特許第5758891号(P5758891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オンコビオテクの特許一覧

<>
  • 特許5758891-筋線維芽細胞を取得する方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758891
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】筋線維芽細胞を取得する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20150716BHJP
【FI】
   C12N5/00 202A
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-520985(P2012-520985)
(86)(22)【出願日】2010年7月2日
(65)【公表番号】特表2013-500003(P2013-500003A)
(43)【公表日】2013年1月7日
(86)【国際出願番号】EP2010059478
(87)【国際公開番号】WO2011009706
(87)【国際公開日】20110127
【審査請求日】2013年5月16日
(31)【優先権主張番号】0955216
(32)【優先日】2009年7月24日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512019457
【氏名又は名称】オンコビオテク
【氏名又は名称原語表記】ONCOBIOTEK
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ルイヤー,ニコラ,ジャック
(72)【発明者】
【氏名】バルテル,ロベール
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 Mol.Biol.Cell,2007年,Vol.18, No.7,p.2716-2727
【文献】 Carcinogenesis,1999年,Vol.20, No.7,p.1185-1192
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00 − 5/28
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋線維芽細胞を取得する方法であって、
線維芽細胞を必須として含有し、かつ、筋線維芽細胞を含有する、細胞腫である細胞試料を、MEGM培地及びMCDB170培地から選択される乳腺上皮細胞用培地である無血清培地中で培養する段階を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記無血清培地が、さらに、インスリン、ヒドロコルチゾン、EGF、ウシ下垂体抽出物および抗生物質から選択される、少なくとも1つの補充物を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
物組織である生物学的試料から細胞懸濁液を取得し、そして、
線維芽細胞の成長にとって有利に作用する培地において得られる細胞に対して初期培養を実施する段階を含む、請求項1から2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
物組織である生物学的試料から細胞懸濁液を取得し、そして、
細胞の亜集団を精製して、線維芽細胞を必須として含有する上記細胞試料を得る段階を含む、請求項1から2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の方法によって得られる筋線維芽細胞の細胞培養物であって、含有する細胞のうち少なくとも80%が筋線維芽細胞であることを特徴とする、細胞培養物。
【請求項6】
血清を含有しない、請求項に記載の細胞培養物。
【請求項7】
含有する細胞のうち少なくとも95%が筋線維芽細胞である、請求項5または6に記載の細胞培養物。
【請求項8】
含有する細胞のうち少なくとも80%が筋線維芽細胞である細胞培養物を得るために、請求項1からのいずれか1項に記載の方法を使用する使用方法。
【請求項9】
上記細胞が無血清培地中に存在する、請求項に記載の使用方法。
【請求項10】
上記細胞培養物に含有される細胞のうち少なくとも95%が筋線維芽細胞である、請求項に記載の使用方法。
【請求項11】
線維芽細胞を必須として含有し、かつ、筋線維芽細胞を含有する、細胞腫である細胞試料から筋線維芽細胞を取得するために、ヒト乳腺上皮細胞を培養するために開発されたMEGM培地及びMCDB170培地から選択される無血清培地を使用する使用方法。
