【実施例1】
【0021】
本発明の無線式踏切警報システム並びに車上装置および地上装置の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図1は、(a)が無線式踏切警報システム20+30の概要図、(b)が車上装置20の概要ブロック図、(c)が地上装置30のうち純単線域の無線式踏切警報制御装置32の概要ブロック図、(d)が地上装置30のうち停車場域の無線式踏切警報制御装置36の概要ブロック図である。
【0022】
また、
図2は、(a)が無線機を単独で使用する非統合形の無線式踏切警報制御装置32を設置した純単線域に係るシステム概要図、(b)がその非統合形の無線式踏切警報制御装置32のハードウェア構成図である。さらに、
図3は、(a)が無線機を共用する統合形の無線式踏切警報制御装置32と非統合形の無線式踏切警報制御装置32とを設置した純単線域に係るシステム概要図、(b)がその統合形の無線式踏切警報制御装置32のハードウェア構成図である。また、
図4は、(a)が無線機36aを共用する統合形の無線式踏切警報制御装置36を設置した停車場域に係るシステム概要図、(b)がその統合形の無線式踏切警報制御装置36のハードウェア構成図である。さらに、
図6は、車上装置20の踏切情報23のデータ例である。
【0023】
この無線式踏切警報システム20+30が適用される鉄道の路線は、地方交通線に多い単線のものであり、単線の軌道11の場合(
図1(a)参照)、駅や信号場さらには操車場といった停車場13では、上り列車と下り列車との行き交いや,検測車等の低速車と客車等の高速車との待ち合わせ等のため、主線と副線とが並走していて、複数の列車が進入しうるようになっている。かかる停車場は、さほど広くないので、そこの軌道部分に近傍の軌道部分たとえば分岐部の近くや合流部の近くを加えた範囲を停車場域と呼ぶことにして、停車場域内でリレー信号伝送用やデジタル通信回線用のケーブルにて有線接続しても、設備設置費用や維持運用の負担は小さくて済む。
【0024】
また、ここでは、単線の軌道11のうち停車場域以外の軌道部分を純単線域と呼ぶことにするが、個々の純単線域には、列車運行が適正に行われている限り、列車が存在しないか、列車10が存在しても一台だけである。純単線域は長距離のものが多く、大抵の純単線域は、広範囲にケーブルを敷設し維持する負担が重いものとなっている。
純単線域では、踏切12が疎らに設置されていることが多いが近くに設置されていることもあり、停車場域では、比較的狭い所に踏切12が幾つか設置されている。踏切12は、踏切警報機31が付設されている他、しゃ断機が付設されている場合と付設されていない場合とがあるが、本発明の実施には、踏切警報機31が付設されていれば足りる。
【0025】
無線式踏切警報システム20+30は(
図1(a)参照)、軌道11を走行する列車10に搭載されて列車10と共に移動する車上装置20と、軌道11に沿って地上側に設置された地上装置30と具えたものであり、後者の地上装置30は、軌道11の各所に設けられた踏切12に一組ずつ付設されている多数の踏切警報機31と、多数の踏切12のうち純単線域に属する踏切12に係る踏切制御として踏切警報機31の警報出力を制御する無線式踏切警報制御装置32と、多数の踏切12のうち停車場域に属する踏切12に係る踏切制御として踏切警報機31の警報出力を制御する無線式踏切警報制御装置36とを具えている。
【0026】
無線式踏切警報システム20+30では、車上装置20と地上装置30とが無線伝送にて踏切制御用情報を送受信するが、停車場域では地上装置30のうち無線式踏切警報制御装置36が主局となり車上装置20が従局となって両局が停車場域用無線周波数f1で無線通信を行い、純単線域では車上装置20が主局となり地上装置30のうち無線式踏切警報制御装置32が従局となって両局が純単線域用無線周波数f2で無線通信を行うようになっている。
【0027】
停車場域用無線周波数f1と純単線域用無線周波数f2には、異なる無線周波数帯が割り当てられていて、重複する周波数部分が無いので、停車場域用無線周波数f1と純単線域用無線周波数f2は例えばバンドパスフィルタ等で容易かつ的確に周波数弁別しうるものとなっている。何れの無線周波数f1,f2についても変調方式に限定はないがFSKやPSKといったデジタル変調が簡便かつ安価で使いやすい。
