(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758410
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】電磁放射励起性金属ナノ粒子を用いる藻細胞溶解及び脂質抽出
(51)【国際特許分類】
C12M 1/33 20060101AFI20150716BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20150716BHJP
C12P 7/64 20060101ALI20150716BHJP
C12N 13/00 20060101ALN20150716BHJP
C11B 1/10 20060101ALN20150716BHJP
C11B 3/16 20060101ALN20150716BHJP
C12R 1/89 20060101ALN20150716BHJP
【FI】
C12M1/33
C12M1/42
C12P7/64
!C12N13/00
!C11B1/10
!C11B3/16
C12P7/64
C12R1:89
【請求項の数】35
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-556090(P2012-556090)
(86)(22)【出願日】2011年2月15日
(65)【公表番号】特表2013-520991(P2013-520991A)
(43)【公表日】2013年6月10日
(86)【国際出願番号】US2011024820
(87)【国際公開番号】WO2011109161
(87)【国際公開日】20110909
【審査請求日】2012年9月4日
(31)【優先権主張番号】12/718,396
(32)【優先日】2010年3月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503455363
【氏名又は名称】レイセオン カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】コスタス,カーロス,アール
(72)【発明者】
【氏名】エック,クリストファー,アール
【審査官】
一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/0171366(US,A1)
【文献】
米国特許第06514481(US,B1)
【文献】
特表2003−509822(JP,A)
【文献】
実開昭62−130498(JP,U)
【文献】
特表2008−528114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/33
C12M 1/42
C12P 7/64
C12N 5/00−5/28
C12N 13/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻細胞を溶解するためのシステムであり、
少なくとも1つの藻細胞と、複数の金属ナノ粒子と、電磁放射発生装置とを含み、
前記電磁放射発生装置が、前記複数の金属ナノ粒子を励起してその結果前記藻細胞を溶解させるためのラジオ波電磁放射又はマイクロ波電磁放射を生成するように操作され得る、システム。
【請求項2】
前記藻細胞が脂質を含み、
前記藻細胞の溶解が前記脂質を放出する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記複数の金属ナノ粒子が、前記藻細胞の溶解に先立って、前記藻細胞の内部に存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記複数の金属ナノ粒子が、前記藻細胞の溶解に先立って、前記藻細胞の外部に存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記複数の金属ナノ粒子が、前記藻細胞の溶解に先立って、前記藻細胞の細胞壁の上又は内部に存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記複数の金属ナノ粒子が、前記藻細胞の溶解に先立って、前記藻細胞の内部及び外部の両方、前記藻細胞の内部及び細胞壁の上又は内部、前記藻細胞の外部及び細胞壁の上又は内部、又は、前記藻細胞の内部及び外部及び細胞壁の上又は内部に存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