(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
図1に示すような油圧ショベルをはじめとする建設機械は、稼動時に安定して作業を行うために点検作業を定期的に実施し、機関、圧力系統等の不具合を事前に発見及び整備する必要がある。ここで機関とは、機械的エネルギーを発するものを指し、エンジンを代表とする内燃機関をはじめ、電動モータを含むものである。また、圧力系統には、水圧又は空圧を含むものであるが、以下の説明では、建設機械の場合に主となる油圧系統を中心に述べる。一般的に、建設機械は、多数の油圧系統が複雑に接続された特殊なシステムを備えているため、専門の保守作業員が点検を担当する。
具体的な点検としては、建設機械の機関にオイル漏れ等の不具合が生じているか、油圧系統を加圧状態とした時に配管や油圧ホース・バルブ等にオイルの漏れや噴き出しがあるか等を目視によって確認すると共に、かかる不具合が発見された場合にはその整備にあたる。
ここで、
図1の油圧ショベル11を一例として挙げると、油圧ショベルにおいては、大型のエンジンルーム13が上部旋回体後部にあたる運転室12の後方に存在するため、エンジンルーム13内におけるオイル漏れ等を点検する際は、エンジンフードを点線で示すように大きく開けて内部を点検する必要があるが、運転室12からはエンジンルーム13内の詳細を目視することはできない。
また、建設機械は多くの油圧系統が様々な箇所に複雑に配設されており、その油圧系統の作動に基づくアーム15をはじめとする可動部が多いことから、少なくとも1人が運転室12内に着座し、実際に建設機械を操作しながらでないと発見することが困難な不具合が存在する。
【0003】
そこで従来は、
図1に示す通り、建設機械を点検する際は、運転室で実際に運転操作する者と不具合を目視で確認する者の少なくとも2者の保守作業員で分担することにより点検がなされていた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る建設機械の点検装置を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。全図を通して、同一参照番号は、同一又は同等の物を表すものとする。
なお、本明細書において、建設機械の操作とは、建設機械の実際の走行と言うよりも、圧力系統を作用させて建設機械のアーム等の可動部を動かすこと、機関の回転数を上昇させるといった操作を意味する。また、本明細書において、点検或いは点検作業とは、オイル漏れ、配線同士の接触、擦れ合い等の不具合の確認作業のみに限らず、エンジンルーム内にある又は仮に設けたゲージの数値確認といった保守作業全般を意味する。
【0010】
図2は例えば
図1の油圧ショベル11を点検するのに用いる本発明の一実施形態に係る点検装置の一部を構成する撮影装置21の斜視図である。
図3は
図2に示す撮影装置21の雲台ユニットが備える駆動機構を、油圧ショベル11の運転室12内から無線により遠隔制御するための操作機31の斜視図である。
図4は、建設機械の運転室を運転者の目線により示した図である。
図5aから
図5dは、本発明の一実施形態に係る点検装置の一部を構成する撮影装置の、各種信号入力手段を示した図である。
図6は、本発明の一実施形態に係る点検装置の一部を構成する撮影装置を、エンジンルーム内の点検作業を実施するためにエンジンルーム内の端部に設置した状態を示した図である。
【0011】
まず、
図2を参照しながら、建設機械の点検対象箇所の映像を撮影する撮影装置21の構成について説明する。
【0012】
図2に示されるように、撮影装置21は雲台ユニット22及び点検用カメラ28から構成される。雲台ユニット22は、カメラ28の撮影方向を変更するための駆動機構を内部に備える駆動ボックス23、雲台ユニット22の土台である雲台基部24、雲台基部24の底面に固定されたマグネット基部25、カメラ28を支持するための支持部となるL字部材26、カメラ28を設置するための固定ネジ27及びアンテナ(図示せず)から構成されている。
【0013】
駆動ボックス23の内部には、カメラ28をパン駆動及びチルト駆動させるための機構と、操作機31からの制御信号を受信する無線受信回路を備えており、操作機31からの信号に応じてサーボモータを駆動する構成となっている。具体的には、カメラ28をパン駆動させる場合は駆動ボックス23自体を雲台基部24に対して相対的に低速度で回転し、他方、カメラ28をチルト駆動させる場合は、L字部材26をその取り付け軸を中心に駆動ボックス23に対して相対的に低速度で回転する。パン駆動及びチルト駆動はそれぞれ別々に制御が可能であることは勿論、同時に駆動させることも可能となっている。
