特許第5758006号(P5758006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5758006実験・検査用消耗品の表面上に存在する残留核酸の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758006
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】実験・検査用消耗品の表面上に存在する残留核酸の処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/18 20060101AFI20150716BHJP
   A61L 2/20 20060101ALI20150716BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20150716BHJP
   A01N 43/20 20060101ALI20150716BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20150716BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20150716BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20150716BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20150716BHJP
【FI】
   A61L2/18 100
   A61L2/20 106
   A61L2/20 104
   A01N59/00 A
   A01N43/20
   A01P1/00
   A01P3/00
   !C12N15/00 A
   !C12M1/00 A
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-534431(P2013-534431)
(86)(22)【出願日】2011年10月18日
(65)【公表番号】特表2013-545726(P2013-545726A)
(43)【公表日】2013年12月26日
(86)【国際出願番号】IB2011054619
(87)【国際公開番号】WO2012052913
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2013年5月21日
(31)【優先権主張番号】1058516
(32)【優先日】2010年10月19日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】504115013
【氏名又は名称】イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プレセル,マリー
(72)【発明者】
【氏名】メツツ,デイデイエ
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第1792631(EP,A1)
【文献】 特表2009−511016(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/006650(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/007884(WO,A1)
【文献】 ARCHER E. , et. al.,Validation of a dual cycle ethylene oxide treatment technique to remove DNA from consumables used in forensic laboratories,FORENSIC SCIENCE INTERNATIONAL: GENETICS,NL,ELSEVIER,2010年 7月 1日,Volume 4,Pages 239-243
【文献】 SHAW K. ,et.al.,Comparison of the effects of sterilisation techniques on subsequent DNA profiling,International Journal of Legal MedicineInternational Journal of Legal Medicine,2008年 1月,Volume 122,Pages 29-33
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00−2/28
