(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758046
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】エネルギー貯蔵用補足湾曲部を備える香箱
(51)【国際特許分類】
G04B 1/22 20060101AFI20150716BHJP
F16F 1/10 20060101ALI20150716BHJP
F16F 1/12 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
G04B1/22
F16F1/10
F16F1/12 L
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-506810(P2014-506810)
(86)(22)【出願日】2012年4月3日
(65)【公表番号】特表2014-513294(P2014-513294A)
(43)【公表日】2014年5月29日
(86)【国際出願番号】EP2012056067
(87)【国際公開番号】WO2012150101
(87)【国際公開日】20121108
【審査請求日】2013年10月28日
(31)【優先権主張番号】11164618.8
(32)【優先日】2011年5月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】シャルボン,クリスチャン
【審査官】
榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭53−086956(JP,A)
【文献】
独国特許発明第00802363(DE,C2)
【文献】
スイス国特許発明第00181861(CH,A5)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/10 − 22
G04B 17/06
F16F 1/10 − 12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香箱真(15、25)および少なくとも1つのゼンマイ(17、27)を受容するための箱(13、23)を含む香箱であって、前記少なくとも1つのヒゲゼンマイは、前記箱(13、23)の内壁と前記香箱真(15、25)の外壁との間に取り付けられ、機械エネルギーを供給するために巻き付けられることのできる香箱において、前記香箱(11、21)は、前記少なくとも1つのゼンマイのトルクを増大するための装置であって、少なくとも1つのゼンマイと一体化したエネルギー貯蔵用補足湾曲部(14、14’、24)を含むほか、前記少なくとも1つのゼンマイの螺旋形状を設けられている装置(12、12’、22)をさらに含み、断面(E、H)が実質的に長方形である前記エネルギー貯蔵用補足湾曲部は、前記少なくとも1つのゼンマイの巻きの少なくとも一部にわたる螺旋軌道(T)に対して波形を形成して、前記少なくとも1つのゼンマイの巻き付け張力に応じて香箱(11、21)のトルクを調整することを特徴とする、香箱(11、21)。
【請求項2】
前記エネルギー貯蔵用補足湾曲部(14、14’、24)は、前記少なくとも1つのゼンマイの巻きの全部にわたる前記螺旋軌道に対して波形を形成することを特徴とする、請求項1に記載の香箱(11、21)。
【請求項3】
少なくとも1つの前記エネルギー貯蔵用補足湾曲部(14、14’、24)の断面は、一定であることを特徴とする、請求項1から2のうちいずれか一項に記載の香箱(11、21)。
【請求項4】
少なくとも1つの前記エネルギー貯蔵用補足湾曲部(14、14’、24)の断面は、一定ではないことを特徴とする、請求項1から3のうちいずれか一項に記載の香箱(11、21)。
【請求項5】
前記少なくとも1つのゼンマイ(17、27)および/または前記エネルギー貯蔵用補足湾曲部(14、14’、24)は、シリコン基板から形成されることを特徴とする、請求項1から4のうちいずれか一項に記載の香箱(11、21)。
【請求項6】
前記少なくとも1つのゼンマイ(17、27)および/または前記エネルギー貯蔵用補足湾曲部(14、14’、24)は、金属基板または金属合金基板から形成されることを特徴とする、請求項1から4のうちいずれか一項に記載の香箱(11、21)。
【請求項7】
前記香箱は、積層され平行に動作する複数のゼンマイを含むことを特徴とする、請求項1から6のうちいずれか一項に記載の香箱(11、21)。
【請求項8】
請求項1から7のうちいずれか一項に記載の香箱(11、21)を含むことを特徴とする、時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクを増大させるための装置を備える香箱に関し、さらに詳細には、ゼンマイがエネルギー貯蔵用補足湾曲部を備えるこの種の香箱に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すような現在の香箱1は、一般に、香箱真5およびゼンマイ7を受容するための「ドラム」と呼ばれる箱3で形成されている。ヒゲゼンマイ7は、長さがL、高さがH、厚みがEである。ゼンマイ7は、箱3の内壁と香箱真5の外壁との間に取り付けられている。箱3は、一般に、蓋9で閉鎖されている。ゼンマイ7は、このように巻かれて、ゼンマイが組み込まれる時計のムーブメントに機械エネルギーを供給することができる。
【0003】
