(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758905
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】高希釈可能な研磨濃縮物及びスラリー
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20150716BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20150716BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
【請求項の数】20
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-534394(P2012-534394)
(86)(22)【出願日】2010年10月15日
(65)【公表番号】特表2013-508952(P2013-508952A)
(43)【公表日】2013年3月7日
(86)【国際出願番号】US2010052844
(87)【国際公開番号】WO2011047263
(87)【国際公開日】20110421
【審査請求日】2013年6月5日
(31)【優先権主張番号】12/580,868
(32)【優先日】2009年10月16日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512069463
【氏名又は名称】フジフィルム プラナー ソリューションズ、エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】FUJIFILM PLANAR SOLUTIONS, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ウェン、リチャード
(72)【発明者】
【氏名】フー、ビン
(72)【発明者】
【氏名】タナカ、ミナエ
(72)【発明者】
【氏名】マフリカー、ディパック
【審査官】
福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−027165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)濃縮物の総重量に基づく、0.5重量%〜10重量%の研削材、
濃縮物の総重量に基づく、1重量%〜20重量%の錯化剤、及び
腐食防止剤、
を含む濃縮物と、
b)水、及び
c)酸化剤
を含む化学機械研磨スラリー(但し、ポリエチレンオキサイド、ジイソブチルジメチルブチンジオールポリオキシエチレングリコールエーテル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルの少なくともいずれか一つを含む場合を除く。)であって、
前記水及び前記酸化剤が、次式:
0.8≦[酸化剤]/f≦2.0
(式中、f=A+B×[錯化剤]C、
式中、Aは、0.35〜0.8であり、Bは0.3〜0.5であり、Cは1であり、かつ
[酸化剤]及び[錯化剤]はそれぞれ、前記スラリー中の酸化剤及び錯化剤の量(重量%)である)
により規定された量で前記スラリー内に存在する、
化学機械研磨スラリー。
【請求項2】
前記研削材が、アルミナ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、コーティングされた粒子、チタニア、セリア、ジルコニア、及びこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のスラリー。
【請求項3】
前記錯化剤が、有機酸及びそれらの塩、アミノ酢酸、アミノ酸、グリシン、アラニン、カルボン酸、ポリアミン、アンモニア系化合物、四級アンモニウム化合物、無機酸、カルボン酸官能基及びアミノ官能基の両方を有する化合物、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸及びこれらのいずれかの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のスラリー。
【請求項4】
腐食防止剤が、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、トリルトリアゾール及びその誘導体、及びアゾールからなる群から選択される、請求項1に記載のスラリー。