【0028】
車上装置20から地上装置30へ無線伝送される踏切制御用情報には、列車10の現在位置である列車位置が必須情報として含まれる他、列車運転方向や,列車速度,列車長なども適宜含められる。
また、地上装置30から車上装置20へ無線伝送される情報には、例えば速度照査パターン消去通知や,支障報知,特発,交信終了などが含まれており、これらは踏切状態に応じた列車停止制御に供される。
【0029】
踏切警報機31は(
図1〜4参照)、従来品と同様、無線式踏切警報制御装置32と無線式踏切警報制御装置36の何れかとリレー信号を伝送可能なケーブルで有線接続されていて、無線式踏切警報制御装置32,36からリレーで出力された警報Rを入力し、それに応じて警報灯を点滅させたり警報音発生器に発報させるとともに、踏切支障があればそれを無線式踏切警報制御装置32,36にリレーで通知するようになっている。しゃ断機が付設されていれば、警報Rに応じてしゃ断機に遮断桿を昇降させたり、遮断桿の降下完了を無線式踏切警報制御装置32,36にリレーで通知するようにもなっている。
【0030】
車上装置20は(
図1(b)参照)、周波数f1,f2の何れでも通信しうる無線機をフェールセーフコンピュータからなる本体部に接続したものからなり、そのうち本体部は、搭載先の列車10の車軸計から自列車の先頭位置を取得して列車位置とする列車位置取得プログラム21と、予め設定された後述の列車情報22や踏切情報23をデータ保持している不揮発性メモリ(記憶手段)と、主局や従局として無線伝送を行うか否かを選択する主従選択プログラム24と、列車位置取得プログラム21からの列車位置に列車情報22からの列車長など適宜なデータを加えて踏切制御用情報としこの踏切制御用情報を無線で送信するとともに速度照査パターン消去通知など列車停止制御用情報を無線で受信する無線通信プログラム25と、その列車停止制御用情報と列車位置に基づいて搭載先列車10の列車停止制御を行う列車停止制御プログラム26とを具えている。
【0031】
列車情報22には、踏切制御用情報の充足等のために、搭載先列車10の列車識別番号や,列車長,列車運転方向,最高速度などが含まれている他、速度照査パターンによる列車停止制御を行う場合は速度照査パターン発生用データも含まれる。
踏切情報23には、列車停止制御のために、各踏切12毎に、線区における踏切12の位置や,既述した踏切警報始動点位置,踏切警報終止点位置などが、基点からの距離を示す所謂キロ程で規定されている。
【0032】
また、踏切情報23には(
図6参照)、無線通信のために、やはり各踏切12毎に、交信開始点と交信終了点がキロ程で規定されるとともに、該当踏切12が軌道11における純単線域と停車場域との何れに属しているのかという属性情報や、該当踏切12に係る無線式踏切警報制御装置32,36が他の無線式踏切警報制御装置32,36と有線接続された統合形のものなのかそうでない単独形のものなのかといった属性情報も規定されている。純単線域に属するか停車場域に属するかで判別する場合は不要であるが、この例の踏切情報23には、さらに、該当踏切12の無線式踏切警報制御装置32,36が無線伝送に使用する無線周波数(f1,f2)や、該当踏切12が主局なのか従局なのか(換言すれば車上装置20が従局なのか主局なのか)を示す主従関係も規定されている。
【0033】
主従選択プログラム24は(
図1(b)参照)、列車位置取得プログラム21からの列車位置を踏切情報23の中の交信開始点や交信終了点と比較して、純単線域に属する何れかの踏切12について規定された交信範囲に搭載先列車10の列車位置が入っていれば、その踏切12に係る踏切制御用情報の無線伝送を無線通信プログラム25が主局として行うよう、無線通信プログラム25に指示するとともに、停車場域に属する何れかの踏切12について規定された交信範囲に搭載先列車10の列車位置が入っていれば、その踏切12に係る踏切制御用情報の無線伝送を無線通信プログラム25が従局として行うよう、無線通信プログラム25に指示するようになっている。
【0034】
