特許第5758701号(P5758701)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5758701非水電解液二次電池用正極、それを用いた電池、及び非水電解液二次電池用正極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758701
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用正極、それを用いた電池、及び非水電解液二次電池用正極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20150716BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20150716BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150716BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20150716BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150716BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/62 Z
   H01M4/36 A
   H01M10/0566
   H01M10/052
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-120139(P2011-120139)
(22)【出願日】2011年5月30日
(65)【公開番号】特開2012-190773(P2012-190773A)
(43)【公開日】2012年10月4日
【審査請求日】2014年5月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-195288(P2010-195288)
(32)【優先日】2010年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-37922(P2011-37922)
(32)【優先日】2011年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126963
【弁理士】
【氏名又は名称】来代 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100131864
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 正憲
(72)【発明者】
【氏名】尾形 敦
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
【審査官】 山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−103141(JP,A)
【文献】 特開2008−166118(JP,A)
【文献】 特開2010−108899(JP,A)
【文献】 特開2002−042817(JP,A)
【文献】 特開2009−048921(JP,A)
【文献】 特開2003−197192(JP,A)
【文献】 特開2004−087227(JP,A)
【文献】 特開2003−020229(JP,A)
【文献】 特開2006−036545(JP,A)
【文献】 特開2009−099523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−62
H01M 10/05−0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体の少なくとも一方の面には正極合剤層が形成され、この正極合剤層には、正極活物質と、水系の結着剤と、導電剤とが含まれている非水電解液二次電池用正極において、
上記正極活物質として、イットリウム化合物、ランタン化合物、ネオジム化合物、サマリウム化合物、エルビウム化合物、イッテルビウム化合物から選択される少なくとも1種の金属化合物であって、水酸化物、オキシ水酸化物、酢酸化合物、硝酸化合物、及び硫酸化合物から選択される少なくとも1種の金属化合物が表面に付着されたリチウム遷移金属複合酸化物を用い、前記リチウム遷移金属複合酸化物の表面に存在する前記金属化合物の平均粒子径が1nm以上100nm以下であり、且つ、上記水系の結着剤としてラテックスゴムを用いる、非水電解液二次電池用正極。
【請求項2】
前記ラテックスゴムにはフッ素含有樹脂が含まれている、請求項1に記載の非水電解液二次電池用正極。
【請求項3】
前記フッ素含有樹脂がPTFEである、請求項2に記載の非水電解液二次電池用正極。
【請求項4】
前記金属化合物が、水酸化物である、請求項1に記載の非水電解液二次電池用正極。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の正極と、負極と、非水電解液とを備える非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性の改善等を図ることができる非水電解液二次電池用正極、それを用いた電池、及び非水電解液二次電池用正極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池には更なる高容量化が要求されている。当該高容量化の手段としては、充放電に直接関与しない電池缶、セパレータ、集電体(アルミ箔や銅箔)等の部材の薄型化や、活物質の高充填化(電極充填密度の向上)を中心に進められている。しかしながら、電極充填密度を高めた場合には、電極の柔軟性が低下する。このことから、わずかな応力が加わっても電極に割れが生じたりするため、電池の生産性が低下する。また、充放電に直接関与しないセパレータや集電体等を薄型化して、容量及びコストメリットを引き出すためには、正極合剤スラリーを厚く塗布する必要がある。しかしながら、スラリーを厚く塗布し、更に圧延を施した場合には、極板は非常に硬くなって、柔軟性に乏しくなる。このため、電極体の捲回時に正極が破断する等の問題が生じ、電池の生産性が大きく低下するという課題を有していた。
