(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758086
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】誘導結合型マイクロプラズマ源及びこれを利用した装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20150716BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20150716BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20150716BHJP
C23C 16/513 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
H05H1/24
H01L21/302 101C
H01L21/31 C
C23C16/513
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-124388(P2010-124388)
(22)【出願日】2010年5月31日
(65)【公開番号】特開2011-249289(P2011-249289A)
(43)【公開日】2011年12月8日
【審査請求日】2013年3月5日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省知的クラスター創成事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100066924
【弁理士】
【氏名又は名称】小沢 信助
(72)【発明者】
【氏名】佐々木実
【審査官】
鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−150703(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/023523(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00− 1/54
C23C 16/513
H01L 21/3065
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル電極を有するプラズマ源において、ガス流路内部に、外部との電気的な結線はなく、孤立した浮遊電極を設けたことを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源。
【請求項2】
請求項1の誘導結合型マイクロプラズマ源における孤立した浮遊電極は、金属や半導体や有機物からなる導電性材料であることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源。
【請求項3】
請求項1の誘導結合型マイクロプラズマ源における孤立した浮遊電極は、直線状、折れ線状、渦巻き状、ループ状、鋭角コーナを持つ閉曲線形状の、いずれか又は組み合わせ形状を持つ、金属や半導体や有機物からなる浮遊電極があることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載された誘導結合型マイクロプラズマ源を利用した光源、表面処理、ドーピング、膜堆積、又はエッチングのいずれかに用いる装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導結合型マイクロプラズマ源の、小型化、点火し易さ、省電力化に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ領域サイズの一部もしくは全てがcmを下回る、マイクロプラズマ源には、多く
の種類が報告されている。圧力が高くなるため、小さなサイズでもプラズマ生成に有利と
なる。中でも大気圧プラズマは、真空チャンバーが不要になることから、省エネルギーや
低コストものづくりに適する。容量結合型に比べて、誘導結合型プラズマは、プラズマ密
度がより高くできるため有力である。しかし、微細化が進むほど、プラズマ点火や安定維
持が困難になる問題があった。内部に、イグナイター機構を加えることは、専用電源を新
たに用意すること、電極製作、電極と電源間の結線を必要とする。プラズマ源の小型化を
も阻害する。
誘導結合型マイクロプラズマ点火のために、誘導結合型プラズマ発生用コイル電極以外の
電極と付随する機構をプラズマ源に含める技術は、例えば特許文献1から5、非特許文献
1に開示されている。
特許文献1および2では、微小サイズ金属ドットの材料供給源のために金属ワイヤー(タ
ングステンと鉄を例示)がキャピラリー内に導入されている。この金属ワイヤーを高周波
誘導加熱した上で、接続しておいたイグナイターを一瞬作動することで、ワイヤー先端と
誘導結合型プラズマ発生用コイル電極間に高電圧を印加して放電させ、誘導結合型マイク
ロプラズマを点火および安定発生する技術が開示されている。
【0003】
特許文献3では、誘導結合型マイクロプラズマの安定発生と維持のために、絶縁体チュー
ブ内外に誘電体バリア放電発生用の電極を追加して具備することを開示している。
特許文献4では、図示は無いものの、装置制御部に、ガス供給手段、高周波電源、及びプ
ラズマ点灯手段があることを、言及している。少なくとも特許文献4の出願人が手がけた
一部の装置では、圧電素子を利用したガスコンロ点火装置と同等の機構が組み合わされている。
特許文献5では、プラズマ点灯を維持する低電圧大電流を加える電極に加えて、プラズマ
を始動する高電圧小電流を加える電極(ワイヤー形状ではなく、円筒形状)を利用するプ
ラズマ点火方法を開示している。
非特許文献1の著者の一人は、特許文献1および2の発明者に含まれている。
