(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水素の存在下、沸点360℃以上のノルマルパラフィンを含有する炭化水素油を、水素化異性化触媒に、下記式(1)で定義される分解率が10質量%以下となる条件で接触させて異性化脱蝋を行う第1の工程と、
前記条件を前記分解率が13質量%以上となる条件に一時的に切り替えて、前記異性化脱蝋を行う第2の工程と、を備える、潤滑油基油の製造方法。
分解率(質量%)=[(C1−C2)/C1]×100 (1)
[式中、C1は、前記炭化水素油における沸点360℃以上の留分の質量割合を示し、C2は、異性化脱蝋後の前記炭化水素油における沸点360℃以上の留分の質量割合を示す。]
前記水素化異性化触媒が、10員環一次元状細孔構造を有するゼオライト、及びバインダーを含む担体と、該担体に担持された白金及び/又はパラジウムと、を含有する触媒であり、
前記触媒の単位質量当たりのミクロ細孔容積が0.02〜0.11cc/gであり、
前記ゼオライトは、有機テンプレートを含有し10員環一次元状細孔構造を有する有機テンプレート含有ゼオライトを、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液中でイオン交換して得られるイオン交換ゼオライトに由来するものであり、
前記触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積が0.04〜0.12cc/gである、請求項1に記載の潤滑油基油の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好適な実施形態について以下に説明する。
【0019】
本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法は、水素の存在下、沸点360℃以上のノルマルパラフィンを含有する炭化水素油を、水素化異性化触媒に、下記式(1)で定義される分解率が10質量%以下となる条件で接触させて異性化脱蝋を行う第1の工程と、上記条件を分解率が13質量%以上となる条件に一時的に切り替えて、上記異性化脱蝋を行う第2の工程と、を備える。
【0020】
分解率(質量%)=[(C
1−C
2)/C
1]×100 (1)
[式中、C
1は、炭化水素油における沸点360℃以上の留分の質量割合を示し、C
2は、異性化脱蝋後の炭化水素油における沸点360℃以上の留分の質量割合を示す。]
【0021】
なお、C
1及びC
2は、原料炭化水素油及び異性化脱蝋後の炭化水素油をそれぞれガスクロマトグラフィー法により分析した結果から算出することができる。
【0022】
(第1の工程)
第1の工程(以下、場合により「異性化処理工程」という。)では、水素の存在下、沸点360℃以上のノルマルパラフィンを含有する炭化水素油を、水素化異性化触媒に接触させて異性化脱蝋を行う。第1の工程では、異性化脱蝋を、式(1)で定義される分解率が10質量%以下となる条件で行う。第1の工程における分解率は、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0023】
水素化異性化触媒としては、水素化異性化に一般的に使用される触媒、すなわち無機担体に水素化活性を有する金属が担持された触媒を用いることができる。
【0024】
水素化異性化触媒における水素化活性を有する金属としては、周期表第6族、第8族、第9族及び第10族の金属からなる群より選ばれる1種以上の金属が用いられる。これらの金属の具体的な例としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等の貴金属、あるいはコバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、鉄などが挙げられ、好ましくは、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステンであり、更に好ましくは白金、パラジウムである。また、これらの金属は複数種を組み合わせて用いることも好ましく、その場合の好ましい組み合わせとしては、白金−パラジウム、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステン等が挙げられる。
【0025】
水素化異性化触媒を構成する無機担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア等の金属酸化物が挙げられる。これら金属酸化物は1種であってもよいし、2種以上の混合物あるいはシリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナボリア等の複合金属酸化物であってもよい。上記無機担体は、ノルマルパラフィンの水素化異性化を効率的に進行させる観点から、シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナボリア等の固体酸性を有する複合金属酸化物、であることが好ましい。また、無機担体には少量のゼオライトを含んでもよい。さらに無機担体は、担体の成型性及び機械的強度の向上を目的として、バインダーが配合されていてもよい。好ましいバインダーとしては、アルミナ、シリカ、マグネシア等が挙げられる。
【0026】
水素化異性化触媒における水素化活性を有する金属の含有量としては、当該金属が上記の貴金属である場合には、金属原子として担体の質量基準で0.1〜3質量%程度であることが好ましい。また、当該金属が上記の貴金属以外の金属である場合には、金属酸化物として担体の質量基準で2〜50質量%程度であることが好ましい。水素化活性を有する金属の含有量が上記下限値未満の場合には、水素化異性化が充分に進行しない傾向にある。一方、水素化活性を有する金属の含有量が上記上限値を超える場合には、水素化活性を有する金属の分散が低下して触媒の活性が低下する傾向となり、また触媒コストが上昇する。
【0027】
また、水素化異性化触媒は、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン、マグネシウム及びゼオライトから選ばれる物質より構成される多孔性の無機酸化物からなる担体に周期表第6族、第8族、第9族、及び10族の元素から選ばれる金属を1種以上担持してなる触媒であってもよい。
【0028】
