(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加工用レーザ光は、前記加工対象物の表面から裏面まで伝搬方向に沿ってパワー密度が高くなる、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
前記加工用レーザ光は、前記加工対象物の表面から裏面まで伝搬方向に沿ってパワー密度が高くなる、請求項5から請求項7までのいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
前記加工用レーザ光の前記第3の位置でのパワー密度が、前記第1の位置でのパワー密度よりも高くなるように、レーザ光を整形して加工用レーザ光を生成する、請求項10に記載のレーザ加工方法。
前記加工用レーザ光のパワー密度が、前記加工対象物の表面から裏面まで伝搬方向に沿って高くなるように、レーザ光を整形して加工用レーザ光を生成する、請求項10又は請求項11に記載のレーザ加工方法。
前記加工対象物の表面が前記第2の位置に位置し且つ前記加工対象物の裏面が前記第3の位置に位置するように、前記加工対象物を配置する、請求項10から請求項12までのいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0020】
<レーザ加工装置の構成>
まず、レーザ加工装置の概略構成について説明する。
図1は本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置の構成の一例を示す概略構成図である。
図1に示すように、レーザ加工装置10は、レーザ光を射出するレーザ光源12と、レーザ光源12から射出されたレーザ光を整形する整形光学系14と、を備えている。整形光学系14は、レーザ光を集光する第1の光学素子16と、第1の光学素子16で集光されたレーザ光を加工用レーザ光22に変換する第2の光学素子18と、を備えている。加工用レーザ光22により、加工対象物20が加工される。整形光学系14で整形されたレーザ光は、第1の光学素子16の焦点位置30において結像される。
【0021】
本実施の形態において「加工用レーザ光」とは、半径方向の径が最小となる部分(ビームウエスト)より伝搬方向の下流側に生成される、外径が伝搬方向に向かって拡大するビームプロファイル(光強度分布)を有するレーザ光である。なお、加工用レーザ光22のビームプロファイルについては、後で詳細に説明する。また、
図1においては、レーザ光の光軸Lに沿った伝搬方向をz軸方向として図示すると共に、z軸方向と直交するレーザ光の半径方向をr軸方向として図示している。本実施の形態では、z軸は光軸Lと一致している。また、z軸の原点(z=0となる「位置0」)は、第2の光学素子18の出射面内にある。
【0022】
本実施の形態では、第1の光学素子16と第2の光学素子18とは、レーザ光源12の光出射側にこの順序で配置されている。また、第1の光学素子16と第2の光学素子18とは、その光軸がレーザ光の光軸Lと一致するように配置されている。第1の光学素子16は、レーザ光を集光する集光素子としての機能を備えていれば特に制限はない。第1の光学素子16は、非球面レンズでもよく、球面レンズでもよい。また、第1の光学素子16は、単レンズでもよく、複数のレンズが組み合わされた複合レンズでもよい。
【0023】
本実施の形態の第1の光学素子16としては、球面レンズよりも収差が小さい非球面レンズが特に好適である。また、球面レンズを複数枚(例えば、ダブレットやトリプレット)組み合わせた複合レンズも、単レンズ(球面レンズ)より収差が小さく好適である。
【0024】
第2の光学素子18は、レーザ光を所定のビームプロファイルを有する加工用レーザ光22に変換するプロファイル変換素子としての機能を備えていれば特に制限はない。プロファイル変換素子として機能するためには、円錐形状又は円錐台形状の光学素子(円錐レンズ)含んで構成されていることが好ましい。第2の光学素子18としては、円錐レンズを代表するアキシコンレンズを用いることができる。
【0025】
なお、レーザ光源12としては、加工対象物20の種類に応じて適切な出力の光源が選択される。レーザ光源12として、パルス駆動レーザを用いてもよく、連続駆動レーザを用いてもよい。例えば、フェムト秒レーザ、ピコ秒レーザ等のパルス駆動レーザを用いて、非熱加工を実現することができる。非熱加工では、加工対象物20の側壁が過剰に除去される、いわゆる「ダレ」の発生が少ない。このため、レーザ加工用の光源としては、パルス駆動レーザが好適である。