【請求項12】
上記無血清培地が、インスリン、ヒドロコルチゾン、EGF、ウシ下垂体抽出物および抗生物質から選択される、少なくとも1つの補充物を含有している、請求項11に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、筋線維芽細胞を取得する方法に関する。
【0002】
以下の記載において、大括弧“[]”で鋏まれた数字は、本明細書の末尾に記載する先行技術文献一覧での文献番号を指している。
【0003】
筋線維芽細胞とは、CAF(carcinoma−associated fibroblast)と呼ばれる特定のタイプの線維芽細胞であり、換言すれば、細胞腫に関連する線維芽細胞である。CAFは、組織リモデリングなどのさまざまな生物学的プロセスにも関与する。
【0004】
CAFは、平滑筋αアクチン(SMA; muscle alpha−actin)マーカーを発現させる。
【0005】
以下の記載において、線維芽細胞という用語は広い意味で用い、線維芽細胞(ここでは“厳密な意味での”線維芽細胞と呼ぶ)だけを含めるのではなく、活性化された線維芽細胞、CAF、筋線維芽細胞などの線維芽細胞の誘導体をも含める。したがって、腫瘤のプロセスに関与する線維芽細胞を含めることになり、さらに、筋線維芽細胞が関与するその他の任意の生物学的プロセスに関与する線維芽細胞も含められる。
【0006】
特に、腫瘍を酵素消化することによって、線維芽細胞を腫瘍から取得することが知られており、取得後に1つ以上の精製段階を実施することもある(Orimo et al., Cell 2005, 121: 335-348 [1] or Allinen et al., Cancer Cell 2004, 6:17-32 [2])。
【0007】
従来、線維芽細胞の培養は、血清を含有する培地中で実施され(通常血清の5%〜20%)、筋線維芽細胞をさまざまな割合で含有している。
【0008】
例えば、5%の血清を含有する培地中のCAF(Asterand社)(簡単に視覚で観察することによってそうであると判定される)が、市販されている。
【0009】
学術研究を目的とする研究室では、10%の血清を含有する培地中でCAFの集団を産生する。これらの細胞の表現型は、平滑筋αアクチンマーカーを測定することによって決定される。したがって、これらの集団はさまざまな割合のCAFを含有し、平均すると多くとも30%のCAFを含有する。
【0010】
また、20%の血清を含有する培地中のヒトの肝臓の筋線維芽細胞(Dominion Pharmakine社)も市販されており、このうちのわずか50%〜60%だけが平滑筋αアクチン(SMA)マーカーを発現させる。肝臓において、また、膵臓においても、筋線維芽細胞が誘導される細胞は、培養されるとSMAマーカーの発現をともなう自発性の活性化を示すという特定の性質を有する星状細胞である(Kinnman et al., Lab Invest 2001, 81:1709-1716 [3]; Omary et al., JCI 2007, 117:50-59 [4])。
【0011】
しかしながら、胎生期ウシ血清または新生仔ウシ血清などの血清の使用には、以下のような欠点がある
・血清の収集に関連する倫理的な問題
・血清は組成が変化しうる生物的な液体である
・血清の正確な組成は不明であり、細胞が必要とする条件を精密に規定することは不可能である
・血清は、医薬品産業培養中の細胞に対して用いる試験に干渉する可能性がある因子(増殖因子、拮抗薬など)を含有する
・血清中で成長することに慣らされている細胞は、培地がなくなると、表現型を変化させる、あるいは、死んでしまう
要約すると、従来公知であって、かつ、インビトロで研究された、病理学的組織から単離された線維芽細胞の集団は、
・異種起源であり、
・さまざまな割合の筋線維芽細胞を含有し、
・血清を含有する培地中で成長するが、血清の存在は上述のような欠点がある。
【0012】
以上のことを踏まえて、本発明が扱う主な目的は、筋線維芽細胞、特にできるだけ純粋な筋線維芽細胞の集団の任意の研究をも促進する特性を有する、筋線維芽細胞の集団を得ることである。
【0013】
この目的を達成するために、本発明は、筋線維芽細胞を取得する方法であって、
(a)線維芽細胞を必須として含有する細胞試料を準備する段階と、
(b)この細胞試料を無血清培地中で培養する段階と、を含むことを特徴とする方法に関する。
【0014】
