特許第5758807号(P5758807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5758807ポリエステル繊維およびその製造方法および布帛および繊維製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758807
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】ポリエステル繊維およびその製造方法および布帛および繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/00 20060101AFI20150716BHJP
   D06M 13/188 20060101ALI20150716BHJP
   D06M 13/207 20060101ALI20150716BHJP
   D06M 15/507 20060101ALI20150716BHJP
   D06M 15/27 20060101ALI20150716BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20150716BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20150716BHJP
   D02G 3/24 20060101ALI20150716BHJP
   A41D 31/00 20060101ALI20150716BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20150716BHJP
【FI】
   D06M11/00 120
   D06M13/188
   D06M13/207
   D06M15/507
   D06M15/27
   D01F6/84 305B
   D01F8/14 Z
   D02G3/24
   A41D31/00 501G
   A41D31/00 503G
   D06M101:32
【請求項の数】24
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2011-537178(P2011-537178)
(86)(22)【出願日】2010年9月14日
(86)【国際出願番号】JP2010065840
(87)【国際公開番号】WO2011048888
(87)【国際公開日】20110428
【審査請求日】2012年3月21日
(31)【優先権主張番号】特願2009-241464(P2009-241464)
(32)【優先日】2009年10月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】尾形 暢亮
(72)【発明者】
【氏名】宇熊 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】安光 玲
(72)【発明者】
【氏名】森島 一博
(72)【発明者】
【氏名】福島 智子
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−246873(JP,A)
【文献】 特開2008−240169(JP,A)
【文献】 特開2007−092236(JP,A)
【文献】 国際公開第99/009238(WO,A1)
【文献】 特開2006−249610(JP,A)
【文献】 特開2007−169856(JP,A)
【文献】 清水憲治,東洋紡の合繊親水化技術,繊維と工業,日本,繊維学会,2002年10月15日,第58巻第5号,139−141頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 11/00
A41D 31/00
D01F 6/84
D01F 8/14
D02G 3/24
D06M 13/188
D06M 13/207
D06M 15/27
D06M 15/507
D06M 101/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを含むポリエステル繊維であって、該ポリエステル繊維のpHが4.0〜6.6の範囲内であり、かつポリエステル繊維の単繊維繊度が0.001〜1.5dtexの範囲内であり、かつ親水加工を施してなり、かつ前記ポリエステルが、下記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/または下記一般式(2)で表わされるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を共重合したポリエステルであることを特徴とするポリエステル繊維。
式(1)
【化1】
式中、A1は芳香族基または脂肪族基を示し、X1はエステル形成性官能基を示し、X2はX1と同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子を示し、Mは金属を示し、mは正の整数を示す。
式(2)
【化2】
式中、A2は芳香族基または脂肪族基を示し、X3はエステル形成性官能基を示し、X4はX3と同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子を示し、R1、R2、R3およびR4はアルキル基およびアリール基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を示し、nは正の整数を示す。
【請求項2】
前記ポリエステルにおいて、硫黄が全ポリエステル重量に対して0.03〜1.0重量%含まれている、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項3】
ポリエステル繊維をJIS L0217法に規定された洗濯を5回行った後において、ポリエステル繊維のpHが7.0未満である、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項4】
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートまたはポリトリメチレンテレフタレートまたはポリエーテルエステルである、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項5】
前記ポリエステルの固有粘度が0.15〜1.5の範囲内である、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項6】
酸性基量が全ポリエステル重量に対して30〜500eq/Tの範囲内である、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項7】
ポリエステル繊維が芯鞘型複合繊維であり、前記ポリエステルが芯鞘型複合繊維の鞘部に配されてなる、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項8】
ポリエステル繊維の単繊維断面形状が異型である、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項9】
ポリエステル繊維が仮撚捲縮加工糸である、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項10】
ポリエステル繊維が、総繊度10〜200dtex、単繊維繊度5.0dtex以下のマルチフィラメントである、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項11】
ポリエステル繊維の引張強さが1.0cN/dtex以上である、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項12】
ポリエステル繊維の抗菌性が、JIS L0217法に規定された洗濯を10回行った後において、JIS L1902 供試菌として黄色ブドウ球菌を用いた菌液吸収法で測定した静菌活性値で2.2以上である、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項13】
ポリエステル繊維の消臭性が65%以上である、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項14】
ポリエステル繊維の防汚性が3級以上である、請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項15】
請求項1に記載のポリエステル繊維を、布帛重量に対して10重量%以上含む布帛。
【請求項16】
布帛が、多層構造を有する多層構造布帛である、請求項15に記載の布帛。
【請求項17】
布帛の目付が50g/m以上である、請求項15に記載の布帛。
【請求項18】
布帛の少なくとも片面に、少なくとも多角形が角部で連続する部分を有するパターンで撥水剤が付着してなる、請求項15に記載の布帛。
【請求項19】
少なくとも一方の面に凹凸構造を有する布帛であって、一方のみの面の凸部にのみ撥水剤が付着している、請求項15に記載の布帛。
【請求項20】
請求項15に記載の布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品。
【請求項21】
