(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758971
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】停電時の運転継続機能を有する射出成形機
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20150716BHJP
B22D 17/32 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
B29C45/76
B22D17/32 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-243147(P2013-243147)
(22)【出願日】2013年11月25日
(65)【公開番号】特開2015-100996(P2015-100996A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2014年12月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 淳平
【審査官】
瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−247990(JP,A)
【文献】
特開昭62−107698(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/162246(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータにより軸を駆動する射出成形機の制御装置において、
複数のサーボモータと、
前記各サーボモータを駆動する各駆動装置と、
前記各駆動装置に供給される電源の停電を検出する停電検出部と、
成形運転を制御する成形運転制御部と、
前記成形運転制御部から前記各軸の各駆動装置へ出力される制御指令値の変更を該成形運転制御部へ指令する制御指令値変更部と、
を有し、
前記制御指令値変更部は、
前記停電検出部が停電を検出すると、圧力制御を行っている軸の駆動装置へ出力される制御指令値である圧力指令値を低下させる指令、および、前記圧力制御を行っている軸以外の軸の駆動装置へ出力される制御指令値である速度指令値を低下させる指令を前記成形運転制御部に出力し、
前記停電検出部が復電を検出すると、前記各軸の各駆動装置へ低下させて出力される制御指令値を元の値に戻す指令を前記成形運転制御部に出力することを特徴とする、射出成形機の制御装置。
【請求項2】
サーボモータにより軸を駆動する射出成形機の制御装置において、
複数のサーボモータと、
前記各サーボモータを駆動する各駆動装置と、
前記各駆動装置に供給される電源の停電を検出する停電検出部と、
成形運転を制御する成形運転制御部と、
前記成形運転制御部から前記各軸の各駆動装置へ出力される制御指令値の変更を該成形運転制御部へ指令する制御指令値変更部と、
を有し、
前記成形運転制御部は、
前記停電検出部が射出工程において停電を検出した場合は、成形運転を停止させ、
前記制御指令値変更部は、
前記停電検出部が射出工程以外において停電した場合は、前記各軸の各駆動装置へ出力される制御指令値を低下させ、
前記停電検出部が復電を検出すると、前記制御指令値変更部が前記各軸の各駆動装置へ出力される制御指令を元に値に戻す指令を前記成形運転制御部に出力することを特徴とする、射出成形機の制御装置。
【請求項3】
前記停電検出部は、前記駆動装置の電源として用いられる交流電源の中で停電検出に使用している相のうち、いずれか1相の電圧振幅が停電検出電圧振幅より低下すると停電を検出し、その後、停電検出に使用している相の全ての相の電圧振幅が復電検出電圧振幅以上になると、停電からの復電を検出することを特徴とする、請求項1または2のいずれか一つに記載の射出成形機の制御装置。
【請求項4】
前記停電検出部は、前記駆動装置の制御電圧のうち、いずれか1つの駆動装置の制御電圧が停電検出制御電圧より低下すると停電を検出し、その後、全ての駆動装置の制御電圧が復電検出制御電圧以上になると、停電からの復電を検出することを特徴とする、請求項1または2のいずれか一つに記載の射出成形機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形機に関し、特に、停電時の運転継続機能を有する射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
