(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態にかかるウォームギア機構7を、無段変速機1に適用した場合を例に挙げて説明する。
図1は、実施の形態にかかるウォームギア機構7を採用した無段変速機1の概略構成図である。
【0012】
図1に示すように、無段変速機1は、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3とからなる一対のプーリの間に、ベルト4を掛け回して構成される。
プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3は、それぞれ固定円錐板21、31と、この固定円錐板21、31との間にV溝を形成する可動円錐板22、32とから構成されており、可動円錐板22、32は、軸線X1、X2の軸方向に移動可能に設けられている。
無段変速機1では、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3の溝幅W1、W2を変更して、ベルト4とプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3との接触半径を変化させることで、変速比を無段階で変化させるようになっており、駆動源から入力される回転駆動力は、この無段変速機1で変速されて、駆動輪側に出力されるようになっている。
【0013】
プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3には、可動円錐板22、32を固定円錐板21、31側に移動させる推力を発生させる機構(推力発生機構6)が設けられており、プライマリプーリ2側の推力発生機構6は、ウォームギア機構7により駆動されて、推力を発生するようになっている。
また、セカンダリプーリ3側の推力発生機構6は、例えば、ベルト4を挟圧する付勢力を、図示しないスプリングで発生させる構成のものが採用されている。
【0014】
以下、プライマリプーリ2と、このプライマリプーリ2側の推力発生機構6の構成を説明する。
図2は、無段変速機1におけるプライマリプーリ2の近傍領域を拡大して示す断面図である。
図3は、推力発生機構6を駆動させるウォームギア機構7を説明する図であり、(a)は、
図2における領域Aの拡大図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面において、ウォームギア機構7の主要部のみを示した図である。
図4は、ウォームギア機構7の詳細を説明する図であり、(a)は、
図3の(b)における領域Bの拡大図であり、(b)は、(a)における領域Aの拡大図である。
【0015】
図2に示すように、プライマリプーリ2の固定円錐板21は、軸線X1の軸方向に沿って延びる筒状の軸部211を有している。この軸部211の長手方向における一端部211aは、変速機ケース8の有底円筒状の支持部81で、ベアリング82を介して回転可能に支持されており、他端部211b側は、変速機ケース9に設けた円筒状の支持部91で、ベアリング92を介して回転可能に支持されている。
【0016】
軸部211は、一端部211aから他端部211b側に向かうにつれて段階的に縮径した形状を有しており、一端部211a側の最も大径の部分に、軸線X1の径方向に延びるフランジ部212が設けられている。このフランジ部212は、軸線X1周りの周方向の全周に亘って形成されており、他端部211b側(図中右側)の面が、軸線X1に対して所定角度で傾斜するシーブ面212aとなっている。
【0017】
軸部211では、フランジ部212を挟んで一端部211aとは反対側に、可動円錐板22との嵌合部211cが設けられている。
この嵌合部211cには、可動円錐板22の筒状の軸部221が、軸線X1の軸方向からスプライン嵌合しており、可動円錐板22は、軸線X1周りにおける固定円錐板21との相対回転が規制された状態で、固定円錐板21に組み付けられている。
【0018】
図3の(a)に示すように、可動円錐板22の軸部221は、固定円錐板21側の端部221a(図中左側の端部)から径方向外側に延びるフランジ部222を有しており、このフランジ部222は、軸線X1周りの周方向の全周に亘って形成されている。