【0026】
<レーザ加工装置の動作>
次に、上記レーザ加工装置の動作(即ち、レーザ加工方法)について説明する。
上記のレーザ加工装置10では、レーザ光源12から射出されたレーザ光は、第1の光学素子16により集光され、第2の光学素子18により所定のビームプロファイルの加工用レーザ光22に変換されて、加工対象物20に照射される。
【0027】
ここで、加工用レーザ光22のビームプロファイルについて説明する。
図2(A)は加工用レーザ光22の集光特性を示す模式図である。
図2(A)に示すように、第2の光学素子18から射出されたレーザ光は、伝搬方向(z軸方向)に向かって一旦収束して半径方向(r軸方向)の径が最小となった後に、伝搬方向に向かって拡散して半径方向の径が徐々に拡大する。上述した通り、加工用レーザ光22(斜線部)は、ビームウエストの伝搬方向の下流側に生成されるレーザ光である。
【0028】
ビームウエストの光軸L上の位置を「位置a」とし、後述する環状ビームに変換される光軸L上の位置を「位置b」とし、第1の光学素子16の焦点位置30の光軸L上の位置を「位置c」とする。加工用レーザ光22は、位置a、位置b、位置cの順序で、外径が伝搬方向に向かって拡大するビームプロファイルを有するレーザ光である。位置a、位置b、位置cの各々の位置0(Z=0)からの距離は、「a」、「b」及び「c」で表される。
【0029】
また、
図2(A)には、加工用レーザ光22の光軸L(一点鎖線で図示する)に沿った断面でのビームプロファイルが図示されている。加工用レーザ光22は、光軸Lに対して回転対称である3次元形状を有している。詳しくは、加工用レーザ光22は、光軸Lを回転軸として、斜線を付した逆V字状の断面を光軸Lの周りに回転させて得られる3次元形状を有している。
【0030】
加工対象物20は、上記の位置aと位置cとの間に配置される。好ましくは、加工対象物20の表面20Aは位置aと位置bとの間に配置され、加工対象物20の裏面20Bは位置bと位置cとの間に配置される。これにより、加工対象物20には、表面20Aから裏面20Bに向かって拡大する加工用レーザ光22が照射される。加工用レーザ光22は、加工対象物20の表面20A側から入射し、加工対象物20の裏面20B側から射出される。
【0031】
加工用レーザ光22の照射により、加工対象物20には貫通孔20Cが形成される。
図2(B)は貫通孔20Cが形成された加工対象物20を表面20A側から見たときの平面図である。
図2(B)に示すように、加工対象物20には、逆テーパ状の貫通孔20Cが形成される。逆テーパ状の貫通孔20Cとは、裏面20B側での開口径D2が、表面20A側での開口径D1よりも大きい貫通孔である。
【0032】
<整形光学系のビーム整形動作>
次に、整形光学系14で行われるビーム整形動作について具体的に説明する。
以下の説明では、整形光学系14の第1の光学素子16を非球面レンズで構成し、整形光学系14の第2の光学素子18を1個のアキシコンレンズで構成した例について説明する。従って、第1の光学素子16を「非球面レンズ16」と言い換え、第2の光学素子18を「アキシコンレンズ18」と言い換える。
図3は整形光学系14によりレーザ光が整形される様子を示す斜視図である。
【0033】
図3に示すように、アキシコンレンズ18は、非球面レンズ16の光出射側に、非球面レンズ16と所定距離だけ離間して配置されている。アキシコンレンズ18は、その円錐面が非球面レンズ16と対向するように配置されている。また、上述した通り、非球面レンズ16とアキシコンレンズ18とは、その光軸がレーザ光の光軸Lと一致するように配置されている。従って、アキシコンレンズ18の円錐頂点18Aは、光軸L上に位置している。
【0034】
レーザ光源12から射出されたレーザ光は、非球面レンズ16により集光されて、アキシコンレンズ18に入射する。アキシコンレンズ18に入射したレーザ光は、アキシコンレンズ18によって加工用レーザ光22に変換される。加工用レーザ光22は、その外径が伝搬方向に向かって拡大し、環状ビームに変換されて、非球面レンズ16の焦点位置30において円環状に結像する。
【0035】