【0003】
上記の問題を解決するため、平均粒径の異なる2種類の正極活物質を用いる提案がなされている(下記特許文献1、2参照)。しかしながら、粒径の異なる正極活物質が含まれていると、活物質毎に反応性が異なるため、極板内において均一な充放電反応が起こらず、より電解液の分解反応が生じ易くなる。このため、当該提案では、柔軟性はある程度付与できるものの、電池の諸特性が低下するという課題を有していた。
【0004】
また、柔軟性の改善を目的とするものではないが、塗工液作製工程間に乾燥工程を設けることなく正極活物質(リン酸鉄リチウム)を合成することにより、導電剤の分散性の向上等を目的とする提案されている(下記特許文献3参照)。しかしながら、当該提案により作製された電池では、正極活物質と電解液との反応性を抑制することができず、保存特性が低下するという課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−185887号公報
【特許文献2】特開2008−235157号公報
【特許文献3】特開2009−81072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の課題を考慮したものであって、正極の柔軟性を高めることによって生産性を向上でき、且つ、充電保存特性及びサイクル特性(特に、高負荷放電におけるサイクル特性)等の電池特性を向上させることができる非水電解液二次電池用正極、それを用いた電池、及び非水電解液二次電池用正極の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、正極集電体の少なくとも一方の面には正極合剤層が形成され、この正極合剤層には、正極活物質と、水系の結着剤と、導電剤とが含まれている非水電解液二次電池用正極において、上記正極活物質として、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、マグネシウム化合物、希土類化合物から成る金属化合物群から選択される少なくとも1種の金属化合物が表面に付着されたリチウム遷移金属複合酸化物を用い、且つ、上記水系の結着剤としてラテックスゴムを用いることを特徴とする。
【0008】
リチウム遷移金属複合酸化物の表面に金属化合物が付着していれば、表面に金属化合物が付着していない場合に比べて、正極活物質の表面における凹凸が大きくなる。したがって、ラテックスゴムの分散性が格段に向上し、結着性に優れたラテックスゴムによるネットワークが、正極活物質層内で均一に形成されるので、正極の柔軟性が向上する。この結果、電極体の捲回時に正極が破断する等の問題を抑制できるので、電池の生産性が飛躍的に向上する。
【0009】
また、上述の如くラテックスゴムの分散性が向上する(即ち、ラテックスゴムがリチウム遷移金属複合酸化物の表面に均一に分散されている)ので、リチウム遷移金属複合酸化物の表面が露出状態となるのを抑制でき、正極表面における電解液の分解反応が抑えられる。この結果、高温雰囲気下での充電保存特性やサイクル特性(特に、高負荷放電におけるサイクル特性)が大幅に向上する。尚、サイクル特性が大幅に向上する理由としては、電解液の分解抑制によるものの他、正極の柔軟性が向上するため、充放電サイクルを繰り返した場合であっても(正極活物質が膨張、収縮を繰り返した場合であっても)、正極合剤層と正極集電体との結着性を維持できるという理由もある。
ここで、ラテックスゴムとは水に分散可能なゴムをいうものであり、CMC(カルボキシメチルセルロース)の如く水溶性のものは含まない。
【0010】
前記ラテックスゴムにはフッ素含有樹脂が含まれていることが望ましく、このフッ素含有樹脂にはPTFEを用いることが望ましい。
ラテックスゴムに、PTFE等のフッ素含有樹脂が含まれていれば、正極の柔軟性が一層向上するからである。
【0011】
前記金属化合物が希土類化合物であることが望ましく、希土類化合物としては、イットリウム化合物、ランタン化合物、ネオジム化合物、サマリウム化合物、エルビウム化合物、イッテルビウム化合物から成る化合物群から選択される少なくとも1種の化合物であることが望ましい。
このような化合物を用いれば、正極の柔軟性が一層向上すると共に、サイクル特性がより向上する。
【0012】
前記希土類化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、マグネシウム化合物が、水酸化物、オキシ水酸化物、酢酸化合物、硝酸化合物、及び硫酸化合物から成る群から選ばれた少なくとも1種であることが望ましく、特に、水酸化物であることが望ましい。
アルミニウム化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、マグネシウム化合物、希土類化合物として、酢酸化合物、硝酸化合物、或いは硫酸化合物が水に溶解した溶液を用い、これにリチウム遷移金属酸化物を混合した場合には、リチウム遷移金属酸化物がアルカリ性であることに起因して、酢酸化合物等は水酸化物に変化する。したがって、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、マグネシウム化合物、希土類化合物は水酸化物の状態で存在する場合が多いので、水酸化物を含めている。また、酢酸化合物、硝酸化合物、硫酸化合物を含むのは、これらの化合物が反応することなく、リチウム遷移金属酸化物の表面に残留する場合があることを考慮したものである。尚、酢酸化合物、硝酸化合物、硫酸化合物を金属化合物の生成に用いるのは、これらのものは水に溶け易いからである。更に、オキシ水酸化物を含むのは、正極作製後に正極を熱処理(例えば、230〜300℃での処理)する場合があり、この場合には、水酸化物がオキシ水酸化物に変化するからである。
【0013】
前記リチウム遷移金属複合酸化物の表面に存在する金属化合物の平均粒子径が1nm以上100nm以下であることが望ましい。
金属化合物の平均粒子径が1nm未満であると、正極活物質の表面における凹凸が小さくなって、ラテックスゴムの分散性向上効果が十分に発揮されない場合がある。一方、金属化合物の平均粒子径が100nmを超えると、単位面積当たりの金属化合物の付着量が減るために、やはりラテックスゴムの分散性向上効果が十分に発揮されない場合があり、しかも、リチウム遷移金属酸化物の露出面積が大きくなるので、電解液の分解反応を抑制する効果も十分に発揮されないからである。