【0014】
撮影装置21の電源は適宜選択することが可能であるが、雲台ユニット22を建設機械に設置する際の容易性や携帯性を考慮すると、雲台基部24の内部に乾電池又は二次電池を備える構成が好適である。
【0015】
雲台基部24は雲台ユニット22の土台として駆動ボックス23を支持している。前述の通り、カメラ28をパン駆動させる場合は雲台基部24に対して駆動ボックス23が回転する構成となっているため、駆動ボックス23と雲台基部24は回転可能な軸により連結されている。
【0016】
装着部となるマグネット基部25は雲台基部24の底面に固着されており、雲台ユニット22を建設機械の金属部に対して容易に着脱することを可能としている。ここで、マグネット基部25は建設機械の車体に雲台ユニット22を容易に設置できるよう配設されたものであるため、必ずしも雲台基部24の底面全体に配設する必要はなく、大きさや厚さ等は適宜変更することが可能である。また、例えばFRP(繊維強化プラスチック)素材からなるエンジンフード等、マグネットを用いることができない場合には、マグネット基部25に代えて吸盤部材の装着部を用いることもできる。
【0017】
点検用カメラ28が取り付けられるL字部材26は、一片が駆動ボックス23に対して1つの軸をもって回転可能に取り付けられており、カメラ28をチルト駆動させる際には駆動ボックス23内に設けられた駆動機構が当該軸を中心にL字部材26を回転させる構成となっている。固定ネジ27は、L字部材26にカメラ28を固定するためのネジであり、一般的なデジタルカメラ等の底面に予め設けられている取り付け用のメネジに対応するものである。L字部材26には固定ネジ27が移動可能な長溝が設けられており、カメラ28の大きさ等に応じて取り付け位置を調節することが可能となっている。
【0018】
カメラ28は点検対象箇所を撮影するためのものであり、一般的なビデオカメラ、小型CCDカメラ等から任意に選択することが可能である。また、バックモニタ用カメラが建設機械から容易に取外すことができるものであれば、点検作業時にその取外したカメラを点検用カメラとして一時的に代用することも可能である。なお、
図2はカメラ28の底面をL字部材26に固定する形態を示した図であるが、例えば側面にメネジが設けられているカメラを用いる場合は、L字部材26に代えてコの字形状の部材を用い、駆動ボックス23に取り付けられる片に対向する片に長溝を設けることにより、対向する2つの片の内側に、若しくは駆動ボックス23に取り付けられる片に対向する片の外側にカメラを固定することもできる。
【0019】
次に、
図3を参照しながら、雲台ユニット22が備える駆動機構を無線により遠隔制御する操作機31について説明する。
【0020】
図3に示されるように、操作機31は本体32、チルト制御ダイヤル33、パン制御ダイヤル34、アンテナ35及び電源スイッチ(図示せず)から構成されている。チルト制御ダイヤル33を回転させることで、カメラ28が所定の範囲例えば±45度の範囲でチルト駆動し、他方、パン制御ダイヤル34を回転させることで、カメラ28が所定範囲例えば±45度の範囲でパン駆動する構成となっている。チルト操作とパン操作は、それぞれ別々に操作することも、同時に操作することも可能である。遠隔操作機31の電源スイッチが切られると同時に自動的にチルト操作及びパン操作がリセットされ、カメラの撮影方向が初期位置の0度に復帰するようにすることもできる。
【0021】
操作機31の電源も、従来技術のものから適宜選択することが可能であるが、運転室12における操作性や携帯性を考慮すると、本体32の内部に乾電池又は二次電池を備える構成が好適である。二次電池の場合には、点検作業に先立って、撮影装置21の二次電池と一緒に充電することが好ましい。
【0022】
図3には、無線制御であることを概念的に明示する意味で、アンテナ35を一般的なロッドアンテナとして示しているが、撮影装置21との距離が最大でも10m程度と比較的短いこともあり、本体からあまり出っ張らないごく短い可撓性のアンテナとしたり、本体32内にアンテナ全体を内蔵することも容易である。
【0023】
図3には、パン制御及びチルト制御を行う操作部品として2つのダイヤルを採用する形態を示しているが、操作部品の形状はこれに限定することなく、例えば上下左右4つの独立した押しボタンスイッチを採用しても良く、更にはジョイスティックを採用しても良い。
