【文献】
Expert Opinion on Therapeutic Patents,1997年 2月 1日,Vol.7, No.2,p.179-183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
全長抗体の重鎖の第1のCH3ドメインと該全長抗体の第2のCH3ドメインとが、該抗体CH3ドメイン間の元の境界面に改変を含む境界面でそれぞれ接することを特徴とする、前記二重特異性抗体であって、
i)一方の重鎖の該CH3ドメインにおいて、
あるアミノ酸残基が、側鎖の体積がより大きいアミノ酸残基で置換され、それによって、他方の重鎖の該CH3ドメインの境界面内のくぼみに配置可能である一方の重鎖の該CH3ドメインの境界面内の隆起が生じ、かつ
ii)該他方の重鎖の該CH3ドメインにおいて、
あるアミノ酸残基が、側鎖の体積がより小さいアミノ酸残基で置換され、それによって、該第1のCH3ドメインの境界面内の隆起を内部に配置可能である該第2のCH3ドメインの境界面内のくぼみが生じる、
請求項1〜5のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
側鎖の体積がより大きいアミノ酸残基が、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)からなる群より選択され、側鎖の体積がより小さいアミノ酸残基が、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、およびバリン(V)からなる群より選択されること
を特徴とする、請求項6記載の二重特異性抗体。
両方のCH3ドメインが、該CH3ドメイン間のジスルフィド架橋が形成され得るように、各CH3ドメインの位置にシステイン(C)残基を導入することによってさらに改変されること
を特徴とする、請求項6記載の二重特異性抗体。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の詳細な説明
本発明は、
a)第1の抗原に特異的に結合し、2本の抗体重鎖および2本の抗体軽鎖からなる、完全長抗体;
b)VH
2ドメインおよびVL
2ドメインを含み、第2の抗原に特異的に結合するFv断片であって、両方のドメインがジスルフィド架橋によって連結されている、Fv断片
を含み、
VH
2ドメインまたはVL
2ドメインのどちらか一方のみが、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖または軽鎖にペプチドリンカーによって融合されており、
(VH
2ドメインまたはVL
2ドメインの他方は、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖にも軽鎖にもペプチドリンカーによって融合されていない)、
二重特異性抗体に関する。
【0037】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VH
2ドメインまたはVL
2ドメインが、N末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端に融合されていることを特徴とする。
【0038】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VH
2ドメインが、N末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端に融合されていることを特徴とする。
【0039】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VH
2ドメインが、N末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖のC末端に融合されていることを特徴とする。
【0040】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VH
2ドメインが、N末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の軽鎖のC末端に融合されていることを特徴とする。
【0041】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VL
2ドメインが、N末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端に融合されていることを特徴とする。
【0042】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VL
2ドメインが、N末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖のC末端に融合されていることを特徴とする。
【0043】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VL
2ドメインが、N末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の軽鎖のC末端に融合されていることを特徴とする。
【0044】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VH
2ドメインまたはVL
2ドメインが、N末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端に融合されていること;および
CH1ドメインが、N末端においてVH
2ドメインのC末端に融合されており、CLドメインが、N末端においてVL
2ドメインのC末端に融合されていることを特徴とする(例えば、
図2cを参照されたい)。
【0045】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VH
2ドメインまたはVL
2ドメインが、C末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖または軽鎖のN末端に融合されていることを特徴とする。
【0046】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VH
2ドメインが、C末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖または軽鎖のN末端に融合されていることを特徴とする。
【0047】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VH
2ドメインが、C末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖のN末端に融合されていることを特徴とする。
【0048】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VH
2ドメインが、C末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の軽鎖のN末端に融合されていることを特徴とする。
【0049】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VL
2ドメインが、C末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖または軽鎖のN末端に融合されていることを特徴とする。
【0050】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VL
2ドメインが、C末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖のN末端に融合されていることを特徴とする。
【0051】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VL
2ドメインが、C末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の軽鎖のN末端に融合されていることを特徴とする。
【0052】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
a)二重特異性抗体が三価であること、および
b)VH2ドメインまたはVL2ドメインのどちらか一方が、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖にペプチドリンカーを介して融合されていることを特徴とする。
【0053】
1つの態様において、このような三価の二重特異性抗体は、
VH
2ドメインまたはVL
2ドメインが、N末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖のC端に融合されていることを特徴とする。
【0054】
1つの態様において、このような三価の二重特異性抗体は、
VH
2ドメインまたはVL
2ドメインが、C末端においてペプチドリンカーを介して、第1の抗原に特異的に結合する完全長抗体の重鎖のN端に融合されていることを特徴とする。
【0055】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VH
2ドメインおよびVL
2ドメインが、以下の位置の間に導入されるジスルフィド架橋によって連結されていることを特徴とする:
i)VH
2ドメイン44位とVL
2ドメイン100位、
ii)VH
2ドメイン105位とVL
2ドメイン43位、または
iii)VH
2ドメイン101位とVL
2ドメイン100位
(番号付与は常にKabatのEU指標に従う)。
【0056】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、
VH
2ドメインおよびVL
2ドメインが、VH
2ドメイン44位とVL
2ドメイン100位の間に導入されるジスルフィド架橋によって連結されていることを特徴とする(番号付与は常にKabatのEU指標に従う)。
【0057】
安定化のために非天然のジスルフィド架橋を導入するための技術は、例えば、WO 94/029350、US 5,747,654、Rajagopal, V., et al., Prot. Engin. 10(1997)1453-1459;Reiter, Y., et al., Nature Biotechnology 14(1996)1239-1245;Reiter, Y., et al., Protein Engineering;8(1995)1323-1331;Webber, K.O., et al., Molecular Immunology 32(1995)249-258;Reiter, Y., et al., Immunity 2(1995)281-287;Reiter, Y., et al., JBC 269(1994)18327-18331;Reiter, Y., et al., Inter. J. of Cancer 58(1994)142-149、またはReiter, Y., Cancer Res. 54(1994)2714-2718において説明されている。1つの態様において、b)およびc)のポリペプチドの可変ドメイン間の任意のジスルフィド結合は、重鎖可変ドメイン44位と軽鎖可変ドメイン100位の間に存在する。1つの態様において、b)およびc)のポリペプチドの可変ドメイン間の任意のジスルフィド結合は、重鎖可変ドメイン105位と軽鎖可変ドメイン43位の間に存在する(番号付与は常にKabatのEU指標に従う)。1つの態様において、単鎖Fab断片の可変ドメインVHとVLの間に該任意のジスルフィド安定化がなされていない三価の二重特異性抗体が好ましい。
【0058】
「完全長抗体」という用語は、2本の「完全長抗体重鎖」および2本の「完全長抗体軽鎖」からなる抗体を意味する(
図1を参照されたい)。「完全長抗体重鎖」は、N末端からC末端に向かって、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常重鎖ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体重鎖定常ドメイン2(CH2)、および抗体重鎖定常ドメイン3(CH3)(VH-CH1-HR-CH2-CH3と略される);ならびに任意で、サブクラスIgEの抗体の場合、抗体重鎖定常ドメイン4(CH4)からなるポリペプチドである。好ましくは、「完全長抗体重鎖」は、N末端からC末端に向かって、VH、CH1、HR、CH2、およびCH3からなるポリペプチドである。「完全長抗体軽鎖」は、N末端からC末端に向かって、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体軽鎖定常ドメイン(CL)(VL-CLと略される)からなるポリペプチドである。抗体軽鎖定常ドメイン(CL)は、κ(カッパ)またはλ(ラムダ)であり得る。2本の完全長抗体鎖は、CLドメインとCH1ドメインの間および完全長抗体重鎖のヒンジ領域間のポリペプチド間ジスルフィド結合を介して相互に連結されている。典型的な完全長抗体の例は、IgG(例えばIgG1およびIgG2)、IgM、IgA、IgD、ならびにIgEのような天然抗体である。本発明による完全長抗体は、単一の種、例えばヒトに由来してよく、またはそれらはキメラ抗体もしくはヒト化抗体でもよい。本発明による完全長抗体は、VHおよびVLのペアによってそれぞれ形成される2つの抗原結合部位を含み、これらの部位は両方とも同じ抗原に特異的に結合する。該完全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端とは、該重鎖または軽鎖のC末端に位置する最後のアミノ酸を示す。
【0059】
b)のポリペプチドの抗体重鎖可変ドメイン(VH)およびc)のポリペプチドの抗体軽鎖可変ドメイン(VL)のN末端とは、VHドメインまたはVLドメインのN末端にある最後のアミノ酸を示す。
【0060】
本明細書において使用される「Fv断片」という用語は、ある抗原に特異的に結合する抗体のVH
2ドメインおよびVL
2ドメインを意味し、両方のドメインが一緒にFv断片を形成する。本発明による二重特異性抗体に含まれる、第2の抗原に結合するFv断片は、両方のドメインVH
2およびVL
2の間に(鎖間)ジスルフィド架橋を含む。すなわち、ドメインVH
2およびVL
2の両方が、安定化のための非天然のジスルフィド架橋によって連結されており、このジスルフィド架橋は、例えば、WO 94/029350、US 5,747,654、Rajagopal, V., et al., Prot. Engin. 10(1997)1453-1459;Reiter, Y., et al., Nature Biotechnology 14(1996)1239-1245;Reiter, Y., et al., Protein Engineering;8(1995)1323-1331;Webber, K.O., et al.
