【実施例】
【0040】
(1)昆布エキス(未処理品)の調製
マコンブ(素干し)100gに水1500mLを加え、室温で30分間静置した後、50℃まで昇温して50分間保持した。次にコンブの残渣を取り出したのち、濾紙を用いて抽出液を分離し、減圧濃縮機(型式:ロータリーエバポレーター N―1000;東京理化器械社製)を用いてBrix濃度40%まで濃縮して、昆布エキス(未処理品)を80g得た。得られた昆布エキス(未処理品)のpHを測定したところ5.37であった。
ここで、上記のBrix濃度は、ポケット糖度計(型式:APAL−1;アズワン社製)を用いて測定し、pHは、ガラス電極式水素イオン濃度指示計(型式:HM−20P;東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した。
【0041】
(2)昆布エキス(未処理品)の電気透析法による処理
[実施例1]
上記の昆布エキス(未処理品)を、電気透析装置(型式:EX−3B;アストム社製)を使用して電気透析処理を行った。この電気透析装置に用いたイオン交換膜は、陽イオン交換膜(型式:ネオセプタCMX−SB;アストム社製)と、陰イオン交換膜(型式:ネオセプタAMX−SB;アストム社製)である。
各イオン交換膜の配置は、陽極側に第1陽イオン交換膜(11)を配置し、次いで、第1陰イオン交換膜(5)と第2陰イオン交換膜(6)を1組として、それぞれ中間陽イオン交換膜(7)を介して10組配置し、さらに陰極側に第2陽イオン交換膜(13)を配置した、フィルタープレス型とした。昆布エキスに接する陰イオン交換膜(5・6)のそれぞれの通電膜面積は、55cm
2としてある。なお、各イオン交換膜の配置間隔は、一定とした。
【0042】
上記の第1陽イオン交換膜(11)又は中間陽イオン交換膜(7)と、上記の第1陰イオン交換膜(5)とによって分画されたヨウ素回収室(8)には純水(18)を、上記の両陰イオン交換膜(5・6)によって分画されたエキス収容室(9)には昆布エキス(21)を、上記の第2陰イオン交換膜(6)と中間陽イオン交換膜(7)または第2陽イオン交換膜(13)とによって分画された補充液収容室(10)には17.45%(W/V)の塩化ナトリウム溶液(塩素イオンのモル濃度は2.99mol/L)からなる補充液(24)を、それぞれ4mL/secの流速で循環供給した。各溶液や昆布エキスの総量はそれぞれ500mLである。尚、電極液(15)は5%(W/V)硫酸ナトリウム水溶液を用いた。各溶液および昆布エキスの温度を20〜35℃の範囲に調整しながら、陽・陰極(3・4)間に10Vの電圧(電流密度は最大設定値5A/dm
2)をかけて150分間電気透析処理を行い、実施例1の昆布エキスを得た。得られた実施例1の昆布エキスについてpHを測定したところ5.47であった。
【0043】
[実施例2]
上記の昆布エキス(未処理品)を、電気透析装置(型式:EX−3B;アストム社製)を使用して電気透析処理を行った。この電気透析装置に用いたイオン交換膜は、陽イオン交換膜(型式:ネオセプタCIMS;アストム社製、一価陽イオン選択透過膜)と、陰イオン交換膜(型式:ネオセプタACS;アストム社製、一価陰イオン選択透過膜)である。
各イオン交換膜の配置は、陽極側に第1陽イオン交換膜(11)を配置し、次いで、第1陰イオン交換膜(5)と第2陰イオン交換膜(6)を1組として、それぞれ中間陽イオン交換膜(7)を介して10組配置し、さらに陰極側に第2陽イオン交換膜(13)を配置した、フィルタープレス型とした。昆布エキスに接する陰イオン交換膜(5・6)のそれぞれの通電膜面積は、55cm
2としてある。なお、各イオン交換膜の配置間隔は、一定とした。
【0044】
上記の第1陽イオン交換膜(11)又は中間陽イオン交換膜(7)と、上記の第1陰イオン交換膜(5)とによって分画されたヨウ素回収室(8)には純水(18)を、上記の両陰イオン交換膜(5・6)によって分画されたエキス収容室(9)には昆布エキス(21)を、上記の第2陰イオン交換膜(6)と中間陽イオン交換膜(7)または第2陽イオン交換膜(13)とによって分画された補充液収容室(10)には17.45%(W/V)の塩化ナトリウム溶液(塩素イオンのモル濃度は2.99mol/L)からなる補充液(24)を、それぞれ4mL/secの流速で循環供給した。各溶液や昆布エキスの総量はそれぞれ500mLである。尚、電極液(15)は5%(W/V)硫酸ナトリウム水溶液を用いた。各溶液および昆布エキスの温度を20〜35℃の範囲に調整しながら、陽・陰極(3・4)間に15Vの電圧(電流密度は最大設定値5A/dm