サーボモータにより軸を駆動する射出成形機においては、軸を駆動するためにサーボモータの駆動装置に電力を絶え間なく供給する必要がある。そのため、瞬時停電が発生し、電源電圧がサーボモータを駆動するのに必要な電圧を下回ってしまうと、サーボモータの駆動装置が停止し、それにより成形運転が停止してしまうという問題があった。
【0003】
一旦、サーボモータの駆動装置が停止してしまうと、再び成形運転を開始するまでに時間がかかるだけでなく、成形運転を開始してから成形運転が安定状態に復帰するまでは成形品を不良品として廃棄しなければならないといった問題があるため、対策が望まれている。
【0004】
特許文献1には、成形機のモータを駆動する駆動装置に制御用直流電圧を供給する電気回路に、電気的エネルギー蓄積装置により構成されるエネルギー保持回路を設けることで、瞬時停電発生時の電圧の出力保持時間を延長する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−216829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された技術は、成形機において複数のドライバに制御用直流電源電圧を供給するコンバータ回路と成形機制御装置に制御用直流電圧を供給するコンバータ回路に電気的エネルギー蓄積装置という格別の装置を必要とするため、成形機のコストアップにつながるおそれがあった。
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決するために、電気的エネルギー蓄積装置という格別の装置を必要とすることなく、停電が発生した場合でも、制御電圧の低下による成形運転の停止を防止することが可能な射出成形機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の請求項1に係る発明は、サーボモータにより軸を駆動する射出成形機の制御装置において、
複数のサーボモータと、前記
各サーボモータを駆動する
各駆動装置と、前記
各駆動装置に供給される電源の停電を検出する停電検出部と、成形運転を制御する成形運転制御部と、前記成形運転制御部から前記各軸の
各駆動装置へ出力される制御指令値の変更を該成形運転制御部へ指令する制御指令値変更部と、を有し、前記制御指令値変更部は、前記停電検出部が停電を検出すると、
圧力制御を行っている軸の駆動装置へ出力される制御指令値である圧力指令値を低下させる指令、および、前記圧力制御を行っている軸以外の軸の駆動装置へ出力される制御指令値である速度指令値を低下させる指令を前記成形運転制御部に出力し、前記停電検出部が復電を検出すると、前記各軸
の各駆動装置へ低下させて出力される制御指令値を元の値に戻す指令を前記成形運転制御部に出力することを特徴とする
、射出成形機の制御装置である。
請求項2に係る発明は、
サーボモータにより軸を駆動する射出成形機の制御装置において、複数のサーボモータと、前記各サーボモータを駆動する各駆動装置と、前記各駆動装置に供給される電源の停電を検出する停電検出部と、成形運転を制御する成形運転制御部と、前記成形運転制御部から前記各軸の各駆動装置へ出力される制御指令値の変更を該成形運転制御部へ指令する制御指令値変更部と、を有し、前記成形運転制御部は、前記停電検出部が射出工程において停電を検出した場合は、成形運転を停止させ、前記制御指令値変更部は、前記停電検出部が射出工程以外において停電した場合は、前記各軸の各駆動装置へ出力される制御指令値を低下させ、前記停電検出部が復電を検出すると、前記制御指令値変更部が前記各軸の各駆動装置へ出力される制御指令を元に値に戻す指令を前記成形運転制御部に出力することを特徴とする、射出成形機の制御装置である。
【0008】
請求項
3に係る発明は、前記停電検出部は、前記駆動装置
の電源として用いられる交流電源の中で停電検出に使用している相のうち、いずれか1相の電圧振幅が停電検出電圧振幅より低下すると停電を検出し、その後、
停電検出に使用している相の全ての相の電圧振幅が復電検出電圧振幅以上になると、停電からの復電を検出することを特徴とする
、請求項1または2のいずれか一つに記載の射出成形機の制御装置である。
請求項
4に係る発明は、前記停電検出部は、前記駆動装置の制御電圧のうち、いずれか1つの駆動装置の制御電圧が停電検出制御電圧より低下すると停電を検出し、その後、全ての駆動装置の制御電圧が復電検出制御電圧以上になると、停電からの復電を検出することを特徴とする