無線通信プログラム25は、主従選択プログラム24の指示に従って、停車場域に属する踏切12に係る情報の無線伝送を遂行する際には、停車場域用無線周波数f1を使用して無線通信するとともに、従局として地上装置30の無線式踏切警報制御装置36からの呼び掛けに応答するようになっている。また、純単線域に属する踏切12に係る情報の無線伝送を遂行する際には、純単線域用無線周波数f2を使用して無線通信するとともに、主局として地上装置30の無線式踏切警報制御装置32に呼び掛けるようになっている。踏切12は停車場域と純単線域の何れか一方だけに属するが、踏切12に規定される交信範囲は他の交信範囲と一部または全部が重複することもありうるので、無線通信プログラム25が主局か従局かは排他的でなく併存もあるが、それぞれに使用される無線周波数f1,f2が異なるので併存しても混信等の不都合はない。
【0035】
無線式踏切警報制御装置32には、一台で一つの踏切12の通常一対の踏切警報機31を制御する単独形と(
図1(c),
図2参照)、一台で複数の踏切12の多数の踏切警報機31を制御する統合形とがあり(
図1(c),
図3参照)、純単線域における踏切12の設置状況に応じて使い分けられるので、無線式踏切警報制御装置32については両形を説明する。単独形であれ、統合形であれ、無線式踏切警報制御装置32は、周波数f2で通信しうる無線機をフェールセーフコンピュータからなる本体部に接続したものからなり、リレー信号を伝送可能なケーブルで本体部と踏切警報機31とが有線接続されている。
【0036】
ここで述べる統合形は、無線式踏切警報制御装置32と踏切警報機31との有線接続による統合なので、複数の踏切警報機31(
図3の例では2組)が総て一台の無線式踏切警報制御装置32に有線接続されている。また、従局である無線式踏切警報制御装置32について、有線接続による統合が意味するところは、有線接続された無線式踏切警報制御装置32や踏切警報機31が踏切制御を担う踏切12に係る無線伝送については、車上装置20が同時でなく時間をずらして各踏切12に係る呼び掛けを順次行うのに対応して逐次応答することで、無線伝送のタイミングが調整され、同一の無線周波数を使用していても更には一の無線機を共用していても無線伝送が的確になされるようになっている、ということである。
【0037】
無線式踏切警報制御装置32は、車上装置20との無線伝送にて得た踏切制御用情報に基づいて踏切制御を純単線域で行うものであり、そのために、無線式踏切警報制御装置32の本体部は(
図1(c),
図2参照)、純単線域用無線周波数f2で無線伝送を行うとともに従局として車上装置20からの呼び掛けに応答することで踏切制御用情報を取得する無線通信プログラム33と、予め設定された踏切情報35をデータ保持している不揮発性メモリ(記憶手段)と、踏切情報35を参照しながら無線通信プログラム33からの踏切制御用情報に基づいて一つの踏切12に付設された踏切警報機31に対する踏切制御を実行する踏切制御プログラム34とを具えている。
【0038】
ここで、踏切情報35には、踏切制御のために、制御対象の踏切12の位置や,踏切警報始動点位置,踏切警報終止点位置などがキロ程で規定されている。
また、単独形の無線式踏切警報制御装置32の本体部は(
図1(c),
図2参照)踏切制御プログラム34と踏切情報35とを一組しか具えていないが、統合形の無線式踏切警報制御装置32の本体部は(
図3参照)、踏切制御プログラム34と踏切情報35との組を複数(具体的には制御対象の踏切12の個数と等しい組数だけ、図示の例では2組)具えている。
【0039】
停車場域向けの無線式踏切警報制御装置36は(
図1(d),
図4参照)、単独形で用いられるのが稀なので統合形を説明するが、周波数f1で通信しうる無線機36aをフェールセーフコンピュータからなる本体部36bに接続したものからなり、リレー信号を伝送可能なケーブルで本体部36bと踏切警報機31とが有線接続されている。この無線式踏切警報制御装置36の統合形にも、無線式踏切警報制御装置36と踏切警報機31との有線接続による統合が採用されているので、複数の踏切警報機31(図示の例では3組)が総て一台の無線式踏切警報制御装置36に有線接続されている。
【0040】