, Molecular Immunology 32(1995)249-258;Reiter, Y., et al., Immunity 2(1995)281-287;Reiter, Y., et al., JBC 269(1994)18327-18331;Reiter, Y., et al., Inter. J. of Cancer 58(1994)142-149、またはReiter, Y., Cancer Res. 54(1994)2714-2718において説明されている技術によって導入される。
【0061】
本発明による二重特異性抗体に含まれる、第2の抗原に結合するFv断片のVH
2ドメインおよびVL
2ドメインは、ペプチドリンカーによって互いに連結されてはいない(すなわち、VH
2およびVL
2は単鎖Fv断片を形成しない)。したがって、「VH
2ドメインおよびVL
2ドメインを含み、第2の抗原に特異的に結合するFv断片であって、両方のドメインがジスルフィド架橋によって連結されている、Fv断片」という用語は、「両方のドメイン間の唯一の共有結合としてのジスルフィド架橋によって、両方のドメインが連結されているFv断片」を意味し、(例えば、ペプチドリンカーによる単鎖Fv断片におけるような)別の共有結合によるものを意味しない。
【0062】
Fv断片のVH
2ドメインおよびVL
2ドメインは、完全長抗体に由来するものか、または例えばファージディスプレイのような他の技術によるもののいずれかでよい。
【0063】
1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は三価の二重特異性抗体であり、(第2の抗原に結合する)Fv断片は、第1の抗原に結合する完全長抗体の重鎖に融合されている。本出願内で使用される「価」という用語は、抗体分子中に特定の数の結合部位が存在することを示す。例えば、天然抗体または本発明による完全長抗体は、2つの結合部位を有し、二価である。したがって、「三価の」という用語は、抗体分子中に3つの結合部位が存在することを示す。本明細書において使用される「三価の、三重特異性の」抗体という用語は、3つの抗原結合部位を有し、各抗原結合部位が別の抗原(または抗原の別のエピトープ)に結合する抗体を意味する。本発明の抗体は、3つ〜4つの結合部位を有する。すなわち、三価または四価(好ましくは三価)であり、二重特異性である。
【0064】
抗体特異性とは、抗原の特定のエピトープに対する抗体の選択的認識を意味する。例えば、天然の抗体は単一特異性である。二重特異性抗体は、2つの異なる抗原結合特異性を有する抗体である。抗体が複数の特異性を有する場合、認識されるエピトープは、単一の抗原と、または複数の抗原と関連していてよい。
【0065】
本明細書において使用される「単一特異性」抗体という用語は、1つまたは複数の結合部位を有し、各結合部位が同じ抗原の同じエピトープに結合する抗体を意味する。
【0066】
本発明による典型的な三価の二重特異性抗体を、例えば、
図2aおよび2b、3dおよび3cに示す。
【0067】
本発明による三価の二重特異性抗体にとって、2本の異なる重鎖のヘテロ二量体化を促進するCH3ドメインの改変(図面の
図2aおよび2b、3dおよび3cを参照されたい)は、特に有用である。
【0068】
したがって、このような三価の二重特異性抗体のために、例えば、WO 96/027011、Ridgway, J.B., et al., Protein Eng 9(1996)617-621;およびMerchant, A.M., et al., Nat Biotechnol 16(1998)677-681においていくつかの例を用いて詳細に説明されている「ノブイントゥーホール(knob-into-hole)」技術によって、本発明による該完全長抗体のCH3ドメインを改変することができる。この方法では、2つのCH3ドメインの相互作用面を改変して、これら2つのCH3ドメインを含む両方の重鎖のヘテロ二量体化を増大させる。(2本の重鎖の)2つのCH3ドメインのそれぞれが、「ノブ」となることができ、他方が「ホール」である。ジスルフィド架橋の導入により、ヘテロ二量体はさらに安定し(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech 16(1998)677-681;Atwell, S., et al., J. Mol. Biol. 270(1997)26-35)、収率は上昇する。
【0069】
したがって、本発明の1つの局面において、前記三価の二重特異性抗体は、以下のことをさらに特徴とする:
完全長抗体の一方の重鎖のCH3ドメインと完全長抗体の他方の重鎖のCH3ドメインとが、抗体CH3ドメイン間の元の境界面を含む境界面でそれぞれ接し;
該境界面は、二価の二重特異性抗体の形成を促進するように改変されており、この改変は、
a)一方の重鎖のCH3ドメインが、
二価の二重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの元の境界面と接する、一方の重鎖のCH3ドメインの元の境界面内で、あるアミノ酸残基が、側鎖の体積がより大きいアミノ酸残基で置換され、それによって、他方の重鎖のCH3ドメインの境界面内のくぼみに配置可能である、一方の重鎖のCH3ドメインの境界面内の隆起が生じるように、
改変されること、および
b)他方の重鎖のCH3ドメインが、
三価の二重特異性抗体内の第1のCH3ドメインの元の境界面と接する第2のCH3ドメインの元の境界面内で、あるアミノ酸残基が、側鎖の体積がより小さいアミノ酸残基で置換され、それによって、第1のCH3ドメインの境界面内の隆起を内部に配置可能である、第2のCH3ドメインの境界面内のくぼみが生じるように、
改変されること
を特徴とする。
【0070】
好ましくは、側鎖の体積がより大きい前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)からなる群より選択される。
【0071】
好ましくは、側鎖の体積がより小さい前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)からなる群より選択される。
【0072】
本発明の1つの局面において、両方のCH3ドメインは、両方のCH3ドメイン間のジスルフィド架橋が形成され得るように、各CH3ドメインの対応する位置のアミノ酸としてシステイン(C)を導入することによってさらに改変される。
【0073】
好ましい態様において、前記三価の二重特異性物は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W変異、および「ホール鎖」のCH3ドメインにT366S変異、L368A変異、Y407V変異を含む。また、例えば、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中へのY349C変異および「ホール鎖」のCH3ドメイン中へのE356C変異またはS354C変異の導入による、CH3ドメイン間のさらなる鎖間ジスルフィド架橋も使用され得る(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech 16(1998)677-681)。したがって、別の好ましい態様において、前記三価の二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にY349C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にE356C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を含むか、または前記三価の二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にY349C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にS354C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を含む(一方のCH3ドメイン中の追加のY349C変異および他方のCH3ドメイン中の追加のE356C変異またはS354C変異が鎖間ジスルフィド架橋を形成する)(番号付与は常にKabatのEU指標に従う)。しかし、EP 1870459A1において説明されている他のノブインホール技術もまた、代わりにまたは追加で使用することができる。前記三価の二重特異性抗体に対する好ましい例は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにおけるR409D;K370E変異、および「ホール鎖」のCH3ドメインにおけるD399K;E357K変異である(番号付与は常にKabatのEU指標に従う)。
【0074】
別の好ましい態様において、前記三価の二重特異性抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにT366W変異、および「ホール鎖」のCH3ドメインにT366S変異、L368A変異、Y407V変異、ならびにそれらに加えて、「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D;K370E変異、および「ホール鎖」のCH3ドメインにD399K;E357K変異を含む。
【0075】
別の好ましい態様において、前記三価の二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にY349C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にS354C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異を含むか、または前記三価の二重特異性抗体は、2つのCH3ドメインのうちの一方にY349C変異、T366W変異、および2つのCH3ドメインのうちの他方にS354C変異、T366S変異、L368A変異、Y407V変異、ならびにそれらに加えて、「ノブ鎖」のCH3ドメインにR409D;K370E変異、および「ホール鎖」のCH3ドメインにD399K;E357K変異を含む。
【0076】
本発明による二重特異性抗体は、様々な抗原結合部位を含む。完全長抗体は、第1の抗原に特異的に結合する2つの同一の抗原結合部位を含み、ジスルフィドによって安定化されたFv断片の抗体重鎖可変ドメインVH
2および抗体軽鎖可変ドメインVL
2が、第2の抗原に特異的に結合する1つの抗原結合部位を一緒に形成する。
【0077】
本明細書において使用される「結合部位」または「抗原結合部位」という用語は、各抗原が実際に特異的に結合する、本発明による前記二重特異性抗体の領域を意味する。完全長抗体またはFv断片のいずれかの抗原結合部位は、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体重鎖可変ドメイン(VH)からなるペアによってそれぞれ形成される。
【0078】
所望の抗原に特異的に結合する抗原結合部位は、a)その抗原に対する公知の抗体に由来するか、またはb)抗原タンパク質もしくは核酸またはそれらの断片のいずれかを特に用いたデノボの免疫化方法またはファージディスプレイによって得られた新規の抗体または抗体断片に由来してよい。
【0079】
本発明の抗体の抗原結合部位は、抗原に対する結合部位の親和性に様々な程度で寄与する、6つの相補性決定領域(CDR)を含む。3つの重鎖可変ドメインCDR(CDRH1、CDRH2、およびCDRH3)ならびに3つの軽鎖可変ドメインCDR(CDRL1、CDRL2、およびCDRL3)がある。CDRおよびフレームワーク領域(FR)の範囲は、配列の可変性に基づいてそれらの領域が定められた、アミノ酸配列をまとめたデータベースと比較することによって決定される。
【0080】
抗体特異性とは、抗原の特定のエピトープに対する抗体の選択的認識を意味する。例えば、天然の抗体は単一特異性である。本発明による「二重特異性抗体」は、2つの異なる抗原結合特異性を有する抗体である。抗体が複数の特異性を有する場合、認識されるエピトープは、単一の抗原と、または複数の抗原と関連していてよい。本明細書において使用される「単一特異性」抗体という用語は、1つまたは複数の結合部位を有し、各結合部位が同じ抗原の同じエピトープに結合する抗体を意味する。
【0081】
本出願内で使用される「価」という用語は、抗体分子中に特定の数の結合部位が存在することを示す。例えば、天然抗体または本発明による完全長抗体は、2つの結合部位を有し、二価である。したがって、「三価の」という用語は、抗体分子中に3つの結合部位が存在することを示す。したがって、「四価の」という用語は、抗体分子中に3つの結合部位が存在することを示す。1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、三価または四価である。1つの態様において、本発明による二重特異性抗体は、三価である。
【0082】
本発明の完全長抗体は、1種または複数種の免疫グロブリンクラスの免疫グロブリン定常領域を含む。免疫グロブリンクラスには、IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEアイソタイプが含まれ、IgGおよびIgAの場合、それらのサブタイプが含まれる。好ましい態様において、本発明の完全長抗体は、IgGタイプの抗体の定常ドメイン構造体を有する。
【0083】
本明細書において使用される「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、単一のアミノ酸組成を有する抗体分子の調製物を意味する。
【0084】
「キメラ抗体」という用語は、1種の供給源または種に由来する可変領域、すなわち結合領域、および別の供給源または種に由来する定常領域の少なくとも一部分を含む、通常は組換えDNA技術によって調製される抗体を意味する。マウス可変領域およびヒト定常領域を含むキメラ抗体が好ましい。本発明によって包含される「キメラ抗体」の他の好ましい形態は、特にC1q結合および/またはFc受容体(FcR)結合に関して本発明に従う特性を生じるように、定常領域が元の抗体のものから改変または変更されたものである。このようなキメラ抗体は、「クラススイッチ抗体」とも呼ばれる。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントおよび免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含む免疫グロブリン遺伝子を発現させた産物である。キメラ抗体を作製するための方法は、当技術分野において周知である従来の組換えDNA技術および遺伝子トランスフェクション技術を伴う。例えば、Morrison, S.L., et al., Proc.Natl. Acad. Sci. USA 81(1984)6851-6855、US 5,202,238、およびUS 5,204,244を参照されたい。
【0085】