フランジ部222における固定円錐板21側(図中左側)の面は、軸線X1に対して所定角度で傾斜するシーブ面222aとなっており、可動円錐板22は、このシーブ面222aを、固定円錐板21のシーブ面212aに対向させた状態で、固定円錐板21に組み付けられている(
図2参照)。
【0019】
図2に示すように、固定円錐板21の軸部211は、その他端部211bが、駆動源側の伝達部材(図示せず)に連結されており、駆動源からの回転駆動力が軸部211に入力されると、変速機ケース8、9で回転可能に支持された固定円錐板21が、可動円錐板22と一体に軸線X1周りに回転するようになっている。
【0020】
図3の(a)に示すように、可動円錐板22では、フランジ部222におけるシーブ面222aとは反対側の面222bに、軸方向から見てリング状の当接部223が設けられている。この当接部223には、推力発生機構6の可動部材62が、ニードルベアリングB1を介して当接しており、可動円錐板22には、当該可動円錐板22を固定円錐板21側(
図2:矢印D2参照)に移動させようとする推力が、推力発生機構6の可動部材62から入力されるようになっている。
【0021】
推力発生機構6は、変速機ケース9で固定支持された固定部材61と、この固定部材61に外挿して取り付けられた可動部材62と、この可動部材62の軸線X1周りの回転を、軸線X1の軸方向に変換するボールネジ機構63と、を備えて構成される。
【0022】
固定部材61は、円筒状の基部611を有しており、この基部611の長手方向における略中央部には、径方向内側に突出して突出部612が設けられている。
突出部612は、その径方向内側に、固定円錐板21の軸部211を挿通させる挿通穴612aを有しており、この挿通穴612aでは、軸部211の他端部211b側が、ニードルベアリングB2を介して回転可能に支持されている。
【0023】
基部611の他端611b側には、基部611よりも大径の嵌合部613が設けられている。固定部材61は、この嵌合部613を、変速機ケース9に設けた凹溝部95に嵌合させて設けられており、固定部材61の軸線X1周りの回転が、凹溝部95に嵌合させた嵌合部613により規制されている。
【0024】
基部611の外周面には、ボール溝611cが、軸線X1の軸方向に沿って螺旋状に設けられており、基部611におけるボール溝611cが設けられた外周を覆うように、可動部材62の基部621が、固定部材61に外挿して組み付けられている。
【0025】
可動部材62の基部621では、基部611との対向面に、ボール溝621bが形成されており、実施の形態では、固定部材61側のボール溝611cと、可動部材62側のボール溝621bに収容されたボールBとにより、ボールネジ機構63が構成されている。
【0026】
固定部材61に組み付けられた状態において可動部材62は、軸線X1の軸方向に進退移動可能(
図2の(a)参照)、かつ軸線X1周りに回転可能に設けられており、可動部材62が軸線X1周りに回転すると、ボール溝621b内のボールBがボール溝611cに沿って移動することで、可動部材62が、当該可動部材62の回転方向に応じて決まる一方向に移動するようになっている。
【0027】
可動部材62における基部621では、軸線X1の軸方向における一端部621a側に、径方向外側に突出してリング状の嵌合部623が設けられており、この嵌合部623の外周には、軸線X1の軸方向に沿って延びるスプライン623aが、軸線X1周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0028】
このスプライン623aには、ウォームギア機構7のウォームホイール71が噛合しており、可動部材62とウォームホイール71とが、軸線X1周りに一体に回転するようになっている。
【0029】
ウォームギア機構7を説明する。
図3の(b)に示すように、ウォームギア機構7は、ウォームホイール71と、このウォームホイール71にモータ(図示せず)の回転駆動力を伝達するウォーム軸72と、を有している。
ウォームホイール71は、軸線X1の軸方向から見てリング形状の基部711を有しており、この基部711の内周と外周には、複数の噛合部712、713が、軸線X1周りの周方向に所定間隔で設けられている。
【0030】
図3の(a)に示すように、ウォームホイール71は、内周側の噛合部712を、推力発生機構6の可動部材62の外周にスプライン嵌合させて設けられており、ウォームホイール71と可動部材62とが軸線X1周りに一体に回転するようになっている。
