(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プロパン-1-スルホン酸{3-[5-(4-クロロ-フェニル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-カルボニル]-2,4-ジフルオロ-フェニル}-アミド(化合物I)またはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第1の成分(A)と、EGFR阻害剤を活性剤として含んでなる第2の成分(B)を、V600変異を有するb-Rafを含む癌の治療に同時または順次使用する併用調製剤として含んでなる、医薬。
プロパン-1-スルホン酸{3-[5-(4-クロロ-フェニル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-カルボニル]-2,4-ジフルオロ-フェニル}-アミドまたはその薬学的に許容される塩が非晶質の形態または実質的に非晶質の形態である請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬。
プロパン-1-スルホン酸{3-[5-(4-クロロ-フェニル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-カルボニル]-2,4-ジフルオロ-フェニル}-アミドまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第1の成分(A)と、EGFRを標的とする抗体を活性剤として含んでなる第2の成分(B)を含んでなるキット。
前記プロパン-1-スルホン酸{3-[5-(4-クロロ-フェニル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-カルボニル]-2,4-ジフルオロ-フェニル}-アミドまたはその薬学的に許容される塩が、1日2回、850mgから1050mgの量で投与され、前記エルロチニブまたはその薬学的に許容される塩が、毎日100mgから200mgの量で投与される請求項3に記載の医薬。
前記プロパン-1-スルホン酸{3-[5-(4-クロロ-フェニル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-カルボニル]-2,4-ジフルオロフェニル}-アミドまたはその薬学的に許容される塩が、1日2回、850mgから1050mgの量で投与され、前記セツキシマブが、初回投与は400mg/m2から500mg/m2の量、次回以降の投与は200mg/m2から300mg/m2の量で毎週投与される請求項4に記載の医薬。
プロパン-1-スルホン酸{3-[5-(4-クロロ-フェニル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-カルボニル]-2,4-ジフルオロ-フェニル}-アミドまたはその薬学的に許容される塩と、EGFR阻害剤の、V600変異を有するb-Rafを含む癌の治療用医薬の製造への使用。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述したように、本明細書では、「化合物I」はプロパン-1-スルホン酸{3-[5-(4-クロロ-フェニル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-カルボニル]-2,4-ジフルオロ-フェニル}-アミドを指す。これは以下の構造を有する化合物である。
化合物Iは、V600E変異を有するb-Rafを特異的に標的とするb-Rafキナーゼ阻害剤である。
b-Rafの「V600E」変異は、本明細書では、b-Rafタンパク質の変異を指し、バリン残基はb-Rafの600位でグルタミン酸により置換される。
本明細書でHER-2やEGFR(HER-1)のようなHERファミリーの「受容体チロシンキナーゼ」を指すとき、「HER」という頭字語は、ヒト上皮受容体を指し、頭字語「EGFR」は上皮増殖因子受容体を指す。
【0015】
本明細書では、「併用調製剤」という語は、同時または順次使用する併用剤を指す。この併用剤に使用される活性剤は、例えば化合物I、または例えばイリノテカンなどのトポイソメラーゼ阻害剤、またはエルロチニブまたは薬学的に許容される塩、またはセツキシマブなどのEGFR阻害剤を、選択した活性成分の性質に応じて、例えば錠剤、カプセル剤、溶液、懸濁液など使用可能な任意の投与形態で使用できる。化合物Iまたはその薬学的に許容される塩は、例えば、経口投与されうる。エルロチニブまたはその薬学的に許容される塩は、例えば、経口投与されうる。セツキシマブは、例えば、腹腔内または静脈内投与されうる。イリノテカンHClまたはその薬学的に許容される塩は、例えば、腹腔内または静脈内投与されうる。本明細書で開示される特定の併用は、相加的より大なる(相乗的)治療効果を示す場合がある。
【0016】
本明細書では、「薬学的に許容される担体」という語は、当該担体が、適度に慎重な医師が、治療すべき疾患や状態および投与の各経路を考慮したうえで、患者への投与を避ける原因となるような特性がないことを示す。
【0017】
本明細書では、ある化合物の「薬学的に許容される塩」という語は、その化合物の生物学的効果および性質を保持し、適切な非毒性の有機酸もしくは無機酸または有機塩基もしくは無機塩基から形成される任意の一般的な塩または塩基付加塩を指す。本明細書では「治療効果がある」という語は、例えば癌性腫瘍の増殖を食い止めまたは収縮させるか、または患者の寿命を延ばすなど、患者への投与で望ましい治療効果を産むのに有効な薬物、併用剤または組成物の量を意味する。
【0018】
「細胞増殖性疾患」及び「増殖性疾患」という語は、ある程度の異常な細胞増殖に関連する疾患を指す。一実施態様では、細胞増殖性疾患は癌である。
【0019】
「癌」及び「癌性」という語は、調節されない細胞成長/細胞増殖を典型的に特徴とする、哺乳動物における生理学的状態を指すかまたは記述する。癌の例として、限定ではないが、結腸直腸癌、黒色腫および甲状腺癌が含まれる。
【0020】
「結腸直腸腫瘍」または「結腸直腸癌」という語は、結腸(盲腸から直腸までの大腸)および直腸を含む大腸の任意の腫瘍または癌を指し、例えば、腺癌や、リンパ腫や扁平上皮癌などのより罹患率の低い形態を含む。
【0021】
「細胞の成長及び増殖の阻害」は、細胞の成長及び増殖を少なくとも、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は100%減少させることを意味し、かつ細胞死を誘導することを含む。
【0022】
本明細書で使用される「実質的に減少した」または「実質的に異なる」という語句は、2つの数値間(一般的に、ある分子に関連づけられる数値と、参照/コンパレーター分子に関連づけられる数値)の差が十分に大きいことを指し、当業者であれば、その2つの数値間の差が、これらの数値で測定される生物学的特徴のコンテキスト内で統計学的に有意であると思料しよう。
【0023】
「腫瘍」という語は、悪性又は良性に関わらず、すべての新生細胞成長および増殖、およびすべての前癌性および癌性の細胞及び組織を意味する。「癌」、「癌性」、「細胞増殖性疾患」、「増殖性疾患」および「腫瘍」という語は、本明細書では相互排他的ではない。
