(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758968
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】プランジャを備えたインライン式射出成形機
(51)【国際特許分類】
B29C 45/18 20060101AFI20150716BHJP
B29C 45/77 20060101ALI20150716BHJP
B29C 45/53 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
B29C45/18
B29C45/77
B29C45/53
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-228681(P2013-228681)
(22)【出願日】2013年11月1日
(65)【公開番号】特開2015-85667(P2015-85667A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2014年11月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】白石 亘
【審査官】
田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−6372(JP,A)
【文献】
特開2000−334791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/18
B29C 45/53
B29C 45/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出装置を備え、バレルに設けられた内径部に供給された成形材料を金型内に射出して成形を行う成形サイクルを実行する射出成形機において、
前記バレルの前記内径部に配設され、最外径が円筒面で構成され、前後進と回転が可能なプランジャと、
前記バレルにノズルが直接取り付けられている場合には該ノズルに設けられ、前記バレルに該ノズルがノズルアダプタを介して取り付けられている場合には該ノズル又は該ノズルアダプタに設けられた前記プランジャの前方に液状の成形材料を注入させる成形材料注入部と、
前記成形サイクルの計量工程において前記成形材料注入部から注入された前記液状の成形材料の圧力に基づいて前記プランジャの後退動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記バレルの根元部に前記バレルの前記内径部に通じる第二の穴部が設けられていることを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記成形材料注入部に、前記液状の成形材料の逆流を防止する逆流防止弁を備えたことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記射出装置の射出装置のベースに取り付けられたリニアガイドに支持され、前記プランジャに前後進力を伝えるプッシャプレートを備え、
前記制御装置は、前記プッシャプレートを駆動することにより背圧を0から1MPaの低圧で制御可能であることを特徴とする請求項1または2の何れか一つに記載の射出成形機。
【請求項4】
前記バレルにノズルが直接取り付けられている場合には該ノズルの内径部、前記バレルに該ノズルがノズルアダプタを介して取り付けられている場合には該ノズルの内径部又は該ノズルアダプタの内径部に、又は前記バレル前端の内径部に、液状の成形材料のバックフロー防止用のパッキンを備えていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の射出成形機。
【請求項5】
前記プランジャの先端部にミキシング部を備え、該プランジャを回転させながら計量を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機に関し、特に、プランジャを備えたインライン式射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
インライン式射出成形機は、1本のスクリュで固形樹脂の可塑化、計量、射出の成形サイクルの各工程を行っている。インライン式射出成形機では、バレルの根元部に設けられた材料投入口から投入されることで、スクリュに形成されたラセン溝の根元部に成形材料が供給され、スクリュ回転させることによって成形材料をスクリュの前方に送りつつ可塑化、混練し、スクリュ前方に成形材料を計量する。その後、金型を閉じてから成形材料を金型内部にスクリュを前進させて射出することで成形品を得る構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−334974号公報
【特許文献2】特開平8−80549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、インライン式射出成形機よって液状シリコン成形等の非常に低粘度な性質を有する成形材料を成形する場合や、可塑化や混練を行う必要が無い場合も、バレルの根元部に設けられた材料投入口からスクリュの根元部に対応するバレルの内径部に成形材料を注入し、スクリュを回転させながら後退することで、スクリュ前方に成形材料を計量していた。
【0005】
しかし、可塑化工程、混練工程が不要、またはほとんど不要な非常に低粘度な成形材料などの場合、前記スクリュで受ける剪断によって、かえって材料が劣化するなどの問題を生じることがある。また、少しだけ剪断、混練を行いたい成形材料の場合、フライトを持つスクリュの場合は、剪断、混練を前記成形材料に多くかけすぎてしまうことがあった。また、混練が不要にもかかわらず、成形材料をスクリュの前方に送り込む目的でフライトのらせん構造による送り込み力が必要となるため、ラセン溝を持つ高価なスクリュが必要となっていた。
【0006】