前記したように、可動部材62は、軸線X1周りに回転すると、ボールネジ機構63により、軸線X1の軸方向に移動するようになっている。そのため、基部711の内径側は、外径側よりも軸線X1方向の厚みが大きくなっていると共に、内径側の噛合部712は、軸線X1方向の全長に亘って設けられており、可動部材62が軸線X1方向に移動しても、可動部材62と基部711とのスプライン嵌合が保持されるようになっている。
【0031】
ウォームホイール71の基部711では、変速機ケース9側の面(
図3の(a)において右側の面)に、筒状の壁部714が設けられており、この壁部714の内周面には、ベアリング93が取り付けられている。
ベアリング93の内径側は、変速機ケース9の筒状のベアリング支持部94で支持されており、ウォームホイール71は、ベアリング93を介して変速機ケース9で支持されて、軸線X1周りに回転可能とされている。
【0032】
図4の(a)に示すように、ウォームホイール71におけるウォーム軸72と噛合する部分では、基部711の外周に設けた噛合部713が、ウォーム軸72の外周に設けた螺旋状の壁部721の間に挿入されている。
壁部721と噛合部713との間には、螺旋状の動力伝達部材73と、複数の円筒コロ75を回転可能に支持する螺旋状のベアリング支持部材74とが位置しており、ウォーム軸72とウォームホイール71との間の回転駆動力の伝達が、動力伝達部材73とベアリング支持部材74とを介して行われるようになっている。
【0033】
図5は、ウォーム軸72の構成を説明する図である。この図においては、図中下側に、ウォーム軸72の外周に動力伝達部材73とベアリング支持部材74とが取り付けられた状態が示されており、図中上側に、ウォーム軸72の外周から動力伝達部材73とベアリング支持部材74とを取り外した状態が示されている。
【0034】
図5に示すように、ウォーム軸72は、螺旋状の壁部721を有する円柱形状の軸部720を有しており、この軸部720の外周には、複数の円筒コロ75を回転可能に支持する螺旋状のベアリング支持部材74と、螺旋状の動力伝達部材73と、が組み付けられている。
【0035】
軸部720は、軸線X1に直交する軸線Y1に沿って設けられており、その外周には、軸線Y1の径方向に所定高さで突出する壁部721が、軸部720と一体に設けられている。
壁部721は、軸部720の長手方向における一端720a側から他端720b側に向けて、軸部720の周方向に沿って螺旋状に延びている。
図4の(b)に示すように、壁部721における一方側(動力伝達部材73側)の面721aは、ベアリング支持部材74で支持された円筒コロ75が転動する平坦面(以下、転動面721aと標記する)となっている。
【0036】
壁部721の先端側(
図4において下側)は、軸線X1周りに回動するウォームホイール71の噛合部713との干渉を避けるために、先端側に向かうにつれて軸線Y1方向の厚みW4が薄くなる先細り形状となっている。
【0037】
ここで、実施の形態のウォームギア機構7は、プライマリプーリ2の溝幅を狭める方向の推力を可動円錐板22に作用させるときにのみ駆動されるようになっている。
かかる場合、推力発生機構6の可動部材62を軸線X1の軸方向におけるプライマリプーリ2側に移動させるために、ウォームホイール71が時計回り方向(
図4の(a)における矢印D2方向)に回転させられるようになっている。そのため、実施の形態の壁部721では、この際にウォームホイール71の噛合部713と接触する側に転動面721aが設けられている。
【0038】
図6に示すように、ベアリング支持部材74は、螺旋状の基部74aと、基部74aに形成されたポケット74bで回転可能に支持された円筒コロ75と、を備えて構成される。
図5および
図6に示すように、基部74aは、等幅W5の板状部材を螺旋状に湾曲させた基本形状を有しており、ポケット74bは、基部74aを厚み方向に貫通して設けられている。ポケット74bの幅方向における両側を規定する側縁部74c、74dでは、基部74aの長手方向におけるほぼ中央部に、円筒コロ75を回転可能に支持するための係合突起74eが、ポケット74b内に突出して設けられている。
【0039】