【0024】
次に、
図4を参照しながら、本発明の一実施形態に係る点検装置の一部を構成する撮影装置の映像を表示するディスプレイについて説明する。
【0025】
図4に示されるように、建設機械の運転室12内にはディスプレイ42が備えられている。ディスプレイ42は建設機械の稼動時は、後部に設けられたカメラ(バックモニタ用カメラ63)の映像を表示して建設機械後方の安全を確認する用途に用いられているものであるが、撮影装置21を用いて建設機械11を点検する際には、本発明の一実施形態に係る点検装置が備える後述する信号入力手段を介してその映像信号がディスプレイ42に入力されることによりカメラ28の映像が表示される。ディスプレイ42は点検を行う建設機械にバックモニタ用カメラのために既に備えられているもので良く、新たに設ける必要はない。ディスプレイ42としては液晶画面が最適である。
【0026】
ディスプレイ42の左側に参照符号44で示されるものは、カードメモリ、USBメモリ等の外部記録媒体で、ディスプレイ42に表示される点検作業の様子を必要により静止画又は動画として記録するための物である。
【0027】
次に、
図5aから
図5dを参照しながら、建設機械の点検作業時に、点検用カメラ28の映像信号をバックモニタ用カメラ63からの映像信号に代えてディスプレイ42に入力するための、本発明の一実施形態に係る点検装置の信号入力手段について説明する。
【0028】
図5aに示す第1実施例の信号入力手段は、バックモニタ用カメラ63とディスプレイ42とを接続する映像信号線51の中間に設けられた1組のプラグ・ジャック形式の中継器52,53で構成される。この中継器52,53は、建設機械11の例えばエンジンルーム13内の
図6に示すような手が届き易い箇所に設けられる。建設機械は、通常は中継器52,53が接続されており、バックモニタシステムとして動作する。建設機械の点検を行う際には、
図6に示されるように、中継器52,53の結合を一旦解除し、本発明の点検用カメラ28の映像信号線29の端末に設けられたプラグ端子54をディスプレイ側の中継器53に結合する。こうすることにより、カメラ28が撮影したエンジンルーム62内の点検箇所の映像がディスプレイ42に映し出される。
【0029】
図5bに示す第2実施例の信号入力手段は、バックモニタ用カメラ63の映像信号から点検用カメラ28の映像信号への切換をより簡単にしたものである。本実施例の場合、
図5aの実施例のような繋ぎ変え作業は必要なく、点検用カメラ28の映像信号線29の端末のプラグ端子54を、切換装置55の点検用カメラ端子56に単に挿入し、切換スイッチ57をバックモニタ用カメラ側57aから点検用カメラ側57bに手動で切り換えれば良い。そうすることにより、第1実施例と同様に、点検用カメラ28が撮影したエンジンルーム内の点検箇所の映像がディスプレイ42に映し出される。なお、切換装置55は、第1実施例の中継器52,53と同様に、建設機械11のエンジンルーム内で、保守作業員がアクセスし易い場所に設けられる。
【0030】
図5cに示す第3実施例の信号入力手段は、上記第2実施例においては手動で行っていた切換動作を自動化したものである。この実施例では、
図5bに示す第2実施例において更に、映像信号検出回路58が設けられていることを特徴とする。本実施例の場合、点検用カメラ28の映像信号線29のプラグ端子54が点検用カメラ端子56に挿入され、点検用カメラ28が作動を開始すると、その映像信号が映像信号検出回路58によって検出され、切換スイッチ57の接点を自動的に点検用カメラ28側に切り換える。すなわち、本実施例の場合、本発明の点検用カメラ28の信号線端末のプラグ端子54を信号入力手段に挿入し、点検用カメラ28の作動が検出されると、前記実施例と同様に、点検用カメラ28が撮影したエンジンルーム内の点検箇所の映像がディスプレイ42に映し出されることになる。また、点検作業が終了して、プラグ端子54を信号入力手段から引き抜くと同時に自動的にバックモニタ用カメラ63の撮影映像に復帰する。
【0031】
さらに、信号入力手段の他の実施例として、
図5dに示される無線形式の構成としても良い。即ち、