下記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/または下記一般式(2)で表わされるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を共重合したポリエステルを含むポリエステル繊維に酸性処理を施した後、親水加工を施す、請求項1に記載のポリエステル繊維の製造方法。
式(1)
【化3】
式中、A1は芳香族基または脂肪族基を示し、X1はエステル形成性官能基を示し、X2はX1と同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子を示し、Mは金属を示し、mは正の整数を示す。
式(2)
【化4】
式中、A2は芳香族基または脂肪族基を示し、X3はエステル形成性官能基を示し、X4はX3と同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子を示し、R1、R2、R3およびR4はアルキル基及びアリール基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を示し、nは正の整数を示す。
【請求項22】
前記酸性処理を温度70℃以上の処理浴で行う、請求項21に記載のポリエステル繊維の製造方法。
【請求項23】
前記酸性処理を、pHが5.0以下の処理浴で行う、請求項21に記載のポリエステル繊維の製造方法。
【請求項24】
酸性処理を施した後のポリエステル繊維の引張強さが酸性処理前の引張強さの0.1倍以上である、請求項21に記載のポリエステル繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性および消臭性および防汚性を有するポリエステル繊維およびその製造方法および布帛および繊維製品およびポリエステル成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗菌性ポリエステル繊維や抗菌性ポリエステル成形品としては、銀イオンや亜鉛イオンなどの無機系抗菌剤を繊維や成形品に練り込んだもの、キトサンなどの天然系抗菌剤や無機系抗菌剤を、繊維や成形品に後加工により付与したものなどが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、抗菌剤を繊維や成形品に練り込んだものでは、繊維や成形品の色調が悪くなるという問題があった。また、抗菌剤を後加工により付与したものでは耐久性の問題があった。さらには、銀イオンや亜鉛イオンなどを含む無機系抗菌剤を使用する場合には、環境上の問題もあった。
【0004】
他方、近年では、ポリエステル繊維やポリエステル成形品に要求される特性がますます高度化され、抗菌性だけでなく同時に他の特性をも兼備することが求められている。
【特許文献1】特開平3−241068号公報
【特許文献2】特開2004−190197号公報
【特許文献3】国際公開第97/42824号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、抗菌性および消臭性および防汚性に耐久性よく優れるポリエステル繊維およびその製造方法および布帛および繊維製品およびポリエステル成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、驚くべきことに、ポリエステル繊維を酸性化することにより、抗菌性だけでなく消臭性および防汚性にも耐久性よく優れるポリエステル繊維が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「ポリエステルを含むポリエステル繊維であって、該ポリエステル繊維のpHが4.0〜6.6の範囲内であり、かつポリエステル繊維の単繊維繊度が0.001〜1.5dtexの範囲内であり、かつ親水加工を施してなり、かつ前記ポリエステルが、下記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/または下記一般式(2)で表わされるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を共重合したポリエステルであることを特徴とするポリエステル繊維。」が提供される。
【0008】
その際、前記ポリエステルにおいて、硫黄が全ポリエステル重量に対して0.03〜1.0重量%含まれていることが好ましい。
(式1)
【0009】
【化1】
【0010】
式中、A1は芳香族基または脂肪族基を示し、X1はエステル形成性官能基を示し、X2はX1と同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子を示し、Mは金属を示し、mは正の整数を示す。
式(2)
【0011】
【化2】
【0012】
式中、A2は芳香族基または脂肪族基を示し、X3はエステル形成性官能基を示し、X4はX3と同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子を示し、R1、R2、R3およびR4はアルキル基及びアリール基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を示し、nは正の整数を示す。
【0013】
また、ポリエステル繊維をJIS L0217法に規定された洗濯を5回行った後において、ポリエステル繊維のpHが7.0未満であることが好ましい。また、前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートまたはポリトリメチレンテレフタレートまたはポリエーテルエステルであることが好ましい。また、前記ポリエステルの固有粘度が0.15〜1.5の範囲内であることが好ましい。
【0014】
また、酸性基量が全ポリエステル重量に対して30〜500eq/Tの範囲内であることが好ましい。
【0015】
本発明のポリエステル繊維において、ポリエステル繊維が芯鞘型複合繊維であり、前記ポリエステルが芯鞘型複合繊維の鞘部に配されていることが好ましい。また、ポリエステル繊維の単繊維断面形状が異型であることが好ましい。また、ポリエステル繊維が仮撚捲縮加工糸であることが好ましい。また、ポリエステル繊維が、総繊度10〜200dtex、単繊維繊度5.0dtex以下のマルチフィラメントであることが好ましい。また、ポリエステル繊維の引張強さが1.0cN/dtex以上であることが好ましい。また、ポリエステル繊維の抗菌性が、JIS L0217法に規定された洗濯を10回行った後において、JIS L1902 供試菌として黄色ブドウ球菌を用いた菌液吸収法で測定した静菌活性値で2.2以上であることが好ましい。また、ポリエステル繊維の消臭性が65%以上であることが好ましい。また、ポリエステル繊維の防汚性が3級以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明によれば、前記のポリエステル繊維を、布帛重量に対して10重量%以上含む布帛が提供される。
【0017】
その際、布帛が多層構造を有する多層構造布帛であることが好ましい。また、布帛の目付が50g/m以上であることが好ましい。また、布帛の少なくとも片面に、少なくとも多角形が角部で連続する部分を有するパターンで撥水剤が付着していることが好ましい。また、布帛が少なくとも一方の面に凹凸構造を有する布帛であって、一方のみの面の凸部にのみ撥水剤が付着していることが好ましい。
【0018】
また、本発明によれば、前記の布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品が提供される。
【0019】
また、本発明によれば、下記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/または下記一般式(2)で表わされるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を共重合したポリエステルを含むポリエステル繊維に酸性処理を施した後、親水加工を施す、前記のポリエステル繊維の製造方法が提供される。
式(1)
【0020】
【化3】
【0021】
式中、A1は芳香族基または脂肪族基を示し、X1はエステル形成性官能基を示し、X2はX1と同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子を示し、Mは金属を示し、mは正の整数を示す。
式(2)
【0022】
【化4】
【0023】
式中、A2は芳香族基または脂肪族基を示し、X3はエステル形成性官能基を示し、X4はX3と同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子を示し、R1、R2、R3及びR4はアルキル基及びアリール基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を示し、nは正の整数を示す。
【0024】
その際、前記酸性処理を温度70℃以上の処理浴で行うことが好ましい。また、前記酸性処理を、pHが5.0以下の処理浴で行うことが好ましい。また、酸性処理を施した後のポリエステル繊維の引張強さが酸性処理前の引張強さの0.1倍以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、抗菌性および消臭性および防汚性に耐久性よく優れるポリエステル繊維およびその製造方法および布帛および繊維製品およびポリエステル成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明において、採用することのできる撥水剤付着パターンの一例(四角形が角部で連続するパターン)を模式的に示すものであり、黒塗部が撥水部である。