実施の形態では、円柱形状を有する円筒コロ75が、このベアリング支持部材74で回転可能に支持されており、この円筒コロ75の長手方向における両端に、前記した係合突起74eを係合させるための凹部75aが形成されている。
基部74aにおいて円筒コロ75は、その長手方向における両端が係合突起74eで回転可能に支持された状態で設けられており、軸線Y1の軸方向から見て、円筒コロ75は、軸線Y1周りの周方向に放射状に設けられている(
図6の(c)参照)。
【0040】
図4の(b)に示すように、円筒コロ75の直径D1は、基部74aの厚みW3よりも大径に形成されており(D1>W3)、ウォーム軸72が軸線Y1周りに回転すると、円筒コロ75が、壁部721の転動面721aを転動して、壁部721(ウォーム軸72)とベアリング支持部材74とが、軸線Y1周りで相対回転するようになっている。
【0041】
図5に示すように、動力伝達部材73は、等幅の板状部材を螺旋状に湾曲させた基本形状を有しており、軸線Y1の軸方向に伸縮可能なバネ性を有する部材である。
動力伝達部材73におけるベアリング支持部材74側の面73aは、ベアリング支持部材74で支持された円筒コロ75が転動する平坦面(以下、転動面73aと標記する)となっている。
【0042】
動力伝達部材73の長手方向(軸線Y1方向)のピッチP1は、同方向におけるウォーム軸72の壁部721のピッチP2よりも小さくなっており、動力伝達部材73は、軸部720の外周に取り付けられる際に軸線Y1の軸方向に押し広げられるようになっている。
【0043】
そのため、軸部720に取り付けられた状態において動力伝達部材73には、当該動力伝達部材73を軸線Y1の軸方向に圧縮させようとする圧縮力が作用しており、動力伝達部材73と壁部721との間に位置するベアリング支持部材74は、動力伝達部材73から作用する圧縮力により、円筒コロ75を、壁部721と動力伝達部材73とに押しつけた状態で保持されている。
この状態において、円筒コロ75の外周は、壁部721と動力伝達部材73の転動面721a、73aに、その長手方向の全長に亘って線接触している(
図4の(b)参照)。
【0044】
軸部720において動力伝達部材73は、軸線Y1の軸方向で隣接する壁部721と壁部721の間を、軸部720の周方向に沿って延びており、軸部720の外周に螺旋状に巻き付けられている。
動力伝達部材73における転動面73aとは反対側の面73bは、ウォームホイール71の噛合部713の当接面となっている。
【0045】
ここで、前記したプライマリプーリ2の可動円錐板22には、プライマリプーリ2に巻き回されたベルト4により、当該可動円錐板22を固定円錐板21から離れる方向(
図2における矢印D1方向)に移動させようとする力(反力)が常時作用している。
この反力は、可動円錐板22にベアリングB1を介して当接した可動部材62にも作用している。そして、可動部材62は、ボールネジ機構63により、軸線X1周りに回転しながら軸線X1の軸方向に移動するようになっているので、可動部材62に入力される軸線X1の軸方向の反力は、ボールネジ機構63により、軸線X1周りの回転力に変換される。
そのため、可動部材62と、この可動部材62の外周に噛合しているウォームホイール71には、
図4の(a)における矢印D1方向に回転させようとする力(荷重)が常時入力されることになり、ウォームホイール71は、ウォーム軸72との噛み合い位置において、その外周の噛合部713を、動力伝達部材73に常に接触させた状態で保持されている。
【0046】
以下、ウォームギア機構7の動作を説明する。
図7は、ウォームギア機構7の動作を説明する図であり、(a)は、ウォームホイール71が、基準位置(
図7の(b))から時計回り方向(矢印D2方向)に回転した場合を、(b)は、ウォームホイール71が基準位置にある場合を、(c)は、ウォームホイール71が、基準位置(
図7の(b))から反時計回り方向(矢印D1方向)に回転した場合を説明する図である。
【0047】
実施の形態のウォームギア機構7では、プライマリプーリ2の溝幅を狭める場合にのみ、ウォーム軸72が、図示しないモータにより、軸線Y1周りの周方向で矢印D2で示す方向に回転させられるようになっている。
例えば、
図7の(b)に示す基準位置にあるウォーム軸72が、図中矢印D2方向に回転すると、ウォーム軸72と一体に形成されている壁部721もまた、軸線Y1周りに回転することになる。