「ヒト化抗体」という用語は、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が、親免疫グロブリンの特異性と比べて異なる特異性を有する免疫グロブリンのCDRを含むように改変された抗体を意味する。好ましい態様において、ヒト抗体のフレームワーク領域にマウスCDRを継ぎ合わせて、「ヒト化抗体」を調製する。例えば、Riechmann, L., et al., Nature 332(1988)323-327;およびNeuberger, M.S., et al., Nature 314(1985)268-270を参照されたい。特に好ましいCDRは、キメラ抗体に関して前述した、抗原を認識する配列に相当するものに対応する。本発明によって包含される「ヒト化抗体」の他の形態は、特にC1q結合および/またはFc受容体(FcR)結合に関して本発明に従う特性を生じるように、定常領域が元の抗体のものからさらに改変または変更されたものである。
【0086】
「ヒト抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むと意図される。ヒト抗体は、現況技術において周知である(van Dijk, M.A., and van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Chem. Biol. 5(2001)368-374)。また、ヒト抗体は、免疫化することにより、内因性の免疫グロブリン産生のない状況でヒト抗体の完全なレパートリーまたはセレクションを産生することができるトランスジェニック動物(例えばマウス)においても作製され得る。ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子配列をこのような生殖系列変異マウスに移入すると、抗原投与した際にヒト抗体を産生するようになる(例えば、Jakobovits, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90(1993)2551-2555;Jakobovits, A., et al., Nature 362(1993)255-258;Bruggemann, M., et al., Year Immunol. 7(1993)33-40を参照されたい)。また、ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーによって作製することもできる(Hoogenboom, H.R., and Winter, G.J., Mol.Biol. 227(1992)381-388;Marks, J.D., et al., J. Mol. Biol. 222(1991)581-597)。Cole, S.P.C., et al.およびBoerner, P., et al.の技術もまた、ヒトモノクローナル抗体の調製のために利用可能である(Cole, S.P.C., et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R.Liss,(1985)77-96);およびBoerner, P., et al., J. Immunol. 147(1991)86-95)。本発明によるキメラ抗体およびヒト化抗体に関して既に言及したように、本明細書において使用される「ヒト抗体」という用語は、例えば、「クラススイッチ」、すなわちFc部分の変更または変異(例えば、IgG1からIgG4および/またはIgG1/IgG4への変異)によって、特にC1q結合および/またはFcR結合に関して本発明に従う特性を生じるように、定常領域が改変されたそのような抗体も含む。
【0087】
「組換えヒト抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、組換え手段によって調製、発現、作製、または単離されたすべてのヒト抗体、例えば、HEK293細胞、およびCHOもしくはCHO細胞などの宿主細胞から、もしくはヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離された抗体、または宿主細胞中にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現させた抗体などを含むことを意図する。このような組換えヒト抗体は、再配列された形態の可変領域および定常領域を有する。本発明による組換えヒト抗体は、インビボの体細胞超変異に供された。したがって、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列のVH配列およびVL配列に由来し関連してはいるものの、インビボにおいてヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在し得ない配列である。
【0088】
本明細書において使用される「可変ドメイン」(軽鎖(VL)の可変ドメイン、重鎖(VH)の可変領域)とは、抗原への抗体の結合に直接関与する、軽鎖および重鎖のペアのそれぞれを意味する。可変ヒト軽鎖および可変ヒト重鎖のドメインは同じ一般構造を有し、各ドメインは、配列が広範囲に渡って保存され3つの「超可変領域」(または相補性決定領域、CDR)によって連結された4つのフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域はβシート構造を採用し、CDRはβシート構造を連結するループを形成し得る。各鎖のCDRは、フレームワーク領域によって三次元構造で維持され、他の鎖のCDRと一緒になって抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖CDR3領域および軽鎖CDR3領域は、本発明による抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たし、したがって、本発明のさらなる目的を提供する。
【0089】
「超可変領域」または「抗体の抗原結合部分」という用語は、本明細書において使用される場合、抗原結合を担っている抗体のアミノ酸残基を意味する。超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」に由来するアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」領域または「FR」領域とは、本明細書において定義する超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。したがって、抗体の軽鎖および重鎖は、N末端からC末端に向かって、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。各鎖のCDRは、このようなフレームワークアミノ酸によって隔てられている。特に、重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与する領域である。CDR領域およびFR領域は、Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991)の標準的な定義に従って決定される。
【0090】
本明細書において使用される場合、「結合する」または「特異的に結合する」という用語は、インビトロアッセイ法における、好ましくは、精製した野生型抗原を用いたプラズモン共鳴アッセイ法(BIAcore, GE-Healthcare Uppsala, Sweden)における、抗原のエピトープへの抗体の結合を意味する。結合親和性は、用語ka(抗体/抗原複合体における抗体の会合速度定数)、k
D(解離定数)、およびK
D(k
D/ka)を用いて定義される。結合するまたは特異的に結合するとは、10
-8Mまたはそれ以下、例えば、10
-8M〜10
-13M、好ましくは10
-9M〜10
-13Mの結合親和性(K
D)を意味する。したがって、本発明による二重特異性抗体は、各抗原に特異的に結合し、各抗原に対して10
-8Mまたはそれ以下、例えば、10
-8M〜10
-13M、好ましくは10
-9M〜10
-13Mの結合親和性(K
D)で特異的である。
【0091】
「エピトープ」という用語は、抗体に特異的に結合することができる任意のポリペプチド決定基を含む。いくつかの態様において、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、またはスルホニルなど分子の化学的に活性な表面基(grouping)を含み、いくつかの態様において、特殊な三次元構造特性、およびまたは特殊な電荷特性を有し得る。エピトープとは、抗体によって結合される、抗原の領域である。
【0092】
いくつかの態様において、抗体は、タンパク質および/または高分子の複合混合物中の標的抗原を優先的に認識する場合、抗原に特異的に結合すると述べられる。
【0093】
本発明による最終的な抗体に関して本明細書において使用される「ペプチドリンカー」という用語は、好ましくは合成起源のアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。本発明によるこれらのペプチドコネクターは、第2の抗原に結合するジスルフィドによって安定化されたFv断片を完全長抗体の重鎖のC末端またはN末端に融合して、本発明による二重特異性抗体を形成させるために使用される。好ましくは、該ペプチドリンカーは、少なくとも5アミノ酸長、好ましくは10〜100アミノ酸長、より好ましくは25〜50アミノ酸長のアミノ酸配列を有するペプチドである。1つの態様において、該ペプチドリンカーは、例えば、(GxS)nまたは(GxS)nGmであり、G=グリシン、S=セリンであり、(x=3、n=3、4、5、もしくは6、およびm=0、1、2、もしくは3)または(x=4、n=2、3、4、5、もしくは6、およびm=0、1、2、もしくは3)であり、好ましくはx=4、およびn=2、3、4、5、または6、およびm=0である。1つの態様において、本発明による抗体内で使用される「ペプチドリンカー」は、プロテアーゼ切断部位を含まない。ペプチドリンカーの各末端は、1つのポリペプチド鎖(例えば、VHドメイン、VLドメイン、抗体重鎖、抗体軽鎖、CH1-VH鎖など)に結合されている。
【0094】
後述する中間体抗体(発現中または発現後のいずれかにプロセシングされて本発明による抗体になる)に関して使用される「ペプチドリンカー」という用語は、例えば合成起源のアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。好ましくは、該ペプチドリンカーは、少なくとも5アミノ酸長、好ましくは5〜100アミノ酸長、より好ましくは10〜50アミノ酸長のアミノ酸配列を有するペプチドである。ペプチドリンカーの各末端は、1つのポリペプチド鎖(例えば、VHドメイン、VLドメイン、抗体重鎖、抗体軽鎖、CH1-VH鎖など)に結合されている。
【0095】
中間体二重特異性抗体内のペプチドリンカーのうちの一方はプロテアーゼ切断部位を含まず、前述の最終的な本発明による二重特異性抗体のペプチドリンカーと同一である。1つの態様において、プロテアーゼ切断部位を含まない該ペプチドリンカーは、例えば、(GxS)nまたは(GxS)nGmであり、G=グリシン、S=セリンであり、(x=3、n=3、4、5、もしくは6、およびm=0、1、2、もしくは3)または(x=4、n=2、3、4、5、もしくは6、およびm=0、1、2、もしくは3)であり、好ましくはx=4、およびn=2、3、4、5、または6、およびm=0である。
【0096】
後述する中間体抗体の他方のペプチドリンカーは、例えば、発現中(例えばフューリンによる)または発現(/および精製)後のいずれかに切断可能であるプロテアーゼ切断部位を含む。一般に、ペプチドリンカー内のプロテアーゼ切断部位は、プロテアーゼによって切断されるアミノ酸配列またはモチーフである。様々なプロテアーゼに対する天然または人工のプロテアーゼ切断部位は、例えば、Database, Vol.2009, Article ID bap015, doi:10.1093/database/bap015および参照されるMEROPSペプチドデータベース(
http://merops.sanger.ac.uk/)において説明されている。フューリンに特異的なプロテアーゼ切断部位は、例えば、QSSRHRRAL(フューリンに特異的なプロテアーゼ切断部位変種1−SEQ ID NO. 13のFS1)またはLSHRSKRSL(フューリンに特異的なプロテアーゼ切断部位変種2−SEQ ID NO. 14のFS2)である。プレシジョンに特異的なプロテアーゼ切断部位は、例えば、QSSRHRRAL(SEQ ID NO. 15のプレシジョンに特異的なプロテアーゼ切断部位)LEVLFQGPである。
【0097】
フューリンは、ヒトにおいてFURIN
遺伝子によってコードされる
タンパク質であり、エンドペプチダーゼ(エンドペプチダーゼ:セリンプロテアーゼ/セリンエンドペプチダーゼ(EC 3.4.21))に属する。これは、
FESとして公知の
癌遺伝子の上流領域に存在するため、フューリンと名付けられた。この遺伝子はFUR(FES Upstream Region)として公知であり、したがって、このタンパク質はフューリンと名付けられた。フューリンは、PACE(
Paired basic
Amino acid
Cleaving
Enzyme)としても公知である。この遺伝子にコードされる
タンパク質は、
スブチリシン様
プロタンパク質転換酵素ファミリーに属する
酵素である。このファミリーのメンバーは、潜在している前駆体タンパク質をプロセシングして生物学的に活性な産物にするプロタンパク質転換酵素である。コードされるこのタンパク質は、対になった塩基性アミノ酸プロセシング部位で前駆体タンパク質を効率的に切断することができるカルシウム依存性セリン
エンドプロテアーゼである。その基質のいくつかは、プロ
副甲状腺ホルモン、
トランスフォーミング増殖因子β1前駆体、プロ
アルブミン、プロ
βセクレターゼ、
膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1、プロ
神経成長因子のβサブユニット、および
フォンウィレブランド因子である。フューリン様プロタンパク質転換酵素は、RGMc(ヘモジュベリン(
Hemojuvelin)とも呼ばれる)、すなわち若年性ヘモクロマトーシスと呼ばれる重度の鉄過剰障害に関与している遺伝子のプロセシングに関係があるとされている。GanzのグループとRotweinのグループの両方が、フューリン様
プロタンパク質転換酵素(PPC)が、保存された多塩基部位RNRRにおいて、50kDaのHJVを、COOH末端を切断された40kDaのタンパク質に変換するのに関与していることを実証した。このことから、げっ歯動物およびヒトの血液中に存在する可溶型のHJV/ヘモジュベリン(s-ヘモジュベリン)を生成させるためのメカニズムが存在する可能性が示唆される。フューリンは、トランスゴルジ網中の細胞内小胞および分泌小胞、ならびに場合によっては多くの哺乳動物細胞(例えば、HEK293、CHO)の細胞表面上に存在する。しばしば、その認識部位はモチーフRXK/RRを含み、これらは、プロTGFβ1またはプロフォンウィレブランド因子などの様々な分泌された前駆体タンパク質中に存在する。したがって、本発明者らは、コネクター配列を含む2種のフューリン部位を作製するためにこれらの認識配列を選択した(フューリンに特異的なプロテアーゼ切断部位変種1−SEQ ID NO:13のFS1およびフューリンに特異的なプロテアーゼ切断部位変種2− SEQ ID NO:14のFS2)。