もっとも、主局である無線式踏切警報制御装置36について、有線接続による統合が意味するところは、従局の場合と少し異なり、有線接続された無線式踏切警報制御装置36や踏切警報機31が踏切制御を担う踏切12に係る無線伝送については、有線接続を介して例えば決定済みの優先順位を確認しあうことや、あるいは対等の立場で無線通信権(トークン)を巡回的に受け渡すといったことで、無線伝送のタイミングが時分割的なものに調整されて、同一の無線周波数を使用していても更には一台の無線機を共用していても無線伝送が混信しないで的確になされるようになっている、ということである。
【0041】
無線式踏切警報制御装置36は、車上装置との無線伝送にて得た踏切制御用情報に基づいて踏切制御を停車場域で行うものであり、そのために、無線式踏切警報制御装置36の本体部36bは(
図1(d),
図4参照)、停車場域用無線周波数f1で無線伝送を行うとともに主局として車上装置20に呼び掛ける無線通信プログラム37と、予め設定された踏切情報39をデータ保持している不揮発性メモリ(記憶手段)と、踏切情報39を参照しながら無線通信プログラム37からの踏切制御用情報に基づいて一つの踏切12に付設された踏切警報機31に対する踏切制御を実行する踏切制御プログラム38とを具えている。
【0042】
統合形の無線式踏切警報制御装置36の本体部36bは、踏切制御プログラム37と踏切情報39との組を複数(具体的には制御対象の踏切12の個数と等しい組数だけ、図示の例では3組)具えている。また、踏切情報39には、踏切情報35と同様、踏切制御のために、制御対象の踏切12の位置や,踏切警報始動点位置,踏切警報終止点位置などがキロ程で規定されている。駅構内での列車の運転に応じた踏切警報制御には、本体部36bに、連動条件が入力されるとともに、その処理プログラムが追加されるが、これらは本発明の実施に必須なものではない。
【0043】
このような無線式踏切警報システム20+30にあっては、車上装置20と地上装置30との無線伝送(無線通信による情報伝送)を少ない無線チャンネルで的確かつ安価なものにするべく、純単線域と停車場域とで主従(質問者側の主局と応答側の従局)及び2波の無線チャンネル(無線周波数帯f1,f2)を切り替えるようにしたことにより、長距離区間のことが多い純単線域における地上装置30については有線接続が不要になっている。しかも、移動局である車上装置20は、列車位置を踏切情報23の交信開始点と交信終了点に照らすことにより、単独で、主局の立場で呼び掛けるときの相手方(ポーリング対象)についても、従局の立場で応答するときの相手方(アンサー対象)についても、容易かつ迅速に選定することができるものとなっている。
【0044】
また、地上側に固定局として分散設置されている地上装置30のうち純単線域の踏切12に係る無線式踏切警報制御装置32は、従局なので、車上装置20からの呼び掛けによって一意に応答相手が定まるものである。
これに対し、地上装置30のうち停車場域の踏切12に係る無線式踏切警報制御装置36は、主局なので自ら呼び掛け相手を選定しなければならないうえ、通信負荷軽減のため呼び掛け相手を絞り込まなければならないが、踏切情報39を保持しているだけでは足りず、無線で車上装置20と交信してからでないと列車位置を把握することができないので、車上装置20のように単独で選定できる訳ではない。
【0045】
そのため、この無線式踏切警報制御装置36は、周期的に又は不定周期でブロードキャスト的な特別の呼び掛け(以下、存在確認呼掛けと言う)を発信して、交信範囲に入っている総ての車上装置20に対して一斉に列車識別番号といった識別情報の返答を求めるとともに、その呼びかけに対して応答のあった車上装置20を通常の呼び掛け相手(すなわち相手方を一つずつ指定して順次呼び掛けるときの呼び掛け相手,ポーリング対象)に選定するようになっている。上述したように車上装置20は従局として応答すべき交信範囲に入っているか否かが単独で分かるので、そのような車上装置20からの応答の有無を調べることで容易かつ的確に、無線式踏切警報制御装置36は、通常の呼び掛け相手を必要最小限に絞り込んだ状態で選定することができる。
【0046】
この実施例1の無線式踏切警報システム20+30について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。