線維芽細胞を必須として含有する上記細胞試料とは、該試料が含有する細胞のうち少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%が線維芽細胞であることを意味している。何れの場合であっても、当業者であれば、本発明を実施するためには上記細胞試料が必ず含有していなければならない線維芽細胞の割合を通例の実験によってどのように評価すればよいかが理解できるであろう。
【0015】
本発明には、先行技術に比べてより純粋で、血清を含有しない培地中で成長する筋線維芽細胞の集団を産生するという効果がある。
【0016】
したがって、本発明に係る方法によって得られる筋線維芽細胞は、例えば、これらの細胞の生物学を精密に、かつ、再現性よく研究すること、および、潜在的な治療標的を特定することを可能にする。
【0017】
血清が存在しないので、本発明に係る方法によって得られる筋線維芽細胞は、さらに、細胞が必要とする条件を研究すること、および、例えば分化を誘起したり、表現型の維持を可能にしたり、増殖を維持したり、および/または、これらの細胞の早期老化に関与したりする因子を明らかにすること、をも可能にする。
【0018】
無血清培地中における1または2の継代の終了時に、本発明に係る方法で得られる筋線維芽細胞の集団は、筋線維芽細胞の95%を超える量になる。
【0019】
上記無血清培地は、好ましくは、上皮細胞用培地である無血清基本培地を含有する。実際には、このような基本培地から得られる培地によって、非常に良好な筋線維芽細胞の成長が実現できるようになる。
【0020】
この無血清基本培地は、具体的にはヒト乳腺上皮細胞用培地である。あるいは、一例をあげれば、該無血清基本培地は、気管支上皮細胞、胎盤上皮細胞、または、腎臓上皮細胞の培養に用いる、公知の無血清培地であってもかまわない。
【0021】
この無血清基本培地を、細胞培養において通常使用される1種類以上の補充物で補充物してもかまわない。補充物の例としては、ホルモン、増殖因子、マイトジェン、抗生物質などが挙げられる。
【0022】
したがって、上記無血清基本培地は、例えば、インスリン、ヒドロコルチゾン、上皮増殖因子(“EGF”: epidermal growth factor)、ウシ下垂体抽出物(“BPE”: bovine pituitary extract)、および、抗生物質から選択される少なくとも1つの補充物を含有してもかまわない。
【0023】
この抗生物質は細胞の良好な成長にとって必須ではないが、存在すれば微生物の混入を防止することができる。
【0024】
上記抗生物質は、例えば、ゲンタマイシンおよびアンホテリシンBを含有するGA−1000、つまりノルモシンであればよい。細胞培養において通例として使用される任意の抗生物質も、本発明において使用可能である。例としては、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンピシリン、カナマイシン、タイロシンなどが挙げられる。
【0025】
例えば、本発明に係る無血清培地は、ヒト乳腺上皮細胞用培地、例えばMEGM(Mammary Epithelial Growth Medium)(Cambrex社)という名称で市販されている培地であってもかまわない。
【0026】
あるいは、例をあげれば、本発明に係る無血清培地は、気管支上皮細胞、胎盤上皮細胞、または、腎臓上皮細胞の培養に用いる、公知の無血清培地であってもかまわない。
【0027】
MEGMの開始時の組成は、培地MCDB170の開始時の組成である(Hammond et al., PNAS 1984, 81: 5435-5439 [5])。この培地MCDB170、さらにMEGMは、正常ヒト乳腺上皮細胞を培養するという特定の目的のために開発され、従来はこの目的で使用されてきた。
【0028】
本発明において、該培地を使用することは、筋線維芽細胞の培養にとって非常に有利である。
【0029】
上記培地は、その正確な組成がMEBM培地(Mammary Epithelial Basal Medium)という名称で知られている基本培地、および5種類の補充物(インスリン、ヒドロコルチゾン、EGF、ウシ下垂体抽出物、および、GA−1000(抗生物質))を含んで成る。
【0030】
エタノールアミンおよびホスホエタノールアミンは、MCDB170の基本組成およびMEGMに含まれる脂質前駆体である。
【0031】
本発明において使用可能な無血清基本培地のもう1つの例を、表1に示す。左側の縦列には、該無血清基本培地の組成物に含まれる生成物をリストアップしている。右側の縦列には、生成物ごとに、該培地中における生成物のモル濃度を培地1リットル当たりのモル数で示している。