C12M 1/00−3/10
C12Q 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗品の表面上に存在する増幅可能な残留核酸の汚染除去方法であって、以下の工程:
i)消耗品の表面を気相のエチレンオキシドで処理し、ついで
ii)25%〜60%(v/v)の濃度で50℃〜70℃の温度まで加熱した液相の過酸化水素で、または気化させ30%を超える濃度にした気相の過酸化水素で該表面を処理することを特徴とする方法。
【請求項2】
工程i)におけるエチレンオキシドを70%〜90%(v/v)の濃度で使用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程ii)における過酸化水素が、30%(v/v)を超える濃度の液相である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
液相の過酸化水素を60℃を超える温度に加熱する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
液相の過酸化水素が、工程ii)において、汚染除去すべき表面と少なくとも40分間にわたって接触している、請求項2または3記載の方法。
【請求項6】
過酸化水素での処理を気相で行う、請求項1記載の方法。
【請求項7】
過酸化水素を気化させ、50%を超える濃度にする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
過酸化水素を気化させ、80%を超える濃度にする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
過酸化水素を60℃未満の温度で電場を適用することによりプラズマ状態にする、請求項7及び8に記載の方法。
【請求項10】
工程i)と工程ii)との間に蒸発工程を更に含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
分子生物学における消耗品が、部分的に不織性の包装内に予め包装されている、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程i)およびii)のどちらかの前に真空を適用する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
工程i)と工程ii)との間に残留エチレンオキシドを除去する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
工程ii)の後で消耗品の表面から残留過酸化水素を除去する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗品、より詳しくは実験・検査用消耗品、特に、DNAまたはRNAサンプルの増幅のための実験に使用されるチューブおよびフィルターの表面上に存在する残留核酸の処理方法に関する。
【0002】
本発明は、より詳しくは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または転写媒介性増幅(TMA)反応を用いる技術を実施する際の、該消耗品の表面上に存在する残留核酸の特異的または非特異的増幅によりもたらされる問題を解決することを目的とする。
【0003】
これらの残留核酸は、一般に、環境に由来するものであり、遊離形態で存在することがあり、あるいは微生物、ウイルスまたは原虫のような生細胞中に含有されうる。
【背景技術】
【0004】
(序文)
核酸増幅反応は、反応媒体中に最初に存在する核酸配列からの新たな核酸分子の合成を可能にするポリメラーゼの作用を含む一連の酵素反応からなる。
【0005】
これらの酵素反応の目的は、一般に、サンプル中に最初に少量で存在する同じ核酸配列のコピーを生成させることである。最も頻繁に用いられる増幅は、PCRおよびTMAのような一連の重合または転写反応を含むものである。そのような技術は詳細に記載されており、当業者によく知られている。特異的プライマーを使用して、それらは、単一のDNAまたはRNA鋳型に基づいて、非常に多くの回数 同一核酸配列の複製を可能にする。
【0006】
そのような反応において、どの核酸配列が増幅されるかを決定するのは、重合反応を開始させるのに使用されるプライマーヌクレオチド配列である。
【0007】