図5は、システム概要図であり、
図6は、車上装置20の踏切情報23のデータ例である。また、
図7は、(a)が各踏切12,…,12に係る無線での交信領域P0〜P9を示す概要図、(b)〜(g)が何れも交信ダイアグラムの例である。さらに、
図8は、(a),(b)何れも交信ダイアグラムであり、
図9は、(a)が各踏切12,…,12に係る無線での交信領域P0〜P9を示す概要図、(b)〜(e)が何れも交信ダイアグラムの例である。なお、
図7〜
図8は停車場13に列車10が不在の場合を示しており、
図9は停車場13に列車10が存在する場合を示している。
【0047】
ここでは(
図5参照)、列車10の進行方向において、軌道11が停車場13より左の純単線域と停車場13を含む停車場域と停車場13より右の純単線域とに分けられているものとする。
また、左の純単線域には左から右へA踏切12とB踏切12とC踏切12が設けられており、停車場域には左から右へD踏切12とE踏切12とF踏切12が設けられており、右の純単線域には左から右へG踏切12とH踏切12が設けられているものとする。
【0048】
さらに、左の純単線域に属するA踏切12に係る踏切警報機31とB踏切12に係る踏切警報機31は、有線接続による統合がなされていて、一台の無線式踏切警報制御装置32によって制御されるが、C踏切12に係る踏切警報機31は、単独で無線式踏切警報制御装置32によって制御される。停車場域に属するD踏切12とE踏切12とF踏切12に係る3組の踏切警報機31は、総て有線接続による統合がなされていて、一台の無線式踏切警報制御装置36によって纏めて制御される。右の純単線域に属するG踏切12とH踏切12に係る踏切警報機31は、総て、単独で、それぞれ対応する無線式踏切警報制御装置32によって制御されるようになっているものとする。
【0049】
そして、このような軌道11と踏切12の設置状況に対応したデータ値が、車上装置20の踏切情報23に対し、列車走行前に設定されるとともに(
図6参照)、無線式踏切警報制御装置32の踏切情報35や無線式踏切警報制御装置36の踏切情報39にも設定される。その踏切情報23の数値例に基づいて各踏切12の交信範囲(交信開始点から交信終了点までの範囲)の分布状態を確認すると(
図5,
図7(a)参照)、A踏切12の交信範囲より左方の交信領域P0には交信する踏切12が無く、その右の交信領域P1はA踏切12に係る地上側従局かつ車上側主局の交信が行われるものとなっている。
【0050】
また(
図5,
図7(a)参照)、その右の交信領域P2はA踏切12とB踏切12に係る地上側従局かつ車上側主局の交信が行われ、その右の交信領域P3はB踏切12に係る地上側従局かつ車上側主局の交信だけが行われ、その右の交信領域P4には交信する踏切12が無く、その右の交信領域P5はC踏切12に係る地上側従局かつ車上側主局の交信だけが行われ、その右の交信領域P6はC踏切12に係る地上側従局かつ車上側主局とD踏切12に係る地上側主局かつ車上側従局の交信とが行われ、その右の交信領域P7はD踏切12に係る地上側主局かつ車上側従局の交信だけが行われ、その右の交信領域P8はD踏切12とE踏切12に係る地上側主局かつ車上側従局の交信が行われ、その右の交信領域P9はE踏切12に係る地上側主局かつ車上側従局の交信だけが行われるものとなっている。
【0051】
このような地上装置30の設置状況下で(
図7(a)参照)、車上装置20を搭載したイ列車10が軌道11を左から右へ走行して来ると、先ず、イ列車10が交信領域P0に居る間は(
図7(b)参照)、車上装置20は無線で交信すべき相手が無いので純単線域用無線周波数f2を用いる主局としての呼び掛けを行わず、A,B,C踏切12に係る無線式踏切警報制御装置32による純単線域用無線周波数f2を用いる従局としての応答も無い。また、停車場13に他の列車10が居ないことから、D,E踏切12の交信範囲に車上装置20が存在しないので、D,E踏切12に係る無線式踏切警報制御装置36は、ときどき停車場域用無線周波数f1を用いて存在確認呼掛けを無線発信するが、車上装置20からの応答は無い。そのため、無線伝送に混信などの不具合は生じない。