【0024】
腫瘍の「退縮」は、治療後、前記腫瘍の体積が減少したとき生じるとされている。腫瘍が依然として存在するが(腫瘍体積>0mm
3)、その体積は治療開始時よりも減少している場合、「部分退縮」(PR)が生じているとされる。治療後、腫瘍が触診で存在しない場合、「完全退縮」(CR)が生じたとされる。
【0025】
本明細書で使用する「小分子」という語は、分子量が1000g/molよりも小さい、好ましくは700g/molよりも小さい化学的化合物である。本発明による小分子は、有機化学および/または医薬化学の当業者に知られている化学反応により得られる。小分子の例は、限定ではなく、化合物Iまたはエルロチニブとして知られる化合物、好ましくはエルロチニブ塩酸塩でありうる。
【0026】
本明細書で使用する「大分子」という語は、分子量が1000g/molよりも大きい化学的化合物を指す。好ましくは、大分子は発酵などのバイオ技術の製造法により得られる化合物である。より好ましくは、「大分子」という語は、例えば抗体、より具体的にはモノクロナール抗体などのポリペプチドを指す。本発明による大分子の一例は、セツキシマブである。
【0027】
本発明は、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第1の成分(A)と、EGFR阻害剤を活性剤として含んでなる第2の成分(B)を含んでなる医薬品に関し、前記活性剤の量は、その併用が前記増殖性疾患の治療において治療効果があるような量である。本発明はさらに、V600E変異を有するb-Rafを含む増殖性疾患、特に癌、より詳細には特に結腸直腸癌、黒色腫、および/または甲状腺癌などの固形癌の治療に同時または順次使用する併用調製剤としての上述の医薬品に関する。
【0028】
本発明はさらに、患者に上述の併用調製剤または薬学的調製剤を投与することを含んでなる増殖性疾患患者の治療法に関する。
「増殖性疾患の治療」は、腫瘍の大きさを維持または減少させること、腫瘍の(部分的または完全な)退縮を誘導すること、腫瘍増殖を阻害すること、および/または前記疾患患者の寿命を延長することを含むと理解されたい。
【0029】
本発明はまた、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第1の成分(A)と、EGFR阻害剤を活性剤として含んでなる第2の成分(B)を含んでなるキットまたは組成物に関する。キットまたは組成物は、例えば増殖性疾患の治療に使用されうる。
【0030】
本発明の一実施態様では、増殖性疾患は固形癌、より詳細には結腸直腸癌、黒色腫および/または甲状腺癌である。
本発明の別の実施態様では、増殖性疾患はV600変異を、好ましくはV600E変異を有するb-Rafを含む腫瘍である。
本発明の別の実施態様では、増殖性疾患は結腸直腸癌、黒色腫および甲状腺癌からなる群より選択され、この癌はV600変異を、好ましくはV600E変異を有するb-Rafを有する腫瘍を含む。
本発明のさらに別の実施態様では、増殖性疾患はV600変異を、好ましくはV600E変異を有するb-Rafを含む固形腫瘍である。
本発明のさらに別の実施態様では、増殖性疾患は結腸直腸癌である。
本発明のさらに別の実施態様では、増殖性疾患はV600変異を、好ましくはV600E変異を有するb-Rafを有する腫瘍を含む結腸直腸癌である。
【0031】
本発明のさらに別の実施態様では、EGFR阻害剤は小分子のEGFR阻害剤である。このような実施態様の一つでは、EGFR阻害剤はエルロチニブまたはその薬学的に許容される塩、例えばエルロチニブ塩酸塩(エルロチニブHCl)である。エルロチニブHClはまたその商品名タルセバ(登録商標)で知られており、例えば米国ではジェネンテック社(South San Francisco, U.S.A.)が販売している。
本発明のさらに別の実施態様では、EGFR阻害剤は大分子のEGFR阻害剤であり、例えばEGFRを標的とする抗体である。このような実施態様の一つでは、EGFR阻害剤はEGFRを標的とするモノクロナール抗体であり得、例えばセツキシマブである。セツキシマブはまた、その商品名アービタックス(Erbitux)(登録商標)で知られており、例えば米国ではインクローンシステムズ社(New York, U.S.A.)が販売している。
【0032】
ある実施態様では、本発明は、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第1の成分(A)と、エルロチニブまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第2の成分(B)を含んでなる、V600E変異を有するb-Rafを有する腫瘍を含む結腸直腸癌の治療のための医薬品に関し、前記活性剤の量は、その併用が前記癌の治療において治療効果があるような量である。
本発明の別の実施態様では、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第1の成分(A)と、セツキシマブを活性剤として含んでなる第2の成分(B)を含んでなる、増殖性疾患はV600E変異を含むb-Rafを有する腫瘍を含む結腸直腸癌の治療のための医薬品に関し、前記活性剤の量は、その併用が前記癌の治療において治療効果があるような量である。
この併用剤または組成物により投与される各成分の量は、それ自体が治療効果があってもよいが必要ではない。つまり、本発明は特に、併用における化合物Iまたはその薬学的に許容される塩の量、および/またはEGFR阻害剤の量が、これらの薬剤をそれぞれ単剤療法で投与したときに治療効果がある場合よりも少量でもよい併用剤を企図している。
本発明の第1の成分(A)と第2の成分(B)は、その併用量が増殖性疾患の治療に効果がある任意の量および任意の期間投与される。
【0033】
本発明のある実施態様では、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を、約200mg/日から約3000mg/日、約1000mg/日から約2500mg/日または約1700mg/日から約2100mg/日の量を投与する。さらに別の実施態様では、投与量は約1920mg/日である。
本発明の別の実施態様では、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩の前述の量は、1日単回投与または例えば(ただし必要ではないが)等量に分割し1日2回(bid)に分けて投与してよい。例えば、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩は、約100mgから約1500mg bid、約500mgから約1250mg bid、約500mgから約1250mg bid、約850mgから約1050mg bidまたは約960mg bidの量を投与してよい。
本発明の一実施態様では、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩の投与は、疾患の増悪または忍容不能な毒性の発現まで発生する。
【0034】