以下では、光軸Lから環状ビームの外周を形成する光線rjまでの半径方向(r軸方向)の距離を、加工用レーザ光22の外径と称する。また、光軸Lから環状ビームの内周を形成する光線riまで半径方向(r軸方向)の距離を、加工用レーザ光22の内径と称する。なお、厳密には、位置a(ビームウエスト)から位置bまでの間では環状ビームが形成されないが、位置b以降に環状ビームの内周を形成する光線riと光軸Lとの距離を、加工用レーザ光22の内径と称する。
【0036】
ここで、アキシコンレンズ18によるプロファイル変換動作を詳細に説明する。また、このプロファイル変換動作により生成されるレーザ光のビームプロファイルについても併せて説明する。
図4(A)はレーザ光の光軸に沿った断面でのビームプロファイルを示す模式図である。
図4(B)は
図4(A)に示すレーザ光の伝搬方向の各位置における光軸に垂直な断面でのビームプロファイルを示す模式図である。ここでは、アキシコンレンズ18は理想レンズとされ、その厚さはゼロと仮定されるものとする。
【0037】
非球面レンズ16により集光されたレーザ光は、アキシコンレンズ18に入射する。伝搬方向(z軸方向)に向かって収束するレーザ光が、アキシコンレンズ18の円錐頂点18A及びその周囲の斜面18Bに入射する。アキシコンレンズ18の光軸L上に位置する円錐頂点18Aに入射したレーザ光(光線rj)は、アキシコンレンズ18により屈折されてその出射面(位置0)から射出される。アキシコンレンズ18から射出された光線rjは、位置0から位置cに向かって光軸Lからの距離(r軸方向の距離)を拡大しながら伝搬し、位置aと位置cとの間で加工用レーザ光22の外周を形成する。加工用レーザ光22の外径は、位置aから位置cに向かって拡大する。
【0038】
一方、アキシコンレンズ18の光軸Lから最も離れた位置に入射したレーザ光(光線ri)は、アキシコンレンズ18により屈折されてその出射面(位置0)から射出される。アキシコンレンズ18から射出された光線riは、位置0から位置bに向かって光軸Lからの距離を縮小しながら伝搬した後、位置bから位置cに向かって光軸Lからの距離を拡大しながら伝搬する。そして、光線riは、位置bと位置cとの間で加工用レーザ光22の内周を形成する。加工用レーザ光22の内径は、位置bから位置cに向かって拡大する。
【0039】
ビームウエストである位置aにおいては、光線rjの光軸Lからの距離と光線riの光軸Lからの距離とが等しくなる。位置bにおいては、光線riの光軸Lからの距離がゼロとなる。位置bより伝搬方向の下流側では、円形ビームが環状ビームに変換され、光線rjが加工用レーザ光22の外周を形成すると共に、光線riが加工用レーザ光22の内周を形成する。非球面レンズ16の焦点位置30である位置cにおいては、光線riと光線rjとが角度αで交差する。このとき、加工用レーザ光22の外径及び内径が最大となり、加工用レーザ光22が円環状に結像する。
【0040】
なお、アキシコンレンズ18としては、円錐面における斜面18Bの傾斜角α
axが小さいレンズが好ましい。傾斜角α
axを小さくすることで、後述する作動長WDを長くすることができる(
図8参照)。斜面18Bの傾斜角α
axは、円錐面における頂角をφとしたとき、α
ax=(2π−φ)/2で表される角度である。換言すれば、アキシコンレンズ18としては、円錐面における頂角φが大きいレンズが好ましい。
【0041】
上記では、非球面レンズ16とアキシコンレンズ18とにより整形光学系14を構成する例について説明したが、整形光学系14により上述したビームプロファイルの加工用レーザ光22を生成することができればよく、整形光学系14の構成は上記レンズの組合せや配置に限定されるものではない。例えば、非球面レンズ16とアキシコンレンズ18の順序を入れ替えて、アキシコンレンズ18の下流側に非球面レンズ16を配置してもよい。この場合、アキシコンレンズ18は、その円錐面が非球面レンズ16と対向するように近接させて配置されることが望ましい。
【0042】
アキシコンレンズ18には平行光が入射する。
図3、
図4(A)及び(B)に示した場合と同様に、アキシコンレンズ18の円錐頂点18Aから射出される光線rjは、加工用レーザ光22の外周を形成する。また、アキシコンレンズ18の斜面18Bの光軸Lから最も離れた位置から射出される光線riは、加工用レーザ光22の内周を形成する。
【0043】