記金属ナノ粒子が、前記電磁放射により励起される場合にイオン性導電を生じるように操作される、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記金属ナノ粒子が、前記電磁放射により励起される場合に双極子再配列を生じるように操作される、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記金属ナノ粒子が、強磁性材料を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記金属ナノ粒子は、前記藻細胞による取り込みを増加させるためにコーティング又は変性されていない、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
さらに、前記藻細胞による前記金属ナノ粒子の取り込みを増加させる試薬を含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記金属ナノ粒子が、前記藻細胞による取り込みが増加するようにコーティング又は変性される、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
藻細胞から脂質を回収するためのシステムであり、
脂質を含む少なくとも藻細胞と、複数の金属ナノ粒子と、電磁放射発生装置とを含み、
前記電磁放射発生装置が、前記複数の金属ナノ粒子を励起してその結果前記藻細胞を溶解させ、かつ前記溶解した藻細胞から前記脂質を放出させるためのラジオ波電磁放射又はマイクロ波電磁放射を生成するように操作され得、
さらに、前記溶解した細胞から前記脂質を分離するための分離装置を含む、システム。
【請求項14】
前記複数の金属ナノ粒子が、前記藻細胞の溶解に先立って、前記藻細胞の内部に存在する、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記複数の金属ナノ粒子が、前記藻細胞の溶解に先立って、前記藻細胞の外部に存在する、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記複数の金属ナノ粒子が、前記藻細胞の溶解に先立って、前記藻細胞の内側及び外側の両方に存在する、請求項13に記載のシステム。
【請求項17】
前記複数の金属ナノ粒子が、前記藻細胞の溶解に先立って、前記藻細胞の細胞壁の上又は内側に存在する、請求項13に記載のシステム。
【請求項18】
前記複数の金属ナノ粒子が、前記藻細胞の溶解に先立って、前記藻細胞の内部及び外部の両方、前記藻細胞の内部及び細胞壁の上又は内部、前記藻細胞の外部及び細胞壁の上又は内部、又は、前記藻細胞の内部及び外部及び細胞壁の上又は内部に存在する、請求項13に記載のシステム。
【請求項19】
前記金属ナノ粒子が、前記電磁放射により励起される場合にイオン性導電を生じるように操作される、請求項13に記載のシステム。
【請求項20】
前記金属ナノ粒子が、前記電磁放射により励起される場合に双極子再配列を生じるように操作される、請求項13に記載のシステム。
【請求項21】
前記金属ナノ粒子が、強磁性材料を含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項22】
前記金属ナノ粒子は、前記藻細胞による取り込みを増加させるためにコーティング又は変性されていない、請求項13に記載のシステム。
【請求項23】
さらに、前記藻細胞による前記金属ナノ粒子の取り込みを増加させる試薬を含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記金属ナノ粒子が、前記藻細胞による取り込みが増加するようにコーティング又は変性される、請求項13に記載のシステム。
【請求項25】
前記分離装置が、遠心分離装置である、請求項13に記載のシステム。
【請求項26】
前記分離装置が、スキマーを含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項27】
前記分離装置が、凝集回収装置を含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項28】
藻細胞から脂質を回収するための方法であり、
少なくとも1つの藻細胞に複数の金属ナノ粒子を供給することと、
前記複数のナノ粒子が、前記藻細胞の内側又は外側に、前記藻細胞の細胞壁の内側又は上に、又は、これらの組み合わせの位置に存在することと、