【0098】
プレシジョンプロテアーゼ(GE Healthcareカタログ番号27-0843-01)は、ヒトライノウイルス3CプロテアーゼおよびGSTからなる、遺伝学的に操作された融合タンパク質である。このプロテアーゼは、プロテアーゼの固定とpGEX-6PベクターpGEX-6P-1、pGEX-6P-2、およびpGEX-6P-3を用いて作製されたGST融合タンパク質の切断を同時に起こすことを可能にすることによりプロテアーゼの除去を容易にするように、特に設計された。
pGEX Vectors(GST Gene Fusion System)を参照されたい。プレシジョンプロテアーゼは、認識配列LeuGluValLeuPheGln/GlyProのGln残基とGly残基の間を特異的に切断する(Walker, P.A., et al., BIO/TECHNOLOGY 12,(1994)601-605;Cordingley, M.G., et al., J. Biol. Chem. 265(1990)9062-9065)。
【0099】
本発明による二重特異性抗体は、生物学的活性または薬理学的活性、薬物動態学的特性などの価値ある特徴を有する。これらは、例えば、癌のような疾患の治療のために使用され得る。
【0100】
別の態様において、本発明による二重特異性抗体は、ErbB3およびc-Metに特異的に結合することを特徴とする。
【0101】
本出願内で使用される「定常領域」という用語は、可変領域以外の抗体ドメイン全体を意味する。定常領域は、抗原結合に直接的には関与していないが、様々なエフェクター機能を示す。重鎖の定常領域のアミノ酸配列によって、抗体はIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMといったクラスに分類され、これらのうちのいくつかは、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、IgA1およびIgA2などのサブクラスにさらに分類され得る。異なるクラスの抗体に対応する重鎖定常領域は、α、δ、ε、γ、およびμとそれぞれ呼ばれる。5種の抗体クラスすべてにおいて見出すことができる軽鎖定常領域(CL)は、κ(カッパ)およびλ(ラムダ)と呼ばれる。
【0102】
本出願で使用される「ヒト起源に由来する定常領域」という用語は、サブクラスIgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4のヒト抗体の重鎖定常領域および/または軽鎖κもしくはλの定常領域を意味する。このような定常領域は現況技術において周知であり、例えばKabat, E.A.によって説明されている(例えば、Johnson, G., and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28(2000)214-218;Kabat, E.A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72(1975)2785-2788を参照されたい)。
【0103】
IgG4サブクラスの抗体は低レベルのFc受容体(FcγRIIIa)結合を示すが、他のIgGサブクラスの抗体は強い結合を示す。しかしながら、Pro238、Asp265、Asp270、Asn297(Fc炭水化物の減少)、Pro329、Leu234、Leu235、Gly236、Gly237、Ile253、Ser254、Lys288、Thr307、Gln311、Asn434、およびHis435は、改変された場合には、低レベルのFc受容体結合を同様にもたらす残基である(Shields, R.L., et al., J. Biol. Chem. 276(2001)6591-6604;Lund, J., et al., FASEB J. 9(1995)115-119;Morgan, A., et al., Immunology 86(1995)319-324;EP 0 307 434)。
【0104】
1つの態様において、本発明による抗体は、IgG1抗体と比べて低レベルのFcR結合を示し、その完全長親抗体は、IgG4サブクラスのFcR結合またはS228、L234、L235、および/もしくはD265に変異を有するIgG1サブクラスもしくはIgG2サブクラスのFcR結合に関わっており、かつ/またはPVA236変異を含む。1つの態様において、完全長親抗体中の変異は、S228P、L234A、L235A、L235E、および/またはPVA236である。別の態様において、完全長親抗体中の変異は、IgG4におけるS228PならびにIgG1におけるL234AおよびL235Aである。
【0105】
抗体の定常領域は、ADCC(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)およびCDC(complement-dependent cytotoxicity)に直接関与している。補体活性化(CDC)は、補体因子C1qが大半のIgG抗体サブクラスの定常領域に結合することによって始まる。抗体へのC1qの結合は、いわゆる結合部位における所定のタンパク質間相互作用によって引き起こされる。このような定常領域結合部位は、現況技術において公知であり、例えば、Lukas, T.J., et al., J. Immunol. 127(1981)2555-2560;Brunhouse, R. and Cebra, J.J., Mol. Immunol. 16(1979)907-917;Burton, D.R., et al., Nature 288(1980)338-344;Thommesen, J.E., et al., Mol. Immunol. 37(2000)995-1004;Idusogie, E.E., et al., J. Immunol. 164(2000)4178-4184;Hezareh, M., et al., J. Virol. 75(2001)12161-12168;Morgan, A., et al., Immunology 86(1995)319-324;およびEP 0 307 434によって説明されている。このような定常領域結合部位は、例えば、アミノ酸L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331、およびP329を特徴とする(番号付与はKabatのEU指標に従う)。
【0106】
「抗体依存性細胞障害(ADCC)」という用語は、エフェクター細胞の存在下における本発明による抗体によるヒト標的細胞の溶解を意味する。好ましくは、ADCCは、エフェクター細胞、例えば、新しく単離されたPBMC、または単球もしくはナチュラルキラー(NK)細胞または持続的に増殖するNK細胞株のようなバフィーコートから精製されたエフェクター細胞の存在下で、抗原発現細胞の調製物を本発明による抗体で処理することによって測定される。
【0107】
「補体依存性細胞障害(CDC)」という用語は、補体因子C1qが大半のIgG抗体サブクラスの Fc部分に結合することによって始まるプロセスを意味する。抗体へのC1qの結合は、いわゆる結合部位における所定のタンパク質間相互作用によって引き起こされる。このようなFc部分結合部位は、現況技術において公知である(上記を参照されたい)。このようなFc部分結合部位は、例えば、アミノ酸L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331、およびP329を特徴とする(番号付与はKabatのEU指標に従う)。サブクラスIgG1、IgG2、およびIgG3の抗体は、通常、C1q結合およびC3結合を含む補体活性化を示すが、IgG4は補体系を活性化せず、C1qおよび/またはC3に結合しない。
【0108】
モノクローナル抗体の細胞媒介性エフェクター機能は、Umana, P., et al., Nature Biotechnol. 17(1999)176-180およびUS 6,602,684において説明されているように、それらのオリゴ糖構成要素を操作することによって増強することができる。最もよく使用される治療用抗体であるIgG1型抗体は、保存されたN結合型グリコシル化部位を各CH2ドメイン中のAsn297において有する糖タンパク質である。Asn297に結合した2つの複合型二分岐オリゴ糖は、CH2ドメインの間に埋もれて、ポリペプチド主鎖との広範囲の接触面を形成し、それらの存在は、抗体依存性細胞障害(ADCC)のようなエフェクター機能を抗体が媒介するために不可欠である(Lifely, M..R., et al., Glycobiology 5(1995)813-822;Jefferis, R., et al., Immunol. Rev. 163(1998)59-76;Wright, A., and Morrison, S.L., Trends Biotechnol. 15(1997)26-32)。Umana, P., et al. Nature Biotechnol. 17(1999)176-180およびWO 99/154342は、2つに分岐したオリゴ糖の形成を触媒するグリコシルトランスフェラーゼであるβ(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(「GnTIII」)がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において過剰発現されると、抗体のインビトロでのADCC活性が有意に増大することを示した。また、Asn297炭水化物の組成の改変またはその除去も、FcγRおよびC1qへの結合に影響を及ぼす(Umana, P., et al., Nature Biotechnol. 17(1999)176-180;Davies, J., et al., Biotechnol. Bioeng. 74(2001)288-294;Mimura, Y., et al., J. Biol. Chem. 276(2001)45539-45547;Radaev, S., et al., J. Biol. Chem. 276(2001)16478-16483;Shields, R.L., et al., J. Biol. Chem. 276(2001)6591-6604;Shields, R.L., et al., J. Biol. Chem. 277(2002)26733-26740;Simmons, L.C., et al., J. Immunol. Methods 263(2002)133-147)。
【0109】
モノクローナル抗体の細胞媒介性エフェクター機能を増強するための方法は、例えば、WO 2005/044859、WO 2004/065540、WO2007/031875、Umana, P., et al., Nature Biotechnol. 17(1999)176-180、WO 99/154342、WO 2005/018572、WO 2006/116260、WO 2006/114700、WO 2004/065540、WO 2005/011735、WO 2005/027966、 WO 1997/028267、US 2006/0134709、US 2005/0054048、US 2005/0152894、WO 2003/035835、およびWO 2000/061739において、または例えば、Niwa, R., et al., J. Immunol. Methods 306(2005)151-160;Shinkawa, T., et al., J. Biol. Chem. 278(2003)3466-3473;WO 03/055993およびUS 2005/0249722において報告されている。
【0110】
本発明の1つの態様において、二重特異性抗体は、(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブクラス、好ましくはIgG1サブクラスまたはIgG3サブクラスのFc部分を含む場合)、Asn297において糖鎖によってグリコシル化され、その際、該糖鎖内のフコースの量は65%またはそれ以下である(番号付与はKabatの方法に従う)。別の態様において、前記糖鎖内のフコースの量は、5%〜65%の間、好ましくは20%〜40%の間である。代替えの態様において、フコースの量は、Fc領域のAsn297におけるオリゴ糖の0%である。本発明による「Asn297」とは、Fc領域のおよそ297番目に位置するアミノ酸アスパラギンを意味する。抗体の軽微な配列変化のため、Asn297は、297番目から数アミノ酸(通常±3個以下のアミノ酸)上流または下流に、すなわち、294番目〜300番目の間に位置してもよい。1つの態様において、本発明によるグリコシル化された抗体のIgGサブクラスは、ヒトIgG1サブクラス、変異L234AおよびL235Aを有するヒトIgG1サブクラス、またはIgG3サブクラスである。別の態様において、前記糖鎖内のN-グリコリルノイラミン酸(NGNA)の量は1%もしくはそれ以下であり、かつ/またはN末端α-1,3-ガラクトースの量は1%もしくはそれ以下である。好ましくは、糖鎖は、CHO細胞において組換えによって発現させた抗体のAsn297に結合したN結合型グリカンという特徴を示す。
【0111】
「糖鎖は、CHO細胞において組換えによって発現させた抗体のAsn297に結合したN結合型グリカンという特徴を示す」という用語は、本発明による完全長親抗体のAsn297における糖鎖が、未改変CHO細胞において発現させた同じ抗体のもの、例えば、WO 2006/103100において報告されているものとフコース残基以外は同じ構造および糖残基配列を有するということを意味する。
【0112】
「NGNA」という用語は、本出願内で使用される場合、糖残基N-グリコリルノイラミン酸を意味する。
【0113】
ヒトIgG1またはIgG3のグリコシル化は、最高2個のGal残基で終結されるフコシル化二分岐複合型コアオリゴ糖グリコシル化としてAsn297で発生する。IgG1またはIgG3サブクラスのヒト重鎖定常領域は、Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991)およびBruggemann, M., et al., J. Exp. Med. 166(1987)1351-1361;Love, T.W., et al., Methods Enzymol. 178(1989)515-527によって詳細に報告されている。これらの構造物は、末端Gal残基の量に応じて、G0グリカン残基、G1(α-1,6-もしくはα-1,3-)グリカン残基、またはG2グリカン残基と名付けられている(Raju, T.S., Bioprocess Int.(2003)44-53)。抗体Fc部分のCHO型グリコシル化は、例えば、Routier, F.H., Glycoconjugate J. 14(1997)201-207によって説明されている。糖改変していない(non-glycomodified)CHO宿主細胞において組換えによって発現される抗体は、通常、少なくとも85%の量がAsn297においてフコシル化されている。完全長親抗体のこれらの改変オリゴ糖は、ハイブリッドまたは複合体でよい。好ましくは、2つに分岐した還元型/非フコシル化オリゴ糖はハイブリッドである。別の態様において、2つに分岐した還元型/非フコシル化オリゴ糖は複合体である。
