(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5757991
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】火花の拡散が空間的に制限された火花蒸着のためのターゲット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/32 20060101AFI20150716BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
C23C14/32 A
C23C14/24 F
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-504138(P2013-504138)
(86)(22)【出願日】2011年1月10日
(65)【公表番号】特表2013-525600(P2013-525600A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】EP2011000057
(87)【国際公開番号】WO2011128004
(87)【国際公開日】20111020
【審査請求日】2013年11月15日
(31)【優先権主張番号】102010020737.3
(32)【優先日】2010年5月17日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】61/324,929
(32)【優先日】2010年4月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,トリュープバッハ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラスニッツァー,ジークフリート
(72)【発明者】
【氏名】ハークマン,イェルク
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/0110749(US,A1)
【文献】
特表2002−525431(JP,A)
【文献】
特表2002−541335(JP,A)
【文献】
特開2005−126737(JP,A)
【文献】
特開平09−025563(JP,A)
【文献】
特開昭62−218562(JP,A)
【文献】
特開2010−031371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発することが意図される表面を1つの平面に含む、蒸発されるべき材料からなる第1の本体(3)を備えるアークソース用のターゲットであって、前記表面は当該平面で中央領域を取り囲んでいる、そのようなターゲットにおいて、前記中央領域には前記第1の本体(3)から電気的に絶縁された導電性の第2の本体(7)が設けられており、前記第1の本体(3)は前記第2の本体(7)が中に沈降していて絶縁ピン(9)により取り付けられた成形部(5)を前記中央領域に含んでおり、前記第1の本体(3)と前記第2の本体(7)の間の間隔は1.5mmから3.5mmの間の1つまたは複数の値をとり、それにより前記第2の本体(7)から火花を維持するための電子が提供され得ないようになっていることを特徴とするターゲット。
【請求項2】
前記第2の本体(7)は少なくとも前記成形部(5)から突き出す表面に前記第1の本体(3)の材料に相当する材料を有していることを特徴とする、請求項1に記載のターゲット。
【請求項3】
前記第2の本体(7)は少なくとも1つの成形部(13)を含んでおり、それにより軸上に位置している前記第2の本体(7)の重心が穴の外套面の高さに位置するようになっていることを特徴とする、請求項1または2に記載のターゲット。
【請求項4】
前記第2の本体(7)は軟磁性材料で製作されていることを特徴とする、請求項1から3のうちいずれか1項に記載のターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提項に記載されている火花蒸着ソースのためのターゲット、ならびにこれに対応する火花蒸着ソース、および火花蒸着によって層を製作する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下において火花蒸着とは、そのために設けられた表面から陰極スポットが材料を蒸発させる、真空下での蒸発による物理的なコーティング方法を意味する。蒸発するべき材料が準備される装置のことを、以下においてターゲットと呼ぶ。ターゲットは、火花を点火するための点火装置ならびに火花を維持するための電圧源とともに、アークソースを構成する。以下において、陰極スポットの拡散の制限のことをアーク閉じ込めと呼ぶ。
【0003】
アークソースは主として印加される磁界により作動する。このときターゲットには、特に蒸発するべきターゲット材料の表面の上方で、すなわち少なくとも近傍で、ターゲットの外部に磁束線分布(以下、簡単に磁界と呼ぶ)を生じさせる磁気的な手段が設けられており、ターゲット表面での陰極スポットの移動速度ならびにたとえば放電電圧のような放電条件が、このような磁束線分布に影響を及ぼす。
【0004】
磁界を生成するにあたっての1つの問題は、中心部でゼロとは異なる軸対称の磁界の場合、中心部の磁束線が常に表面に対して垂直にターゲットから出ていくことにある。円形ターゲットについては
図1に、および方形ターゲットについては
図2に、その様子が模式的に示されている。磁束線がターゲット表面に対して実質的に垂直に延びる領域では、陰極スポットの移動速度が大幅に低下する。こうした現象は、中心部における陰極スポットの崩壊と呼ぶことができる。この領域では、いっそう強力な材料剥離およびいっそう強力なドロップレット形成が、数に関しても量に関しても発生する。ドロップレットとは、ターゲット表面からはじき出される実質的に液体の、すなわち蒸発していないターゲット材料の団塊であり、コーティングされるべき基材にマクロ粒子として析出する。このことは反応性のコーティングプロセスでは、しばしば団塊が反応性ガスに完全に反応できないという帰結につながる。
【0005】
このようなターゲット中心部での陰極スポットの崩壊に対しては、基本的に2通りの方策が知られている。
【0006】
第1に、磁気システムの巧みな選択によって崩壊を回避することを試みることができる。このことは、たとえば発散する磁束線によって実現される。しかしながら磁界を集束させることで、蒸発した材料をコーティングされるべき基材へいっそう強く誘導することができ、それによって材料の使用効率が高まることも知られている。発散する磁束線を適用することで、このような利点は断念せざるを得なくなる。
【0007】