【0014】
また、上記目的を達成するために本発明は、上述した正極と、負極と、非水電解液とを備えたことを特徴とする。
【0015】
また、上記目的を達成するために本発明は、リチウム遷移金属複合酸化物と、希土類塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、マグネシウム塩から選択される少なくとも1種の金属塩を溶解した水溶液とを用いて、リチウム遷移金属複合酸化物の表面に、希土類化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、マグネシウム化合物から選択される少なくとも1種の金属化合物を付着させて正極活物質を作製する工程と、得られた正極活物質と導電剤とラテックスゴムとを用いて正極合剤スラリーを調製する工程と、正極集電体の少なくとも一方の面に上記正極合剤スラリーを塗布した後、当該正極合剤スラリーを乾燥させて正極合剤層を作製する工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
上記方法であれば、リチウム遷移金属複合酸化物と、アルミニウム塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、マグネシウム塩、希土類塩を溶解した水溶液とを用い、これを一旦乾燥させることなく、直接正極合剤スラリーを作製することができる。したがって、非水電解質二次電池用正極の製造工程が簡略化されるので、非水電解質二次電池の製造コストを低減することができる。
尚、上記希土類塩としては、硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩、酢酸塩等が例示される。
【0017】
リチウム遷移金属複合酸化物と、アルミニウム塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、マグネシウム塩、希土類塩を溶解した水溶液とを用いて、リチウム遷移金属複合酸化物の表面に希土類化合物を付着させる方法としては、以下の2つの方法が例示される。
(1)リチウム遷移金属複合酸化物を分散した分散液に、アルミニウム塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、マグネシウム塩、希土類塩から選択される少なくとも1種の金属塩を溶解した水溶液を加え、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、マグネシウム化合物、或いは、希土類化合物(主として、上述したように、アルミニウムの水酸化物、亜鉛の水酸化物、ジルコニウムの水酸化物、マグネシウムの水酸化物、或いは希土類の水酸化物)をリチウム遷移金属複合酸化物の表面に付着させる方法。
【0018】
(2)リチウム遷移金属複合酸化物を攪拌しながら、アルミニウム塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、マグネシウム塩、希土類塩から選択される少なくとも1種の金属塩を溶解した水溶液をリチウム遷移金属複合酸化物に噴霧して、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、マグネシウム化合物、或いは、希土類化合物(主として、アルミニウムの水酸化物、亜鉛の水酸化物、ジルコニウムの水酸化物、マグネシウムの水酸化物、希土類の水酸化物)をリチウム遷移金属複合酸化物の表面に付着させる方法。なお、リチウム遷移金属複合酸化物を攪拌する際には、ドラムミキサー、レディゲミキサー、二軸スクリューニーダー等を用いることができる。
【0019】
前記正極合剤スラリーを調製する工程における導電剤の添加は、増粘剤によって導電剤が分散された状態の分散液を添加することにより行うことが望ましい。増粘剤によって導電剤が分散された状態の分散液を用いれば、導電剤の分散性が向上するからである。
【0020】
(その他の事項)
(1)ラテックスゴムは、特に限定されるものではなく、スチレン、ブタジエン、アクリロニトリル等を用いたもの、具体例としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリル酸エステル系ラテックス、酢酸ビニル系ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン系ラテックス、及びこれらのカルボキシ変性体等、或いは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニールエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)及びそれらの変性体等の水に分散可能なフッ素含有樹脂が挙げられる。
【0021】
(2)正極活物質としては、コバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属を含むリチウム含有遷移金属複合酸化物が挙げられる。具体的には、コバルト酸リチウム、Ni−Co−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alの複合酸化物が挙げられる。これらの正極活物質は単独で用いても良いし、混合して用いても良い。
【0022】
(3)負極活物質としては、非水電解液二次電池の負極活物質として用いるものであれば特に限定されるものではない。負極活物質としては、例えば、グラファイト、コークス等の炭素材料、酸化スズ、金属リチウム、珪素等のリチウムと合金化し得る金属及びそれらの合金等が挙げられる。
【0023】
(4)非水電解液としては、非水電解液二次電池に用いることができるものであれば特に限定されるものではない。一般に、支持塩及び溶媒を含むものが挙げられる。
上記支持塩としては、例えば、LiBF,LiPF,LiN(SOCF,LiN(SO,LiPF6−x(C2n+1[但し、1<x<6,n=1または2]等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。尚、支持塩の濃度は特に限定されないが、0.8〜1.5モル/リットルの範囲であることが好ましい。
