【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 2014年9月15日 集会名 第25回廃棄物資源循環学会 研究発表会 開催場所 広島工業大学(広島市佐伯区三宅2−1−1) 〔刊行物等〕 ウェブサイトの掲載日 2014年8月26日 ウェブサイトのアドレス http://jsmcwm.or.jp/taikai2014/
【文献】
原田幸明 他1名,「溶融塩法による土壌からのセシウムの抽出」,資料・素材2013,一般社団法人 資源・素材学会,2013年 9月 3日,第509−510頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2種類以上の塩化物は、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ金属の塩化物及び塩化鉄からなる群から選ばれたものである、請求項1に記載の放射性セシウムの除去方法。
前記処理対象物の全質量を100質量部とすると、前記処理対象物に含まれるCaO換算のカルシウム量は5.0質量部以上であり且つ前記処理対象物に含まれるCl量は1.0〜25.0質量部である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の放射性セシウムの除去方法。
前記分離促進剤の全質量100質量部に対し、前記分離促進剤における前記混合物及び前記複塩の含有量の合計は1〜65質量部であり且つ前記カルシウム源の含有量は35〜99質量部である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の放射性セシウムの除去方法。
前記処理対象物の全質量を100質量部とすると、前記混合工程において前記廃棄物と混合される前記分離促進剤の量は5〜80質量部である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の放射性セシウムの除去方法。
前記混合物又は前記複塩は、以下の第1塩化物と第2塩化物の組合せ1〜6のいずれかを用いて調製されたものであり且つ前記混合物又は前記複塩における第1塩化物のモル数M1と第2塩化物のモル数M2の比(M1/M2)が以下の範囲である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の放射性セシウムの除去方法。
組合せ1:第1塩化物CaCl2と第2塩化物NaCl、3/7≦M1/M2≦7/3
組合せ2:第1塩化物KClと第2塩化物CaCl2、2/8≦M1/M2≦3/7又は65/35≦M1/M2≦85/15
組合せ3:第1塩化物MgCl2と第2塩化物NaCl、2/8≦M1/M2≦8/2
組合せ4:第1塩化物MgCl2と第2塩化物KCl、2/8≦M1/M2≦85/15
組合せ5:第1塩化物NaClと第2塩化物FeCl3、15/85≦M1/M2≦35/65
組合せ6:第1塩化物NaClと第2塩化物FeCl2、4/6≦M1/M2≦8/2
前記スラリーの水含有量は、前記分離促進剤の全質量100質量部に対して12〜400質量部である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の放射性セシウムの除去方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態に係る分離促進剤は、放射性セシウムで汚染された廃棄物から放射性セシウムを除去するためのものである。この分離促進剤は2種類以上の塩化物を用いて調製され且つ融点が700℃以下である混合物又は複塩を含む。まず、2種類の塩化物の混合物を含む分離促進剤について説明する。
【0029】
<放射性セシウムの分離促進剤>
本実施形態に係る分離促進剤は、放射性セシウムで汚染された廃棄物から放射性セシウムを除去するためのものであり、第1の塩化物と、第1の塩化物と異なる種類の塩化物であって第1の塩化物とともに融点が700℃以下の複塩(以下、「低融点塩化物」という。)を生成する第2の塩化物とを含む。低融点塩化物の融点は、第1の塩化物の融点及び第2の塩化物の融点のいずれもよりも低い温度であることが好ましい。第1の塩化物、第2の塩化物及び低融点塩化物はいずれも粉状又は粒状(平均粒径1μm〜5mm程度)であることが好ましい。
【0030】
第1の塩化物と第2の塩化物の混合物が加熱されることによって生じる低融点塩化物の融点は700℃以下に調整されている。低融点塩化物の融点を700℃以下とするには、特定の第1及び第2の塩化物を使用するとともに、これら2種類の塩化物の配合比率(モル比)を調整すればよい。低融点塩化物の融点は、廃棄物を処理する加熱温度よりも低い温度である。低融点塩化物の融点は好ましくは150℃以上700℃以下であり、より好ましくは150℃以上600℃以下であり、更に好ましくは300℃以上600℃以下である。低融点塩化物の融点が700℃以下であれば、廃棄物から放射性セシウムを分離するための加熱処理の温度を十分に低くでき且つ十分に少ない添加量で放射性セシウムの十分に高い除去率を達成できる。低融点塩化物の融点が150℃以上であれば、廃棄物を処理する加熱装置への塩化物の付着を十分に抑制できる。
【0031】
第1の塩化物及び第2の塩化物は、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ金属の塩化物及び塩化鉄からなる群からそれぞれ選ぶことができ、より具体的には、CaCl
2、MgCl
2、NaCl、KCl、LiCl、FeCl
3及びFeCl
2からなる群からそれぞれ選ぶことができる。
【0032】
2種類の塩化物の配合比率は、相平衡図に基づいて決定することができる。相平衡図は、市販の熱力学平衡計算ソフト(例えばFactSage Ver.6.4(商品名、株式会社計算力学研究センター製)によって作成することができる。ここでは、2種類の塩化物の組合せ1〜6を例に挙げて説明する。
【0033】
(組合せ1)
図1は、NaCl−CaCl
2の相平衡図である。NaCl単独の融点は802℃であり且つCaCl
2単独の融点は775℃であるのに対し、モル比でCaCl
2:NaCl=50:49である複塩(49NaCl・50CaCl
2)の融点は502.5℃である。融点が十分に低い複塩(低融点塩化物)を得るには、混合物中におけるCaCl
2(第1塩化物)のモル数M
1とNaCl(第2塩化物)のモル数M
2の比(M
1/M
2)は、好ましくは3/7〜7/3であり、より好ましくは4/6〜6/4であり、更に好ましくは45/55〜55/45である。
【0034】
(組合せ2)
図2は、CaCl
2−KClの相平衡図である。CaCl
2単独の融点は775℃であり且つKCl単独の融点は772℃であるのに対し、KCl含有率75モル%であり且つCaCl
2含有率25モル%である複塩(25CaCl