【0114】
本発明によれば、「フコースの量」とは、Asn297における糖鎖内の該糖の量を意味し、MALDI-TOF質量分析法によって測定し、平均値として算出した、Asn297に結合した糖構造物(glycostructure)すべて(例えば、複合体構造物、ハイブリッド構造物、および高マンノース構造物)の合計に関する(例えばWO 2008/077546を参照されたい)。フコースの相対量は、MALDI-TOFによって測定した、N-グリコシダーゼFで処理した試料において同定された全糖構造物(例えば、それぞれ複合体構造物、ハイブリッド構造物、ならびにオリゴマンノース構造物、および高マンノース構造物)に関係する、フコース含有構造物の百分率である。
【0115】
本発明による抗体は、組換え手段によって作製される。したがって、本発明の1つの局面は、本発明による抗体をコ―ドする核酸であり、さらなる局面は、本発明による抗体をコードする該核酸を含む細胞である。組換え作製のための方法は、現況技術において広く知られており、原核細胞および真核細胞におけるタンパク質発現と、それに伴うその後の抗体単離および通常は薬学的に許容される純度までの精製とを含む。前述したように宿主細胞において抗体を発現させる場合、改変された各軽鎖および重鎖をコードする核酸が、標準的な方法によって発現ベクターに挿入される。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母、または大腸菌(E.coli)細胞のような適切な原核宿主細胞または真核宿主細胞において実施され、抗体はこれらの細胞(上清または溶解後の細胞)から回収される。1つの態様において、宿主細胞は、例えば、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞より選択される哺乳動物細胞、好ましくはHEK293細胞またはCHO細胞である。抗体を組換えによって作製するための一般的方法は現況技術において周知であり、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17(1999)183-202;Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8(1996)271-282;Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16(2000)151-160;Werner, R.G., Drug Res. 48(1998)870-880といった総説論文で説明されている。
【0116】
本発明による二重特異性抗体は、従来の免疫グロブリン精製手順、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどによって、培地から適宜分離される。モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、従来の手順を用いて、容易に単離され、配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAおよびRNAの供給源として役立つことができる。単離した後、DNAを発現ベクター(その後、さもなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しないHEK293細胞、CHO細胞、または骨髄腫細胞などの宿主細胞中にトランスフェクトされる)中に挿入して、宿主細胞中での組換えモノクローナル抗体の合成を実現することができる。
【0117】
二重特異性抗体のアミノ酸配列変種(または変異体)は、適切なヌクレオチド変更を抗体DNAに導入することによって、またはヌクレオチド合成によって調製される。しかしながら、このような改変は、例えば前述したように、極めて限定された範囲でのみ実施することができる。例えば、これらの改変によって、IgGアイソタイプおよび抗原結合などの前述の抗体特徴が変わることはないが、組換え作製の収率、タンパク質安定性が改善し得るか、または精製が容易になり得る。
【0118】
本出願において使用される「宿主細胞」という用語は、本発明による抗体を生成するように操作できる任意の種類の細胞系を意味する。1つの態様において、HEK293細胞およびCHO細胞が宿主細胞として使用される。本明細書において使用される場合、「細胞」、「細胞株」、および「細胞培養物」という表現は交換可能に使用され、このような呼称はすべて、子孫を含む。したがって、「形質転換体」および「形質転換細胞」という単語は、転換(transfer)の回数に関わらず、初代対象細胞およびそれに由来する培養物を含む。意図的な変異または偶発性の変異が原因で、すべての子孫のDNA内容物が全く同一ではない場合があることもまた、理解されている。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングされたのと同じ機能または生物活性を有する変種子孫が含まれる。
【0119】
NS0細胞における発現は、例えば、Barnes, L.M., et al., Cytotechnology 32(2000)109-123;Barnes, L.M., et al., Biotech. Bioeng. 73(2001)261-270によって説明されている。一過性発現は、例えば、Durocher, Y., et al., Nucl. Acids. Res. 30(2002)E9によって説明されている。可変ドメインのクローニングは、Orlandi, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86(1989)3833-3837;Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89(1992)4285-4289;およびNorderhaug, L., et al., J. Immunol. Methods 204(1997)77-87によって説明されている。好ましい一過性発現系(HEK 293)は、Schlaeger, E.-J., and Christensen, K., Cytotechnology 30(1999)71-83およびSchlaeger, E.-J., J. Immunol. Methods 194(1996)191-199によって説明されている。
【0120】
例えば、原核生物に適した制御配列には、プロモーター、任意でオペレーター配列、およびリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー、およびポリアデニル化シグナルを使用することが公知である。
【0121】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係で配置されている場合、「機能的に連結」されている。例えば、プレ配列もしくは分泌リーダーのDNAは、あるポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、そのポリペプチドのDNAに機能的に連結されており;プロモーターもしくはエンハンサーは、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、そのコード配列に機能的に連結されており;または、リボソーム結合部位は、翻訳を促進するように配置されている場合、コード配列に機能的に連結されている。一般に、「機能的に連結される」とは、連結されるDNA配列が隣接していていること、分泌リーダーの場合、隣接し、かつリーディングフレーム中にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接していなくてもよい。連結は、好都合な制限部位におけるライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合には、合成のオリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の手法に従って使用される。
【0122】
抗体の精製は、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、および当技術分野において周知の他の技術を含む標準技術によって、細胞構成要素または他の混在物、例えば、他の細胞核酸または細胞タンパク質を除去するために実施される。Ausubel, F., et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York(1987)を参照されたい。微生物タンパク質を用いるアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)、および混合モードの交換)、硫黄親和性吸着(例えば、β-メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを使用)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニルセファロース、アザアレーン親和性(aza-arenophilic)樹脂、またはm-アミノフェニルボロン酸を使用)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(例えば、Ni(II)親和性材料およびCu(II)親和性材料を使用)、サイズ排除クロマトグラフィー、ならびに電気泳動法(例えば、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)などの様々な方法が十分に確立されており、タンパク質精製のために広く普及して使用されている(Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75(1998)93-102)。
【0123】
本発明の1つの局面は、本発明による抗体を含む薬学的組成物である。本発明の別の局面は、薬学的組成物を製造するための、本発明による抗体の使用である。本発明のさらなる局面は、本発明による抗体を含む薬学的組成物を製造するための方法である。別の局面において、本発明は、本発明による抗体を含み、薬学的担体と合わせて製剤化された組成物、例えば薬学的組成物を提供する。
【0124】
本発明の1つの態様は、癌の治療のための本発明による三価の二重特異性抗体である。
【0125】
本発明の別の局面は、癌治療のための前記薬学的組成物である。
【0126】
本発明の別の局面は、癌治療のための医薬を製造するための、本発明による抗体の使用である。
【0127】
本発明の別の局面は、本発明による抗体をそのような治療を必要とする患者に投与することによって、癌に罹患している患者を治療する方法である。
【0128】
本明細書において使用される場合、「薬学的担体」は、生理学的に適合性である任意およびすべての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、ならびに等張化剤および吸収遅延剤などを含む。好ましくは、担体は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、非経口投与、脊髄投与、または表皮投与(例えば、注射または輸注による)に適している。
【0129】
本発明の組成物は、当技術分野において公知の様々な方法によって投与することができる。当業者には理解されるように、投与の経路および/または様式は、所望の結果に応じて異なる。ある種の投与経路によって本発明の化合物を投与するために、化合物の不活性化を防止するための材料で化合物をコーティングすること、または化合物の不活性化を防止するための材料と共に化合物を同時投与することが必要な場合がある。例えば、適切な担体、例えば、リポソーム、または希釈剤中に入れて、化合物を対象に投与してもよい。薬学的に許容される希釈剤には、生理食塩水および水性緩衝溶液が含まれる。薬学的担体には、無菌の水溶液または分散液、および無菌の注射液剤または分散剤を用時調製するための無菌粉末が含まれる。薬学的に活性な物質に対してこのような媒体および作用物質を使用することは、当技術分野において公知である。
【0130】
「非経口投与」および「非経口的に投与される」という語句は、本明細書において使用される場合、経腸投与および局所投与以外の、通常は注射による投与様式を意味し、非限定的に、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、および胸骨内の注射および輸注を含む。
【0131】
本明細書において使用される癌という用語は、増殖性疾患、例えば、リンパ腫、リンパ性白血病、肺癌、非小細胞肺(NSCL)癌、細気管支肺胞上皮肺癌、骨癌、膵癌、皮膚癌、頭部または頸部の癌、皮膚黒色腫または眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、胃の癌、結腸癌、乳癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、腟癌、外陰癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌または尿管癌、腎細胞癌、腎う癌、中皮腫、肝細胞癌、胆道癌、中枢神経系(CNS)の新生物、脊椎腫瘍、脳幹神経膠腫、多形性神経膠芽腫、星状細胞腫、神経鞘腫、上衣腫、髄芽細胞腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫、およびユーイング肉腫を意味し、上記の癌のいずれかの難治性変種または上記の癌のうちの1種もしくは複数種の組合せを含む。
【0132】
これらの組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などの補助剤も含んでよい。微生物の存在の防止は、前記の滅菌手順、ならびに様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、およびソルビン酸などを含めることの両方によって徹底することができる。また、糖および塩化ナトリウムなどの等張化剤を組成物中に含めることが望ましい場合もある。さらに、注射可能な薬剤形態の長期吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなど吸収を遅延させる作用物質を含めることによって実現することができる。
【0133】
選択された投与経路に関わらず、適切な水和型で使用され得る本発明の化合物、および/または本発明の薬学的組成物は、当業者に公知である従来の方法によって、薬学的に許容される剤形に製剤化される。
【0134】