本発明のある実施態様では、エルロチニブまたはその薬学的に許容される塩を、約20mg/日から約500mg/日、約100mg/日から約400mg/日または約100mg/日から約200mg/日の投与量を投与する。
本発明の一実施態様では、エルロチニブまたはその薬学的に許容される塩の投与は、疾患の増悪または忍容不能な毒性の発現まで発生する。
【0035】
本発明のさらに別の実施態様では、セツキシマブを、約50mg/m
2/週から約700mg/m
2/週、約100mg/m
2/週から約600mg/m
2/週または約200mg/m
2/週から約500mg/m
2/週の投与量を投与する。
さらに別の実施態様では、セツキシマブを、初回投与量は約400mg/m
2から約500mg/m
2、その後の各投与量は約200mg/m
2から約300mg/m
2で毎週投与する。
さらに別の実施態様では、セツキシマブを、初回投与量は約450mg/m
2、その後の各投与量は約250mg/m
2で毎週投与する。
本発明のさらに別の実施態様では、セツキシマブの投与は、疾患の増悪または忍容不能な毒性の発現まで発生する。
【0036】
したがって、別の実施態様では、本発明は、増殖性疾患の治療に同時または順次使用する併用調製剤として、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第1の成分(A)と、エルロチニブまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第2の成分(B)を含んでなる医薬品を提供し、ここで(A)は約200mg/日から約3000mg/日、約1000mg/日から約2500mg/日、約1700mg/日から約2100mg/日または約1920mg/日の量投与され、(B)は約20mg/日から約500mg/日、約100mg/日から約400mg/日または約100mg/日から約200mg/日の量投与される。
この実施態様では、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩は1日2回投与してよい。このようにして治療される増殖性疾患は、V600E変異を有するb-Rafを含む固形腫瘍、より詳細には結腸直腸癌、黒色腫および甲状腺癌である。より詳細には、増殖性疾患は、V600E変異を有するb-Rafを有する腫瘍を含む結腸直腸癌である。
また、本発明の医薬品のこの実施態様は、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を1日2回約850mgから1日2回約1050mgまたは1日2回約960mgの投与量を経口投与することと、エルロチニブまたはその薬学的に許容される塩を約100mg/日から約400mg/日または約100mg/日から約200mg/日の投与量を経口投与することを含んでよい。例えば、いずれの薬剤も疾患の増悪または忍容不能な毒性の発現まで投与してよい。
【0037】
本発明はまた、増殖性疾患の治療に同時または順次使用する併用調製剤として、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第1の成分(A)と、セツキシマブを活性剤として含んでなる第2の成分(B)を含んでなる医薬品を提供し、ここで(A)は約200mg/日から約3000mg/日、約1000mg/日から約2500mg/日、約1700mg/日から約2100mg/日または約1920mg/日の量で投与され、(B)は約50mg/m
2/週から約700mg/m
2/週、約100mg/m
2/週から約600mg/m
2/週または約200mg/m
2/週から約500mg/m
2/週の量で投与される。
この実施態様では、このようにして治療する増殖性疾患はV600E変異を有するb-Rafを含む固形腫瘍、より詳細には結腸直腸癌、黒色腫および甲状腺癌である。より詳細には、増殖性疾患はV600E変異を有するb-Rafを有する腫瘍を含む結腸直腸癌である。
また、本発明の医薬品のこの実施態様は、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を1日2回約850mgから1日2回約1050mgまたは1日2回約960mgの投与量を経口投与することと、セツキシマブを約200mg/m
2/wkから約500mg/m
2/wkの投与量を静脈内投与することを含んでよい。一実施態様では、セツキシマブは最初120分の静脈注射として400mg/m
2の量で投与され、1週間後からは250mg/m
2の量を一週間に一度、60分かけて静脈内注射で投与される。例えば、いずれの薬剤も疾患の増悪または忍容不能な毒性の発現まで投与されうる。
【0038】
本発明はさらに化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第1の成分(A)と、エルロチニブまたはその薬学的に許容される塩またはプロドラッグを活性剤として含んでなる第2の成分(B)を含んでなるキットまたは組成物を提供する。
本発明はまた化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第1の成分(A)と、セツキシマブを活性剤として含んでなる第2の成分(B)を含んでなるキットまたは組成物を提供する。
本発明の別の態様では、上述の成分(A)と成分(B)を含んでなる医薬品は、放射線療法との組み合わせおよび/または別の活性剤投与との組み合わせで投与する。
【0039】
このように、本発明のある実施態様では、V600変異を、好ましくはV600E変異を有するb-Rafを含む固形腫瘍などの増殖性疾患の治療に同時または順次使用する併用調製剤として、上述の成分(A)および成分(B)、およびトポイソメラーゼ阻害剤を活性剤として含んでなる第3の成分(C)を含んでなる医薬品を提供する。前述したように、この併用剤で投与される各成分の量は、それ自体が治療効果があってもよいが必要ではなく、本発明は、これらの薬剤をそれぞれ単剤療法で投与したときに治療効果がある場合よりも少量でよい併用剤を企図している。
本発明の一実施態様では、トポイソメラーゼ阻害剤は、I型トポイソメラーゼの阻害剤である。本発明の一実施態様では、トポイソメラーゼ阻害剤は、イリノテカンまたはその薬学的に許容される塩、例えばイリノテカン塩酸塩(イリノテカンHCl)である。イリノテカンHClはカンプトサール(Camptosar)(登録商標)としてファイザー社(New York, U.S.A.)が販売している。イリノテカンまたはその薬学的に許容される塩は、例えば、腹腔内または静脈内投与してよい。
本発明の一実施態様では、イリノテカンまたはその薬学的に許容される塩を約1から約400mg/m
2/週または約から約250mg/m
2/週の量を投与する。別の実施態様では、イリノテカンまたはその薬学的に許容される塩を約から約200mg/m
2/週の投与量を投与する。さらに別の実施態様では、イリノテカンまたはその薬学的に許容される塩を約125mg/m
2/週の投与量を投与する。
さらに別の実施態様では、イリノテカンまたはその薬学的に許容される塩を、毎週約75mg/m
2から約175mg/m
2を6週サイクルで、例えば最初の4週間は毎週約125mg/m
2を、例えば1日目、8日目、15日目および22日目に投与する。さらに別の実施態様では、イリノテカンを、毎週約130から約230mg/m