2・75KCl)の融点は599℃である。融点が十分に低い複塩(低融点塩化物)を得るには、混合物中におけるKCl(第1塩化物)のモル数M
1とCaCl
2(第2塩化物)のモル数M
2の比(M
1/M
2)は、好ましくは65/35〜85/15であり、より好ましくは7/3〜8/2であり、更に好ましくは72/28〜78/22である。
【0035】
(組合せ3)
図3は、NaCl−MgCl
2の相平衡図である。NaCl単独の融点は802℃であり且つMgCl
2単独の融点は714℃であるのに対し、MgCl
2含有率43モル%であり且つNaCl含有率57モル%である複塩(57NaCl・43MgCl
2)の融点は458℃である。融点が十分に低い複塩(低融点塩化物)を得るには、混合物中におけるMgCl
2(第1塩化物)のモル数M
1とNaCl(第2塩化物)のモル数M
2の比(M
1/M
2)は、好ましくは2/8〜8/2であり、より好ましくは25/75〜7/3であり、更に好ましくは3/7〜6/4、最も好ましくは35/65〜48/52である。
【0036】
(組合せ4)
図4は、KCl−MgCl
2の相平衡図である。KCl単独の融点は770℃であり且つMgCl
2単独の融点は714℃であるのに対し、MgCl
2含有率30モル%であり且つKCl含有率70モル%である複塩(3MgCl
2・7KCl)の融点は421.7℃である。融点が十分に低い複塩(低融点塩化物)を得るには、混合物中におけるMgCl
2(第1塩化物)のモル数M
1とKCl(第2塩化物)のモル数M
2の比(M
1/M
2)は、好ましくは2/8〜85/15であり、より好ましくは25/75〜65/35であり、更に好ましくは25/75〜6/4、最も好ましくは25/75〜4/6である。
【0037】
(組合せ5)
FeCl
3単独の融点は306℃であり且つNaCl単独の融点は802℃であるのに対し、NaCl含有率25モル%であり且つFeCl
3含有率75モル%である複塩(25NaCl・75FeCl
3)の融点は156℃である。融点が十分に低い複塩(低融点塩化物)を得るには、混合物中におけるNaCl(第1塩化物)のモル数M
1とFeCl
3(第2塩化物)のモル数M
2の比(M
1/M
2)は、好ましくは15/85〜35/65であり、より好ましくは20/80〜30/70である。
【0038】
(組合せ6)
FeCl
2単独の融点は677℃であり且つNaCl単独の融点は802℃であるのに対し、NaCl含有率58モル%であり且つFeCl
2含有率42モル%である複塩(58NaCl・42FeCl2)の融点は370℃である。融点が十分に低い複塩(低融点塩化物)を得るには、混合物中におけるNaCl(第1塩化物)のモル数M
1とFeCl
2(第2塩化物)のモル数M
2の比(M
1/M
2)は、好ましくは4/6〜8/2であり、より好ましくは5/5〜65/35であり、更に好ましくは55/45〜60/40である。
【0039】
(その他の組合せ)
上記組合せの他に、二種類の塩化物から調製される低融点塩化物として、37PbCl
2−63FeCl
3(融点175℃)、60SnCl
2−40KCl(融点176℃)、70SnCl
2−30NaCl(融点183℃)、60KCl−40FeCl
2(融点355℃)、70PbCl
2−30NaCl(融点410℃)、52PbCl
2−48KCl(融点411℃)、80PbCl2−20CaCl
2(融点475℃)なども挙げられる。これらの塩化物は調達可能な材料を選択して適宜調製すればよい。
【0040】
本実施形態に係る分離促進剤は、第1塩化物と第2塩化物の混合物からなるものであってもよく、他の成分を更に含んでもよい。他の成分としては、カルシウム源が挙げられる。なお、低融点塩化物を構成する塩化物として塩化カルシウムを使用した場合、この塩化カルシウムはここでいう「カルシウム源」には該当しないものとする。カルシウム源を含む原料としては、例えば石灰石(炭酸カルシウム)、生石灰(酸化カルシウム)、消石灰(水酸化カルシウム)及びドロマイト(CaMg(CO
3)
2)が挙げられる。分離促進剤に添加する成分は、セシウムアルミノシリケートをできるだけ生成させない観点から、なるべくケイ素及びアルミニウムの含有量が少ないものが好ましい。放射性セシウムのより高い除去率を達成する観点から、分離促進剤の全質量を100質量部とすると、分離促進剤におけるカルシウム源の含有量は好ましくは35〜99質量部であり、より好ましくは54〜91質量部であり、更に好ましくは57〜88質量部、最も好ましくは70〜88質量部である。
【0041】
また放射性セシウムのより高い除去率を達成する観点から、第1塩化物と第2塩化物の混合物の含有量は好ましくは1〜65質量部であり、より好ましくは9〜46質量部であり、更に好ましくは12〜43質量部、最も好ましくは12〜30質量部である。
【0042】
本実施形態に係る分離促進剤は以下の2種類の分離処理に適用可能である。なお、2種類の分離処理については後述する。
(1)加熱処理(800℃以上1200℃未満)によって放射性セシウムを主に揮発させる方法。その後、水洗処理を行うことで更に除去効率を高めることができる。
(2)加熱処理(600℃以上900℃以下)によって放射性セシウムを揮発させるとともに、その後、水洗処理によって放射性セシウムを主に溶出させる方法。
【0043】
カルシウム源を予め含む分離促進剤を調製する場合、上記2種類の分離処理のいずれを適用するかに応じてカルシウム源の配合量を調節してもよい。
【0044】
図5は、上記(1)の方法(比較的高い温度の揮発除去で大部分のセシウムを除去した後水洗処理によって除去効率を高める)において、1100℃で処理して最大限揮発で除去する場合に、分離促進剤を添加後の処理対象物に含まれるカルシウム量(CaO換算、水分と可燃物を除いた処理対象物全質量基準)と、Cl量(水分と可燃物を除いた処理対象物全質量基準)の適正範囲を示すグラフである。揮発処理に供される処理対象物のカルシウム量(CaO換算)及びCl量は、
図5の(CaO、Cl)が(5.0、13.0)、(5.0、6.0)、(20.0、2.0)、(40.0、1.0)、(50.0、1.0)、(50.0、10.0)及び(25.0、10.0)で囲われた範囲(点線で囲われた領域)に調整することが好ましく、(CaO、Cl)が(10.0、10.0)、(20.0、3.0)、(50.0、3.0)、(50.0、8.0)及び(25.0、8.0)の点に囲われた範囲(実線で囲われた領域)に調整することがより好ましい。更に、CaO量が20.0〜40.0質量%、Cl量が4.0〜8.0質量%に調整することが最も好ましい。この範囲で調整すれば、後工程での水洗処理でのセシウムの除去量が少なくて効率が良い。
【0045】