このような水素化異性化触媒の担体として用いられる多孔性の無機酸化物としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、あるいはゼオライトが挙げられ、このうちチタニア、ジルコニア、ボリア、シリカおよびゼオライトのうち少なくとも1種類とアルミナによって構成されているものが好ましい。その製造法は特に限定されないが、各元素に対応した各種ゾル、塩化合物などの状態の原料を用いて任意の調製法を採用することができる。さらには一旦シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナチタニア、シリカチタニア、アルミナボリアなどの複合水酸化物あるいは複合酸化物を調製した後に、アルミナゲルやその他水酸化物の状態あるいは適当な溶液の状態で調製工程の任意の工程で添加して調製してもよい。アルミナと他の酸化物との比率は担体に対して任意の割合を取り得るが、好ましくはアルミナが90質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下であり、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
【0029】
ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであり、フォージャサイト、ペンタシル、モルデナイト、TON、MTT、MREなどが挙げられ、所定の水熱処理および/または酸処理によって超安定化したもの、あるいはゼオライト中のアルミナ含有量を調整したものを用いることができる。好ましくはフォージャサイト、モルデナイト、特に好ましくはY型、ベータ型が用いられる。Y型は超安定化したものが好ましく、水熱処理により超安定化したゼオライトは本来の20Å以下のミクロ細孔と呼ばれる細孔構造に加え、20〜100Åの範囲に新たな細孔が形成される。水熱処理条件は公知の条件を用いることができる。
【0030】
このような水素化異性化触媒の活性金属としては、周期表第6族、第8族、第9族、及び10族の元素から選ばれる1種以上の金属が用いられる。これらの金属の中でも、Pd、Pt、Rh、Ir、Niから選ばれる1種以上の金属を用いることが好ましく、組み合わせて用いることがより好ましい。好適な組み合せとしては、例えば、Pd−Pt、Pd−Ir、Pd−Rh、Pd−Ni、Pt−Rh、Pt−Ir、Pt−Ni、Rh−Ir、Rh−Ni、Ir−Ni、Pd−Pt−Rh、Pd−Pt−Ir、Pt−Pd−Niなどが挙げられる。このうち、Pd−Pt、Pd−Ni、Pt−Ni、Pd−Ir、Pt−Rh、Pt−Ir、Rh−Ir、Pd−Pt−Rh、Pd−Pt−Ni、Pd−Pt−Irの組み合わせがより好ましく、Pd−Pt、Pd−Ni、Pt−Ni、Pd−Ir、Pt−Ir、Pd−Pt−Ni、Pd−Pt−Irの組み合わせがさらにより好ましい。
【0031】
触媒質量を基準とする活性金属の合計含有量としては、金属として0.1〜2質量%が好ましく、0.2〜1.5質量%がより好ましく、0.5〜1.3質量%がさらにより好ましい。金属の合計担持量が0.1質量%未満であると、活性点が少なくなり、十分な活性が得られなくなる傾向がある。他方、2質量%を超えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。
【0032】
上記水素化異性化触媒のいずれの触媒においても、活性金属を担体に担持させる方法は特に限定されず、通常の水素化異性化触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常は、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法であるが、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0033】
また、水素化異性化触媒としては、下記の触媒を用いることもできる。下記態様の水素化異性化触媒によれば、異性化脱蝋条件の変化による触媒劣化が生じ難く、本発明の効果である触媒の長寿命化が一層顕著に奏される。
【0034】
<水素化異性化触媒の具体的な一態様>
本態様の水素化異性化触媒は、特定の方法によって製造されることでその特徴が付与される。以下、本態様の水素化異性化触媒について、その好ましい製造の態様に沿って説明する。
【0035】
本態様の水素化異性化触媒の製造方法は、有機テンプレートを含有し10員環一次元状細孔構造を有する有機テンプレート含有ゼオライトを、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液中でイオン交換して得られるイオン交換ゼオライトと、バインダーと、が含まれる混合物を、N
2雰囲気下、250〜350℃の温度で加熱して担体前駆体を得る第1工程と、担体前駆体に白金塩及び/又はパラジウム塩を含ませた触媒前駆体を、分子状酸素を含む雰囲気下、350〜400℃の温度で焼成して、ゼオライトを含む担体に白金及び/又はパラジウムが担持された水素化異性化触媒を得る第2工程とを備える。
【0036】
本態様で用いられる有機テンプレート含有ゼオライトは、ノルマルパラフィンの水素化異性化反応における高い異性化活性と抑制された分解活性とを高水準で両立する観点から、10員環からなる一次元状細孔構造を有する。このようなゼオライトとしては、AEL、EUO、FER、HEU、MEL、MFI、NES、TON、MTT、WEI、
*MRE及びSSZ−32などが挙げられる。なお、上記の各アルファベット三文字は、分類分けされたモレキュラーシーブ型ゼオライトの各構造に対して、国際ゼオライト協会構造委員会(The Structure Commission of The International Zeolite Association)が与えている骨格構造コードを意味する。また、同一のトポロジーを有するゼオライトは包括的に同一のコードで呼称される。
【0037】
上記有機テンプレート含有ゼオライトとしては、上記の10員環一次元状細孔構造を有するゼオライトの中でも、高異性化活性及び低分解活性の点で、TON、MTT構造を有するゼオライト、
*MRE構造を有するゼオライトであるZSM−48ゼオライト、及びSSZ−32ゼオライトが好ましい。TON構造を有するゼオライトとしては、ZSM−22ゼオライトがより好ましく、また、MTT構造を有するゼオライトとしては、ZSM−23ゼオライトがより好ましい。
【0038】
有機テンプレート含有ゼオライトは、シリカ源、アルミナ源及び上記所定の細孔構造を構築するために添加する有機テンプレートから、公知の方法によって水熱合成される。
【0039】
有機テンプレートは、アミノ基、アンモニウム基等を有する有機化合物であり、合成するゼオライトの構造に応じて選択されるものであるが、アミン誘導体であることが好ましい。具体的には、アルキルアミン、アルキルジアミン、アルキルトリアミン、アルキルテトラミン、ピロリジン、ピペラジン、アミノピペラジン、アルキルペンタミン、アルキルヘキサミン及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
【0040】