、請求項1または2のいずれか一つに記載の射出成形機の制御装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、停電が発生した場合でも、サーボモータの電力消費量を低下させることにより前記サーボモータを駆動する駆動装置の制御電圧を維持し、制御電圧の低下による成形運転の停止を防止することが可能な射出成形機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】駆動装置に入力する交流電源の電圧に基づいて停電を判定する実施形態を説明する図である。
【
図2】駆動装置の制御電圧に基づいて停電を判定する実施形態を説明する図である。
【
図3】停電検出時の制御指令値の変更を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1,
図2は射出成形機の要部の機能ブロック図である。サーボモータの駆動装置は、一般的に駆動装置の電気回路内に平滑化コンデンサを備えており、ある程度の電気的エネルギーを保持している。そのため、停電発生時でも、停電時間が短時間であれば、駆動装置の制御電圧を維持できる可能性がある。しかし、停電発生時に、サーボモータによる電力消費量が大きいと、コンデンサの保持する電気的エネルギーを短時間で使いきってしまい、サーボモータの駆動装置が停止してしまう。そこで本発明は、停電を検出する停電検出部を有し、停電検出時にはサーボモータの電力消費量を低下させるように制御指令値を変更することを特長とする。
【0012】
図1は駆動装置に入力する交流電源の電圧に基づいて停電を判定する実施形態を説明する図である。
図1は、駆動用モータとして射出モータ7、回転モータ(計量モータ)8、型開閉モータ9、エジェクタモータ10を備えた射出成形機を表している。これらのモータは、それぞれ、駆動装置3,4,5,6で制御され、射出成形機本体の各可動部を駆動する。これらの駆動装置3,4,5,6への制御用直流電圧は、商用の交流電源1を整流器2が整流して生成される。整流器2や駆動装置3,4,5,6は平滑化コンデンサを備えており、モータからの回生エネルギーを一時的に貯えることができる。停電検出部11,制御指令値変更部12,成形運転制御部13は、後述して説明する。
【0013】
図2は駆動装置の制御電圧に基づいて停電を判定する実施形態を説明する図である。交流電源1,整流器2、駆動装置3,4,5,6および射出モータ7、回転モータ(計量モータ)8、型開閉モータ9、エジェクタモータ10の構成は
図1と同様である。停電検出部14,制御指令値変更部15,成形運転制御部16は、後述して説明する。
【0014】
以下、停電検出部11,14、制御指令値変更部12,15、成形運転制御部13,16を説明する。
【0015】
<停電検出部>
停電検出部11としては
図1に示されるように、整流器2に入力する交流電源1の電圧振幅を監視するようにしてもよい。この場合、交流電源1のうち少なくとも1相の電圧振幅を監視するようにし、該検出した電圧振幅のうち、いずれか1相の電圧振幅が停電検出電圧振幅より低下すると、停電を検出するように構成してもよい。
【0016】
また、停電検出部11で検出した電圧振幅のうち、全ての相の電圧振幅が復電検出電圧振幅以上になると、停電からの復電を検出するように構成してもよい。ここで、復電検出電圧振幅は、少なくとも停電検出電圧振幅とする。
【0017】
また、停電検出部14としては
図2に示されるように、サーボモータ(射出モータ7,回転モータ8,型開閉モータ9,エジェクタモータ10)の駆動装置3,4,5,6の制御電圧部の電圧を監視するようにしてもよい(
図3参照)。この場合、少なくとも1つのサーボモータの駆動装置の制御電圧を監視し、該検出した制御電圧のうち少なくとも1つの電圧が停電検出制御電圧値より低下すると、停電を検出するように構成してもよい。
【0018】
また、停電検出部14により検出した制御電圧のうち、全ての電圧が復電検出制御電圧値以上になると、停電からの復電を検出するように構成してもよい。ここで、復電検出制御電圧値は、少なくとも停電検出制御電圧値とする。
【0019】
図3に示されるように、停電検出部14では、制御電圧を検出しており、検出される制御電圧が停電検出制御電圧を下回ると停電を検出し、制御電圧が高くなり復電検出制御電圧を上回ると復電を検出する。停電検出部14は停電と復電を検出した情報を制御指令値変更部15に出力する。
【0020】
また、上記のように電圧値に基づいて停電及び復電を検出するに際しては、ノイズ等に起因する電圧値の変動により停電及び復電を正常に検出することが難しい場合もある。そのような場合、電圧値にフィルタをかけてノイズを除去した電圧値や、電圧値の時間積分値に基づいて停電及び復電を検出するようにしてもよい。
【0021】
<制御指令値変更部>
