(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
可動プーリのシーブ面と固定プーリのシーブ面とによって形成されたV溝部を有する2つのプーリと、前記2つのプーリに巻き掛けられた無端状のベルトとからなる無段変速機に装備され、前記ベルトにオイルを供給して冷却する無段変速機のベルト冷却装置であって、
前記可動プーリの前記シーブ面の背面と該可動プーリを軸支するシャフトの外周面とにより区画形成された油圧室に前記可動プーリを移動させるオイルを供給するオイル供給手段と、
前記可動プーリと前記シャフトとの間から前記V溝部へ前記油圧室内のオイルが流出するのを抑制するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、
弾性力により前記シャフトの外周面に圧接するシール面と、
前記シャフトの回転に伴い前記シール部材に加わる遠心力により前記シール面が前記シャフトの外周面から離隔するのを許容する変形許容部と、を備えている
ことを特徴とする、無段変速機のベルト冷却装置。
前記シール部材は、弾性材料によって無端の環状に形成され、その一部分に前記変形許容部が設けられ、前記変形許容部は、他の部分よりも弾性係数が小さく、前記遠心力によって弾性的に伸張して前記シール本体部が弾性変形によって拡径するのを許容する
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の無段変速機のベルト冷却装置。
前記シール部材は、弾性材料によって形成されるとともに、前記シール部材の一端部に形成された一端面と前記シール部材の他端部に形成された他端面とが対向することにより環状に形成され、前記一端面と前記他端面とが対向する部分を前記変形許容部とし、
前記一端部と前記他端部とが周方向へ相対移動するのを許容して、前記シール部材の弾性変形による拡径を許容する
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の無段変速機のベルト冷却装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1の技術によれば、無段変速機の状態により変化する発熱量の多い箇所へノズルの噴射方向を向けることにより、冷却効率を向上と冷却流体の消耗の減少とを図ることはできる。しかしながら、無段変速機の状態によっては、冷却を要する発熱箇所が複数発生するため、単にノズルの噴射方向を変更するだけでは、必要箇所への冷却を十分に行なうことができない。
【0005】
例えば、
図12は金属製のベルトを用いた無段変速機の作動時の状態を模式的に示す図であり、無段変速機の作動時には、ベルトは微小な伸縮を伴いながら回動する。つまり、プライマリプーリ1やセカンダリプーリ2への係合開始箇所や係合終了箇所において、ベルトはエレメント間が微小に伸縮し、このような箇所において特に発熱する。
例えば、
図13は無段変速機の作動時における各部の発熱状態を説明する図であり、
図13(a)はベルトの内部発熱量とベルトとプーリとの間の発熱量とをベルトの部位と対応させて示す図であり、
図13(b)は
図13(a)の横軸のベルトの部位を示す図である。
【0006】
図13(b)に示すように、プライマリプーリ1とセカンダリプーリ2とに巻き掛けられたベルト3が、図中に矢印で示すようなプーリ1,2の回転により回動すると、ベルト3の各箇所P1〜P8におけるベルト内部発熱量及びベルトプーリ間発熱量は、
図13(a)に示すように、ベルト3がプーリ1,2との係合を始める箇所P2,P6及びベルト3がプーリ1,2との係合を終える箇所P4,P8において高くなる。
【0007】
特許文献1に例示された技術の場合、ベルト3がプーリ1,2との係合を始める箇所P2,P6にピンポイントで冷却流体を供給しているが、より効率的に冷却するには、ベルト3がプーリ1,2との係合を終える箇所P4,P8においても冷却流体の供給する必要がある。そのためには、冷却流体の噴射方向を変更可能なノズルを各プーリ1,2に2つずつ設けなければならず、冷却系構造が複雑なものになり、配置スペースの点に実施が難しく、配置できたとしても大きなコスト増を招くことになる。
【0008】
しかも、有効径が小さいプーリ2におけるベルト係合箇所P6〜P8と、有効径が大きいプーリ1におけるベルト係合箇所P2〜P4とを比較すると、有効径Bの小さいプーリ2の方が有効径の大きいプーリ1よりもベルト内部発熱量及びベルトプーリ間発熱量が共に大きくなっている。特に、ベルト内部発熱量は、箇所P6,P8のみならず、箇所P6,P8の間のベルト係合箇所においても高くなっている。