本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、患者に毒性とならずに、個々の患者、組成物、および投与様式にとって望ましい治療応答を達成するのに有効である量の活性成分を得られるように変更することができる。選択される投薬量レベルは、使用される本発明の個々の組成物の活性、投与経路、投与時間、使用される個々の化合物の排出速度、治療の継続期間、使用される個々の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物、および/または材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全体的健康状態、および以前の病歴、ならびに医薬分野で周知である同様の因子を含む様々な薬物動態学的因子に依存すると考えられる。
【0135】
これらの組成物は、無菌であり、かつ注射器によって組成物を送達可能である程度に流動性でなければならない。水のほかには、担体は、好ましくは、等張性の緩衝生理食塩水である。
【0136】
適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング剤の使用、分散系の場合には必要な粒径の維持、および界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、等張化剤、例えば、糖、多価アルコール、例えばマンニトールまたはソルビトール、および塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましい。
【0137】
本明細書において使用される場合、「細胞」、「細胞株」、および「細胞培養物」という用語は交換可能に使用され、このような呼称はすべて、子孫を含む。したがって、「形質転換体」および「形質転換細胞」という単語は、転換の回数に関わらず、初代対象細胞およびそれに由来する培養物を含む。意図的な変異または偶発性の変異が原因で、すべての子孫のDNA内容物が全く同一ではない場合があることもまた、理解されている。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングされたのと同じ機能または生物活性を有する変種子孫が含まれる。異なる呼称が意図される場合、それは文脈から明らかであると考えられる。
【0138】
本明細書において使用される「形質転換」という用語は、宿主細胞中へのベクター/核酸の移行プロセスを意味する。手ごわい細胞壁障壁を持たない細胞が宿主細胞として使用される場合、トランスフェクションは、例えば、Graham, F.L., and van der Eb, A.J., Virology 52(1973)456-467によって説明されているようなリン酸カルシウム沈殿法によって実施される。しかしながら、核注入またはプロトプラスト融合など細胞中にDNAを導入するための他の方法もまた、使用され得る。原核細胞または実質的な細胞壁構築物を含む細胞が使用される場合、例えば、トランスフェクションの1つの方法は、Cohen, S.N, et al., PNAS 69(1972)2110-2114によって説明されているような塩化カルシウムを用いたカルシウム処理である。
【0139】
本明細書において使用される場合、「発現」とは、核酸がmRNAに転写されるプロセスおよび/または転写されたmRNA(転写物とも呼ばれる)が続いてペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質に翻訳されるプロセスを意味する。転写物およびコードされるポリペプチドは、まとめて遺伝子産物と呼ばれる。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来している場合、真核細胞における発現は、mRNAのスプライシングを含み得る。
【0140】
「ベクター」は、挿入された核酸分子を宿主細胞中に、かつ/または宿主細胞間で移行させる、核酸分子、特に自己複製する核酸分子である。この用語は、細胞中へのDNAまたはRNAの挿入(例えば染色体組込み)のために主として機能するベクター、DNAまたはRNAの複製のために主として機能する複製ベクター、ならびにDNAまたはRNAの転写および/または翻訳のために機能する発現ベクターを含む。また、前述の機能のうちの複数を提供するベクターも含まれる。
【0141】
「発現ベクター」は、適切な宿主細胞中に導入された場合に、転写されポリペプチドに翻訳され得るポリヌクレオチドである。「発現系」とは、通常、所望の発現産物をもたらすように機能できる発現ベクターからなる適切な宿主細胞を意味する。
【0142】
以下の実施例、配列リスト、および図面は、本発明の理解を助けるために提供され、本発明の真の範囲は添付の特許請求の範囲において説明される。本発明の精神から逸脱することなく、説明される手順に変更を加え得ることが理解される。
【実施例】
【0144】
実験手順
組換えDNA技術
Sambrook, J., et al., Molecular cloning:A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989において説明されているように、標準的方法を用いてDNAを操作した。分子生物学的試薬は、製造業者の取扱い説明書に従って使用した。
【0145】
DNAおよびタンパク質の配列解析および配列データの管理
ヒト免疫グロブリンの軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的情報は、Kabat, E.A. et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Ed., NIH Publication No 91-3242において示されている。抗体鎖のアミノ酸は、EU番号付与に従って番号を付けている(Edelman, G.M., et al., PNAS 63(1969)78-85;Kabat, E.A., et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Ed., NIH Publication No 91-3242)。GCG(Genetics Computer Group, Madison, Wisconsin)のソフトウェアパッケージバージョン10.2およびInfomaxのVector NTI Advance suiteバージョン8.0を、配列の作製、マッピング、解析、アノテーション、および図示のために使用した。
【0146】
DNA配列決定
DNA配列は、SequiServe(Vaterstetten, Germany)およびGeneart AG(Regensburg, Germany)で実施された二重鎖配列決定によって決定した。
【0147】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントは、合成オリゴヌクレオチドおよび自動遺伝子合成によるPCR産物から、Geneart AG(Regensburg, Germany)が調製した。独特な制限エンドヌクレアーゼ切断部位にはさまれたこれらの遺伝子セグメントをpGA18(ampR)プラスミド中にクローニングした。形質転換された細菌からプラスミドDNAを精製し、UV分光法によって濃度を測定した。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列をDNA配列決定によって確認した。適切な場合およびまたは必要な場合には、5'-BamHI制限部位および3'-XbaI制限部位を使用した。構築物はすべて、真核細胞において分泌するようにタンパク質を導くリーダーペプチドをコードする5'末端DNA配列を用いて設計した。
【0148】
発現プラスミドの構築
重鎖VHまたはVL融合タンパク質および軽鎖タンパク質をコードする発現プラスミドのいずれの構築にも、Roche製の発現ベクターを使用した。このベクターは以下のエレメントから構成される:
・選択マーカーとしてのヒグロマイシン耐性遺伝子、
・エプスタイン・バー(Epstein-Barr)ウイルス(EBV)の複製起点oriP、
・大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にする、ベクターpUC18由来の複製起点、
・大腸菌にアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子、
・ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
・ヒト1-免疫グロブリンポリアデニル化(「ポリA」)シグナル配列、ならびに
-独特のBamHI制限部位およびXbaI制限部位。
【0149】
免疫グロブリン融合遺伝子を遺伝子合成によって調製し、説明したようにpGA18(ampR)プラスミド中にクローニングした。合成されたDNAセグメントを有するpG18(ampR)プラスミドおよびRoche製発現ベクターを、BamHI制限酵素およびXbaI制限酵素(Roche Molecular Biochemicals)で消化し、アガロースゲル電気泳動に供した。次いで、重鎖および軽鎖をコードする精製したDNAセグメントを、単離したRoche製発現ベクターのBamHI/XbaI断片に連結して、最終的な発現ベクターを得た。この最終的な発現ベクターを大腸菌細胞に形質転換し、発現プラスミドDNAを単離し(ミニプレップ)(Miniprep)、制限酵素解析およびDNA配列決定に供した。正確なクローンをLB-Amp培地150ml中で増殖させ、再びプラスミドDNAを単離し(マキシプレップ)(Maxiprep)、配列の完全性をDNA配列決定によって確認した。
【0150】
HEK293細胞における免疫グロブリン変種の一過性発現
製造業者の取扱い説明書に従って(Invitrogen, USA)FreeStyle(商標)293発現系(Expression System)を用いて、ヒト胚性腎臓293-F細胞を一過性トランスフェクションすることによって、組換え免疫グロブリン変種を発現させた。簡単に説明すると、懸濁させたFreeStyle(商標)293-F細胞を、37℃/8%CO
2、FreeStyle(商標)293発現培地中で培養し、トランスフェクション実施日に、新鮮な培地中に生細胞1〜2×10
6個/mlの密度でこれらの細胞を播種した。最終トランスフェクション体積250mlに対して293fectin(商標)(Invitrogen, Germany)325μlと1:1のモル比率の重鎖および軽鎖のプラスミドDNA 250μgを用いて、DNA-293fectin(商標)複合体をOpti-MEM(登録商標)I培地(Invitrogen, USA)中で調製した。最終トランスフェクション体積250mlに対して293fectin(商標)(Invitrogen, Germany)325μlと1:1:2のモル比率の「ノブイントゥーホール」重鎖1および2ならびに軽鎖のプラスミドDNA 250μgを用いて、「ノブイントゥーホール」DNA-293fectin複合体をOpti-MEM(登録商標)I培地(Invitrogen, USA)中で調製した。トランスフェクション後7日目に、14000gで30分間遠心分離することによって、抗体を含む細胞培養上清を回収し、滅菌フィルター(0.22μm)に通してろ過した。精製するまで、上清を-20℃で保存した。
【0151】
二重特異性抗体および対照抗体の精製
Protein A-Sepharose(商標)(GE Healthcare, Sweden)を用いたアフィニティークロマトグラフィーおよびSuperdex200サイズ排除クロマトグラフィーによって、二重特異性抗体および対照抗体を細胞培養上清から精製した。簡単に説明すると、ろ過した滅菌済み細胞培養上清を、PBS緩衝液(10mM Na
2HPO
4、1mM KH
2PO
4、137mM NaCl、および2.7mM KCl、pH7.4)で平衡にしたHiTrap ProteinA HP(5ml)カラムに添加した。未結合タンパク質は、平衡緩衝液で洗い流した。0.1Mクエン酸緩衝液、pH2.8を用いて抗体および抗体変種を溶出させ、0.1mlの1M Tris、pH8.5を用いてタンパク質含有画分を中和した。次いで、溶出させたタンパク質画分を集め、Amicon Ultra遠心ろ過装置(MWCO:30K、Millipore)を用いて体積3mlまで濃縮し、20mMヒスチジン(Histidin)、140mM NaCl、pH6.0で平衡化したSuperdex200 HiLoad 120ml 16/60ゲルろ過カラム(GE Healthcare, Sweden)に載せた。高分子量凝集物が5%未満である、精製された二重特異性抗体および対照抗体を含む画分を集め、1.0mg/mlの分取物として-80℃で保存した。
【0152】
精製タンパク質の解析
280nmにおける光学濃度(OD)を測定し、アミノ酸配列に基づいて算出したモル吸光係数を用いることによって、精製タンパク質試料のタンパク質濃度を決定した。還元剤(5mM 1,4-ジチオトレイトール)の存在下および不在下でのSDS-PAGEならびにクーマシーブリリアントブルーを用いた染色によって、二重特異性抗体および対照抗体の純度および分子量を解析した。NuPAGE(登録商標)Pre-Castゲルシステム(Invitrogen, USA)を製造業者の取扱い説明書に従って使用した(4〜20% Tris-グリシンゲル)。二重特異性抗体試料および対照抗体試料の凝集物含有量を、25℃で、ランニング緩衝液(200mM KH
2PO
4、250mM KCl、pH 7.0)を流したSuperdex 200分析用サイズ排除カラム(GE Healthcare, Sweden)を用いた高速SECによって解析した。タンパク質25μgを流速0.5ml/分でカラムに注入し、50分間に渡って無勾配で溶出させた。安定性を解析するために、濃度1mg/mlの精製タンパク質を4℃および40℃で7日間インキュベートし、次いで、高速SECによって評価した。ペプチド-N-グリコシダーゼF(Roche Molecular Biochemicals)を用いた酵素処理によってN-グリカンを除去した後、還元された二重特異性抗体の軽鎖および重鎖のアミノ酸主鎖の完全性をNanoElectrospray Q-TOF質量分析法によって検証した。
【0153】
実施例1
本発明による二重特異性抗体の設計
本発明者らは、第1の試みにおいて、第2の抗原に特異的な第2の結合部分として1つの付加的なFvを有する、第1の抗原に結合する完全長抗体に基づく誘導体を生成させた(
図2aを参照されたい)。本発明者らは、VHCys44とVLCys100の間に鎖間ジスルフィドを導入した。参考文献は、17〜18頁のA〜Mを参照されたい。dsFvのVHCys44は、完全長抗体の第1の重鎖のCH3ドメインに融合し、対応するVLCys100モジュールは、完全長抗体の第2の重鎖のCH3ドメインに融合した。
【0154】