増幅反応により得られた核酸配列は、遺伝子クローニング、遺伝的疾患の診断またはウイルスもしくは微生物の検出のような分子生物学の分野の多数の用途において有用である[Vosberg,H.P.,(1989)The polymerase chain reaction:an improved method for the analysis of nucleic acids,Hum Genet.83(1):1−15]。
【0008】
酵素反応を行う条件、特に、用いるストリンジェンシーの度合(塩濃度およびハイブリダイゼーション温度)に応じて、増幅したい配列とほぼ同じ配列を有するDNAまたはRNA配列を増幅することが可能である。
【0009】
与えられた配列の非常に特異的な増幅を得るためには、すなわち、反応媒体中に導入されたプライマーの配列と同じ配列を有する核酸だけを標的化するためには、高いストリンジェンシーの条件を採用すべきである。逆に、使用するプライマーと比べて或る可変性を有する配列を増幅したい場合には、該反応条件は低いストリンジェンシーのものであるべきである。
【0010】
微生物検出、遺伝的研究または感染症の診断のための汎用試験の場合、個体または種間の配列相違を考慮することが求められる配列型と比べて或る可変性を有する核酸配列を探索する必要がある場合が多い。その目的には、遺伝的多様性が考慮されることを可能にする低いストリンジェンシーの条件に頼ることがしばしば必要である。
【0011】
しかし、低いストリンジェンシーの条件で行われる試験は、研究中のサンプルに無関係な残留核酸に由来する配列を増幅する危険性を有する。それにより「偽陽性」の出現が生じ、これは該試験の結果を相当に歪めてしまう可能性がある。
【0012】
微生物の汎用検出の場合、環境に由来する残留核酸の存在に関連した偽陽性の危険性が非常に高い[Schmidt,T.,Hummel,S.,Hermann,B.,1995,Evidence of contamination in PCR laboratory disposables;Naturwissenschaften 82]。
【0013】
法化学において、遺伝的フィンガープリントに基づいて犯人の身元を確定することが求められる場合にも、検査所で使用されるチューブまたは装置が別人のDNAにより又は更には実施者のDNAにより汚染されうる危険性がゼロではない。したがって、確実に犯人のDNAプロファイルを確定することは困難である。
【0014】
これらの理由により、核酸の増幅のための装置から、増幅可能な残留核酸が完全に除去されることが、非常に重要である。
【0015】
一般に、分子生物学の反応に使用される消耗品(DNAまたはRNAの増幅反応に関連したものを含む)はクリーンルーム内で製造された後、微生物の非存在を確保するための通常の滅菌の最終工程に付される。
【0016】
しかし、これらの通常の滅菌方法は、増幅可能な核酸の全てを消耗品の表面から除去するのに十分ではない。
【0017】
ヒトDNA、RNA、DNアーゼ、RNアーゼおよび他のPCR阻害物質を含有しない消耗品には「PCRクリーン」ラベルが添付されているかもしれない。しかし、これは、それらが、環境に由来する細菌核酸を含有しないことを意味するものではない。エンドヌクレアーゼのような酵素またはソラレンのような化学物質が、残留核酸分子を増幅不能にするために使用されうる。
【0018】
しかし、そのような物質または酵素は、増幅反応において使用される試薬およびサンプルに対する不利な相互作用をもたらしうる。
【0019】
増幅可能な残留核酸の除去のための他の方法は電離放射線(紫外線(UV)、ガンマ(γ)線、X線およびベータ(β)線)を使用するが、より有効にするためには、曝露時間を数時間にする必要があり、このため、該方法は高価になり、そしてとりわけ、消耗品を構成する材料が分解し又は劣化する。更に、電離放射線の取り扱いは厳格な規制を受け、このため、その実施の可能性が制限される。
【0020】
現在、その消耗品を滅菌するために、本出願人は、Sterrad(登録商標)(Johnson & Johnson)なる名称で商品化されている過酸化水素での処理方法を用いている。過酸化水素は、微生物の細胞成分(特にタンパク質、およびそれよりは低い度合ではあるが核酸)の酸化による破壊を可能にする酸化性気体である。Sterrad(登録商標)法は気体形態の90%過酸化水素を低温で使用する。この方法においては、処理すべき消耗品を配置する室内に真空相を適用して、該気体相を、処理すべき装置の全部分に透過させ、通過させる。該サイクルの終了時に、真空相を再び適用し、一方、電場の適用およびプラズマの生成により過酸化水素の分子をイオン化させる。Sterrad法の利点の1つは、装置がプラスチック容器内に前充填(前包装)されている一方で、該装置が滅菌されうることである。該容器は、過酸化水素が透過する不織合成材(Tyvek(登録商標))の面を含む。