【0009】
このことからも、無段変速機の作動状態によっては、より広範囲に冷却流体を供給できるようにすることが必要となることがわかる。
ピンポイントで冷却流体を供給する手法では、このような要求に十分に答えることは困難であり、無段変速機の様々な運転状態を考慮して、効率よくしかも確実にベルトを冷却できるようにすることが望まれている。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑み創案されたもので、無段変速機の運転状態に応じて広範囲に冷却流体を供給することができるようにして、冷却流体の消耗を抑えながら無段変速機の各発熱箇所を確実に且つ効率よく冷却することができるようにした、無段変速機のベルト冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明の無段変速機のベルト冷却装置は、可動プーリのシーブ面と固定プーリのシーブ面とによって形成されたV溝部を有する2つのプーリと、前記2つのプーリに巻き掛けられた無端状のベルトとからなる無段変速機に装備され、前記ベルトにオイルを供給して冷却する無段変速機のベルト冷却装置であって、前記可動プーリの前記シーブ面の背面と該可動プーリを軸支するシャフトの外周面とにより区画形成された油圧室に前記可動プーリを移動させるオイルを供給するオイル供給手段と、前記可動プーリと前記シャフトとの間から前記V溝部へ前記油圧室内のオイルが流出するのを抑制するシール部材と、を備え、前記シール部材は、弾性力により前記シャフトの外周面に圧接するシール面と、前記シャフトの回転に伴い前記シール部材に加わる遠心力により前記シール面が前記シャフトの外周面から離隔するのを許容する変形許容部と、を備えていることを特徴としている。
【0012】
前記変形許容部は、前記遠心力が強まるのにしたがって前記シール面の前記シャフトの外周面からの離隔量が増加することを許容することが好ましい。
前記オイル供給手段は、オイルを圧送するオイル供給源と、前記オイル供給源と前記油圧室との間に設けられたオイル供給路とを備え、前記シャフトの外周面の前記シール面が対向しうる箇所に、前記オイル供給路と連通する開口部が形成されていることが好ましい。
【0013】
前記シール部材は、弾性材料によって無端の環状に形成され、前記シール面としての環状内周面を有するシール本体部と、前記シール本体部の外周の少なくても一部に、前記シール本体部が前記遠心力によって弾性変形して拡径するのを許容する前記変形許容部と、を備え、前記変形許容部は、その内部に中空部を有することが好ましい。
【0014】
または、前記シール部材は、弾性材料によって無端の環状に形成され、その一部分に前記変形許容部が設けられ、前記変形許容部は、他の部分よりも弾性係数が小さく、前記遠心力によって弾性的に伸張して前記シール本体部の弾性変形による拡径を許容する前記変形許容部として備えられていることが好ましい。
前記シール部材は、円弧状の前記シール面を有する複数のシール本体部を備え、前記変形許容部は、前記複数のシール本体部の端部をそれぞれ連結するとともに、前記遠心力によって弾性的に伸張し、前記シール面が前記シャフトの外周面から離隔するのを許容することも好ましい。
【0015】
この場合、前記変形許容部は、前記シール部材の他の部分と同一素材にて形成されるとともに、他の部分よりも断面積が小さく形成されていることも好ましい。
あるいは、前記シール部材は、弾性材料によって形成されるとともに、前記シール部材の一端部に形成された一端面と前記シール部材の他端部に形成された他端面とが対向することにより環状に形成され、前記一端面と前記他端面とが対向する部分を前記変形許容部とし、前記一端部と前記他端部とが周方向へ相対移動するのを許容して、前記シール部材の弾性変形による拡径を許容することが好ましい。
【0016】
前記ベルトは、金属製ベルトであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の無段変速機のベルト冷却装置によれば、無段変速機の作動時には、プライマリプーリ及びセカンダリプーリの各可動プーリの油圧室に供給されるオイルに応じて各可動プーリの位置が調整され、この各可動プーリの位置に応じた変速比で、ベルトを通じてプライマリプーリからセカンダリプーリに回転動力が伝達されるが、このとき、油圧室内のオイルは、油圧室の一部を区画形成する可動プーリとシャフトとの間において、シール部材によりV溝部への流出を抑制される。