dsFvが、細菌封入体のリフォールディングまたは周辺質分泌により、別々に発現されたモジュールからまずまずの収率で組み立てられ得ることが以前に示された(WO 94/029350、US 5,747,654、Rajagopal, V., et al., Prot. Engin. 10(1997)1453-1459;Reiter, Y., et al., Nature Biotechnology 14(1996)1239-1245;Reiter, Y., et al., Protein Engineering;8(1995)1323-1331;Webber, K.O., et al.
, Molecular Immunology 32(1995)249-258;Reiter, Y., et al., Immunity 2(1995)281-287;Reiter, Y., et al., JBC 269(1994)18327-18331;Reiter, Y., et al., Inter. J. of Cancer 58(1994)142-149;Reiter, Y., Cancer Res. 54(1994)2714-2718)。
【0155】
哺乳動物分泌系においてリンカーのない(linkerless)dsFvを作製することに関する1つのボトルネックは、シャペロンの助けなしでのVHドメインおよびVLドメインの無駄な組立てである可能性がある:dsFv構成要素は、BIPによって認識される定常領域を含まない。(
図4bを参照されたい)。この制約を克服するために、本発明者らは、中間体を介したVHドメインおよびVLドメインの組立てに取り組んだ(
図4c)。したがって、本発明者らは、dsFvの一方の構成要素(VHまたはVL)を、コネクターペプチドを介して一方のH鎖のC末端と連結し、対応する他方の構成要素を、別のコネクターペプチド(ただし、細胞中で発現中に(例えばフューリンによって)切断され得るか、またはインビトロで精製後に切断され得る、1つまたは複数のプロテアーゼ切断部位を含む)によって第2のH鎖のC末端と連結した。(
図2aに示す抗体の)中間体二重特異性抗体の例を
図2dに示す。
【0156】
このアプローチの理論的根拠は、H鎖を効果的に二量体化することにより、dsFv構成要素を引き合わせ、そのヘテロ二量体化を容易にするというものであった。2つのVHモジュールまたは2つのVLモジュールを含む分子の非生産的組立てを減らすために、相補的ノブイントゥーホール変異をIgGのH鎖中に設定した(set)。これらの変異は、異なるH鎖のヘテロ二量体化を強いるためにMerchant, A.M., et al., Nat Biotechnol 16(1998)677-681およびRidgway, J.B., et al., Protein Eng 9(1996)617-621によって考案されたものであり、一方のH鎖におけるT366W変異ならびに対応する他方の鎖におけるT366S変異、L368A変異、およびY407V変異からなる。dsFvを含む二重特異性物(bispecifics)を作製するための本発明者らの設計では、VHCys44に融合されているCH3ドメイン上に「ノブ」を有し、相補的な「ホール」は、VLCys100を有するH鎖中に導入した。
【0157】
ヘテロ二量体dsFvの両方の構成要素をCH3につなぐ。かさ高いCH3ドメインにVHおよびVLのN末端をこのように同時に結合させても、Fvの構造は影響を受けない。しかしながら、CDR領域はCH3が位置している方向に向くため、状況に応じて(例えば、リンカーの長さまたはそれぞれの抗原構造に応じて)抗原に対する接近容易性が制限される場合がある。さらに、2つの連結箇所でつながれているため、Fvが回転するか、またはCH3の隣に移動する自由は、極めて限られた程度しか残らない。そのため、抗原はCH3とFvの間に割り込む必要がある。このことは、抗原への接近容易性に影響を及ぼし親和性を低減させる可能性がある。本発明者らは実際に、二重特異性抗体の二重連結されたdsFv部分においてこのことを認めた(表2のSPRデータを参照されたい)。立体障害に起因する抗原接近容易性の問題と一致して、親和性測定により、二重につながれたdsFvの結合速度が有意に低下していることが明らかになった。それでもなお、抗原が一旦結合すると、解離速度は未改変抗体のものと同じであることから、Fvの構造の完全性は損なわれていないと思われる。二重特異性抗体のIgG様接近可能アーム(予想通り、最大限の親和性を有する)の結合に関する親和性の値、ならびに二重につながれた付加的なdsFvの親和性の値を表2に列挙する。本発明者らは、二重につないだ後の立体障害が原因で結合速度が低下しているdsFvモジュールに対して、「制限的な結合モードまたは低減された結合モード」という用語を使用する。
【0158】
例示的に、以下の中間体抗体の配列に基づき、本発明者らは、発現および精製発現
後にプロセシングされる一方のリンカーを切断することにより、ジスルフィドによって安定化されたFv断片の1つのドメインのみを介して完全長抗体に連結されている本発明による抗体を組換えによって発現させることができた(
図2および下記の実験の説明も参照されたい)。
【0159】
例示的に、以下の中間体抗体の配列に基づき、本発明者らは、発現
中にプロセシングされる一方のリンカーを切断することにより、ジスルフィドによって安定化されたFv断片の1つのドメインのみを介して完全長抗体に連結されている本発明による抗体を組換えによって発現させることができた(
図2および下記の実験の説明も参照されたい)。
【0160】
実施例2
a)2段階プロセスまたは1段階プロセスの本発明による二重特異性抗体の発現および精製
2段階プロセス:
段階1:一過性発現
分泌性の二重特異性抗体誘導体を作製するために、一過性発現を利用した。L鎖をコードするプラスミドおよび改変されたH鎖をコードするプラスミドをHEK293浮遊細胞中に同時トランスフェクトした。分泌された抗体誘導体を含む培養上清を1週間後に回収した。収率に影響を与えることなく、精製前にこれらの上清を凍結し-20℃で保存することができた。従来のIgGと同じ様式でプロテインAおよびSECによって二重特異性抗体を上清から精製した。このことから、これらの二重特異性抗体がプロテインAに結合する能力を十分に有することが分かる。細胞培養上清における発現収率は、一過性に発現させた未改変抗体よりも低かったが、それでもなお、まずまずの範囲内であった。全精製工程の完了後、収率が4mg/L〜10mg/Lの間の均質なタンパク質が得られた。付加的なdsFv部分のVHとVLの間にペプチドリンカーがないことにもかかわらず、安定性の解析において、濃度依存性または温度依存性の異常な崩壊または凝集の徴候は示されなかった。これらのタンパク質は安定であり、凍結解凍への耐性が十分にあった。還元条件下および非還元条件下における三価の二重特異性抗体誘導体およびそれらの構成要素の大きさ、均質性、および組成を
図5および
図6に示す。各タンパク質のアイデンティティおよび組成を、質量分析法によって確認した(表1)。
【0161】
CH3ドメインにdsFv構成要素を二重につなぐことにより、抗原の接近が減少し、それによって、dsFvの機能性が不活性化される。1つのコネクターペプチドの周りをFvが自由に回転できれば、抗原への接近が劇的に増える可能性が高いと思われるが、dsFvは2つの連結点で融合されているため、高い可動性を持つことも、大きく回転することもできない。このような制限的なdsFv部分の不活性化された結合機能性を再活性化するために、本発明者らは、コネクターペプチのうちの一方に特異的プロテアーゼ認識部位を導入した(
図4dに概略的に示す)。このアプローチに関する本発明者らの理論的根拠は、2つの連結のうちの1つだけを解除するためにタンパク質分解切断を利用するというものであった。タンパク質分解プロセシングをした際、dsFvは依然として、他方のコネクターによって二重特異性抗体のIgG主鎖に共有結合的に連結されているはずである。しかし、二重連結とは異なり、たった1つの可動性の連結点で結合されているため、可動性が向上して、抗原への接近を容易にする自由な回転が可能になり得る。
図1bは、プロテアーゼによるプロセシングを可能にするために本発明者らが利用した様々なコネクター配列を示す。標準的な切断不可能コネクターは、様々なドメインから構成される融合タンパク質の作製のためにしばしば使用されているモチーフであるGly4Serリピート6個から構成されている。タンパク質分解プロセシングのために、本発明者らは、このコネクターの中心領域に特異的認識配列を導入した。
【0162】
一方のコネクターは、プレシジョンプロテアーゼによって切断される部位を含む。このプロテアーゼは、制限的な形態で発現されるFvモジュールの機能の抑制を解くことができる。プレシジョンプロテアーゼ(GE Healthcareカタログ番号27-0843-01)は、ヒトライノウイルス3CプロテアーゼおよびGSTからなる、遺伝学的に操作された融合タンパク質である。このプロテアーゼは、プロテアーゼの固定とpGEX-6PベクターpGEX-6P-1、pGEX-6P-2、およびpGEX-6P-3を用いて作製されたGST融合タンパク質の切断を同時に起こすことを可能にすることによりプロテアーゼの除去を容易にするように、特に設計された。
pGEX Vectors(GST Gene Fusion System)を参照されたい。プレシジョンプロテアーゼは、認識配列LeuGluValLeuPheGln/GlyProのGln残基とGly残基の間を特異的に切断する(Walker, P.A., et al., BIO/TECHNOLOGY 12,(1994)601-605;Cordingley, M.G. et al., J. Biol. Chem. 265,(1990)9062-9065)。
【0163】
段階2:タンパク質分解プロセシング(切断)
プレシジョンによるプロセシングは、精製後または精製中に適用することができる。
【0164】
1段階プロセス:
発現段階中のタンパク質分解切断を実現させるために、本発明者らは、フューリンによって認識および切断され得るリンカー配列を使用した。フューリンは、HEK293を含む哺乳動物細胞のエンドソーム区画および分泌区画、ならびにトランスゴルジ網中に存在するプロテアーゼである。本発明者らは、発現プロセス期間内のdsFvプロセシングを可能にするためにこのようなプロテアーゼ部位を選択した。制限的なdsFvを有する二重特異性実体は、分泌される間にフューリンに遭遇する。それによって、すでに切断された完全に機能的なタンパク質が細胞によって作り出され得る。
【0165】
プレシジョン部位を含む二重特異性抗体は、制限的な形態で発現され、後のプロセシングにおいて活性化され得る
制限的な結合モジュールを含む二重特異性抗体形態の1つの応用は、制限的な形態でそれらを発現させ、後のプロセシングにおける1つの段階としてそれらを後で活性化することである。この応用は、高活性の結合モジュールが、例えば、最大限に機能が発揮されると細胞増殖、分泌プロセスを妨げると思われるか、または産生細胞に毒性であることが原因で発現に問題を起こす場合に有利である。
【0166】
この設定の例として、本発明者らは、制限的なcMet dsFvモジュールを有するHer3-cMet二重特異性抗体を発現させ、精製し、続いて、プレシジョンによるプロセシングによってdsFv活性の抑制を解いた。
図5は、発現および細胞培養上清からの精製後に、H鎖にしっかりと連結されたdsFvの構成要素を有する二重特異性Her3-cMet実体が得られることを示す。還元下SDS-PAGEにより、(Her3実体の標準的なL鎖に加えて)、65kDの高さの位置にタンパク質の(二本の)バンドが存在することが示されている。このバンドは、付加的なコネクターペプチド(2kd)およびVHドメインまたはVLドメイン(13kD)をC末端に有するH鎖(50kd)に相当する。
【0167】
Her3に対して十分に接近可能な結合実体に対する(プレシジョンによるプロセシングの前の)これらの二重特異性分子の親和性は、野生型抗体のものと同じである(表1)。一方、cMetに対する制限的なdsFv部分の親和性は、立体障害が原因で弱まっている。Biacore解析により、野生型Fabの親和性の20分の1未満に低減した親和性が示されている(表1)。
【0168】
(表1)二重特異性抗体誘導体の例示的な発現および精製
【0169】
CH3とVLの間のコネクター内のプレシジョン部位を切断することにより、dsFvの制限が解かれ、dsFvが1つのコネクターのみによってIgGに結合されている分子が生じる。還元下のSDS-PAGEにより、切断後、伸長されたH鎖のうちの一方が通常の大きさ(52kd)および13kの付加的なVLドメインに変換されることが判明する(
図6aを参照されたい)。切断されるものの、分子は、安定なジスルフィド結合によって引き続き結合しており、これはサイズ排除クロマトグラフィーおよび質量分析法によって示されている。
【0170】
制限的な形態の二重特異性抗体およびプロセシングされた形態の二重特異性抗体の親和性の比較を表2に記載する:予想される通り、dsFv部分におけるプロセシングによって、以前より既に十分に接近可能な抗原Her3に対する結合は変化しなかった。他方、切断によって立体障害を取り除くこと(resolvation)により、一方のコネクターにおいて、リンカーのないdsFvモジュールの結合速度が大きく改善した:解放されたdsFvの親和性は、30倍超に改善し、親抗体の親和性レベルまで完全に回復した(表2)。
【0171】
(表2)本発明による二重特異性抗体誘導体の結合親和性(および親抗体との比較、ならびに(例えばプレシジョン部位に関して)可能な場合には、プロテアーゼ切断前の対応する中間体との比較)
【0172】
フューリン部位を含む二重特異性抗体は、発現中に効果的にプロセシングされ、リンカーのないdsFvの完全な機能を示す
コネクター内のフューリン部位は、リンカーのないdsFvを含み非制限的な機能を有する二重特異性抗体を直接的に発現させるために使用することができる。フューリンは、トランスゴルジ網中の細胞内小胞および分泌小胞、ならびに場合によっては多くの哺乳動物細胞(例えば、これらの実験で使用されるHEK293)の細胞表面上に存在する。しばしば、その認識部位はモチーフRXK/RRを含み、これらは、プロTGFβ1またはプロフォンウィレブランド因子などの様々な分泌された前駆体タンパク質中に存在する。したがって、本発明者らは、コネクター配列を含む2種のフューリン部位を作製するためにこれらの認識配列を選択した(フューリンに特異的なプロテアーゼ切断部位変種1−SEQ ID NO:13のFS1およびフューリンに特異的なプロテアーゼ切断部位変種2−SEQ ID NO:14のFS2)。
【0173】
フューリンはトランスゴルジ網中および分泌小胞中に存在するため、産生中に細胞内で切断が起こることができる。本発明者らが得た、フューリンによってプロセシングされた非制限的かつ完全に機能的な分子の発現収率は、制限的な分子について観察されたものと同様であった(表1)。これは、dsFvが、フューリン活性を有する区画に遭遇する前に完全にフォールディングされ組み立てられるからである。
図5および
