(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758709
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】鋼矢板及びその接合方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/08 20060101AFI20150716BHJP
【FI】
E02D5/08
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-133153(P2011-133153)
(22)【出願日】2011年6月15日
(65)【公開番号】特開2013-2102(P2013-2102A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2014年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141521
【氏名又は名称】株式会社技研製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】北村 精男
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 裕介
【審査官】
富山 博喜
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−263873(JP,A)
【文献】
特開2003−049422(JP,A)
【文献】
特開昭51−078516(JP,A)
【文献】
特開2007−297806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状が左右非対称の継手を本体の両側に備える鋼矢板であって、
一方の継手は、前記本体の一端部の手前から本体外側へ法線方向に突出する突出部と、この突出部から前記本体一端部側へ向けて屈曲する鈎状部と、を有し、
他方の継手は、前記本体の他端部から本体外側へ法線方向に突出する突出部と、この突出部から前記本体側へ向け屈曲して、前記一方の継手の前記本体一端部と鈎状部との間の開口部に対し横方向から差し入れて回転させることで嵌め合わせ可能な形状の鈎状部と、を有することを特徴とする鋼矢板。
【請求項2】
前記一方の継手の前記本体一端部と鈎状部の間の幅が、前記他方の継手の鈎状部の最大幅より大きく形成されていることを特徴とする請求項1に記載の鋼矢板。
【請求項3】
前記他方の継手の突出部は、一の鋼矢板の前記一方の継手の前記本体一端部と鈎状部との間に、側方から他の鋼矢板の前記他方の継手の鈎状部を差し入れるときに、前記一の鋼矢板の一方の継手の突出部から鈎状部へ連続する屈曲部外周と前記他の鋼矢板の前記本体外周とが干渉しない長さを有することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼矢板。
【請求項4】
前記一方の継手の突出部から鈎状部へ連続する屈曲部外周は、一の鋼矢板の前記一方の継手の前記本体一端部と鈎状部との間に、側方から他の鋼矢板の前記他方の継手の鈎状部を差し入れるときに、前記他の鋼矢板の前記本体外周と干渉しない曲面部に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の鋼矢板。
【請求項5】
前記一方の継手の前記本体一端部の先端は、一の鋼矢板の前記一方の継手の前記本体一端部と鈎状部との間に、側方から他の鋼矢板の前記他方の継手の鈎状部を差し入れて互いの継手を嵌め合わせた状態において、前記他方の継手の突出部の外面と面が揃う位置にあることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼矢板。
【請求項6】
前記本体が円弧状断面に形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の鋼矢板。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の鋼矢板の接合方法であって、
一の鋼矢板の前記一方の継手の前記本体一端部と鈎状部との間に、側方から他の鋼矢板の前記他方の継手の鈎状部を差し込み回転させて互いの継手を嵌め合わせることで接続することを特徴とする鋼矢板の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、護岸構造や止水壁など特に上部に制約を受ける条件下に適する左右非対称の継手形状を備える鋼矢板と、その鋼矢板の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
護岸構造や止水壁などの矢板壁構築には、例えば
図5に示すような断面U形の鋼矢板Sが広く一般に用いられており、その両側の継手Jの形状は、図示のように左右対称なものの他、例えば特許文献1のように左右非対称なものなどがある。