図6は、1100℃での揮発処理に供される処理対象物に含まれるカルシウム量(CaO換算、処理対象物全質量基準)と、低融点塩化物量(処理対象物全質量基準)と、放射性セシウムの除去率との関係を示すグラフである。
図6の点Aはカルシウムを含まず且つ塩素も含まない、分離促進剤を添加前の廃棄物の組成を示す点であり、当該廃棄物は放射性セシウムの分離が最も困難なものの一つである。当該廃棄物に対してカルシウム源と低融点塩化物との両方を添加し、これによって処理対象物の組成を例えば
図6中の点B〜Eに調整することにより、廃棄物に含まれる放射性セシウムを比較的容易に分離可能にすることができる。分離促進剤の使用量を抑制し且つ処理対象物に含まれる塩化物量をなるべく低く維持することを勘案し、処理対象物の組成を例えば
図6中の点D又は点Eに調整することがより好ましい。なお、点B及び点Cは放射性汚染物を1100℃で加熱した場合にセシウム除去率50%を達成し得る低融点塩化物量の上限値(点B)及び下限値(点C)であり、点D及び点Eは放射性汚染物を1100℃で加熱した場合にセシウム除去率70%を達成し得る低融点塩化物量の上限値(点D)及び下限値(点E)である。
【0046】
点Aの組成を有する廃棄物に分離促進剤を添加することによって
図6中の点B〜点Eの組成の処理対象物を得るには、CaCO
3(カルシウム源)と低融点塩化物との比率(質量比)が以下のとおりの分離促進剤をそれぞれ使用すればよい。ここでCaCO
3の量は
図6中のCaO量をCaCO
3換算量に計算したものである。
点B CaCO
3:低融点塩化物=35:65
点C CaCO
3:低融点塩化物=99:1
点D CaCO
3:低融点塩化物=54:46
点E CaCO
3:低融点塩化物=88:12
【0047】
分離促進剤のCaCO
3(カルシウム源)の配合率をx質量%、分離促進剤の低融点塩化物の配合率をy質量%とすると、
図6に基づく検討結果から上記(1)の方法で使用する分離促進剤は以下の条件を全て満たすことが好ましい。
(条件)
35≦x≦99(より好ましくは54≦x≦88)
1≦y≦65(より好ましくは12≦y≦46)
【0048】
上記のように揮発によって大部分のセシウムを除去した後、後で記載する水洗処理方法によって加熱後の処理対象物を水洗することによって、より高いセシウムの除去率を得ることが可能となる。
【0049】
図7は、上記(2)の方法(比較的低い温度の揮発処理と水洗処理との一連の処理)において、700℃で処理する場合に、分離促進剤を添加後の処理対象物に含まれるカルシウム量(CaO換算、水分と可燃物を除いた処理対象物全質量基準)と、Cl量(水分と可燃物を除いた処理対象物全質量基準)の最適範囲を示すグラフである。揮発処理に供される処理対象物のカルシウム量(CaO換算)及びCl量は、
図7の(CaO、Cl)が(23.0、17.0)、(23.0、10.0)、(40.0、3.0)、(50.0、3.0)、および(50.0、17.0)で囲われた範囲(実線で囲われた領域)に調整することが好ましい。
【0050】
図8は、上記(2)の方法において、分離促進剤を添加後の処理対象物に含まれるカルシウム量(CaO換算、処理対象物全質量基準)と、低融点塩化物量(処理対象物全質量基準)と、放射性セシウムの除去率との関係を示すグラフである。揮発処理に供される処理対象物のカルシウム量(CaO換算)及び低融点塩化物量は、
図8の実線で囲われた領域に調整することが好ましい。
【0051】
図8の点Aはカルシウムを含まず且つ塩素も含まない、分離促進剤を添加前の廃棄物の組成を示す点であり、当該廃棄物は放射性セシウムの分離が最も困難なものの一つである。当該廃棄物に対してカルシウム源と低融点塩化物との両方を添加し、これによって処理対象物の組成を例えば
図8中の点B〜Eに調整することにより、廃棄物に含まれる放射性セシウムを比較的容易に分離可能にすることができる。分離促進剤(カルシウム源及び低融点塩化物)の使用量を抑制し且つ処理対象物に含まれる塩化物量をなるべく低く維持することを勘案し、処理対象物の組成を例えば
図8中の点D又は点Eに調整することがより好ましい。なお、点B及び点Cは処理対象物を700℃で加熱した後に水洗処理した場合にセシウム除去率50%を達成し得る低融点塩化物量の上限値(点B)及び下限値(点C)であり、点D及び点Eは放射性汚染物を1100℃で加熱した場合にセシウム除去率70%を達成し得る低融点塩化物量の上限値(点D)及び下限値(点E)である。
【0052】
点Aの組成を有する廃棄物に分離促進剤を添加することによって
図8中の点B〜点Eの組成の処理対象物を得るには、CaCO
3と低融点塩化物との比率(質量比)が以下のとおりの分離促進剤をそれぞれ使用すればよい。ここでCaCO
3の量は
図8中のCaO量をCaCO
3換算量に計算したものである。
点B CaCO
3:低融点塩化物=57:43
点C CaCO
3:低融点塩化物=93:7
点D CaCO
3:低融点塩化物=70:30
点E CaCO
3:低融点塩化物=91:9
【0053】
分離促進剤のCaCO
3(カルシウム源)の配合率をx質量%、分離促進剤の低融点塩化物の配合率をy質量%とすると、水洗工程で確実にセシウムを除去するためには、
図8に基づく検討結果から上記(2)の方法で使用する分離促進剤は以下の条件を全て満たすことが好ましい。
(条件)
57≦x≦93(より好ましくは70≦x≦91)
7≦y≦43(より好ましくは9≦y≦30)
【0054】
図5〜8において、○および×で示した「FactSageによる推定値」は、株式会社計算力学研究センター製の熱力学平衡計算ソフトであるFactSage Ver.6.4を用いて気体として存在する塩化セシウムの割合を推定したものである。なお、熱力学平衡計算は、熱力学データベースに通常計算に用いられるNaCl、CaCl
2及びCsClのような単独物質のデータベースだけでなく、NaCl−CaCl
2−CsClの複塩(溶体)や、セシウムアルミノシリケートの熱力学データも加え、電気炉中のガス条件等を設定して実験データに合うようにチューニングした上で行った。
図5〜8において、●で示した「実験値」は表2及び表5に示す参考例に基づくデータをプロットしたものである。
【0055】
上記実施形態においては、低融点塩化物(融点700℃以下)が2種類の塩化物の混合物からなる場合を例示したが、低融点塩化物は3種以上の塩化物の混合物からなるものであってもよい。
【0056】
また、低融点塩化物は2種類以上の塩化物の複塩からなるものであってもよい。2種類以上の塩化物の複塩は、以下のようにして調製することができる。まず、それぞれ所定量の塩化物を混合して混合物を得る。この混合物を加熱することによって溶融させた後、冷却して複塩が得られる。これを粉砕することによって粉状の複塩(低融点塩化物)を得ることができる。
【0057】