図2】本発明において、撥水剤が凸部に付着している様子を模式的に示すものである。
図3】実施例7で採用した編成図である。
【図面の符号】
【0029】
1 凸部
2 凹部
3 凸部に付着した撥水剤
4 試料
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のポリエステル繊維は、ポリエステルを含むポリエステル繊維であって、該ポリエステル繊維のpHが7.0未満(好ましくは4.0〜6.6、より好ましくは4.0〜6.0、特に好ましくは4.0〜5.5)のポリエステル繊維である。本発明のポリエステル繊維は、pHが7.0未満であることにより、驚くべきことに、抗菌性および消臭性および防汚性に耐久性よく優れる。
【0031】
ここで、pHの測定は、以下の方法で行うことが好ましい。すなわち、ポリエステル繊維をpH7.0の水(中性水)に、浴比1:5(ポリエステル繊維と中性水との重量比が(ポリエステル繊維:中性水)1:5)で浸漬し、温度120℃で30分間処理した後、ポリエステル繊維を取り出し、残液のpHを市販のpHメータで測定し、これをポリエステル繊維のpHとすることが好ましい。また、ポリエステル繊維の上に市販の万能pH試験紙を置き、その上からpH7.0の水0.05〜0.10ccを垂らし、次いで、ガラス棒で万能pH試験紙をポリエステル繊維に押し付け、万能pH試験紙からポリエステル繊維上に転写された色でpHをグレースケールにて目視判定することにより、ポリエステル繊維のpHを測定することができる。さらには、JIS L 1018 6.51に規定された方法により、ポリエステル繊維のpHを測定することができる。
【0032】
ここで、前記ポリエステル繊維を形成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートまたはポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。すなわち、前記ポリエステルとしては、テレフタル酸を主たる二官能性カルボン酸成分とし、エチレングリコール、トリメチレンテレングリコール、テトラメチレングリコールなどを主たるグリコール成分とするポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルが好ましい。
【0033】
また、前記ポリエステルは、特許第4202361号公報に記載されているような、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとしポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルや、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルでもよい。また、前記ポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルでもよいし、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよいし、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸であってもよい。
【0034】
また、前記ポリエステルは、テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置換えたポリエステルであってもよく、および/またはグリコール成分の一部を他のジオール化合物で置換えたポリエステルであってもよい。
【0035】
その際、使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸をあげることができる。
【0036】
また、上記グリコール以外のジオール化合物としては例えばシクロヘキサン−1,4−メタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物及びポリオキシアルキレングリコール等をあげることができる。
【0037】
さらに、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸のごときポリカルボン酸、グリセリン、トリメチp−ルプロパン、ペンタエリスリトールのごときポリオールなどを使用することができる。
【0038】
前記ポリエステルは任意の方法によって合成される。代表的なポリエステルであるポリエチレンテレフタレート(PET)の場合、通常、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、またはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第一段階の反応と、第一段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第二段階の反応によって製造される。
【0039】
前記ポリエステルにおいて、固有粘度が0.15〜1.5の範囲内であることが好ましい。ポリエステルの固有粘度が0.15よりも小さいと、ポリエステル繊維の引張強さが低下するおそれがある。逆に、ポリエステルの固有粘度が1.5よりも大きいとポリエステル繊維を製造する際の生産性が低下するおそれがある。
【0040】
また、前記ポリエステルに硫黄(S)が含まれていると、後記のような酸性処理によりポリエステル繊維のpHを7.0未満とすることができ好ましい。その際、硫黄(S)は全ポリエステル重量に対して0.03〜1.0重量%含まれていることが好ましい。ポリエステルに含まれる硫黄の量が該範囲よりも小さいと、後記のような酸性処理を施してもポリエステル繊維のpHが7.0未満にならないおそれがある。逆に、ポリエステルに含まれる硫黄の量が該範囲よりも大きいと、後記のような酸性処理を施した際にポリエステル繊維の引張強さが低下するおそれがある。
【0041】
前記ポリエステルに硫黄(S)を含有させる方法としては、前記ポリエステルに、エステル形成性スルホン酸基含有化合物を共重合させることが好ましい。かかるエステル形成性スルホン酸基含有化合物としてはエステル形成性官能基を有するスルホン酸基含有化合物であれば特に限定する必要はなく、下記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/または下記一般式(2)で表わされるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を好ましいものとしてあげることができる。
式(1)
【0042】
【化5】
【0043】
式(2)
【0044】
【化6】
【0045】
上記一般式(1)において、A1は芳香族基または脂肪族基を示し、好ましくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基または炭素数10以下の脂肪族炭化水素基である。特に好ましいA1は、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、とりわけベンゼン環である。X1はエステル形成性官能基を示し、具体例として下記式(3)等をあげることができる。
式(3)
【0046】
【化7】
【0047】
ただし、R′は低級アルキル基またはフェニル基、aおよびdは1以上の整数、bは2以上の整数である。
【0048】
また、上記一般式(1)において、X2はX1と同一もしくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子を示し、なかでもエステル形成性官能基であることが好ましい。Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、mは正の整数である。なかでもMがアルカリ金属(例えばリチウムまたはナトリウムまたはカリウム)であり、かつmが1であるものが好ましい。
【0049】
上記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸リチウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸ナトウリム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸カリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸リチウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシスフタレン−1−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−3−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,5−ビス(ヒドロエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、α−ナトリウムスルホコハク酸などをあげることができる。上記エステル形成性スルホン酸金属塩化合物は1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0050】