但し、上記の実施の形態で説明した通り、非球面レンズ16の下流側にアキシコンレンズ18を配置した場合には、アキシコンレンズ18の下流側に非球面レンズ16を配置した場合に比べて、後述する作動長WDを長くすることができる。また、逆テーパ状の貫通孔20Cを形成するための、加工用レーザ光22のパワー密度分布の設計が容易になる。
【0044】
<加工用レーザ光のパワー密度>
次に、加工用レーザ光22のパワー密度分布について説明する。
図5は加工用レーザ光22のビームプロファイルをzr座標系で定義する模式図である。実際に加工に使用される加工用レーザ光22は、位置aから位置cまでのレーザ光である(a≦z≦c)。しかしながら、光線ri及び光線rjの定義を容易にするために、ここでは位置0から位置cまでのレーザ光について(0≦z≦c)、ビームプロファイルを定義する。
【0045】
ここで、光軸L(z軸)と光線rjとが成す角度を「傾き角θ(単位:°)」とし、アキシコンレンズ18の出射面でのビーム半径を「ビーム幅w0(単位:μm)」とする。
【0046】
図5において、加工用レーザ光22の内周を形成する光線riは、(0,−w0)と(c,ctanθ)の2点を通る直線として定義される。光線riを表す直線は、zを変数として下記式(1)で表すことができる。
【0048】
一方、加工用レーザ光22の外周を形成する光線rjは、(0,0)と(c,ctanθ)の2点を通る直線として定義される。光線rjを表す直線は、zを変数として下記式(2)で表すことができる。
【0050】
なお、
図5に点線で図示した通り、厳密には、光線ri及び光線rjの各々は、アキシコンレンズ18で屈折されるので、z<0の領域では直線にならないが、加工用レーザ光22のビームプロファイルを定義する場合には、上記の直線として取り扱うことができる。
【0051】
上述した通り、光線rjの光軸Lからの距離と、光線rjの光軸Lからの距離とにより、円形ビームの外径、環状ビームの外径及び内径が定まる。従って、これらの外径及び内径を用いて、z軸方向の任意の位置zにおいて、z軸に垂直な断面での断面積S(z)を求めることができる。パワー密度は、単位面積あたりのビーム強度(エネルギー量)である。伝搬中にエネルギー損失が生じないものと仮定すると、ビーム強度は面積に応じて再配分されることになる。従って、断面積S(z)を求めることにより、任意の位置zでのパワー密度を求めることができる。
【0052】
なお、ビームの進行方向(即ち、波面の法線方向)は、z軸方向とは完全には一致していない。厳密には、パワー密度は、波面の法線方向に沿った断面での面積で規格化されるべきである。しかしながら、傾き角θが小さい領域では、z軸に垂直な断面での断面積S(z)で近似することができる。
【0053】
位置0においてビーム半径w0で射出された円形ビームは、z軸方向に伝搬されて、位置cにおいて半径ctanθの円環状ビームとなる。位置aでのビーム径(直径)は線分AAで表され、位置bでのビーム径は線分BBで表され、位置cでのビーム径は線分CCで表される。z軸方向の距離が大きくなるに従って、即ち、位置aから位置cに向かって、断面積S(z)は略単調に減少する。加工用レーザ光22のパワー密度は、断面積S(z)に反比例して、位置aから位置cに向かって略単調に増加する。
【0054】
ここで「略単調に」としたのは、位置aと位置bとの間では、断面積S(z)が増減する場合や、パワー密度が増減する場合があるためである。換言すれば、断面積S(z)が単調に減少するように、整形光学系14のパラメータ(レーザ光のビーム径、ビーム強度等を含む)を設定することで、パワー密度が単調に増加する加工用レーザ光22を生成することができる。少なくとも位置bと位置cとの間で、断面積S(z)が単調に減少し、パワー密度が単調に増加する加工用レーザ光22を生成することができる。
【0055】
加工対象物20には、表面20Aから裏面20Bに向かってパワー密度が増加する加工用レーザ光22を照射することができる。このようにパワー密度が伝搬方向に向かって増加する加工用レーザ光22を用いることで、加工対象物20に逆テーパ状の貫通孔20Cを容易に形成することができる。
【0056】
位置bと位置cとの間で断面積S(z)が単調に減少するとは、加工対象物20の厚さTや形成する貫通孔20Cの開口径D1、開口径D2に応じて、b≦z≦cの範囲で下記式(3)を満たすことである。
【0058】