【請求項5】
前記濃縮物が、少なくとも10倍以上に希釈され、前記スラリーを形成する、請求項1に記載のスラリー。
【請求項6】
前記スラリーが基材から銅層を除去するために使用され、前記化学機械研磨スラリーが、前記化学機械研磨スラリーのピーク除去率の少なくとも75%の割合で前記銅層を除去する、請求項1に記載のスラリー。
【請求項7】
水及び酸化剤を濃縮物に添加することを含み、前記濃縮物が、
前記濃縮物の総重量に基づく、0.5重量%〜10重量%の研削材、
前記濃縮物の総重量に基づく、1重量%〜20重量%の錯化剤、及び
腐食防止剤
を含み(但し、ポリエチレンオキサイド、ジイソブチルジメチルブチンジオールポリオキシエチレングリコールエーテル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルの少なくともいずれか一つを含む場合を除く。)、
前記水及び前記酸化剤が、次式:
0.8≦[酸化剤]/f≦2.0
(式中、f=A+B×[錯化剤]C、
式中、Aは、0.35〜0.8であり、Bは0.3〜0.5であり、Cは1であり、
[酸化剤]及び[錯化剤]はそれぞれ、化学機械研磨スラリーを形成するための、前記化学機械研磨スラリー中の酸化剤及び錯化剤の量(重量%)である)
により規定された量で前記濃縮物に添加されること
を含む化学機械研磨スラリーを調製する方法。
【請求項8】
0.8≦[酸化剤]/f≦1.3である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記酸化剤が、前記化学機械研磨スラリーの総量に基づいて、0.1重量%〜5重量%の量で存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化剤が、前記化学機械研磨スラリーの総量に基づいて、0.4重量%〜2重量%の量で存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
Bが0.33〜0.46である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記濃縮物が前記水で希釈されて、前記研削材、前記錯化剤、及び前記腐食防止剤が、前記化学機械研磨スラリー中において、前記濃縮物よりも少なくとも5倍少ない量で存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記濃縮物が前記水で希釈されて、前記研削材、前記錯化剤、及び前記腐食防止剤が、前記化学機械研磨スラリー中において、前記濃縮物よりも少なくとも10倍少ない量で存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記濃縮物が前記水で希釈されて、前記研削材、前記錯化剤、及び前記腐食防止剤が、前記化学機械研磨スラリー中において、前記濃縮物よりも少なくとも20倍少ない量で存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
基材から銅層を除去する方法であって、銅層と請求項7の方法で調製された化学機械研磨スラリーを接触させる工程を含み、前記化学機械研磨スラリーが、前記化学機械研磨スラリーのピーク除去率の少なくとも75%の割合で前記銅層を除去する、方法。
【請求項16】
前記酸化剤が、前記スラリーの総重量に基づいて、0.1重量%〜5重量%の量で存在する、請求項1に記載のスラリー。
【請求項17】
前記酸化剤が、前記スラリーの総重量に基づいて、0.4重量%〜2重量%の量で存在する、請求項1に記載のスラリー。
【請求項18】
前記濃縮物が、少なくとも20倍以上まで希釈され、スラリーを形成する、請求項1に記載のスラリー。
【請求項19】
前記腐食防止剤が、前記濃縮物の総重量に基づいて0.001重量%〜1重量%の量で存在する、請求項1に記載のスラリー。
【請求項20】
前記腐食防止剤が、前記濃縮物の総重量に基づいて、0.001重量%〜1重量%の量で存在する、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウェハ研磨用途での使用のために希釈可能な濃縮物に関する。特に、本開示は、最適またはほぼ最適な研磨性能を依然として維持しつつ、50倍以上に希釈できる濃縮物に関する。
【背景技術】
【0002】
