(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5758976
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】数値制御装置付き工作機械
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4063 20060101AFI20150716BHJP
【FI】
G05B19/4063 L
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-264191(P2013-264191)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-121867(P2015-121867A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2015年1月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中濱 泰広
【審査官】
谷治 和文
(56)【参考文献】
【文献】
特開平8−190433(JP,A)
【文献】
特開平9−131690(JP,A)
【文献】
特開平1−193134(JP,A)
【文献】
特開2004−191221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/4063
G05D 3/12
B23Q 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値制御装置と、
該数値制御装置によって制御され、固定部と可動部とからなる工作機械とを備えた数値制御装置付き工作機械において、
前記工作機械の前記可動部には積載物が設置可能であり、
前記数値制御装置は、
前記固定部及び前記可動部の、重量及び重心位置が記憶された記憶手段と、
前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置を計算する重心位置計算手段とを備え、
前記工作機械又は前記数値制御装置のいずれかに、
前記重心位置計算手段により計算された重心位置を表示する重心位置表示手段を備え、
前記重心位置計算手段は、
前記記憶手段に記憶された前記固定部の重心位置及び重量、前記可動部の重心位置及び重量、及び前記固定部に対する前記可動部の相対位置と、前記積載物の重心位置及び重量とから、前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置を計算する
ことを特徴とする数値制御装置付き工作機械。
【請求項2】
前記数値制御装置は、
前記可動部に設置された前記積載物の重量を入力可能な入力手段
を有することを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置付き工作機械。
【請求項3】
前記数値制御装置は、
前記可動部に設置された前記積載物の重量を、可動部の加減速性能に関与するパラメータ群の値から推定して前記重心位置計算手段に送信する積載重量推定手段
を有することを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置付き工作機械。
【請求項4】
前記工作機械は、基準位置マークを有し、
前記重心位置計算手段は、
前記基準位置マークと、前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置を結ぶベクトル量を計算し、
前記ベクトル量の少なくとも1方向成分を、前記基準位置マークを基点とする向きと距離として出力することを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置付き工作機械。
【請求項5】
前記工作機械は、前記工作機械の前記固定部の特定平面上に配置された複数のマークを有し、
前記重心位置計算手段は、
前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置を、前記特定平面上に投影重心位置として投影し、前記複数のマークのうち、前記投影重心位置ともっとも近いマークを判定結果として出力することを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置付き工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御装置付き工作機械に関し、特に本体の重心位置に関する情報を通知する機能を有する数値制御装置付き工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、比較的小型で軽量のものであれば、近距離で移動されることも多い。その移動方法としては、クレーン等で吊り上げたり、台車や、フォークリフトやハンドリフトなどのリフトによって機械を持ち上げて運ぶ方式がある。特に、リフトを使用する方法は、リフト自体が小型であるため、工場建屋内などの比較的近距離での移設作業時に用いられることが多い。
【0003】