現在のゼンマイのこの構成が抱える問題は、ゼンマイが緩む間を通して一定のトルクが提供されないという点であり、これによってテンプの振幅にばらつきが生じ、時計ムーブメントの精度が損なわれる。
【0004】
このほか、ほぼS字型である現在のゼンマイの休止状態での形状および必要スペースは、プラスの製造、すなわち電鋳によるフォトリソグラフィ、またはマイナスの製造、すなわちエッチングによるフォトリソグラフィとの両立が困難である。実際、使用する基板は、十分大きくはなく、かつ/または単一の基板に作製されるゼンマイの数は十分ではないため、生産コストが許容しがたいものになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、休止状態のゼンマイがよりコンパクトで、トルクがゼンマイの巻き付け度合いにそれほど左右されない香箱を提供することによって、前述の欠点の全部または一部を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明は、香箱真および少なくとも1つのゼンマイを受容するための箱を含む香箱であって、少なくとも1つのヒゲゼンマイは、箱の内壁と香箱真の外壁との間に取り付けられ、機械エネルギーを供給するために巻き付けられることのできる香箱において、香箱は、少なくとも1つのゼンマイのトルクを増大するための装置であって、エネルギー貯蔵用補足湾曲部のほかに、少なくとも1つのゼンマイの螺旋形状を備える装置をさらに含み、断面が実質的に長方形である湾曲部は、少なくとも1つのゼンマイの巻きの少なくとも一部にわたる螺旋軌道に対して波形を形成し、その結果、香箱トルクは、少なくとも1つのゼンマイの巻き付け張力に応じて調整されることを特徴とする、香箱に関する。
【0007】
そのため、「動作する」ゼンマイ、すなわちエネルギーを貯蔵するために変形することができるゼンマイの材料量は、実質的に大幅に増大し、これによって香箱は、現在のS字型ゼンマイを含む香箱に比して実質的に同等またはこれよりも高いトルクを維持することができることがわかる。
【0008】
これによって、例えばトルクを一定にして時計の等時運動を改善することによって、香箱トルクを調整することもできる。実際、本発明によるゼンマイのコンパクト性は、プラスおよび/またはマイナスの製造方法に一層適しているため、ゼンマイの巻き付け張力に応じて香箱トルクを調整できる非対称のゼンマイを大量生産することが可能になる。
【0009】
本発明のその他の有利な特徴によれば、
− エネルギー貯蔵用補足湾曲部は、ゼンマイの巻きの全部または一部にわたる螺旋軌道に対して波形を形成し、
− 湾曲部の少なくとも1つは、一定または一定でない断面を有し、
− 湾曲部の少なくとも1つは、螺旋軌道に対して対称または非対称の軌道を有し、
− エネルギー貯蔵用補足湾曲部は、少なくとも1つのゼンマイと一体化し、
− 少なくとも1つのゼンマイおよび/またはエネルギー貯蔵用補足湾曲部は、シリコン基板または金属基板もしくは金属合金基板から形成され、
− 香箱は、積層され平行に動作する複数のゼンマイを含む。
【0010】
本発明は、前述の変形例のいずれかに記載の香箱を含むことを特徴とする時計にも係る。
【0011】
その他の特徴および利点は、添付の図面を参照して非限定的に挙げた以下の説明文から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本発明によるトルク増大装置の可能な配置の上面図である。
【
図3】本発明によるトルク増大装置の可能な配置の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前述したように、本発明の目的は、供給されるトルクがゼンマイの巻き付け度合いにそれほど左右されないだけでなく、トルクが実質的に同等または増大して、香箱を取り付ける時計のムーブメントの動作的自律性を維持または改善する、香箱を提供することである。
【0014】
本発明によれば、通常のゼンマイに加えて、香箱は、ゼンマイのトルクを増大させるための装置であって、ゼンマイに作製された、エネルギー貯蔵用の補足的な弾性湾曲部を備える結果、香箱のトルクが少なくとも1つのゼンマイの巻き付け張力に応じて調整される装置を含んでいる。好ましくは、本発明によれば、エネルギー貯蔵用補足湾曲部は、ゼンマイの巻きの少なくとも一部分に及ぶ螺旋状軌道に対して波形を形成する。巻き付いた状態では、湾曲部は、螺旋状の軌道をたどる傾向にある、すなわち外力を受けた状態で、湾曲部は、実質的に均衡が保たれ、普通のゼンマイのように、箱および/またはゼンマイの残りの部分および/または香箱真の間に挟まった状態になる。
【0015】
香箱11、21のトルク増大装置12、12’、22の非排他的な分布例を、
図2および
図3に示す。
図3は、香箱21のトルク増大装置22が、1本でつながっているエネルギー貯蔵用補足湾曲部24を有している様子を示し、この湾曲部は、複数の波形26で形成され、この波形は、ゼンマイ27の全長Lにわたって分布し、螺旋の理論上の軌道の両側に交互に広がっている。
【0016】
図2は、香箱11のトルク増大装置12、12’を示し、各装置は、一連のエネルギー貯蔵用補足湾曲部14、14’を含み、この湾曲部は複数の波形で形成され、各々の波形は、ゼンマイ17の全長Lの一部にわたって分布している。そのため、第1の装置12の遠位湾曲部は、ゼンマイ17の途中の巻き部分にわたって分布し、螺旋の理論上の軌道の両側に交互に波形16を含んでいる。このほか、第2の装置12’の近位湾曲部14’は、ゼンマイ17の内側の巻き部分にわたって分布し、螺旋の理論上の軌道の両側に交互に波形16’を含んでいる。
