(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758965
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】金属溶射方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/18 20060101AFI20150716BHJP
C23C 4/08 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
C23C4/18
C23C4/08
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-206467(P2013-206467)
(22)【出願日】2013年10月1日
(65)【公開番号】特開2015-67900(P2015-67900A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2013年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】305035093
【氏名又は名称】株式会社ビルドランド
(74)【代理人】
【識別番号】100148792
【弁理士】
【氏名又は名称】三田 大智
(74)【代理人】
【識別番号】100077735
【弁理士】
【氏名又は名称】市橋 俊一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100070323
【弁理士】
【氏名又は名称】中畑 孝
(72)【発明者】
【氏名】森井 直治
【審査官】
山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−251197(JP,A)
【文献】
特開2008−156691(JP,A)
【文献】
特開平02−149657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00−4/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属から成る基材の表面に該基材の金属よりもイオン化傾向の大きい金属を溶射する金属溶射方法であって、基材の表面に金属溶射を行い、該溶射により形成された溶射被膜に液体のアルキルアルコキシシラン及び液体のポリイソシアネートから成り25℃における粘度が50〜500mPa・sの無溶剤型の塗料を含浸し硬化させることにより、上記溶射被膜における封孔処理及び同溶射被膜の基材表面に対する付着強度の増強を図ることを特徴とする金属溶射方法。
【請求項2】
上記塗料を構成する上記アルキルアルコキシシランと上記ポリイソシアネートとの重量比は10〜90:90〜10であることを特徴とする請求項1記載の金属溶射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁、鉄塔、鉄管、ガードレール、船舶、各種鋼材等の金属から成る基材の表面に金属溶射を施す方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属溶射方法にあっては、溶射被膜にアンカー効果を持たせるために、予め基材表面をブラスト処理により粗面化して凹凸形状を形成するか、又は下記特許文献1に示すように、予め基材表面にエポキシ樹脂を含む被膜組成物を塗布して凹凸形状を有する被膜を形成して、これら凹凸形状を有する面に金属溶射を施し上記アンカー効果を得る方法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3186480号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
然し乍ら上記ブラスト処理により基材表面を粗面化して凹凸形状を形成する方法では、作業者の熟練を要し作業効率が悪いばかりか、コスト高になる問題点を有している。
【0005】
又上記特許文献1の方法によれば、上記ブラスト処理が不要となり作業効率が向上するが、基材表面の全域に形成される被膜が絶縁性の高いエポキシ樹脂を含有していることから絶縁体となってしまい、基材から溶射被膜への電流の流れが遮断されてしまう。
そのため、基材よりもイオン化傾向の大きい溶射被膜が犠牲となって溶解することができず、金属溶射本来の目的、即ち基材の代わりに溶射被膜が犠牲となることにより該基材の防錆を図る目的を達成できないおそれを有している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にあっては、既述した従来技術のように、基材表面に予め凹凸形状を付与する工程を排し、直接基材表面に金属溶射を行い、溶射被膜形成後に該溶射被膜と基材表面との付着強度の増強を図る画期的な金属溶射方法を提供する。
【0007】
要述すると、本発明に係る金属溶射方法は、金属から成る基材の表面に該基材の金属よりもイオン化傾向の大きい金属を溶射する金属溶射方法であって、基材の表面に金属溶射を行い、該溶射により形成された溶射被膜に
液体のアルキルアルコキシシラン及び
液体のポリイソシアネート
から成り25℃における粘度が50〜500mPa・sの
無溶剤型の塗料を含浸し硬化させることにより、上記溶射被膜における封孔処理及び同溶射被膜の基材表面に対する付着強度の増強を図ることができ、基材を適切に保護することが可能となる。
【0008】
好ましくは上
記塗料
を構成する上記アルキルアルコキシシランと上記ポリイソシアネートとの重量比は10〜90:90〜10とし、両者による硬化反応を効果的に促す。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る金属溶射方法によれば、基材表面に凹凸形状を付与することなく、平坦面から成る基材表面に金属溶射を施すことができると共に、硬化前には低粘度で硬化後には接着強度が高い塗料を溶射被膜に含浸することにより、該塗料が上記溶射被膜に存する微細孔に入り込んで硬化して同微細孔を適切に封孔できると共に、同塗料が上記溶射被膜の裏面と基材表面間に画成される微細空隙に充填され硬化し同溶射被膜の付着強度を増強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】基材表面に金属溶射を施し溶射被膜を形成した状態を模視的に示す断面図。