前記複数の金属ナノ粒子をラジオ波電磁放射又はマイクロ波電磁放射で励起することと、
前記藻細胞を溶解して前記脂質を放出させることと、
前記溶解した藻細胞から前記脂質を分離することとを含む、方法。
【請求項29】
前記供給することが、さらに、前記藻細胞が前記金属ナノ粒子を取り込むことができることを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記励起することが、さらに、前記金属ナノ粒子内にイオン性電流を誘起することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記励起することが、さらに、前記金属ナノ粒子の双極性再配列を誘起することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記励起することが、さらに、前記金属ナノ粒子に強磁性効果を誘起することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記分離することが、前記脂質を前記溶解された藻細胞からスキミングすることを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記分離することが、凝集させることを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記分離することが、遠心分離することを含む、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属ナノ粒子を藻細胞に与え、前記ナノ粒子を特定の周波数(RF)の電磁放射を用いて励起することで、藻から脂質を抽出するシステム及び方法に関する。これらの脂質はその後さらに、プラスチック、ジェット燃料、化粧品及びバイオディーゼル燃料などの有用な製品に処理され得る。
【0002】
藻は単純な単細胞植物であり、本来的に脂質及びその他の物質を生産することができ、これらの生産物はこれまで石油化学から誘導されてきたバイオ燃料、プラスチック及びその他の材料を製造するために処理され得るものである。藻はこれらの有用な物質を太陽光、二酸化炭素、淡水か塩水、及び痕跡量の栄養物のみを用いて生産する。さらに藻からバイオ燃料の製造では望ましくない廃棄物がほとんど出ない。従って、藻は再生可能エネルギー及び石油化学代替物質としての最も有望な資源の1つである。
【0003】
再生可能なエネルギー及び物質資源としての藻についてのこれまでの1つの問題点は、藻から脂質又はその他の有用な物質の抽出であった。藻は丈夫な細胞壁を持っており、細胞内から前記有用な物質を効果的に得るためにはこの細胞壁を破棄する必要がある。これまで種々の方法が試みられてきたが、欠点があった。例えば、超音波方法は藻細胞を破壊するために音波を用いる方法であるが、この方法は高価でありかつ効率的ではない。機械的に圧力をかける方法は母細胞を破壊するために使用され得るかもしれないが、この方法も高価であり大規模処理のためにスケールアップすることが難しい。エレクトロポレーション方法は細胞壁を破壊するためにハイパワーの電場を使用する方法であるが、非常にエネルギー消費性でありハイコストである。酵素抽出方法は非常に効率的に藻細胞を破壊するために使用されるが、非常に高価であり、得られるバイオマスに汚染が生じる結果となる。最後に遠心分離に基づく方法はまた藻細胞壁を破壊するために小セラミック球を使用する方法であるが、これらの方法は大規模では実証されてなく、かつ大型装置や流量などのプロセスパラメータにおいて不確定要素を含む。
【0004】
従って、藻から有用な物質を実質的に使用可能な形で残したまま、藻細胞壁を破壊するその他の方法及びシステムへの要求が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、藻から有用な物質を実質的に使用可能な形で残したまま、藻細胞壁を破壊する方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの実施態様によると、本開示は藻細胞の溶解のためのシステムを提供する。前記システムは、少なくとも1つの藻細胞、複数の金属ナノ粒子及び電磁放射発生装置を含む。前記発生装置は、ラジオ周波数又はマイクロ波放射を生成し、前記複数の金属ナノ粒子を励起し、その結果前記藻細胞を溶解する。
【0007】