10員環一次元状細孔構造を有する有機テンプレート含有ゼオライトを構成する珪素とアルミニウム元素とのモル比([Si]/[Al])(以下、「Si/Al比」という。)は、10〜400であることが好ましく、20〜350であることがより好ましい。Si/Al比が10未満の場合には、ノルマルパラフィンの転換に対する活性は高くなるが、イソパラフィンへの異性化選択性が低下し、また反応温度の上昇に伴う分解反応の増加が急激となる傾向にあることから好ましくない。一方、Si/Al比が400を超える場合には、ノルマルパラフィンの転換に必要な触媒活性が得られにくくなり好ましくない。
【0041】
合成され、好ましくは洗浄、乾燥された上記有機テンプレート含有ゼオライトは、対カチオンとして通常アルカリ金属カチオンを有し、また有機テンプレートが細孔構造内に包含される。本発明に係る水素化異性化触媒を製造する際に用いる有機テンプレートを含むゼオライトとは、このような、合成された状態のもの、すなわち、ゼオライト内に包含される有機テンプレートを除去するための焼成処理がなされていないものであることが好ましい。
【0042】
上記有機テンプレート含有ゼオライトは、次に、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液中でイオン交換される。イオン交換処理により、有機テンプレート含有ゼオライト中に含まれる対カチオンは、アンモニウムイオン及び/又はプロトンに交換される。またそれと同時に、有機テンプレート含有ゼオライト中に包含される有機テンプレートの一部が除去される。
【0043】
上記イオン交換処理に使用する溶液は、水を少なくとも50容量%含有する溶媒を用いた溶液であることが好ましく、水溶液であることがより好ましい。また、アンモニウムイオンを溶液中に供給する化合物としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機及び有機の各種のアンモニウム塩が挙げられる。一方、プロトンを溶液中に供給する化合物としては、通常、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸が利用される。有機テンプレート含有ゼオライトをアンモニウムイオンの存在下でイオン交換することにより得られるイオン交換ゼオライト(ここでは、アンモニウム型ゼオライト)は、後の焼成の際にアンモニアを放出し、対カチオンがプロトンとなってブレンステッド酸点となる。イオン交換に用いるカチオン種としてはアンモニウムイオンが好ましい。溶液中に含まれるアンモニウムイオン及び/又はプロトンの含有量は、使用する有機テンプレート含有ゼオライトに含まれる対カチオン及び有機テンプレートの合計量に対して10〜1000当量となるように設定されることが好ましい。
【0044】
上記イオン交換処理は、粉末状の有機テンプレート含有ゼオライト単体に対して行ってもよく、またイオン交換処理に先立って、有機テンプレート含有ゼオライトにバインダーである無機酸化物を配合し、成型を行い、得られる成型体に対して行ってもよい。但し、上記の成型体を焼成することなくイオン交換処理に供すると、当該成型体が崩壊、粉化する問題が生じやすくなることから、粉末状の有機テンプレート含有ゼオライトをイオン交換処理に供することが好ましい。
【0045】
イオン交換処理は、定法、すなわち、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液、好ましくは水溶液に有機テンプレートを含むゼオライトを浸漬し、これを攪拌又は流動する方法によって行うことが好ましい。また、上記の撹拌又は流動は、イオン交換の効率を高めるために加熱下に行うことが好ましい。本態様においては、上記水溶液を加熱し、沸騰、還流下でイオン交換する方法が特に好ましい。
【0046】
更に、イオン交換の効率を高める点から、溶液によってゼオライトをイオン交換する間に、溶液を一回又は二回以上新しいものに交換することが好ましく、溶液を一回又は二回新しいものに交換することがより好ましい。溶液を一回交換する場合、例えば、有機テンプレート含有ゼオライトをアンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液に浸漬し、これを1〜6時間加熱還流し、次いで、溶液を新しいもの交換した後、更に6〜12時間加熱還流することにより、イオン交換効率を高めることが可能となる。
【0047】
イオン交換処理により、ゼオライト中のアルカリ金属等の対カチオンのほぼ全てをアンモニウムイオン及び/又はプロトンに交換することが可能である。一方、ゼオライト内に包含される有機テンプレートについては、上記のイオン交換処理によりその一部が除去されるが、同処理を繰り返し行っても、その全てを除去することは一般に困難であり、その一部がゼオライト内部に残留する。
【0048】
本態様では、イオン交換ゼオライトとバインダーとが含まれる混合物を窒素雰囲気下、250〜350℃の温度で加熱して担体前駆体を得る。
【0049】
イオン交換ゼオライトとバインダーとが含まれる混合物は、上記の方法にて得られたイオン交換ゼオライトに、バインダーである無機酸化物を配合し、得られる組成物を成型したものが好ましい。無機酸化物をイオン交換ゼオライトに配合する目的は、成型体の焼成によって得られる担体(特には、粒子状の担体)の機械的強度を、実用に耐えられる程度に向上することにあるが、本発明者は、無機酸化物種の選択が水素化異性化触媒の異性化選択性に影響を与えることを見出している。このような観点から、上記無機酸化物として、アルミナ、シリカ、チタニア、ボリア、ジルコニア、マグネシア、セリア、酸化亜鉛及び酸化リン並びにこれらの2種以上の組み合わせからなる複合酸化物から選択される少なくとも一種の無機酸化物が用いられる。中でも、水素化異性化触媒の異性化選択性が更に向上するとの観点から、シリカ、アルミナが好ましく、アルミナがより好ましい。また、上記「これらの2種以上の組み合わせからなる複合酸化物」とは、アルミナ、シリカ、チタニア、ボリア、ジルコニア、マグネシア、セリア、酸化亜鉛、及び酸化リンのうちの少なくとも2種の成分からなる複合酸化物であるが、複合酸化物を基準として50質量%以上のアルミナ成分を含有するアルミナを主成分とする複合酸化物が好ましく、中でもアルミナ−シリカがより好ましい。
【0050】
上記組成物におけるイオン交換ゼオライトと無機酸化物との配合比率は、イオン交換ゼオライトの質量:無機酸化物の質量の比として、好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは30:70〜85:15である。この比が10:90よりも小さい場合には、水素化異性化触媒の活性が充分ではなくなる傾向にあるため好ましくない。一方、上記比が90:10を超える場合には、組成物を成型及び焼成して得られる担体の機械的強度が充分ではなくなる傾向にあるため好ましくない。
【0051】
イオン交換ゼオライトに上記の無機酸化物を配合する方法は特に限定されないが、例えば両者の粉末に適量の水等の液体を添加して粘ちょうな流体とし、これをニーダー等により混練する等の通常行われる方法を採用することができる。
【0052】