上記溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート等のカーボネート系溶媒や、これらの溶媒の水素の一部がFにより置換されているカーボネート系溶媒が好ましく用いられる。溶媒としては、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが特に望ましい。
【0024】
(5)非水電解液二次電池用の正極を作製する際に、結着剤としてはPVdF(ポリフッ化ビニリデン)が用いられるのが一般的である。このPVdFは水と反応すると凝集してしまうため、NMP(N−メチル−2−ピロリドン溶液)に溶解して用いられる。したがって、本発明に記載のような乾燥する工程を含まない製造プロセスでは、結着剤の混合時にスラリーが凝集するため、本発明の結着剤としてPVdFを用いることはできない。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、正極の柔軟性を高めることによって生産性を向上でき、且つ、充電保存特性やサイクル特性(特に、高負荷放電におけるサイクル特性)等の電池特性を向上させることができるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明電池の正面図。
図2図1のA−A線矢視断面図。
図3】正極を押圧した際の荷重と変位との関係を示すグラフ。
図4】正極の柔軟性を評価する試験を説明するための模式的断面図。
図5】正極の柔軟性を評価する試験を説明するための模式的断面図。
図6】本発明電池A1に用いられる正極活物質表面のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を下記形態に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0028】
〔正極の作製〕
先ず、LiCoO(Al及びMgが、それぞれ1.0mol%固溶している)1kgをTKハイビスミックス(プライミックス社製)にて攪拌しつつ、酢酸エルビウム4水和物1.69gを純水100mlに溶解させた水溶液を添加し、混練した。これにより、LiCoOの表面にエルビウム化合物が付着した正極活物質が生成した。次に、得られた正極活物質に、導電剤であるAB(アセチレンブラック)と増粘剤であるCMC(カルボキシメチルセルロース)とが分散された分散液を添加しつつ攪拌し、更に水系の結着剤(バインダーであって、ラテックスゴムから成る)であるメチルメタクリレート−ブタジエンゴムを添加して正極合剤スラリーを調製した。尚、この正極合剤スラリーは、上記正極活物質と、上記ABと、上記CMCと、上記メチルメタクリレート−ブタジエンゴムとの質量比が、94.5:2.5:0.5:1.0となるよう調製した。次に、上記正極合剤スラリーを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、さらに乾燥、圧延して正極を作製した。尚、この正極における正極活物質の充填密度は3.6g/ccとした。
【0029】
また、エルビウム化合物の固着量は、エルビウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.067質量%であった。また、当該正極活物質をSEMにより観察したところ(図6参照)、コバルト酸リチウム粒子の表面に固着されたエルビウム化合物の粒子の粒径は1nm〜100nm程度であり、しかも、エルビウム化合物の粒子がコバルト酸リチウム粒子の表面に分散された状態で固着していた。尚、図6において、200nm程度以上の鱗片状粒子はコバルト酸リチウムである。
【0030】
〔負極の作製〕
負極は炭素材(黒鉛)と、CMCと、SBRとを、97.5:1:1.5の質量比で水溶液中にて混合して負極合剤スラリーを調製した後、この負極合剤スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗着し、更に、乾燥、圧延することにより負極を作製した。尚、負極活物質の充填密度は1.75g/ccとした。
【0031】
〔非水電解液の調製〕
EC(エチレンカーボネート)とDEC(ジエチルカーボネート)とを3:7の体積比で混合した溶媒に、リチウム塩としてのLiPFを1.0モル/リットルの割合で溶解させ、更にVC(ビニレンカーボネート)を1体積%添加して、非水電解液を調製した。
【0032】
〔電極体の作製〕
先ず、上記正極を1枚、上記負極を1枚、ポリエチレン製微多孔膜から成るセパレータを2枚用いて、正極と負極とをセパレータを介して対向させた後、巻き芯を用いて渦巻き状に巻回した。次に、巻き芯を引き抜いて渦巻状の電極体を作製し、更にこの渦巻状の電極体を押し潰して、扁平型の電極体を作製した。
【0033】
〔電池の作製〕
上記扁平型の電極体と上記電解液とを、25℃、1気圧のCO雰囲気下で、アルミニウムラミネート製の外装体内に挿入して扁平型の非水電解液二次電池を作製した。尚、本電池を4.4Vまでの充電した場合の設計容量は750mAhである。また、本電池のサイズは、厚さ3.6mm×幅35mm×長さ62mmである。
【0034】
図1及び図2に示すように、上記非水電解液二次電池11の具体的な構造は、正極1と負極2とがセパレータ3を介して対向配置されており、これら正負両極1、2とセパレータ3とから成る扁平型の電極体には非水電解液が含浸されている。上記正極1と負極2は、それぞれ、正極集電タブ4と負極集電タブ5とに接続され、二次電池としての充放電が可能な構造となっている。尚、電極体は、周縁同士がヒートシールされた閉口部7を備えるアルミラミネート外装体6の収納空間内に配置されている。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
上記発明を実施するための形態で示す方法と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A1と称する。
【0036】
(実施例2)