より具体的な実施態様によると、前記藻細胞は、前記細胞が溶解されると放出される脂質を含み得る。他の具体的な実施態様によると、前記金属ナノ粒子は、溶解に先立って、前記細胞の内側又は外側に、細胞壁の上又は内部、又はこれらの領域の組み合わせた領域に存在し得る。より具体的な実施態様によると、前記金属ナノ粒子は、前記電磁放射に応じて、イオン性導電性又は双極子再配列を生じるか、強磁性的となり得る。さらに1つのさらなる具体的な実施態様によると、前記金属ナノ粒子は、前記藻細胞による取り込みを増加させるためのコーティング又は変性がなされなくてよい。より具体的な実施態様によると、前記システムはまた、前記藻細胞による前記金属ナノ粒子の取り込みを増加させるための試薬を含むことができる。なお他の実施態様によると、前記ナノ粒子は前記藻細胞による取り込みを増加させるためにコーティング又は変性され得る。
【0008】
第2の実施態様によると、本開示は、藻細胞から脂質を回収するためのシステムを提供する。前記システムは、少なくとも1つの藻細胞、複数の金属ナノ粒子、電磁放射発生装置及び分離装置を含む。前記発生装置は、ラジオ周波数又はマイクロ波放射を生成し、前記複数の金属ナノ粒子を励起してその結果前記藻細胞を溶解させる。
【0009】
より具体的な実施態様によると、前記金属ナノ粒子は、細胞の内側、外側、細胞壁の上又は内側、又はこれらの領域の組み合わせた領域に存在し得る。より具体的な実施態様によると、前記金属ナノ粒子は、前記電磁放射に応じて、イオン性導電性又は双極子再配列を生じるか、又は強磁性的となる。他のさらなる具体的な実施態様によると、前記金属ナノ粒子は、前記藻細胞による取り込みを増加させるためのコーティングや変性がされなくてもよい。より具体的な実施態様によると、前記システムはまた、前記藻細胞による前記金属ナノ粒子の取り込みを増加させる試薬を含むことができる。さらに他の実施態様によると、前記ナノ粒子は、前記藻細胞による取り込みを増加させるためにコーティング又は変性がされていてもよい。さらなる具体的な実施態様によると、前記分離装置は、遠心分離装置、スキマー又は凝集回収装置を含み得る。
【0010】
第3の実施態様によると、本開示は、複数の金属ナノ粒子を少なくとも1つの藻細胞に供給することで、藻細胞から脂質を回収するための方法を提供する。前記複数のナノ粒子は、前記藻細胞の内側や外側、藻細胞の細胞壁の上や内側、又はこれらの位置の組み合わせた位置に存在し得る。前記方法はまた、前記複数の金属ナノ粒子を、ラジオ周波数又はマイクロ波電磁放射で励起させ、前記藻細胞を溶解して前記脂質を放出させ、かつ前記溶解した藻細胞から前記脂質を分離する。
【0011】
より具体的な実施態様によると、前記供給することは、前記藻細胞が前記金属ナノ粒子を取り込むことができることを含む。他の具体的な実施態様によると、励起することが、前記金属ナノ粒子内にイオン性電流の誘起、金属ナノ粒子の双極子再配列、又は金属ナノ粒子中に強磁性効果を生じさせることを含む。さらなる具体的な実施態様によると、分離することが、前記溶解された藻細胞から脂質をスキミングするか、遠心分離することを含む。
【0012】
本実施態様及びその効果(利点)のより完全な理解は、以下の記載を添付の図面と共に参照することで得られる。図面には、類似の参照符号(番号)は類似の構成に対して付されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の1つの実施態様による藻に導入される金属ナノ粒子を示す。
【
図2A】
図2Aは、本開示の実施態様による細胞内部に存在する金属ナノ粒子を用いる藻細胞の溶解を示す。
【
図2B】
図2Bは、本開示の実施態様による細胞外部の金属ナノ粒子を用いる藻細胞の溶解を示す。
【
図3】
図3は、本開示の1つの実施態様による、藻から脂質を生産するシステムを示す。
【
図4】
図4は、本開示の1つの実施態様による、藻から脂質を生産する方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、金属ナノ粒子と電磁放射を用いて藻細胞を溶解するためのシステムと方法に関する。1つの実施態様によると、前記藻細胞は脂質油を含む脂質を含み、これらは取り出されてさらにバイオ燃料やプラスチックなどの有用な物質へと処理され得る。
【0015】
図1及び2A、Bに示される実施態様によると、藻細胞10はナノ粒子20が与えられ得る。前記ナノ粒子20は藻細胞10の内部(