そして、従来の鋼矢板の接合にあっては、地中に打ち込んだ矢板天端の法線方向前方の継手部に、新たに打ち込む矢板下端の法線方向後方の継手部を上方から挿通して行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−140928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、橋梁の下部での締切工など上部に制約があるような条件下での鋼矢板の打設では、例えば
図6に示すように、打設完了した鋼矢板Sの天端と橋梁下端との空間を利用して、短尺の鋼矢板S1を順次継ぎ足して打設するしか方法がなく、その都度打設作業を中断するため、効率が極めて悪かった。
【0005】
本発明の課題は、護岸構造や止水壁など特に上部に制約を受ける条件下において、鋼矢板の接合を容易にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、形状が左右非対称の継手を本体の両側に備える鋼矢板であって、一方の継手は、前記本体の一端部の手前から本体外側へ法線方向に突出する突出部と、この突出部から前記本体一端部側へ向けて屈曲する鈎状部と、を有し、他方の継手は、前記本体の他端部から本体外側へ法線方向に突出する突出部と、この突出部から前記本体側へ向け屈曲して、前記一方の継手の
前記本体一端部と鈎状部との間の開口部に対し横方向から差し入れて回転させることで嵌め合わせ可能な形状の鈎状部と、を有することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の鋼矢板であって、前記一方の継手の前記本体一端部と鈎状部の間の幅が、前記他方の継手の鈎状部の最大幅より大きく形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の鋼矢板であって、前記他方の継手の突出部は、一の鋼矢板の前記一方の継手の前記本体一端部と鈎状部との間に、側方から他の鋼矢板の前記他方の継手の鈎状部を差し入れるときに、前記一の鋼矢板の一方の継手の突出部から鈎状部へ連続する屈曲部外周と前記他の鋼矢板の前記本体外周とが干渉しない長さを有することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の鋼矢板であって、前記一方の継手の突出部から鈎状部へ連続する屈曲部外周は、一の鋼矢板の前記一方の継手の前記本体一端部と鈎状部との間に、側方から他の鋼矢板の前記他方の継手の鈎状部を差し入れるときに、前記他の鋼矢板の前記本体外周と干渉しない曲面部に形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼矢板であって、前記一方の継手の前記本体一端部の先端は、一の鋼矢板の前記一方の継手の前記本体一端部と鈎状部との間に、側方から他の鋼矢板の前記他方の継手の鈎状部を差し入れて互いの継手を嵌め合わせた状態において、前記他方の継手の突出部の外面と面が揃う位置にあることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の鋼矢板であって、前記本体が円弧状断面に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の鋼矢板の接合方法であって、一の鋼矢板の前記一方の継手の前記本体一端部と鈎状部との間に、側方から他の鋼矢板の前記他方の継手の鈎状部を差し込み回転させて互いの継手を嵌め合わせることで接続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋼矢板を横方向から継手に嵌め込んで接合できるので、橋梁の下部での締切工など上部に制約があるような状況下での鋼矢板の打設において、縦方向の継箇所を削減でき、作業効率を向上することができる。
また、オーガ併用時には、鋼矢板断面を円弧状とすることで、効率良い削孔が行え、かつ矢板の安定に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明を適用した鋼矢板の一実施形態の構成を示すもので、その接合の仕方 も併せて示した平面図である。
【
図2】
図1の継手接合部Aの拡大図(a)とその回転による嵌め合わせ後を示した図(b)である。
【
図3】本発明の鋼矢板による上部に制約を受ける条件下での横方向からの嵌め合わせを示した側面図である。
【
図5】従来の鋼矢板によるオーガ併用時の問題を指摘する平面図で、揉み残しを示した図(a)と余分な掘削範囲を示した図(b)である。
【
図6】従来の上部に制約を受ける条件下での矢板の継ぎ足しの問題を指摘する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
(実施形態)
図1は本発明を適用した鋼矢板の一実施形態の構成とともに接合の仕方も併せて示したもので、1は鋼矢板、2は本体、3は右継手、4は左継手である。
【0016】
図示のように、鋼矢板1は、半円形状断面の本体2の両側に左右非対称形状の右継手3と左継手4を備えている。
【0017】
図2は
図1の継手接合部Aを拡大して示したものである。
図示のように、右継手3は、本体2の右端部21の手前から外側へ法線方向の突出部31を経て本体右端部21側へ屈曲する鈎状部32を有し、左継手4は、本体2の左端部22から外側へ法線方向の突出部41を経て本体2側へ屈曲する鈎状部42を有している。
【0018】