【0048】
ここで、ウォームホイール71とウォーム軸72とが噛み合う部分では、ウォーム軸72の壁部721と、ウォームホイール71の噛合部713との間に、ベアリング支持部材74と動力伝達部材73とが位置しており、ベアリング支持部材74の円筒コロ75は、壁部721と動力伝達部材73に線接触している(
図4参照)。
【0049】
図4に示すように、実施の形態では、噛合部713と動力伝達部材73との間の摩擦力μ1が、円筒コロ75と動力伝達部材73との間の摩擦力μ2や、円筒コロ75とウォーム軸72(壁部721)との間の摩擦力μ3よりも、大きくなるように設定されている(μ1>μ2、μ1>μ3)。
そのため、ウォーム軸72とウォームホイール71との間で動力伝達が行われる際には、ウォーム軸72(壁部721)とベアリング支持部材74(円筒コロ75)との間、そしてベアリング支持部材74(円筒コロ75)と動力伝達部材73との間で相対回転が起こり、噛合部713と動力伝達部材73との間に滑りが生じないようになっている。
【0050】
よって、ウォーム軸72(壁部721)からウォームホイール71への動力伝達が行われる際には、ウォーム軸72の壁部721と動力伝達部材73との間では、円筒コロ75の転がり接触により動力伝達が行われる。また、動力伝達部材73が壁部721に対して相対回転可能となっているため、動力伝達部材73とウォームホイール71の噛合部713との間の互いに接触している部位では、ウォーム軸72の回転軸周りの周方向の滑りが実質的にない状態で動力伝達が行われる。
よって、ウォーム軸72側からウォームホイール71側への動力伝達が、滑り接触による動力伝達ではなく、転がり接触による動力伝達となるので、動力の伝達効率が高いウォームギア機構となる。
【0051】
また、ウォーム軸72を矢印D2方向に回転させて、ウォーム軸72からウォームホイール71への動力伝達が行われると、ベアリング支持部材74と動力伝達部材73とが、ウォーム軸72の螺旋状に設けられた壁部721により、軸線Y1の軸方向に押されて図中右方向に移動するので、動力伝達部材73に外周の噛合部713を接触させたウォームホイール71が、図中時計回り方向(矢印D2方向)に回転させられることになる。
これにより、ウォームホイール71の回転に連動して推力発生機構6の可動部材62が軸線X1の軸方向(
図2において矢印D2で示す方向)に移動して、可動円錐板22が、プライマリプーリ2の溝幅を狭める方向に移動させられることになる。
【0052】
ここで、ウォーム軸72が軸線Y1周りに回転すると、壁部721とベアリング支持部材74とが、軸線Y1周りに相対的に回転して、ベアリング支持部材74がウォーム軸72よりもゆっくりと回転する。また、動力伝達部材73は、ウォーム軸72の回転軸周りに回転しない。したがって、ウォーム軸72に対する相対回転速度は、動力伝達部材73のほうが、ベアリング支持部材74よりも大きくなる。
よって、ウォーム軸72を、
図7の(b)に示す基準位置から矢印D2で示す方向に回転させると、相対回転速度の差が大きくなるほど、ウォーム軸72の軸方向における変位量が大きくなるので、ウォーム軸72と、ベアリング支持部材74と、動力伝達部材73とは、最終的に、
図7の(a)に示すような状態となる。
【0053】
ここで、前記したように動力伝達部材73は、軸線Y1の軸方向に伸縮可能なバネ性を有する部材である。そのため、動力伝達部材73におけるウォーム軸72から外れて図中右側に突出した部分は、その軸線Y1方向に縮んで、その突出長さDXが抑えられるようになっている(
図7の(a)参照)。よって、動力伝達部材73の移動を阻害しないようにするために、変速機ケース内でウォーム軸72の周りに確保するための空間を抑えることができるので、変速機ケースの大型化が防止されるようになっている。
【0054】
また、プライマリプーリ2の溝幅を変化させずに保持している間は、ウォームホイール71側から作用する荷重でウォーム軸72が回転しないようにするために、ウォーム軸72は、モータ(図示せず)により軸線Y1周りの回転が規制されている。
かかる場合には、ウォームホイール71と可動部材62の軸線X1周りの回転が規制されて、可動部材62の軸線X1方向の移動も規制される。よって、可動円錐板22の軸線X1方向の位置が変化しないので、プライマリプーリ2の溝幅が保持されることになる。