【0018】
このオイルの流出抑制は、シール部材のシール面がシャフトの外周面に圧接することによりなされるが、変形許容部によりシール部材の弾性変形が許容され、可動プーリの回転に伴いシール部材に加わる遠心力によってシール面がシャフトの外周面から離隔するので、オイルはシール面とシャフトの外周面との間からV溝部へ流出し、V溝部内のベルトに供給され、ベルトを冷却すると共に、ベルトとV溝部との間の潤滑に利用される。
【0019】
プーリの回転速度が高まるほどシール部材に加わる遠心力が強まるが、変形許容部が、遠心力が強まるのにしたがってシール面のシャフトの外周面からの離隔量が増加することを許容すれば、遠心力が強まるのにしたがって、シール面とシャフトの外周面との間からV溝部へのオイル流出量が増大し、V溝部内のベルトに供給されるオイルの量も増大する。一般に、プーリの回転が高まるほどベルトを冷却するオイルの量も多く要求されるので、極めて効率よくベルトにオイルを供給して冷却することができる。
【0020】
また、ベルトを冷却するオイルは、プーリのベルト支持面(シーブ面)を介して、プーリの回転に伴って外周方向へ移動して、ベルトの内周面側からベルトへと供給されるので、プーリに当接するベルト全体にオイルを供給することができ、オイルを噴射によって供給する場合に較べて、より広範囲にオイルを冷却することができ、プーリの回転速度が高まるほど広範囲となるベルト冷却要求部に対して対応することができ、この点からも冷却効率を向上させることができる。
【0021】
しかも、可動プーリの移動のために油圧室に供給されるオイルの一部を利用するため、オイルを噴射によって供給する場合のように、ノズルやノズルにオイルを供給する供給配管等を新たに設ける必要もないので、スペース上も設置が容易であり、設置コストも抑えられる。
また、シャフトの外周面のシール面が対向しうる箇所に、オイル供給路と連通する開口部を形成すると、開口部においてオイルがシール面を押圧して、これによりシール面をシャフトの外周面から離隔させることができ、上記の遠心力に加えて、開口部からのオイルの圧力も加わって、シール面のシャフトの外周面からの離隔量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置を示す無段変速機の要部断面図であり、(a)はそのシール部材のシール面がシャフト外周面へ圧接したシール状態を示し、(b)はそのシール部材のシール面がシャフト外周面から離隔したオイル供給状態を示す。
【
図2】本発明の第1実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置が適用される無段変速機のオイル(作動油)の回路を示す構成図である。
【
図3】本発明の第1実施形態にかかる無段変速機の要部構成をそのベルト冷却装置によるオイルの供給状態と共に模式的に示す無段変速機の要部側面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置に適用されるシール部材を示す図であり、(a)はその要部正面図、(b)はその要部断面[
図3(a)のA−A矢視断面]と共に示す部分斜視図、(c)はその変形例を要部断面と共に示す部分斜視図[
図3(b)に相当する図]である。
【
図5】本発明の第2実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置を第1実施形態のものと対比して示す無段変速機の要部断面図であり、(a)は第1実施形態のものを示し、(b)は第2実施形態のものを示す。
【
図6】本発明の第3実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置を示す無段変速機の要部断面図であり、(a)はそのシール部材のシール面がシャフト外周面へ圧接した状態を示し、(b)はそのシール部材のシール面がシャフト外周面から離隔した状態を示す。
【
図7】本発明の第3実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置によるオイルの供給特性として、セカンダリプーリ変速比がローレシオからハイレシオに変化するのに応じたオイル供給量(吐出量)の変遷例を示すタイムチャートである。
【
図8】本発明の第4実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置に適用されるシール部材を示す図であり、(a)はその要部正面図、(b)はその部分斜視図である。