【0032】
この無血清基本培地は、実際には、DMEM培地とHamF12(Invitrogen社)培地との1:1の比率の混合物を含有する。
【0033】
該基本培地は、EGF(Peprotech社)、ヒドロ−コルチゾン(SIGMA社)、BPE(Invitrogen社)、ITS−X(Invitrogen社)(インスリン、トランスフェリン、および、セレンを含む)、および、抗生物質(例えばノルモチン(Invivogen社))と混合され、本発明において使用可能な無血清培地を形成する。得られた該培地を、“無血清DMEM/HamF12培地”と呼ぶ。
【0034】
DMEMおよびHamF12の組成物は、例えば、R. Ian Freshney, “Culture of Animal Cells A Manual of Basic Technique", 2005 [6]に記載されている。
【0035】
【表1】
【0036】
本発明の一実施形態によれば、段階(a)は、例えば生物組織などの生物学的試料から細胞懸濁液を取得し、そして、線維芽細胞の成長にとって有利に作用する培地、例えば血清を含む培地において得られる細胞に対して初期培養を実施することを含む。
【0037】
本発明の別の一実施形態によれば、段階(a)は、例えば生物組織などの生物学的試料から細胞懸濁液を取得し、そして、細胞の亜集団を精製して、線維芽細胞を必須として含有する上記細胞試料を得ることを含む。
【0038】
上記生物学的試料からの細胞懸濁液の取得は、酵素消化によって、または、例えば機械的分離もしくはセルストレーナーなどの任意の方法によって、実施可能である。
【0039】
酵素消化は、単純かつ効果的であるので好ましい。
【0040】
上記生物学的試料は、例えば、生物学的試料が線維芽細胞を必須として含有することを可能にする任意の起源を有するものであってもよい。
【0041】
したがって、上記生物学的試料は、哺乳類の任意の種から得られるものであってもかまわない。
【0042】
具体的には、上記生物学的試料は、腫瘍、好ましくは細胞腫であればよい。あるいは、上記生物学的試料は、その他の任意の病理学的組織(例えばリモデリングを受けた任意の組織)であってもかまわない。
【0043】
本発明にとって必須の特徴は、上記生物学的試料が線維芽細胞、特に筋線維芽細胞を含有することである。
【0044】
上記生物学的試料中の筋線維芽細胞の割合は、平滑筋αアクチンについて免疫組織化学的に標識することによって、組織部を対象として評価する。
【0045】
例えば、筋線維芽細胞表現型を有する線維芽細胞が少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%を占める線維芽細胞を含む生物学的試料から開始することが好ましい。
【0046】
したがって、培養に用いる出発物質は筋線維芽細胞を含有する任意の哺乳類の組織であればよく、腫瘍(例えば細胞腫)であっても、例えば線維症、肝硬変、瘢痕、または、創傷の場合に組織リモデリングまたは修復を受けた組織であってもかまわない。上記筋線維芽細胞は、実際には、これらすべてのプロセスにおいて鍵となる役割を果たす。
【0047】
上記線維芽細胞の成長にとって有利に作用する培地は、通常は血清を含有する培地であって、例えば、RPMI、DMEM、または、HAMF12を基にした培地である。
【0048】
細胞の亜集団を精製して線維芽細胞を必須として含有する上記細胞試料を得るために、Allinen et al [2]またはOrimo et al [1]に記載されたプロトコルを、一例として採用する。
【0049】
本発明では、予め精製せずに、上皮細胞と間質細胞との混合物から開始することができる。ただし、血清を含有する培地において初期培養すれば、線維芽細胞中の培養物を豊富にすることが可能である。
【0050】
本発明は、さらに、本発明に係る方法によって得られる筋線維芽細胞の細胞培養物であって、細胞培養物が含有する細胞のうち少なくとも80%、好ましくは少なくとも95%が筋線維芽細胞であることを特徴とする、細胞培養物にも関する。
【0051】
本発明に係る上記細胞培養物は、好適には血清を含有しない。
【0052】
このような細胞培養物によって、例えば治癒しない創傷または血管新生障害の場合に、細胞の活性を刺激する効果を研究したり、反対に、例えば特に癌、線維症、または、肝硬変の場合に、細胞の活性を阻害する効果を研究したりすることが可能になる。
【0053】
本発明は、さらに、含有する細胞のうち少なくとも80%、好ましくは少なくとも95%が筋線維芽細胞である細胞培養物を得るために、本発明に係る方法を使用する使用方法にも関する。