本質的には同じであるが、タングステン線は通常グランド電位に接続していること、熱電
子の発生を促すこと、プラズマ点灯には〜15kVの直流電圧を0.5秒加えることを説
明している。
以上のいずれも、追加した電極構造には結線と、点火用の高電圧電源が必要である。
【0004】
【特許文献1】特許公開2005−262111 「微小なドット又はラインを備えた低融点基板、マイクロプラズマによる堆積方法及び同装置」
【特許文献2】特許公開2008−306209 「微小なラインを備えた基板」
【特許文献3】特許公開2008−198583 「プラズマ発生装置」
【特許文献4】特許公開2007−213821 「マイクロプラズマジェット制御方法及び装置」
【特許文献5】特許公開2009−289432 「プラズマ発生装置及びプラズマ生成方法」
【非特許文献1】"Thermoelectron-enhancedmicrometer-scale plasma generation", T. Ito, K. Terashima, Applied PhysicsLetters, Vol. 80, No. 15 (2002) 2648-2650.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
誘導結合型マイクロプラズマは、高密度プラズマを発生できる。しかし、プラズマ点火が
難しい問題があった。プラズマ点火に必要な初期電子を発生させる、イグナイター機構を
加える方法が知られている。内部に、イグナイター機構を加えることは、専用電源を新た
に用意すること、電極製作、電極と電源間の結線を必要とする。プラズマ源の小型化をも
阻害する。プラズマ源の外部で、イグナイター機構を組み合わせることは、プラズマ源と
イグナイター機構との位置調節が必要となるため、機器組み込みの上で問題となる。
本発明は、プラズマ源の小型化を阻害することなく、また点火用の電源を追加することな
く、点火を容易にすることを実現する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、ガス流路内部に、浮遊電極があることを特徴とする、誘導結合型マイク
ロプラズマ源が得られる。マイクロプラズマの励起に誘導結合を利用しているため、特別
の結線を施すことなく、浮遊電極にエネルギーを供給することができる。この電極により
、プラズマ点火に必要な高電界を発生させることができる。
また本発明によれば、ガス流路内部に、金属や半導体や有機物からなる導電性材料の浮遊
電極があることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源が得られる。浮遊電極によ
り電界を高める効果が得られる。
【0007】
また本発明によれば、ガス流路内部に、直線状、折れ線状、渦巻き状、ループ状、鋭角コ
ーナを持つ閉曲線形状の、いずれか又は組み合わせ形状を持つ、金属や半導体や有機物か
らなる浮遊電極があることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源が得られる。浮
遊電極の形状により、電界集中を効果的に高めることができる。
また本発明によれば、浮遊電極があることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源
を利用した、光源、分光システム、表面処理、ドーピング、膜堆積、エッチングなどの装
置が実現できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型かつ点火が容易な、誘導結合型マイクロプラズマ源が実現できる。
より低パワーでプラズマ点火が開始すると、更にパワーを上げた際にも、プラズマが成長
してより低パワーで高密度化が促進される。高いエネルギー効率が得られる。装置内でプ
ラズマ源を利用する際には、点火用の機構を用意する必要が無くなる。誘導結合型マイク
ロプラズマ源を利用した装置の、小型化、高信頼性、省エネルギーの効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図は例示であり、プラ
ズマ源を構成する、電極やガス流路の材料、形状、配置などは限定されるものではない。
図1は本発明の実施の形態による、ガス流路内部に、浮遊電極があることを特徴とする、
誘導結合型マイクロプラズマ源の概略図である。誘導結合型プラズマ発生用コイル電極は、
らせん状のパイプ、ガス流路は円筒ガラス管の例である。1は浮遊電極である。外部との
電気的な結線はなく、孤立している。点火はこの電極周辺から発生する。2は形成された
プラズマ領域である。3はらせん状のパイプからなる誘導結合型プラズマ発生用コイル電
極である。プラズマ点火の際には、電磁誘導を介して、1の浮遊電極にエネルギーを供給
する。4はガス5が流れるための流路である、円筒ガラス管である。6は高周波電源であ
る。大気圧プラズマでは、ガス衝突によるエネルギーのロスが少なくなるよう、100M
Hzを代表とするVHF帯の周波数が利用されることが多い。7は3のコイル電極を冷却
する冷却水である。
【0010】
図2は
図1で示した本発明の実施の形態による、誘導結合型マイクロプラズマ源の実際の
プラズマジェットが形成される一般的な様子である。(a)、(b)、(c)の順に、誘導結合
型プラズマ発生用コイル電極3への入力電力を増加している傾向を示しており、全て異な
るコイル電極である。(a)では、浮遊電極の端部のみでプラズマが発生している。アルゴ
ンガスや空気よりも、ヘリウムガスを流した方が、点火し易い。
点灯した後は、ガスをアルゴンに切り替えても消えること無く、より明るい発光が得られる。(b)は、浮遊電極の端部から、プラズマ領域が伸びている途中の様子である。(c)は、両端のプラズマ領域がつながると共に、ガス上流と下流の両方にプラズマ領域が伸びた様子である。この例は、浮遊電極は長さ22mm、直径0.1mmのチタン線、ガラス管外径は1.5mm、内径は1.0mm、アルゴン流量は0.5リットル/分、入力電力は38Wである。
