【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1に記載の有機電子装置によって解決される。他の請求項は、本有機電子装置およびその製造方法の好ましい実施形態に関する。
【0008】
本発明の一実施形態では、基板と、第1の電極と、第2の電極と、第1の電極および第2の電極の間に設けられた電子伝導領域と、を有し、電子伝導領域は、有機マトリクス材料と、塩とを含み、塩は、金属カチオンと、少なくとも3価のアニオンとを含む有機電子装置が提供される。
【0009】
上述の明細書の冒頭に示される文献と異なり、金属塩のアニオンの組成が、有機電子装置中のキャリア輸送において一定の役割を果たすことを本発明者らは発見した。金属塩のアニオンが有機電子装置の製造のために用いられてこの装置に含入されると、アニオンの価数、すなわち電荷が電子輸送において一定の役割を果たすと本発明者らは推定する。したがって、従来技術で用いられている、2価のみの、すなわち2価の負電荷を有する炭酸セシウムと比較して、少なくとも3価(3価の負電荷)を有するアニオンによる有機電子装置の電気特性の向上が観察可能である。
【0010】
本発明の有機電子装置の一実施形態において、電子伝導領域は、少なくとも2つの層を有する。2つの層のうち、第1の層はマトリクス材料を含み、第1の層と接触する第2の層は塩を含む。第2の層は、いわゆる電子注入層として好ましくは電極の近傍に設けられ、カソードとマトリクス材料を含む第1の層とに接続されている(たとえば、
図2参照)。
【0011】
本発明の別の好ましい実施形態において、電子伝導領域は電子伝導層を有し、電子伝導層は塩がnドーパントとして含入されている有機マトリクス材料を含む。この実施形態において、電気特性の向上が特に明確となる。
【0012】
塩がnドーパントとして含入されている有機マトリクス材料を含む電子伝導層を、たとえば、有機電子装置のある部分から他の部分に電子を輸送するキャリア輸送層として用いることができる。さらに、電子伝導層はいわゆるキャリア生成領域の構成部分であってよい(いわゆる「電荷生成層(CGL)」)。CGLには、たとえば、ドーピングされたホール輸送層およびドーピングされた電子輸送層が存在し、これらは、たとえば金属から形成される薄い中間層により分離可能であるか、または、直接互いに接触していてよい。このようなCGLはたとえばOLEDタンデム格子において異なるOLED副格子を互いに接続する。
【0013】
マトリクス材料を含む層中のドーパントとしての、少なくとも3価のアニオンすなわちたとえば3価または4価のアニオンを含む塩が、2価のアニオンのみを含む塩たとえば炭酸セシウム由来のドーパントに対して利点を有することを本発明者らは発見した。すなわち、たとえば、少なくとも3価のアニオンを電子を輸送するマトリクス材料中のドーパントとして有する塩を、2価のアニオンを含む塩よりも5倍以下の低い濃度で含入させることができる。さらに、少なくとも3価のアニオンを含む塩を用いたドーピングにおいて、2価のみのアニオンを含む塩における場合よりも、導電性が少なくとも1桁分向上されることが電流電圧特性図により示される(たとえば
図5および6の比較を参照)。少なくとも3価のアニオンを含む塩における、より低いドーパント濃度に基づいて、さらに、高い頻度で、2価のアニオンを含む塩と比べて、オフ状態における電子装置の色効果の改善が得られる。たとえば、炭酸セシウムを用いたマトリクス材料BCPのドーピングによって、オフ状態におけるドーピングされた電子輸送層の青みをおびた色効果がもたらされ、一方で、たとえばリン酸セシウムを用いたドーピングによれば、少なくとも3価のアニオンを含む塩について、有機電子装置のオフ状態における中間的な色効果が残存する。
【0014】
マトリクス材料を含む層中にnドーパントとして塩が含入されている場合、nドーパントが1〜50体積%、好ましくは5〜15体積%で有機マトリクス材料中に存在する場合が好ましい。この範囲の体積%濃度は、電気特性、たとえば電流−電圧特性の特に顕著な向上をもたらす。これは、マトリクス材料としてBCPを用いる際に特に顕著である。
【0015】
塩の金属カチオンは、1価の金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、ジルコニウムカチオンまたはその組み合わせから選択可能である。
【0016】
とりわけ、1価の金属カチオン、たとえば、Rb(I)およびCs(II)などのアルカリ金属カチオンまたはAg(I)、Cu(I)、Tl(I)およびアルカリ土類金属と、少なくとも3価のアニオンとの組み合わせがよいドーパントであることを本発明者らは発見した。3価のアニオンのこの塩は、分解することなく蒸発可能である。
【0017】
少なくとも3価のアニオンは、たとえば、
リン
酸アニオンPO
43−、
バナジウム