正極を作製する際に、酢酸エルビウム4水和物を純水に溶解させた水溶液に代えて、酢酸イッテルビウム4水和物1.72gを純水100mlに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した正極において、イッテルビウム化合物の固着量は、イッテルビウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.069質量%であった(尚、実施例1のエルビウムと同じモル数のイッテルビウムが固着している)。また、コバルト酸リチウムの粒子の表面に固着されたイッテルビウム化合物の粒径は1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様にイッテルビウム化合物の粒子はコバルト酸リチウムの粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A2と称する。
【0037】
(実施例3)
正極を作製する際に、酢酸エルビウム4水和物を純水に溶解させた水溶液に代えて、酢酸ネオジム1水和物1.39gを純水100mlに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した正極において、ネオジム化合物の固着量は、ネオジム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.058質量%であった(尚、実施例1のエルビウムと同じモル数のネオジムが固着している)。また、コバルト酸リチウムの粒子の表面に固着されたネオジム化合物の粒径は1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様にネオジム化合物の粒子はコバルト酸リチウムの粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A3と称する。
【0038】
(実施例4)
正極を作製する際に、酢酸エルビウム4水和物を純水に溶解させた水溶液に代えて、酢酸ランタン1.5水和物1.40gを純水100mlに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した正極において、ランタン化合物の固着量は、ランタン元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.056質量%であった(尚、実施例1のエルビウムと同じモル数のランタンが固着している)。また、コバルト酸リチウムの粒子の表面に固着されたランタン化合物の粒径は1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様にランタン化合物の粒子はコバルト酸リチウムの粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A4と称する。
【0039】
(実施例5)
正極を作製する際に、酢酸エルビウム4水和物を純水に溶解させた水溶液に代えて、酢酸イットリウム5水和物1.53gを純水100mlに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した正極において、イットリウム化合物の固着量は、イットリウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.036質量%であった(尚、実施例1のエルビウムと同じモル数のイットリウムが固着している)。また、コバルト酸リチウムの粒子の表面に固着されたイットリウム化合物の粒径は1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様にイットリウム化合物の粒子はコバルト酸リチウムの粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A5と称する。
【0040】
(実施例6)
正極を作製する際に、酢酸エルビウム4水和物を純水に溶解させた水溶液に代えて、酢酸サマリウム4水和物1.63gを純水100mlに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した正極において、サマリウム化合物の固着量は、サマリウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.060質量%であった(尚、実施例1のエルビウムと同じモル数のサマリウムが固着している)。また、コバルト酸リチウムの粒子の表面に固着されたサマリウム化合物の粒径は1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様にサマリウム化合物の粒子はコバルト酸リチウムの粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A6と称する。
【0041】
(実施例7)
正極を作製する際に、酢酸エルビウム4水和物を純水に溶解させた水溶液に代えて、硝酸エルビウム5水和物1.81gを純水100mlに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した正極において、エルビウム化合物の固着量は、エルビウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.067質量%であった(尚、実施例1のエルビウムと同じモル数のエルビウムが固着している)。また、コバルト酸リチウムの粒子の表面に固着されたエルビウム化合物の粒径は1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様にエルビウム化合物の粒子はコバルト酸リチウムの粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A7と称する。
【0042】
(実施例8)