制御指令値変更部12(
図1),15(
図2)は、停電検出部11(
図1),14(
図2)が停電を検出すると、サーボモータ(射出モータ7,回転モータ8,型開閉モータ9,エジェクタモータ10)の電力消費量を低下させるように制御指令値を変更する指令を成形運転制御部13,16に出力する。例えば、停電検出部11,14が停電を検出した時にサーボモータの駆動軸が移動している場合は、サーボモータの電力消費量を低下させるように、速度指令値またはトルク指令値を低下させるようにしてもよい。また、停電検出部11,14が停電を検出した時にサーボモータ(射出モータ7)が圧力制御を行っている場合は、サーボモータの電力消費量を低下させるように、圧力指令値を低下させるようにしてもよい。このとき、制御指令値の変更によってサーボモータの動作を停止させる場合もあるが、成形運転は継続する。
【0022】
そして、制御指令値変更部12、15は、停電検出部11、14が復電を検出すると、前記低下させた制御指令値を、本来の指令値に戻し、成形運転を継続する。また、このとき、停電検出部11,14が停電を検出した時の成形工程に応じて、成形運転を継続する場合と中断する場合とを選択するようにしてもよい。
【0023】
例えば、型開閉工程、エジェクタ工程、冷却工程などにおいて停電が発生した場合は、射出スクリュによる樹脂の金型への充填が既に終わっているため、停電検出時に軸を停止しても成形品への影響は小さい。また、保圧工程、計量工程において停電が発生した場合も、射出スクリュによる樹脂の金型への充填の大部分は既に終わっているため、停電検出時に軸を停止しても成形品への影響は小さい。
【0024】
一方で、射出工程において停電が発生した場合、射出スクリュによる樹脂の金型への充填途中で射出スクリュが停止すると、充填途中の樹脂が金型の中で固まってしまい、停電復帰後に射出スクリュの動作を継続しても、樹脂の金型への充填は正常に行われないおそれがある。そのため、射出工程において停電を検出した場合は、復電を検出しても成形運転を継続せずに中断するようにし、それ以外の工程において停電を検出した場合は、復電を検出すると成形運転を継続するようにしてもよい。
【0025】
ただし、射出工程において停電が発生した場合でも、停電時間が短時間であれば、成形品への影響が小さい場合がある。そこで、射出工程において停電を検出し、停電時間が所定時間以下の場合は、復電を検出すると成形運転を継続するようにしてもよい。
【0026】
なお、停電を検出した時に低下させる制御指令値の値は、軸毎の消費電力値などに基づいてあらかじめ決めておいてもよいし、ゼロまで低下させるようにしてもよい。
【0027】
また、保圧工程など、経過時間を計時して次の工程へ切り替える制御を行う場合は、停電を検出して制御指令値を低下させている間は保圧時間などの計時を一時中断し、復電を検出して制御指令値を元に戻した後に計時を再開するようにしてもよい。ただし、冷却工程など、停電を検出して制御指令値を低下させていても、その工程の効果に影響がない場合は、冷却時間などの計時を中断せずに継続してもよい。停電検出部が停電を検出し、制御指令値変更部が制御指令値を変更した場合、当該サイクルの成形品は不良品と判定するようにしてもよい。
【0028】
<成形運転制御部>
成形運転制御部13(
図1),16(
図2)は、射出成形機を全体として制御し、成形サイクルの実行を制御する。成形サイクルを実行するに際し、成形運転制御部13,16は、射出モータ7,回転モータ8,型開閉モータ9,エジェクタモータ10を駆動する各駆動装置3,4,5,6にそれぞれ制御用の制御指令値を出力する。なお、
図1,
図2では成形運転制御部13,16から各駆動装置3,4,5,6への制御指令値の出力および成形運転制御部13,16への電力の供給に関する構成は記載を略している。成形運転制御部13,16は、制御指令値変更部12,15からの指令にもとづいて、各モータへの制御指令値を通常の指令値より低下させ、あるいは、低下させた制御指令値を通常の値の指令値に戻す制御を行う。なお、成形運転制御部13,16において、成形品の良否判定を行い、停電検出部が停電を検出し、制御指令値変更部が制御指令値を変更した場合、当該サイクルの成形品を不良品と判定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 交流電源
2 整流器
3,4,5,6 駆動装置
7 射出モータ
8 回転モータ
9 型開閉モータ
10 エジェクタモータ
11 停電検出部
12 制御指令値変更部
13 成形運転制御部
14 停電検出部
15 制御指令値変更部
16 成形運転制御部