酸アニオンVO
43−、
ケイ
酸アニオンSiO
44−、
少なくとも3価のアニオン性多価有機アニオン、たとえば、1,3,5−ベンゾールトリカルボン酸のトリアニオンまたはナフタリンテトラカルボン酸のテトラアニオン、または、少なくとも3価の有機酸、たとえば、メタンテトラカルボン酸のテトラアニオンまたはメタントリカルボン酸のトリアニオンから選択可能である。
【0018】
メタンテトラカルボン酸およびメタントリカルボン酸の対応するセシウム塩は以下の構造式を有する。
【0019】
【化1】
【0020】
有機アニオンは、たとえば、窒素原子を含有する芳香環を有する。全ての既知のアニオンおよびカチオンも、組み合わせて用いることができる。
【0021】
上述のカチオンおよびアニオン、とりわけリン酸塩が、ドーパントとして電子輸送層に用いられている場合に、有機電子装置の電気特性に良い影響を与えることを、本発明者らは発見した。
【0022】
有機マトリクス材料を含む層中に塩がnドーパントとして用いられている場合、解離していない塩はたとえば金属カチオンを介して有機マトリクス材料に配位する(たとえば
図4A参照)。その価数に関わらず、アニオンはキレート配位子として作用し、この際、たとえば、リン酸塩アニオンなどの3価のアニオンは3つの面を構成することができ、したがって、3つの金属カチオン(セシウムリン酸塩の場合はCs(I))を配位相手として有しうる。
【0023】
さらに、このドーパントにより、たとえばマトリクス材料および塩の同時蒸発(共蒸着)の際に、塩の解離の下で、塩の金属カチオンと、配位子としての有機金属材料との間に配位結合が形成され、このとき、マトリクス中にアニオンが取り込まれる(
図4B参照)。特に好ましくは、塩のカチオンと配位子としての有機マトリクス材料との間に錯体が形成されたとき、配位結合を介した3次元導電性ネットワークが構築される。
【0024】
本発明に係る有機電子装置の他の実施形態において、有機マトリクス材料は、窒素含有複素環化合物を含んでいる。ここで、該化合物は、たとえば、ピリジン基本構造、たとえば、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)であってよい。窒素含有複素環化合物は、nドーパントの金属カチオンのための配位子として用いるために特に適しており、一般に、良好な電子伝導体である。
【0025】
本発明の別の実施形態において、有機マトリクス材料は、以下の一般式を有する繰り返し構造を有する。
【0026】
【化2】
【0027】
式中、
環原子A乃至Fは、最大2つのN原子が存在しうる限り、互いに独立にCまたはNを意味し、
nは2乃至8の整数であり、繰り返し構造の分子鎖の末端の自由原子価は、それぞれ互いに独立に、H、メチル、フェニル、2−ピリジル、3−ピリジルまたは4−ピリジルにより飽和されていてよく、
R
1乃至R
4は、それぞれ互いに独立に、H、メチル、フェニル、2−ピリジル、3−ピリジルまたは4−ピリジルであってよく、および/または、R
1とR
2またはR
3とR
4は互いにブタジエン構造またはアザブタジエン構造を形成してよく、これにより、環付加された6環系が形成され、繰り返し構造が、エチレン構造またはアゾメチン構造によりn
番目の環および(n+1)
番目の環の間で結合可能であり、ここで、フェナントレン構造またはアザフェナントレン構造が形成される。
【0028】
このようなオリゴピリジルおよび/またはオリゴピリジニルアレーンは、ドーパントに良好に配位するため、とりわけ適しており、たとえば、PCT出願WO2008/058929においてこの材料に関する記載において開示されている。既知のマトリクス材料のキャリア輸送特性は、環系の窒素原子の数によって制御される。
【0029】
有機マトリクス材料は、以下の具体的な化合物およびその組み合わせから選択可能である。
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
【化5】
【0033】
さらに、以下のマトリクス材料およびその組み合わせも可能である:
2,2’,2’’−(1,3,5−ベンジントリイル)−トリス(1−フェニル−1−H−ベンズイミダゾール)、
2−(4−ビフェニルイル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、
2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)、
8−ヒドロキシキノリナト−リチウム、
4−(ナフタレン−1−イル)−3,5−ジフェニル−4H−1,2,4−トリアゾール、
1,3−ビス[2−(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル]ベンゾール、
4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、