2を6週サイクルで、例えば1週目から2週おきに、約180mg/m
2を、例えば1日目、15日目および29日目に投与する。さらに別の実施態様では、イリノテカンを3週間に一度、約300から約400mg/m
2を、例えば約350mg/m
2投与する。さらに別の実施態様では、イリノテカンを2週間に一度、約130から約230mg/m
2を、例えば約180mg/m
2投与する。例えば、約90分かけて注入により投与してよい。治療は疾患の増悪または忍容不能な毒性の発現まで行ってよい。
成分(A)、(B)または(C)の各投与レベルは、医師により、患者の必要性および患者の治療への反応に応じて、本明細書に記載されるよりも低レベルまたは高レベルに調整してよい。投与量は、患者の必要に応じて医師により決定された任意の投与スケジュールに応じて投与してよい。例えば、各成分の投与量は、単回または数日に分けて、または隔日などのスケジュールで投与してよい。
【0040】
本発明はまた、増殖性疾患の治療に同時または順次使用する併用調製剤として、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第1の成分(A)と、セツキシマブを活性剤として含んでなる第2の成分(B)と、イリノテカンまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第3の成分(C)を含んでなる医薬品を提供し、(A)を約200mg/日から約3000mg/日、約1000mg/日から約2500mg/日、約1700mg/日から約2100mg/日または約1920mg/日の量を投与し、(B)を約50mg/m
2/週から約700mg/m
2/週、約100mg/m
2/週から約600mg/m
2/週または約200mg/m
2/週から約500mg/m
2/週の量を投与し、(C)を約1から約250mg/m
2/週、約50から約200mg/m
2/週または約125mg/m
2/週の量を投与する。
この実施態様では、このようにして治療する増殖性疾患はV600E変異を有するb-Rafを含む固形腫瘍、より詳細には結腸直腸癌、黒色腫および甲状腺癌である。より詳細には、増殖性疾患はV600E変異を有するb-Rafを有する腫瘍を含む結腸直腸癌である。
また、この実施態様では、本発明の医薬品は、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を1日2回約850mgから1日2回約1050mgまたは1日2回約960mgの投与量を経口投与することと、セツキシマブを約200mg/m
2/週から約500mg/m
2/週の投与量を静脈内投与することと、イリノテカンを約50mg/m
2/週から約200mg/m
2/週または約125mg/m
2/週の投与量を静脈内投与することを含んでなる。例えば、いずれの薬剤も疾患の増悪または忍容不能な毒性の発現まで投与してよい。
【0041】
本発明はさらに、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第1の成分(A)と、セツキシマブを活性剤として含んでなる第2の成分(B)と、イリノテカンまたはその薬学的に許容される塩を活性剤として含んでなる第3の成分(C)を含んでなるキットまたは組成物を提供する。
【0042】
化合物Iは自然の状態では結晶の形態で存在する。しかし、この化合物の非晶質の形態は結晶の形態と比べて水溶性が高いので溶出速度も速く、したがって結晶の形態と比べてバイオアベイラビリティーも高い。したがって、この化合物の非晶質の形態が好ましい。したがって、本発明の方法およびキットの好ましい実施態様では、化合物Iは実質的に非晶質の形態であり、より好ましくは非晶質の形態である。本明細書では、「実質的に非晶質の」物質という語は、結晶化度が約10%以下の物質を指し、「非晶質の」物質は結晶化度が約2%以下の物質を指す。
本発明の一実施態様では、化合物Iはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMC-AS)で形成される固形の分子複合体に含まれる。本明細書では、「固形の分子複合体」という語は化合物IがHPMC-ASにより形成されたマトリックス内にランダムに分布した(「分子的に分散した」)組成物を意味する。好ましくは化合物IとHPMC-ASのこのような構造は一相系を形成し、化合物Iの結晶形態に関連する結晶シグナルが実質的にない、またはないX線粉末回折パターンにより特徴づけられる。ある実施態様では、化合物Iは再分割の最終段階のポリマー中に存在する。ある実施態様では、化合物IはHPMC-ASマトリックス内で分子的に分散して、その非晶質の形態に固定化される。「固定化される」とは、化合物Iの分子がHPMC-ASの分子と相互作用して前述のマトリックスに保持され、可動性がないので結晶核形成が阻止されることを意味する。いくつかの実施態様では、ポリマーは、化合物Iの分子間の水素結合、または2つ若しくはそれ以上の分子間の弱い分散力を阻止できる。
いくつかの実施態様では、固形の分子複合体中の化合物IのHPMC-ASに対する比率は、重量基準量で約1:9から約5:5である。一実施態様では、前記比率は約2:8から約4:6である。別の実施態様では、前記比率は約3:7である。
【0043】
本発明の方法およびキットのある実施態様では、第1の成分は、コロイド状二酸化ケイ素と混合された前述の化合物IとHPMC-ASの固形の分子複合体を含んでなる。ある実施態様では、混合は少なくとも二酸化ケイ素0.5重量%である。本発明の一実施態様では、混合は約97%の複合体と約3%の二酸化ケイ素である。
別の実施態様では、第1の成分は、上述のように二酸化ケイ素との混合または非混合の、前述の固形の分子複合体を含む組成物と、薬学的に許容される担体を含む。ある実施態様では、前述の複合体またはこれを含む混合物を担体に懸濁する。担体の一例は、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)である。一実施態様では、ビヒクルは約2重量%のHPCを含む。
各成分はまた、保存剤、溶解剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香味剤、浸透圧を変えるための塩、バッファー、被覆材および酸化防止剤などの添加剤を含んでよい。
【0044】
ある実施態様では、第1の成分は、コロイド状二酸化ケイ素、ヒドロキシルプロピルセルロース、クロスポビドン(崩壊剤)、ステアリン酸マグネシウム(錠剤やカプセル化の工程で使用されうる潤滑剤)および/またはクロスカルメロースナトリウム(崩壊剤)と混合された、化合物IとHPMC-ASの固形の分子複合体を含んでよい。
一実施態様では、第1の成分は、コロイド状二酸化ケイ素、ヒドロキシルプロピルセルロース、ステアリン酸マグネシウムおよびクロスカルメロースナトリウムと混合された、化合物IとHPMC-ASの固形の分子複合体を含む硬質ゼラチンカプセルである。