上記イオン交換ゼオライトと上記無機酸化物とを含む組成物或いはそれを含む粘ちょうな流体は、押出成型等の方法により成型され、好ましくは乾燥されて粒子状の成型体となる。成型体の形状としては特に限定されないが、例えば、円筒状、ペレット状、球状、三つ葉・四つ葉形の断面を有する異形筒状等が挙げられる。成型体の大きさは特に限定されないが、取り扱いの容易さ、反応器への充填密度等の観点から、例えば長軸が1〜30mm、短軸が1〜20mm程度であることが好ましい。
【0053】
本実施形態においては、上記のようにして得られた成型された成型体を、N
2雰囲気下、下限は250℃以上、より好ましくは280℃以上で、上限は350℃以下、より好ましくは330℃以下で加熱して担体前駆体とすることが好ましい。加熱時間については、0.5〜10時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。
【0054】
本態様において、上記加熱温度が250℃より低い場合は、有機テンプレートが多量に残留し、残留したテンプレートによってゼオライト細孔が閉塞する。異性化活性点は細孔ポアマウス付近に存在すると考えられており、上記の場合、細孔閉塞によって反応基質が細孔内へ拡散できなくなり、活性点が被覆されて異性化反応が進行しにくくなり、ノルマルパラフィンの転化率が充分に得られにくくなる傾向にある。一方、加熱温度が350℃を超える場合には、得られる水素化異性化触媒の異性化選択性が充分に向上しない。
【0055】
成型体を加熱して担体前駆体とするときの下限温度は280℃以上が好ましい。また、上限温度は330℃以下が好ましい。
【0056】
本態様では、上記成型体に含まれる有機テンプレートの一部が残留するように上記混合物を加熱することが好ましい。具体的には、後述の金属担持後の焼成を経て得られる水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積が0.02〜0.11cc/gであり、当該触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積が0.04〜0.12cc/gとなるように加熱条件を設定することが好ましい。
【0057】
次に、上記担体前駆体に白金塩及び/又はパラジウム塩を含ませた触媒前駆体を、分子状酸素を含む雰囲気下、350〜400℃、好ましくは380〜400℃、より好ましくは400℃の温度で焼成して、ゼオライトを含む担体に白金及び/又はパラジウムが担持された水素化異性化触媒を得る。なお、「分子状酸素を含む雰囲気下」とは、酸素ガスを含む気体、中でも好ましくは空気と接触することを意味する。焼成の時間は、0.5〜10時間であることが好ましく、1〜5時間であることがより好ましい。
【0058】
白金塩としては、例えば、塩化白金酸、テトラアンミンジニトロ白金、ジニトロアミノ白金、テトラアンミンジクロロ白金などが挙げられる。塩化物塩は反応時に塩酸が発生して装置腐食の恐れがあるため、塩化物塩以外で白金が高分散する白金塩であるテトラアンミンジニトロ白金が好ましい。
【0059】
パラジウム塩としては、例えば、塩化パラジウム、テトラアンミンパラジウム硝酸塩、ジアミノパラジウム硝酸塩などが挙げられる。塩化物塩は反応時に塩酸が発生して装置腐食の恐れがあるため、塩化物塩以外でパラジウムが高分散するパラジウム塩であるテトラアンミンパラジウム硝酸塩が好ましい。
【0060】
本態様に係るゼオライトを含む担体における活性金属の担持量は、担体の質量を基準として、0.001〜20質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。担持量が0.001質量%未満の場合には、所定の水素化/脱水素機能を付与することが困難となる。一方、担持量が20質量%を超える場合には、当該活性金属上での炭化水素の分解による軽質化が進行しやすくなり、目的とする留分の収率が低下する傾向にあり、さらには触媒コストの上昇を招く傾向にあるため好ましくない。
【0061】
また、本態様に係る水素化異性化触媒が含イオウ化合物及び/又は含窒素化合物を多く含む炭化水素油の水素化異性化に用いられる場合、触媒活性の持続性の観点から、活性金属として、ニッケル−コバルト、ニッケル−モリブデン、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン−コバルト、ニッケル−タングステン−コバルト等の組み合わせを含むことが好ましい。これらの金属の担持量は、担体の質量を基準として、0.001〜50質量%が好ましく、0.01〜30質量%がより好ましい。
【0062】
本態様では、上記担体前駆体に残留させた有機テンプレートが残留するように上記触媒前駆体を焼成することが好ましい。具体的には、得られる水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積が0.02〜0.11cc/gであり、当該触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積が0.04〜0.12cc/gとなるように加熱条件を設定することが好ましい。
【0063】
水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積は、窒素吸着測定と呼ばれる方法にて算出される。すなわち、触媒について、液体窒素温度(−196℃)で測定した窒素の物理吸着脱離等温線を解析、具体的には、液体窒素温度(−196℃)で測定した窒素の吸着等温線をt−plot法により解析することにより、触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積が算出される。また、触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積についても、上記の窒素吸着測定により算出される。
【0064】
触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積V
Zは、例えば、バインダーがミクロ細孔容積を有していない場合、水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積の値V
cと、触媒におけるゼオライトの含有割合M
z(質量%)から下記式に従って算出することができる。
V
Z=V
c/M
z×100
【0065】
本態様の水素化異性化触媒は、上記の焼成処理に続いて、水素化異性化の反応を行う反応器に充填後に還元処理されたものであることが好ましい。具体的には、分子状水素を含む雰囲気下、好ましくは水素ガス流通下、好ましくは250〜500℃、より好ましくは300〜400℃にて、0.5〜5時間程度の還元処理が施されたものであることが好ましい。このような工程により、炭化水素油の脱蝋に対する高い活性をより確実に触媒に付与することができる。
【0066】