図1及び2Aに示される)又は外部(
図2Bに示される)、又は内部と外部の両方、又は藻細胞壁の上や中(図示されていない)に存在し得る。
【0016】
藻細胞は、バイオ燃料やプラスチックなどの他の物質へ処理され得る脂質などの有用物質を生産するために適する全てのタイプの藻細胞であってよい。例えば、前記藻は淡水藻又は海水藻である得る。前記藻はまたシアノバクテリア又は珪藻藻類であってよい。単細胞で存在する傾向を持つ微細藻類がバイオ燃料製造において現在最も一般的であるけれど、細胞が塊となりより大きな構造を形成するある種の微細藻類もまた使用され得る。具体的な実施態様では、前記藻は、組換遺伝子を含む藻などの遺伝子操作された藻も含まれる。使用され得る藻の具体的な株には、Schiochytrium、Neochloris oleoabundans、Crypthecodinium cohnii、Thalassiosira pseudonana、Tetraselmis suecica、Stichococcus、Scenedesmus TR-84、Phaeodactylum tricornutum、Nitzschia TR、Nannochloropsis、Nannochloris、Hantzschia DI、Dunaliella tertiolecta、Cyclotella DI、Ankistrodesmus TR-87、Botryococcus braunii、Pleurochrysis cartera(CCMP647)、Dunaliella salina又はDunaliella tertiolectaなどのDunaliella株、Chlorella Vulgaris、Chlorella sp.29又はChlorella ProtothecoidesなどのChlorella株、Gracilaria株又はSargassum又はこれらの遺伝子組換体が含まれる。1つの実施態様によると、前記藻は実質的に単一株の単一培養物であり得る。他の実施態様によると、前記藻は1つ以上の藻株を含むことができる。
【0017】
前記金属ナノ粒子は、電磁放射30で励起され得る全てのタイプを含み得る。1つの具体的な実施態様によると、これらはラジオ周波数(RF)放射、通常は3kHzと300kHzの間の周波数で励起され得る。他の実施態様によると、これらは、300MHzと300GHzの周波数を持つマイクロ波放射により励起され得る。1つの具体的な実施態様によると、前記電磁放射は、885MHzと945MHzの間の周波数、より好ましくは915MHz近くの周波数を持ち得る。他の具体的な実施態様によると、前記電磁放射は、2420と2480MHzの間、より具体的には2450MHzの周波数を持ち得る。前記電磁放射の全エネルギーは変更され得る。さらに、前記電磁放射は、パルス様式又は連続波(cw)様式で送られ得る。一般には、前記電磁放射のエネルギー又は持続時間などのパラメータは、金属ナノ粒子が存在しない場合には細胞溶解を起こすために必要となるエネルギーよりも低いエネルギーが前記藻細胞に供給される。通常は、典型的な工業及び商業的周波数で低電力マイクロ波又はRF波が使用され、この結果より低コストとなる。具体的な周波数、波長、パワー、エネルギー及びその他のパラメータは、使用される具体的な金属ナノ粒子に依存して変更され得る。例えば、いくつかの粒子は、非常に迅速に加熱される共鳴周波数を持つ。具体的な実施態様では、前記電磁放射は、均一なエネルギー分布を示し、これにより前記藻細胞から脂質回収の収率及び効率を上げることができる。
【0018】
前記金属ナノ粒子は、1nmから999nmの範囲のサイズであり得る。ナノ粒子特性は、National Institute of Standards and Technology Special Publication 960-1(January、2001)に従うことができる。具体的な実施態様によると、前記金属ナノ粒子は、50nm未満、100nm未満、200nm未満、300nm未満、400nm未満、500nm未満、600nm未満、700nm未満、800nm未満、900nm未満又は999nm未満のサイズであり得る。他の具体的な実施態様によると、前記ナノ粒子はまた、1nmを超え、50nmを超え、100nmを超え、200nmを超え、300nmを超え、400nmを超え、500nmを超え、600nmを超え、700nmを超え、800nmを超え、900nmを超えるサイズであり得る。なお他の実施態様によると、前記ナノ粒子サイズは、先の2つの実施態様における全ての値の間の範囲であり得る。例えば、前記ナノ粒子のサイズは、200と600nmの間であり得る。ナノ粒子のサイズは、藻細胞による取り込みの誘導又は取り込みの回避、細胞壁の機械的破壊の可能性、熱放散の可能性及び溶解した細胞から物質を除去する容易性を含む種々のファクタに基づいて選択され得る。一般に、より小さいナノ粒子は藻細胞により容易に取り込まれ、より大きなナノ粒子は前記培養媒体中で細胞外に残る傾向がある。
