(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758512
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】落石防護柵の補強方法および落石防護柵
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20150716BHJP
【FI】
E01F7/04
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-14061(P2014-14061)
(22)【出願日】2014年1月29日
(65)【公開番号】特開2015-140575(P2015-140575A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2014年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】511124862
【氏名又は名称】株式会社総合開発
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 栄一
(72)【発明者】
【氏名】三宅 正晃
【審査官】
石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−047617(JP,A)
【文献】
特開2008−255632(JP,A)
【文献】
特開2013−234495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/04
E01F 7/00
E01F 7/02
E01F 8/00
E01F 17/20
E04B 1/60
E04B 1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の擁壁の上面に支柱が立てて固定され、該支柱に新たな柱パイプを被せて固定する落石防護柵の補強方法であって、
前記支柱および前記柱パイプを通す貫通孔が形成された擁壁ブロックを用い、
前記既設擁壁の上面に新設の擁壁ブロックを設置し前記貫通孔に前記支柱を通した状態で、前記柱パイプを前記支柱に被せ、かつ前記貫通孔に嵌め、該柱パイプの中空部分に固化剤を注入して、前記柱パイプを既設支柱および擁壁ブロックに対して固定し、
前記柱パイプに新しい索およびガードネットを取り付ける
ことを特徴とする落石防護柵の補強方法。
【請求項2】
前記擁壁ブロックが、固化剤を充填するための上下に貫通した空洞を有している
ことを特徴とする請求項1記載の落石防護柵の補強方法。
【請求項3】
前記擁壁ブロックは、その長手方向中間部に前記支柱および前記柱パイプを挿入する貫通孔が形成されており、その両側に前記空洞が設けられている
ことを特徴とする請求項2記載の落石防護柵の補強方法。
【請求項4】
前記擁壁ブロックは、その長手方向における両端面に隣接する擁壁ブロックと嵌合させる嵌合突起と嵌合凹部が形成されている
ことを特徴とする請求項3記載の落石防護柵の補強方法。
【請求項5】
前記擁壁ブロックは、その長手方向における両端部に前記支柱および前記柱パイプを通す半円形の貫通孔が形成されており、その長手方向中間部分に前記空洞が設けられている
ことを特徴とする請求項2記載の落石防護柵の補強方法。
【請求項6】
請求項1によって施工された落石防護柵であって、
既設の擁壁と、その上面に固定された新設の擁壁ブロックと、柱パイプ、索およびガードネットからなり、
前記ガードネットを取付ける索は、取付金具によって前記柱パイプに張設されており、
前記取付金具は、前記索を通すための弾性を有する弾性パイプを有し、
該弾性パイプは、前記柱パイプの外周に沿う取付部と、該取付部から左右両方向に延びる弾性曲げ部からなる
ことを特徴とする落石防護柵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落石防護柵の補強方法および落石防護柵に関する。さらに詳しくは、山中の道路などに設けられて山側からの石や土砂の落下を受け止め道路に落下させないようにする落石防護柵と、既設の落石防護柵の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は従来の落石防護柵101の概略斜視図である。同図において、符号Wはコンクリート製の擁壁である。この擁壁Wの上面には、複数本の垂直な支柱1がその基部を固定され、擁壁Wの長手方向において間隔をもって立設されている。支柱1としてはH型鋼がよく使用されている。