本態様の水素化異性化触媒は、10員環一次元状細孔構造を有するゼオライト、及びバインダーを含む担体と、該担体に担持された白金及び/又はパラジウムと、を含有し、触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積が0.02〜0.11cc/gである水素化異性化触媒であって、上記ゼオライトは、有機テンプレートを含有し10員環一次元状細孔構造を有する有機テンプレート含有ゼオライトを、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液中でイオン交換して得られるイオン交換ゼオライトに由来するものであり、触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積が0.04〜0.12cc/gであるもの、ということもできる。
【0067】
上記の水素化異性化触媒は、上述した方法により製造することができる。触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積及び触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積は、イオン交換ゼオライトとバインダーとが含まれる混合物におけるイオン交換ゼオライトの配合量、当該混合物のN
2雰囲気下での加熱条件、触媒前駆体の分子状酸素を含む雰囲気下での加熱条件を適宜調整することより上記範囲内にすることができる。
【0068】
なお、本明細書において、水素化異性化触媒の単位質量当たりのミクロ細孔容積は、窒素吸着測定と呼ばれる方法にて算出される。すなわち、触媒について、液体窒素温度(−196℃)で測定した窒素の物理吸着脱離等温線を解析、具体的には、液体窒素温度(−196℃)で測定した窒素の吸着等温線をt−plot法により解析することにより、触媒の単位質量当たりのミクロ細孔容積が算出される。また、触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積についても、上記の窒素吸着測定により算出される。
【0069】
また、本明細書においてミクロ細孔とは、国際純正・応用化学連合IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)で定義されている「直径が2nm以下の細孔」を指す。
【0070】
第1の工程の異性化脱蝋においては、炭化水素油に含まれるノルマルパラフィンの一部又は全部が、水素化異性化反応によりイソパラフィンに転化される。
【0071】
第1の工程の異性化脱蝋では、炭化水素油と水素化異性化触媒とを、下記式(I)で定義されるノルマルパラフィンの転化率が実質的に100質量%となる条件で接触させることが好ましい。
【0072】
【数1】
式(I)中、Cnは、接触前の炭化水素油(原料油)中に含まれる炭素数10以上のノルマルパラフィンのうちで最小の炭素数を示す。
【0073】
ここで、「転化率が実質的に100質量%」とは、接触後の炭化水素油中に含まれるノルマルパラフィンの含有量が0.1質量%以下であることを意味する。
【0074】
第1の工程に供される炭化水素油は、沸点360℃以上のノルマルパラフィンを含有する炭化水素油であれば特に制限されないが、常圧換算の沸点が360℃を超える留分である石油留分、合成油・ワックスなどが好適である。炭化水素油の具体例としては、重質軽油、減圧軽油、潤滑油ラフィネート、ブライトストック、スラックワックス(粗蝋)、蝋下油、脱油蝋、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、合成油、FT合成油、FT合成ワックス、高流動点ポリオレフィン、直鎖αオレフィンワックスなどが挙げられる。特に、常圧残油、減圧軽油、減圧残油、スラックワックス、FT合成油、FT合成ワックスを用いることが好ましい。これらは、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、これらの炭化水素油は、水素化処理又は軽度の水素化分解を施されたものであることが好ましい。これらの処理により、含硫黄化合物、含窒素化合物等の水素化異性化触媒の活性低下をもたらす物質、及び芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素等の潤滑油基油の粘度指数を低下する物質を低減あるいは除去することができる。
【0075】
このような炭化水素油を、水素存在下、上記水素化異性化触媒と接触させることにより、炭化水素油中に含まれるノルマルパラフィンの異性化、すなわち炭化水素油の脱蝋反応を、軽質化を十分に抑制しつつ進行させることができる。本実施形態の第1の工程においては分岐鎖構造を有する異性体を多く含む基油を得ることができる。特に、高品質の潤滑油基油に対しては、ノルマルパラフィン含有量が0.1質量%以下であること要求されるが、本実施形態に係る製造方法によれば、この要求レベルを満たす潤滑油基油を高収率で得ることができる。
【0076】
第1の工程における異性化脱蝋の反応温度は、200〜450℃が好ましく、300〜430℃がより好ましい。反応温度が200℃を下回る場合、原料油中に含まれるノルマルパラフィンの異性化が進行しにくくなり、ワックス成分の低減、除去が不十分になる傾向にある。一方、反応温度が450℃を超える場合、炭化水素油の分解が顕著となり、目的とする炭化水素の収率が低下する傾向にある。
【0077】
異性化脱蝋の反応圧力は、0.1〜20MPaが好ましく、0.5〜18MPaがより好ましい。反応圧力が0.1MPaを下回る場合、コーク生成による触媒の劣化が早まる傾向にある。一方、反応圧力が20MPaを超える場合、装置建設コストが高くなるため経済的なプロセスを実現しにくくなる傾向にある。
【0078】
炭化水素油の触媒に対する液空間速度(LHSV)は、0.01〜100hr
−1が好ましく、0.1〜10hr
−1がより好ましい。液空間速度が0.01hr
−1未満の場合、炭化水素油の分解が過度に進行しやすくなり、目的とする潤滑油基油の生産効率が低下する傾向にある。一方、液空間速度が100hr
−1を超える場合、炭化水素油中に含まれるノルマルパラフィンの異性化が進行しにくくなり、ワックス成分の低減、除去が不十分になる傾向にある。
【0079】
水素と原料油との供給比率(水素/油比)は、100〜1000Nm
3/m
3が好ましく、200〜800Nm
3/m
3がより好ましい。供給比率が100Nm
3/m
3未満の場合、例えば炭化水素油が硫黄、窒素化合物を含む場合、異性化反応と併発する脱硫、脱窒素反応により発生する硫化水素、アンモニアガスが触媒上の活性金属を吸着被毒するため、所定の触媒性能が得られにくくなる傾向にある。一方、供給比率が1000Nm
3/m
3を超える場合、大きな能力の水素供給設備を必要とするため経済的なプロセスを実現しにくくなる傾向にある。
【0080】