上記低融点塩化物を含む分離促進剤によれば、廃棄物から放射性セシウムを分離するための加熱処理の温度を十分に低くできる。具体的には、当該加熱処理の温度を600℃以上1200℃未満に設定することができる。廃棄物からの放射性セシウムの除去処理を、加熱による揮発除去で主に行う場合(上記(1)の方法)、加熱処理の温度は好ましくは800℃以上1200℃未満であり、より好ましくは900℃以上1100℃以下であり、更に好ましくは900℃以上1000℃以下である。廃棄物からの放射性セシウムの除去処理をその後の水洗処理で主に行うプロセスに上記分離促進剤を使用する場合、加熱処理の温度は600℃以上900℃以下まで低減でき、より好ましくは700℃以上850℃以下であり、更に好ましくは700℃以上800℃以下に低減することが可能である。
【0058】
また、上記分離促進剤によれば、公知の分離促進剤よりも少ない添加量で放射性セシウムの十分に高い除去率を達成できる。
【0059】
<分離促進剤含有スラリー>
分離促進剤含有スラリーは、上述の分離促進剤と、水とを混合することによって調製することができる。分離促進剤含有スラリーは、分離促進剤の全質量を100質量部とすると、水の含有量が好ましくは12〜400質量部であることが好ましく、20〜300質量部であることがより好ましく、20〜150質量部であることが更に好ましい。水の含有量が12質量部以上であれば分離促進剤に含まれる成分であって水に不溶な成分を水に十分に分散させることができ、他方、400質量部以下であれば処理対象物の含水量が過剰に多くなることを抑制できる。
【0060】
<放射性セシウム除去方法>
次に、放射性セシウムで汚染された廃棄物から放射性セシウムを除去する方法について説明する。処理対象の廃棄物は、例えば、土壌、下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、ごみ由来の溶融スラグ、貝殻、草木等の一般廃棄物、下水汚泥、下水スラグ、浄水汚泥、建設汚泥等の産業廃棄物、がれき等の災害廃棄物であって放射性セシウムを含むものである。これらの廃棄物のうちの一種のみを処理対象としてもよいし、2種以上が組み合わされたものを処理対象としてもよい。
【0061】
なお、ここでいう「放射性セシウムで汚染された廃棄物」は、放射性セシウムをほとんど含まない部分(例えば、土壌の場合、砂、石)を予め取り除いて得られる、放射性セシウムが濃縮されたもの(中間処理物)も包含する概念である。また、ここでいう「放射性セシウム」は、セシウムの放射性同位体であるセシウム134及びセシウム137を意味する。これらの放射性セシウムが原子力発電所などの事故によって放散されると、廃棄物の中においてセシウムアルミノシリケートの状態で存在したり、粘土鉱物に吸着して存在したりし、いずれも従来の加熱処理(揮発)又は水洗処理では除去しにくい態様である。
【0062】
上記低融点塩化物(混合物もしくは複塩)又は分離促進剤を使用した除去処理によって、処理対象の廃棄物、特に放射性セシウムの除去効率の低い土壌及び下水汚泥などであっても、高い除去率で放射性セシウムを除去することができる。
【0063】
以下、廃棄物から放射性セシウムを除去する方法について具体的に説明する。
【0064】
(1)加熱処理による揮発除去で主にセシウムを除去する場合
加熱処理による除去方法は、処理対象の廃棄物を加熱することによって放射性セシウムを揮発除去するものである。この除去方法は以下の工程を備える。
・上記分離促進剤を含むスラリーと、処理対象の廃棄物とを混合することによって処理対象物を得る混合工程。
・上記処理対象物を加熱することによって放射性セシウムを揮発させる加熱工程。
【0065】
上記混合工程において、分離促進剤を含有するスラリー(分離促進剤含有スラリー)を処理対象物の調製に使用することで、固体(例えば粉末状)の分離促進剤を廃棄物に直接添加する場合と比較し、より高度に放射性セシウムを除去することができる。分離促進剤含有スラリーは、分離促進剤の全質量を100質量部とすると、水の含有量が好ましくは12〜400質量部であり、より好ましくは20〜300質量部であり、更に好ましくは20〜150質量部である。水の含有量が12質量部以上であれば分離促進剤に含まれる成分であって水に不溶な成分を水に十分に分散させることができ、他方、400質量部以下であれば処理対象物の含水量が過剰に多くなることを抑制できる。
【0066】
スラリーの水含有量は、廃棄物の放射能濃度、廃棄物の種類、分離促進剤の種類などに応じて調整してもよい。すなわち、上記(1)の除去方法は、廃棄物又は処理対象物の放射能濃度をモニタリングする工程と、当該放射能濃度の値に応じて処理条件を変更する工程とを更に備えてもよい。ここでいう処理条件は、スラリーの水含有量に限られず、分離促進剤の組成(例えばカルシウム源の配合量)、及び、廃棄物に対する分離促進剤の添加量なども含まれる。処理すべき廃棄物の放射能濃度を事前に把握し且つ処理条件の少なくとも一つを変更することで、廃棄物の放射能濃度を安定的に低減できるとともに、分離促進剤などの材料の過剰使用を抑制できる。例えば、処理中の廃棄物に比べて今後処理すべき廃棄物の放射能濃度が高いことがモニタリングによって把握された場合、現状の処理条件と比較して分離促進剤の添加量を増大させたり、分離促進剤におけるカルシウム源の量を増大させたり、スラリーの水含有量を増大させたりすればよい。これとは逆に処理中の廃棄物に比べて今後処理すべき廃棄物の放射能濃度が低いことがモニタリングによって把握された場合、現状の処理条件と比較して分離促進剤の添加量を減少させたり、分離促進剤におけるカルシウム源の量を減少させたり、スラリーの水含有量を減少させたりすればよい。
【0067】
更に、上記(1)の除去方法において、加熱処理後の処理物の放射能濃度を測定し、その値が目標値よりも下がっていない場合には、その測定値と所定値との差に基づき、その後の処理において分離促進剤の添加量を増大させたり、分離促進剤におけるカルシウム源の量を増大させたり、スラリーの水含有量を増大させたりしてもよい。これにより、条件変更後の処理において、廃棄物の放射能濃度を十分に低減できる。放射能濃度が十分に低減しなかった処理後の廃棄物を処理前の廃棄物に添加し、再度処理するようにしてもよい。
【0068】
なお、混合工程及び加熱工程を実施する設備としては連続式でもバッチ式でもよい。混合工程を実施する設備として、例えばリボンミキサー、スクリューミキサー、ロッキングミキサーなどの容器回転型ミキサーを挙げることができる。加熱工程を実施する設備としては例えばストーカ炉やキルン炉などを使用できる。混合工程及び加熱工程を同じ設備(例えばキルン炉やストーカ炉内で混合しながら加熱)で実施してもよい。
【0069】
廃棄物に対して上記カルシウム源を添加する場合、加熱工程で可能な限り多くのセシウムを除去するには、上述のとおり、カルシウム源の添加量(CaCO
3換算、x質量%)及び2種以上の塩化物の添加量(y質量%)は、以下の条件を全て満たすことが好ましい(