化学機械研磨(CMP)として知られるプロセスは、研磨パッド及びスラリーを用いて、半導体ウェハ上の異なる層を研磨することを含む。銅は、半導体製造において配線を形成するために一般に使用される材料である。銅が埋め込まれた構造が、例えばダマシンプロセスによって形成されたら、埋め込まれたワイヤ間の銅及びバリア金属を研磨及び清浄することによって単離した銅ワイヤを製造する。銅及びバリア層のCMPは、銅及びバリア層の研磨を含む。望ましいウェハ特徴、例えば少ない全欠陥数を依然として維持しながら、処理量を向上させるために高い材料除去率にてウェハを研磨することが望ましい。
【0003】
典型的な銅CMPプロセスは、3つのプロセス工程からなる。まず、電気めっきされた銅過剰被覆(技術ノードに依る厚さ2μm以下)を、堆積物のトポグラフィが完全に平坦化されるまで相対的に高い下方応力にて下方に素早く研磨し、特定量の銅を残す。(
図1参照)処理量及び平坦化効率及び少ない欠陥は重要なニーズである。この場合、第1の工程中の完全な平坦化の後に残留する銅過剰被覆は、より低い下方応力にて研磨され、バリア層で停止する。この目的は、バリア金属からすべての銅を清浄することであるが、欠陥が非常に少なく、改善された表面ラフネスを伴って埋め込まれた銅ワイヤ上でのディッシングが顕著に低いことである。処理量も重要である。この工程は、研磨剤のタイプまたは構成に依り、第1の工程と組み合わせることができる。最後の工程で、第2の工程後に残った、一般にTaまたはTaNあるいはその両方であるバリア薄層は、重要なトポグラフィの変化、すなわち低い侵食と少ない欠陥で研磨除去される。最初の2工程のためのスラリーは同一または異なっていてもよい。しかし、バリア層のスラリーは、通常異なる組成物である。
【0004】
銅CMPスラリーは濃縮物として製造される場合もある。これらの濃縮物は、製造及び搬送がより安価であるという利点を有し、CMPスラリーの保有コスト(COO)も削減される。顧客は、使用時(POU)に水及び酸化剤を単に添加するだけで、POUスラリーを形成できる。しかし、この方法に関する問題の1つは、濃縮物がPOUで良好に作用するように適切に設計されなければならないことである。定義により、濃縮物は、POUスラリーにて見出され得るよりも相当多量にすべての構成成分を有する。しかし、安定性及び貯蔵寿命の問題のために、濃縮物に望まれるような無限に高濃縮された研磨組成物を製造することは不可能である。コロイド状のスラリーにおいて、安定性は、粒子表面作用に規定され、この作用は特定粒子のタイプ、量及び化学作用に依存する。スラリー中の研削材の量が多くなるにつれて、不安定性の確率は高くなる。例えば、POU研磨組成物が1%の研削材、1%除去率向上剤、及び1%腐食防止剤を含有する場合、10倍濃縮物は10%研削材、10%除去率向上剤及び10%腐食防止剤であり、極めて不安定となり得る。従って、CMP研磨組成物は、少なくとも6カ月の貯蔵寿命の間安定であるような濃縮物レベルにて製造される。
【0005】
しかし、これらのスラリーについての不利益は、それらを高度に希釈できない(すなわち10倍または20倍のオーダー)ことであり、研磨用途に最終的に必要とされるCMPスラリーのコストが増す。加えて、高度に希釈する際、低濃度の研削材及び除去率向上剤では、当業者は銅の除去率が低いと予測し得るので、銅除去率が悪影響を受ける危険性がある。同じことが、スラリーに使用されるいずれかの腐食防止剤についてもあてはまる−腐食防止剤の量が過剰に希釈される場合、得られたスラリーは所望される程度に、埋め込まれた銅の腐食を防止できない。
【0006】
先行技術は、濃縮物がさらに希釈されるにつれて、得られたPOUスラリーの性能が悪化することを明らかに示している。例えば、Inaらによる米国特許第6,428,721号は、表1においていくつかの代表的な銅研磨スラリーを列挙している。この開示における実施例はすべて、研削材、過酸化水素、アラニンまたはグリシン、及び水を含む。表1は、スラリーの性能が、スラリーが希釈されるときに顕著に低下することを明らかに示している。実施例6と実施例11とを比較すると、実施例11の研削材が実施例6の場合よりも1/5であることから、実施例11は実施例6の5倍希釈であることがわかる。したがって、実施例11は、実施例6に比べて劇的に低下した銅の除去率を示している。
【0007】
