特許第5758755号(P5758755)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5758755-コンクリート部材の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758755
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】コンクリート部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20150716BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20150716BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B16/06 A
   C04B40/02
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-198012(P2011-198012)
(22)【出願日】2011年9月12日
(65)【公開番号】特開2013-60313(P2013-60313A)
(43)【公開日】2013年4月4日
【審査請求日】2014年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100129067
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 能章
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】道越 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂本 成弘
(72)【発明者】
【氏名】是永 健好
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−290780(JP,A)
【文献】 特開2009−286658(JP,A)
【文献】 特開平07−126055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/02
C04B 16/06
C04B 40/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂繊維を含有する高強度コンクリートを型枠に打設する打設工程と、
前記高強度コンクリートを型枠内で養生をしてコンクリート硬化体を形成する型枠養生工程と、
前記コンクリート硬化体を常温よりも高い温度で養生する第一養生工程と、
前記第一養生工程後に乾燥加熱養生を行う第二養生工程と、を含むコンクリート部材の製造方法であって、
前記第二養生工程では、前記コンクリート硬化体の表面部分の水分を除去するとともに、前記表面部分に含有された合成樹脂繊維を溶融させることを特徴とする、コンクリート部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度コンクリートは、緻密なコンクリート組織により構成されていることで、高い設計基準強度を有しているものの、火災時においては内部の残留水分や水蒸気により膨張し、コンクリート構造物の表面がウロコ状に剥離する現象(爆裂)が生じるおそれがある。
【0003】
そのため、高強度コンクリートの爆裂防止を目的としたコンクリート部材の製造方法が多数開発されている。
【0004】
例えば、本出願人は、特許文献1に示すように、コンクリート硬化体の表面にレーザー光を照射して孔部を形成することで、火災時にコンクリート硬化体内部の残留水分や水蒸気が排出されるようにしたコンクリートの爆裂防止方法を開発している。
【0005】
また、特許文献2に示すように、火災時に溶融する有機繊維をコンクリートに予め混入しておき、火災時に有機繊維が溶融してコンクリート硬化体に細孔が形成されることで、コンクリート硬化体内部の残留水分や水蒸気が排出されるようにしたコンクリートの爆裂防止方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−300787号公報
【特許文献2】特開2004−224616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリート硬化体に孔部を形成する爆裂防止方法は、コンクリート養生後に別途孔部を形成するための作業が必要となるため、手間がかかる。また、レーザー発振装置等の設備を別途用意するための手間や費用がかかる。
【0008】
また、有機繊維が混入されたコンクリート硬化体は、火災発生時から有機繊維が溶融して細孔が形成されるまでに時間がかかるため、その間にコンクリート硬化体内部の残留水分や水蒸気による膨張が懸念されていた。
【0009】
そのため、本発明は、簡易かつ安価に高品質なコンクリート部材を形成することを可能としたコンクリート部材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題の解決するために、本発明のコンクリート部材の製造方法は、合成樹脂繊維を含有する高強度コンクリートを型枠に打設する打設工程と、前記高強度コンクリートを型枠内で養生をしてコンクリート硬化体を形成する型枠養生工程と、前記コンクリート硬化体を常温よりも高い温度で養生する第一養生工程と、前記第一養生工程後に乾燥加熱養生を行う第二養生工程とを含み、前記第二養生工程では、前記コンクリート硬化体の表面部分の水分を除去するとともに、前記表面部分に含有された合成樹脂繊維を溶融させることを特徴としている。