【0019】
1つの実施態様によると、前記金属ナノ粒子は固体であり得る。他の実施態様によると、これらは中空であり得る。1つの具体的な実施態様によると、金属ナノ粒子は、シェルコア型を持ち得る。金属ナノ粒子は全ての形状であり得る。非球形状などの具体的な形状は、細胞壁を機械的に破壊するために適している。ある形状はまた、藻細胞による取り込みのために多少変更され得る。形状はさらに、存在する場合にはナノ粒子コーティングの適用の容易性及び有効性に影響を与え得る。
【0020】
藻は自然に金属粒子を取り込むが、この能力は、取り込みを増加させるために、前記金属ナノ粒子がコーティングされていないか又は変性されていない1つの実施態様により探求され得る。この実施態様では、取り込みは、藻の金属取り込みメカニズムとナノ粒子の金属の相互作用に依存する。他の実施態様によれば、前記金属ナノ粒子は藻細胞による取り込みを減少させるか又は抑制するためにコーティングされ得る。第3の実施態様によると、前記金属ナノ粒子は藻細胞による取り込みを増加させるためにある物質でコーティングされ得る。第4の実施態様によると、前記金属ナノ粒子は、藻細胞による取り込みを増加させる非コーティング添加物と組み合わせて藻細胞に投与され得る。第5の実施態様によると、前記金属ナノ粒子は、藻細胞による取り込みを減少又は抑制する非コーティング添加物と組み合わせて藻細胞に投与され得る。
【0021】
いくつかの実施態様では、非コーティングナノ粒子は、製造上の容易性と低コストにより好ましい。非コーティング添加物と共にナノ粒子を単純に投与することは又、コーティングされたナノ粒子と比較して、より簡単であり低コストである。
【0022】
他の実施態様によると、ナノ粒子は積極的に前記藻細胞内に導入される。例えば、ナノ粒子は、前記細胞に入るために十分な速度で発射され得る。1つの具体的な実施態様によると、植物細胞内に核酸を導入するために使用される現行システムと築地のシステムが使用され得る。具体的には、前記システムは、「ジーンガン」又は「バイオバリスチック装置」と類似するものであり得る。かかるシステムの1つの実施態様では、非コーティングナノ粒子が使用され得る。
【0023】
1つの実施態様によれば、前記金属ナノ粒子は高誘電率を持ち得る。電磁放射はこのタイプのナノ粒子にイオン伝動を誘導することができる。誘導加熱が、例えばEddy又はFoucalt渦電流を介して生じ得る。一般に、金属ナノ粒子は、藻培養培地などの水溶液よりもずっと熱を伝動する。大きなナノ粒子は、自己加熱同様に移流により熱を伝動し得る。
【0024】
他の実施態様によると、前記金属ナノ粒子は双極であり得る。電磁放射に暴露されるとこれらのナノ粒子は双極再配向を受ける傾向がある。この工程で分極したナノ粒子は自身を前記電場/磁場の位相に同調させようとする。通常はこの場は、前記藻が局在する流体の動きに合わせて変化している。その結果、前記粒子はまた動きお互いに衝突することとなりそれらの運動エネルギーを増加させる。これらのメカニズムが摩擦による熱を生成させる。また、具体的に前記ナノ粒子が藻細胞内に存在する場合、衝突はまた機械的に前記藻細胞壁を破壊し得る。ある条件下で前記ナノ粒子はまた、前記藻細胞内の又は周囲の前記水媒体中で非常の高速で動き始め、これにより細胞壁破壊を引き起こし得る。
【0025】
第3の実施態様によると、前記金属ナノ粒子は強磁性体であり得る。これらの粒子は上で説明した双極子効果と類似の強磁性効果を示す。強磁性効果は、藻細胞壁破壊をより迅速に起こし又はより小さい電磁放射の存在下でも起得る。というのは強磁性材料は電場/磁場に迅速に反応するからである。
【0026】