第2に、垂直方向に出ていく磁束線にもかかわらず陰極スポットをターゲットの中心領域から追い出すこと、すなわち、中心領域の範囲外にあるターゲットの領域に限定し、制限する方策を講じることが知られている。これに応じて国際公開第0016373号パンフレットでは、陰極スポットの中心領域での崩壊という問題は、ターゲットの中心領域にカバーが設けられ、その材料が低い二次電子収量を有していることによって緩和される。カバー材料として、同文献ではたとえば窒化ホウ素が用いられる。しかしこの取り組みでは、カバー表面のコーティングによってこれが導電性となり、陰極スポットがカバー表面へと移動する可能性があり、そのために、生成されるべき層に望ましくない成分が生じるという問題が起こる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、従来技術の欠点を少なくとも部分的に克服することにある。このとき講じられる方策では、ジョブショップ型のコーティング事業所の生産環境での有用性が引き続き確保されることが意図される。それに応じて低いコスト、プロセス安定性、メンテナンスフリーに関わる要求事項が課される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるとこの課題は、請求項1の特徴部分に準じて解決される。従属請求項は、その他の好ましい実施形態を形成している。
【0010】
発明者らが見出したところでは、国際公開第0016373号パンフレットの1つの問題点は、コーティングが進んでいくにつれて、カバーと蒸発材料との間に接触が生じるために導電接続が生起され、この導電接続が、低い二次電子収量にもかかわらず、カバー表面での火花放電を可能にするという点にある。
【0011】
したがって、本発明では陰極スポットがターゲット表面の中心領域から非常に効率的に追い出され、それは、この領域で電子の補給がコーティングプロセス中に恒常的に妨げられることによって行われ、すなわち、電流容量の不足のために火花放電が起こり得ないことによって行われる。このことは、たとえば中心領域が恒常的に絶縁され、電気的な浮動電位に配置されることによって実現することができる。驚くべきことに、こうした電子の補給がターゲットの中心領域で持続的に妨げられれば、残りのターゲット表面と同一の材料をカバー材料として使用することさえできる。したがって、低い二次電子収量を有する材料を使用することが前提条件ではなくなる。陰極スポットがたまたま一時的にカバーの上にきたとしても、そのことは層の汚染にはつながらない。
【0012】
次に、実施例と図面を参照しながら本発明について詳しく一例をあげて説明する。図面は次のものを示している:
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
円形ターゲットの上の磁界の分布を示す図である。
【
図2】
方形ターゲットの上の磁界の分布を示す図である。
【
図3】
磁化されない態様の円板を備える本発明によるターゲットの実施形態と、模式的な磁束線の形状である。
【
図4】
磁化される態様の軟磁性材料を用いた円板を備える本発明のターゲットの実施形態と、模式的な磁束線の形状である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の実施例では、ターゲット1は
図3に示すように、固定リング11によって絶縁ピン9に保持される、電気的に絶縁されて取り付けられる円板7を収容するための成形部5を中心領域に備える、本例ではチタンであるターゲット材料3を含んでいる。絶縁ピン9としては、たとえば導電性でないセラミック材料が適している。ターゲット材料3と円板7の間の間隔は、約1.5mmから3.5mmの間である。間隔がこれよりも広いと、浮動電位にある円板7の下を陰極スポットが通る危険がある。間隔が1.5mmよりもさらに小さいと、コーティング材料の成長によって、ターゲット材料3と円板7の間で電気接触が起こる危険がある。
【0015】
ターゲットを製作するために、まず、冷却と電気接触の両方の役目をする支持プレート(図示せず)へ、ターゲット材料からなるプレートを装着するのが好ましい。その後で初めて、絶縁ピン9、円板7、および固定リング11の機械的な係止が実行される。
【0016】
多くの用途において、ターゲット1はコーティング室の側壁に配置される。このことは円形ターゲットについては、ターゲット1の対称軸が水平方向に位置することを意味している。円板7は本例では穴を含んでおり、この穴によって絶縁ピン9に差し込まれる。穴の直径は、穴に差し込まれる絶縁ピン9の部分の直径より、数10分の1ミリメートルだけ大きく選択されるのが好ましい。したがって重力に基づき、円板7は1本の線上で絶縁ピン9の上側の外套部分に載置される。固定リング11は、
図3に示すように、円板7の中央の成形部に沈降している。それによって載置線がいっそう短縮され、もっとも不都合な場合には円板の重心は、円板7が許容差に基づいて傾いたまま絶縁ピン9の外套面に支持されるところに位置する。これを防ぐために円板7は、この実施形態の本発明による発展例では、1つまたは複数の成形部13を含んでいる。この成形部13は、円板7の重心が軸上で固定リング11から離れるように移動し、そのようにして、円板7が傾動したまま支持されないように働く。
【0017】
円板7は、本実施形態では導電性のたとえば金属材料でできている。特別に好ましい実施形態では、浮動式の円板7を軟磁性材料として製作することができ、それにより、磁束線が円板の外側エッジのところで垂直に出ていくようにすることができ、すなわちターゲット表面と実質的に平行に延びるようにすることができ、その様子は
図4に右側の破線で示されている。それにより、残りのターゲット領域全体にわたって陰極スポットの迅速な移動速度が保証される。
【0018】
本明細書では、蒸発することが意図される表面を実質的に1つの平面に含む、蒸発されるべき材料からなる第1の本体3を備えるアークソース用のターゲットが開示されており、この表面は当該平面で中央領域を取り囲んでおり、中央領域には第1の本体3から電気的に絶縁された、好ましくは円板形状で構成された第2の本体7が設けられており、それにより第2の本体7から火花を維持するための電子が実質的に提供され得ないようになっていることを特徴とする。
【0019】
第1の本体3は、第2の本体7が中に沈降していて絶縁ピン9により取り付けられた成形部5を中央領域に含んでいるのが好ましく、第1の本体3と第2の本体7の間の間隔は1.5mmから3.5mmの間の1つまたは複数の値をとっており、特別の好ましい実施形態では、本体7は少なくとも成形部5から突き出す表面に、本体3の材料に相当する材料を有している。
【0020】
第2の本体7は1つまたは複数の成形部13を含むことができ、それにより、軸上に位置している第2の本体7の重心が穴の外套面の高さに位置するようになっている。
【0021】
別の特別に好ましい実施形態では、第2の本体7は軟磁性材料で製作されている。