2)をかけて210分間電気透析処理を行い、実施例2の昆布エキスを得た。得られた実施例2の昆布エキスについてpHを測定したところ5.48であった。
【0045】
[比較例1]
上記の昆布エキスの調製で得た未処理品の昆布エキスを、通常脱塩処理する電気透析装置(型式:S−3;アストム社製)を使用して電気透析処理を行った。この電気透析装置に用いたイオン交換膜は、上記の実施例1と同様、陽イオン交換膜(型式:ネオセプタCMX−SB;アストム社製)と、陰イオン交換膜(型式:ネオセプタAMX−SB;アストム社製)である。
各イオン交換膜の配置は、陽極側に陽イオン交換膜を配置し、次いで陰イオン交換膜・陽イオン交換膜の配列組を1組とし、10組配置したフィルタープレス型とした。昆布エキスに接する1方の陰イオン交換樹脂の通電膜面積は55cm
2としてある。各イオン交換膜の配置間隔は、実施例1と同様、一定とした。
【0046】
上記の陰イオン交換膜とその陽極側に位置する陽イオン交換膜とによって分画された溶液室には純水を、陰イオン交換膜とその陰極側に位置する陽イオン交換膜とによって分画された溶液室には昆布エキスを、それぞれ4mL/secの流速で循環供給した。上記の純水と昆布エキスの総量はそれぞれ500mLである。尚、電極液(15)は5%(W/V)硫酸ナトリウム水溶液を用いた。そして上記の純水と昆布エキス温度を20〜35℃の範囲に調整しながら、陽・陰極間に10Vの電圧(電流密度は最大設定値5A/dm
2)をかけて135分間電気透析処理を行い、比較例1の昆布エキスを得た。得られた比較例1の昆布エキスについてpHを測定したところ5.60であった。
【0047】
[比較例2]
上記の比較例1の処理方法において、電気透析時間を135分間行なうのに替えて、60分間行なう以外は同様の操作を行い、比較例2の昆布エキスを得た。得られた比較例2の昆布エキスについてpHを測定したところ、5.47であった。
【0048】
(3)電気透析処理された昆布エキスの官能評価
上記の未処理品と、実施例1、実施例2、比較例1および比較例2の各昆布エキスについて、それぞれ200mLビーカーに各1gとり、Brix濃度が1%となるように熱湯で溶解したのち、外観、香り、および味について官能評価を行った。
【0049】
上記の官能評価項目の評価基準と評点は次の通りである。
・外観(色調)
評点3:清澄であり、昆布エキス特有の黄色〜薄い黄色を呈する。
評点2:濁りがあり、昆布エキス特有の黄色〜薄い黄色を呈する。
評点1:濁りがあり、昆布エキス特有の黄色〜薄い黄色を呈さず、薄い褐色を呈する。
・香り
評点3:昆布エキス特有の芳醇な香りがあり、香りのバランスが良い。
評点2:昆布エキス特有の香りはあるが、やや香りのバランスが悪い。
評点1:昆布エキス特有の香りが薄く、香りのバランスが悪い。
・味
評点3:昆布エキス特有の旨味、塩味を有し、味のバランスが良い。
評点2:昆布エキス特有の旨味、塩味はあるが、味のバランスが悪い。
評点1:昆布エキス特有の旨味、若しくは塩味が弱く、味のバランスが悪い。
【0050】
上記の官能評価は、上記の評価基準に従って5名のパネラーで評価を行ない、評点の平均点を求め、以下の基準に従って記号化した。その結果を表1に示す。
○ :平均値2.5以上
△ :平均値1.5以上、2.5未満
× :平均値1.5未満
【0051】
【表1】
【0052】
上記の結果から明らかなように、本発明の実施例1、実施例2の昆布エキスは、未処理品の昆布エキスと同等の色調、風味を有していたが、比較例1と比較例2の各昆布エキスは、いずれも未処理品の昆布エキスとは色調、風味が異なるものであった。
【0053】
(4)電気透析処理された各昆布エキスの含有成分の分析
次に、上記の電気透析処理された実施例1、実施例2、比較例1および比較例2の各昆布エキスについて、ヨウ素、食塩(塩分相当量)、全窒素、マンニトールおよび遊離アミノ酸の含有量と、固形分量を、未処理の昆布エキスと対比して測定した。
【0054】
上記の各成分の含有量は、次の方法により測定した。
(a)ヨウ素含有量
ヨウ素含有量の測定方法としては、ガスクロマトグラフを用いて測定した。