【
図9】本発明の第5実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置に適用されるシール部材を示す図であり、(a)はその要部正面図、(b)はそのシール状態を示す部分拡大図、(c)はそのオイル供給状態を示す部分拡大図である。
【
図10】本発明の第6実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置に適用されるシール部材を示す図で要部正面図である。
【
図11】本発明の第7実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置に適用されるシール部材を示す図であり、(a)はその要部正面図、(b)はその部分斜視図である。
【
図12】本発明の課題を説明する無段変速機の要部側面図である。
【
図13】本発明の課題を説明する無段変速機の作動時における各部の発熱状態を説明する図であり、(a)はベルトの内部発熱量とベルトとプーリとの間の発熱量とをベルトの部位と対応させて示す図、(b)は
図12(a)の横軸のベルトの部位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面により、本発明の実施形態を説明する。
図1〜
図4は第1実施形態を示し、
図5は第2実施形態を示し、
図6,
図7は第3実施形態を示し、
図8は第4実施形態を示し、
図9は第5実施形態を示し、
図10は第6実施形態を示し、
図11は第7実施形態を示す。これらの図を用いて、各実施形態を説明する。なお、
図6において、
図1と同様の部材については同様に符号を付しこれらの部材の説明を一部省略する。
【0024】
また、各実施形態では、無端状のベルトを用いたベルト式無段変速機を例に説明するが、本発明にかかる無段変速機として、無端状の金属製チェーンベルトを用いたベルト式無段変速機にも適用することもできる。
〔無段変速機の要部及びその油圧回路の構成〕
まず、各実施形態に共通の無段変速機の要部構成を説明する。
【0025】
図2,
図3に示すように、ベルト式無段変速機は、図示しない変速機ケース内に、プライマリプーリ1と、セカンダリプーリ2と、これらのプーリ1,2に巻き掛けられた無端状のベルト3とをそなえて構成されている。プライマリプーリ1及びセカンダリプーリ2は、何れも、回転軸(シャフト)11,21と、回転軸(シャフト)11,21と回転方向にも軸方向にも一体に結合され支持される固定プーリ12,22と、固定プーリ12,22と対向して配設され、回転軸(シャフト)11,21と回転方向には一体に軸方向に可動に接続され支持される可動プーリ13,23と、をそなえている。
【0026】
プライマリプーリ1及びセカンダリプーリ2には、各固定プーリ12,22のベルト支持面(シーブ面)12a,22aと各可動プーリ13,23のベルト支持面(シーブ面)13a,23aとの間に、断面が略V字状のV溝部10が形成され、ベルト3はこれらのV溝部10に巻き掛けられて装備される。
各可動プーリ13,23には、油圧室15,25が隣接して配設される。この油圧室15,25は、各可動プーリ13,23の背面(外側面)13b,23bと、これに対向するようにシャフト11,21に固設された区画部材14,24と、シャフト11,21の外周面11a,21aとによって囲繞されて形成される。この油圧室15,25内に供給される作動油(オイル)の圧力に応じて、各可動プーリ13,23はシャフト11,21に対して軸方向に移動し、V溝部10のスパン、即ち、各固定プーリ12,22のシーブ面12a,22aと各可動プーリ13,23のシーブ面13a,23aとの間の距離を変更し、各プーリ1,2の有効径が調整され、変速比が変更される。
【0027】
このため、オイルを圧送するオイル供給源であるオイルポンプ4と、コントロールバルブ(C/V)5a,5bと、ドレーンタンク7とをそなえ、油圧室15,25内へのオイルの供給及び油圧室15,25内からのオイルの排出を行なうための油圧回路が形成されている。この油圧回路は、ドレーンタンク7とオイルポンプ4との間に介設された油路6aと、オイルポンプ4と第1コントロールバルブ5aとの間に介設された油路6bと、オイルポンプ4と第2コントロールバルブ5bとの間に介設された油路6cと、第1コントロールバルブ5aとプライマリプーリ1との間に介設された油路6dと、第2コントロールバルブ5bとセカンダリプーリ2との間に介設された油路6eと、プライマリプーリ1とドレーンタンク7との間に介設された図示しないリターン油路と、セカンダリプーリ2とドレーンタンク7との間に介設された図示しないリターン油路と、をそなえている。