具体的に、加工対象物20の厚さT、貫通孔20Cの開口径D1、開口径D2の数値を設定して、b≦z≦cの範囲で下記式(3)を満たす条件を求めるシミュレーション計算を実施した。加工対象物20の厚さTを800μmとし、貫通孔20Cの表面20Aでの開口径D1を50μmとし、貫通孔20Cの裏面20Bでの開口径D2を100μmとした。
【0059】
計算モデルを単純化するために、アキシコンレンズ18の出射面(z=0)でのレーザ光のビームプロファイルは、ビーム強度が半径方向に平坦化されたトップハットライク分布と仮定した。また、位置0と位置bとの間では、光軸Lの周囲でビームの重なりを生じているが、干渉特性は考慮せずにビーム強度が2倍になると仮定した。更に、アキシコンレンズ18は、厚さゼロで収差なしの理想レンズとして取り扱うことにした。シミュレーション計算の結果を以下に示す。
【0060】
図6は加工用レーザ光のパワー密度変化の一例を示すグラフである。横軸は伝搬方向(z軸方向)の座標を表す。左縦軸は半径方向(r軸方向)の座標を表し、右縦軸は規格化パワー密度を表す。パワー密度変化を示す線図は、矢印で右縦軸に対応付けられている。ここでは、加工用レーザ光22の位置aが加工対象物20の表面20Aに在り、位置cが加工対象物20の裏面20Bに在るモデル(タイプA)を図示している。
【0061】
タイプAでは、加工対象物20の厚さT(=c−a)を800μm、開口径D1に対応する線分AAの長さを約50μmとし、開口径D2に対応する線分CCの長さを100μmとした。即ち、下記表1の備考欄に記載されているように、各数値を目標値として設定した。
【0062】
タイプAの形状の貫通孔が形成されるように、数値計算によって非線形計画問題を解くことで、ビーム幅w0、傾き角θ、線分BBの長さ、位置aまでの距離a、位置bまでの距離b、及び位置cまでの距離cを求めた。計算結果を下記表1に示す。なお、
図6に示すグラフには、伝搬方向に沿ったパワー密度変化と共に、この計算結果が視覚的に表示されている。枠で囲んだ部分が加工対象物である。
【0064】
図7は加工用レーザ光のパワー密度変化の他の一例を示すグラフである。横軸は伝搬方向(z軸方向)の座標を表す。左縦軸は半径方向(r軸方向)の座標を表し、右縦軸は規格化パワー密度を表す。パワー密度変化を示す線図は、矢印で右縦軸に対応付けられている。ここでは、加工用レーザ光22の位置bが加工対象物20の表面20Aに在り、位置cが加工対象物20の裏面20Bに在るモデル(タイプB)を図示している。
【0065】
タイプBでは、加工対象物20の厚さT(=c−b)を800μm、開口径D1に対応する線分BBの長さを50μmとし、開口径D2に対応する線分CCの長さを100μmとした。即ち、下記表2の備考欄に記載されているように、各数値を目標値として設定した。タイプAと同様に、タイプBの形状の貫通孔が形成されるように各パラメータを求めた。計算結果を下記表2に示す。
【0067】
図6及び表1、
図7及び表2から分かるように、加工対象物20の厚さ、貫通孔20Cの開口径に応じて各種パラメータを最適化することで、加工対象物20の表面20Aから裏面20Bに向かって外径が拡大すると共に、加工対象物20の表面20Aから裏面20Bに向かってパワー密度が略単調に増加する加工用レーザ光22を生成することができる。
【0068】
また、
図6と
図7とを比較すれば分かるように、タイプAでは、加工対象物20の表面(位置a)と裏面(位置c)との間で、位置aから位置bまではパワー密度が減少する。これに対し、タイプBでは、加工対象物20の表面(位置b)と裏面(位置c)との間で、パワー密度が略単調に増加する。加工対象物20に逆テーパ状の貫通孔20Cを形成するためには、パワー密度が略単調に増加するタイプBの方が、表面付近でパワー密度が減少するタイプAよりも好適である。
【0069】
また、タイプAではz=2000μmでのパワー密度が7.57、z=2500μmでのパワー密度が2.39である。これに対し、タイプBではz=2000μmでのパワー密度が6.90、z=2500μmでのパワー密度が2.30であり、パワー密度がより急峻に減少している。加工対象物20の背景に後壁(バックウォール)が存在する場合には、加工対象物20のレーザ光出射側でのパワー密度の減少が早いほど、バックウォールの損傷が低減されるので、タイプBの方がタイプAよりも好ましい。
【0070】
<整形光学系の設計例>
次に、整形光学系14の設計例について説明する。