複数本の支柱1間には、水平な索2が複数段に取り付けられており、支柱1および索2にガードネット3が取り付けられている。
かかる構成の落石防護柵101によって、落石が道路Rにまで落ちるのを防止している。
【0003】
しかるに、従来の落石防護柵101 は、索2およびガードネット3によって落石等を受け止め、落石から受けた力を支柱1が支持する構造であるので、落石防護柵101 の強度を高くするには、支柱1の強度を高くする必要がある。また、山中の道路も場所によっては自然災害によってより多くの落石が生じることもあり、こうした場所では落石の防止効果を高めるため、支柱1の高さを高くし、ガードネット3の高さを高くしたい場所も存する。
【0004】
しかるに、既に擁壁W上に立設されている支柱1の強度を高くするには、落石防護柵101 や擁壁Wを一度壊して、新しい擁壁を構築し、強度の高い新しい支柱を設置しなければならないので、大変な手間と費用が必要であるという問題がある。
【0005】
そこで、特許文献1の従来技術では、擁壁W上の既設の支柱に新たに鉄パイプを被せて擁壁Wに固定し、鉄パイプ内にモルタルを充填して新たな支柱とする工法が提案された。
しかし、この工法では新たな鉄パイプの強度を支えるのは古い支柱だけであり、さほど強度向上が望めなかったので、新たな支柱となる鉄パイプの高さを充分高くすることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3432202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる事情に鑑み、既設の落石防護柵の高さを高くでき、かつ強度も補強できる落石防護柵の補強方法を提供することを目的とする。また、本発明は落石時の衝撃荷重を緩和して受止めて防護能力を高くできる落石防護柵を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の落石防護柵の補強方法は、既設の擁壁の上面に支柱が立てて固定され、該支柱に新たな柱パイプを被せて固定する落石防護柵の補強方法であって、前記支柱および前記柱パイプを通す貫通孔が形成された擁壁ブロックを用い、前記既設擁壁の上面に新設の擁壁ブロックを設置し前記貫通孔に前記支柱を通した状態で、前記柱パイプを前記支柱に被せ、かつ前記貫通孔に嵌め、該柱パイプの中空部分に固化剤を注入して、前記柱パイプを既設支柱および擁壁ブロックに対して固定し、前記柱パイプに新しい索およびガードネットを取り付けることを特徴とする。
第2発明の落石防護柵の補強方法は、第1発明において、前記擁壁ブロックが、固化剤を充填するための上下に貫通した空洞を有していることを特徴とする。
第3発明の落石防護柵の補強方法は、第2発明において、前記擁壁ブロックは、その長手方向中間部に前記支柱および前記柱パイプを挿入する貫通孔が形成されており、その両側に前記空洞が設けられていることを特徴とする。
第4発明の落石防護柵の補強部材は、第3発明において、前記擁壁ブロックは、その長手方向における両端面に隣接する擁壁ブロックと嵌合させる嵌合突起と嵌合凹部が形成されていることを特徴とする。
第5発明の落石防護柵の補強方法は、第2発明において、前記擁壁ブロックは、その長手方向における両端部に前記支柱および前記柱パイプを通す半円形の貫通孔が形成されており、その長手方向中間部分に前記空洞が設けられていることを特徴とする。
第6発明の落石防護柵は、請求項1によって施工された落石防護柵であって、既設の擁壁と、その上面に固定された新設の擁壁ブロックと、柱パイプ、索およびガードネットからなり、前記ガードネットを取付ける索は、取付金具によって前記柱パイプに張設されており、前記取付金具は、前記索を通すための弾性を有する弾性パイプを有し、該弾性パイプは、前記柱パイプの外周に沿う取付部と、該取付部から左右両方向に延びる弾性曲げ部からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、柱パイプの中空部分に固化剤を注入し固化させると、柱パイプが既設の支柱に対しても新しく設置した擁壁ブロックに対しても固定されるので、新設の柱パイプの支持強度が高くなる。このため、柱パイプの高さも高くすることができる。
第2発明によれば、空洞に固化剤を注入して固化させることで、新設の擁壁ブロックと既設の擁壁とを強固に結合でき、その結果、柱パイプの根元を擁壁ブロックで固定でき、柱パイプの支持強度が高くなる。このため、柱パイプの高さを高くすることも可能となる。
第3発明によれば、柱パイプの両側の空洞に充填した固化剤が擁壁ブロックと既設擁壁を互いに固定することによって、柱パイプに加えられる落石等からの外力を左右両側から均等な力で支えるので、柱パイプの支持強度が高くなる。