なお、前記表面部分は、被りコンクリート部分を含む範囲とすることが望ましい。
【0011】
かかるコンクリート部材の製造方法によれば、表面部分のみに対して乾燥加熱養生を行えばよいため、コンクリート部材の中心部まで乾燥加熱養生を行う場合と比べて、製造期間の短縮化が可能である。
【0012】
表面部分の合成樹脂繊維を溶融させると、表面部分に予め空隙が形成されるため、初期火災での水蒸気等の排出が可能となり、コンクリート表面の膨張が抑制される。
また、表面部分のコンクリート内の水分が除去されるため、火災時に加熱されたとしても、残留水分や水蒸気による膨張が抑制される。そのため、合成樹脂繊維の混入量の低減化が可能となり、コンクリートの強度向上も可能となる。
【0013】
コンクリート部材への外部からの雨滴等の浸入を防止する場合には、防水性が高く透湿性が低い外装用仕上げ塗材を前記コンクリート硬化体の表面に塗着する仕上げ工程を前記第二養生工程後に行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のコンクリート部材の製造方法によれば、簡易かつ安価に高品質なコンクリート部材を形成することが可能となる
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係るコンクリート部材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態のコンクリート部材1は、図1に示すように、合成樹脂繊維を含有するコンクリート硬化体2と、コンクリート硬化体2の内部に配筋された鉄筋3と、コンクリート硬化体2の表面に塗着された外装用仕上げ塗材4とを備えている。
【0019】
コンクリート硬化体2の被りコンクリート部分(表面部分)21は、コア部分22(鉄筋により囲まれた部分)と比較して乾燥している(水分量が少ない)。
また、被りコンクリート部分21には、合成樹脂繊維が溶融することで形成された多数の空洞(図示省略)が形成されている。
【0020】
コンクリート硬化体2は、少なくとも結合材と、水と、細骨材と、粗骨材と、合成樹脂繊維とを含んだ高強度コンクリートが硬化することにより構成されている。
【0021】
結合材に使用する材料は限定されるものではないが、例えば、ポルトラントセメントとフライアッシュやシリカフューム等の混和剤とを含んだものを使用すればよい。
【0022】
合成樹脂繊維を構成する材料は限定されるものではないが、本実施形態では、170〜180℃程度の温度で溶融するポリプロピレン繊維を使用する。合成樹脂繊維の混入量は限定されるものではないが、例えば、コンクリート混合体に対して、外割りの容積比で0.5%〜0.6%となるように混入すればよい。
【0023】
なお、高強度コンクリートには、合成樹脂繊維に加えて、鋼繊維を混入してもよい。鋼繊維としては、引張強度が2000N/mm以上の高張力鋼繊維、アモルファス鋼繊維、ステンレス繊維等を使用すればよい。
【0024】
鉄筋3は、コンクリート硬化体2の内部に所定のコンクリート被り厚さを確保して配筋されている。
鉄筋3の鉄筋径等は、適宜決定する。
【0025】
外装用仕上げ塗材4は、防水性が高く透湿性が低い材料により構成されている。
本実施形態では、JISA6909B法の透水試験で0.5ml以下の透水性を有し、JISZ0208の透湿度試験で100g/m・24h以下の透湿性を有した材料を採用する。なお、外装用仕上げ塗材4は、これに限定されるものではない。
【0026】
本実施形態のコンクリート部材の製造方法は、混練工程と、打設工程と、型枠養生工程と、第一養生工程と、第二養生工程と、仕上げ工程とを含んでいる。
【0027】
混練工程は、セメントと、混和剤と、細骨材と、粗骨材と、水等により生成されたコンクリート混合体に、鋼繊維およびポリプロピレン繊維を練り混ぜる工程である。
【0028】
本実施形態の混練工程は、コンクリート混合体の粉体部分を練り混ぜる乾燥混練と、乾燥混練により練り混ぜられた粉体部分に液体部分(水等)を投入して練り混ぜる湿潤混練と、湿潤混練により練り混ぜられたコンクリート混合体に繊維(鋼繊維およびポリプロピレン繊維)を投入して練り混ぜる繊維混練とを含んでいる。
なお、混練工程における練り混ぜ方法や手順は限定されるものではなく、適宜行えばよい。
【0029】
打設工程は、合成樹脂繊維を含有する高強度コンクリート(フレッシュコンクリート)を、コンクリート部材1の形状に応じた形状に形成された型枠に打設する工程である。
型枠内には、予め所定の配筋がなされている。
【0030】
型枠養生工程は、高強度コンクリートに所定の強度が発現するまで型枠内で養生をしてコンクリート硬化体2を形成する工程である。
本実施形態では、1〜2日程度、常温(20℃程度)にて養生する。なお、型枠養生工程の期間や温度などは限定されるものではない。
【0031】
第一養生工程は、コンクリート硬化体2を常温よりも高い温度で養生する工程である。
なお、第一養生工程に先立ち、型枠養生工程により形成されたコンクリート硬化体2を脱型する。
【0032】
第一養生工程では、常温よりも高い温度でコンクリート硬化体2を養生することで、基本組織を構築する。具体的には、蒸気養生槽を用いて90℃程度の蒸気養生を行うか、オートクレーブ槽を用いて180℃程度、10気圧程度のオートクレーブ養生を行う。なお、蒸気養生とオートクレーブ養生とを組み合わせてもよい。
【0033】
型枠養生工程の段階で、断熱養生によりセメントの水和熱を利用した養生を行う場合には、これが第一養生工程に相当する。また、型枠養生工程で基本組織が十分に構築できると判断される場合には、この型枠養生工程が第一養生工程に相当する。