プリプラ式射出成形機もあるが、これもインライン式と同様にスクリュによって可塑化、混練してノズル側に送り込む装置が装備されているため、成形材料が剪断よって劣化する問題、及び高価な可塑化・混練装置を必要とする点が問題となっていた(特許文献1,2)。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決するために、最外径が円筒面で構成されているプランジャによって、液状の成形材料の計量および射出を行うようにした射出成形機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、不要なラセン溝を持つスクリュの代わりに、最外径が円筒面で構成されているプランジャによって計量、射出を行い、ノズル又はノズルアダプタから成形材料を注入する注入装置によってバレル内に液状の成形材料を注入するようにした。
さらに、インライン式射出成形機の特徴であるプランジャの前後進、回転動作を用いて、圧力制御を行いながら計量動作を行う際に、前方にミキシング部を備えたプランジャを回転させることで、混練させながら計量を行うことも可能とした。
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、射出装置を備え、バレルに設けられた内径部に供給された成形材料を金型内に射出して成形を行う成形サイクルを実行する射出成形機において、 前記バレル
の前記内径部に配設され、最外径が円筒面で構成され、前後進と回転が可能なプランジャと、前記バレルにノズルが直接取り付けられている場合には該ノズルに設けられ、前記バレルに該ノズルがノズルアダプタを介して取り付けられている場合には該ノズル又は該ノズルアダプタに設けられた前記プランジャの前方に液状の成形材料を注入させる成形材料注入部と、前記成形サイクルの計量工程において前記成形材料注入部から注入された前記液状の成形材料の圧力に基づいて前記プランジャの後退動作を制御する制御装置と、を備え
、前記バレルの根元部に前記バレルの前記内径部に通じる第二の穴部が設けられていることを特徴とする射出成形機である。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記成形材料注入部に、前記液状の成形材料の逆流を防止する逆流防止弁を備えたことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機である。
請求項3に係る発明は、前記射出装置の射出装置のベースに取り付けられたリニアガイドに支持され、前記プランジャに前後進力を伝えるプッシャプレートを備え、前記制御装置は、前記プッシャプレートを駆動することにより背圧を0から1MPaの低圧で制御可能であることを特徴とする請求項1または2の何れか一つに記載の射出成形機である。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記バレル
にノズルが直接取り付けられている場合には該ノズルの内径部、前記バレルに該ノズルがノズルアダプタを介して取り付けられている場合には該ノズルの内径部又は該ノズルアダプタの内径部に、又は前記バレル前端の内径部に、液状の成形材料のバックフロー防止用のパッキンを備えていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の射出成形機である。
請求項5に係る発明は、前記プランジャの先端部にミキシング部を備え、該プランジャを回転させながら計量を行うことを特徴とする請求項1〜
4の何れか一つに記載の射出成形機である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、射出時に成形材料のバックフローを防止するために、最外径が円筒面で構成されているプランジャによって、液状の成形材料の計量および射出を行うようにした射出成形機を提供できる。つまり、可塑化工程、混練工程が不要、またはほとんど不要な成形材料の場合に、不要な剪断、混練を与えずに計量可能な、安価な射出成形機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】ノズル内径部にパッキンを備えた実施形態を説明する図である。
【
図3】ノズルアダプタの内径部にパッキンを備えた実施形態を説明する図である。
【
図4】バレル前端の内径部にパッキンを備えた実施形態を説明する図である。
【
図5】前方に短いミキシング部を備えたプランジャを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は本発明の実施形態を説明する図である。射出成形機は、機台上に、射出装置と型締装置が対向して配置されている。インライン式射出成形機は、制御装置の制御に従ってバレル内の成形材料を金型内に射出して成形を行う成形サイクルを実行する。本発明に係る制御も前記制御装置において実行できる。成形サイクルは、射出工程、保圧工程、計量工程を含んで実行される。本発明は射出装置に特徴を有するので、その他の構成については説明を略する。本発明に係るインライン式の射出成形機は、液状の低粘度の材料を成形材料として加工する機械である。
【0015】
射出装置100は、内部が長軸方向に伸び、円筒状の内面を有する貫通穴であるところのバレル内径穴部23が設けられたバレル1と、最外径が円筒面(プランジャの最外径円筒部18)で構成されバレル1のバレル内径穴部23内において前後進と回転が可能なプランジャ2と、を備えている。
【0016】
プランジャ2のプランジャの最外径円筒部18は、成形材料を金型のキャビティへ射出する際に、成形材料がプランジャの後端方向へバックフローすることを防止するために、プランジャ2の先端部に設けられている。そして、プランジャの最外径円筒部18以外の部位の径は、プランジャ2の他の部分より径より小さい。これによって、プランジャ2の前進および後退を行う際の摩擦が大きくなるのを防止している。
【0017】