図8は加工用レーザ光22を生成する整形光学系14の設計例を示す模式図である。整形光学系14の構成は、
図1及び
図3に示す整形光学系14と同じ構成であるため、同じ構成部分には同じ符号を付して説明を省略する。ここでは、上記のタイプA、タイプBと同様に、加工対象物20は、その裏面20Bが非球面レンズ16の焦点位置30(位置c)に位置するように配置されている。
【0071】
図8に示すように、整形光学系14の設計に必要な各種パラメータを定義する。既に定義されたパラメータも含め、下記表3に一覧表示する。
【0073】
まず、アキシコンレンズ18に対する入射角と出射角との関係について説明する。
図9は
図8の領域Aを拡大して示す部分拡大図であり、アキシコンレンズ18に入射するレーザ光の「入射角θi」と、アキシコンレンズ18から射出されるレーザ光の「出射角θo」との関係を示している。レーザ光は太い矢印で図示されている。
【0074】
非球面レンズ16で集光されたレーザ光(入射光)は、アキシコンレンズ18の円錐面側の斜面18Bから入射角θiで入射する。ここでの「入射角θi」は入射光と出射面の法線(点線で図示)とが成す角度である。入射光と斜面18Aの法線(実線で図示)とが成す角度は「角度θ1」である。
【0075】
アキシコンレンズ18に入射したレーザ光は、斜面18Aに対し角度θ1で入射し且つ角度θ2で屈折されて、アキシコンレンズ18のレンズ媒体中を伝搬する。伝搬されたレーザ光は、アキシコンレンズ18の平坦な出射面に対し角度θ3で入射し且つ角度θ4で屈折されて、出射面から出射角θoで射出される(出射光)。
【0076】
アキシコンレンズ18の屈折率を「n」、周辺媒体の屈折率を空気と同じ「1」とすると、スネルの法則より下記式(4)及び(5)が成立する。
【0078】
傾斜角α
axは斜面18Aと出射面とが成す角度であり、θ1=θi−α
axの関係を有している。従って、角度θ4は、下記式(6)で表される。
【0080】
ここで、非球面レンズ16のビーム集光特性は、下記式(7)で表される。
【0082】
また、出射側では点線と実線とはいずれも出射面の法線を表し、θ4=θoの関係を有している。θ1=θi−α
axの関係式を用いて上記式(6)を書き換えると、下記式(8)が得られる。
【0084】
光線rjに対するtanθ4を「tanθ4j」とする。光線rjはアキシコンレンズ18の円錐頂点18Aに入射する光線であり、入射角θi=0である。従って、tanθ4jは、下記式(9)で表される。
【0086】
光線riに対するtanθ4を「tanθ4i」とする。光線riはアキシコンレンズ18の光軸Lから最も離れた位置に入射する光線であり、入射角θiは下記式(10)で表される。
【0088】
また、θ1=θi−α
axの関係がある。従って、tanθ4jは、下記式(11)で表される。
【0090】
なお、上述した通り、θ4=θoである。即ち、角度θ4は「出射角θo」と同じ大きさである。加工対象物20の厚さ「T」、貫通孔20Cの表面20Aでの開口径「D1」、表面20Aのz軸上の位置「Z1」、貫通孔20Cの裏面20Bでの開口径「D2」、及び裏面20Bのz軸上の位置「Z2」の各々は、「tanθ4j」及び「tanθ4i」を用いて下記式(12)〜(16)で表される。
【0096】
上記式(12)〜(16)で表されるように、厚さT、開口径D1、位置Z1、開口径D2、及び位置Z2の各々は、整形光学系14のパラメータを用いて規定することができる。ここでいう整形光学系14のパラメータとは、ビーム半径「w0」、アキシコンレンズ18から焦点位置30までの距離「L」、非球面レンズ16の焦点距離「f」、「tanθ4j」、及び「tanθ4i」である。
【0097】
また、厚さT、開口径D1、位置Z1、開口径D2、及び位置Z2の各パラメータにより、加工対象物20に形成される貫通孔20Cの形状が規定される。従って、整形光学系14のパラメータを設計により最適化して、上記形状の貫通孔20Cを形成するための所定のビームプロファイルを有する加工用レーザ光22を生成することができる。得られた加工用レーザ光22により、厚さTの加工対象物20に対し、表面20Aでの開口径D1、裏面20Bでの開口径D2の逆テーパ状の貫通孔20Cを形成することができる。
【0098】