図5dに示されるように、点検用カメラ28の映像信号を無線で受信する切換装置55としても良い。点検用カメラ28には映像信号を送信する送信回路28Xが、切換装置55には送信機28Xが発する映像信号を受信する受信回路55Rが設けられる。映像信号が上記の実施例のように有線で切換装置55、即ち信号入力回路に送られてくるのではなく無線で送られてくることがこの実施例の特徴である。点検用カメラ28からの映像信号の受信と同時に点検用カメラ28の撮影映像に切り換わり、点検用カメラ28の作動停止と同時にバックモニタ用カメラ63の撮影映像に復帰するのは前記実施例と同様である。
本実施例によれば、点検用撮影装置から出る配線が一切無くなり、撮影装置のエンジンルーム内への設置作業は極めて安全且つ楽となる。
【0032】
次に、
図6を参照しながら、本発明の一実施形態に係る点検装置の一部を構成する撮影装置をエンジンルーム内の点検作業に用いた実施例について説明する。
【0033】
図6は建設機械のエンジンフード61を開け、エンジンルーム62内を斜め後方から覗いた状態を示した図である。
図6に示されるように、撮影装置21をエンジンルーム62の周辺部に設置する。ここで、エンジンルーム62の周辺部は鋼板からなっているため、マグネット基部25を備える撮影装置21は容易に着脱することが可能である。カメラ28の撮影映像は、
図5を中心に各種実施例を示した撮影装置21が備える信号入力手段を介してディスプレイ42に入力されることにより、建設機械の運転室12内のディスプレイ42に表示される。これにより、建設機械の運転室12内の保守作業員は、ディスプレイ42に表示されるカメラ28の撮影映像を確認することにより、建設機械の操作を行いながら点検作業を容易に実施することができる。
さらに、運転室12内で操作機31を操作することにより、点検箇所が広範囲に亘る場合や点検箇所の部品が建設機械の運転に伴って移動する場合等においても、運転室12内にいながらカメラ28の撮影方向を変更及び調節することで迅速に点検作業を実施することができる。
【0034】
以上の通り、本発明に係る建設機械の点検装置の好ましい態様を添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明は、上述の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲で規定される技術的思想の範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
例えば、雲台ユニット22を設置する建設機械の車体は必ずしも金属部であるとは限らないため、かかる場合には、マグネット基部25からなる装着部に代えて車体の一部を挟持して雲台ユニット22を固定するためのクランプを装着部として採用しても良い。
【0035】
点検用カメラに遠隔操作可能なズーム機能を有するものを用い、その遠隔操作も本発明の操作機でできるようにし、上述したチルト駆動、パン駆動に加えてズームアップ等の操作もできるようにすると、点検箇所のより詳細な点検が可能となる。
【0036】
本明細書では、点検用カメラを1台のみ用いることで図示及び説明したが、必ずしも点検用カメラの台数は1台に限られるわけではなく、複数であっても構わない。例えば、
図6において、更にもう一台の点検用カメラを開いたエンジンルームの下側に取り付けて、検査箇所を二方向から撮影することもできる。複数のカメラを用いる場合には、ディスプレイ上での表示は、画面分割同時表示、切換表示など任意に選択できる。複数のカメラを用いた場合には、外部にいる1人の保守作業員では到底できない、同一点検箇所を複数の方向から同時に撮影表示することや、相互に関連性のある離れた位置の異なる点検箇所を同時に表示することもでき、点検作業の効率は著しく向上する。
【0037】
点検用カメラとしてビデオカメラを用い、その映像信号をバックモニタ用ディスプレイに表示することも可能である。そうすることにより、点検作業中の点検対象箇所の映像を、バックモニタ用ディスプレイ上でリアルタイムで見ながら同時にビデオカメラ本体に逐一記録することができ、後からでも時と場所を変えて点検作業の内容を再確認することが可能となる。
【0038】
最後に、上述の実施形態及び実施例で用いた用語について補足する。例えば、バックモニタ用カメラ63は建設機械11の後方を撮影するものであると述べたが、バックモニタ用カメラ63は運転者の死角にあたる場所の安全を確保することを目的としたものである。従って、バックモニタ用カメラ63が撮影する方向は必ずしも建設機械の後方である必要はなく、運転者の死角となり得る上方や側方、更には建設機械の下側を撮影するために備えられたものであっても良い。