バレル1の先端部には、ノズル5を装着するノズルアダプタ6が複数のボルト21で固定してされている。ノズルアダプタ6には、バレル1のバレル内径穴部23に液状の低粘度の成形材料を注入するために、その側部に成形材料注入口3と、バレル1のバレル内径穴部23に注入された成形材料が成形材料注入口3から逆流しないように逆流防止バルブ7が設けられている。バレル1およびノズルアダプタ6の外周面に、バレル1内の温度を調整する温調デバイス17が装着されている。バレル1の後端部22はフロントプレート15に固定されている。
【0018】
図示しない圧力制御装置(前記射出成形機を制御する制御装置によって構成できる。)は、成形サイクルの計量工程において成形材料注入装置4から成形材料注入口3を介してバレル1のバレル内径穴部23に成形材料を注入し、設定した背圧をかけながらプランジャ2を後退させて計量を行う(計量工程)。そして、型閉後に、プランジャ2を前進させて成形材料を金型内に射出させる(射出工程)。
【0019】
成形材料注入装置4は、空圧または油圧または電動式モータによる駆動力等によって充填圧を発生させて、プランジャ2の前方のバレル1のバレル内径穴部23に、成形材料注入口3から成形材料を注入する装置である。射出時に成形材料注入口3を介して成形材料注入装置4に成形材料がバックフローしないように、成形材料注入口3に逆流防止バルブ7を備えていることが好ましい。逆流防止バルブ7は、ニードル弁ノズル等で使われるバルブや、流路が形成された部材を回転させることによって流路を開閉するものなど耐久性に優れたバルブであることが好ましい。
【0020】
射出装置100は、更に、図示しない機台上に配設された射出装置のベース8を備えている。射出装置のベース8は、射出装置100に備わった図示しないモータなどの駆動手段によって、ノズル5が図示しない金型にノズルタッチおよびリリースするように、前進および後退動作を行う。
【0021】
射出装置のベース8にはリニアガイド9が固定されている。プッシャプレート10は、リニアガイド9にガイドされてバレル1に対して前進および後退し、プランジャ2に前後進力を伝える。インライン式射出成形機のプッシャプレート10は、図示しない計量用サーボモータの回転力が伝達されるプランジャ回転用プーリ11と、ロードセル12のような圧力検出器を備え、射出用ボールネジ13等から受ける推力で前後進動作を行う。プッシャプレート10には図示しない計量用サーボモータが取り付けられており、該計量用サーボモータの回転駆動力がプランジャ回転用プーリに伝達される。
【0022】
射出用ボールネジ13はリアプレート14によって回転自在に支持されている。リアプレート14には図示しない射出用サーボモータが取り付けられている。該射出用サーボモータによって駆動されるプッシャプレート10がリニアガイド9によって前後方向にガイドされることで、プッシャプレート10の移動時の摩擦抵抗が低減され、精密な背圧制御が可能である。さらに前記圧力制御装置によって、前記背圧を0から1MPaの低圧で制御可能とすることで、低圧条件下でも、より精密な背圧制御が可能である。
【0023】
バレル内径穴部23の根元部に、前記バレル内径穴部23に通じるバレルの第二の穴16を備える。成形材料からガスが発生する場合、あるいはエアの巻き込みがある場合、これらをバレルの第二の穴16から抜くことによって、シルバーストリークや気泡などの成形不良を低減させることができる。また、成形材料がバックフローしてプランジャ根元部に漏れ出てくる場合、このバレルの第二の穴16から成形材料を簡単に除去することが可能となる。なお、バレルの第二の穴16は、固形状の樹脂材料を用いて成形する場合の、固形状の成形材料を投入する投入口としても利用可能である。
【0024】
本発明の射出成形機に使用される成形材料は低粘度のものであるので流動性が高いことから、バレル1の内径とプランジャ2の外径との隙間からプランジャ2の根元方向へ成形材料が流れ易くなる。その流れを防止するために所定箇所にパッキンを装着する。
図2はノズル内径部に、
図3はノズルアダプタ内径部に、
図4はバレル前端の内径部にパッキン19を備えた実施形態を説明する図である。ノズル内径部又はノズルアダプタ内径部又はバレル前端の内径部に、パッキン19を備えることで、成形材料が後方にバックフローすることを防止できる。なお、
図2はバレル1に直接ノズルを取り付ける実施形態、
図3,
図4はバレル1にノズルアダプタ6を介して取り付ける実施形態を説明する図である。
【0025】
図5は前方に短いミキシング部20を備えたプランジャ2を説明する図である。前方に短いミキシング部20を備えたプランジャ2を回転させながら計量させることで、成形材料に最適な程度の剪断をかけたり混練させたりすることが可能となる。また、加工に費用がかかるミキシング部長さを必要最低限とすることで、無用なコストアップを抑えることができる。
【0026】
上述した本発明の実施形態によって、成形材料に剪断、混練をかけずに成形したり、あるいは意図的に剪断、混練を必要なだけかけて成形を行うことが可能となる。
【0027】
なお、本発明の実施形態の射出成形機に用いられるノズル、プランジャ、バレル等を一般的なインライン式射出成形機のノズル、スクリュ、バレル等に交換するだけで、通常のフライト付きスクリュで可塑化、混練を行う射出成形も可能となるため、1台のインライン式射出成形機で、より幅広い成形材料への対応を、簡単にかつ安価な改造で行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1 バレル
2 プランジャ
3 成形材料注入口
4 成形材料注入装置
5 ノズル
6 ノズルアダプタ
7 逆流防止バルブ
8 射出装置のベース
9 リニアガイド
10 プッシャプレート
11 プランジャ回転用プーリ
12 ロードセル
13 射出用ボールネジ
14 リアプレート
15 フロントプレート
16 バレルの第二の穴
17 温調デバイス
18 プランジャの最外径円筒部
19 パッキン
20 ミキシング部
21 ボルト
22 後端部
23 バレル内径穴部
100 射出装置