上記一般式(2)において、A2は芳香族基または脂肪族基を示し、上記一般式(1)におけるA1の定義と同じである。X3はエステル形成性官能基を示し、上記一般式(1)におけるX1の定義と同じであり、X4はX3と同一もしくは異なるエステル形成性官能基又は水素原子を示し、上記一般式(1)におけるX2の定義と同じである。R1、R2、R3およびR4はアルキル基およびアリール基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を示す。nは正の整数であり、なかでも1であるものが好ましい。
【0051】
上記エステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物の好ましい具体例としては、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3―カルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3―カルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3―カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3―カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5―ジ(β―ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5―ジ(β―ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3―(β―ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3―(β―ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、4―ヒドロキシエトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、2,6―ジカルボキシナフタレン―4―スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、α―テトラブチルホスホニウムスルホコハク酸等をあげることができる。上記エステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩は1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0052】
前記共重合ポリエステルポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0053】
上記エステル形成性スルホン酸基含有化合物をポリエステルに共重合するには、前述したポリエステルの合成が完了する以前の任意の段階で、好ましくは第2段階の反応の初期以前の任意の段階で添加すればよい。2種以上併用する場合、それぞれの添加時期は任意でよく、両者を別々に添加しても、予め混合して同時に添加してもよい。
【0054】
また、前記ポリエステルは特開2009−161693号公報に記載されているような、常圧カチオン可染性ポリエステルであってもよい。
【0055】
前記ポリエステル繊維の繊維形態は特に限定されないが、繊維の表面積を大きくして優れた抗菌性や消臭性を得る上で短繊維(紡績糸)よりも長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。特に、前記ポリエステル繊維を芯鞘型複合繊維とし、前記共重合ポリエステルを鞘部に配し、第3成分を共重合しないポリエチレンテレフタレートなどを芯部に配したり、または、前記ポリエステル繊維をサイドバイサイド型複合繊維とし、前記共重合ポリエステルを1方に配し、第3成分を共重合しないポリエチレンテレフタレートなどを他方に配することは好ましいことである。
【0056】
前記ポリエステル繊維において、単繊維の断面形状は特に限定されないが、丸断面よりも、三角、扁平、くびれ部が3箇所以上のくびれ付扁平、丸中空、三角中空、四角中空、H型、W型、フィン付断面など異型断面(すなわち、丸断面以外の断面)のほうが、単繊維の表面積が大きくなり好ましい。また、かかるポリエステル繊維には、通常の空気加工、仮撚捲縮加工、撚糸が施されていてもさしつかえない。特に、ポリエステル繊維の嵩を高めて繊維の表面積を大きくして優れた抗菌性や消臭性を得る上で、仮撚捲縮加工を施すことは好ましいことである。その際、仮撚捲縮加工糸の捲縮率としては1%以上であることが好ましい。また、国際公開第2008/001920号パンフレットに記載されているような、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とを複合させることにより得られた、低トルクの複合糸であってもよい。
【0057】
また、前記ポリエステル繊維において、単繊維繊度およびフィラメント数としては、繊維の表面積を大きくして優れた抗菌性や消臭性を得る上で、単繊維繊度は小さいほどよく、フィラメント数は大きいほどよい。単繊維繊度としては5.0dtex以下(より好ましくは0.0001〜2.5dtex、さらに好ましくは0.001〜1.5dtex)であることが好ましい。また、フィラメント数30〜50000本(より好ましくは30〜200本)であることが好ましい。また、特公平7−63438号公報に記載されているような極細繊維や、特開2009−024278号公報に記載されているような超極細繊維であってもよい。前記ポリエステル繊維の総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との掛け算)としては、優れた風合を得る上で10〜200dtexであることが好ましい。
【0058】
本発明のポリエステル繊維は、例えば、以下の製造方法により製造することができる。すなわち、エステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/またはエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を共重合した、前記のポリエステルを含むポリエステル繊維に酸性処理を施す。かかる方法によれば、エステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/またはエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物のイオン部がプロトン化され、ポリエステル繊維が酸性化する。
【0059】
ポリエステル繊維に酸性処理を施す方法としては、例えば、前記ポリエステル繊維を酢酸やりんご酸などによりpHが5.0以下(好ましくは2.0〜5.0)に調製された浴中に温度70℃以上(好ましくは80〜130℃、特に好ましくは90〜130℃)、時間20〜40分間で浸漬するとよい。その際、ポリエステル繊維を糸条の状態で浴中に浸漬してもよいし、ポリエステル繊維を用いて布帛を得た後、布帛の状態で浴中に浸漬してもよい。また、使用する設備としては、公知の液流染色機を用いるとよい。
【0060】
ここで、酸性処理後のポリエステル繊維において、酸性基量が繊維中の全ポリエステル重量に対して30〜500eq/T(より好ましくは50〜300eq/T)であることが好ましい。酸性基量は、ベンジルアルコールを用いてポリエステルを分解し、その分解生成物を水酸化ナトリウム水溶液でマイクロビュレットを用いて滴定し測定される量である。酸性基量が50eq/T未満であると、本発明のポリエステル繊維は十分な消臭性や抗菌性や防汚性を十分には発現することができないおそれがある。逆に、酸性基量が500eq/Tを超えると十分な強度を保持することができなくなるそれがある。は不可能となる為好ましくない。
【0061】
また、ポリエステル繊維には、前記酸性処理の前および/または後の工程において、常法の染色加工、精練、リラックス、プレセット、ファイナルセットなどの各種加工を施してもよい。さらには、起毛加工、撥水加工、カレンダー加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0062】
なかでも、前記酸性処理の後の工程において、ポリエステル繊維に親水加工(吸汗加工)を施すと、さらに優れた抗菌性および消臭性および防汚性が得られ好ましい。
【0063】
ここで、かかる親水加工としては、PEGジアクリレートおよびその誘導体やポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体などの親水化剤を染色時に同浴加工などにより、布帛重量に対して0.25〜0.50重量%付着させることが好ましい。
【0064】
かくして得られたポリエステル繊維は、耐久性よく優れた抗菌性および消臭性および防汚性を有する。そのメカニズムはまだ十分には解明されていないが、ポリエステル繊維が酸性化されることにより、菌や臭い成分が低減されるのではないかと推定している。
【0065】
かくして得られたポリエステル繊維において、酸性処理を施した後のポリエステル繊維の引張強さが1.0cN/dtex以上(より好ましくは1.5〜6.0cN/dtex)であることが好ましい。酸性処理前のポリエステル繊維の引張強さ対比0.1倍以上(より好ましくは0.4〜1倍、特に好ましくは0.5〜1倍)であることが好ましい。なお、酸性処理を施した後のポリエステル繊維の引張強さが1.0cN/dtex以上とするには、ポリエステルの固有粘度やポリエステルに含有させる硫黄量などを適宜調整するとよい。