このようにリフトを用いて持ち上げる場合、機械の転倒事故等を防ぐために、リフトが有する2本のフォークの間に機械の重心が来るようにフォークの位置や幅を決める必要がある。この、フォークの位置や幅を決める際に、機械の重心位置を把握しておくことが重要となる。
【0004】
特許文献1には、産業用ロボットの輸送用補助装置において、フォークリフトを用い、フォークの受け部が、ロボット全体の受信が2本のフォークの間に来るように、ベース部に開口や専用部品を外付けして、ロボット本体を安定した輸送用姿勢をとりつつ、フォークを受け部に挿入して持ち上げる技術が開示されている。
【0005】
また、小型の工作機械においても、リフトによる移設作業が行われる。この場合、リフトの差込位置が決められていないものが多く、可動部の位置や、テーブル上面などの可動部に設置された積載物の重量が、移設作業ごとに毎回一定でない場合には、重心位置もまた一定ではないため、リフトの位置もこれに応じて決める必要がある。
【0006】
特許文献2には、数値制御装置に付き工作機械において、積載物の重量を自動的に推定し、この情報を基に最適化された移動速度の指令値や時定数などを定義する複数のパラメータにより、可動部の加減速の性能を決定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3883535号公報
【特許文献2】特開2010−211467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や従来技術で挙げられた技術における、リフトの位置決め作業としては、重心位置を予想してリフトを仮の位置で持ち上げて、そのバランスを見て位置の修正を行い、これを何度か試行することで安定する位置を最終的に決定している。ここで、最初に見立てた重心位置が真の重心位置から著しく異なる場合は、試行回数が多くなって工数が増加したり、上げ下ろしを繰り返すことによって、機械部品に負担がかかるおそれがある。
【0009】
そこで本発明は、数値制御装置付き工作機械において、工作機械の重心位置を簡単な方法で推定することができる工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に係る発明では、数値制御装置と、該数値制御装置によって制御され、固定部と可動部とからなる工作機械とを備えた数値制御装置付き工作機械において、前記工作機械の前記可動部には積載物が設置可能であり、前記数値制御装置は、前記固定部及び前記可動部の、重量及び重心位置が記憶された記憶手段と、前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置を計算する重心位置計算手段とを備え、前記工作機械又は前記数値制御装置のいずれかに、前記重心位置計算手段により計算された重心位置を表示する重心位置表示手段を備え、前記重心位置計算手段は、前記記憶手段に記憶された前記固定部の重心位置及び重量、前記可動部の重心位置及び重量、及び前記固定部に対する前記可動部の相対位置と、前記積載物の重心位置及び重量とから、前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置を計算することを特徴とする数値制御装置付き工作機械が提供される。
【0011】
請求項1に係る発明によると、工作機械の可動部の位置に応じて、工作機械と積載物を合わせた全体の重心位置を推定することが可能となる。これにより、フォークリフト等の機器を使用した工作機械の移設作業を行う際に、工作機械の重心位置を把握して作業を行うことが可能となるため、安定した姿勢で作業を行うことが可能となる。
【0012】
本願の請求項2に係る発明では、前記数値制御装置は、前記可動部に設置された前記積載物の重量を入力可能な入力手段を有することを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置付き工作機械が提供される。
請求項2に係る発明によると、積載物の重量があらかじめわかっている場合に、使用者がその重量の値を直接入力可能な入力手段を備えたことにより、使用者が重量を直接入力して、その値を用いて工作機械と積載物を合わせた全体の重心位置を計算することが可能となる。
【0013】
本願の請求項3に係る発明では、前記数値制御装置は、前記可動部に設置された前記積載物の重量を、可動部の加減速性能に関与するパラメータ群の値から推定して前記重心位置計算手段に送信する積載重量推定手段を有することを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置付き工作機械が提供される。
請求項3に係る発明によると、積載物の重量が直接わからない場合でも、積載物に応じた可動部の加減速パラメータを予め設定しておくことで、それらの値から積載物の重量を推定して、工作機械と積載物を合わせた全体の重心位置を計算することが可能となる。
【0014】