【0021】
しかし、本出願人は、この方法が、該装置内に含有された残留核酸を完全には破壊しないことを見出した。したがって、Sterrad(登録商標)法は、本出願人の要求を部分的にしか満足させていない。
【0022】
本出願人は、微生物検出試験用のフィルター膜を含む膜濾過装置の製造に特化していることに注目すべきである。これらの微生物検出試験は、典型的には、滅菌された装置で液体サンプルを濾過した後のPCR増幅により行われる。
【0023】
これらの装置は、しばしば、導管、タンクおよびフィルター膜を含む複雑な装置からなり、このため、それらの処理はより困難になる。
【0024】
本出願人は、該装置内に残存する残留核酸を完全に除去することを試みるために、Sterrad(登録商標)法を数回繰返して適用した。しかし、増幅は、微生物からの核酸が完全には除去されないことを尚も示した(図3B)。
【0025】
したがって、本出願人は、(i)該装置を構成する部材、特に膜およびフィルター(例えば、ポリプロピレン、PES、PVDF)を損なわない、ならびに(ii)それらの装置が意図する核酸増幅反応を抑制する作用を有さない、という条件で、それらの装置内に存在する残留核酸を処理するための方法を開発することを目的として、前記方法を改良するための研究を試みた。
【0026】
多数の試験に関して、本出願人は、処理すべき表面の2工程の汚染除去処理が、前記条件が満たされることを可能にすることを確認している。
【0027】
開発された方法は、気相のエチレンオキシドによる処理の第1工程、およびそれに続く、液相または気相の過酸化水素での処理の第2工程を含む。本出願人は、これらの2つの工程の組合せが、先行技術のものより完全な汚染除去を可能にすることを、本発明において見出した。
【0028】
特に、残留核酸が微生物中に最初に含有されている場合であっても、該装置を処理するための2つの工程の効果はいずれかの望ましくない増幅を排除することであり、これは、該処理工程の一方だけをおこなった場合には達成され得ないことを、本出願人は比較試験を用いることにより見出した。
【0029】
本発明の種々の形態およびそれにより得られる利点を以下に説明する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】Vosberg,H.P.,(1989)The polymerase chain reaction:an improved method for the analysis of nucleic acids,Hum Genet.83(1):1−15
【非特許文献2】Schmidt,T.,Hummel,S.,Hermann,B.,1995,Evidence of contamination in PCR laboratory disposables;Naturwissenschaften 82
【発明の概要】
【0031】
本発明は、気体エチレンオキシドでの処理の工程を液相または気相の過酸化水素での処理の第2工程と組合せることによる、物体、例えば分子生物学における消耗品の表面上に存在する増幅可能な残留核酸の処理方法に関する。
【0032】
この方法は、好ましくは、以下の工程:
i)消耗品の表面を気相のエチレンオキシドで処理し、ついで
ii)液相または気相の過酸化水素で表面を処理することを含む。
【0033】
「消耗品」なる語は、本明細書においては、環境における核酸の収集から、増幅が行われる検査所までの、核酸の操作において使用されるいずれかの物体を意味するものとして用いられる。消耗品は種々の材料から構成されうる。
【0034】
本発明に関連した消耗品は、より詳しくは、例えば本出願人により商品化されているもののような、フィルター膜、好ましくはポリプロピレン、PESまたはPVDFのフィルター膜を含む、プラスチックのフィルター装置である。
【0035】
該消耗品は、より詳しくは、特に、好ましくはDNA鋳型に基づいて行われるPCRまたは好ましくはRNAサンプル上で行われるTMAのような技術による核酸増幅を行うための操作の場合に使用される。
【0036】
該方法の第1工程i)は、一般に、好ましくは75%を超える、より好ましくは60%〜99%、より一層好ましくは70%〜90%(v/v)の気体エチレンオキシド濃度を用いて密閉室(例えば、Steri−Vac 5 XL,3M)内で常法[Pittetら,1997,Swiss Noso,4(1)]で行われる。
【0037】
特に示されていない限り、該濃度は容量毎容量の百分率(% v/v)である。