一実施態様では、第1の成分は、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を含む錠剤である。一実施態様では、錠剤は、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩とHPMC-ASの固形の分子複合体を含む。例えば、複合体は、コロイド状二酸化ケイ素、ヒドロキシルプロピルセルロース、ステアリン酸マグネシウムおよびクロスカルメロースナトリウムと混合してよい。例えば、錠剤は、フィルム状コーティングでコーティングしてよい。例えば、フィルム状コーティングは、ポリビニルアルコール、二酸化チタン、ポリスチレングリコール3350、タルクおよび赤色酸化鉄を含んでよい。
【0045】
ある実施態様では、第2の成分は溶液中にセツキシマブを含んでよい。一実施態様では、溶液は2mg/mlセツキシマブ溶液である。
ある実施態様では、第2の成分は、エルロチニブまたは例えばエルロチニブ塩酸塩などその薬学的に許容される塩を含む錠剤を含んでよい。
【0046】
ある実施態様では、第3の成分は、イリノテカンまたは例えばイリノテカン塩酸塩などその薬学的に許容される塩を含む溶液を含んでよい。一実施態様では、溶液は約5%のブドウ糖溶液である。一実施態様では、溶液の各mlは、イリノテカン塩酸塩約20mg、ソルビトール約45mgおよび乳酸約0.9mgを含む。一実施態様では、溶液は約3.0から約3.8、例えば約3.5のpHを有する。
【0047】
加えて、本発明は、すべてV600E変異を有するb-Rafを含む増殖性疾患、特に固形腫瘍、より詳細には結腸直腸癌、黒色腫および/または甲状腺癌などの治療用の化合物Iまたはその薬学的に許容される塩とEGFR阻害剤、また、随意トポイソメラーゼ阻害剤との組み合わせの使用を提供する。
【0048】
本発明はさらに、すべてV600E変異を有するb-Rafを含む増殖性疾患、特に固形腫瘍、より詳細には結腸直腸癌、黒色腫および/または甲状腺癌などの治療用薬物を調整するための、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩とEGFR阻害剤、また、随意トポイソメラーゼ阻害剤との組み合わせの使用を提供する。
【0049】
本発明はさらに、すべてV600E変異を有するb-Rafを含む増殖性疾患、特に固形腫瘍、より詳細には結腸直腸癌、黒色腫および/または甲状腺癌などの患者の治療法を提供し、前記患者に、本明細書で前述した用量または用量スキームとともに、(A)と(B)または(A)と(B)と(C)の任意の組み合わせを投与することを含む。
【0050】
出願人らは、ヒト結腸直腸癌の異種移植片を含むマウスを使用して研究を行った。出願人らは、化合物Iを75mg/kg bidとエルロチニブ塩酸塩を67mg/kg qdの併用により、p<0.05での相関的な単剤療法の結果およびエルロチニブ塩酸塩を100mg/kg qdの単剤療法の結果よりも有意によい腫瘍増殖阻害(TGI)と延長寿命(ILS)の結果を得られることを発見した。加えて、併用療法を受けた10匹のマウスのうち9匹に部分退縮が認められたが、単剤療法群はいずれも(部分的または完全)退縮は観察されなかった。これらの研究は、化合物Iとエルロチニブ塩酸塩を組み合わせて患者を治療することは、これらの薬剤の単剤療法よりも優れていることを示している。これらの研究はさらに、2つの薬剤を組み合わせることで、少なくともエルロチニブ塩酸塩の投与量を減少させても同等またはよりよい結果を得られることを示している。
【0051】
出願人らはまた、化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkの併用により、p<0.05での相関的な単剤療法の結果および化合物Iを75mg/kg bidの単剤療法の結果よりも有意によい腫瘍増殖阻害(TGI)と延長寿命(ILS)の結果が得られることを発見した。出願人らはまた、化合物Iを75mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkの併用により、p<0.05での相関的な単剤療法の結果および化合物Iを25mg/kg bidの単剤療法の結果よりも有意によいTGIとILSの結果が得られることを発見した。加えて、化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkの併用療法を受けた9匹のマウスのうち7匹に部分退縮が認められ、化合物Iを75mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkの併用療法を受けた10匹のマウスのうち10匹が退縮を示し、このうち7匹は部分退縮であり、3匹は完全退縮であった。これに対し、いずれの単剤療法群にも(部分または完全)退縮は観察されなかった。
【0052】
上記に加えて、出願人らは、化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkとイリノテカン塩酸塩を40mg/kg q4d×5の併用により、p<0.05での相関的な単剤療法の結果および化合物Iを25mg/kg bidとイリノテカン塩酸塩を40mg/kg q4d×5の併用療法および化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkの併用療法の結果よりも有意によい腫瘍増殖阻害(TGI)と延長寿命(ILS)の結果が得られることを発見した。この研究では、化合物Iを25mg/kg bidとイリノテカン塩酸塩を40mg/kg q4d×5の併用療法では10中4の部分退縮が得られ、完全退縮はなく、化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkの併用療法では10中5の部分退縮が得られ、完全退縮はなかった。セツキシマブを40mg/kg 2×/wkとイリノテカンを40mg/kg q4d×5の併用療法および相関的な化合物I、セツキシマブおよびイリノテカン塩酸塩の単剤療法では、退縮は得られなかった。一方、化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkとイリノテカン塩酸塩を40mg/kg q4d×5の治療では、10中10の退縮が得られ、このうち9は部分退縮で1は完全退縮であった。
【0053】
これらの研究は、化合物Iとセツキシマブを組み合わせて患者を治療することは、これらの薬剤の単剤療法よりも優れていることを示している。これらの研究はさらに、2つの薬剤を組み合わせることで、少なくとも化合物Iの投与量を減少させても同等またはよりよい結果を得られることを示している。加えて、これらの研究は、化合物I、セツキシマブおよびイリノテカン塩酸塩を組み合わせて患者の治療を行うことで、さらに優れた結果が得られることを示している。
【実施例】
【0054】
本発明は以下の実施例を参照することにより、さらに十分に理解されるであろう。しかし、それらは本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
本明細書で使用される略語は以下のとおりである。
q.s. 必要量だけ
× 回数
po 経口
ip 腹腔内
bid 1日2回
wk 週
qd 1日1回
q4d×5 4日おきに合計5回投与
BWL 体重減少
【0055】
以下の実施例では、体重減少は式:((W−W
0)/W
0)×100を使用して群平均体重のパーセント変化として図示した。Wは特定の日の治療群の平均体重を表し、W