図5参照)。
(条件)
35≦x≦99(より好ましくは54≦x≦88)
1≦y≦65(より好ましくは12≦y≦46)
【0070】
処理対象物の全質量を100質量部とすると、処理対象物に含まれるCaO換算のカルシウム量は5.0質量部以上(より好ましくは5.0〜40質量部、更に好ましくは10.0〜35質量部)であり且つ処理対象物に含まれるCl量は1.0〜15.0質量部(より好ましくは3.0〜10.0質量部、最も好ましくは4.0〜8.0質量部)であることが好ましい。
【0071】
上記分離促進剤の添加量は、処理対象の廃棄物の種類にもよるが、廃棄物と分離促進剤(2種以上の塩化物とカルシウム源)の合量に対する分離促進剤の添加量(割合)は、5〜80質量%(より好ましくは10〜75質量%、更に好ましくは15〜70質量%、最も好ましくは20〜50質量%)で放射性セシウムの十分に高い除去率を達成できる。2種以上の塩化物とカルシウム源との合計量が5質量%未満であると放射性セシウムの除去率が不十分となりやすく、他方、80質量%を超えると処理後に得られる放射性セシウムを含む廃棄物の減量化が不十分となりやすい。
【0072】
加熱工程に使用する設備としては、連続式でもバッチ式でもよく、具体例として焼却炉、電気炉、ロータリーキルンなどが挙げられる。放射性物質の放散を防ぐためには、加熱設備にシールを設ければよい。
【0073】
加熱工程における処理温度は、好ましくは800℃以上1200℃未満であり、より好ましくは900℃以上1100℃以下であり、更に好ましくは900℃以上1000℃以下である。加熱工程における処理温度の上限値は1150℃であってもよい。処理温度が800℃未満であると加熱処理後の水洗処理で主にセシウムを除去することになるため、セシウム吸着剤などの薬剤が多量に必要となる。他方、1200℃以上であると加熱処理に要する燃料等のコストが増大しやすく且つより高い耐熱性を有する設備を使用する必要がある。これに加え、廃棄物が溶融し加熱設備に付着し過ぎるなどのトラブルが生じやすい。
【0074】
加熱工程における処理時間は、長ければ長いほど放射性セシウムの除去率は高まるが、廃棄物処理の効率性の観点から好ましくは30分〜6時間であり、より好ましくは1〜4時間である。なお、加熱処理後の廃棄物の放射能濃度をモニタリングし、この値に応じて加熱工程の処理時間及び処理温度、並びに、混合工程における各種成分の添加量などを調節してもよい。加熱工程によって放射性セシウムの除去率10%以上(より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上)を継続的に維持できるように、これらのパラメータを適宜変更することが好ましい。なお、当該(1)の除去方法において、加熱工程後に水洗処理を実施する場合においては、水洗処理によって放射性セシウムを追加的に除去できるため、加熱工程後における放射性セシウムの除去率は5〜90%程度であってもよく、5〜80%程度であってもよい。
【0075】
本実施形態に係る除去方法は、廃棄物と分離促進剤等の添加剤との混合度を高めたり、放射性セシウムの除去効率を高めたりする観点から、混合工程後に混合物を粉砕する粉砕工程を更に備えてもよい。また、加熱処理によって揮発した放射性セシウムを他の塩化物及びダスト分とともに集塵機(例えばバグフィルタ)で回収する回収工程を更に備えてもよい。
【0076】
上記のように加熱工程にて大部分のセシウムを除去したあと、後に記すのと同様の水洗工程で残りのセシウムを除去することにより、非常に高いセシウムの除去率を得ることが可能となる。このような(1)の方法では、水洗時に必要なセシウム吸着剤などの薬剤が少なくて済む利点がある。
【0077】
(2)加熱処理後の水洗処理で主にセシウムを除去する方法
加熱処理後の水洗処理で主にセシウムを除去する方法は、処理対象の廃棄物を加熱することによって放射性セシウムを揮発させた後、廃棄物を水洗することによって残存する放射セシウムを更に除去するものである。この揮発及び水洗除去方法は以下の工程を備える。
・上記分離促進剤を含むスラリーと、処理対象の廃棄物とを混合することによって処理対象物を得る混合工程。
・上記処理対象物を加熱することによって放射性セシウムを揮発させる加熱工程。
・加熱工程後の廃棄物を水洗することによって放射性セシウムを溶出させる水洗工程。
以下、上述の(1)加熱処理による除去方法と異なる点について主に説明する。
【0078】
水洗処理でより効率よくセシウムを除去するには、廃棄物に対して上記カルシウム源を添加する場合、上述のとおり、カルシウム源の添加量(CaCO
3換算、x質量%)及び2種以上の塩化物の添加量(y質量%)は、以下の条件を全て満たすことが好ましい(
図8参照)。
(条件)
57≦x≦93(より好ましくは70≦x≦91)
7≦y≦43(より好ましくは9≦y≦30)
【0079】
また、処理対象物の全質量を100質量部とすると、処理対象物に含まれるCaO換算のカルシウム量は20.0質量部以上(より好ましくは20.0〜40質量部)であり且つ処理対象物に含まれるCl量は4.0〜25.0質量部(より好ましくは4.0〜20.0質量部、最も好ましくは5.0.0〜15.0質量部)とすることによって、より水洗処理でのセシウム除去が低い加熱温度で処理した場合でも可能となる。
【0080】
上記分離促進剤の添加量は、処理対象の廃棄物の種類にもよるが、廃棄物と分離促進剤(2種以上の塩化物とカルシウム源)の合量に対する分離促進剤の添加量(割合)は、5〜80質量%(より好ましくは10〜75質量%、更に好ましくは15〜70質量%、最も好ましくは20〜50質量%)で放射性セシウムの十分に高い除去率を達成できる。2種以上の塩化物とカルシウム源との合計量が5質量%未満であると放射性セシウムの除去率が不十分となりやすく、他方、80質量%を超えると処理後に得られる放射性セシウムを含む廃棄物の減量化が不十分となりやすい。
【0081】
上記分離促進剤を使用した場合、加熱工程における処理温度は、好ましくは600℃以上900℃以下であり、より好ましくは700℃以上850℃以下であり、更に好ましくは700℃以上800℃以下に低減可能である。処理温度が600℃未満であると放射性セシウムの除去率が不十分となりやすく、他方、900℃を超えると加熱工程のみで十分に高い放射性セシウム除去率を達成できる場合があり、この場合、水洗工程を実施する必要性が低くなる。
【0082】
当該(2)の除去方法においても、加熱処理後又は水洗処理後の廃棄物の放射能濃度をモニタリングし、この値に応じて加熱工程の処理時間及び処理温度、並びに、混合工程における各種成分の添加量などを調節してもよい。加熱工程によって放射性セシウムの除去率20%以上(より好ましくは35%以上、更に好ましくは50%以上)を継続的に維持できるように、これらのパラメータを適宜変更することが好ましい。なお、当該(2)の方法においては、加熱処理後の水洗処理によって放射性セシウムを主に除去するため、加熱工程後における放射性セシウムの除去率の60%以下であってもよく、55%以下であってもよい。