【0066】
また、酸性処理を施した後のポリエステル繊維のプロトン化率が10%以上(より好ましくは20〜50%)であることが好ましい。
【0067】
ただし、プロトン化率は下記式により測定するものとする。
プロトン化率(%)=(A−B)/A×100
Aはポリエステル繊維を蛍光X線分析により測定した官能基濃度であり、Bはポリエステル繊維を原糸吸光分析により測定した金属イオン濃度である。
【0068】
また、ポリエステル繊維のpHを7.0未満とする他の製造方法として、ポリエステル繊維にpHが7.0未満(好ましくは5.0以下、特に好ましくは2.0〜5.0)の加工液を付与するがあげられる。
【0069】
その際、ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレートからなるポリエステル繊維が好ましい。また、pHが7.0未満の加工液としては、スルホン酸基またはカルボン酸基を含む酸性化合物を含むものが好ましい。その際、酸性化合物の具体的としては、ビニルスルホン酸モノマー、ビニルカルボン酸モノマーなどが好適に例示される。
【0070】
ここで、ポリエステル繊維を糸条の状態で加工液を付与してもよいし、ポリエステル繊維を用いて布帛を得た後、布帛の状態で加工液を付与してもよい。また、加工液を付与する方法としては、公知のパデング法が好ましい。
【0071】
なお、前記加工液に親水基を有する化合物(例えば、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体など)をも含ませると、抗菌性、消臭性、防汚性がさらに向上するだけでなく、ポリエステル繊維に吸湿性や制電性をも付加され好ましい。さらには、前記加工液にバインダー樹脂を含ませることも好ましい。
【0072】
かくして得られた本発明のポリエステル繊維は、繊維のpHが7.0未満であるので、耐久性よく優れた抗菌性および消臭性および防汚性を有する。その際、ポリエステル繊維の抗菌性としては、JIS L0217法に規定された洗濯を10回行った後において、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)で測定した静菌活性値で2.2以上であることが好ましい。また、JIS L0217法に規定された洗濯を10回行った後において、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)で測定した殺菌活性値で0以上であることが好ましい。また、ポリエステル繊維の消臭性としては65%以上であることが好ましい。
【0073】
ただし、消臭性は、初期濃度100ppmのアンモニアを含む空気3Lが入ったテドラーバッグに、10cm×10cmの正方形の試料を入れ、2時間後のテドラーバッグ内の悪臭成分濃度をガステックス社製検知管にて測定し、減少量から臭気吸着率を求める。
【0074】
また、ポリエステル繊維の防汚性としては3級以上であることが好ましい。
【0075】
ただし、防汚性はJIS L1919C(親油性汚染物質3 使用)に規定された汚れの落ちやすさ試験で測定する。
【0076】
本発明のポリエステル布帛は、前記のポリエステル繊維を用いてなる布帛である。その際、布帛に前記ポリエステル繊維が布帛重量に対し10重量%以上(より好ましくは40重量%以上、最も好ましくは100重量%)含まれることが好ましい。
【0077】
前記布帛は、前記のポリエステル繊維を用いているので、布帛が酸性化している。その際、布帛のpHが7.0未満(好ましくは4.0〜6.6、より好ましくは4.0〜6.0、特に好ましくは4.0〜5.5)であることが好ましい。布帛のpHが7.0未満であることにより、布帛が抗菌性および消臭性および防汚性に耐久性よく優れる。その際、
布帛の抗菌性としては、JIS L0217法に規定された洗濯を10回行った後において、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)で測定した静菌活性値で2.2以上であることが好ましい。また、JIS L0217法に規定された洗濯を10回行った後において、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)で測定した殺菌活性値で0以上であることが好ましい。また、布帛の消臭性としては、前記の方法で測定して65%以上であることが好ましい。また、布帛の防汚性としては前記の方法で測定して3級以上であることが好ましい。
【0078】
ここで、pHの測定は、以下の方法で行うことが好ましい。すなわち、布帛をpH7.0の水(中性水)に、浴比1:5(布帛と中性水との重量比が(布帛:中性水)1:5)で浸漬し、温度120℃で30分間処理した後、布帛を取り出し、残液のpHを市販のpHメータで測定し、これを布帛のpHとすることが好ましい。また、布帛の上に市販の万能pH試験紙を置き、その上からpH7.0の水0.05〜0.10ccを垂らし、次いで、ガラス棒で万能pH試験紙を布帛に押し付け、万能pH試験紙から布帛上に転写された色でpHをグレースケールにて目視判定することにより、布帛のpHを測定することができる。さらには、JIS L 1018 6.51に規定された方法により、布帛のpHを測定することができる。
【0079】
また、前記布帛の組織は特に限定されず、織物でもよいし編物でもよいし不織布でもよい。例えば、織物の織組織では、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロード、タオル、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天等のよこパイル織などが例示される。なお、これらの織組織を有する織物は、レピア織機やエアージェット織機など通常の織機を用いて通常の方法により製織することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する織物でもよい。
【0080】
また、編物の種類では、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が好ましく例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等など通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する編物でもよい。
【0081】
前記の布帛において、布帛を2層以上の多層構造織編物として、各層を構成する繊維の単繊維繊度を異ならせたり、密度を異ならせることにより、毛細管現象による吸水性を高めることも好ましいことである。また、布帛を多層構造とし、使用の際に肌側(裏側)に位置する層に前記ポリエステル繊維を配することは好ましいことである。
【0082】
前記布帛の目付としては、優れた抗菌性や消臭性を得る上で大きいほうがよく、50g/m以上(より好ましくは100〜250g/m)であることが好ましい。
【0083】
また、かかる布帛が織物である場合には、優れた抗菌性や消臭性を得る上で、経糸のカバーファクターおよび緯糸のカバーファクターがいずれも500〜5000(さらに好ましくは、500〜2500)であることが好ましい。なお、本発明でいうカバーファクターCFは下記の式により表されるものである。
経糸カバーファクターCF=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクターCF=(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWは経糸総繊度(dtex)、MWは経糸織密度(本/2.54cm)、DWは緯糸総繊度(dtex)、MWは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
前記の布帛において、特開2005−336633号公報に記載されているように、布帛の少なくとも片面に、少なくとも多角形が角部で連続する部分を有するパターンで撥水剤が付着していると、抗菌性および消臭性および防汚性に優れるだけでなく、ぬれ感の少ない布帛が得られ好ましい。
【0084】
ここで、撥水剤は布帛の両面に付着していてもよいが、片面だけに付着していることが好ましい。片面だけに付着させ、該面を裏面、すなわち布帛を衣料に使用した際に人体の肌側となる面とすることにより、発汗時に汗をすばやく吸収し外気側の面に拡散するため速乾性も得られる。また、撥水剤が片面だけに付着していると、ソフトな風合いも損なわれにくく好ましい。なお、撥水剤の布帛の厚さ方向への浸透度合は、撥水剤が付与された面から厚さの1/2以下(より好ましくは1/5以下)であることが好ましい。
【0085】
また、少なくとも多角形が角部で連続する部分を有するパターンとは、多角形が四角形の場合を図1に模式的に示すように、多角形同士がその角部で接触している個所を有するパターンである。このように、多角形が角部で経方向および緯方向に連続していると、汗等の水は島状の非撥水部を通して、厚み方向に拡散する。その結果、撥水剤が付与された面には水がほとんど残らないので、ぬれ感は低減される。同時に、多角形同士が角部で点接触しているので、ソフトな風合いが損なわれるおそれがない。
【0086】
ここで、多角形としては、四角形または三角形が好ましい。また、多角形のサイズとしては、多角形の一辺の長さが0.5〜2.0mm(より好ましくは0.7〜1.5mm)の範囲内であることが好ましい。該長さが0.5mmよりも小さくても、逆に2.0mmよりも大きくても、吸水性が低下するため十分にぬれ感を低減できないおそれがある。