【0028】
油路6dからプライマリプーリ1に導入されたオイルは、プライマリプーリ1のシャフト11内に形成された油路16から油圧室15内に供給され、油路6eからセカンダリプーリ2に導入されたオイルは、セカンダリプーリ2のシャフト21内に形成された油路26から油圧室25内に供給される。したがって、油路6b,6d,16はプライマリプーリ1へのオイル供給路を構成し、油路6c,6e,26はセカンダリプーリ2へのオイル供給路を構成する。また、油路16及びリターン油路はプライマリプーリ1からドレーンタンク7へのオイル排出路を構成し、油路26及びリターン油路はセカンダリプーリ2からドレーンタンク7へのオイル排出路を構成する。
【0029】
〔第1実施形態〕
第1実施形態にかかるベルト冷却装置は、プライマリプーリ1及びセカンダリプーリ2の双方に設けられ、何れも同様な構成であるので、ここでは、セカンダリプーリ2に装備されたベルト冷却装置を説明する。
図1に示すように、セカンダリプーリ2のシャフト21内に形成された油路26には、油圧室25と連通するための開口油路26aが接続されており、油路26から開口油路26aを経て、油圧室25内にオイルが供給される。
【0030】
可動プーリ23は、軸方向移動時にシャフト21及び区画部材24に対して摺動するため、これらの摺動箇所にはシール部材が装備される。ここでは、区画部材24に対する摺動部のシール部材は省略しているが、可動プーリ23とシャフト21の外周面21との摺動部にはシール部材32が装備される。
このシール部材32は、可動プーリ23の内周面に形成された環状溝31内に収容された環状の部材であって、例えば、ニトリルゴム,スチロールゴム,シリコーンゴム,ふっ素ゴム,アクリルゴム,エチレンプロピレンゴム,水素化ニトリルゴムなどの、耐油性,耐熱性及び柔軟性を有する合成ゴムにより形成される。
【0031】
シール部材32には、内周側にシャフト21の外周面21aに圧接しうる環状のシール面32sが形成されたシール本体部32aと、
図4(a),(b)に示すように、シール本体部32aの外周側に形成され、シール部材32のシール本体部32aの弾性変形によるシール面32sのシャフト21の外周面21aからの離隔を許容する変形許容部として、断面アーチ型の基部32cと中空部32bが形成されている。この中空部32bは、シール本体部32aの外周側に両端部を接続され中間部をシール本体部32aから離隔して形成された断面アーチ型の基部32cによって形成される。
【0032】
セカンダリプーリ2の回転が停止している状態では、アーチ型の基部32cの弾性力によってシール面32sがシャフト21の外周面21aに圧接する。そして、セカンダリプーリ2の回転に伴いシャフト21及び可動プーリ23等が回転すると、アーチ型の基部32cの弾性力に対向するようにシール部材32に遠心力が加わり、遠心力が強まるのにしたがってシール面32sのシャフト外周面21aへの圧接力が低下していき、やがて、シール面32sがシャフト外周面21aから離隔するようになっている。この離隔後も、遠心力が強まるのにしたがって離隔量が増大するようになっている。
【0033】
なお、
図4(c)に示すように、シール本体部42aの外周側に一端部を接続され中間部及び先端部をシール本体部42aから離隔して形成された断面C字型の基部42cによって中空部42bが形成されるように、シール部材42を構成してもよい。
このような環状溝31及びシール部材32に対応する構成は、プライマリプーリ1に同様に装備されていてもよい。
【0034】
本発明の第1実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置は、上述のように構成されているので、無段変速機の作動に伴って、セカンダリプーリ2が回転すると、その回転に伴いシャフト21及び可動プーリ23等が回転し、シール部材32に遠心力が加わるが、セカンダリプーリ2の回転速度が低く、シール部材32に加わる遠心力が弱いと、基部32cの弾性力によってシール面32sがシャフト21の外周面21aに圧接して、油圧室25からV溝部10へのオイルの流出が抑制される(
図1(a)の状態)。
【0035】