図6bから、発現および精製後に、既に定量的にプロセシングされている分子が得られることが分かる。還元下のPAGEにより、(標準的な<Her3>L鎖に加えて)、dsFvのVHを有する65kDの伸長されたH鎖1本およびフューリンによって通常の大きさ(52kd)に変換された別のH鎖が示される。13kDの付加的なVLドメインもまた、検出可能である。精製手順がプロテインAおよびSEC(両方とも、連結されていないVLドメインは回収しない)を含むため、これらのドメインの検出により、完全にプロセシングされた機能的二重特異性物の生成が示唆される。サイズ排除クロマトグラフィーおよび質量分析法により、すべてのドメインが安定なジスルフィドによって一つにまとめられていることがさらに確認された(
図2および
図3に概略的に示す)。
【0174】
フューリンを介したプロセシングが発現プロセス中に起こるため、精製後に得られる調製物は、リンカーのない完全に活性なdsFvを有する解放された形態の二重特異性実体から構成されるはずである。SPR解析によってこれを確認することができた(表2)。二重特異性抗体の結合実体すべて、Her3を認識するもの、ならびにcMetに結合するdsFvは、非制限的な結合能力を有する。Her3およびcMetに対するそれらの親和性は、未改変抗体またはFabのものと同等である(表2)。
【0175】
哺乳動物細胞における発現中に起こる二重特異性抗体誘導体のフューリンによるプロセシングを解析するための質量分析法の適用
本発明者らがこの適用において説明する二重特異性抗体誘導体は、前駆型としてのタンパク質に翻訳される。これらは、非制限的形態に変換されるためには、産生細胞の分泌経路内でフューリンによって切断される必要がある。二重特異性抗体の制限的前駆型から非制限的分子へのフューリンを介した変換の程度を測定するために、本発明者らは質量分析法を適用した。この技術を用いて、タンパク質およびタンパク質断片の正確な分子量を測定することができる。
【0176】
質量分析解析の前に、スペクトルの複雑さを減らしデータの解釈を容易にするために、N-グリコシダーゼFを用いた標準的プロトコールを適用して、抗体を脱グリコシル化した。データ解釈を容易にするさらなる手段として、解析しようとする分子をIdeSプロテアーゼによって切断して、ジスルフィドによって架橋されたFc断片およびF(ab)
2断片にした。続いて、TCEPを用いてこれらの断片を還元し、様々な構成要素を分離させて、同定および特徴付けを容易にした。その結果、関連するフューリン切断事象が、脱グリコシル化され還元されたIdeS由来のFc断片の所定の質量として検出可能となる。
【0177】
これらの試料を脱塩し、続いて、四重極飛行時間型機器(Q-Star(ABI, Darmstadt)またはMaxis(Waters, Manchester)を用いたエレクトロスプレーイオン化法(ESI)質量分析に供した。NanoMateシステム(Triversa NanoMate System, Advion, Ithaka, USA)を用いて、試料をESIナノスプレー供給源に添加した。安定したスプレー、適切な脱溶媒和をもたらし、分析物の断片化をもたらさない標準的なMSプロトコールを用いて、これらの試料を、脱グリコシル化され還元された抗体に関して解析した。質量スペクトルは、5秒のスキャン時間を用いて取得した。
【0178】
これらの解析の結果から、前駆型として翻訳される二重特異性抗体誘導体は、その後、産生細胞の分泌経路内でフューリンによってプロセシングされることが示される。タンパク質調製物Her3_MetSS_KHSS_FS1およびHer3_MetSS_KHSS_FS2は、コネクター内部(FS1の場合はSEQ ID NO:2の重鎖融合タンパク質中、FS2の場合はSEQ ID NO:4の重鎖融合タンパク質中)に挿入された2種の異なるフューリン認識配列を有する。両方の調製物において、フューリンによる完全なプロセシングが観察され、プロセシングされていない前駆体断片(伸長されたIdeS-Fc断片)は検出することができなかった。さらに、本発明者らによる質量解析により、フューリンによって切断されたタンパク質モジュールのカルボキシ末端がさらにプロセシングされていることが示唆された。切断部位の前にあり(preceeded)、フューリン認識配列の一部分を形成するアルギニン残基および/またはリジン残基は、フューリンによってプロセシングされた産物から定量的に除去されていた。
【0179】
本発明者らが解析した二重特異性抗体誘導体の別のタンパク質調製物は、長さが短くなったコネクター配列を有していた(Her3-cMet-3C-FS1)。
【0180】
この調製物においてもやはり、フューリンによるプロセシングの産物がはっきりと検出された。さらに、前述したのと同じように、フューリン認識配列の前にあり(preceeded)、その一部分を形成するアルギニン残基および/またはリジン残基が、フューリンによってプロセシングされた産物から同様に定量的に除去されていた。この調製物は、フューリンによってプロセシングされた産物に加えて、付加的な伸長されたFc断片も含んでいた。このことから、このタンパク質バッチが、いくらかのプロセシングされていない前駆体分子を引き続き含んでいたことが示唆される。
【0181】
このHer3-cMet-3C-FS1調製物において、プロセシングされていない前駆体分子の存在に対してプロセシングの程度をさらに解析するために、還元条件下でSDS-PAGE解析を実施した。これらの解析の結果(
図9)から、この調製物に関しても有意な程度のフューリンプロセシングがなされたことが示唆される:フューリンによる切断の結果、伸長されたH鎖(63kD)のうちの1本だけが正常サイズ(50kD)のH鎖に変換され、12kDのタンパク質断片が放出される。このプロセシングプロセスの両方の産物をはっきりと検出することができる。
【0182】
完全にプロセシングされた産物とプロセシングされていない任意の残存する前駆体材料との比は、この方法によって正確に決定することはできない。相補的な(切断不可能な)伸長されたH鎖が、ゲルの同じ位置に前駆体として位置することがその原因である。しかしながら、プロセシングされた産物が検出可能な量であること、特に、12kD断片(サイズが小さいため、大型のタンパク質断片よりも可視化するのがはるかに難しい)がはっきりと可視化できることから、かなり効果的なプロセシングがこの調製時にさえ起こったことが示唆される。
【0183】
本発明によって得られた二重特異性抗体の機能性
本発明によって得られた二重特異性抗体(ジスルフィドによって安定化されたFv断片の1つのドメインのみを介して完全長抗体に連結されている)の機能性を細胞アッセイ法においてさらに調査した:FACS実験(
図7)により、二重特異性抗体の非制限的なアームは、Her3を発現する癌細胞に特異的に結合し、そのような細胞上での蓄積を引き起こすことが示された。制限的なdsFv cMetモジュールおよび解放されたdsFv cMetモジュールの結合を、cMetを発現するA549細胞において同様に、FACSによって解析した。
図7は、発現中のフューリンによる切断または発現後のプレシジョンによる切断により、制限的なdsFvモジュールと比べて、A549細胞におけるc-Met依存性の蓄積が有意に改善することを示す。さらに、cMetモジュールの場合、シグナル伝達経路の邪魔に関する機能性を、cMetを認識する解放されたdsFvモジュールについて実証することができた:(フューリンによる切断またはプレシジョンによる切断を介した)非制限的なcMet dsFvは、親抗体に由来する一価のFabと同じくらい効率的に、HGFを介したACTシグナル伝達を妨害した(
図8)。一方、制限的なdsFvモジュールは、活性が劇的に低下しており、これはその親和性の低減と相関関係があった。
【0184】
実施例3
発現中にプロセシングされるその他の二重特異性抗体の作製および生化学的特徴付け
本発明による二重特異性抗体の設計および作製方法は一般化できることを実証するために、本発明者らは、様々なさらなる二重特異性抗体を設計し、作製し、特徴付けた。これらはすべて、フューリンによって切断可能な1つのペプチド配列および切断不可能な1つのペプチド配列によってIgG誘導体に連結されている(前述した)ジスルフィドによって安定化されたFv実体を含む前駆体分子として生成された。これらの二重特異性抗体誘導体は、腫瘍上の細胞表面抗原(標的1)ならびに抗ジゴキシゲニン結合実体(標的2)を対象とする(address)結合分子から構成された。細胞表面のターゲティング特異性は、癌関連LeY炭水化物抗原(LeY)、同じく癌細胞上で発現されるCD22抗原、CD33抗原、Her2抗原、もしくはIGF1R抗原、または多くの腫瘍で発現されるVEGFR2のいずれかを対象とした。これらの結合特異性を有する抗体、ならびに対応するジゴキシゲニン(Dig)結合抗体誘導体の配列は、以前に説明されており(WO 2011/003557を参照されたい)、それらから得ることができる。本発明による2つの機能性を備えた組合せ分子の組成を
図10に例示的に示す。
【0185】
フューリンによってプロセシングされたこれらの二重特異性抗体誘導体の発現および精製は、実施例2で説明したようにして実施した。細胞培養上清1リットル当たりの発現収量は、多くの未改変抗体について観察されるものと同じ範囲(7〜40mg/L)であった。二重特異性抗体誘導体はすべて、均質になるまで精製することができ、タンパク質調製物はすべて、凝集物をまったく含まないか、またはごく少量しか含まなかった。
図11のこれらの調製物のSEC解析によって示されるように、多くの調製物において、凝集物はまったく検出することができなかった。培養上清1リットル当たりの精製された均質な抗体の発現収量は、LeY-Digについては15mg/L、CD22-Digについては19.5mg/L、CD33-Digについては40mg/L、VEGFR2-Digについては40.2mg/L、Her2-Digについては25mg/L、およびIGF1R-Digについては7mg/Lであった。
【0186】
dsFvをIgG主鎖に融合させるペプチドコネクターの一方にフューリン認識部位が存在することにより、所望のとおり、発現プロセス中に完全なタンパク質分解プロセシングが起こる。これは、還元下のSDS-PAGE解析および非還元下のSDS-PAGE解析によって実証された:ジスルフィドによって結合されたサイズの大きな二重特異性抗体が非還元条件下で認められ、これらは還元されると、予想される分子量を有する別々の鎖に分かれる(
図12)。フューリンによる切断の結果、伸長されたH鎖(63kD)のうちの1本だけが正常サイズ(50kD)のH鎖に変換され、12kDのタンパク質断片が放出される。このプロセシングプロセスの両方の産物を、還元ゲル中ではっきりと検出することができる。
【0187】
タンパク質産物の定められた組成および均質性を質量分析法(
図13)によってさらに確認して、タンパク質およびタンパク質断片の正確な分子量を決定した。質量分析解析の前に、スペクトルの複雑さを減らしデータの解釈を容易にするために、N-グリコシダーゼFを用いた標準的プロトコールを適用して、抗体を脱グリコシル化した。データ解釈を容易にするさらなる手段として、解析しようとする分子をIdeSプロテアーゼによって切断して、ジスルフィドによって架橋されたFc断片およびF(ab)
2断片にした。続いて、前述したように、TCEPを用いてこれらの断片を還元し、様々な構成要素を分離させて、同定および特徴付けを容易にし、その後、脱塩し、続いてエレクトロスプレーイオン化法(ESI)質量分析に供した。これらの解析の結果から、前駆型として翻訳される解析した二重特異性抗体誘導体はすべて、その後、産生細胞の分泌経路内でフューリンによってプロセシングされることが示される。これらのタンパク質調製物は、(検出限界の範囲内で)フューリンによる完全なプロセシングを示し、プロセシングされていない前駆体断片(伸長されたIdeS-Fc断片)は検出することができなかった。さらに、本発明者らによる質量解析により、フューリンによって切断されたタンパク質モジュールのカルボキシ末端がさらにプロセシングされていることが示唆された。切断部位の前にあり、フューリン認識配列の一部分を形成するアルギニン残基および/またはリジン残基は、フューリンによってプロセシングされた産物から定量的に除去されていた。
【0188】
これらの結果から、本発明による二重特異性抗体の本発明者らによる設計および作製方法は一般化できることが分かる:コネクターペプチド内にフューリン認識部位を含む様々な二重特異性抗体を生成させ、作製し、均質になるまで精製することができる。
【0189】
実施例Y
発現中にプロセシングされるその他の二重特異性抗体の機能的特徴付け
その他の二重特異性抗体(ジスルフィドによって安定化されたFv断片の1つのドメインのみを介して完全長抗体に連結されている)の機能性を、表面プラズモン共鳴を用いた結合アッセイ法において調査した。フューリンを介したプロセシングが発現プロセス中に起こるため、精製後に得られる調製物は、リンカーのない完全に活性なdsFvを有する二重特異性実体から構成されるはずである。二重特異性抗体の結合実体すべてならびにジゴキシゲニンに結合するdsFvが非制限的な結合能力を有することを示すSPR解析によって、完全な結合能力が確認された。標的抗原1に対する親和性と標的抗原2であるジゴキシゲニンに対する親和性は、未改変抗体またはFabのものと同等である。例えば、親抗体と比べた、本発明による二重特異性抗体誘導体のジゴキシゲニン化されたペイロードに対する個々の結合親和性は、対照分子の場合はKdが22nMであり、フューリンによってプロセシングされた分子の場合はKdが19nMであった(
図14)。さらに、
図14bおよび
図15bに示すこれらのSPR実験から、二重特異性抗体誘導体が2種の異なる抗原に同時に結合することがはっきりと実証された。これは、標的抗原1のLeYならびにCD22に関して示された(
図14および
図15)。
【0190】
LeYならびにDigに結合する二重特異性抗体(ジスルフィドによって安定化されたFv断片の1つのドメインのみを介して完全長抗体に連結されている)の機能性を細胞アッセイ法においてさらに調査した:FACS実験(
図16)により、本発明に従って設計し生成させた二重特異性抗体が、LeY抗原を発現するMCF7標的細胞に特異的に結合することが示された。これは二次抗体を用いて示され(
図16a)、フューリンによってプロセシングされた二重特異性抗体のLeY結合能力が、元のLeY結合抗体と区別できないことが実証される。さらに、これらの二重特異性抗体は、第2の特異性によってこれらの標的細胞に結合された蛍光性ペイロード(Dig-Cy5)を方向付けることができ、これを
図16bに示す。
【0191】
したがって、Digを結合されたペイロードは、標的細胞上で豊富になるが、標的抗原を発現しない細胞上には増えない。Dig-ペイロードの定量的な結合および細胞蓄積は、Dig結合実体を1つだけ有する二重特異性物と比べて、Dig結合実体を2つ有するモジュールの方が、細胞上の標的化された蛍光が2倍多いということによってもさらに実証される。
【0192】
これらの結果から、本発明による二重特異性抗体の本発明者らによる設計および作製方法は一般化できることが分かる:標的1ならびに標的2に対する最大限の結合活性を保持している、コネクターペプチド内にフューリン認識部位を含む様々な二重特異性抗体を生成させることができる。