pにおける変化率Δ2pを有するのに対し、上述の問題が発生した実線では点Qにおける変化率Δ2q有するように変化する。実線は点線よりなだらかな曲線となっているのでΔ2q<Δ2pである。
本実施形態では、
Δ2<0.08
が成立した時に、測定温度曲線が通常以上になだらかになっていると判断し、t0に2を加算して、告知ブザーを鳴らすタイミングをより勾配gの小さい範囲まで遅らせ、表示する温度が測定温度曲線上のより安定した温度になるようにしている。
【0090】
具体的には、本実施形態によらない場合、
図6における時間t2のD点において温度T2を告知するところ、これを時間t3のE点まで遅らせ、通常の告知温度T1に近い温度を表示させるようにするのである。
【0091】
図8は、電子体温計10の動作を説明するフローチャートである。
【0092】
図8におけるS802ないしS806は、
図4におけるS402ないしS406と同様なので説明を省略する。
【0093】
本実施形態では、S808においてCPU12の勾配検出部23は勾配gを算出するとともに、測定開始から50秒経過している場合にはΔ2を算出する。50秒の計時は、たとえば、図示はしないがCPU12内にタイマーを内蔵させておき、計時終了後算出命令信号を発するようにしておけばよい。
【0094】
続くS810ないしS820は、
図4におけるS410ないしS420と同様なので説明を省略する。
【0095】
つぎにCPU12の勾配検出部23は、Δ2<γ、すなわち、Δ2<0.08が成立するか否か判断する(S822)。この判断は、測定開始後50秒のみ行うようにしてもよいし、Δ2にあらかじめ大きな値、たとえば無限大を代入しておき、Δ2が算出されるまではS822でNOに抜けるようにしておいてもよい。
【0096】
S822においてΔ2<0.08が成立していた場合には(S822でYES)、勾配が通常よりなだらかであると判断されるので、収束判定時間t0に2を加算して延長し(S824)、S826に進む。成立していなければ勾配は通常の範囲内と考えられるので(822でNO)、そのままS826に進む。
【0097】
S826において、勾配検出部23はg≦α、すなわち、g≦0.00が成立するか否か判断して、収束状況を判定する。つぎのS828ないしS832は、
図4におけるS428ないしS432と同様なので説明を省略する。
【0098】
以上のように、本実施形態では、 測定開始から一定時間経過後に測定温度曲線の変化率により勾配を判断するようにしており、電子体温計の腋窩への当て方などに起因して勾配gが通常よりなだらかであると判断された場合には、収束判定時間t0を延長してより勾配gの小さい領域で収束するように変更し、告知ブザー発出時に測定温度曲線上の不安定なサンプリングタイミングにおける測定温度を報知してしまうのを防ぐようにしている。
【0099】
なお、本実施形態においては、測定開始から一定時間経過後の測定温度曲線の変化率に基づいて収束判定時間t0を延長しているが、これを短縮するようにしてもよい。たとえば、測定環境温度が高い場合には、体温と電子体温計との温度差が小さいため測定温度曲線の立ち上がりが早くなるので、測定開始から一定時間経過後の測定温度曲線の変化率からこれを判断し、逆に収束判定時間t0を短縮して早めに告知ブザーを鳴らすことが考えられる。その例を第3の実施形態として以下に説明する。
【0100】
(第3の実施形態)
図9ないし
図11を参照して、本発明の第3の実施形態を説明する。
【0101】
本実施形態は、体温と環境温度との差によって電子体温計10の測定温度曲線が通常の曲線と乖離した場合を想定し、あらかじめ乖離が予測されるような場合には、収束判定時
間t0の値を増減するようにしている。
【0102】
図9は、そのような状態が発生した場合の測定温度曲線を示している。
【0103】
たとえば冬場など環境温度が低い場合は、環境温度が低い影響で腋窩の皮膚表面の温度も低くなっているため、身体の中心の熱が腋窩の皮膚表面を通じて温度センサ11aに伝わりにくくなるので、同図の測定温度曲線C3に示すように、通常の測定温度曲線C2に対して勾配がなだらかとなる。かかる場合においては、上述の第2の実施形態において説明した問題と同様の問題が発生するのでt0を増加させ、時間t4のI点で温度T3が表示されるのを時間t5のJ点まで遅らせT2に近い温度を表示させるようにする。
【0104】
一方夏場など環境温度が高い場合は、腋窩の皮膚表面の温度も高くなっているため、身体の中心の熱が腋窩の皮膚表面を通じて温度センサ11aに伝わり易くなるので、
図9の測定温度曲線C1に示すように、曲線C2に対して勾配が急になる。このような場合には、タイミング的に早めに平衡温に収束するのでより速やかに安定した温度に到達するため、早目に告知ブザーを発出することが可能である。つまり、
図9において、収束判定時間t0の値を変えないと時間t2のG点でT1を告知するところ、t0を減少させ、時間t1のF点(G点より大きな勾配を有する)で告知ブザーを発出させてもなお、T2に近い温度を表示させることができる。
【0105】
したがって、かかる場合においては、収束判定時間t0を逆に減少させて告知ブザーをより早く発出させ、測定者にとってより使いやすいものとすることができる。
【0106】
つづけて、本実施形態の具体的な構成と動作について説明する。
まず、第3の実施形態の体温測定に関連した構成は、第1の実施形態で説明した
図3の構成に対して、温度読取部20が測定開始時に温度測定部11から読み取った測定値を環境温度測定値として安定検出判断部25に出力するとともに、安定検出判断部25は、環境温度測定値によって収束判定時間t0を増減するようにしたものである。
【0107】
つぎに、本実施形態では、あらかじめ、実験などによって環境温度に対する収束判定時間t0の増減値を定めておき、CPU12内のメモリなどに記憶させておく。
【0108】
図10は、その一例を示したテーブルである。
図10に示すように、本実施形態では、環境温度が15℃以上35℃未満ではt0の増減を0とし、15℃未満で2秒増加させ、35℃以上で1秒減少させるようにしているが、これらの条件は任意に設定が可能である。
【0109】
図11は、電子体温計10の動作を説明するフローチャートである。
【0110】
そして、
図11に示すように、CPU12は、測定開始時に温度センサ11aで測定された測定値を環境温度として測定するとともに(S102)、
図10のテーブルを参照してt0の増減値を求め、収束判定時間をt0+増減値にセットしなおす(S104)。この動作は、たとえば電源ONに続くセルフチェック動作内で行うようにすることができる。S106以降のフローは、上述した第1、第2の実施形態における説明と同様であるので説明を省略する。
【0111】
以上のように、本実施形態の電子体温計10によれば、体温と環境温度との温度差によって測定温度曲線が通常の曲線から乖離した場合においても、温度差が大きい場合には収束判定時間t0を増加させ、告知ブザー発出時において測定温度曲線上の不安定なサンプリングタイミングでの温度を表示するのを防止することができ、また温度差が小さい場合
にはt0を減少させて、告知ブザーを発出するタイミングを早め、測定者にとって使いやすいものにすることができる。
【0112】
以上の説明においては、第1ないし第3の実施形態を個別に説明したが、これらは適宜に組み合わせて本発明の電子体温計を構成することができる。
【0113】
たとえば、第2の実施形態と第3の実施形態を組み合わせ、測定開始後一定時間経過後の勾配gから決定する収束判定時間t0の増減値を、測定環境温度に応じて変えるようにすれば、告知ブザー発出時の表示温度をさらに適切なものとすることができる。