【0087】
前記撥水剤の付着パターンにおいて、塗布部の面積比率は、30〜85%(より好ましくは40〜70%)の範囲内であることが好ましい。該塗布部面積比率が30%よりも小さいと、吸水時に水が面方向にひろがり、ぬれ感を十分低減できないおそれがある。逆に、該塗布部面積比率が85%よりも大きいと、吸水性が低下するだけでなく、ソフトな風合いを損なうおそれがある。
【0088】
前記塗布部面積比率は下記式で示されるものである。
塗布部面積比率(%)=(塗布部面積)/((塗布部面積)+(非塗布部面積))×100
なお、前記パターンにおいて、少なくとも多角形同士が角部でつながっている個所があればよく、多角形の全個数のうち30%以上(好ましくは50%)の多角形が他の多角形と角部でつながっていることが好ましい。また、多角形もほぼ多角形の形状をしておればよく、多角形の辺が曲線になっていてもさしつかえない。
【0089】
また、前記の布帛において、特開2006−249610号公報に記載されているように、布帛の少なくとも一方の面に凹凸構造を有し、一方のみの面の凸部にのみ撥水剤が付着していると、抗菌性および消臭性および防汚性に優れるだけでなく、ぬれ感の少ない布帛が得られ好ましい。
【0090】
ここで、布帛の構造としては、一方の面にのみ凹凸構造を有し、他方の面がフラット構造を有する布帛であってもよいし、両方の面が凹凸構造を有する布帛であってもよい。さらには、空隙部を有する通常のメッシュ状布帛であってもよい。
【0091】
一方のみの面の凸部にのみ撥水剤を付着させることにより、該面が肌側に位置するように配して衣服として使用すると、発汗した汗は、該面の凹部(布帛がメッシュ状布帛の場合は空隙部)を通り他方の面に吸収されるか、撥水剤が付着した凸部から容易に落下することにより、ぬれ感を感じることがない。同時に、撥水剤が局所的にしか付着していないので織編物のソフトな風合いが損なわれることもない。
【0092】
布帛の少なくとも一方の面に凹凸構造を有し、一方のみの面の凸部にのみ撥水剤が付着している布帛の具体的な実施態様について以下説明する。
【0093】
まず第1の態様は、布帛がメッシュ状布帛であり、一方の面にのみ撥水剤が付着しており、他方の面には撥水剤が付着していない布帛である。ここで、メッシュ状布帛としては、厚み方向に貫通した空隙の空隙率が布帛表面の面積対比2〜95%(より好ましくは20〜60%)の通常のメッシュ状布帛でよい。その際、撥水剤の布帛の厚さ方向への浸透度合は、撥水剤が付与された面から厚さの1/2以下(より好ましくは1/5以下)であることが好ましい。
【0094】
次に第2の態様は、布帛がワッフル状編物であり、一方の面の凸部にのみ撥水剤が付着している編物である。ワッフル状編物とは、例えば特開2006−249610号公報の図3の編成図に従って編成された編物であり、1方の面のみ、または両方の面に凹凸構造を有する編地である。ここで、撥水剤は、図2に模式的に示すように、一方の面の凸部にのみ付着していることが好ましい。
【0095】
次に第3の態様は、織編物が二重リップル編物であり、一方の面の凸部にのみ撥水剤が付着している編物である。二重リップル編物とは、例えば、特許第3420083号公報の図2に示される編成図に従って編成された編物であり、1方の面のみ、または両方の面に凹凸構造を有する編地である。ここで、撥水剤は一方の面の凸部にのみ付着していることが好ましい。
【0096】
次に第4の態様は、織編物が緯二重織物であり、一方の面の凸部にのみ撥水剤が付着している織物である。緯二重織物とは、例えば、特許第3420083号公報の図1に示される織成図に従って織成された織物であり、1方の面のみ、または両方の面に凹凸構造を有する織物である。ここで、撥水剤は一方の面の凸部にのみ付着していることが好ましい。
【0097】
本発明の布帛を製造する方法としては、エステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/またはエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を共重合した、前記のポリエステルを含むポリエステル繊維を用いて布帛を製編織した後、該布帛に前記の酸性処理を施す方法や、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維を用いて布帛を製編織した後、該布帛に、pHが7.0未満(好ましくは5.0以下、特に好ましくは2.0〜5.0)の前記加工液を付与する方法などがあげられる。
【0098】
次に、本発明の繊維製品は、前記の布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は、前記の布帛を用いているので、抗菌性および消臭性および防汚性に耐久性よく優れる。
【0099】
本発明のポリエステル繊維および布帛および繊維製品において、抗菌性および消臭性および防汚性に耐久性よく優れる理由についてはまだ明らかにされていないが、ポリエステル繊維が酸性化されているので、菌が繁殖しにくいためであろうと推定している。
【0100】
次に、本発明の成形品は、ポリエステルを含むポリエステル成形品であって、該ポリエステル成形品のpHが7.0未満(好ましくは4.0〜6.6、より好ましくは4.0〜6.0、特に好ましくは4.0〜5.5)であるポリエステル成形品である。本発明のポリエステル成形品は、pHが7.0未満であることにより、驚くべきことに、抗菌性および消臭性および防汚性に耐久性よく優れる。
【0101】
ここで、pHの測定は、以下の方法で行うことが好ましい。すなわち、ポリエステル成形品をpH7.0の水(中性水)に、浴比1:5(ポリエステル成形品と中性水との重量比が(ポリエステル成形品:中性水)1:5)で浸漬し、温度120℃で30分間処理した後、ポリエステル成形品を取り出し、残液のpHを市販のpHメータで測定し、これをポリエステル成形品のpHとすることが好ましい。また、ポリエステル成形品の上に市販の万能pH試験紙を置き、その上からpH7.0の水0.05〜0.10ccを垂らし、次いで、ガラス棒で万能pH試験紙をポリエステル成形品に押し付け、万能pH試験紙からポリエステル成形品上に転写された色でpHをグレースケールにて目視判定することにより、ポリエステル成形品のpHを測定することができる。さらには、JIS L 1018 6.51に規定された方法により、ポリエステル成形品のpHを測定することができる。
【0102】
また、ポリエステル成形品のpHを7.0未満とする方法としては、前記のような、エステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/またはエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を共重合したポリエステルを用いてポリエステル成形品を得たのち、該ポリエステル成形品に酸性処理を施すか、または、ポリエステル成形品にpHが7.0未満の加工液を付与するとよい。
【0103】
本発明の成形品には、射出成型品、押し出し成型品、真空成型、圧空成型品およびブロー成型品等が含まれる。具体的には、ペレット、繊維、繊維と他の材料との複合体である繊維構造体、フィルム、シート、3次元構造体などが含まれる。かかる成形品の用途としては、飲料用ボトル製品、ディスプレイ用フィルム材料(液晶、プラズマ、有機EL)、カード(ICカード、IDカード、RFIDなど)、自動車用フィルム材料(内外装、電子部品)、飲料用・食品用フィルムラミネート缶、シュリンク包装、レトルト・パウチ、環境対応型プラスチックトレー用材料、半導体・医療材料・光触媒応用フィルム、美容用フェイスマスク、タッチパネル、メンブレンスイッチ、各種ハウジング、歯車、ギア等の電気・電子部品、建築部材、土木部材、農業資材、自動車部品(内装、外装部品等)、日用部品などがあげられる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。各測定値は以下の方法で測定される値である。
【0105】
(1)硫黄(S)量(wt%)
ポリエステル繊維5grを加熱したホットプレート上で溶融させ、平板プレートを成形した。次いでリガク社蛍光X線分光分析装置ZSX100e型を用いて、蛍光X線法により成形したプレート中のイオウ原子を定量した。
(2)ポリエステル繊維(布帛)のpH
試料をpH7.0の水(中性水)に、浴比1:5(試料と中性水との重量比が(試料:中性水)1:5)で浸漬し、温度120℃で30分間処理した後、試料を取り出し、残液のpHを市販のpHメータ(株式会社アタゴ製、型式DPH−2)で測定し、これをポリエステル繊維(布帛)のpHとした。なお、洗濯前(L0)と、JIS L0217法に規定された洗濯を5回行った後(L5)について測定した。
(3)プロトン化率
下記式によりプロトン化率を算出した。
プロトン化率(%)=(A−B)/A×100
ただし、Aはポリエステル繊維を蛍光X線分析により測定した官能基濃度であり、Bはポリエステル繊維を原糸吸光分析により測定した金属イオン濃度である。
(4)酸性基量(eq/T)
酸性処理を施した後のポリエステル繊維を、ベンジルアルコールを用いて分解し、この分解物を0.02Nの水酸化ナトリウム水溶液でフェノールレッドを指示薬として滴定し、1ton当たりの等量を求めた。
(5)固有粘度