【
図2】溶射被膜に塗料を含浸し硬化させた状態を模視的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明に係る金属溶射方法の実施形態を
図1・
図2に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すように、本発明に係る金属溶射方法にあっては、必要に応じて、基材1の表面1aに対し既知のディスクサンダー等を用いてケレン処理を行い、汚れや油分、劣化した塗膜、浮きサビ等を除去し、該基材1の表面1aに既知の溶射機を用いて金属溶射を行い溶射被膜2を形成する。
【0013】
該溶射被膜2は50〜500μmの厚さになるように形成する。最も好ましい厚さは50〜150μmである。
【0014】
上記溶射する金属としては、基材1を構成する金属よりもイオン化傾向が大きい(卑なる)金属を用いる。例えば、基材1が鉄(鋼)で構成されている場合には、亜鉛、アルミニウム等を溶射する。又本発明にあっては、特に溶射方式は問わない。
【0015】
図1の状態では、溶射被膜2の裏面2bは基材表面1aに密着している部分と、同基材表面1aから離間して該基材表面1aとの間に微細空隙4を画成している部分とが存し、該微細空隙4の存在により溶射被膜2の基材表面1aに対する付着強度は弱い状態である。又溶射被膜2中には微細孔3が形成されている。
【0016】
本発明にあっては、
図1の状態から、溶射被膜2の表面2aにシラン及びポリイソシアネートを主材とする液体から成る塗料5をハケ、ローラ、スプレー等の既知塗布手段により塗布し、該溶射被膜2内に同塗料5を含浸する。
【0017】
好ましくは、上記シランとしてアルキルアルコキシシランを用いる。該アルキルアルコキシシランは空気中の水分と反応してシラノールとエチルアルコールを生成し、他方上記ポリイソシアネートは空気中の水分と反応してポリウレアと炭酸ガスを生成する。
【0018】
上記のように、アルキルアルコキシシランが変質して生成されるシラノールと、ポリイソシアネートが変質して生成されるポリウレアとが硬化反応して、硬化後は高い接着強度を発揮する。なお、アルキルアルコキシシランから生成されるエチルアルコールは塗料塗布時に揮発し、ポリイソシアネートから生成される炭酸ガスは塗料塗布時に放散する。
【0019】
又塗料5に含有される上記アルキルアルコキシシランと上記ポリイソシアネートとの重量比は10〜90:90〜10とし、両者による硬化反応を効果的に促す。塗料5の配合例としては次のとおりであり、当該塗料5は溶剤を要しない。
【0020】
<配合例1>
塗料5の1kg当たりの配合量
ポリイソシアネート(液体)・・・・・・・・・・・・・・800g
アルキルアルコキシシラン(液体)・・・・・・・・・・・200g
【0021】
<配合例2>
塗料5の1kg当たりの配合量
ポリイソシアネート(液体)・・・・・・・・・・・・・・500g
アルキルアルコキシシラン(液体)・・・・・・・・・・・500g
【0022】
又上記塗料5はアルキルアルコキシシランの量を調整し気温25℃で50〜500mPa・s、好ましくは200mPa・s以下の低粘度の液体となるように調整する。
【0023】
上記のように低粘度とした塗料5は、
図2に示すように、溶射被膜2に形成されている微細孔3に容易に入り込むと共に、該微細孔3を通じ、上記した溶射被膜裏面2bと基材表面1a間に画成された微細空隙4に容易に達し同微細空隙4内に充填され硬化する。
【0024】
そして、上記塗料5は微細孔3内で隙間なく硬化する共に、微細空隙4内で隙間なく硬化し硬化後には高い接着強度を発揮する。同微細空隙4内で硬化した塗料5は基材表面1aと強固に接着すると共に溶射被膜2にアンカー効果を付与する。又上記塗料5の未含浸分は上記溶射被膜2の表面2a上に強固な塗膜5´を形成する。
【0025】
即ち、上記塗料5は微細孔3に入り込んで硬化することにより、該微細孔3を適切に封孔すると共に、溶射被膜裏面2bと基材表面1a間の微細空隙4に充填され硬化することにより溶射被膜2と基材1とを強固に結合して付着強度を増強することができる。又溶射被膜2の表面2a上に塗膜5´を形成し該溶射被膜2を適切に保護する。
【0026】
又本発明に係る金属溶射方法にあっては、
図1・
図2に示す如く、溶射被膜2の裏面2bの一部は基材1の表面1aに密着しており、基材1から溶射被膜2への電流の流れが阻害されることはなく、基材1の金属よりイオン化傾向の大きい金属から成る溶射被膜2が犠牲となって溶解し、適切に基材1の防錆を図り保護する。
【0027】
尚本願発明者が上記各配合例による塗料5を用いて、本発明に係る溶射方法による溶射被膜の引っ張り試験を行ったところ、上記各配合例の何れの塗料5を用いても1.5N/mm
2以上の接着強度を発揮することを確認した。具体的には、鉄板を基材とし該鉄板表面に亜鉛とアルミニウムとを溶射して200μmの厚さの溶射被膜を形成し、該溶射被膜の表面に上記各配合例の塗料5を塗布し同溶射被膜に塗料5を含浸し、該塗料5の硬化後に、基材まで達する一辺が4cmの正方形状の切り込みを入れ、正方形に区切られた溶射被膜にアタッチメントを取り付けて接着力試験機で引っ張って接着強度を測定した。
【0028】
以上説明したように、本発明に係る金属溶射方法にあっては、従来のように、アンカー効果を得るために基材表面に凹凸形状を付与する前処理は不要である。
【0029】
そして、凹凸形状を付与しない基材の表面に直接金属溶射を施し、溶射被膜形成後に硬化前は低粘度であり硬化後は高度の接着強度を発揮する塗料を微細孔を通じて含浸し、該微細孔の封孔と、溶射被膜の付着強度の増強を図る比類なき溶射方法である。
【0030】
又既知の方式で基材表面に金属溶射を施し、該溶射により形成した溶射被膜に塗料を塗布し含浸させる簡易な方法であるため、特に既設の橋梁等の金属構造物に金属溶射を行う際には現場で容易に実施でき効果的である。
【0031】
尚本書面において、下限値と上限値間を「〜」で示した数値範囲は、該下限値と上限値間の全ての数値(整数値と小数値)を表したものである。請求項の記載においても同様である。
【符号の説明】
【0032】
1…基材、1a…基材表面、2…溶射被膜、2a…溶射被膜表面、2b…溶射被膜裏面、3…微細孔、4…微細空隙、5…塗料、5´…塗膜。