0は同じ治療群の治療開始時の平均体重を表す。最高体重減少も上記の式を使用して表し、特定の群の実験全体の間任意の時に観察された最高体重減少を示した。
【0056】
有効性データを腫瘍平均体積±平均値標準誤差(SEM)として図示した。加えて、治療群の腫瘍体積は式100×((T−T
0)/(C−C
0))を使用して対照群の腫瘍体積のパーセント(%T/C)として示した。Tは実験の間特定の日の治療群の腫瘍平均体積を表し、T
0は同じ治療群の治療初日の腫瘍平均体積を表し、Cは実験の間特定の日の対照群の腫瘍平均体積を表し、C
0は同じ治療群の治療初日の腫瘍平均体積を表した。
【0057】
腫瘍体積(立方ミリメートル)は楕円体の式:(D×(d
2))/2を使用して計算した。Dは腫瘍の大径を表し、dは小径を表す。
また、腫瘍の退縮および/または腫瘍体積のパーセント変化は式:((T−T
0)/T
0)×100を使用して計算した。Tは特定の日の治療群の腫瘍平均体積を表し、T
0は同じ治療群の治療開始時の腫瘍平均体積を表す。
【0058】
統計分析は、順位和検定、一元配置分散分析および事後Bonferroni t検定によって決定した(SigmaStat, version 2.0, Jandel Scientific社, San Francisco, CA, USA)。群間の差は、確率値(p)が≦0.05のとき有意とした。
【0059】
生存評価では、延長寿命(ILS)のパーセントは100×[(治療群の生存日の中央値−対照群の生存日の中央値)/対照群の生存日の中央値]として計算した。生存中間値はカプランマイヤー生存分析法を使用して決定した。治療群の生存をビヒクル群と統計学的に比較し、ログランク検定を使用して群間の生存比較を行った(グラフパッドプリズム、La Jolla, CA, USA)。群間の差は、確率値(p)が≦0.05のとき有意とした。
【0060】
実施例1
この実施例は化合物Iを含む懸濁液の形成について記述する。
化合物Iとヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMC-AS)の固形の分子複合体を形成した。
化合物IとHPMC-ASをおよそ3:7の比率でジメチルアセトアミド(DMA)に溶解させた。次いで、得られた溶液を撹拌しながら非常に冷たい希釈塩酸に加えると、化合物IとHPMC-ASが固形の分子複合体として共沈し、化合物Iはナノ粒子サイズ範囲で存在した。DMAの酸に対する比率は、1:5から1:10の範囲であった。
次いで、評価に先立ち、共沈物を水で洗ってDMAを除去し、濾過し、<2%水分含有量まで乾燥し、#30メッシュスクリーンにかけた。得られた固形の分子複合体は化合物Iが30重量%、HPMCが70重量%であった。
次いで複合体をコロイド状二酸化ケイ素(アエロジル(登録商標)200としてEvonik Industries AG, Essen, Germanyから入手可能)と混合し、100gの混合当たり97gの複合体と3gのコロイド状二酸化ケイ素となるようにした。
次いで2%のヒドロキシプロピルセルロース(クルーセル(登録商標)LFとしてAqualon社, Wilmington, Delaware, USAから入手可能)と、pH調整のためpH4になる適量の1N HClとを含む水性ビヒクルを調製した。
ビヒクル23.2mlを室温に平衡化し、前述の混合物773.2mgにゆっくり移した。次いで、得られた調製物を均質の懸濁液が得られるまでゆっくり撹拌した。得られた懸濁液は化合物Iを9.375mg/ml含有した。懸濁液は2〜8℃で遮光保存した。
【0061】
実施例2
マウスにヒトHT-29細胞の異種移植片を移植した。細胞株を使用したマウスと移植を以下に記述する。
雌の無胸腺Crl:NU-Foxn1nuマウスを有効性試験に使用した(Charles River, Wilmington, MA, USA)。マウスは10〜12週齢、体重23〜25グラムであった。マウスの健康評価は、観察および同ラックのセンチネル動物から採取した血液サンプルの分析により毎日行った。すべての動物に順化のため、および輸送関連のストレスからの回復のため一週間与えた。オートクレーブ処理した水と照射食(5058-ms Pico Lab マウスチャウ、Purina Mills社 Richmond, IN, USA)を適宜与え、動物を12時間の明暗サイクルに置いた。ケージ、寝床および水ボトルは使用前にオートクレーブ処理し、毎週取り替えた。全ての動物実験は、「実験動物の管理及び使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)」、地方条例および当社のAAALAC認可設備のRoche Animal Care and Use Committeeが承認したプロトコールに準拠して実施した。
HT-29細胞(American Type Culture Collection, Rockville, MD)を10%のウシ胎児血清(FBS)と1%の 200nMのL-グルタミンを添加したMcCoy-5培地で成長させ、スケールアップ、ハーベストを行い、各マウスが、カルシウムとマグネシウムを含まない0.2mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)中3×10
6個の細胞を受けるように調整した。細胞は各マウスの右側腹部に皮下移植した。
【0062】
実施例3
この実施例はエルロチニブ塩酸塩の懸濁液の調製について記述する。
およそ950mlの水にツイーン80を1グラム加えた。高速撹拌しながら3グラムのナトリウムカルボキシメチルセルロースを溶液に加えた。ナトリウムカルボキシメチルセルロースが完全に溶解するまで撹拌を続けた。次いで、水を全体で1リットルになるまで加えた。次いで、12.5グラムのエルロチニブ塩酸塩(ジェネンテック社からタルセバ(登録商標)として入手可能)を溶液に懸濁させ、溶解機にかけた。次いで、溶液を窒素で脱気した。
最終的な懸濁液の成分は以下の通りである。
成分 量
エルロチニブ塩酸塩 12.5g
ナトリウムカルボキシメチルセルロース 3g
ツイーン80 1g
注射用水 全体で1リットル
こうして12.5mg/mlエルロチニブ塩酸塩溶液を得た。溶液は2〜8℃で保存した。
【0063】
実施例4
実施例1で記述したように化合物Iを含む懸濁液を生成した。
12.5mg/mlエルロチニブ塩酸塩溶液を実施例3で記述したように作製した。さらに、エルロチニブ塩酸塩を12.5gではなく8.30g使用したことを除き実施例3と同様の方法で、8.30mg/mlの溶液を作製した。
実施例2に記述の方法で生産したHT-29異種移植片を含むマウスを腫瘍体積に応じて各10匹の群にランダムに振り分け、すべての群において開始時の腫瘍平均体積が同様であるようにした。この研究の開始時腫瘍平均体積は、およそ136mm
3であった。
【0064】
マウスの治療は細胞移植後12日目に開始し、細胞移植後29日目に終了した。各群は以下のとおり異なる治療を受けた。
(1)化合物Iビヒクルbid poとエルロチニブ塩酸塩ビヒクルqd poを受けるマウス;
(2)化合物Iを75mg/kg bid poで受けるマウス;
(3)エルロチニブ塩酸塩を67mg/kg qd poで受けるマウス;