【0038】
エチレンオキシドは小さなサイズの分子であり、その透過能は高く、これは、とりわけ、気体透過性包装内に前包装された消耗品の処理を可能にする。この透過能は、到達が困難な複雑な物体の滅菌におけるその高い有効性を説明するものである。エチレンオキシドはまた、生物の主要成分(DNA、タンパク質、ビタミン、酵素)にも到達し、このことはそれに高い滅菌能をもたらす。したがって、エチレンオキシドでの処理は全ての生細胞に対して活性であり、したがって滅菌効果を示す。該処理の有効性は以下の幾つかのパラメータにより影響される:好ましくは30%以上である、該気体の相対湿度、および好ましくは40℃〜60℃、より好ましくは50℃〜60℃である温度。
【0039】
気体エチレンオキシドと消耗品の表面との接触の持続時間は、胞子および微生物の推定濃度、ならびに該消耗品を構成する材料に応じて、1〜6時間の間で変動する。予め、処理すべき消耗品内またはその周囲の処理室に真空が適用される場合、気相での処理がより有効である。
【0040】
本発明においては、過酸化水素での処理の工程ii)は、水溶液を使用する液相または気相のいずれかで行われる。
【0041】
工程ii)における過酸化水素が液相である場合、その濃度は、好ましくは、25%〜60%である。本発明者らが行った実験によると、30%以上の濃度が最適であることが判明している(表3)。
【0042】
液相での処理は、残留核酸を可溶化するという利点を有する。更に、フィルターに液体流が通過した場合、それらのフィルターを構成する多孔性材料内に位置する残留核酸に、より有効に到達することが可能となる。
【0043】
液相の過酸化水素は、それが50℃〜70℃、好ましくは60℃を超える温度に加熱された場合、より有効である。
【0044】
この温度は、消耗品を構成する材料を損なわないという利点を有する。
【0045】
液相の過酸化水素は、一般に、好ましくは少なくとも40分間、好ましくは40分間〜1時間にわたって、汚染除去すべき表面との接触が維持される。この時間は、後記の気相での処理の場合より長く、一般に、消耗品の表面から過酸化水素を除去するための乾燥工程を要する。
【0046】
気相の工程ii)の過酸化水素での処理は、一般に、過酸化水素の気化により行われ、これは、好ましくは、全気体に対して30%を超える、好ましくは50%を超える、より好ましくは80%を超える濃度となる。
【0047】
好ましくは70℃未満、より好ましくは60℃未満の温度で電場を適用することにより、過酸化水素はプラズマ状態にされることが可能であり、これにより、該処理の終了時に、それは分解されて不活性化されうる。
【0048】
前記の温度は通常の滅菌法の場合より低く、消耗品を構成しうる材料(特に、それらを構成しうる膜またはフィルター)の特性をより良好に保つ。
【0049】
そのような方法は、気相の過酸化水素を使用する処理のための装置、例えば、Sterrad(登録商標)法(ASP−Johnson & Johnson)において、それらの装置の製造業者の推奨に従い実施されうる。
【0050】
Sterrad(登録商標)法は、可能だが非限定的な、工程ii)の実施形態である。気相の過酸化水素の使用は、気体透過性包装内に前包装された消耗品に適用可能であるという利点を有する。したがって、本発明の方法のそれらの2つの工程を気相で行う場合、消耗品は、これらの2つの工程を行う前に包装または前包装されうる。
【0051】
同様に、過酸化水素での処理を気相で行う場合、工程i)およびii)を同一処理室内で互いに連続して行うことが可能であり、これは、周囲の残留核酸との消耗品の接触を制限する。
【0052】
本発明者らが得た結果を本出願の後記の実施例に例示する。図1〜4は、残留核酸の起源(細胞性または遊離)、その性質(RNAまたはDNA)または想定される増幅方法(PCRまたはTMA)には無関係に、本発明の方法が、該残留核酸の、より有効な処理を得ることを可能にすることを示している。そのような有効性のレベルは、本発明の工程i)およびii)の組合せ、ならびにそれらを行う順序から得られる。
【0053】
本発明の方法は、増幅可能な核酸を含有しない処理された消耗品を与え、これは、特に(好ましくは、ポリプロピレン、PESまたはPVDFの)1以上のフィルターまたは膜を含む消耗品に関しては、従来は達成できなかったことである。
【0054】