そして、セカンダリプーリ2の回転速度が高まり、シール部材32に加わる遠心力が強まるのにしたがって、シール部材32のシール面32sのシャフト外周面21aへの圧接力が低下していき、やがて、シール面32sがシャフト外周面21aから離隔する。これによって、シール面32sとシャフト外周面21aとの隙間を通じて、油圧室25からV溝部10へオイルが流出して、この流出オイルが可動プーリ23のシーブ面23aや固定プーリ22のシーブ面22aを介して遠心力によって外周のベルト3に向けて供給される。
【0036】
したがって、この供給されるオイルが、ベルト3を冷却すると共に、ベルト3とV溝部10のシーブ面22a,23aとの間の潤滑油として利用される(
図1(b)の状態)。
プーリ2の回転速度が高まるほどシール部材32に加わる遠心力が強まるが、基部32cと中空部(変形許容部)32bが、遠心力が強まるのにしたがってシール面32sのシャフト外周面21aからの離隔量の増加を許容するので、遠心力が強まるのにしたがって、シール面32sとシャフト外周面21aとの間からV溝部10へのオイル流出量が増大し、V溝部10内のベルト3に供給されるオイルの量も増大する。
【0037】
一般に、プーリ1,2の回転速度が高まるほど発熱量も増えるので、ベルト3を冷却するオイルの量も多く要求される。つまり、このプーリ1,2の回転速度は、エンジン等の入力回転が高まることや、変速比の変更によってプーリ1,2の有効径が小さくなることによっても高まり、ベルト3とシーブ面12a,13a,22a,23aとの間の摩擦が増大して発熱量が増大する。
【0038】
したがって、プーリ1,2の回転速度が高まるほどベルト3を冷却するオイルの量も多く要求されることになり、プーリ1,2の回転速度の高まりと共に高まる遠心力の高まりに応じて供給するオイルの量が増える本装置は、極めて効率よくベルト3にオイルを供給して冷却することができる。
また、ベルト3を冷却するオイルは、プーリ1,2のベルト支持面(シーブ面)12a,13a,22a,23aを介して、プーリ1,2の回転に伴って外周方向へ移動して、ベルト3の内周面側からベルト3へと供給されるので、
図3に矢印で示すように、プーリ1,2に当接するベルト3全体にオイルを供給することができ、オイルを噴射によって供給する場合に較べて、より広範囲にオイルを冷却することができ、広範囲に亘って発熱するベルト冷却要求部に対応することができ、この点からも冷却効率を向上させることができる。
【0039】
しかも、可動プーリ13,23の移動のために油圧室15,25に供給されるオイルの一部を利用するため、オイルを噴射によって供給する場合のように、ノズルやノズルにオイルを供給する供給配管等を新たに設ける必要もないので、スペース上も設置が容易であり、設置コストも抑えられる。
【0040】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態について説明する。
本実施形態は、
図5(a)に示す第1実施形態のものに対して、
図5(b)に示すように、プライマリプーリ1のシャフト11の外周面11aに対し、シール面32sが対向しうる箇所に、油路(オイル供給路)16と連通する開口部33が形成されている点が相違する。
なお、この開口部33は、シャフト11の外周面11aに適宜の数だけ設けることができる。
【0041】
このような構成は、セカンダリプーリ2に同様に装備されていてもよい。
本発明の第2実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置は、上述のように構成されているので、開口部33においてオイルがシール面32sを押圧して、これによりシール面32sをシャフト11の外周面11aから離隔させることができ、上記の遠心力に加えて、開口部33からのオイルの圧力も加わって、シール面32sのシャフト外周面11aからの離隔量を増大させることができる。
【0042】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態について説明する。
本実施形態は、
図6に示すように、セカンダリプーリ2のシャフト21の外周面21aに対し、シール面32sが対向しうる箇所に、油路(オイル供給路)26と連通する開口部33が形成されている点が相違する。
【0043】
なお、この開口部33は、シャフト21の外周面21aに適宜の数だけ設けることができる。
このような構成は、プライマリプーリ1に同様に装備されていてもよい。