【0017】
好ましくは、波形16、16’、26の断面は、実質的に長方形、すなわち波形の厚みおよび高さは、実質的に直線状で、互いに直交している。しかしながら、これは、湾曲部の厚みおよびこれに伴い断面が、一定または一定でないことを妨げるものではなく、これについてはこれ以降に説明する。
【0018】
このように、本発明による香箱は、ゼンマイの一部または全長にわたって分布する1つまたは複数のトルク増大装置を含むことができ、その結果、「動作する」ゼンマイ、すなわちエネルギーを貯蔵するために変形することができるゼンマイの材料量は、実質的に大幅に増大し、これによって香箱は、S字型の現在のゼンマイに比して実質的に一定で同等のトルクを維持することができる上、休止状態では遙かにコンパクトになることがわかる。
【0019】
例として、休止時はS型、すなわち直径1.2cmの香箱に取り付ける前はS型である現在のゼンマイは、およそ6cm×15cmの長方形スペースを必要とする。本発明に有利には、本発明によるゼンマイの休止時の必要スペースは、直径が1から5cm、巻き間のピッチが0.1から5mmに縮小される。
【0020】
もちろん、
図2では、ゼンマイの全長にわたっている単一の装置が一連のエネルギー貯蔵用補足湾曲部を2箇所に備えて、そのうちの第1の一連の湾曲部が遠位にあり、第2の一連の湾曲部が近位にあることを検討することもできる。
【0021】
波形16の非排他的な変形例を
図4に示す。この図では、エネルギー貯蔵用補足湾曲部14、すなわち波形16は、ゼンマイ17と一体化している。しかしながら、エネルギー貯蔵用補足湾曲部がゼンマイと一体化することは必須ではない。例として、湾曲部は、別々に製造されてから一緒に接合されて、最終的に香箱に組み入れられてもよい。
【0022】
図4に示した変形例では、湾曲部14は、ゼンマイ17と一体化し、螺旋の理論上の軌道Tの両側に交互に波形16を形成している。
図2および
図4では、湾曲部14、14’は、ゼンマイ17の湾曲部のない部分と交互になって、2箇所にある一連の湾曲部同士が衝突しないようにすることが好ましいことに注意されたい。最後に、波形16の厚みはE
2であり、この厚みは、ゼンマイ17の厚みE
1と同じであっても異なっていてもよい。
【0023】
当然ながら、エネルギー貯蔵用補足湾曲部14、14’、24の少なくとも1つの波形16、16’、26は、断面が一定でも一定でなくてもよく、この断面とはすなわち、ゼンマイ17、27の厚みおよび高さを含む平面内に含まれる断面であることがわかる。エネルギー貯蔵用補足湾曲部14、14’、24の少なくとも1つの波形16、16’、26は、対称性が螺旋軌道Tに対して一定でも一定でなくてもよい。例として、対称な軌道は、螺旋状軌道Tに対する正弦曲線および/または正弦湾曲部を含むことができる。最後に、湾曲部は、ゼンマイの全体または一部にわたって対称または非対称に分布していてよい。
【0024】
以上の説明に照らし合わせて、ゼンマイおよび/またはエネルギー貯蔵用補足湾曲部は、有利には、材料を除去する技術、すなわち単結晶シリコンウエハのディープ反応性イオンエッチングなどのマイナスタイプのもの、あるいは逆に、材料を添加する技術、すなわち、少なくとも1つのフォトリソグラフィ工程と少なくとも1つの電気めっき工程とを組み合わせた、電鋳などのプラスタイプのもので形成されてよい。
【0025】
このようにする代わりに、ゼンマイおよび/またはエネルギー貯蔵用補足湾曲部は、プラスの技術とマイナスの技術を組み合わせたハイブリッド技術で形成されてもよく、エッチングした基板などの場合、エッチング部分は、金属または金属の合金などの加熱成形によって、少なくとも部分的に非結晶質である材料を受容するようになっている。
【0026】
このように、プラスおよび/またはマイナスの技術が精密であることにより、香箱のトルクをゼンマイの巻き付け張力に応じて調整できる非対称なゼンマイを大量生産することが可能になる。そのため、例として、ゼンマイの巻き付け張力に関わらず、香箱トルクを実質的に一定にできるゼンマイを開発することが完全に可能になる。
【0027】
しかしながら、この種の技術は、製造済み部品の厚みを限定するおそれがあるため、香箱が積層した複数のゼンマイを含み、このゼンマイが平行に動作して、例えば現在のS型ゼンマイと同様の高さHを得ることが提案される。
【0028】
そのため、ゼンマイおよび/またはエネルギー貯蔵用補足湾曲部は、単結晶シリコン、炭化シリコン、窒化シリコンまたは酸化シリコンなどだがこれに限定されないシリコンから形成されることができ、このシリコンは、結晶化した形もしくは結晶化していない形、または非結晶質もしくは結晶質の金属材料であって、ニッケルまたはニッケルとリンを基盤とする合金などだがこれに限定されない金属材料であってよいことがわかる。
【0029】
もちろん、本発明は、説明した例に限定されるものではなく、当業者に自明となる様々な変形例および変更も可能である。特に、
図2から
図4に示したエネルギー貯蔵用補足湾曲部の波形16、16’、26の形状は、香箱が供給するトルクをさらに一定かつ大きくするために、これとは異なっていてもよい。
【0030】
このほか、本発明は、全体的に機械エネルギー源を対象としており、特に時計の香箱を対象としているのではない。