銅除去率と希釈との関係を示す別の参照文献は、Boggsらによる米国特許出願公開第2008/0254628号である。
図9及び10、並びに添付の文書パラグラフ123−124は、CMPスラリーの希釈が増大するにつれて、銅除去率が劇的に低下することを非常に明確に例示している。
【0008】
こうした希釈と研磨性能との関係はまた、http://www.nanoslurry.com/datasheet/cu3900_product_sheet_final.pdf.にて入手可能なDA Nanomaterialsにより製造されるCoppeReady(登録商標)Cu3900スラリーについてのデータシートに例示される。このデータシートは、スラリーが4:1強度から9:1までで希釈される場合に、除去率は非常に深刻な悪影響を受ける可能性があり、スラリーに適用される下方応力に依り、50%程度低下し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,428,721号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0254628号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、COO標準点からも非常に望ましい程度に、安定であり、さらには高いレベルで希釈する場合に性能低下が生じないCMPスラリーに使用できる濃縮物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、CMPスラリーを形成するために希釈できる濃縮物を提供する。濃縮物は、研削材、錯化剤、腐食防止剤、及び水、さらに他の任意成分を含む(但し、ポリエチレンオキサイド、ジイソ
ブチルジメチルブチンジオールポリオキシエチレングリコールエーテル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルの少なくともいずれか一つを含む場合を除く。)。この濃縮物に基づいてPOUスラリーを調製するために、ユーザーは、酸化剤、及び追加の水を所望のレベルまで添加できる。これらの成分を以下に記載される配合に従って混合する場合、本開示の濃縮物は、優れた性能を依然として維持しながら、50倍以上の割合まで希釈できる。
【0012】
従って、1つの実施形態において、本開示は、0.5重量%〜10重量%の研削材、1重量%〜20重量%の錯化剤、及び0.001重量%〜0.1重量%の腐食防止剤を含む、化学機械研磨スラリーに使用するための濃縮物を提供する。
【0013】
別の実施形態において、本開示は、化学機械研磨スラリーを調製する方法を提供する。この方法は、水及び酸化剤を濃縮物に添加する工程を含み、ここでこの濃縮物は、0.5重量%〜10重量%の研削材、1重量%〜20重量%の錯化剤、及び0.001重量%〜0.1重量%の腐食防止剤を含む(但し、ポリエチレンオキサイド、ジイソ
ブチルジメチルブチンジオールポリオキシエチレングリコールエーテル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルの少なくともいずれか一つを含む場合を除く。)。水及び酸化剤は、次式によって規定される量で濃縮物に添加できる:
0.8≦[酸化剤]/f≦2.0
式中、f=A+B×[錯化剤]
C、式中、Aは、0.35〜0.8であり、Bは0.3〜0.5であり、Cは1であり、[酸化剤]及び[錯化剤]はそれぞれ、化学機械研磨スラリー中の酸化剤及び錯化剤の量(重量%)である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図2は本開示と比較した場合の、先行技術の濃縮物の図示である。
【
図3】
図3は濃縮物中の錯化剤の量の関数と酸化剤との比に対する、スラリーの規格化された銅除去率のプロットである。
【
図4】
図4は本開示のいくつかの異なる実施形態について錯化剤の量に対する酸化剤のプロットを示す。
【
図5】
図5は本開示に従う3つのCMPスラリーについての規格化された除去率を示す。
【
図6】
図6はいくつかの希釈レベルにおいて、先行技術に従う先行技術スラリー/濃縮物の性能のプロットを示す。
【
図7】
図7は先行技術の追加スラリー/濃縮物の性能のプロットを示す。
【
図8】