本発明の第3実施形態にかかる無段変速機のベルト冷却装置は、上述のように構成されているので、開口部33においてオイルがシール面32sを押圧して、これによりシール面32sをシャフト21の外周面21aから離隔させることができ、上記の遠心力に加えて、開口部33からのオイルの圧力も加わって、シール面32sのシャフト外周面21aからの離隔量を増大させることができる。
【0044】
特に、油圧室25内へ供給するオイルの圧力を高くするほど、開口部33からのオイルの圧力も強まるので、プーリ2の有効径を大きくする場合ほど、開口部33からのオイルの圧力も強まることになる。
したがって、
図7に示すように、セカンダリプーリ2におけるベルト3へのオイル供給量(オイル吐出量)が変化する。
【0045】
つまり、時刻t1からt3にかけて加速によって変速比がローレシオからハイレシオに変化して行くと、セカンダリプーリ2は有効径が大きい状態から次第に小さくなり回転速度も上昇する。したがって、ローレシオの状態では、遠心力が主体となって、シール面32sをシャフト21の外周面21aから離隔させ、ハイレシオに進むにしたがい更に遠心力が大きくなり、セカンダリプーリ2におけるベルトへのオイル供給量(オイル吐出量)が増加する。時刻t2において、可動プーリ23が最ハイレシオの近傍までくると、
図6(b)に示すように、開口部33の位置にシール部材32が移動し、オイルがシール面32sを押圧する。これにより遠心力の増加に加え、油圧によってもシール面32sがシャフト21の外周面21aから離隔する。このため、セカンダリプーリ2におけるベルトへのオイル供給量(オイル吐出量)の増加率が増加する。
【0046】
このように、開口部33は、変速比によってプーリの回転数が増加する位置で、シール面32sを押圧するように設定すると、遠心力によるオイルの供給量の増加に加え、油圧によるオイルの供給量も増加する。これにより、回転数の増加によって増加する摩擦と、有効半径が小さくなるために増加するベルト3のエレメントの摩擦とにより大きくなる発熱を、より多いオイルで冷却できるようになる。
【0047】
〔第4実施形態〕
次に、第4実施形態について説明する。
本実施形態は、シール部材の構成が第1〜3実施形態と異なっている。
つまり、
図8(a)に示すように、シール部材52は、無端の環状ではなく、有端の環状に形成され、その一端部52bと他端部52cとが互いに重合しているが外力によって、それぞれの端面(一端面及び他端面)が離隔可能になっている。この一端部52bと他端部52cとの周方向への相対移動を許容する相対移動許容構造がシール本体部52aの弾性変形による拡径を許容する変形許容部として構成される。
【0048】
したがって、本実施形態によれば、セカンダリプーリ2の回転速度が低い時には、シール部材52の一端52bと他端52cとが互いに重合していて、シール本体部52aのシール面52sがシャフト21の外周面21aに圧接し、シール部材52は可動プーリ23とシャフト21の間をシールする。これに対し、セカンダリプーリ2の回転数が増加し、シール部材52に加わる遠心力が大きくなると、一端部52bと他端部52cとが互いに離隔しながら、シール本体部52aは弾性変形により拡径して、シール本体部52aのシール面52sがシャフト21の外周面21aから離隔して、第1〜3実施形態と同様に遠心力に応じてベルト3にオイルが供給される。
【0049】
〔第5実施形態〕
次に、第5実施形態について説明する。
本実施形態は、シール部材の構成が第1〜4実施形態と異なっている。
つまり、
図9(a)に示すように、シール部材62は、無端の環状であるが、途中にアコーディオン状の周方向に伸縮可能な伸縮構造部62bが適宜の数だけ設けられている。
【0050】
したがって、本実施形態によれば、プーリ2の回転数が低い時には、
図9(b)に示すように、伸縮構造部62bが収縮していて、シール本体部62aのシール面62sがシャフト21の外周面21aに圧接し、シール部材62は可動プーリ23とシャフト21の間をシールする。これに対し、セカンダリプーリ2の回転数が増加し、シール部材62に加わる遠心力が大きくなると、
図9(c)に示すように、伸縮構造部62bが伸張しながら、シール本体部62aの弾性変形により拡径して、シール本体部62aのシール面62sがシャフト21の外周面21aから離隔して、第1〜4実施形態と同様に遠心力に応じてベルト3にオイルが供給される。
【0051】