正極を作製する際に、酢酸エルビウム4水和物1.69gを純水100mlに溶解させた水溶液を添加して、混練した後に、120℃で3時間乾燥したこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した正極において、エルビウム化合物の固着量は、エルビウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.067質量%であった(尚、実施例1のエルビウムと同じモル数のエルビウムが固着している)。また、コバルト酸リチウムの粒子の表面に固着されたエルビウム化合物の粒径は1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様にエルビウム化合物の粒子はコバルト酸リチウムの粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A8と称する。
【0043】
(実施例9)
正極を作製する際に、酢酸エルビウム4水和物を純水に溶解させた水溶液に代えて、硝酸アルミニウム9水和物1.53gを純水100mlに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した正極において、アルミニウム化合物の固着量は、アルミニウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.011質量%であった(尚、実施例1のエルビウムと同じモル数のアルミニウムが固着している)。また、コバルト酸リチウムの粒子の表面に固着されたアルミニウム化合物の粒径は1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様にアルミニウム化合物の粒子はコバルト酸リチウムの粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A9と称する。
【0044】
(実施例10)
正極を作製する際に、酢酸エルビウム4水和物を純水に溶解させた水溶液に代えて、オキシ酢酸ジルコニウム0.92gを純水100mlに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した正極において、ジルコニウム化合物の固着量は、ジルコニウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.037質量%であった(尚、実施例1のエルビウムと同じモル数のジルコニウムが固着している)。また、コバルト酸リチウムの粒子の表面に固着されたジルコニウム化合物の粒径は1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様にジルコニウム化合物の粒子はコバルト酸リチウムの粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A10と称する。
【0045】
(実施例11)
正極を作製する際に、酢酸エルビウム4水和物を純水に溶解させた水溶液に代えて、酢酸亜鉛2水和物0.90gを純水100mlに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した正極において、亜鉛化合物の固着量は、亜鉛元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.027質量%であった(尚、実施例1のエルビウムと同じモル数の亜鉛が固着している)。また、コバルト酸リチウムの粒子の表面に固着された亜鉛化合物の粒径は1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様に亜鉛化合物の粒子はコバルト酸リチウムの粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A11と称する。
【0046】
(実施例12)
正極を作製する際に、酢酸エルビウム4水和物を純水に溶解させた水溶液に代えて、硝酸マグネシウム6水和物1.05gを純水100mlに溶解させた水溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した正極において、マグネシウム化合物の固着量は、マグネシウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.01質量%であった(尚、実施例1のエルビウムと同じモル数のマグネシウムが固着している)。また、コバルト酸リチウムの粒子の表面に固着されたマグネシウム化合物の粒径は1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様にマグネシウム化合物の粒子はコバルト酸リチウムの粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A12と称する。
【0047】
(実施例13)
正極合剤スラリーを調製する際に、ラテックスゴムとして、メチルメタクリレート−ブタジエンゴムに代えてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A13と称する。
【0048】
(実施例14)
正極活物質として、LiCoO(Al及びMgが、それぞれ1.0mol%固溶している)に代えて、LiNi0.5Co0.2Mn0.3を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した、エルビウム化合物の固着量は、エルビウム元素換算で、LiNi0.5Co0.2Mn0.3に対して0.067質量%であった。また、コバルト酸リチウムの粒子の表面に固着されたエルビウム化合物の粒径は1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様にエルビウム化合物の粒子はLiNi0.5Co0.2Mn0.3の粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A14と称する。
【0049】
(実施例15)
正極活物質として、LiCoO(Al及びMgが、それぞれ1.0mol%固溶している)に代えて、LiCoO(Al及びMgが、それぞれ1.0mol%固溶している)とLiNi0.33Co0.33Mn0.33とを質量比1:1の割合で混合したものを用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。この方法で作製した、エルビウム化合物の固着量は、エルビウム元素換算で、LiCoOとLiNi0.33Co0.33Mn0.33との混合物に対して0.067質量%であった。また、LiCoOとLiNi0.33Co0.33Mn0.33との粒子の表面に固着されたエルビウム化合物の粒径は、どちらの粒子表面でも1nm〜100nm程度であり、実施例1と同様にエルビウム化合物の粒子はLiCoOとLiNi0.33Co0.33Mn0.33との粒子上に分散された状態で固着していた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A15と称する。