【0055】
さらに、プライマリプーリ2の溝幅を広げる場合には、モータ(図示せず)によるウォーム軸72の回転規制をやめることで、ウォームホイール71の図中矢印D1で示す方向の回転を許容させる。
そうすると、ウォームホイール71の噛合部712により動力伝達部材73が、ウォーム軸72に対して相対回転しながら図中左側に押されて、
図7の(c)で示す位置まで移動する。
この場合にもまた、ウォーム軸72の壁部721と動力伝達部材73との間では、円筒コロ75の転がり接触により動力伝達が行われ、動力伝達部材73とウォームホイール71の噛合部713との接触している部位では、ウォーム軸の回転軸周りの周方向の滑りが実質的にない状態で動力伝達が行われる。
さらに、前記した
図7の(a)の場合と同様に、動力伝達部材73におけるウォーム軸72から外れて図中左側に突出した部分が、その軸線Y1方向に縮んで、その突出長さDXが抑えられるようになっている(
図7の(c)参照)。
【0056】
このように、ウォームホイール71とウォーム軸72との間の動力伝達は、壁部721と動力伝達部材73と線接触する円筒コロ75の転がりにより伝達され、ウォームホイール71の噛合部713と、動力伝達部材73は滑り接触とならない。
よって、従来の滑り接触により動力を伝達するウォームギアの場合のように、伝達効率の低下が防止される。
【0057】
さらに、ウォーム軸72とウォームホイール71との間の動力伝達に、円筒形状のコロ部材(円筒コロ75)を用いており、円筒コロ75は、従来のボールを使用するウォームギアの場合とは異なり、接触する相手側の部材に対して線接触となる。よって、荷重が大きくなっても、円筒コロ75には、荷重が分散して作用するので、ウォームギア機構7の寿命を、ボールを使用する場合よりも長くすることが可能となる。
【0058】
以上の通り、実施の形態では、
外周に螺旋状の壁部721が形成されたウォーム軸72と、
このウォーム軸72に噛み合う噛合部713を外周に有するウォームホイール71と、
ウォーム軸72の外周に取り付けられて、ウォーム軸72に対して相対回転可能かつウォーム軸72の軸方向に進退移動可能に設けられていると共に、ウォーム軸72の回転軸(軸線Y1)方向で隣接する壁部721の間を連続して延びる螺旋状の動力伝達部材73と、
軸線Y1方向における壁部721と動力伝達部材73との間に設けられて、これらに線接触すると共に、ウォーム軸72と動力伝達部材73とを、軸線Y1周りに相対回転可能とする複数の円筒コロ75(コロ部材)と、を備え、
ウォームホイール71の噛合部713を、ウォーム軸72との噛み合い位置において、軸線Y1方向における、動力伝達部材73の円筒コロ75とは反対側に当接させた構成のウォームギア機構とした。
【0059】
このように構成すると、ウォーム軸72が軸線Y1周りに回転すると、ウォーム軸72の壁部721と動力伝達部材73との間に設けた複数の円筒コロ75により、ウォーム軸72と動力伝達部材73とが、ウォーム軸72の回転軸(軸線Y1)周りで相対回転する。
そうすると、動力伝達部材73が、ウォーム軸72の壁部721により押されて軸線Y1方向に移動するので、この動力伝達部材73に噛合部713を当接させたウォームホイール71が、動力伝達部材73により押されて、軸線Y1に直交する軸線X1周りに回転する。これにより、ウォーム軸72側からウォームホイール71側への動力伝達が行われる。
この際、ウォーム軸72の壁部721と動力伝達部材73との間では、円筒コロ75の転がり接触により動力伝達が行われる。また、動力伝達部材73とウォームホイール71の噛合部713との間では、動力伝達部材73が壁部721に対して相対回転可能となっているため、動力伝達部材73とウォームホイール71の噛合部713との接触している部位では、ウォーム軸72の回転軸周りの周方向の滑りが実質的にない状態で動力伝達が行われる。
【0060】
よって、ウォーム軸72側からウォームホイール71側への動力伝達が、滑り接触による動力伝達ではなく、円筒コロ75の転がり接触による動力伝達となるので、動力の伝達効率が高いウォームギア機構となる。
さらに、壁部721と動力伝達部材73との接触が線接触となる円筒コロ75を介して、ウォーム軸72側からウォームホイール71側への動力伝達が行われるので、動力伝達時に円筒コロ75に作用する荷重を分散させることができる。