したがって、本発明は特に、消耗品が単純であるか複雑であるかにかかわらず、細菌由来の核酸を含有しない(DNAを含有しないことが保証された)消耗品が分子生物学において得られることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】微生物(エス・エピデルミス(S.epidermis))中に最初に含有されていた残留DNAに適用された種々の汚染除去処理を比較するグラフ。消耗品(1.5ml チューブ)の表面を同じ数のエス・エピデルミス(S.epidermis)細胞で汚染した後、それぞれの処理に付した。NS(淡灰色):無処理。EO(中間的な灰色):気相のエチレンオキシドによる処理。EO+H(I)(黒色):気相のエチレンオキシドによる、およびそれに続く液体溶液中の過酸化水素(30%)による、本発明に従う処理。Neg.(濃灰色):エス・エピデルミス(S.epidermis)により汚染されていない陰性対照。そのようにして処理された表面を次いで洗浄し、エス・エピデルミス(S.epidermis)由来の存在しうる残留DNAを検出するために、該洗浄産物に対してPCR反応(40サイクル)を行った。該曲線は、蛍光により検出された増幅DNAの量を表す。
図2A】微生物(ピー・エルジノーサ(P.aeruginosa))中に最初に含有されていた残留RNAに適用された種々の汚染除去処理を比較するグラフ。該消耗品(1.5ml チューブ)の表面を同じ数のピー・エルジノーサ(P.aeruginosa)細胞で汚染した後、それぞれの処理の1つに付した。2A:EO(中間的な灰色):気相のエチレンオキシドによる処理。γ(濃灰色):ガンマ線での処理。NS(淡灰色):無処理。2B:EO+H(I)(黒色):気相のエチレンオキシドおよびそれに続く溶液中の過酸化水素(30%)での処理。γ+H(I)(濃灰色):ガンマ線照射およびそれに続く溶液中の過酸化水素(30%)での処理。NS+H(I)(淡灰色):溶液中の過酸化水素(30%)のみでの処理。NS(淡灰色):無処理。そのようにして処理された表面を次いで洗浄し、ピー・エルジノーサ(P.aeruginosa)由来の存在しうる残留RNAを検出するために、該洗浄産物に対してTMA反応(76サイクル)を行った。該曲線は、蛍光により検出された増幅RNAの量を表す。
図2B】微生物(ピー・エルジノーサ(P.aeruginosa))中に最初に含有されていた残留RNAに適用された種々の汚染除去処理を比較するグラフ。該消耗品(1.5ml チューブ)の表面を同じ数のピー・エルジノーサ(P.aeruginosa)細胞で汚染した後、それぞれの処理の1つに付した。2A:EO(中間的な灰色):気相のエチレンオキシドによる処理。γ(濃灰色):ガンマ線での処理。NS(淡灰色):無処理。2B:EO+H(I)(黒色):気相のエチレンオキシドおよびそれに続く溶液中の過酸化水素(30%)での処理。γ+H(I)(濃灰色):ガンマ線照射およびそれに続く溶液中の過酸化水素(30%)での処理。NS+H(I)(淡灰色):溶液中の過酸化水素(30%)のみでの処理。NS(淡灰色):無処理。そのようにして処理された表面を次いで洗浄し、ピー・エルジノーサ(P.aeruginosa)由来の存在しうる残留RNAを検出するために、該洗浄産物に対してTMA反応(76サイクル)を行った。該曲線は、蛍光により検出された増幅RNAの量を表す。
図3A】微生物(ピー・アクネ(P.acnes))中に最初に含有されていた残留RNAに適用された種々の汚染除去処理を比較するグラフ。該消耗品の表面を同じ数のピー・アクネ(P.acnes)細胞で汚染した後、それぞれの処理の1つに付した。3A:EO+H(I)(黒色):気相のエチレンオキシドおよびそれに続く気相の過酸化水素(Sterrad(登録商標))での処理。NS(淡灰色):無処理。3B:H(g)+H(g)(黒):気相の過酸化水素(Sterrad(登録商標))による2サイクルの処理を含む処理。NS(淡灰色):無処理。そのようにして処理された表面を次いで洗浄し、ピー・アクネ(P.acnes)由来の存在しうる残留RNAを検出するために、該洗浄産物に対してTMA反応(76サイクル)を行った。該曲線は、蛍光により検出された増幅RNAの量を表す。
図3B】微生物(ピー・アクネ(P.acnes))中に最初に含有されていた残留RNAに適用された種々の汚染除去処理を比較するグラフ。該消耗品の表面を同じ数のピー・アクネ(P.acnes)細胞で汚染した後、それぞれの処理の1つに付した。3A:EO+H(I)(黒色):気相のエチレンオキシドおよびそれに続く気相の過酸化水素(Sterrad(登録商標))での処理。NS(淡灰色):無処理。3B:H(g)+H(g)(黒):気相の過酸化水素(Sterrad(登録商標))による2サイクルの処理を含む処理。NS(淡灰色):無処理。そのようにして処理された表面を次いで洗浄し、ピー・アクネ(P.acnes)由来の存在しうる残留RNAを検出するために、該洗浄産物に対してTMA反応(76サイクル)を行った。該曲線は、蛍光により検出された増幅RNAの量を表す。