【0050】
(比較例1)
正極を作製する際に、酢酸エルビウム4水和物を純水に溶解させた水溶液に代えて、100mlの純水のみを用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z1と称する。
【0051】
(比較例2)
正極合剤スラリーを調製する際に、ラテックスゴムとして、メチルメタクリレート−ブタジエンゴムに代えてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を用いたこと以外は、上記比較例1と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z2と称する。
【0052】
(比較例3)
正極活物質として、LiCoO(Al及びMgが、それぞれ1.0mol%固溶している)に代えて、LiNi0.5Co0.2Mn0.3を用いたこと以外は、上記比較例1と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z3と称する。
【0053】
(比較例4)
正極活物質として、LiCoO(Al及びMgが、それぞれ1.0mol%固溶している)に代えて、LiCoO(Al及びMgが、それぞれ1.0mol%固溶している)とLiNi0.33Co0.33Mn0.33とを質量比1:1の割合で混合したものを用いたこと以外は、上記比較例1と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z4と称する。
【0054】
(実験1)
上記本発明電池A1〜A8及び比較電池Z1に用いられている正極の柔軟性ついて、以下のようにして測定したので、その結果を下記表1に示す。
先ず、正極を幅50mm×長さ20mmのサイズに切り出し、図4に示すように、切り出した正極1の両端を幅30mmのアクリル板12の端部に、両面テープを用いて貼り付けた。
次に、押圧試験機(日本電産シンポ株式会社製、「FGP−0.5」)を用い、押圧力13で正極1の中央部1aを押圧した。押圧する速度は20mm/分の一定速度とした。
【0055】
図5は、押圧力13により、正極1の中央部1aに折れ込みが生じた状態を示す模式的断面図である。このような折れ込みが生じる直前の荷重を、荷重の最大値とした。
図3は、正極に印加した荷重と変位量の関係を示す図である。図3に示すように、荷重の最大値を最大荷重として求めた。そして、各正極における最大荷重を柔軟性として、表1に示した。尚、表1においては、値が小さい程、柔軟性に富んでいることを示す。
【0056】
(実験2)
上記本発明電池A1〜A8及び比較電池Z1の高温連続充電特性(容量残存率)について、下記の条件で充放電し、下記(1)式を用いて算出したので、その結果を下記表1に示す。
〔容量残存率の算出〕
容量残存率(%)=
(連続充電試験後1回目の放電容量/連続充電試験前の放電容量)×100
・・・(1)
【0057】
〔充放電条件〕
・1サイクル目の充放電条件
先ず、1.0It(750mA)の電流で電池電圧4.4Vまで定電流充電を行った後、4.4V定電圧で電流がIt/20(37.5mA)になるまで充電した。充電終了から10分経過後、1.0It(750mA)の電流で電池電圧2.75Vまで定電流放電を行い、連続充電試験前の放電容量を測定した。
【0058】
・高温連続充電時の各種条件、及び高温連続充電終了後の放電条件
先ず、各電池を60℃の恒温槽に1時間放置した。次に、60℃の環境のまま、1.0It(750mA)の電流で電池電圧4.4Vまで定電流充電を行った後、4.4V定電圧で充電を行った。尚、60℃でのトータル充電時間を72時間とし、当該時間経過後60℃の恒温槽から各電池を取り出した。その後、各電池を室温にまで冷却してから、室温にて、1.0It(750mA)の電流で電池電圧2.75Vまで定電流放電を行い、連続充電試験後1回目の放電容量を測定した。
【0059】
【表1】
【0060】
上記表1から明らかなように、コバルト酸リチウムの表面に希土類化合物が固着された正極を有する本発明電池A1〜A8では、柔軟性が全て100Nm未満であるのに対して、コバルト酸リチウムの表面に希土類化合物が固着されていない正極を有する比較電池Z1では、柔軟性が139Nmとなっている。したがって、本発明電池A1〜A8の正極は、比較電池Z1の正極に比べて、極板の柔軟性が飛躍的に向上していることが認められる。また、本発明電池A1〜A8では、容量残存率が全て69.5%以上であるのに対して、比較電池Z1では、容量残存率が57.4%となっていることから、本発明電池A1〜A8は比較電池Z1に比べて、高温連続充電特性に優れることが認められる。したがって、希土類化合物が表面に付着されたコバルト酸リチウムを正極活物質として用いるのが良いことがわかる。
【0061】
但し、本発明電池A1と本発明電池A8とは共にエルビウムを用いているにも関わらず、本発明電池A8の正極は本発明電池A1の正極に比べて柔軟性に劣る(高温連続充電特性は略同等)。このことから、正極合剤スラリーを調製する際には、乾燥工程を経ることなく、導電剤を混合するプロセスに直接移行したほうが望ましいことがわかる。また、乾燥工程を経る必要がないことから、正極の製造工程を簡略化でき、製造コストの低減等の産業上の利点をも発揮できる。
【0062】
尚、正極を作製する際に、結着剤としてラテックスゴムに代えてPVdF〔溶剤はNMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶液〕を用い、LiCoOと、ABと、PVdFとの質量比を95:2.5:2.5となるよう調製したしたこと以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、上記と同様にして正極の柔軟性について調べた。その結果、当該正極においては、146Nmであり、比較電池Z1の正極と同様に低い値となっていることを確認した。