図8は本開示に従ういくつかの異なるスラリーで研磨されたウェハの銅表面ラフネスのプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、高度に希釈可能であるが、高い除去率、望ましいウェハのトポグラフィ、及び欠陥例えば腐食等が少ないことなどの重要な機能性パラメータを保持する銅研磨CMP濃縮物を提供する。本開示のCMP濃縮物は、20倍までまたはそれ以上希釈でき、あまり希釈されていない濃縮物、例えば10倍または5倍スラリーに比べても性能が大きく変化しない。このことは、ユーザーが手元に備えておく必要のある濃縮物の量を最小限にできるので、研磨用途でのCMPスラリーの性能を所望のレベルに維持しながら、コストの削減を維持するという点で極めて有利である。
図2は、この関係を図に示している。予め議論されたように、先行技術においては、濃縮物が希釈されるにつれ、研削材及び除去率向上剤濃度が低下するので性能パラメータはますます悪化すると考えられていた。しかし、本開示は、非常に高い希釈レベルにおいて強力な性能パラメータを維持する濃縮物を提供した。ユーザーは、濃縮物を入手し、POUにて酸化剤及び水を所望のレベルまで添加できる。
【0016】
CMPでは、金属層を、化学力及び機械力の組み合わせによって除去する。銅に関して、溶解(またはイオン化)は、銅の表面で生じる。銅イオンの除去は、銅層と錯体を形成する錯化剤との反応によって向上し得る。この錯体は、通常、CMPスラリーが適用される前の銅層よりも軟質である、またはより多孔性であるため、より容易に除去できる。酸化剤も、より容易に除去される酸化銅層を形成するのでCMPスラリーに有用である。バルク銅層を除去する場合、非常に高い除去率、例えば10000A/分程度の高い除去率が必要とされるので、強力な錯化剤及び酸化剤を使用するのが望ましい。しかし、化学作用が強力な場合、銅に対して高い腐食性となる可能性があり、腐食欠陥、例えばピッティングまたは銅損失を生じ得る。従って、適切な腐食防止剤が、CMPスラリーに使用されうる。研削材も、銅材料の除去の重要な部分であり、酸化銅を素早く除去するために適切な硬度及びモルホロジーを有していなければならない。理想的には、薄く、軟質な酸化銅及び錯体が形成され、腐食を生じることなく迅速に除去されるように、上述の4つの構成成分のバランスをとることが重要である。
【0017】
しかしまた、溶液が希釈されるにつれて、これら4つの構成成分の量のバランスをとるのはますます困難になり、銅化合物の除去率が劇的に低下することになる。
【0018】
銅酸化物及び錯体の形成は、使用される酸化剤及び腐食防止剤の強度に依存する。非常に強い酸化剤及び腐食防止剤は、銅に厚くて硬質の酸化物層をもたらす。不動態化率、すなわちPは、酸化物層が形成される割合として規定でき、通常、時間単位あたりに増大する厚さの割合、例えばオングストローム/分として測定される。この層の除去は、機械的並びに化学的であり得る。錯体及び酸化物層の機械的除去率、すなわちMは、時間単位あたりに除去される厚さ、例えばオングストローム/分として規定される。
【0019】
この理論に束縛されないが、本開示は、P>Mである場合、プロセスは化学作用により促進され、銅除去率は、理想値またはピーク値よりも低い。M>Pである場合、除去プロセスは、主として機械的であり、銅除去率はまた理想値またはピーク値よりも低い。P≒Mである場合、プロセスは化学力及び機械力のバランスで作用する。除去率は最適であり高い。
【0020】
本開示は、これらの原理を活用し、POUスラリーに希釈できる濃縮物を提供する。濃縮物は、研削材、錯化剤、腐食防止剤、水、及び任意の追加成分を、以下に議論されるような量で含む。POUスラリーを調製するために、ユーザーは、濃縮物に水及び酸化剤を添加する。ユーザーが特定用途に必要とする希釈量は、いくつかの因子に依り、明らかではあるが、POUスラリーを製造するために使用される濃縮物が少なくなるにつれて、コスト及び材料の使用の観点からより有利になる。ユーザーは顕著なコスト及び材料削減が実現する点まで濃縮物を希釈するが、得られたPOUは依然として所望のレベルで機能する。
【0021】
POUスラリー中に存在する錯化剤の量または濃度と酸化剤の量との関係を確立するために、本開示はまず、次の関数を規定する:
f(錯化剤)=A+B×[錯化剤]
C