図4】微生物(ジー・ステアロテルモフィルス(G.stearothermophilus))中に最初に含有されていた残留DNAに適用された種々の汚染除去処理を比較するグラフ。消耗品(いくつかのフィルターを含むフィルターユニット)を同じ数のジー・ステアロテルモフィルス(G.stearothermophilus)胞子で汚染した後、それぞれの処理の1つに付した。NS(淡灰色):無処理。EO+H(g)(黒色):気相のエチレンオキシドによる、およびそれに続く気相の過酸化水素(90%)による、本発明に従う処理。
【実施例】
【0056】
プロトコール1
1.5ml ポリプロピレンチューブからなる幾つかの消耗品を既知量のDNA、RNAまたは微生物で並行して汚染した。ついで、これらの消耗品をガンマ線で滅菌し(0〜60kGyの線量)、または気相のエチレンオキシドで処理した。滅菌後、残留核酸の存在をPCR(DNAの場合)およびTMA(RNAの場合)により判定し、滅菌されていない対照消耗品と比較する。
【0057】
得られた結果は以下の表1に要約されている。
【0058】
【表1】
【0059】
これらの結果は、ガンマ線処理が、微生物中に含有されているRNAも遊離形態のRNAも完全には分解しないことを示している。DNAに関しては、これは部分的に分解されているに過ぎない。エチレンオキシドでの処理は遊離形態のRNAに対しては有効であるが、該微生物中に含有されているRNAに対しては無効である。
【0060】
プロトコール2
プロトコール1で使用したのと同じタイプの幾つかの消耗品を同じ既知量のDNA、RNAまたは微生物で汚染した。ついで、これらの消耗品を、液体溶液中の過酸化水素(それぞれ、3%および30% H)での処理により処理した。該方法の終了時に、60℃の温度での真空下の乾燥の工程により、該過酸化水素を蒸発させる。処理後、残留核酸の存在をPCR(DNAの場合)およびTMA(RNAの場合)により判定し、未処理サンプルと比較した。
【0061】
得られた結果は以下の表2に要約されている。該表において、(−)は無効を意味し、(++)は核酸の部分的分解を意味し、(+++)はそれらの完全分解を意味する。
【0062】
【表2】
【0063】
これらの結果は、30%のHの濃度が3% Hの濃度より有効に遊離核酸の分解を可能にすることを示している。それでもやはり、該処理は、該微生物中に含有されている核酸に対しては無効である。
【0064】
プロトコール3(本発明によるもの)
プロトコール1で使用したのと同じタイプの幾つかの消耗品を同じ既知量のDNA、RNAまたは微生物で汚染した。ついで、それらの消耗品の一部を、本発明に従い、気体エチレンオキシドで、ついで3%または30% 過酸化水素で処理した。他の一部を、気体エチレンオキシドの代わりにガンマ線で処理し、ついで過酸化水素で処理した。どちらの場合も、60℃の温度での真空乾燥工程により過酸化水素を蒸発させた。処理後、残留核酸の存在をPCR(DNAの場合)およびTMA(RNAの場合)により判定し、未処理サンプルと比較した。
【0065】
得られた結果は以下の表3に要約されている。該表において、(−)は無効を意味し、(++)は核酸の部分的分解を意味し、(+++)はそれらの完全分解を意味する。ガンマ線+H処理は或る程度は核酸の分解を可能にするが、この方法の性能は、該微生物中に含有されているRNAの場合には特に、EO+Hほどは良くないことを、これらの結果は示している。エチレンオキシドおよびそれに続く30% 過酸化水素溶液での処理は、該微生物中に含有されているDNAおよびRNAの完全分解を可能にするが、3% Hのみによる同じ処理は該DNAに対してはそれほど有効ではなく、該RNAに対しては無効である。
【0066】
【表3】
【0067】
プロトコール4
幾つかのフィルターを含む幾つかの複雑な消耗品を同じ既知量の微生物(ジー・ステアロテルモフィルス(G.stearothermophilus))で汚染した。ついで、それらの消耗品の一部を、本発明の方法に従い、気体エチレンオキシド、ついで約90%の気体過酸化水素で処理した。対照として用いた該消耗品の他の一部は、処理しなかった。残留核酸(DNA)の存在をPCRにより判定した。図4は、種々のPCRサイクル中に増幅されたDNAの量を示す。該処理サンプルにおける増幅の非存在が認められうる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4