【0054】
この細胞培養物は、好適には無血清培地中に存在する。
【0055】
本発明は、さらに、線維芽細胞を必須として含有する細胞試料から筋線維芽細胞を取得するために、ヒト乳腺上皮細胞を培養するために開発された無血清培地を使用する使用方法にも関する。
【0056】
この無血清培地は、例えばインスリン、ヒドロコルチゾン、EGF、ウシ下垂体抽出物、および、抗生物質から選択される、少なくとも1つの補充物を含有しても構わない。
【0057】
本発明では、上記細胞培養は、ディッシュやフラスコにおいて懸濁液中や基板上で、任意の適切な手段を用いて実施されればよい。当業者であれば、自身の有する一般的な知識から、これらの手段を選択することができる。
【0058】
したがって、本発明の適用事例としては、筋線維芽細胞のバイオマーカーの特定、治療標的の特定、抗癌性化合物の特定および検証、医薬品や化粧品用化合物をスクリーニングするためのインビトロモデル、およびインビトロ毒性学などが挙げられる。
【0059】
本発明の他の特性および効果は、図1を参照する下記の詳細な説明から明らかになるであろう。なお、下記の詳細な説明は、例示にすぎず、決して制限事項を加えるものではない。また、図1は、本発明にしたがって得られる筋線維芽細胞が生成するVEGFの量を、培地1ミリリットル当たりのピコグラムを単位として表わす棒グラフを示している。
【0060】
〔本発明に従って筋線維芽細胞を取得する方法の例〕
開始点は哺乳類から採取した腫瘍、この場合にはイヌから採取した細胞腫である。
【0061】
例として、1つの変形は、硬変肝から開始して、この病理過程に関与する筋線維芽細胞の集団を得ることであろう。
【0062】
腫瘍の鏡検を実施すれば、例えば、ホルマリン中で予め固定しておいた組織を免疫組織化学的に標識することによって、腫瘍中の筋線維芽細胞の割合を評価することができる。
【0063】
理想的には、開始点は、筋線維芽細胞を高率で含有する(すなわち、好ましくは線維芽細胞のうちの少なくとも30%が筋線維芽細胞である)腫瘍である。
【0064】
腫瘍の酵素消化を実施するが、この酵素消化に続いて、細胞の亜集団の精製を行っても、行わなくても構わない。
【0065】
酵素消化は細胞懸濁液を得ることを可能にする他の任意のプロセスに置き換え可能であり、酵素消化に続いて以下の1)〜3)の3つの異なる手順を実施してもかまわない。
【0066】
1)まず、腫瘍の鏡検を実施する際に、検査結果を待つあいだ組織を4℃で維持しておく。欠点は、組織が劣化する可能性があることである。
【0067】
2)細胞の亜集団の精製とともに、または、精製は行わずに、組織の酵素消化を実施する。次に、鏡検の結果を待つあいだ細胞を凍結させておく。
【0068】
3)組織の酵素消化を実施し、同じ日に培養を開始する。
【0069】
酵素消化後は、細胞の亜集団の精製を実施しなくても構わない。この場合、培養は、線維芽細胞の成長にとって有利に作用するように、培地中において開始する。第1継代では、細胞を無血清MEGM培地に移し変える。
【0070】
あるいは、酵素消化後に、細胞の亜集団の精製を実施しても構わない。この場合、この精製後に、線維芽細胞および誘導体を含有する画分を、無血清MEGM培地中で直接成長させる。
【0071】
継代ごとに、免疫細胞化学法を用いて、SMAマーカーに対してプラスを示す細胞の割合を決定してもよい。
【0072】
上記MEGM培地は、正常ヒト乳腺上皮細胞を培養するという特定の目的のために開発されたものである。
【0073】
各継代または2継代ごとの終了時に、95%を超えかつ100%以下がSMAマーカーに対してプラスの筋線維芽細胞の培養物が得られる。
【0074】
このようにして得られた細胞は、特に、培養物中で自己の表現型を維持し、約4継代にわたって活発に成長するという効果を有する。第5継代になって初めて、細胞死または老化の徴候が現れる。
【0075】
MEGM培地を上述の無血清DMEM/HamF12培地に置き換える以外は、上記の例と同一の手順を実施すると、MEGM培地を用いて得られた結果と同様の結果が得られる。具体的には、各継代または2継代ごとの終了時に、95%を超えかつ100%以下がSMAマーカーに対してプラスの筋線維芽細胞の培養物が得られる。ただし、この無血清DMEM/HamF12培地を用いた場合には、細胞は第4継代以降の成長が芳しくない。
【0076】
〔本発明にしたがって筋線維芽細胞を取得する方法の実施形態で遂行する実験プロトコルの例〕
開始点は、例えば適切な輸送培地中に保存した乳房腫瘍である。
【0077】