これにより、ウォームギア機構の耐久性を確保することが容易となり、ウォーム機構の大型化を抑制できる。
【0061】
複数の円筒コロ75は、壁部721と動力伝達部材73との間に設けられた螺旋状のベアリング支持部材74(ケージ)で回転可能に保持されている構成とした。
【0062】
このように構成すると、螺旋状の基部74aを有するベアリング支持部材74を、壁部721と動力伝達部材73の間に挿入するだけで、複数の円筒コロ75を、壁部721と動力伝達部材73との間に設けることができるので、円筒コロ75のウォーム軸72への組み付け性が向上する。
【0063】
さらに、
図6に示すように、ベアリング支持部材74では、螺旋状の基部74aの長手方向に所定間隔で複数のポケット74bが設けられており、複数のポケット74bの各々では、円筒コロ75が回転可能に支持されており、軸線Y1の軸方向から見て、複数の円筒コロ75は、軸線Y1周りの周方向で放射状に配置されている構成とした。
【0064】
このように構成すると、ウォーム軸72とウォームホイール71とが噛み合う部分において、円筒コロ75と壁部721および動力伝達部材73とを、確実に線接触させることができる。
これにより、ウォーム軸72とウォームホイール71の間での動力伝達時に作用する荷重を、円筒コロ75における壁部721および動力伝達部材73に線状に接触している部分で受けることができる。
よって、従来のボールを用いたウォームギア機構のように円筒コロ75の一部に荷重が集中することがないので、円筒コロ75の損耗を抑えることができる。これにより、円筒コロ75の寿命を向上させて、ウォームギア機構の全体としての耐久性を確保することができる。
【0065】
また、螺旋状の動力伝達部材73は、軸線Y1方向に伸縮可能なバネ性を有しており、
図5に示すように、自由長状態の動力伝達部材73の軸線Y1方向におけるピッチP1(間隔)は、同方向におけるウォーム軸72の壁部721のピッチP2(間隔:隣り合う壁部721、721の間の距離)よりも小さく設定されており、動力伝達部材73は、ウォーム軸72の軸部720の外周に取り付けられる際に、軸線Y1の軸方向に押し広げられる構成のウォームギア機構とした。
【0066】
このように構成すると、動力伝達部材73には、軸部720に取り付けられた状態において、当該動力伝達部材73を軸線Y1の軸方向に圧縮させようとする圧縮力が作用しており、動力伝達部材73と壁部721との間に位置するベアリング支持部材74は、動力伝達部材73から作用する圧縮力により、円筒コロ75を、壁部721と動力伝達部材73とに押しつけた状態で保持される。
よって、円筒コロ75の外周が、壁部721と動力伝達部材73の転動面721a、73aに、その長手方向の全長に亘って線接触された状態で保持されるので、動力伝達がより確実に行われるようになる。
さらに、ウォーム軸72が回転して、動力伝達部材73がウォーム軸72の軸方向外側に突出した状態となった場合(例えば、
図7の(a)参照)、軸方向外側に突出した動力伝達部材73が軸方向に縮むので、ウォーム軸72の軸方向における動力伝達部材73の突出長さDXを短くすることができる。これにより、ウォーム軸72の軸方向の両側に、軸方向に移動した動力伝達部材73との干渉を避けるための空間を、より小さくできるので、変速機ケースやウォームギア機構の大型化を好適に防止できる。
【0067】
溝幅をそれぞれ変更可能とされた一対のプーリ(プライマリプーリ2、セカンダリプーリ3)と、一対のプーリの間に巻き掛けられたベルト4(無端部材)と、
前記プーリの溝幅(幅W1、W2)を狭める方向の推力を発生させる推力発生機構6と、を備える無段変速機1に設けられて、推力発生機構6の駆動に用いられるウォームギア機構7であって、
ウォームギア機構7は、駆動源(モータ)の回転駆動力が入力される軸部720の外周に、螺旋状の壁部721が形成されたウォーム軸72と、
このウォーム軸72に噛み合う噛合部713を外周に有すると共に、ウォーム軸72から伝達される回転駆動力で推力発生機構6に推力を発生させるウォームホイール71と、
ウォーム軸72の外周に取り付けられて、ウォーム軸72の回転軸方向(軸線Y1方向)で隣接する壁部721と壁部721の間を連続して延びる螺旋状の動力伝達部材73と、