【0083】
水洗工程に使用する設備としては、連続式でもバッチ式でもよい。例えば、水槽の中に対象物を投入し、一定時間攪拌させればよく、この操作は1段階で行ってもよく複数段階で行ってもよい。放射性物質の放散を防ぐためには、水洗設備にシールを設ければよい。最終的な放射能汚染レベルを確認し、必要であれば水洗時間を延ばしたり、加熱工程の処理時間及び処理温度、並びに、混合工程における各種成分の添加量などを調節したりしてもよい。水洗工程によって水に溶出した放射性セシウムは、ゼオライト等の吸着剤によって捕集され、その後、濃縮工程等を経て最終処分場に搬送される。
【0084】
なお、水洗処理で主にセシウムを除去する(2)の方法は、加熱温度を低く抑えることが可能であり、燃料費を節約できる点で有利である。
【0085】
本実施形態の分離促進剤は、処理対象の廃棄物のカルシウム量や塩素量が少ないものほど、従来の分離促進剤よりも高いセシウム分離効果を得られる。処理対象の廃棄物のカルシウム量(CaO換算)は処理対象の廃棄物の全質量基準で0〜30質量%(好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは0〜10質量%、最も好ましくは0〜5質量%)、塩素量は0〜10質量%(好ましくは0〜7%、更に好ましくは0〜5%、最も好ましくは0〜1%)であると、本実施形態の分離促進剤の効果が顕著に発揮される。
【0086】
当該(2)の除去方法も、廃棄物又は処理対象物の放射能濃度をモニタリングする工程と、当該放射能濃度の値に応じて処理条件(スラリーの水含有量、分離促進剤の組成(例えばカルシウム源の配合量)、及び、廃棄物に対する分離促進剤の添加量)を変更する工程とを更に備えてもよい。処理すべき廃棄物の放射能濃度を事前に把握し且つ処理条件の少なくとも一つを変更することで、廃棄物の放射能濃度を安定的に低減できるとともに、分離促進剤などの過剰使用を抑制できる。例えば、処理中の廃棄物に比べて今後処理すべき廃棄物の放射能濃度が高いことがモニタリングによって把握された場合、現状の処理条件と比較して分離促進剤の添加量を増大させたり、分離促進剤におけるカルシウム源の量を増大させたり、スラリーの水含有量を増大させたりすればよい。これとは逆に処理中の廃棄物に比べて今後処理すべき廃棄物の放射能濃度が低いことがモニタリングによって把握された場合、現状の処理条件と比較して分離促進剤の添加量を減少させたり、分離促進剤におけるカルシウム源の量を減少させたり、スラリーの水含有量を減少させたりすればよい。
【0087】
当該(2)の除去方法においても、加熱処理後及び/又は水洗処理後の処理物の放射能濃度を測定し、その値が目標値よりも下がっていない場合には、その測定値と所定値との差に基づき、その後の処理において分離促進剤の添加量を増大させたり、分離促進剤におけるカルシウム源の量を増大させたり、スラリーの水含有量を増大させたりしてもよい。これにより、条件変更後の処理において、廃棄物の放射能濃度を十分に低減できる。放射能濃度が十分に低減しなかった処理後の廃棄物を処理前の廃棄物に添加し、再度処理するようにしてもよい。加熱処理後の処理物の放射能濃度を測定し、その後の水洗処理の実施が不要である程度にまで放射能濃度が下がっている場合には、その測定値と加熱処理後の所定値との差に基づき、その後の処理において分離促進剤の添加量を減少させたり、分離促進剤におけるカルシウム源の量を減少させたり、スラリーの水含有量を減少させたりしてもよい。これにより、分離促進剤などの材料の過剰使用を抑制できる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
[セシウム吸着粘土の作製]
放射性セシウムと安定型セシウムは同様の挙動をとると想定し、実験は放射性セシウムの代わりに安定型セシウムである炭酸セシウムを使用して行った。また、既往の検討で、放射性セシウムは土壌中では粘土鉱物に吸着されて水に溶けにくい形態で存在することが明らかとなったため、安定型セシウムを以下の方法で粘土鉱物に吸着させて試験に供した。セシウム吸着粘土試料の作製方法は以下のとおりである。粘性土1000gに炭酸セシウムをCs換算で250〜300mg/kg加え、水を粘性土に対して40質量%加え、ホバートミキサーで練り混ぜた。その後、一週間程度放置し、粘土鉱物にセシウムを十分吸着させた。そして、セシウムを吸着させた粘性土は100℃で乾燥し余分な水分を除去してセシウム吸着粘土試料とした。
【0090】
[セシウム含有焼却灰の作製]
既往の検討で、焼却灰中の放射性セシウムはアルミノシリケートの形態で存在することが明らかとなったため、試薬の炭酸セシウム、Al
2O
3およびSiO
2とをCsAlSiO
4の化学成分となるように調合し、900℃で1時間加熱して合成したセシウムアルミノシリケートを、セシウム換算で250〜300mg/kgとなるようにごみ焼却灰に添加して、セシウム含有焼却灰を作製した。
図7は、合成したセシウムアルミノシリケートのX線回折プロファイルである。このプロファイルは、大部分がCsAlSiO
4として生成し、少量のCsAlSi
2O
6を含み且つ未反応のSiO
2及びCsOが若干残っていることを示している。
【0091】
セシウムを添加した粘性土(セシウム吸着粘土)及び焼却灰(セシウム含有焼却灰)の化学組成は表1のとおりである。
【0092】
【表1】
【0093】
[セシウム分離促進剤の調製]
セシウム分離促進剤は、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウムを使用し、表2の配合で調製した。また、CaCl
2とNaClを共に添加した場合、その比率によって
図1に示すA→B→Cのラインで示される融点となる。表2の参考例1〜4の条件は塩化物の融点が504℃となる比率(モル比でCaCl
2:NaCl=50:49)としたものである。表3に未加熱時の処理対象物のCaO及びCl量を示した。
【0094】
【表2】
※表2における「添加量」はセシウム吸着粘土と分離促進剤の合量(質量)に対する分離促進剤の質量の割合である。
【0095】
【表3】
【0096】
[加熱処理]
セシウム含有土及び焼却灰はセシウム分離促進剤を所定量添加した後、試料10gを量り取り、アルミナボートの上に試料の深さが1cm程度となるように乗せて、電気炉にて加熱処理を行った。加熱温度は700℃、900℃及び1100℃とし、いずれも加熱時間は2時間とした。
【0097】
[セシウム量及びセシウム除去率の測定]