各昆布エキスをビーカーに取り、蒸留水で適当な濃度に希釈したのち、No.5B濾紙で濾過し、メスフラスコで定容する。定容したサンプルに18N硫酸0.7mL、メチルエチルケトン1.0mL、200ppm亜硝酸ナトリウム溶液1.0mLを加え、20分間放置する。更にヘキサンを加えて良く攪拌した後ヘキサン層を分取し、試料とした。この試料1μLをガスクロマトグラフ(型式:6890N;Agilent Technologies社製)に供して測定した。
【0055】
(b)食塩含有量(塩分相当量)
食塩含有量(塩分相当量)の測定方法としては、フォルハルト湿式定量法を用いた。
各昆布エキス0.5gを200mL三角フラスコに採取し、0.1N−硝酸銀水溶液を20mL、13N−濃硝酸を20mL加え、沸騰湯浴中で30分間加温する。放冷したのち、鉄ミョウバン指示薬を5mL加え、0.1N−チオシアン酸カリウムで滴定し、NaCl当量として測定した。
【0056】
(c)全窒素含有量
全窒素含有量の測定方法としては、ケルダール法を用いた。
各昆布エキス1.5gをケルダール瓶に採取し、分解促進剤(商品名:KJELTABS C;Thompson & Copper社製)と36N−濃硝酸を加えて450℃で100分間の強熱分解したのち、放冷してから脱イオン水10mLを加えて自動ケルダール蒸留装置(型式:K378;ビュッヒ社製)にて全窒素量を測定した。
【0057】
(d)マンニトール含有量
マンニトール含有量の測定方法としては、ガスクロマトグラフを用いて測定した。
各昆布エキス2gを採取し、エタノール50mLを加えて脱イオン水で100mLに定容する。1mLを分取して溶媒を揮発させたのち、トリメチルシリル化剤を加えてトリメチルシリル化し、無水ピリジンを10mL加えて試料とした。この試料5μLをガスクロマトグラフ(型式:GC−14A;島津製作所社製)に供して測定した。
【0058】
(e)遊離アミノ酸含有量
遊離アミノ酸含有量の測定方法としては、アミノ酸自動分析機を用いた。
得られた各昆布エキス1gを採取して、クエン酸リチウムバッファー(pH2.4)で50mL定容したのち、No.131濾紙で濾過して試料とした。この試料をアミノ酸分析機(型式:JLC−500/V;日本電子社製)に供して測定した。
【0059】
(f)固形分量
固形分量の測定方法としては、常圧加熱乾燥法を用いた。
得られた各昆布エキス0.5gを採取し、105℃で3時間の乾燥を行って、固形分量を測定した。
【0060】
上記の測定結果を、いずれも未処理品に含まれる各成分の質量を100とした際の、電気透析処理された昆布エキスに含まれる各成分の質量比、すなわち残存率を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
上記の分析結果から明らかなように、本発明の実施例1および実施例2は、未処理品に対し、食塩含有量(塩分相当量)、全窒素含有量、遊離アミノ酸組成および固形分を大きく変動することなく、しかもヨウ素含有量を大幅に低下することができた。これに対し比較例1は、ヨウ素含有量を大幅に低下できたものの、食塩含有量(塩分相当量)、窒素含有量、遊離アミノ酸組成、および固形分が大きく変動した。また、比較例2では、実施例1および実施例2と同程度にヨウ素含有量を低下しながら、比較例1に比べて食塩含有量の残存率を高くできたものの、その食塩含有量は未処理品や本発明の実施例1および実施例2と比べて大幅に低く、固形分の残存率も低いものであった。
【0063】
未処理品、実施例1、実施例2、比較例品1および比較例2の、昆布エキスの固形分100質量%中の食塩含有量、ヨウ素含有量および食塩含有量/ヨウ素含有量の比率を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
上記の実施形態や実施例で説明した海産物エキスの処理方法や海産物エキス等は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、海産物エキスの種類や処理に用いる電気透析装置、イオン交換膜の種類、各室の配置数や容積、水溶性電解質溶液や補充液の種類等は、上記の実施形態や実施例のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
例えば、上記の実施例では、海産物エキスとして昆布エキスを用いたので、ヨウ素を除去若しくはその含有量を低減し、且つエキス本来の風味や呈味、外観などを良好に維持するという効果を、きわめて良好に発揮することができた。しかし本発明では他の種類の海産物エキスを用いたものであってもよいことは、言うまでもない。