(4)エルロチニブ塩酸塩を100mg/kg qd poで受けるマウス;
(5)化合物Iを75mg/kg bid poとエルロチニブ塩酸塩を67mg/kg qd poで受けるマウス。
【0065】
化合物Iの懸濁液とそれに対するビヒクルを滅菌1ccシリンジと18-ゲージの給餌針(0.2ml/動物)を使用して1日2回投与した。エルロチニブ塩酸塩の溶液とそれに対するビヒクルを滅菌1ccシリンジと18-ゲージの給餌針(0.2ml/動物)を使用して1日1回、移植後12日目から29日目まで投与した。12.5mg/ml溶液をエルロチニブ塩酸塩100mg/kg群に使用し、8.30mg/ml溶液をエルロチニブ塩酸塩67mg/kg qd群に使用した。用量はすべてマウスの平均体重25グラムを基にした。
腫瘍の測定は週1回または2回行った。すべての動物を実験の間個別にフォローした。
【0066】
毒性
一般に、体重変化の測定や個々の動物の全体的な観察で評価し記述したこの研究のどの投与群にも毒性の主な兆候は認められなかった。エルロチニブ塩酸塩100mg/kg qdの併用での耐容性は従来良好ではないので(Higginsら, Anticancer Drugs, 15:503-12 (2004))、耐容性を確保するため併用アームに67mg/kg qdを使用した。エルロチニブ塩酸塩100mg/kg qdを比較のため単剤療法アームとして含めた。しかし、化合物Iは耐容性が非常に良好で、エルロチニブ塩酸塩との併用でも75mg/kg bidで投与した。エルロチニブ塩酸塩で治療したマウスには、継続治療下にあっても、EFGR阻害剤関連の自己制限的性質の皮疹が一般にみられた。表1および
図1を参照されたい。
【0067】
腫瘍増殖阻害(TGI)
化合物Iの単剤療法を75mg/kg bidで受けた群は91%のTGIを示したが、エルロチニブ塩酸塩を100mg/kg qdで受けた群は51%のTGIを示し、エルロチニブ塩酸塩を67mg/kg qdで受けた群は38%のTGIを示した。前述のどの群にも腫瘍退縮は観察されなかった。化合物Iを75mg/kg bidとエルロチニブ塩酸塩を67mg/kg qdの併用療法を受けた群は、100%を上回るTGIを示し、10のうち9は部分退縮(PR)であった。表2および
図2を参照されたい。
【0068】
生存評価
化合物Iを75mg/kgの単剤療法を受けた群の延長寿命(ILS)は100%を示した。エルロチニブ塩酸塩を100mg/kg qdの単剤療法を受けた群は38%のILSを示した。エルロチニブ塩酸塩を67mg/kg qdの単剤療法を受けた群は35%のILSを示した。化合物Iを75mg/kg bidとエルロチニブ塩酸塩を67mg/kg qdの併用療法を受けた群は142%のILSを示した。表4および
図3を参照されたい。
【0069】
統計学的分析
化合物Iを75mg/kg bidとエルロチニブ塩酸塩の67mg/kg qdの併用療法のTGI(%)はすべての単剤療法アームよりも統計学的に優れていた(p<0.05)。化合物Iを75mg/kg bidとエルロチニブ塩酸塩の67mg/kg qdの併用療法のILS(%)もまた、実験したすべての単剤療法アームよりも統計学的に優れていた(比較はすべてp<0.05)。表5を参照されたい。
【0070】
実施例5
ビヒクル19.4mlと混合644mgを使用して9.375mg/ml懸濁液20mlを作製し、ビヒクル19.8mlと混合214.8mgを使用して3.125mg/ml懸濁液20mlを作製したことを除き、実施例1と同様の方法で化合物Iを含む2つの懸濁液を作製した。
セツキシマブはインクローンシステムズ社(アービタックス(登録商標))から2mg/ml溶液として購入した。
実施例2に記述の方法で生産したHT-29異種移植片を含むマウスを腫瘍体積に応じて各10匹の群にランダムに振り分け、すべての群において開始時の腫瘍平均体積が同様であるようにした。この研究の開始時腫瘍平均体積は、およそ135mm
3であった。
【0071】
治療は細胞移植後12日目に開始し、細胞移植後34日目に終了した。各群は以下のとおり異なる治療を受けた。
(1)化合物Iビヒクルbid poとセツキシマブビヒクル2×/wk ipを受けるマウス;
(2)セツキシマブを40mg/kg 2×/wk ipで受けるマウス;
(3)化合物Iを25mg/kg bid poで受けるマウス;
(4)化合物Iを75mg/kg bid poで受けるマウス;
(5)化合物Iを25mg/kg bid poとセツキシマブを40mg/kg 2×/wk ipで受けるマウス;
(6)化合物Iを75mg/kg bid poとセツキシマブを40mg/kg 2×/wk ipで受けるマウス。
【0072】
化合物Iの懸濁液とそれに対するビヒクルを滅菌1ccシリンジと18-ゲージの給餌針(0.2ml/動物)を使用して1日2回投与した。9.375mg/ml懸濁液を化合物I75mg/kg bid群に使用し、3.125mg/ml懸濁液を化合物I25mg/kg bid群に使用した。セツキシマブとそれに対するビヒクルを滅菌1ccシリンジと26-ゲージの給餌針(0.5ml/動物)を使用して週2回、月曜日/木曜日または火曜日/金曜日のスケジュールで腹腔内投与した。用量はすべてマウスの平均体重25グラムを基にした。
腫瘍の測定は週1回または2回行った。すべての動物を実験の間個別にフォローした。
【0073】
毒性
一般に、体重変化の測定や個々の動物の全体的な観察で評価し記述したこの研究のどの投与群にも毒性の主な兆候は認められなかった。表6および
図7を参照されたい。セツキシマブで治療したマウスには、継続治療下にあっても、EFGR阻害剤関連の自己制限的性質の皮疹が一般にみられた。皮疹の後遺症として細菌感染したらしきマウス1匹は進行性の体重減少>20%となったため、安楽死が必要であった。このマウスは全体的な腫瘍増殖阻害および生存の分析から除外した。
【0074】
腫瘍増殖阻害(TGI)
化合物Iを25mg/kg bidの単剤療法を受けた群は74%のTGIを示し、化合物Iを75mg/kg bidの単剤療法を受けた群は93%のTGIを示した。セツキシマブを40mg/kg 2×/wk受けた群のTGIは51%であった。前述のどの群にも腫瘍退縮は観察されなかった。しかし、いずれの併用療法群も>100%のTGIを示した。化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wk受けた群は、10のうち7が部分退縮(PR)を示したが、完全退縮(CR)はなかった。化合物Iを75mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wk受けた群は、10のうち7がPRで、10のうち3がCRを示した。
表7および表8ならびに
図5を参照されたい。
【0075】
生存評価
化合物Iを25mg/kg bidの単剤療法を受けた群は44%のILSを示し、化合物Iを75mg/kg bidの単剤療法を受けた群は75%のILSを示した。セツキシマブを40mg/kg 2×/wk受けた群のILSは16%であった。化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wk受けた群は97%のILSを示した。化合物Iを75mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wk受けた群は122%のILSを示した。表9および