第1の工程においては、通常、例えば反応温度を高めることにより、ノルマルパラフィンの転化率を上昇させることができ、得られる脱蝋油中のノルマルパラフィン含有量を低くすることができるので、炭化水素油の低温流動性を向上させることができる。反応温度を高めると、原料炭化水素油及び異性化生成物の分解反応が促進されるので、ノルマルパラフィンの転化率の上昇とともに、分解率が増加する。第1の工程では、この分解率が10質量%以下となる条件で異性化脱蝋を行う必要がある。
【0081】
本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法を実施するための設備については特に限定されず、公知のものを使用することができる。反応設備としては、連続流通式、回分式、半回分式のいずれであってもよいが、生産性、効率の観点から連続流通式が好ましい。触媒層は、固定床、流動床、攪拌床のいずれであってもよいが、設備費用等の面から固定床が好ましい。反応相は気液混相であることが好ましい。
【0082】
本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法においては、第1の工程の前段階として、供給原料の炭化水素油を水素化処理又は水素化分解処理してもよい。その設備、触媒、反応条件は公知のものが使用される。これらの前処理を実施することにより、水素化異性化触媒の活性をより長期間に亘って維持することができ、また、生成物中の含硫黄及び含窒素化合物などの環境負荷物質を低減することができる。
【0083】
(第2の工程)
第2の工程(以下、場合により「分解処理工程」という。)では、第1の工程における異性化脱蝋条件を、分解率が13質量%以上となる条件に一時的に切り替える。
【0084】
本発明者らの知見によれば、沸点360℃以上のノルマルパラフィンを含有する炭化水素油を異性化脱蝋する場合において、水素化異性化触媒の低活性化の一因が、炭化水素油の偏流にある。そこで本実施形態に係る製造方法では、第1の工程において炭化水素油の分解を十分に抑制しながら異性化脱蝋を行うとともに、第1の工程で生じた偏流を、一時的に実施される第2の工程により解消することで、触媒の長寿命化が実現される。
【0085】
すなわち、本実施形態係る製造方法においては、第2の工程で敢えて分解率が13質量%以上となる条件で異性化脱蝋を行うことにより、異性化脱蝋反応器中に流動性の高い低粘度の炭化水素油を生じさせ、この低粘度の炭化水素油が異性化脱蝋反応器内を流通することで、上記偏流が解消される。
【0086】
第2の工程では、第1の工程の異性化脱蝋条件から、反応温度、LHSV、反応圧力等を変化させることによって分解率を13質量%以上とすることができる。
【0087】
第2の工程では、例えば、異性化脱蝋条件の反応温度を上昇させることで分解率を上昇させることができる。また、炭化水素油の触媒に対する液空間速度(LHSV)を低くする(すなわち、炭化水素油と触媒との接触時間を長くする)ことで、分解率を上昇させることができる。また、反応圧力を高くすることで、分解率を上昇させることができる。
【0088】
これらのうち、LHSV及び反応圧力は、反応器のサイズ等により変化可能な範囲が限られる場合があるため、第2の工程では、反応温度を上昇させて分解率を13質量%以上とすることが好ましい。また、第2の工程では、第1の工程の異性化脱蝋条件のうち、いずれか一つの条件(例えば反応温度)を変更して分解率を13質量%以上としてもよいし、複数の条件を変更して分解率を13質量%以上としてもよい。
【0089】
第2の工程における異性化脱蝋条件としては、分解率が13〜50質量%となる条件が好ましく、分解率が15〜30質量%となる条件がより好ましい。このような分解率で第2の工程の異性化脱蝋を行うことで、本発明の効果が一層顕著に奏される。
【0090】
本実施形態に係る製造方法では、第2の工程を一時的に実施した後、異性化脱蝋条件を再度、分解率が10質量%以下となる条件に戻して第1の工程を実施することができる。好ましくは、第1の工程を継続的に行うとともに、第2の工程を所定の間隔で実施することができる。すなわち、本実施形態に係る製造方法では、第1の工程と第2の工程とを交互に繰り返し実施することができる。
【0091】
第2の工程の実施時間は、使用される反応器のサイズ等によって適宜変更できるが、例えば1〜120時間とすることができる。また、第2の工程は、例えば第1の工程を好ましくは5時間以上、より好ましくは12時間以上90日間以下実施した後に実施することができる。
【0092】
また、第1の工程と第2の工程の実施割合は、各工程に供する炭化水素油の割合で規定することもできる。第1の工程及び第2の工程は、それぞれ第1の工程に供される炭化水素油量Aに対する第2の工程に供される炭化水素量Bの比B/Aが、0.01〜1となるようにそれぞれ実施されることが好ましく、比B/Aは0.1〜0.5であることがより好ましい。
【0093】
(その他の工程)
本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法においては、炭化水素油を水素化異性化触媒に接触させる異性化脱蝋を経て得られる反応生成物(脱蝋油)を、例えば水素化仕上げ(hydrofinishing)によって、更に処理することができる。水素化仕上げは、一般的に、水素存在下、担持金属水素化触媒(例えば、白金および/またはパラジウムが担持されたアルミナ等)に被仕上げ物を接触させることにより実施できる。このような水素化仕上げを行うことにより、脱蝋工程(第1の工程及び第2の工程)で得られた反応生成物の色相、酸化安定性等が改良され、製品の品質を向上させることができる。水素化仕上げは、上記脱蝋工程とは別の反応設備において実施してもよいが、脱蝋工程を行う反応器内に設けられた水素化異性化触媒の触媒層の下流側に水素化仕上げ用の触媒層を設けて、上記脱蝋工程に続けて行ってもよい。水素化仕上げは、水素化精製とも呼ばれ、以下、水素化仕上げ工程は水素化精製工程と称する。
【0094】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法は、所定の沸点範囲を有する基油留分を分留する蒸留工程を備えていてもよい。
【0095】
例えば、本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法は、第1の工程及び第2の工程で得られた脱蝋油を水素化精製して水素化精製油を得る水素化精製工程と、水素化精製工程で得られた水素化精製油から、基油留分を分留する蒸留工程と、を更に備えるものであってよい。また、本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法は、第1の工程及び第2の工程で得られた脱蝋油から、基油留分を分留する蒸留工程と、蒸留工程で分留された基油留分を水素化精製する水素化精製工程と、を更に備えるものであってもよい。
【0096】