また、希土類としては、上記エルビウム等に限定するものではなく、スカンジウム、セリウム等の他の希土類であっても、同様の作用効果を発揮できる。
【0063】
(実験3)
上記本発明電池A9〜A12に用いられている正極の柔軟性ついて、前記実験1と同様にして測定したので、その結果を下記表2に示す。尚、表2には、本発明電池A1、A8及び比較電池Z1の柔軟性についても記載している。
【0064】
(実験4)
上記本発明電池A1、A8〜A12及び比較電池Z1における高負荷放電でのサイクル特性(容量維持率)について、下記の条件で充放電し、下記(2)式を用いて算出したので、その結果を下記表2に示す。
〔容量維持率の算出〕
容量維持率(%)=
(250サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100・・・(2)
〔充放電条件〕
・充電条件
1.0It(750mA)の電流で電池電圧4.4Vまで定電流充電を行った後、4.4V定電圧で電流がIt/20(37.5mA)になるまで充電するという条件。
・放電条件
2.67It(2000mA)の電流で電池電圧2.75Vまで定電流放電を行うという条件。
・休止
充電試験と放電試験との間の休止時間は10分とした。
サイクル特性の評価は、充電、休止、放電、休止というサイクルを250回繰り返すことによって行った。尚、サイクル特性試験時の温度は、25℃±5℃であった。
【0065】
【表2】
【0066】
上記表2から明らかなように、コバルト酸リチウムの表面にエルビウム化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、或いはマグネシウム化合物が固着された正極を有する本発明電池A1、A8〜A12では、250サイクル後の容量維持率が全て80%以上であるのに対して、コバルト酸リチウムの表面にエルビウム化合物等が固着されていない正極を有する比較電池Z1では、250サイクル後の容量維持率が75%と低くなっていることがわかる。
【0067】
また、本発明電池A1、A8〜A12を比較すると、エルビウム化合物が固着された正極を有する本発明電池A1、A8では、アルミニウム化合物等が固着された正極を有する本発明電池A9〜A12と比べて、250サイクル後の容量維持率がより向上していることが認められる。したがって、サイクル特性を向上させるという観点からは、エルビウム化合物等の希土類化合物をコバルト酸リチウムの表面に固着させることが望ましい。
【0068】
更に、本発明電池A1、A8〜A12では、柔軟性が全て106Nm以下であるのに対して、コバルト酸リチウムの表面に希土類化合物が固着されていない正極を有する比較電池Z1では、柔軟性が139Nmとなっている。したがって、A1、A8〜A12の正極は、比較電池Z1の正極に比べて、極板の柔軟性が飛躍的に向上していることが認められる。
【0069】
また、本発明電池A1、A8〜A12を比較すると、エルビウム化合物が固着された正極を有する本発明電池A1、A8では、アルミニウム化合物等が固着された正極を有する本発明電池A9〜A12と比べて、柔軟性が一層向上していることが認められる。したがって、柔軟性を向上させるという観点からも、エルビウム化合物等の希土類化合物をコバルト酸リチウムの表面に固着させることが望ましい。
【0070】
(実験5)
上記本発明電池A13〜A15及び比較電池Z2〜Z4に用いられている正極の柔軟性ついて、前記実験1と同様にして測定したので、その結果を下記表3に示す。尚、表3には、本発明電池A1及び比較電池Z1の柔軟性についても記載している。
【0071】
【表3】
【0072】
上記表3から明らかなように、バインダーとして共にPTFEを用いた本発明電池A13と比較電池Z2とを比較した場合、本発明電池A13は比較電池Z2に比べて柔軟性が向上していることが認められる。したがって、バインダーとしてPTFE等のフッ素含有樹脂を用いた場合にも、エルビウム化合物等の希土類化合物を正極活物質の表面に固着させるという構成が有用であることがわかる。更に、本発明電池A13は本発明電池A1に比べて、柔軟性が一層向上していることが認められる。したがって、ラテックスゴムとしては、PTFE等のフッ素含有樹脂を用いることが、より望ましいことがわかる。
【0073】
加えて、正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3を用いた本発明電池A14と比較電池Z3とを比較した場合、及び、正極活物質としてLiCoOとLiNi0.33Co0.33Mn0.33との混合物を用いた本発明電池A15と比較電池Z4とを比較した場合には、本発明電池A14、A15は比較電池Z3、Z4に比べて柔軟性が向上していることが認められる。したがって、正極活物質として、LiNi0.5Co0.2Mn0.3や、LiCoOとLiNi0.33Co0.33Mn0.33との混合物を用いた場合にも、エルビウム化合物等の希土類化合物を正極活物質の表面に固着させるという構成が有用であることがわかる。尚、正極活物質として、LiNi0.5Co0.2Mn0.3や、LiCoOとLiNi0.33Co0.33Mn0.33との混合物を用いた場合に比べて、正極活物質として、LiCoOを用いた場合の方が柔軟性の改善効果が大きい(比較電池Z3、Z4に対する本発明電池A14、A15の柔軟性向上効果よりも、比較電池Z1に対する本発明電池A1の柔軟性向上効果が大きい)。この理由は定かではないが、正極活物質の粒径、表面積、形状、或いはアルカリ成分の相違等に起因しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、例えば携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の駆動電源や、HEVや電動工具といった高出力向けの駆動電源に展開が期待できる。
【符号の説明】
【0075】
1 正極
1a 中央部
2 負極
3 セパレータ
6 アルミラミネート外装体
12 アクリル板
13 押圧力

図1
図2
図3
図4
図5
図6