図6を参照されたい。
【0076】
統計学的分析
化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkの併用療法と化合物Iを75mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkの併用療法のTGI(%)はいずれも単剤療法アームのそれよりも統計学的に優れていた(p<0.05)。両方の単剤療法で得られたILS(%)もまた、実験したすべての単剤療法アームよりも統計学的に優れていた(比較はすべてp<0.05)。表10を参照されたい。
【0077】
実施例6
ビヒクル39.6mlと混合429.6mgを使用して3.125mg/ml懸濁液を40ml作製したことを除き、実施例1と同様の方法で化合物Iを含む懸濁液を作製した。
セツキシマブはインクローンシステムズ社(アービタックス(登録商標))から2mg/ml溶液として購入した。イリノテカンHCl塩酸塩はファイザー社(カンプトサール(登録商標)として入手可能)から20mg/ml滅菌原液として購入し、必要に応じて滅菌食塩水で2mg/mlまで希釈した。
実施例2に記述の方法で生産したHT-29異種移植片を含むマウスを腫瘍体積に応じて各10匹の群にランダムに振り分け、すべての群において開始時の腫瘍平均体積が同様であるようにした。この研究の開始時腫瘍平均体積は、およそ135mm
3であった。
【0078】
治療は細胞移植後11日目に開始し、細胞移植後32日目に終了した。各群は以下のとおり異なる治療を受けた。
(1)化合物Iビヒクルbid poとセツキシマブビヒクル2×/wk ipとイリノテカンHClビヒクル q4d ×5 ipで受けるマウス;
(2)イリノテカンHClを40mg/kg q4d ×5 ipで受けるマウス;
(3)化合物Iを25mg/kg bid poで受けるマウス;
(4)セツキシマブを40mg/kg 2×/wk ipで受けるマウス;
(5)化合物Iを25mg/kg bid poとイリノテカンHClを40mg/kg q4d ×5 ipで受けるマウス;
(6)セツキシマブを40mg/kg 2×/wk ipとイリノテカンHClを40mg/kg q4d ×5 ipで受けるマウス;
(7)化合物Iを25mg/kg bid poとセツキシマブを40mg/kg 2×/wk ipで受けるマウス;
(8)化合物Iを25mg/kg bid poとセツキシマブを40mg/kg 2×/wk ipとイリノテカンHClを40mg/kg q4d ×5 ipで受けるマウス。
化合物Iの懸濁液とそれに対するビヒクルを滅菌1ccシリンジと18-ゲージの給餌針(0.2ml/動物)を使用して1日2回投与した。セツキシマブとそれに対するビヒクルを滅菌1ccシリンジと26-ゲージの給餌針(0.2ml/動物)を使用して週2回、月曜日/木曜日または火曜日/金曜日のスケジュールで腹腔内投与した。イリノテカンHClとそれに対するビヒクルを滅菌1ccシリンジと26-ゲージの給餌針(0.2ml/動物)を使用してq4d ×5のスケジュールで腹腔内投与した。用量はすべてマウスの平均体重25グラムを基にした。
腫瘍の測定は週1回または2回行った。すべての動物を実験の間個別にフォローした。
【0079】
毒性
一般に、体重変化の測定や個々の動物の全体的な観察で評価し記述したこの研究のどの投与群にも毒性の主な兆候は認められなかった。表11および
図7を参照されたい。セツキシマブで治療したマウスには、継続治療下にあっても、EFGR阻害剤関連の自己制限的性質の皮疹が一般にみられた。
【0080】
腫瘍増殖阻害(TGI)
化合物Iを25mg/kg bidの単剤療法を受けた群は76%のTGIを示した。セツキシマブを40mg/kg 2×/wkの単剤療法を受けた群は58%のTGIを示した。イリノテカンHClを40mg/kg q4d×5の単剤療法を受けた群は59%のTGIを示した。化合物Iを25mg/kg bidとイリノテカンHClを40mg/kg q4d×5で受けた群は98%のTGIを示した。セツキシマブを40mg/kg 2×/wkとイリノテカンHClを40mg/kg q4d×5で受けた群は92%のTGIを示した。化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkで受けた群は>100%のTGIを示した。化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkとイリノテカンHClを40mg/kg q4d×5で受けた群は>100%のTGIを示した。どの単剤療法群にも腫瘍退縮は観察されなかった。化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkで受けた群は、10のうち5が部分退縮(PR)を示したが、完全退縮(CR)はなかった。化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkとイリノテカンHClを40mg/kg q4d×5で受けた群は、10のうち9がPRで、10のうち1がCRを示した。
表12および表13ならびに
図8を参照されたい。
【0081】
生存評価
化合物Iを25mg/kg bidの単剤療法を受けた群は80%のILSを示した。セツキシマブを40mg/kg 2×/wkの単剤療法を受けた群は27%のILSを示した。イリノテカンHClを40mg/kg q4d×5の単剤療法を受けた群は17%のILSを示した。化合物Iを25mg/kg bidとイリノテカンHClを40mg/kg q4d×5で受けた群は163%のILSを示した。セツキシマブを40mg/kg 2×/wkとイリノテカンHClを40mg/kg q4d×5で受けた群は80%のILSを示した。化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkで受けた群は127%のILSを示した。化合物Iを25mg/kg bidとセツキシマブを40mg/kg 2×/wkとイリノテカンHClを40mg/kg q4d×5で受けた群は259%のILSを示した。表14および
図9を参照されたい。
【0082】
統計学的分析
化合物I/セツキシマブ、化合物I/イリノテカンHClおよび化合物I/セツキシマブ/イリノテカンHClの併用療法のTGI(%)は、すべての単剤療法アームよりも統計学的に優れていた(p<0.05)。化合物I/セツキシマブ/イリノテカンHClの併用療法のTGI(%)はまた、化合物I/イリノテカンHClおよびセツキシマブ/イリノテカンHClの併用療法のそれよりも統計学的に優れていた(p<0.05)。
化合物I/セツキシマブ、化合物I/イリノテカンHClおよび化合物I/セツキシマブ/イリノテカンHClの併用療法のILS(%)は、すべての単剤療法アームよりも統計学的に優れていた(比較はすべてp<0.05)。化合物I/セツキシマブ/イリノテカンHClの併用療法のILS(%)はまた、化合物I/イリノテカンHClおよび化合物I/セツキシマブの併用療法のそれよりも統計学的に優れていた。
表15を参照されたい。