1が浮遊電極である。(c)で示した、白く伸びている領域2がプラズマ領域である。4は
円筒ガラス管である。5はガスの流れである。
【0011】
図3は本発明の実施の形態による、ガス流路内部に、浮遊電極があることを特徴とする、
誘導結合型マイクロプラズマ源の概略図である。誘導結合型プラズマ発生用コイル電極は、
U字形金属パターン、ガス流路を平板と溝付き平板のサンドイッチ構造で形成した例であ
る。1は浮遊電極である。外部との電気的な結線はなく、孤立している。点火はこの電極
周辺から発生する。2は形成されたプラズマ領域である。3はU字形金属パターンからな
る誘導結合型プラズマ発生用コイル電極である。4aは上部ガラス板、4bは溝構造付き
下部ガラスエポキシ板である。この二つを張り合わせて、ガス流路を形成する。6は高周
波電源である。なお、平板型のプラズマ源であるため、水冷は下部平板4bと面接触する
プレート(図示はしていない)を介して行うことができる。
【0012】
図4は、
図3で示した本発明の実施の形態による、誘導結合型マイクロプラズマ源の実際のプラズマ領域が形成される典型的な様子である。(a)、(b)、(c)の順に、誘導結合型プラズマ発生コイル3への入力電力を増加している。(c)と(d)では、入力電力は同じであるが、ガスをヘリウムからアルゴンに切り替えている。1が浮遊電極である。浮遊電極はタングステン線である。全長80mmの線を折り曲げて、全長約10mmの束とした。(c)、(d)で示した、領域2がプラズマ領域である。3はU字形金属パターンからなる誘導結合型プラズマ発生用コイル電極である。4aは上部ガラス板、4bは溝構造付き下部ガラスエポキシ板である。この二つを貼り合わせて、ガス流路を形成する。5はガスの流れである。
【産業上の利用可能性】
【0013】
プラズマ領域の一部もしくは全てがcmを下回る、マイクロプラズマ源には、多くの種類
が報告されている。圧力が高くなると、小さなサイズでもプラズマ生成に有利となるが、
中でも大気圧プラズマは、低圧プラズマの場合に必須であった真空チャンバーが不要にな
ることから、装置が簡単で安価になる上、真空引きが要らなくなり、プロセス時間が短く
できる。アレイにするなど、広いプラズマ領域を形成できれば、ロール・ツー・ロール方
式の製作工程にも入り得る。活性種の密度は高いが、ガス温度が高くなっていない非平衡
プラズマが得られるため、プラスチックやフィルム材にも、高密度プラズマ処理ができる。
実験結果から、プラズマ点火が、低電力において開始できると、プラズマ領域が広がる条
件に到達するまでの電力も小さくできる。低コスト、省エネルギーものづくりに適する性
質を持つ。様々な産業において利用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態による、ガス流路内部に、浮遊電極があることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源の概略図である。誘導結合型プラズマ発生用コイル電極は、らせん状のパイプ、ガス流路は円筒ガラス管の例である。
【
図2】
図1で示した本発明の実施の形態による、誘導結合型マイクロプラズマ源を利用して実際のプラズマジェットが形成される一般的な様子である。(a)、(b)、(c)の順に、誘導結合型プラズマ発生用コイル電極への入力電力を増加している(傾向を示しており、全て異なるコイル電極である)。(a)では、浮遊電極の端部のみでプラズマが発生している。ヘリウムガスを流した方が、点火し易い。点火した後は、ガスをアルゴンに切り替えても消えること無く、より明るい発光が得られる。(b)は、浮遊電極の端部から、プラズマ領域が伸びている途中の様子である。(c)は、両端のプラズマ領域がつながると共に、ガス上流と下流の両方にプラズマ領域が伸びた様子である。この例は、浮遊電極は長さ22mm、直径0.1mmのチタン線、ガラス管外径は1.5mm、内径は1.0mm、アルゴン流量は0.5リットル/分、入力電力は38Wである。
【
図3】本発明の実施の形態による、ガス流路内部に、浮遊電極があることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源の概略図である。誘導結合型プラズマ発生用コイル電極は、U字形金属パターン、ガス流路を平板と溝付き平板のサンドイッチ構造で形成した例である。平板型のプラズマ源であるため、水冷は平板下部と面接触するプレートを介して行うことができる。
【
図4】
図3で示した本発明の実施の形態による、誘導結合型マイクロプラズマ源を利用して実際のプラズマ領域が形成される一般的な様子である。(a)、(b)、(c)の順に、誘導結合型プラズマ発生コイルへの入力電力を増加している。(c)と(d)では、入力電力は同じであるが、ガスをヘリウムからアルゴンに切り替えている。(a)では、浮遊電極の端部でプラズマが発生している。(b)は、浮遊電極の周辺でプラズマが発生している。(c)および(d)では、トレンチ全体(〜18mm)にプラズマ領域が伸びている。トレンチ内部の浮遊電極は、全長80mmのタングステン線であり、折り曲げて長さ10mmにしている。厚さ〜35μmの銅膜が付いたガラスエポキシ基板(FR−4)に幅〜2mm、深さ1.2mmの溝を加工し、カバーガラスを貼り付けてガス流路を形成した。U字形電極の幅は9mmである。アルゴン流量は0.5リットル/分である。
【符号の説明】
【0015】
1・・・浮遊電極
2・・・プラズマ領域
3・・・誘導結合型プラズマ発生用コイル電極
4・・・流路を形成するガラス管
4a・・・流路を形成する上部ガラス板
4b・・・流路を形成する溝構造付き下部ガラスエポキシ板
5・・・ガスの流れ
6・・・高周波電源
7・・・コイル電極3を冷却する冷却水