なお、通常、異性化とは炭素数(分子量)が変化することなく、分子構造のみ変化する反応をいい、分解とは炭素数(分子量)の低下を伴う反応をいう。異性化反応を利用した異性化脱蝋においては、原料の炭化水素油及び異性化生成物の分解がある程度起きても、その生成物の炭素数(分子量)が、目的とする基油を構成することが許容される所定の範囲内に収まればよく、分解生成物が基油の構成成分となっていてもよい。
【0097】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0099】
[製造例1:水素化異性化触媒E−1の製造]
<ZSM−22ゼオライトの製造>
Si/Al比が45である結晶性アルミノシリケートからなるZSM−22ゼオライト(以下、「ZSM−22」ということがある。)を、以下の手順で水熱合成により製造した。
【0100】
まず、下記の4種類の水溶液を調製した。
溶液A:1.94gの水酸化カリウムを6.75mLのイオン交換水に溶解したもの。
溶液B:1.33gの硫酸アルミニウム18水塩を5mLのイオン交換水に溶解したもの。
溶液C:4.18gの1,6−ヘキサンジアミン(有機テンプレート)を32.5mLのイオン交換水にて希釈したもの。
溶液D:18gのコロイダルシリカ(Grace Davison社製Ludox AS−40)を31mLのイオン交換水にて希釈したもの。
【0101】
次に、溶液Aを溶液Bに加え、アルミニウム成分が完全に溶解するまで攪拌を行った。
この混合溶液に溶液Cを加えた後、室温にて激しく攪拌しながら、溶液A、B、Cの混合物を溶液Dに注入した。更に、ここへ結晶化を促進する「種結晶」として、別途合成され、合成後に何ら特別な処理が行われていないZSM−22の粉末を0.25g添加し、ゲル状物を得た。
【0102】
上記の操作にて得たゲル状物を、内容積120mLのステンレス鋼製オートクレーブ反応器に移し、150℃のオーブン中で60時間、約60rpmの回転速度でオートクレーブ反応器をタンブリング装置上で回転させ、水熱合成反応を行った。反応終了後、反応器を冷却後開放し、60℃の乾燥器中で一夜乾燥して、Si/Al比が45であるZSM−22を得た。
【0103】
<有機テンプレートを含有するZSM−22のイオン交換>
上記で得られたZSM−22について、以下の操作によりアンモニウムイオンを含む水溶液でイオン交換処理を行った。
【0104】
上記にて得られたZSM−22をフラスコ中に取り、ZSM−22ゼオライト1g当り100mLの0.5N−塩化アンモニウム水溶液を加え、6時間加熱環流した。これを室温まで冷却した後、上澄み液を除去し、結晶性アルミノシリケートをイオン交換水で洗浄した。ここに、上記と同量の0.5N−塩化アンモニウム水溶液を再び加え、12時間加熱環流した。
【0105】
その後、固形分をろ過により採取し、イオン交換水で洗浄し、60℃の乾燥器中で一晩乾燥して、イオン交換されたNH
4型ZSM−22を得た。このZSM−22は、有機テンプレートを含んだ状態でイオン交換されたものである。
【0106】
<バインダー配合、成型、焼成>
上記で得たNH
4型ZSM−22と、バインダーであるアルミナとを質量比7:3にて混合し、ここに少量のイオン交換水を添加して混錬した。得られた粘ちょうな流体を押出成型機に充填、成型し、直径約1.6mm、長さ約10mmの円筒状の成型体を得た。この成型体を、N
2雰囲気下、300℃にて3時間加熱して、担体前駆体を得た。
【0107】
<白金及びパラジウムの担持、焼成>
テトラアンミンジニトロ白金[Pt(NH
3)
4](NO
3)
2とテトラアンミンパラジウム硝酸塩[Pd(NH
3)
4](NO
3)
2を、担体前駆体のあらかじめ測定した吸水量に相当するイオン交換水に溶解して含浸溶液を得た。この溶液を、上記の担体前駆体に初期湿潤法により含浸し、ZSM−22型ゼオライトの質量に対して、白金量及びパラジウム量がいずれも0.3質量%となるように担持を行った。次に、得られた含浸物(触媒前駆体)を60℃の乾燥中で一晩乾燥した後、空気流通下、400℃で3時間焼成して、水素化異性化触媒E−1を得た。
【0108】
更に、得られた水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積を以下の方法で算出した。まず、水素化異性化触媒に吸着した水分を除去するため、150℃、5時間の真空排気する前処理を行った。この前処理後の水素化異性化触媒について、日本ベル(株)社製 BELSORP−maxを使用して液体窒素温度(−196℃)で窒素吸着測定を行った。そして、測定された窒素の吸着等温線をt−plot法にて解析し、水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積(cc/g)を算出した。
【0109】
更に、触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積V
Zを下記式に従って算出した。なお、バインダーとして用いたアルミナについて上記と同様に窒素吸着測定を行ったところ、アルミナがミクロ細孔を有さないことが確認された。
V
Z=V
c/M
z×100
式中、V
cは水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積を示し、M
zは触媒に含有されるゼオライトの含有割合(質量%)を示す。
【0110】
[製造例2:水素化異性化触媒E−2の製造]
<ZSM−48ゼオライトの製造>
有機テンプレートを含むSi/Al比が45であるZSM−48型ゼオライト(以下、「ZSM−48」ということもある。)を、以下の手順で水熱合成により製造した。
【0111】
まず、下記の4種類の試薬を用意した。
試薬E:2.97gの水酸化ナトリウム。
試薬F:0.80gの硫酸アルミニウム18水塩。
試薬G:26.2gの1,6−ヘキサンジアミン(有機テンプレート)。
試薬H:0.9mlの98%硫酸溶液
試薬I:75gのコロイダルシリカ(Grace Davison社製Ludox AS−40)水溶液(SiO
2濃度は40%)。
次に、180mgのイオン交換水に上記の試薬E、F、G、H、Iを加え、常温で2時間攪拌して完全に溶解させた。
【0112】
上記の操作にて得たゲル状物を、内容積100mLのステンレス鋼製オートクレーブ反応器に移し、160℃のオーブン中で60時間、約60rpmの回転速度でオートクレーブ反応器をタンブリング装置上で回転させ、水熱合成反応を行った。反応終了後、反応器を冷却後開放し、60℃の乾燥器中で一夜乾燥して、Si/Al比が45のZSM−48を得た。
【0113】
<有機テンプレートを含有するZSM−48のイオン交換>
有機テンプレートを含有するZSM−22に代えて上記にて得られた有機テンプレートを含有するZSM−48を用いた以外は、製造例1のZSM−22のイオン交換と同様の操作により、イオン交換されたNH
4型ZSM−48を得た。
【0114】
NH