本開示の同じ実施態様による金属ナノ粒子は、少なくともある金属又は金属酸化物などの金属化合物を含み得る。具体的な実施態様によると、前記金属ナノ粒子は、重量%又はモル比で、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%の金属を含む。具体的には金属化合物が存在しない場合、非金属元素は金属ナノ粒子が電磁放射で励起される能力に干渉する可能性がある。金属ナノ粒子は、実質的に1つの金属又は金属化合物、又は1つの金属又は金属化合物以上の組合せを含み得る。1つの実施態様によると、前記金属ナノ粒子は、実質的に非毒性の金属、又は藻細胞から取り出される脂質から実質的に非毒性のレベルまで除かれ得る金属を含み得る。安価な金属はまた好ましい。
【0027】
本開示で使用され得る具体的な金属ナノ粒子は、金、銀、銅、スズ、タンタル、 バナジウム、 モリブデン、タングステン、オスミウム イリジウム、レニウム、ハフニウム、タリウム、 鉛、ビスマス、ガドリニウム、ジスプロシウム、マンガン、ホルミウム、ウラニウム、コバルト、 白金、 パラジウム、鉄、チタン、亜鉛、及びそれらの酸化物、 水酸化物及び塩、銀シリサイド、ガリウムセレニド、インジウムセレニド、カドミウムセレニド、カドミウムスルフィド、インジウムアルセニド及びインジウムフォスフィドを含む。1つの実施態様によると、金又はその他の金属ナノ粒子が、金又はその他の金属イオンを還元剤で還元することで形成され得る。適切な還元剤には、リン、ボラン、クエン酸、ナトリウムボロヒドリド、イオン化放射線、アルコール及びアルデヒドを含む。ナノ粒子に含まれ得る非金属元素は、シリコン、酸素、リン及び炭素を含む。ナノ粒子は前記藻細胞の内側又は外側に存在し得る。これらはまた藻細胞壁の上又は中に存在し得る。いくつかの実施態様では、ナノ粒子は、前記藻細胞の外側などの実質的に1つの領域に濃縮され得る。他の実施態様では、ナノ粒子は、藻細胞の外側又は内側又は藻細胞の細胞壁の上又は中のいずれの組合せにおいても存在し得る。前記藻細胞内部では前記ナノ粒子は、細胞質又は液胞内又はその他の細胞膜結合内部構造、又はそれらの両方などの種々の位置に存在し得る。
【0028】
前記藻細胞内及び/又は藻細胞の回りの液媒体中の前記ナノ粒子の濃度は、前記ナノ粒子のタイプ及び使用される電磁放射に依存して変わり得る。通常、ナノ粒子の濃度と藻細胞溶解を起こすために必要な電磁エネルギーの量とはトレードオフの関係にある。1つの実施態様によると、ナノ粒子の濃度は、細胞がナノ粒子なしで電磁放射のみで溶解されるサンプルに比較して、細胞溶解に必要な電磁エネルギーの量において統計的に有意な減少を起こすような濃度である。前記ナノ粒子が藻細胞内に存在する場合に細胞溶解を起こすために金属ナノ粒子の潜在的な能力が増加されることで、金属ナノ粒子の濃度は、ナノ粒子が藻細胞により取り込まれる実施態様においてより低くなり得る。溶解の後、脂質油40の形であり得る脂質が、破壊された細胞壁を通って藻細胞から放出される。前記脂質は藻により生産される全てのタイプであり得る。例えばそれらはトリアシルグリセロールであり得る。前記脂質は藻細胞中では遊離し得るが、しばしば液胞などの細胞内成分に含まれている。細胞溶解の際に、前記脂質はこれらの貯蔵成分中に維持され、前記貯蔵成分を伴って細胞から取り出され得る。他の実施態様では、脂質が前記細胞から貯蔵成分を伴わずに取り出されるように、前記貯蔵成分がまた溶解され得る。他の実施態様では、脂質は、貯蔵成分を伴った脂質及び貯蔵成分を伴わずに脂質の両方で取り出される。ナノ粒子のタイピ及び濃度、及びパラメータ又は電磁放射などの溶解条件は貯蔵成分がまた溶解されるかどうかに影響を与える。通常は、貯蔵成分は、ナノ粒子が実質的に藻細胞の外側に残る実施態様においてよりも藻細胞がナノ粒子を取り込む実施態様においてより容易に溶解され得る。
【0029】
図3での実施態様に示されるように、藻細胞10はバイオリアクタ50中で培養される。バイオリアクタ50は、光バイオリアクタなどの工業用バイオリアクタ、開放池(ポンド)又は、池とバイオリアクタシステムを組み合わせたハイブリッドリアクタであり得る。ナノ粒子20はバイオリアクタ50へ添加される。ナノ粒子を加えた後、藻細胞10を含む藻培養培地60をバイオリアクタ50から除去する。藻培養培地60は処理又は処置され得る。例えばフィルタによる水除去、遠心分離、フロス浮選、凝集、これらの処理の組合せ、又はその他の処理である。藻培養培地60の除去及び水の除去は、ある実施態様ではナノ粒子添加に先行し得る。かかる実施態様では、藻培養培地60はナノ粒子20を添加するために別の容器(図示されていない)に貯蔵され得る。このことは、ナノ粒子を前記通常のバイオリアクタ50から分離しておくという利点を有する。他の実施態様では、ナノ粒子20は、全て又は相当の藻の培養期間中バイオリアクタ50内に存在し得る。