第4発明によれば、嵌合突起と嵌合凹部が隣接する擁壁ブロックと嵌合するので、隣接する擁壁ブロック同士が柱パイプの根元を支えるよう共働する。このため柱パイプの支持強度が高くなる。
第5発明によれば、隣接する擁壁ブロックの端面同士の半円形貫通孔が合わさって1個の貫通孔となり、その中に通される柱パイプが隣接する擁壁ブロックによって位置が固定されるよう働く。そして、擁壁ブロックは長手方向中間部分の空洞によって既設擁壁に固定されているので、柱パイプの根元は強固に支持される。
第6発明によれば、ガードネットに落石等による外力が加われば、索が通されている弾性パイプが曲がったり、索の滑り抵抗が高くなることによって外力を吸収でき、索にも柱パイプにも衝撃荷重の加わり方を減少できる。このため、落石等による防護柵の損傷を防止でき、高い落石防止効果を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る落石防護柵の補強方法を示す斜視図である。
【
図2】
図1の落石防護柵の補強方法を説明する側面図である。
【
図3】本発明の他の実施形態に係る落石防護柵の補強方法を示す斜視図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係る落石防護柵の補強方法を示す斜視図である。
【
図5】本発明の落石防護柵におけるガードネット取付構造を示す斜視図である。
【
図6】本発明のガードネット取付構造における衝撃荷重吸収作用の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、本発明の補強方法の施工作業を説明する。
図8は本発明の補強方法が適用される前の既設の落石防護柵101を示している。
既設の落石防護柵101は、同図に示すように、複数本の支柱1に索2が多段で水平に取付けられ、この索2と支柱1にガードネット3が取付けられている。索2にはワイヤーロープなどが用いられる。
本発明の補強方法を施工するには、まず、落石防護柵から索2およびガードネット3を取り外す。このようにして、既設の擁壁Wの上面に複数の支柱1のみを残した状態が
図7である。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態の補強方法を、
図1および
図2に基づき説明する。符号Wは既設の擁壁を示しており、この擁壁Wの上面には、複数の既設の支柱1が立てて残されている。
補強方法に用いられる擁壁ブロックBや柱パイプ20の構成は、つぎのとおりである。
【0013】
既設擁壁Wに積む新設の擁壁ブロックBは、支柱1および柱パイプ20を通す貫通孔10が形成されており、また、上下に貫通した空洞11を有している。この空洞11は固化剤を充填するために形成されている。
【0014】
貫通孔10の位置や空洞11の位置には種々のバリエーションがあり、
図1や
図3、
図4に示すものがある。
柱パイプ20は、円筒状あるいは角筒状のパイプであり、その素材は、鉄や鋼等である。
【0015】
施工作業の手順はつぎのとおりである。
図1および
図2を参照して説明する。
(1)既設擁壁Wの上面に新設の擁壁ブロックBを設置し貫通孔10に支柱1を通した状態に設置する。
(2)柱パイプ20を支柱1に被せ、かつ貫通孔10に嵌める。
(3)柱パイプ20の中空部分に固化剤を注入し、柱パイプ20を既設支柱1および擁壁ブロックBに対して固定する。
(4)擁壁ブロックBの空洞11に固化剤を注入し擁壁ブロックBを既設擁壁W上で固定する。
(5)柱パイプ20に新しい索2およびガードネット3を取り付ける。
【0016】
前記(4)の工程では、前記柱パイプ20の中空部分および擁壁ブロックBの空洞11は、固化剤である固体モルタル13によって埋められる。この固体モルタル13は、液状モルタルの状態で流し込まれて固化したものである。この固体モルタル13によって、柱パイプ20と支柱1とが一体に固定され、また擁壁ブロックBが既設擁壁Wに固定される。
【0017】
なお、固化剤は固体モルタル13に限定されず、例えばコンクリートやモルタル、ポリマーモルタル等の樹脂、カーボン等でもよい。
特に弾性の高い固化剤を用いた場合、落石の衝撃荷重によって発生する曲げ応力が弾性限度よりも小さければ、柱パイプ20および固化剤は弾性変形する。すると、落石を取り除けば、柱パイプ20が元の形状に復帰し、固化剤内にも内部応力が残存しないので、柱パイプ20の耐久性を高くすることができる。
【0018】
柱パイプ20と擁壁ブロックBとが既設擁壁Wに完全に一体して固定されると、柱パイプ20間に、索2を水平に、複数段に張り取り付ける。