酸性処理を施した後のポリエステル繊維を100℃、60分間、オルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を35℃でウデローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
(6)布帛の目付
JIS L 1096により布帛の目付(g/m)を測定した。
(7)ポリエステル繊維(布帛)の抗菌性
試料をJIS L0217法に規定された洗濯を10回行った後(L10)において、JIS L1902 菌液吸収法(供試菌:黄色ブドウ球菌)で静菌活性値および殺菌活性値を測定した。静菌活性値としては、2.2以上を合格(○)とし、2.2未満を不合格(×)とした。また、殺菌活性値としては、0以上を合格(○)とし、0未満を不合格(×)とした。
(8)ポリエステル繊維(布帛)の消臭性
初期濃度100ppmのアンモニアを含む空気3Lが入ったテドラーバッグに、10cm×10cmの正方形の試料を入れ、2時間後のテドラーバッグ内の悪臭成分濃度をガステックス社製検知管にて測定し、下記式のように減少量から臭気吸着率を求めた。
臭気吸着率(%)=(当初の悪臭成分濃度−2時間後の悪臭成分濃度)/(当初の悪臭成分濃度)×100
(9)ポリエステル繊維(布帛)の防汚性
JIS L1919C(親油性汚染物質3 使用)に規定された汚れの落ちやすさ試験で防汚性を測定した。
(10)捲縮率
供試糸条を、周長が1.125mの検尺機のまわりに巻きつけて、乾繊度が3333dtexのかせを調製した。前記かせを、スケール板の吊り釘に懸垂して、その下部分に6gの初荷重を付加し、さらに600gの荷重を付加したときのかせの長さL0を測定する。その後、直ちに、前記かせから荷重を除き、スケール板の吊り釘から外し、このかせを沸騰水中に30分間浸漬して、捲縮を発現させる。沸騰水処理後のかせを沸騰水から取り出し、かせに含まれる水分をろ紙により吸収除去し、室温において24時間風乾する。この風乾されたかせを、スケール板の吊り釘に懸垂し、その下部分に、600gの荷重をかけ、1分後にかせの長さL1aを測定し、その後かせから荷重を外し、1分後にかせの長さL2aを測定する。供試フィラメント糸条の捲縮率(CP)を、下記式により算出した。
CP(%)=((L1a−L2a)/L0)×100
(11)ポリエステル繊維の引張強さおよび引張強さ保持率
酸性処理を施した後のポリエステル繊維の引張強さをJIS L1013 7.5に規定された方法で測定した。また、酸性処理を施した後のポリエステル繊維の引張強さの保持率を下記式により算出した。
引張強さ保持率=(酸性処理後のポリエステル繊維の引張強さ)/(酸性処理前のポリエステル繊維の引張強さ)
(12)ぬれ感
まず、アクリル板上に水0.3ccをおき、10cm四角に裁断した織編物をその上にのせ、2.9mN/cm(0.3gf/cm)の荷重をかけながら30秒間織編物に十分吸水させた後、男女各5名ずつ計10名のパネラー上腕部にその吸水させた織編物をのせ、ぬれ感の官能評価を行った。評価は、ぬれ感の点で極少(最良)、少、中、大の4段階に評価した。なお、アクリル板上においた0.3mlの水量は、10cm角の布帛全面にぬれ拡がるに十分な量であった。
(13)吸水性
JIS L1018A法(滴下法)の吸水速度に関する試験方法により測定した。水平な試料面に滴下された1滴の水滴が吸収される時間を示した。
【0106】
[実施例1]
三角断面の吐出孔を有する紡糸口金を使用し、ポリエチレンテレフタレートを構成する全酸成分に対してエステル反応性スルホン酸基含有化合物として5−ナトリウムスルホイソフタル酸を1.5モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを常法により紡糸、延伸した後、公知の仮撚捲縮加工を施すことにより、捲縮率13%のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/72fil、単繊維断面形状:三角断面)を得た。
【0107】
次いで、28G丸編機を使用し、前記ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/72fil、単繊維断面形状:三角断面)のみを用いてスムース丸編地組織を有する編地を編成した。
【0108】
次いで、該編地を、酢酸によりpHが4.8に調製された浴中に温度130℃、時間30分間で浸漬することにより、酸性処理を施した。
【0109】
次いで、該編地に、染色時に浴中吸汗処理を伴う常法の染色仕上げ加工を施した。その際、親水化剤(ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体)を浴中で編地の重量に対して0.30重量%編地に付着させることにより浴中吸汗処理を行った。
【0110】
得られた編地において、目付は200g/mであり、表1に示すように、適正なプロトン化率により、5回洗濯後においても編地(布帛)のpHが低く(酸性化)、優れた抗菌性、消臭性、および防汚性を有していた。
【0111】
次いで、該編地を用いてスポーツウエア(Tシャツ)を縫製して着用したところ、優れた抗菌性、消臭性、および防汚性を有していた。評価結果を表1に示す。
【0112】
[実施例2]
丸断面の吐出孔を有する紡糸口金を使用し、ポリエチレンテレフタレートを構成する全酸成分に対してエステル反応性スルホン酸基含有化合物として5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.5モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを常法により紡糸、延伸した後、公知の仮撚捲縮加工を施すことにより、捲縮率15%のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/36fil、単繊維断面形状:丸断面)を得た。
【0113】
次いで、28G丸編機を使用し、前記ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/36fil)50重量%と、通常のポリエチレンテレフタレート(第3成分を共重合していないポリエチレンテレフタレート)仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/72fil)50重量%とを交編してスムース丸編地組織を有する編地を編成した。
【0114】
次いで、該編地を、酢酸によりpHが4.5に調製された浴中に温度130℃、時間30分間で浸漬するとことにより、酸性処理を施した。
【0115】
次いで、該編地に、染色時に浴中吸汗処理を伴う常法の染色仕上げ加工を施した。その際、親水化剤(ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体)を浴中で編地の重量に対して0.30重量%編地に付着させることにより浴中吸汗処理を行った。
【0116】
得られた編地において、目付は210g/mであり、表1に示すように、適正なプロトン化率により、5回洗濯後においても編地(布帛)のpHが低く(酸性化)、優れた抗菌性、消臭性、および防汚性を有していた。評価結果を表1に示す。
【0117】
[実施例3]
丸断面の吐出孔を有する紡糸口金を使用し、ポリエチレンテレフタレートを構成する全酸成分に対して5−テトラ−n−ブチルホスホニウムスルホイソフタル酸を4.0モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを常法により紡糸、延伸した後、公知の仮撚捲縮加工を施すことにより、捲縮率8%のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度167dtex/144fil、単繊維断面形状:丸断面)を得た。
【0118】
次いで、28G丸編機を使用し、前記ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度167dtex/144fil)50重量%と、通常のポリエチレンテレフタレート(第3成分を共重合していないポリエチレンテレフタレート)仮撚捲縮加工糸(総繊度167dtex/144fil)50重量%とを交編してスムース丸編地組織を有する編地を編成した。
【0119】
次いで、該編地を、酢酸によりpHが4.3に調製された浴中に温度130℃、時間30分間で浸漬するとことにより、酸性処理を施した。
【0120】
次いで、該編地に、染色時に浴中吸汗処理を伴う常法の染色仕上げ加工を施した。その際、親水化剤(ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体)を浴中で編地の重量に対して0.30重量%編地に付着させることにより浴中吸汗処理を行った。
【0121】
得られた編地において、目付は150g/mであり、表1に示すように、適正なプロトン化率により5回洗濯後においても編地(布帛)のpHが低く(酸性化)、優れた抗菌性、消臭性、および防汚性を有していた。評価結果を表1に示す。
【0122】
[実施例4]
鞘部(S部)にポリエチレンテレフタレートを構成する全酸成分に対して5−テトラ−n−ブチルホスホニウムスルホイソフタル酸を4.5モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを配し、一方、芯部(C部)に通常のポリエチレンテレフタレート(第3成分を共重合していないポリエチレンテレフタレート)を使用し、それらの重量比率を7:3として、丸断面の芯鞘型複合繊維を紡糸、延伸した後、公知の仮撚捲縮加工を施すことにより、捲縮率3%のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/72fil)を得た。