試料を、リン酸緩衝食塩水(PBS:saline phosphate buffer)で洗浄する。
【0078】
組織の小片を、コラゲナーゼとヒアルロニダーゼとがDMEM培地中に存在する酵素カクテルを含有する培養皿に移し変える。
【0079】
この組織を、2本の小刀で切って小さな断片にして、ピペットを用いて十分に混ぜる。
【0080】
得られた断片を37℃のインキュベーターに少なくとも2時間入れる。
【0081】
組織と酵素カクテルとの混合物にDMEMを添加し、これを十分に混ぜる。
【0082】
この組織と酵素カクテルおよびDMEMの混合物を、40μmのナイロンフィルタを通して濾過する。
【0083】
上記混合物を遠心分離機にかけて、細胞ペレットを得る。
【0084】
得られた細胞をPBSで洗浄し、再度遠心分離機にかける。
【0085】
必要であれば、赤血球溶解液を用いて赤血球を除去し、細胞をPBSで洗浄し、再度遠心分離機にかけて、細胞ペレットを得る。
【0086】
細胞をペレットから採取して、小量のPBS中へ移す。
【0087】
この段階で、細胞の生存率を、例えばトリパンブルーで染色することによって評価してもよい。また、細胞をカウントしても構わない。
【0088】
次に、上記細胞の培養を、通常の培養フラスコ中で、血清を含有する培地(RPMI培地と10%の熱失活したウシ胎仔血清(FBS))中に1ミリリットル当たり10個の細胞を入れて開始する。
【0089】
次の日に、浮遊細胞を取り除くために、培地を取り替える。
【0090】
細胞が80%のコンフルエンスに達した際に、無血清培地への移し変えを、第1継代から行ってもかまわない。
【0091】
MEGM培地に通常含まれる抗生物質は、抗生物質であるゲンタマイシンおよびアンホテリシンBを含有するGA−1000である。これらの抗生物質を、特にノルモシン(Invivogen社)に換えてもかまわない。
【0092】
そして、無血清培地を約3日〜4日ごとに交換する。
【0093】
上述のように、本発明によって、血清を含有しない培地中で成長する筋線維芽細胞を高率(最大で95%を超える)で含む細胞集団が、得られるようになる。
【0094】
このようにして得られる細胞は、特に、培養物中で自己の表現型を維持し、約4継代にわたって活発に成長するという効果を有する。
【0095】
さらに、これらの細胞は、主要な血管新生促進性分子である血管内皮細胞増殖因子(“VEGF”: vascular endothelial growth factor)を大量に生成する。
【0096】
図1は、本発明に従って得られる筋線維芽細胞によってVEGFが大量に生成されることを示している。
【0097】
図1は、第5継代の、MEGM培地における、1日目(図面右寄りの「筋線維芽細胞」と記した左側のバー)および2日目(図面右寄りの「筋線維芽細胞」と記した右側のバー)の、筋線維芽細胞の上清中のイヌVEGFの濃度を示している。図面左寄りの「コントロール」と記した箇所はコントロール(対照)として、培地だけで測定を実施した結果である。
【0098】
上記測定は、イヌVEGF ELISAキット(R&D Systems社)を用いて実施した。
【0099】
この図面から、まず、筋線維芽細胞が、主要な血管新生促進性分子であるVEGFの実質的な供給源であることが確認できる。腫瘍は、実際には、自己を確立してあるサイズを越えて成長するためには、血管を補充する必要がある。この目的を達成するために、基質の細胞が腫瘍によって転用されていることが分かる。さらに、新しい血管の補充は、組織の修復において鍵となる段階である。
【0100】
図1は、さらに、本発明によって得られる細胞によって、抗血管新生活性を有する医薬品の化合物をスクリーニングすることが可能であることをも示している。
【0101】
〔先行技術文献一覧〕
[1] Orimo et al., Cell 2005, 121: 335-348
[2] Allinen et al., Cancer Cell 2004, 6:17-32
[3] Kinnman et al., Lab Invest 2001, 81:1709-1716
[4] Omary et al., JCI 2007, 117:50-59
[5] Hammond et al., PNAS 1984, 81: 5435-5439
[6] R. Ian Freshney, “Culture of Animal Cells A Manual of Basic Technique”, 2005
【図面の簡単な説明】
【0102】
図1】本発明に基づいて取得された筋線維芽細胞によって生成されたVEGFの量を示す図である。
図1