軸線Y1方向における壁部721と動力伝達部材73との間に設けられて、ウォーム軸72と動力伝達部材73とを、軸線Y1周りに相対回転可能とする複数の円筒コロ75と、を備え、
ウォームホイール71の噛合部713は、ウォーム軸72との噛み合い位置において、軸線Y1方向における、動力伝達部材73の円筒コロ75とは反対側の面75bに当接しており、動力伝達部材73の面75bは、前記プライマリプーリ2から推力発生機構を介してウォームホイール71に入力される回転力を受ける側(可動円錐板22からの反力が入力される側)である構成のウォームギア機構とした。
【0068】
このように構成すると、ウォーム軸72の壁部721と動力伝達部材73との間では、円筒コロ75の転がり接触により動力伝達が行われ、動力伝達部材73とウォームホイール71の噛合部713との接触している部位では、ウォーム軸72の回転軸周りの周方向の滑りが実質的にない状態で動力伝達が行われる。
よって、ウォーム軸72側からウォームホイール71側への動力伝達が、滑り接触による動力伝達ではなく、円筒コロ75の転がり接触による動力伝達となるので、動力の伝達効率が高いウォームギア機構となる。
これにより、無段変速機のプーリに推力を発生させる機構として、転がり接触による伝達効率の高いウォームギア機構を用いることができる。
【0069】
このとき、無端部材(ベルトまたはチェーン)を挟圧するプライマリプーリ2は、プーリの幅W1が拡大する方向の反力を受けており、この反力によって、ウォームホイール71は、常に一方向側(
図4における矢印D1方向)に回転する荷重がかかっている。
従って、螺旋状の動力伝達部材を、壁部721における荷重を受ける側に配置することで、ウォームホイール71が一方向側または他方向側(
図4における矢印D1方向、矢印D2方向)の何れの方向に回転しても、この動力伝達部材73を介した動力伝達が可能となる。このようにCVTにおけるプーリの推力機構として、本発明のウォームギア機構を用いることにより、動力伝達部材を、軸線Y1方向における壁部721の片面側にのみ設ければ良くなり、部品点数が増加することを抑制できる。
【0070】
前記した実施の形態では、セカンダリプーリ3側の推力発生機構6として、ベルト4を挟圧する付勢力を、図示しないスプリングで発生させる構成のものを例示したが、セカンダリプーリ3に推力を与えることができるものであれば、他の構成のものを採用しても良い。例えば、カムを用いてベルト4を挟圧するものや、プライマリプーリ2側に設けたウォームギア機構7と同じ構成のものなどが採用可能である。
【0071】
さらに、前記した実施の形態では、ウォームホイール71が円柱形状であって、軸線X1の径方向から見たウォームホイール71の外周715の形状(
図3参照)が、軸線X1に対して平行である場合(
図3の(a)参照)を例に挙げて説明をしたが、ウォームギア機構7は、
図8に示すように、軸線X1の径方向から見た外周715aの形状が軸線X1側に窪んだウォームホイール71(糸巻き形状の外周を有するウォームホイール)であっても良い。
【0072】
さらに、実施の形態では、推力発生機構6として、ボールネジ機構を用いた場合を例示したが、回転軸周りの回転力を、軸方向の進退移動(推力)に変換できる機構であれば良く、カムを用いる構成のものなどを採用しても良い。
また、実施の形態では、ウォームギア機構7をベルト式の無段変速機に適用した場合を例示したが、本発明に係るウォームギア機構7は、無段変速機以外のものにも適用可能である。
【0073】
また、実施の形態では、円筒コロ75が螺旋状のベアリング支持部材74の基部74aに保持されている場合を例示したが、円筒コロ75を保持できる構成のものであれば、円筒コロ75が、例えばリテーナに保持された状態で、ウォーム軸72の壁部721と動力伝達部材73との間の配置されるようにした構成としても良い。
【0074】
さらに、実施の形態では、螺旋状の動力伝達部材73が、軸線Y1方向に伸縮可能なバネ性を有する部材である場合を例示したが、ベアリング支持部材74における螺旋状の基部74aを、軸線Y1方向に伸縮可能なバネ性を有する部材で構成しても良い。
かかる場合、ベアリング支持部材74におけるウォーム軸72から外れて軸線Y1方向に突出した部分もまた、その軸線Y1方向に縮むことになるので、ウォーム軸72の軸方向の両側に干渉を避けるために設ける空間をいっそう小さくできる。