3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール、
ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム、
6,6’−ビス[5−ビフェニル−4−イル)1,3,4−オキサジアゾ−2−イル]2,2’−ビピリジル、
2−フェニル−9,10−ジ(ナフタレン−2−イル)−アントラセン、
2,7−ビス[2−(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル]−9,9−ジメチルフルオレン、
1,3−ビス[2−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル)ベンゾール、
2−(ナフタレン−2−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、
2,9−ビス(ナフタレン−2−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、
トリス(2,4,6−トリメチル−3−(ピリジン−3−イル)フェニル)ボラン、
1−メチル−2−(4−(ナフタレン−2−イル)フェニル)1−H−イミダゾ[4,5−f][1,10]−フェナントロリン、
シラシクロペンタジエン構造を有するシロール。
【0034】
ドーパントに用いる塩として、特に、リン酸のアルカリ塩、有利には、リン酸セシウムが好ましい。
【0035】
本発明の他の実施形態の対象は、有機エレクトロルミネセンスダイオード(OLED)として構成された、有機エレクトロルミネセンス層を電子伝導領域と電極との間にさらに含む有機電子装置である。このエレクトロルミネセンス(EL)層は、OLEDの積層中に、EL層とカソードとして挿入された電極との間に電子伝導領域が存在するように配置される。OLEDのこのような構成において、特にカソードから有機EL層へのよい電子輸送が保証される。
【0036】
さらに、本発明の有機電子装置は、有機感光層として、たとえばバルクヘテロ接合がn導電材料とp導電材料との間に設けられている有機感光装置として構成されていてよい。n導電材料は、たとえばフラーレンC
60であってよく、たとえば、ポリパラフェニレンビニレンなどのp導電性ポリマーと混合されるか、または、個別に互いの上に形成された層において形成される。このような有機感光装置において、本発明に係る電子伝導領域は、同様に、有機感光層とカソードとして挿入された電極との間に配置され、光の放射により励起子から形成された電子の、有機感光層からの特に効率的な輸送が可能である。
【0037】
有機電子装置のさらに別の例は、有機トランジスタ、たとえば、電界効果トランジスタである。これには、たとえば本発明に係る、ドーパントとして塩を含む電子伝導層を含む有機半導体が設けられている(たとえば
図9参照)。このような電子伝導層は、キャリア注入の向上を実現するために、たとえばトランジスタの電極と接触している。特に好ましくは、電子伝導層はnチャネルトランジスタにおいて用いられる。
【0038】
本発明の対象は、さらに、
A)1つの第1の電極を有する基板を用意するステップと、
B)第1の電極上に電子伝導領域を形成するステップと、
C)電子伝導領域と導電的に接触される第2の電極を形成するステップと、を含む、有機電子装置の製造方法であって、
電子伝導領域を形成するステップを、有機マトリクス材料および塩の蒸着により行い、
塩は、金属カチオンと、少なくとも3価のアニオンとを含む、
方法に関する。
【0039】
特に好ましくは、方法ステップB)において、電子伝導領域は、気相蒸着法、特に好ましくは物理気相蒸着法(PVD)により形成される。電子伝導領域がnドーパントとして塩を含む有機マトリクス材料の層を構成する場合、塩および有機マトリクス材料の同時蒸発または共蒸着が好ましい。少なくとも3価のアニオンを含む塩は良好に蒸発可能であり、この際、多くの場合、残渣はほとんどまたは全く観察されない。アニオンの、大きい、少なくとも3価の負の電荷の存在によって、このような塩は非常に蒸発しにくい。しかし、驚くべきことに、たとえば、フロー加熱したモリブデンボートからのセシウムリン酸塩が実質的に残渣無く蒸発することに本発明者らは発見した。リン酸セシウムの蒸発特性は、負に帯電した、フッ化物アニオンのみを有するフッ化リチウム塩の蒸発特性に類似している。これに対して、従来技術に知られている炭酸セシウムは、同一条件下で蒸発可能な残渣を形成しない。
【0040】
また、本発明の対象は、
電子伝導性マトリクス材料と、nドーパントとしての塩とを含み、
塩は、少なくとも3価のアニオンとカチオンとを含む、
電子伝導性組成物に関する。
【0041】
以下、本発明の態様について、実施形態および図面によってより詳細に説明する。