最後に、ガードネット3を索2に取り付ければ、落石防護柵20の施工が終了する。
【0019】
本発明の補強方法によれば、柱パイプ20の中空部分に固化剤を注入し固化させると、柱パイプ20が既存の支柱1に対しても新しく設置した擁壁ブロックBに対しても固定されるので、新設の柱パイプ20の支持強度が高くなる。このため、柱パイプ20の高さも高くすることができる。
また、空洞11に固化剤を注入して固化させることで、新設の擁壁ブロックBと既設の擁壁Wとを強固に結合でき、その結果、柱パイプ20の根元を擁壁ブロックBで固化できるので、柱パイプ20の支持強度が高くなる。このため、柱パイプ20の高さを高くすることも可能となる。
【0020】
(他の実施形態)
つぎに、擁壁ブロックBの各形態を説明する。
(1)
図1に示す擁壁ブロックBは、その長手方向中間部に支柱1および柱パイプ20を挿入する貫通孔10が形成されており、その両側に空洞11が設けられている。
この擁壁ブロックBでは、柱パイプ20の両側の空洞11に充填した固化剤が擁壁ブロックBと既設擁壁Wを互いに固化することによって、柱パイプ20に加えられる落石等からの外力を左右両側から均等な力で支えるので、柱パイプ20の支持強度が高くなる。
【0021】
(2)
図1および
図4に示す擁壁ブロックBは、その長手方向における両端面に隣接する擁壁ブロックBと嵌合させる嵌合突起12と嵌合凹部13が形成されている。
この擁壁ブロックBによれば、嵌合突起12と嵌合凹部13が隣接する擁壁ブロックB,Bと嵌合するので、隣接する擁壁ブロックB,B同士が柱パイプ20の根元を支えるよう共働する。このため柱パイプ20の支持強度が高くなる。
【0022】
(3)
図3および
図4に示す擁壁ブロックBは、その長手方向における両端部に支柱1および柱パイプ20を通す半円形の貫通孔13,14が形成されており、その長手方向中間部分に空洞11が設けられている。空洞11の長さは長いものもあれば(
図3の例)、短いもの(
図4の例)もある。
この擁壁ブロックBによれば、隣接する擁壁ブロックB,Bの端面同士の半円形貫通孔13,14が合わさって1個の貫通孔となり、その中に通される柱パイプ20が隣接する擁壁ブロックBによって位置が固定されるよう働く。そして、擁壁ブロックBは長手方向中間部分の空洞11によって既設擁壁に固定されているので、柱パイプ20の根元は強固に支持される。
【0023】
上記各実施形態の擁壁ブロックBにおいて既設擁壁Wへの固定は、空洞11に充填する固化剤を利用するだけでなく、これに代わるボルト止め、あるいは併用してボルト止め等を用いてもよい。ボルト止めには植込みボルト等を利用できる。
【0024】
また、
図5に示すように、元の支柱1を短く切って短柱1aとして残し、これの頭部に平板1bを溶接等で固定して、いわゆる植込み柱4としてもよい。この植込み柱4が擁壁ブロックBの空洞内に位置するように新しい擁壁Bを載せ、その空洞内にモルタル等の固化剤を注入し、固化剤が固化すると、新しい擁壁Bを既存の擁壁Wに強固に固定することができる。
【0025】
つぎに、本発明に係る落石防護柵を
図5および
図6に基づき説明する。
図5に示すように、本発明によって施工された落石防護柵Aは、既存の擁壁Wと、その上面に固定された新設の擁壁ブロックBと、柱パイプ20、索2およびガードネット3からなる。そして、ガードネット3を取付ける索2は弾性パイプ5によって柱パイプ20に張設されている。弾性パイプ5は任意の取付金具で柱パイプ20に取付けられるが、取付金具としてはボルト・ナットやU字金具等の公知のものを使用できる。弾性パイプ5は柱パイプ20の外周に沿う取付部6と、取付部6から左右両方向に延びる弾性曲げ部7からなる。また、索2はその弾性パイプ5の中に通されている。
【0026】
図6の(A)図はガードネット3に負荷が加わってない状態を示しているが、同図(B)はガードネット3に落石等による外力が加わった状態を示している。この場合、索2が通されている弾性パイプ5の弾性曲げ部7が曲がったり、弾性曲げ部7と取付部6の間の湾曲具合が真直ぐに変形することによって外力を吸収できる。さらに、湾曲した形状の弾性パイプ5内で索2が滑ると、そのとき強い摩擦が発生し、その摩擦抵抗によって、索2にも柱パイプ20にも衝撃荷重の加わり方を減少できる。このため、落石等による防護柵の損傷を防止でき、高い落石防止効果を発揮できる。なお、落石等を除去すれば、弾性パイプ5は元の状態に復帰する。
【符号の説明】
【0027】
1 支柱
2 索
3 ガードネット
12 パイプ取付金具
13 モルタル
20 柱パイプ
31 補助支柱
32 連結具