【0052】
そして、イ列車10が交信領域P1に進入すると(
図7(c)参照)、車上装置20がA踏切12の交信範囲に入るので、純単線域用無線周波数f2の無線通信にて車上装置20からA踏切12に係る無線式踏切警報制御装置32への呼び掛けとその逆向きの応答とが繰り返されて、A踏切12に係る踏切制御とイ列車10の列車停止制御とが滞りなく行われる。さらに、イ列車10が走行して交信領域P2に進入すると(
図7(d)参照)、車上装置20がB踏切12の交信範囲にも入るので、純単線域用無線周波数f2の無線通信にて車上装置20からB踏切12に係る無線式踏切警報制御装置32への呼び掛けとその逆向きの応答も加わるが、A踏切12に係る無線伝送とB踏切12に係る無線伝送は交互に行われるので、混信などの不具合は生じないため、A,B両踏切12に係る踏切制御とイ列車10の列車停止制御が滞りなく行われる。
【0053】
また、それらと並行してD,E踏切12に係る存在確認呼掛けも繰り返されるが(
図7(c),(d)参照)、こちらの無線通信には停車場域用無線周波数f1が用いられるので、何れの無線伝送も、不都合なく的確に遂行される。
そして、繰り返しとなる詳細な説明は割愛するが、イ列車10が交信領域P3に進むと、A踏切12に係る無線伝送は終了するが、B踏切12に係る無線伝送は継続して行われて、B踏切12に係る踏切制御とイ列車10の列車停止制御が滞りなく行われる。イ列車10が交信領域P4に進むと、B踏切12に係る無線伝送も終了して、無線式踏切警報システム20+30の無線通信状態は、交信領域P0のときと同様の状態になる。
【0054】
それから、イ列車10が交信領域P5に進入すると(
図7(e)参照)、車上装置20がC踏切12の交信範囲に入るので、純単線域用無線周波数f2の無線通信にて車上装置20からA踏切12に係る無線式踏切警報制御装置32への呼び掛けとその逆向きの応答とが繰り返されて、C踏切12に係る踏切制御とイ列車10の列車停止制御とが滞りなく行われる。なお、この段階では、未だD踏切12の交信範囲に車上装置20が入っていないので、D,E踏切12に係る存在確認呼掛けは、呼び掛け相手がいないので応答を受け取ることがなく、しかも停車場域用無線周波数f1を用いて混信などすることもなく、繰り返される。
【0055】
さらに、イ列車10が走行して交信領域P6に進入すると(
図7(f)参照)、イ列車10の車上装置20がD踏切12の交信範囲にも入るので、停車場域用無線周波数f1を用いた無線式踏切警報制御装置36の存在確認呼掛けに車上装置20が応答するようになる。そうすると、D踏切12の交信範囲に呼び掛け相手(ポーリング対象)の存在していることが無線式踏切警報制御装置36によって確認され、イ列車10の車上装置20が呼び掛け相手に選定される。その後は、無線通信にて無線式踏切警報制御装置36から車上装置20へD踏切12に係る呼び掛けとその逆向きの応答も加わってそれらが繰り返されるが、D踏切12に係る無線伝送は停車場域用無線周波数f1で行われるのに対し、C踏切12に係る無線伝送は純単線域用無線周波数f2で行われるので、例え完全に並列な状態で行われたとしても、無線伝送に混信などの不具合は生じない。そして、C,D両踏切12に係る踏切制御とイ列車10の列車停止制御が滞りなく行われる。
【0056】
それから、イ列車10が交信領域P7に進むと(
図7(g)参照)、C踏切12に係る無線伝送は終了するが、D踏切12に係る無線伝送は継続して行われて、D踏切12に係る踏切制御とイ列車10の列車停止制御が滞りなく行われる。また、イ列車10が交信領域P8に進むと(
図8(a)参照)、イ列車10の車上装置20がE踏切12に係る存在確認呼掛けに応答してE踏切12についても呼び掛け相手に選定され、停車場域用無線周波数f1の無線通信にて無線式踏切警報制御装置36から車上装置20への呼び掛けとその逆向きの応答がE踏切12についても加わるが、D踏切12に係る無線伝送とE踏切12に係る無線伝送は無線式踏切警報制御装置36のタイミング調整によって交互に行われるので、無線伝送に混信などの不具合は生じない。そして、D,E両踏切12に係る踏切制御等が滞りなく行われる。さらに、イ列車10が交信領域P9に進むと(