図8に示すように、アキシコンレンズ18の出射面(z=0)から加工対象物20の表面20A(例えば、z=a)までの距離を、作動長WD(ワーキングディスタンス)とする。作動長WDは、加工対象物20の厚さTと、アキシコンレンズ18から焦点位置30までの距離Lとから、その差分として求められる。即ち、WD=L−Tの関係を満たす。
【0099】
加工対象物20からの飛散物によるレーザ加工装置10の汚れを低減する等の観点から、作動長WDを長くすることが好ましい。例えば、整形光学系14を設計する場合に、アキシコンレンズ18の傾斜角α
axを小さくし且つ非球面レンズ16の焦点距離fを若干短くすることで、所定のビームプロファイルを維持したままで作動長WDを長くすることができる。
【0100】
以上説明したように、本実施の形態のレーザ加工装置及びレーザ加工方法によれば、加工対象物の表面から裏面に向かって外径が拡大すると共に、加工対象物の表面から裏面に向かってパワー密度が略単調に増加するビームプロファイルの加工用レーザ光を、簡便な光学系を用いて生成することができる。この加工用レーザ光を加工対象物に照射することで、機械的に回転する可動部を用いることなく、加工対象物に逆テーパ状の貫通孔を容易に形成することができる。
【0101】
<変形例>
なお、上記実施の形態において、レーザ光の光路上にレーザ光の透過を制御する光学素子(以下、「透過制御素子」という。)を挿入してもよい。透過制御素子を挿入することで、加工用レーザ光のビームプロファイルが変化する。
図10は透過制御素子24が挿入されたレーザ加工装置の構成の一例を示す概略構成図である。整形光学系14の光入射側に透過制御素子24を配置した以外は、
図1に示すレーザ加工装置と同じ構成であるため、同じ構成部分には同じ符号を付して説明を省略する。
【0102】
図10に示す例では、透過制御素子24は、遮光部材24Aに開口部(アパーチャ)24Bが形成された光学絞りである。
【0103】
図10に示すレーザ加工装置10Aでは、整形光学系14の光入射側に配置された透過制御素子24により、第1の光学素子16に入射するレーザ光のビーム半径w0が変更される。このように整形光学系14への入射ビーム幅を制限することで、加工用レーザ光22のビームプロファイルを変更して、所望の加工特性を得ることが可能になる。整形光学系14への入射ビーム幅が小さくなると、加工用レーザ光22のビーム径が縮小して、加工対象物20に形成される貫通孔20Cのテーパ角を所望の値に制御できる。例えば、干渉効果により貫通孔20Cのテーパ角を急峻にすることができる。
【0104】
図10に示す例では、透過制御素子24として光学絞りを用いる例について説明したが、透過制御素子24はレーザ光の透過を制御する光学素子であれば特に制限はない。透過制御素子24としては、光軸付近を伝搬する光を制限する遮光部材(ストッパ)、面内方向において光透過率を制御する各種フィルタを用いることができる。ここで「面内方向において」とは、光軸を中心とし且つ光軸に直交する断面においてという意味である。光透過率を制御するフィルタとしては、面内方向において中心部分と周辺部分とで光透過率に差を付ける光学フィルタを用いることができる。
【0105】
例えば、ビーム断面の光軸付近での光強度が大き過ぎる場合には、中心部分の光透過率を低下させるフィルタや、中心部分の光透過を完全に阻止するフィルタ等を用いればよい。また、面内方向における光透過率が滑らかに変化するように調整することもでき、面内方向における光透過率が急峻に変化するように調整することもできる。
【0106】
上記の光学フィルタとしては、光強度分布を平滑化するアポダイジング・フィルタが挙げられる。アポダイジング・フィルタには、中心部分から周辺部分に向かって光透過率が高くなるブルズアイタイプ、中心部分から周辺部分に向かって光透過率が低下するリバースブルズアイタイプなどがある。
【0107】
また、上記では、透過制御素子24を整形光学系14の光入射側に配置する例について説明したが、加工用レーザ光22のビームプロファイルを変化させることができればよく、透過制御素子24は他の位置に配置してもよい。例えば、整形光学系14の第1の光学素子16と第2の光学素子18との間に透過制御素子24を配置してもよい。また、整形光学系14と加工点との間に透過制御素子24を配置してもよい。
【0108】
なお、上記の実施の形態で説明した加工装置及びレーザ加工方法の構成は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において状況に応じて変更可能である。