A、B及びCは、特定の式についての定数である。Aは0.35〜0.8であり得、錯化剤の場合と同一の測定単位、この場合は重量%を有する。1つの実施形態において、Bは0.3〜0.5、または0.33〜0.46であり得る。Cは、わずかに変動し得るが、約1を維持する。B及びCは無単位定数である。本開示の括弧の使用、例えば「[錯化剤]」は、括弧内の成分、この場合は錯化剤の濃度を示す。特に指示しない限り、本開示において濃度は、濃縮物全体の重量%として表される。
【0022】
POUスラリーを調製する場合、酸化剤の量と関数fとの比、すなわち[酸化剤]/fは、「酸化剤比」として知られている。酸化剤比は、0.8〜2.0、または0.8〜1.3であるべきである。POUスラリー中の酸化剤及び錯化剤の量は、それらがこの関係を満たすように選択されるべきである。これは、上記で記載されたようなP≒MであることがCMPプロセスについて最適な条件を提供することを確実にする。これらの条件が満たされる場合、本開示は、銅CMP用途に使用するための高希釈性の濃縮物を提供し、ここで銅除去率は、20倍以上に希釈された後でも高く、安定なままであり、腐食耐性は高いままであり、表面ラフネスは低いままである。これは、現在入手可能な濃縮物よりも極めて有利である。濃縮物はさらに、以下で議論されるような研削材及び腐食防止剤、並びにいくつかの任意の追加成分、例えば界面活性剤、殺生物剤、表面仕上げ剤、pH調節剤、及び欠陥低減剤を含む。
【0023】
研削材は、アルミナ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、コーティングされた粒子、チタニア、セリア、ジルコニア、またはこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択できる。1つの実施形態において、研削材はコロイダルシリカである。研削材は、0.5重量%〜10重量%の量、または1重量%〜5重量%の量で存在でき、それぞれ濃縮物の総量に基づく。
【0024】
酸化剤は、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、硝酸銀(AgNO3)、硝酸第二鉄または塩化第二鉄、過酸または塩、オゾン水、フェリシン化カリウム、二クロム酸カリウム、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、三酸化バナジウム、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸マグネシウム、硝酸第二鉄、KMgO4、他の無機または有機過酸化物、またはこれらの混合物からなる群から選択できる。1つの実施形態において、酸化剤は過酸化水素である。酸化剤は、POUスラリーが錯化剤の量に対する上述の関係を満たす限り、0.1重量%〜5重量%の酸化剤、または0.4重量%〜2重量%を有するような量で存在できる。
【0025】
錯化剤は、所望の機能をなすいずれかの化合物であることができる。1つの実施形態において、錯化剤は、有機酸及びそれらの塩、アミノ酢酸、アミノ酸、例えばグリシンまたはアラニン、カルボン酸、ポリアミン、アンモニア系化合物、四級アンモニウム化合物、無機酸、カルボン酸官能基及びアミノ官能基の両方を有する化合物、例えばエチレンジアミン四酢酸及びジエチレントリアミン五酢酸またはこれらのいずれかの混合物からなる群から選択される。別の実施形態において、錯化剤はグリシンである。錯化剤は、それぞれ濃縮物の総重量に基づいて、1重量%〜20重量%、または5重量%〜13重量%の量で存在し得る。
【0026】
腐食防止剤は、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、トリルトリアゾール及びその誘導体、及びアゾール、特定界面活性剤、またはこれらのいずれかの混合物からなる群から選択できる。1つの実施形態において、腐食防止剤はベンゾトリアゾール誘導体である。腐食防止剤は、濃縮物の重量に基づいて100ppm〜10,000ppmの量、または100ppm〜2000ppmの範囲で存在できる。腐食防止剤はまた、POUスラリーが百万部あたり10parts per million(ppm)〜1000ppm、または10ppm〜200ppmであるような量で存在できる。
【0027】
図3を参照すれば、酸化剤比対規格化された除去率、すなわち実際の除去率とピーク除去率との比のプロットを示す。酸化剤比が0.8〜2.0である場合、規格化された除去率は0.75を超え、これは相対的に安定であり、再現可能な除去率値を提供する高い除去率の範囲と見なされる。比が0.8〜1.3である場合、すなわちP≒Mである場合、規格化された除去率はさらに高く、ほぼ常に0.8を超え、多くの場合1.0であり、スラリーがピーク除去率にて作用していることを意味する。