【0030】
1つの実施態様によると(図示されていない)、前記システムは、ジーンガンやその他のバイオバリスチック装置などの金属ナノ粒子を藻細胞に打ち込むための装置を含む。かかる装置の効果は、ナノ粒子を取り込んだ藻細胞と等しいことであり、即ちナノ粒子が細胞内部に存在するようになる。
【0031】
藻培養培地60にナノ粒子20を取り込ませた後、又はナノ粒子を周囲の培地に存在させた後、発生装置70を介して電磁放射の対象とされる。1つの実施態様では、藻培養培地60は発生装置70内のキャビティを流通し得る。他の実施態様では、藻培養培地60は、容器(図示されていない)に入れられて、一般的に静的状態で放射の対象とされ得る。
【0032】
藻培養培地60の藻細胞10の細胞壁の大部分を溶解させるために十分な電磁放射を与えた後、藻培養培地60はさらに脂質を除去するために分離装置90で処理され得る。例えば、遠心分離、凝集、スキミング及びこれらの方法の組合せ、又はその他の方法が、脂質油40を残留バイオマス80から分離するために使用され得る。ナノ粒子20は、脂質油40、バイオマス80又はこれらの両方内に存在し得る。ナノ粒子20はまた、全行程から出る排水中に存在し得る。ナノ粒子20は、磁気吸引、遠心分離又は化学的分離などの全ての適切な技術を用いて回収され得る。いくつかの実施態様によると、ナノ粒子20は再使用され得る。残留バイオマス80及び全ての排水はまた、この工程で、例えば藻培養のための栄養物を供給するため、又は藻細胞が生存している場合には新たな藻培養のための出発サンプルとして再使用され得る。
【0033】
1つの実施態様によると、
図3のシステムは、ナノ粒子20、残留バイオマス80及び脂質油40を除去した後バイオリアクタ50へ戻す水を含む閉鎖ループシステムとして操作され得る。
【0034】
発生装置70は、工業用マイクロ波RF発生装置であり得る。これは、藻培養培地60が通過する協調キャビティを含み得る。前記発生装置はまた、導波管、チューニングカプラ及びパワーカプラ(図示されていない)を含み得る。いくつかの実施態様では、発生装置70を通過する藻培養培地60の流れは連続であり得る、又は1つのバッチ時間の間連続であり得る。
【0035】
図4に示される実施態様によると、含まれる脂質を得るための藻を溶解する方法が提供される。前記方法は、上で説明されたシステムの全ての部分を使用し得る。ステップ100では、藻細胞が、適切な量の脂質を含むまで培養される。ステップ110では金属ナノ粒子が藻に添加される。これらのナノ粒子は培養ステップ100の間存在し得る。前記ナノ粒子は、前記藻細胞により取り込まれるか、又は単純に培地内に存在するか又はその両方に存在し得る。ステップ120で、前記藻細胞は、前記金属ナノ粒子を励起する電磁放射の対象とされる。具体的な実施態様では、前記電磁放射はRF又はマイクロ波放射である。ステップ130で、前記藻細胞の細胞壁が破壊されて細胞溶解が起こり、脂質が放出される。ステップ140で前記藻から脂質が除去される。
【0036】
本開示のシステム及び方法を用いて得られた脂質はさらに有用な物質を製造するために処理され得る。例えば、トリアシルグリセロールはエステル交換反応により構成成分に分解され得る。前記エステル交換反応生成物はバイオ燃料を製造するために使用され得る。藻脂質はまた、バイオブタノール、バイオガソリン、メタン、直鎖植物油、ジェット燃料、プラスチック及び化粧品などの製造に使用され得る。
【0037】
本発明の例示的実施態様のみが上で具体的に説明されたが、理解されるべきことは、これらの例の修正・変更もまた本発明の本質及び範囲から離れることなく可能である、ということである。例えば、本明細書には具体的な測定が与えられている。当業者に理解されるべきことは、多くの例で、前記与えられた測定と類似するが全く同じではない他の値も均等な値であり得ること、かつ本発明の範囲に含まれ得る、ということである。さらに、上の説明は藻から脂質を回収することに焦点を合わせたものであるが、蛋白や炭水化物などのその他の物質もまた、藻細胞から取り出され又藻細胞溶解の後に容易に扱うことができるようになり得る。有用である場合、これらの物質はまた、分離され処理される。例えば、特定のタンパク質を生産するように遺伝子組換えされた藻細胞は本開示のナノ粒子方法を用いて溶解され得る。回収方法は、前記回収される物質に依存して変更され得る。