図8(b)参照)、D踏切12に係る無線伝送は終了するが、E踏切12に係る無線伝送は継続して行われて、E踏切12に係る踏切制御等が滞りなく行われる。
【0057】
こうして、この無線式踏切警報システム20+30にあっては、イ列車10が単独で走行している場合、使用する無線周波数帯が2波f1,f2だけであっても、また、数km以上に及ぶことの多い長距離の純単線域については無線式踏切警報制御装置32同士が有線接続されていなくても、総ての踏切12に係る無線伝送ひいては踏切制御およびイ列車10の列車停止制御が適切に遂行される。
次に(
図9参照)、イ列車10だけでなくロ列車10も存在する状況について、無線式踏切警報システム20+30の動作を例示する。ロ列車10は、例えば、折り返し列車であり、停車場13の副線上に停車して、イ列車10が来るのを待っているものとする。
【0058】
イ列車10とロ列車10とが離れているときの説明は割愛し、E踏切12の交信範囲に含まれる交信領域P9にロ列車10が居り、そこにイ列車10が近づいて来て、イ列車10が交信領域P6に進入したところから詳述すると(
図9(b)参照)、イ列車10の車上装置20がC踏切12の交信範囲とD踏切12の交信範囲の両方に入るので、純単線域用無線周波数f2の無線通信にてイ列車10の車上装置20からC踏切12に係る無線式踏切警報制御装置32への呼び掛けとその逆向きの応答とが繰り返されるとともに、停車場域用無線周波数f1の無線通信にて無線式踏切警報制御装置36からイ列車10の車上装置20へのD踏切12に係る呼び掛けとその逆向きの応答も繰り返される。
【0059】
しかも、ロ列車10がE踏切12の交信範囲に入っているので、停車場域用無線周波数f1の無線通信にて無線式踏切警報制御装置36からロ列車10の車上装置20へのE踏切12に係る呼び掛けとその逆向きの応答も繰り返される。この状態では、C,D,E踏切12に係る三つの無線伝送が繰り返されるが、C踏切12に係る無線伝送とD,E踏切12に係る無線伝送とは周波数弁別にて簡便かつ確実に切り分けられ、D踏切12に係る無線伝送とE踏切12に係る無線伝送は、有線接続による統合によって一台に纏められた無線式踏切警報制御装置36が主局となって両無線伝送を時分割するので、やはり簡便かつ確実に切り分けられる。そして、安定した無線伝送に基づいてC,D,E踏切12に係る踏切制御とイ,ロ両列車10の列車停止制御が滞りなく行われる。
【0060】
それから、イ列車10が交信領域P7に進むと(
図9(c)参照)、C踏切12に係る無線伝送は終了するが、イ列車10の車上装置20と無線式踏切警報制御装置36とによるD踏切12に係る無線伝送と、ロ列車10の車上装置20と無線式踏切警報制御装置36とによるE踏切12に係る無線伝送は、継続して不都合なく行われる。さらに、イ列車10が進んで交信領域P8に入ると(
図9(d)参照)、イ列車10の車上装置20と無線式踏切警報制御装置36とによるE踏切12に係る無線伝送も加わるが、主局である無線式踏切警報制御装置36の時分割によって何れの無線伝送も不都合なく行われるため、D,E踏切12に係る踏切制御とイ,ロ列車10の列車停止制御が滞りなく行われる。
【0061】
そして、イ列車10が停車場13に到着して交信領域P9に入ると(
図9(e)参照)、D踏切12に係る無線伝送は終了するが、イ,ロ両列車10の車上装置20,20と無線式踏切警報制御装置36とによるE踏切12に係る二つの無線伝送は、継続して繰り返され、しかも無線式踏切警報制御装置36の主導する時分割によって不都合なく行われる。そして、E踏切12に係る踏切制御とイ,ロ両列車10の列車停止制御が滞りなく行われて、イ列車10は更に右方へ進行することができ、ロ列車10はイ列車10の居なくなった左方へ進行することができる。
【0062】
こうして、この無線式踏切警報システム20+30にあっては、イ列車10が単独で走行している場合に限らず、ロ列車10が停車場13に存在している場合にも、使用する無線周波数帯が2波f1,f2だけに限定されていても、また、数km以上に及ぶことの多い長距離の純単線域については無線式踏切警報制御装置32同士が有線接続されていなくても、総ての踏切12に係る無線伝送ひいては踏切制御および複数列車の列車停止制御が適切に遂行される。