セシウムの除去率は、揮発除去と水洗除去を考慮して、未処理の粘土中のセシウム量に対する、加熱処理後の粘土に含まれる揮発セシウム量及び水溶性セシウム量の割合とした。揮発セシウムと水溶性セシウムの測定方法は以下のとおりである。
(1)全セシウム量
試料に含まれる全セシウム量は、アルカリ溶融等で試料を全溶融させた後、ICPにより定量した。分離促進剤無添加及び非加熱の試料に含まれる全セシウム量を基準とし、加熱後の試料に含まれるセシウム量は、試料の一部が揮発して非加熱時のセシウム量よりも濃縮されているので、以下の式によって非加熱時のセシウム量に換算し、更に添加物量も補正して、加熱後の残存セシウム量とした。なお、加熱時の質量減少量にはセシウムや塩化物の揮発に加え、カルシウム源として用いたCaCO
3の脱炭酸分などが含まれる。
残存セシウム量(加熱処理後の全セシウム量(未処理ベース))=
加熱処理試料中の全セシウム量×{100/(100−加熱時の質量減少量%)}
×{100/(100−分離促進剤量%)}
【0098】
(2)揮発セシウム量
揮発セシウムは未処理のセシウム含有粘性土あるいは焼却灰中の全セシウム量から、加熱処理後の試料中の全セシウム量を差し引くことで求めた。加熱処理後の全セシウム量、すなわち残存セシウム量は上式で求めた。
揮発セシウム量=未処理試料の全セシウム量−加熱後の残存セシウム量(未処理ベース)
【0099】
(3)水溶性セシウム量
水溶性セシウム量は以下のように測定した。まず、試料1gを水10gに入れ、10分間攪拌してセシウムを溶出させた。その後、溶液を濾過し、ろ液中のセシウム量を水溶性セシウム量とした。なお、式1と同様に、水溶性セシウム量も未処理ベース時の量として以下の式で補正した。
水溶性セシウム量(未処理ベース)=
加熱処理試料中の水溶性セシウム量×{100/(100−加熱時の質量減少量%)}
×{100/(100−分離促進剤量%)}
【0100】
(4)難溶性セシウム量
難溶性セシウム量は加熱処理後の全セシウム量(未処理ベース)から水溶性セシウム量を差し引き、難溶性セシウム量とした。
(5)セシウム除去率
セシウム除去率は以下のように求めた。
セシウム除去率%=
(揮発セシウム量+水溶性セシウム量
※)÷未処理時の全セシウム量×100%
※揮発セシウム量と水溶性セシウム量はいずれも未処理時ベースの換算値を使用。
【0101】
1.放射性セシウム分離促進剤の効果確認(セシウム吸着粘土による実験)
各種分離促進剤を添加した場合の加熱処理後のセシウムの存在形態と揮発および水洗で除去可能なセシウム除去率の結果を表4に示した。セシウム量はいずれも未処理試料ベースでの量を記載した。
[未処理試料]
未処理試料(セシウム吸着粘土)のセシウム量は240mg/kgである。
【0102】
[比較例1(無添加)]
分離促進剤無添加であるNo.1(表4中の比較例1−1〜1−3)では、1100℃まで加熱温度を高めても揮発セシウムは少なく、セシウム除去率は12.5〜25.0%と低い。また、水溶性セシウムを含めてもセシウム除去率は低く、加熱による分離は難しい。
【0103】
[表4の添加条件No.2〜4]
分離促進剤としてCaCO
3を用いた場合(表2のNo.2〜4)、添加量を20〜60%とし、1100℃まで加熱温度を高めても揮発セシウムはあまり増加せず、セシウムの分離促進効果が得られなかった(表4の比較例2−1〜4−3)。また、水溶性セシウムもあまり増加しなかった。
【0104】
[表4の添加条件No.5〜6]
CaCl
2及びCaCO
3からなる分離促進剤(表2のNo.5〜6)は、その添加量を50%とし且つ1100℃まで加熱した参考例6−3を除き、揮発セシウムおよび水溶性セシウムは増加せず、セシウムの分離促進効果は得られなかった(比較例5−1〜6−3)。この分離促進剤の場合は添加量を増やし、1100℃以上の高温で加熱する必要があるため、経済的に好ましくない。
【0105】
[表5の添加条件No.7〜9]
CaCO
3に塩化物が700℃以下の低い温度で溶融するようにCaCl
2とNaClを適量配合(モル比で50:49)した添加条件No.7〜10は、700℃を超えた温度(900℃及び1100℃)で加熱するとセシウム除去率はいずれも5割以上であり、高いセシウム分離促進効果が得られた。
【0106】
[表5の添加条件No.10]
塩化物が700℃以下の低い温度で溶融するようにCaCl
2とNaClを適量配合(モル比で50:49)した分離促進剤も、900℃及び1100℃で加熱するとセシウム除去率は5割以上であり、高いセシウム分離促進効果が得られた。
【0107】
[表5の添加条件No.11]
NaClとCaCO
3を配合した分離促進剤は、1100℃まで加熱してもセシウム除去率は5割以下であり、セシウム分離促進効果は高くなかった。
【0108】
表4,5にセシウムを吸着させた粘性土に分離促進剤を添加したものを2時間加熱処理した時のセシウム(Cs)存在形態と除去率を示す。なお、Cs除去率が50%以上を「○」で示し、50%未満を「×」で示した。
図10〜13は、表4,5に示す結果をグラフ化したものである。
【0109】
【表4】
【0110】
【表5】
【0111】
2.放射性セシウム分離促進剤の効果確認(セシウム含有焼却灰による実験)
セシウム含有焼却灰についてもセシウム吸着粘土と同様に実験を行った。表6にセシウム含有焼却灰を使用した場合の分離促進剤種別及び添加量を示す。表7にセシウム分離促進剤の配合及び添加量を示す。表8に焼却灰で2時間加熱処理した時のセシウム(Cs)存在形態及び除去率を示す。なお、Cs除去率が50%以上を「○」で示し、50%未満を「×」で示した。表8に示すように、900℃及び1100℃でセシウム除去効率は50%以上となり、土壌(セシウム吸着粘土)だけでなく焼却灰に対してもセシウム分離促進効果が認められた。
【0112】
【表6】
【0113】
【表7】
【0114】
【表8】
【0115】
3.CaCl
2−NaCl系以外の低融点塩化物の効果確認(セシウム吸着粘土による実験)
セシウム吸着粘土を用いて、CaCl
2−NaCl系以外の低融点塩化物の効果確認を行った。
【0116】
(参考例14)
本例は上述の「組合せ2」に関し、低融点塩化物として25CaCl
2・75KCl(融点599℃)を使用した。本例においては、低融点塩化物を得るためにCaCl
2とKClとをモル比で3:7となるように混合し、更に炭酸カルシウム(CaCO
3)と低融点塩化物とを混合比が互いに異なる以下の2種類の分離促進剤を調製した。
【0117】
参考例14−1に係る分離促進剤はCaCO
3:低融点塩化物(質量比)を60:10としたものである。当該分離促進剤とセシウム吸着粘土の合量に対し、当該分離促進剤を70質量%添加することによって処理対象物を調製した。この場合の未加熱時の処理対象物中のCaO量及びCl量は33.6質量%及び5.3質量%であった。この処理対象物を700℃に加熱することによって加熱処理物を得た。更にこの加熱処理物を水洗処理した。表9に加熱処理によるセシウムの揮発除去率と、水洗処理によるセシウムの水洗除去率の結果を示す。