なお、第一養生工程における養生の温度、気圧、保持時間は、前記の条件に限定されるものではなく、適宜設定すればよい。また、型枠養生工程において断熱養生を行い、さらに、高温養生や高温高圧養生を行ってもよい。
【0034】
第二養生工程は、第一養生工程後にコンクリート硬化体2に対して乾燥加熱養生を行う工程である。
第二養生工程では、コンクリート硬化体2の被りコンクリート部分21の水分を除去するとともに、被りコンクリート部分21に含有された合成樹脂繊維を溶融させる。
【0035】
本実施形態では、200℃程度の温度環境下で第二養生工程を実施する。
なお、第二養生工程における養生時間は、被りコンクリート部分21の乾燥に必要な時間とする。この養生時間は、例えば、予め実施した試験練り施工に基づいて設定すればよい。また、コンクリート硬化体2にセンサを埋め込んでおくことで、被りコンクリート部分21の乾燥状況を測定してもよい。
【0036】
仕上げ工程は、第二養生工程後のコンクリート硬化体2の表面に、外装用仕上げ塗材を塗着させる工程である。
【0037】
以上、本実施形態のコンクリート部材の製造方法によれば、コンクリート部材1の被りコンクリート部分21のみについて乾燥加熱養生を実施しているため、コンクリート部材1の全体に対して乾燥加熱養生を実施する場合と比較して、養生期間を短縮することができる。したがって、コンクリート部材1を簡易かつ迅速に製造することができる。
【0038】
また、乾燥加熱養生を被りコンクリート部分21のみに実施すると、コア部分22に含まれる合成樹脂繊維は溶融することなく残存するため、コア部分22は、空洞が無く、密実に形成される。そのため、コア部分22での強度低下が抑制されて、より品質の高いコンクリート部材1を製造することができる。
【0039】
また、コンクリート部材1の被りコンクリート部分21は、水分が除去されているため、残留水分や水蒸気による膨張を抑制することができる。
また、被りコンクリート部分21には、合成樹脂繊維が溶融することで形成された空洞を備えているため、火災時等において、コンクリート部材1の内部において水蒸気が発生したとしても、この空洞に吸収あるいは空洞を介して外部に排出され、その結果、コンクリート部材1の膨張を抑制することができる。
【0040】
また、乾燥加熱養生により被りコンクリート部分21の水分が除去されるため、被りコンクリート部分21の強度を高めることができる。
【0041】
また、被りコンクリート部分21における水分を予め除去しておけば、火災時に発生する水蒸気も少なくなるので、火災時の水蒸気等を吸収させるために必要な空洞の数が少なくなる。つまり、高強度コンクリートに含有させる合成樹脂繊維の量を削減することができるので、経済的である。また、合成樹脂繊維の量を削減することで、コンクリート部材21の強度をより高くすることも可能となる。
【0042】
コンクリート部材1の表面に、防水性が高く透湿性が低い材料からなる外装用仕上げ塗材4が塗着されているため、外部からコンクリート部材1の内部に水分が浸透することが防止されている。そのため、炭酸ガスや塩化物が内部に浸透することが防止され、耐久性が維持される。
なお、コンクリート部材1は、被りコンクリート部分21の水分が予め除去されているため、コンクリート内部で発生する水蒸気の量も少なくなる。そのため、外装用仕上げ塗材4として透湿性の低い材料を使用することが可能となり、外部からの湿度の流入を防止することができる。
【0043】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【0044】
例えば、本発明に係るコンクリート部材の製造方法およびコンクリート部材の使用目的は限定されるものではない。
【0045】
また、前記実施形態では、コンクリート硬化体2の被りコンクリート(表面)部分21の水分を除去するとともに合成樹脂繊維を溶融させた場合について説明したが、乾燥加熱養生は、コア部分22に少し入り込んだ位置まで実施してもよい。
コンクリート硬化体2が無筋の場合は、表面部分の厚さを適宜設定すればよい。
【0046】
また、外装用仕上げ塗材4は、必要に応じて塗着すればよい。
【実施例】
【0047】
以下、本実施形態に係る高強度コンクリートの有効性を確認するために実施した実験の結果を示す。
【0048】
本実験では、400×400mmの正方形断面のコンクリート硬化体および1000×1000mmの正方形断面のコンクリート硬化体に対して、乾燥加熱養生を実施し、それぞれのコンクリート硬化体について断面中心まで乾燥させた場合の乾燥時間と、コンクリート被り厚さ分(表面から50mm)を乾燥させた場合の乾燥時間とを測定し、比較を行った。
【0049】
なお、乾燥加熱養生は、200℃程度の温度で実施した。
実験結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
実験の結果、断面形状が400mm角の場合、部材全体を乾燥させる場合は67時間かかるのに対し、表面から50mmの部分まで乾燥させる場合は64時間であり、3時間の短縮が可能である。
また、断面形状が1000mm角の場合、部材全体を乾燥させる場合は121時間かかるのに対し、表面から50mmの部分まで乾燥させる場合は77時間であり、44時間(36%)の短縮が可能である。
【0052】
故に、本実施の形態に係るコンクリート部材の製造方法およびコンクリート部材により、簡易に高品質なコンクリート部材を提供可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 コンクリート部材
2 コンクリート硬化体
21 被りコンクリート部分(表面部分)
22 コア部分
3 鉄筋
4 外装用仕上げ塗材
図1