4型ZSM−22に代えて上記で得られたNH
4型ZSM−48を用いたこと以外は製造例1と同様の操作により、成型体の作成及び加熱並びに触媒前駆体の調製及び焼成を行って、水素化異性化触媒E−2を得た。
【0115】
[製造例3:水素化異性化触媒E−3の製造]
<SSZ−32ゼオライトの製造>
JP2006−523136号公報に記載の方法に準拠して、以下の手順で水熱合成により、SSZ−32ゼオライト(以下、「SSZ−32」ということもある。)を製造した。
【0116】
水酸化ナトリウム、硫酸アルミニウム、コロイダルシリカ、イソブチルアミン、N−メチル−N’−イソプロピル−イミダソリウムカチオンを下記のモル比で混合して調製した。
SiO
2/Al
2O
3=35、
イソブチルアミンとN−メチル−N’−イソプロピル−イミダソリウムカチオンの合計量がSiO
2の0.2倍
【0117】
上記の操作にて得たゲル状物を、内容積100mLのステンレス鋼製オートクレーブ反応器に移し、160℃のオーブン中で60時間、約60rpmの回転速度でオートクレーブ反応器をタンブリング装置上で回転させ、水熱合成反応を行った。反応終了後、反応器を冷却後開放し、60℃の乾燥器中で一夜乾燥して、Si/Al比が45のSSZ−32を得た。
【0118】
<有機テンプレートを含有するSSZ−32のイオン交換>
有機テンプレートを含有するZSM−22に代えて上記にて得られた有機テンプレートを含有するSSZ−32を用いた以外は、製造例1のZSM−22のイオン交換と同様の操作により、イオン交換されたNH
4型SSZ−32を得た。
【0119】
NH
4型ZSM−22に代えて上記で得られたNH
4型SSZ−32を用いたこと以外は製造例1と同様の操作により、成型体の作成及び加熱並びに触媒前駆体の調製及び焼成を行って、水素化異性化触媒E−3を得た。
【0120】
【表1】
【0121】
(実施例1)
<第1の工程(異性化処理工程)>
異性化脱蝋における触媒として、触媒E−1を使用した。内径15mm、長さ380mmのステンレス鋼製反応管に成形触媒を100ml充填し、触媒層平均温度350℃、水素流通下(水素分圧3MPa)で12時間還元処理を行った。その後、反応管に、減圧軽油を脱硫処理して得られた炭化水素油(沸点範囲150〜650℃、硫黄分30質量ppmの減圧軽油留分)を、反応温度310〜350℃、水素分圧11MPa、LHSV 1.0h
−1、水素/油比500NL/Lの条件にて通油して、水素化異性化反応による脱蝋処理を行った。なお、反応温度は、初期は下記反応初期温度Tc(℃)とし、ノルマルパラフィン転化率が100%となるよう段階的に上昇させた。また、第1の工程における初期の分解率は、4質量%であった。
【0122】
<潤滑油基油留分の分離・回収>
異性化処理工程で得られた反応生成物について、下記の操作により分留を行い、潤滑油基油留分を分離回収した。回収した潤滑油基油留分の流動点及び粘度指数を測定して、反応初期において異性化脱蝋が十分に進行する温度(反応初期温度Tc(℃))を求めた。
【0123】
具体的には、まず、反応生成物を、ナフサと、灯軽油留分と、重質留分とにそれぞれ分留した。更に、沸点範囲が410〜450℃、100℃における動粘度が4.0±0.1mm
2/sの範囲にある潤滑油基油留分(以下、「潤滑油基油留分1」という。)及び、沸点範囲が450〜520℃、100℃における動粘度が7.0±0.1mm
2/sである潤滑油基油留分(以下、「潤滑油基油留分2」という。)及び、沸点範囲が520℃以上、100℃における動粘度が10.5±0.1mm
2/sである潤滑油基油留分(以下、「潤滑油基油留分3」という。)を得た。そして、反応生成物のノルマルパラフィン転化率が100%となり、且つ、潤滑油基油留分3の流動点が−12.5℃以下、粘度指数が105以上となる最も低い反応初期温度をTc(℃)とした。
【0124】
<第2の工程(分解処理工程)>
上記第1の工程後、水素分圧、LHSV、水素/油比はそのままに、反応温度を分解率が30質量%となる温度(372℃)まで昇温し、その温度を24時間保持して分解処理工程を行った。なお、分解処理工程においては、反応生成物をガスクロマトグラフィーで分析することにより各反応温度における分解率を把握して、所定の分解率となる反応温度を選択した。
【0125】
この分解処理工程後、分解処理工程前の反応温度まで降温して、再度、上述の異性化処理工程を行った。すなわち、実施例1では、72日間の異性化処理工程と24時間の分解処理工程とを交互に繰り返し行った。実施例1における水素化異性化触媒の触媒寿命は、以下の方法で算出した。
【0126】
<水素化異性化触媒の寿命評価>
水素化異性化触媒の劣化に伴い、反応性が低下すると、上記式(I)で定義されるノルマルパラフィン転化率が100%から低下する。そこで、異性化処理工程における反応温度を、ノルマルパラフィン転化率が100%となるようTc(℃)から段階的に上げていき、異性化処理工程における反応温度が350℃に到達するまでの運転時間を求めた。この運転時間を触媒寿命として評価した。結果は表2に示すとおりであった。
【0127】
(実施例2)
分解処理工程を、異性化処理工程開始から72日後に1回行い、その後実施しなかった(その後は異性化処理工程のみを行った)こと以外、実施例1と同様にして実験を行い、水素化異性化触媒の触媒寿命を算出した。結果は表2に示すとおりであった。
【0128】
(実施例3)
分解処理工程において、分解率が15質量%となるよう反応温度(353℃)を選定したこと以外、実施例1と同様にして実験を行い、水素化異性化触媒の触媒寿命を算出した。結果は表2に示すとおりであった。
【0129】
(実施例4)
触媒E−1にかえて触媒E−2を用いたこと以外、実施例1と同様にして実験を行い、水素化異性化触媒の寿命を算出した。結果は表2に示すとおりであった。
【0130】
(実施例5)
触媒E−1にかえて触媒E−3を用いたこと以外、実施例1と同様にして実験を行い、水素化異性化触媒の触媒寿命を算出した。結果は表2に示すとおりであった。
【0131】
(比較例1)
分解処理工程を全く行わず、異性化処理工程のみを行った場合の水素化異性化触媒の触媒寿命を算出した。結果は表2に示すとおりであった。
【0132】
(比較例2)
分解処理工程において、分解率が12質量%となるよう反応温度(344℃)を選定したこと以外、実施例1と同様にして実験を行い、水素化異性化触媒の触媒寿命を算出した。結果は表2に示すとおりであった。
【0133】
【表2】
【0134】
表1に記載のとおり、第1の工程である異性化処理工程と第2の工程である分解処理工程とを行った実施例1〜5では、分解処理工程を実施しなかった比較例1と比較して、水素化脱蝋触媒の長寿命化が実現され、潤滑油基油をより長期間、安定的に得ることが可能となった。一方、分解処理工程において分解率が13質量%未満となる条件を採用した比較例2では、触媒の長寿命化の効果はほとんど得られなかった。