【0123】
次いで、28G丸編機を使用し、前記ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸のみを用いてスムース丸編地組織を有する編地を編成した。
【0124】
次いで、該編地を、酢酸によりpHが3.8に調製された浴中に温度130℃、時間30分間で浸漬するとことにより、酸性処理を施した。
【0125】
次いで、該編地に、染色時に浴中吸汗処理を伴う常法の染色仕上げ加工を施した。その際、親水化剤(ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体)を浴中で編地の重量に対して0.30重量%編地に付着させることにより浴中吸汗処理を行った。
【0126】
得られた編地において、目付は150g/mであり、表1に示すように、適正なプロトン化率により5回洗濯後においても編地(布帛)のpHが低く(酸性化)、優れた抗菌性、消臭性、および防汚性を有していた。評価結果を表1に示す。
【0127】
[実施例5]
ポリエチレンテレフタレートを構成する全酸成分に対してエステル反応性スルホン酸基含有化合物として5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.5モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを常法により丸断面糸を紡糸、延伸した後、公知の仮撚捲縮加工を施すことにより、捲縮率15%のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/36fil)を得た。
【0128】
次いで、28G丸編機を使用し、前記ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/36fil)40重量%を編地の裏側に使用し、通常のポリエチレンテレフタレート(第3成分を共重合していないポリエチレンテレフタレート)仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/72fil)60重量%を表側に使用した、交編片側結節丸編地組織を有する編地を編成した。
【0129】
次いで、該編地を、酢酸によりpHが4.5に調製された浴中に温度130℃、時間30分間で浸漬することにより、酸性処理を施した。
【0130】
次いで、該編地に、染色時に浴中吸汗処理を伴う常法の染色仕上げ加工を施した。その際、親水化剤(ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体)を浴中で編地の重量に対して0.30重量%編地に付着させることにより浴中吸汗処理を行った。
【0131】
得られた編地において、目付は250g/mであり、表1に示すように、適正なプロトン化率により、5回洗濯後においても編地(布帛)のpHが低く(酸性化)、優れた抗菌性、消臭性、および防汚性を有していた。評価結果を表1に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
[比較例1]
実施例1において、酸性処理を施さないこと以外は実施例1と同様にした。得られた編地において、目付は200g/mであり、表2に示すように、編地は中性(L0、L5ともにpH7.0)であり、抗菌性、消臭性、防汚性いずれも不十分であった。評価結果を表2に示す。
【0134】
[比較例2]
実施例2において、通常のポリエチレンテレフタレート(第3成分を共重合していないポリエチレンテレフタレート)仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/72fil)のみを用いてスムース丸編地組織を有する編地を編成すること以外は実施例2と同様にした。
【0135】
得られた編地において、目付は200g/mであり、表2に示すように、編地は中性(L0、L5ともにpH7.0)であり、抗菌性、消臭性、防汚性いずれも不十分であった。評価結果を表2に示す。
【0136】
【表2】
【0137】
[実施例6]
実施例1で得られた編地の片面に、下記の処方からなる処理液を約15g/mの塗布量となるよう、図1に示す市松格子状パターン(四角形のサイズ1mm×1mm、塗布部面積比率50%)でグラビア転写方式にて塗布し、その後、120℃で乾燥した後、160℃で45秒の乾熱処理を行った。
[処理液の組成]
・水 91.6重量%
・フッ素系撥水剤 8重量%
(旭硝子(株)製「アサヒガードAG710」)
・メラミン系バインダー樹脂 0.3重量%
(住友化学(株)製「スミテックス レジンM−3」 接触角67.5度)
・触媒 0.1重量%
(スミテックス アクセレーター ACX)
得られた編地において、ぬれ感少、吸水性0.4秒、風合いはソフトであった。
【0138】
[実施例7]
丸断面の吐出孔を有する紡糸口金を使用し、ポリエチレンテレフタレートを構成する全酸成分に対してエステル反応性スルホン酸基含有化合物として5−ナトリウムスルホイソフタル酸を1.5モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを常法により紡糸、延伸した後、公知の仮撚捲縮加工を施すことにより、捲縮率13%の仮撚捲縮加工糸A(総繊度84dtex/24fil、単繊維断面形状:丸断面)を得た。
【0139】
また、丸断面の吐出孔を有する紡糸口金を使用し、ポリエチレンテレフタレートを構成する全酸成分に対してエステル反応性スルホン酸基含有化合物として5−ナトリウムスルホイソフタル酸を1.5モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを常法により紡糸、延伸した後、公知の仮撚捲縮加工を施すことにより、捲縮率13%の仮撚捲縮加工糸B(総繊度56dtex/36fil、単繊維断面形状:丸断面)を得た。
【0140】
次いで、24Gの丸編機を使用して、前記仮撚捲縮加工糸Aと仮撚捲縮加工糸Bとを用いて、図3に示されたワッフル状編物組織を有する編地(生機の密度30コース/2.54cm、30ウエール/2.54cm)を編成した。
【0141】
次いで、該編地を、酢酸によりpHが4.8に調製された浴中に温度130℃、時間30分間で浸漬することにより、酸性処理を施した。
【0142】
次いで、該編地に、染色時に浴中吸汗処理を伴う常法の染色仕上げ加工を施した。その際、親水化剤(ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体)を浴中で編地の重量に対して0.30重量%編地に付着させることにより浴中吸汗処理を行い、乾燥、セットを行った。
【0143】
次いで、該編地の片面に、下記の処方からなる処理液を約20g/mの塗布量となるよう、凸部にのみグラビア転写方式にて塗布し、その後、135℃で乾燥した後、160℃で45秒の乾熱処理を行った。
[処理液の組成]
・水 91.6重量%
・フッ素系撥水剤 8重量%
(旭硝子(株)製「アサヒガードAG710」)
・メラミン系バインダー樹脂0.3重量%
(住友化学(株)製「スミテックス レジンM−3」接触角67.5度)
・触媒 0.1重量%
(スミテックス アクセレーター ACX)
得られた編地において、凸部の高さ0.3mm、吸水性1秒未満であった。
【0144】
[実施例8]
丸断面の吐出孔を有する紡糸口金を使用し、ポリエチレンテレフタレートを常法により紡糸、延伸した後、公知の仮撚捲縮加工を施すことにより、捲縮率15%のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/36fil、単繊維断面形状:丸断面)を得た。
【0145】
次いで、28G丸編機を使用し、前記ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度84dtex/36fil)を製編してスムース丸編地組織を有する編地を編成し、次いで、編地に常法の染色加工を施した。
【0146】
次いで、該編地を、下記の処方からなる加工液(pH4.0)でパデング処理し、温度110℃で1分間乾燥した後、スチーム処理(温度100℃、10分間)を施した。
・ビニルスルホン酸モノマー 1重量%
・ビニルカルボン酸モノマー 0.5重量%
・エチレングリコールモノマー 1重量%
・触媒 0.5重量%
・水 97重量%
得られた編地において、目付は200g/mであり、編地(布帛)のpHは、L0、L5ともにpH6.5であった。また、静菌活性値は2.2以上(合格)であり、殺菌活性値で0以上(合格)であった。また、アンモニア消臭性は80%であり、風合いは良好であった。
【0147】
次いで、該編地を用いてスポーツウエア(Tシャツ)を縫製して着用したところ、優れた抗菌性、消臭性、および防汚性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明によれば、抗菌性および消臭性および防汚性に耐久性よく優れるポリエステル繊維およびその製造方法および布帛および繊維製品およびポリエステル成形品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
図1
図2
図3