【0028】
図4は、本開示の1つの実施形態に従って、所与の錯化剤濃度にて存在し得る酸化剤の量のプロットを示し、ここで酸化剤比は1.0である。
図4に示される実施形態において、Aは0.35〜0.8であり、Bは0.33〜0.46である。2つの実線の間のプロット領域において、スラリーは、0.8以上の規格化除去率を与える。スラリーがこの領域外の錯化剤及び酸化剤濃度を有する場合、スラリーの性能は低下する。
図4はまた、点線において、スラリーに関してピーク除去率での錯化剤と酸化剤の濃度の関係を示す。
【0029】
図5は、本開示に従う3つのCMPスラリーに関して規格化された除去率を示す。試験は、Applied Materials Mirra polisher、RHEM IC1010研磨パッドを3p.s.i.の研磨下方応力を用いて行った。示された組成物は、13重量%の錯化剤、1重量%の研削材を含む濃縮物を用いてpH約7.5で調製した。組成物1は、本開示の濃縮物の5倍希釈である。わかるように、組成物1が7倍希釈(すなわち濃縮物の35倍希釈)またはさらに10倍(すなわち濃縮物の50倍希釈)である場合であっても、除去率は、非常に高いままである。50倍希釈のCMPスラリーは、依然として、5倍希釈のCMPスラリーの除去率の90%で作用する。
【0030】
対照的に、
図6は、先行技術に従う先行技術スラリー/濃縮物の性能を示す。組成物28は、上記で議論された米国特許第6,428,721号明細書における表1の比較例2である。示されたデータは、組成物28を種々の希釈比で用いて再現された。組成物28が希釈される場合、ちょうど2倍希釈において性能が顕著に低下し、規格化された除去率は、0.8未満に既に低下していた。この作用は、組成物28を、
図6に示されるようにそれ自体より濃縮された配合物と比べた場合に、さらにより顕著である。この場合明らかに、先行技術のスラリー性能は、スラリーが希釈された場合に顕著に低下する。
【0031】
図7は、希釈された場合に除去性能が劇的に低下する先行技術のCMPスラリーのさらにより顕著な例を示す。
図7。組成物6は、米国特許第6,428,721号明細書における表1の実施例6である。組成物6が5倍希釈される場合、規格化された除去率はほぼ80%低下する。同じく、このことは、先行技術スラリーの性能は、それらが希釈される場合に顕著に低下することを示す。
【0032】
図8は、本開示に従ういくつかのスラリーに関する表面ラフネスデータを示す。図からわかるように、種々のレベルに希釈されたスラリーはすべて、許容可能なノイズレベルにて、同様の表面ラフネスデータを示した。10倍スラリーの表面ラフネスの微細な低下があるが、統計学的に顕著であるとは考えられない。
【0033】
本開示において、20倍ほど高い希釈比は機能性能の損失を全く生じることなく達成されたことに留意すべきであり、より高い比、例えば上記で記載された50倍は、最小の性能損失で達成された。より高い希釈割合も、より低い最適銅除去率を許容する場合は可能である。80%のピーク除去率の代わりに、60%を許容できる場合、希釈比は、50倍よりも大きく増大し得る。
【0034】
次のリストは、本開示に使用される特定の用語を定義する。
・高度に希釈可能:5倍以上の希釈
・銅のための錯化剤:銅と可溶性または不溶性の錯体を形成する化合物
・銅のための酸化剤:より高い価数状態に銅原子を酸化する化学物質
・腐食防止剤:腐食から銅表面を保護する化学物質
・研削材:ウェハ表面の機械的除去を助ける固体粒子
・規格化された除去率:参照となる、例えばピーク除去率またはベースライン組成物の除去率に対する特定の除去率の比
・ピーク除去率:所与のスラリーに関する最高除去率
・ピーク除去率の酸化剤レベル:ピーク除去率に対応する酸化剤濃度
・酸化剤比:錯化剤濃度に対する過酸化物濃度の比
・最適で高い銅除去率:ピーク除去率の75%以内の除去率
【0035】
こうして好ましい形態を特定の参照を用いて記載された本開示において、種々の変形及び変更が、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく行われ得ることは明らかである。