本願の請求項4に係る発明では、前記工作機械は、基準位置マークを有し、前記重心位置計算手段は、前記基準位置マークと、前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置を結ぶベクトル量を計算し、前記ベクトル量の少なくとも1方向成分を、前記基準位置マークを基点とする向きと距離として出力することを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置付き工作機械が提供される。
【0015】
フォークリフト等で工作機械を持ち上げる場合、フォークは差し込み方向に長く伸びているため、差し込み方向に関する重心位置のずれの影響は少ない。このような場合においては、重心位置はフォークの左右方向に関してのみわかれば十分であるところ、請求項4に係る発明によると、この左右方向に関する基準位置からの距離の情報のみで、左右方向の重心位置を把握することが可能となる。
【0016】
本願の請求項5に係る発明では、前記工作機械は、前記工作機械の前記固定部の特定平面上に配置された複数のマークを有し、前記重心位置計算手段は、前記工作機械と前記積載物を合わせた全体の重心位置を、前記特定平面上に投影重心位置として投影し、前記複数のマークのうち、前記投影重心位置ともっとも近いマークを判定結果として出力することを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置付き工作機械が提供される。
【0017】
請求項5に係る発明によると、フォークリフト等で工作機械を持ち上げる場合の、特にフォークリフト等が工作機械の固定部の特定の面に垂直な方向に差し込まれる場合、この面上に複数のマークを配置することで、フォークの左右方向の重心位置を複数のマークのいずれかのマークの位置として把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、数値制御装置付き工作機械において、工作機械の重心位置を簡単な方法で推定することができる工作機械を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態の数値制御装置付き工作機械の概略図である。
【
図2】工作機械とワークとを合わせた全体の重心位置の計算手法のブロック図である。
【
図5】工作機械における可動部が、早送り直線型加減速をする場合の速度と時間の関係の一例を示した図である。
【0020】
(第1の実施形態)
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態が適用される数値制御装置付き工作機械の概略図を示している。1は数値制御装置であり、内部にCPU7及びメモリ8を備え、表面に表示装置9を備えている。また、数値制御装置1は工作機械10と接続されている。工作機械10は、ベッド2、コラム3、主軸頭4、テーブル5等から構成されている。6はテーブル5の上面に積載されているワーク(積載物)である。ベッド2及びコラム3は、接地面に対して静止しており、本願の固定部に相当する。主軸頭4及びテーブル5は、数値制御装置1からの制御指令を受けて、ベッド2やコラム3の固定部に対して相対移動が可能であり、本願の可動部に相当する。
【0021】
数値制御装置1内のメモリ8には、工作機械10におけるベッド2やコラム3などの固定部の重心位置と重量、及び、主軸頭4やテーブル5などの可動部の重心位置と重量が予め記憶されている。また、CPU7では、主軸頭4やテーブル5などの可動部の、固定部に対する相対位置や、所定の方法で取得された、テーブル5上に積載されたワーク6の重心位置と重量に関する情報から、工作機械10をワーク6とを合わせた全体の重心位置を計算する。具体的な計算方法については後述する。
【0022】
表示装置9は、CPU7で計算された工作機械10とワーク6とを合わせた全体の重心位置を表示する。重心位置の表示の際には、少なくともいずれか1方向成分に関する情報のみの表示とすることもできる。
【0023】
ワーク6の重心位置と重量に関する情報については、数値制御装置1に設けられた図示しない入力手段11を用いて、作業者が入力する。また、テーブル5上に乗せるワーク6の重心位置と重量と、テーブル5を加減速する際のパラメータとの関係が、数値制御装置1のメモリ8内に設定されている場合には、ワーク6を乗せたテーブル5を移動させることにより、加減速する際のパラメータの値から、積載されたワーク6の重量と重心位置を推定して用いることもできる。
【0024】
図2は、これらのワーク6の重心位置と重量に関する情報を用いて、工作機械10とワーク6とを合わせた全体の重心位置の計算手法のブロック図である。以下ブロック毎に説明する。
まず、工作機械10を構成する部材を、設置面に対して静止している固定部と、固定部に対して相対的に移動可能な可動部とに分ける。本実施形態においては、固定部としてベッド2とコラム3とが含まれており、可動部として主軸頭4とテーブル5とが含まれている。まず、ブロックB1において、可動部の重心位置と重量、及び、固定部の重心位置と重量の値を取得する。また、ブロックB2において、可動部の位置情報を取得する。また、ワーク6の重量は、ブロックB3において、入力手段11により作業者が入力するか、ブロックB4に記載されているような、ワーク6を乗せたテーブル5を移動させて、加減速する際のパラメータの値を用い、ブロックB5においてワーク6の積載重量を推定するのいずれかの手法によって、ブロックB6において、ワーク6の積載重量を決定する。