【0118】
参考例14−2に係る分離促進剤はCaCO
3:低融点塩化物(質量比)を40:10としたものである。当該分離促進剤とセシウム吸着粘土の合量に対し、当該分離促進剤を50質量%添加することによって加熱対象物を調製した。この場合の未加熱時の処理対象物中のCaO量及びCl量は22.5質量%及び5.3質量%であった。この処理対象物を900℃に加熱することによって加熱処理物を得た。更にこの加熱処理物を水洗処理した。表9に加熱処理によるセシウムの揮発除去率と、水洗処理によるセシウムの水洗除去率の結果を示す。
【0119】
(参考例15)
本例は、上述の「組合せ4」に関し、低融点塩化物として35MgCl2・65KCl(融点423℃)を使用した。本例においては、低融点塩化物を得るためにMgCl
2とKClとをモル比で35:65となるように混合し、さらに炭酸カルシウム(CaCO
3)と低融点塩化物とを混合比が互いに異なる以下の2種類の分離促進剤を調製した。
【0120】
参考例15−1に係る分離促進剤はCaCO
3:低融点塩化物(質量比)を60:10としたものである。当該分離促進剤とセシウム吸着粘土の合量に対し、当該分離促進剤を70質量%添加することによって処理対象物を調製した。この場合の未加熱時の処理対象物中のCaO量及びCl量は33.6質量%及び5.9質量%であった。この処理対象物を700℃に加熱することによって加熱処理物を得た。更にこの加熱処理物を水洗処理した。表9に加熱処理によるセシウムの揮発除去率と、水洗処理によるセシウムの水洗除去率の結果を示す。
【0121】
参考例15−2に係る分離促進剤はCaCO
3:低融点塩化物(質量比)を40:10としたものである。当該分離促進剤とセシウム吸着粘土の合量に対し、当該分離促進剤を50質量%添加することによって加熱対象物を調製した。この場合の未加熱時の処理対象物中のCaO量及びCl量は22.5質量%及び5.9質量%であった。この処理対象物を900℃に加熱することによって加熱処理物を得た。更にこの加熱処理物を水洗処理した。表9に加熱処理によるセシウムの揮発除去率と、水洗処理によるセシウムの水洗除去率の結果を示す。
【0122】
【表9】
【0123】
図17は、CaCl
2単独又はNaCl単独で添加した場合の結果と、49NaCl・50CaCl
2を添加した場合の結果と、参考例14,15の結果とをまとめてグラフ化したものである。低融点塩化物を分離促進剤に配合することで、単独の塩化物(CaCl
2又はNaCl)を配合する場合と比較してセシウム分離促進効果が非常に高くなることが確認できた。
【0124】
表4,5及び
図17に示したとおり、上記参考例で使用した分離促進剤は、700〜1200℃といった焼却炉やロータリーキルンで可能な加熱温度域において、放射性セシウムの十分な除去効果を有する。
図14〜16は、表4,5に示す結果をグラフ化したものであって、廃棄物から揮発除去されるセシウムとその後に必要に応じて行われる水洗処理によって除去されるセシウムの割合を示すグラフである。加熱処理(揮発除去)と水洗処理(水洗除去)とを組み合わせることによって揮発除去のための加熱処理の温度をより低温化できる。
【0125】
4.放射性セシウム分離促進剤の効果確認(放射能汚染土壌を使用した実験)
上記参考例は、放射性セシウムと安定型セシウムは同様の挙動をとると想定し、放射性セシウムの代わりに安定型セシウムである炭酸セシウムを使用して行ったものであったが、以下の参考例及び比較例は放射能汚染土壌(放射能汚染レベル:1万Bq/kg)を使用したものである。表10の参考例16,17の条件は塩化物の融点が504℃となる比率(モル比でCaCl
2:NaCl=50:49)としたものである。
【0126】
【表10】
※表10における「分離促進剤添加量」は放射能汚染土壌と分離促進剤の合量(質量)に対する分離促進剤の質量の割合である。
【0127】
[加熱処理]
放射能汚染土壌に対し、表10に示す組成の分離促進剤(粉末状)を添加した後、試料200gを量り取り、アルミナボートの上に試料の深さが1cm程度となるように乗せて、電気炉にて加熱処理を行った。加熱温度は700℃、900℃及び1100℃とし、いずれも加熱時間は2時間とした。
[水洗処理]
加熱処理後の試料を試料に対して10倍の水で水洗処理した。水洗処理後、土壌中の放射性セシウムを定量することで、除去率を求めた。表11に結果を示す。なお、比較例12は放射能汚染土壌に分離促進剤を添加することなく、放射能汚染土壌に対して加熱処理及び水洗処理を実施した。
【0128】
【表11】
【0129】
5.分離促進剤含有スラリーの効果確認(放射能汚染土壌を使用した実験)
参考例16は、粉末状の分離促進剤を放射線汚染土壌に添加したものであったが、以下の実施例及び比較例は放射能汚染土壌に対し、分離促進剤含有スラリーを添加したものである。以下の実施例1,2は粉末状の分離促進剤の代わりに分離促進剤含有スラリーを使用したことの他は参考例16と同様にして混合処理、加熱処理及び水洗処理を実施した。
【0130】
【表12】
※表12における「水添加量」は放射能汚染土壌と分離促進剤の合量(質量)に対する水の質量の割合である。
※表12における「分離促進剤添加量」は放射能汚染土壌と分離促進剤の合量(質量)に対する分離促進剤の質量の割合である。
【0131】
【表13】
※表13における「放射能濃度」は加熱・水洗前の土壌の質量(処理対象物の質量から分離促進剤の質量を除いた質量)を基準として算出した値である。なお、処理前の放射能汚染土壌の放射能濃度は10600Bq/kgであった。
【0132】
表13及び
図18に示したとおり、分離促進剤に水を添加してスラリーとすることで、粉末状の分離促進剤を使用する場合と比較して高いセシウム除去率を達成できる。これにより、加熱温度を低温化できるとともに、分離促進剤及びカルシウム源の使用量を削減できるという効果が奏される。
【課題】廃棄物から放射性セシウムを分離するための加熱処理の温度を十分に低くできるとともに、放射性セシウムの高い除去率と放射性セシウム汚染物の減容化を十分に両立できる放射性セシウムの除去方法を提供する。
【解決手段】本発明の除去方法は、放射性セシウムで汚染された廃棄物と分離促進剤とを混合して処理対象物を得る混合工程と、処理対象物を加熱することによって処理対象物に含まれる放射性セシウムを揮発させる加熱工程と、加熱工程後、処理対象物を水洗することによって処理対象物に残存する放射性セシウムを溶出させる水洗工程とを備える。分離促進剤は2種類以上の塩化物を用いて調製され且つ融点が700℃以下である混合物又は複塩を含み且つカルシウム源を更に含み、混合工程において、分離促進剤と水とを含むスラリーと廃棄物とを混合することによって処理対象物を得る。