すなわち、右継手3は、本体右端部21の手前から本体2の外側へ法線方向に突出する直線状の突出部31と、この突出部31から本体右端部21側へ向けて屈曲する鈎状部32と、を有する形状となっている。
【0019】
また、左継手4は、本体左端部22から本体2の外側へ法線方向に突出する直線状の突出部41と、この突出部41から本体2側へ向けて屈曲する鈎状部42と、を有する形状となっている。
この左継手4の鈎状部42は、右継手3の鈎状部32に嵌め合わせられる。
【0020】
以上の鋼矢板1は、
図2(a)から
図2(b)に示すように、既に打設された既設の鋼矢板1に対し、次に打設する鋼矢板1を横方向から回転させながら右継手3と左継手4を嵌め合わせることができる。
【0021】
図2(a)は嵌め合わせ直前を示したもので、図示のように、差し入れられる側の鋼矢板1の右継手3の本体右端部21と鈎状部32との間の開口部の幅Iは、差し入れる側の鋼矢板1の左継手4の鈎状部42の最大幅IIを差し入れることのできる幅を有している。
【0022】
そして、左継手4の直線状の突出部41は、鈎状部42を差し入れるときに、右継手3の突出部31と鈎状部32の屈曲部外周と、差し入れ側の鋼矢板1の半円形状断面の本体2外周とが干渉しない長さIIIを有している。
【0023】
また、右継手3の突出部31と鈎状部32の屈曲部外周は、左継手4の鈎状部42を差し入れるときに、差し入れ側の鋼矢板1の半円形状断面の本体2外周と干渉しない曲面部として形成されている。
【0024】
以上において、
図1及び
図2(a)に示すように、既設の鋼矢板1の右継手3の本体右端部21と鈎状部32との間の開口部に対し、横方向から次の鋼矢板1の左継手4の鈎状部42を差し入れて、この鋼矢板1を回転させることで、
図2(b)に示すように、鈎状部32・42を嵌め合わせる。
【0025】
このように、右継手3の本体右端部21と鈎状部32との間の開口部より差し入れた左継手4の鈎状部42を、さらに回転させながら鈎状部32の内方へ差し入れていくことにより、鈎状部32・42が互いに噛み合う。
【0026】
ここで、右継手3の本体右端部21の先端は、図示のように、嵌め合わせ後の左継手4の直線状の突出部41の外面と面が揃う位置にある。
【0027】
こうして、右継手3の鈎状部32の左側に本体右端部21が突出していることにより、嵌め合わせ後の鋼矢板1がX軸方向及びY軸方向に抜けることを防いでいる。
【0028】
以上、実施形態の半円形状断面の本体2の両側に左右非対称形状の右継手3と左継手4を備える鋼矢板1によれば、既設の鋼矢板1の右継手3の本体右端部21と鈎状部32との間の開口部に、次の鋼矢板1の左継手4の鈎状部42を横方向から差し入れて回転させることで、鈎状部32・42を嵌め合わせて、鋼矢板1を接合することができる。
【0029】
従って、上部制約のある場合でも、短尺の矢板の継足しを大幅に削減でき、作業効率の向上が図られる。
【0030】
すなわち、
図3は本発明の鋼矢板1による上部に制約を受ける条件下での横方向からの嵌め合わせを示したもので、図示のように、横方向からの嵌め合わせで鋼矢板1を接合できることにより、従来よりも長い鋼矢板1が施工できるので、継箇所数が減り経済的である。従って、工費・工期の縮減を達成できる。
【0031】
図4はオーガ併用時を示したもので、
図1と同様、1は鋼矢板、2は本体、3は右継手、4は左継手であって、Oはオーガスクリューの回転輪郭、Rはオーガスクリューの回転方向である。
【0032】
図示のように、鋼矢板1の本体2の半円形状断面に沿って、図示しないオーガスクリューが矢印Rで示す右回りに回転して地中を掘削する。
【0033】
これに対し、
図5は従来の鋼矢板Sによるオーガ併用時の問題を指摘したものである。
すなわち、従来の図示のような断面U形の鋼矢板Sでは、オーガ併用時において、
図5(a)に示すように、揉み残しが発生したり、
図5(b)に示すように、余分な掘削範囲が発生したりする問題があった。
【0034】
しかし、
図4に示したように、鋼矢板1の本体2を半円形状断面とすることで、オーガスクリューに沿った鋼矢板形状となって、揉み残しや、余分な掘削範囲がなくなる。
【0035】
そして、排土の動きは一つ前の既設の鋼矢板1の掘削穴方向へ作用するので、排土量が減少するとともに、完成杭としての支持力が安定する。
【0036】
このように、鋼矢板1は、オーガ併用時において、半円形状断面の本体2がオーガケーシングとして機能する。
従って、鋼矢板1の打設部分の揉み残しや、余分な掘削が生じず、効率化が図られる。
そして、オーガスクリューの排土が、一つ前の掘削孔に作用するので、掘削孔の埋戻し及び締固めができ、鋼矢板1の安定に寄与するものとなる。
【0037】
(変形例)
以上の実施形態においては、鋼矢板本体を半円形状断面としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、円弧状断面であればよい。
また、継手の突出部及び鈎状部の形状等も任意であり、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0038】
1 鋼矢板
2 本体
21 一端部
22 他端部
3 一方の継手
31 突出部
32 鈎状部
4 左継手
41 突出部
42 鈎状部