また、本実施形態では、シール本体部62aは弾性変形するように弾性体で形成されているが、伸縮構造部62bが伸縮可能なので、シール本体部62aを弾性変形しない素材で形成することもできる。また、シール本体部62aは、複数(ここでは、伸縮構造部62bを挟んで4つ)で構成したが、シール本体部62aが弾性変形可能な場合は、シール本体部62aを1つだけで形成することもできる。この場合、1つのシール本体部62aの一端部と他端部とを伸縮構造部62bで連結すればよい。
【0052】
〔第6実施形態〕
次に、第6実施形態について説明する。
本実施形態は、シール部材の構成が第1〜5実施形態と異なっている。
つまり、
図10(a)に示すように、シール部材72は、無端の環状であるが、途中に薄肉化されて伸縮可能な伸縮構造部72bが適宜の数だけ設けられている。
【0053】
したがって、本実施形態によれば、セカンダリプーリ2の回転速度が低い時には、伸縮構造部72bが収縮していて、シール本体部72aのシール面72sがシャフト21の外周面21aに圧接し、シール部材62に加わる遠心力が増加すると、伸縮構造部72bが伸張しながら、シール本体部72aの弾性変形により拡径して、シール本体部72aのシール面62sがシャフト21の外周面21aから離隔して、第1〜5実施形態と同様に遠心力に応じてベルト3にオイルが供給される。
【0054】
また、本実施形態でも、シール本体部72aは弾性変形するように弾性体で形成されているが、伸縮構造部72bが伸縮可能なので、シール本体部72aを弾性変形しない素材で形成することもできる。また、シール本体部72aは、複数(ここでは、伸縮構造部72bを挟んで4つ)で構成したが、シール本体部72aが弾性変形可能な場合は、1つのみで形成することもできる。この場合、1つの伸縮構造部72bを設ければよい。
【0055】
〔第7実施形態〕
次に、第7実施形態について説明する。
本実施形態は、シール部材の構成が第1〜6実施形態と異なっている。
つまり、
図11(a)に示すように、シール部材82のシール本体部82aは、無端の環状ではなく、有端の環状に形成され、その一端面82bと他端面82cとが対向し、外力(遠心力)によって、それぞれの端面が離隔可能になっている。この一端面82bと他端面82cとの周方向への相対移動を許容する相対移動許容構造がシール本体部82aの弾性変形による拡径を許容する変形許容部として構成される。
【0056】
また、シール本体部82aの両端部には、それぞれアーチ状の基部82dと中空部82eを形成している。
したがって、本実施形態によれば、セカンダリプーリ2の回転速度が低い時には、基部82dとシール本体部82aの弾性力によって、シール部材82の一端面82bと他端面82cとが互いに近接した状態となり、シール本体部82aのシール面82sがシャフト21の外周面21aに圧接し、シール部材82は可動プーリ23とシャフト21の間をシールする。
【0057】
これに対し、セカンダリプーリ2の回転速度が高くなり、シール部材82に加わる遠心力が大きくなると、シール部材82のシール面82sのシャフト外周面21aへの圧接力が低下していき、基部82dの弾性変形とともに、一端面82bと他端面82cとが互いに離隔しながら、シール本体部82aは弾性変形により拡径して、シール本体部82aのシール面82sがシャフト21の外周面21aから離隔する。
【0058】
これによって、シール面82sとシャフト外周面21aとの隙間を通じて、油圧室25からV溝部10へオイルが流出して、この流出オイルが可動プーリ23のシーブ面23aや固定プーリ22のシーブ面22aを介して遠心力によって外周のベルト3に向けて供給される。この供給されるオイルが、ベルト3を冷却すると共に、ベルト3とV溝部10のシーブ面22a,23aとの間の潤滑油として利用される。
【0059】
このようにすると、両端部が遠心力の増加に伴い互いに離れるが、これを両端部に設けられた基部82dと中空部82eがその弾性力で規制することができる。このため、シール本体部の外周全面に渡って基部と中空部を設ける場合に比べ、変形許容部を小さくすることができる。
【0060】
〔その他〕
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はかかる実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各実施形態の一部を変更したり、各実施形態を組み合わせたりすることもできる。
例えば、上記の実施形態では、無端状のベルトでプーリ間を掛け渡した無段変速機を例示したが、金属チェーン(金属製チェーンベルト)を用いたチェーン式無段変速機(広義には、ベルト式無段変速機)の場合にも、発熱するため、この発熱を抑制するために適用することも有効である。