【0025】
これらの可動部の位置情報、可動部の重心位置と重量、固定部の重心位置と重量、ワークの重量を用いて、ブロックB7において、工作機械10をワーク6とを合わせた全体の重心位置を計算する。そして、計算された全体の重心位置の値を、ブロックB8において、表示装置9に表示する。
【0026】
次に、具体的な重心位置の計算方法について説明する。まず、ワーク6を乗せていない状態での工作機械10の重心位置については、次式により計算される。
【0027】
【数1】
【0028】
【数2】
【0029】
ここで、重心位置を計算するにあたって、表示装置9に表示される情報として不要な成分については、式の計算過程から省略することができる。
一例として、
図3に示されているように、水平方向及び鉛直方向を基底とし、水平方向82を工作機械を設置したときの側面の方向(y方向)と一致させ、鉛直方向がz方向となるようにした基準座標系90を用いることとする。
【0030】
図3において、基準座標系90のy方向の原点を、工作機械に設けた基準位置マーク81と一致するように設定した場合、数1におけるベクトルrは、
図3におけるベクトル83に一致し、ベクトル83のy方向成分であるベクトル84は、次式により算出される。
【0031】
【数3】
【0032】
ここで、テーブル5の重心位置のy方向成分r
Tyとワーク6の重心位置のy方向成分r
Lyがほぼ一致するものとみなせる場合には、数3は、ワーク6の重心位置に関する情報が省略でき、次式のように近似して算出することができる。
【0033】
【数4】
【0034】
そして、数3又は数4によって求めたベクトルrのy方向成分の値を、表示装置9において表示する。
【0035】
次に、複数のマークからなるマーク群85を用いた重心位置の算出及び表示について説明する。
図4は、工作機械10において、複数のマークからなるマーク群85を設けた状態を示している。マーク群85は、工作機械10のベッド2の側面に設けられており、基準座標系90のyz平面に平行な平面上に、y方向に沿って複数設けられている。その結果、マーク群85を構成する複数のマークは、y方向の座標位置がそれぞれ異なった位置に形成されることとなる。
【0036】
この場合、yz平面における重心位置71の投影点は、重心位置71の位置ベクトル86のy方向成分に一致する。また、
図4における87は、マーク群85を構成するマークのうちのn番目のマークの位置ベクトルを示しており、この位置ベクトル87のy方向成分を用いると、n番目のマークと重心位置71の投影点のy方向に関する距離88は、次式で算出できる。
【0037】
【数5】
【0038】
これをマーク群85を構成するマークで順に算出し、lnが最も小さくなるときのマークの番号を、重心位置判定結果として表示装置9に表示する。
【0039】
次に、ワーク6の積載重量の推定方法について説明する。
図1の工作機械10において、テーブル5がワーク6を積載した状態で運動する場合、以下の運動方程式が成立する。
【0040】
【数6】
【0041】
ここで、計算の簡単化のために摩擦力F
fを無視できるものとすると、次式が成立する。
【0042】
【数7】
【0043】
【数8】
【0044】
駆動源となるモータの最大出力は、カタログ等に記載されているため、出力の損失が一切ないと仮定した場合には、数8における推力の最大値|F
a|
maxは計算により求められ、既知の値として用いることができる。
図5は、工作機械10における可動部が、早送り直線型加減速をする場合の速度と時間の関係の一例を示した図である。一般に、可動部が早送り移動する場合には、動作時間を最小とするために加速度が最大値|α|
maxをとるように制御され、
図5における早送り移動においては、|α|
maxを次式で求めることができる。
【0045】
【数9】
【0046】
ワーク6の加減速パラメータの要素としてf
maxおよびT
1が与えられるので、これらの2つのパラメータを用いて、数9から|α|
maxが求められ、この|α|
maxの値を用いて、ワーク6の質量(重量)M
Lを求めることができる。
一般的には、数6の運動方程式においては、摩擦力F
fを考慮する必要がある。この場合は早送りの加減速特性が、
図5に示されている例よりも複雑となり、多数のパラメータによって定義される場合もあるが、この場合においても運動方程式を解くことによってM
Lが算出され、この求められた値を用いて、重心位置を算出することが可能となる。
【符号の説明】
【0047】
1 数値制御装置
2 ベッド(固定部)
3 コラム(固定部)
4 主軸頭(可動部)
5 テーブル(可動部)
6 ワーク(積載物)
7 CPU
8 メモリ
9 表示装置
10 工作機械
11 入力手段
71 重心位置
81 基準位置マーク
82 水平方向
83 重心位置の位置ベクトル
84 重心位置の位置ベクトルの、水平方向に平行な成分ベクトル
85 マーク群
86 重心位置の位置ベクトル
87 マーク群のn番目のマークの位置ベクトル
88 n番目のマークと重心位置とのy方向距離