【課題を解決するための手段】
【0020】
最初に掲げた目的の成就に向けた寄与は、
ポリチオフェンと、
スルホン化合成ゴム、好ましくはスチレンコポリマーに基づくスルホン化合成ゴム、特に好ましくは水素化されているかまたは水素化されていない、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ジエンコポリマーに基づくスルホン化合成ゴム、なおより好ましくは水素化されているかまたは水素化されていない、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ジエンブロックコポリマーに基づくスルホン化合成ゴム、なおより好ましくは水素化された、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ブタジエンまたはスチレン−イソプレンブロックコポリマーに基づくスルホン化合成ゴム、最も好ましくは水素化された、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−イソプレンブロックコポリマーに基づくスルホン化合成ゴムと
を含む錯体、によってなされる。
【0021】
本発明に係る錯体は、1つの成分としてスルホン化合成ゴムを含む。
【0022】
本発明によれば、本発明に関する用語「スルホン化」は、好ましくは、関与するスチレン単位および/またはジエン単位において、好ましくは水素化されていてもよいブタジエンまたはイソプレン単位において、これらの単位の少なくとも1つのC原子に硫黄原子を介して−SO
3X基が結合されている(Xは、H
+、NH
4+、Na
+、K
+またはLi
+からなる群から選択されることが好ましい)ことを意味すると理解される。−SO
3X基が、ほぼすべて、スチレン単位に結合されており、従ってスルホン化スチレン単位が存在する場合が特に好ましい。
【0023】
好ましくは、用語「水素化された、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ジエンコポリマー」、「水素化された、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ジエンブロックコポリマー」または「水素化された、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ブタジエンまたはスチレン−イソプレンブロックコポリマー」は、本発明によれば、それぞれ、ジエン単位の二重結合は水素化されているが、スチレン単位の芳香環系は水素化されていないコポリマーまたはブロックコポリマーを意味すると理解される。さらに、用語「スチレン−ジエンコポリマー」または「スチレン−ジエンブロックコポリマー」は、少なくともスチレンおよびジエンモノマー単位を含むポリマーを意味すると理解され、従って、さらなるコモノマーの存在は排除されない。
【0024】
好ましくは、用語「アルキル置換されたスチレン−ジエンコポリマー」または「アルキル置換されたスチレン−ジエンブロックコポリマー」は、スチレン単位がアルキル置換されているコポリマーまたはブロックコポリマーを意味すると理解され、この場合、特にメチル基、エチル基、イソプロピル基またはtert−ブチル基がアルキル置換基として考慮される。
【0025】
本発明に関する「スルホン化スチレン単位」は、好ましくは、単位(I)
【化1】
を意味すると理解され、他方、「スルホン化ブタジエン単位」は、好ましくは、例えば単位(II)
【化2】
を意味すると理解される。
【0026】
単位(I)および(II)に示される酸の代わりに、そのスルホネート基は、塩の形態で、例えばアンモニウム塩またはアルカリ塩の形態で、特にNa
+、K
+またはLi
+の塩の形態で結合されていてもよい。
【0027】
好ましくは、本発明に係る錯体にスルホン化合成ゴムとして含まれる水素化されているかまたは水素化されていない、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ジエンコポリマーは、好ましくは、スチレン−ジエンコポリマー(これは、任意に、水素化されていてもよい)をスルホン化することにより得ることができる。
【0028】
当該水素化されているかまたは水素化されていない、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ジエンコポリマーは、基本的に、ランダムスチレン−ジエンコポリマーまたはスチレン−ジエンブロックコポリマーであってもよい。本発明に関する「ブロック」は、好ましくは、互いに連続する少なくとも2、好ましくは少なくとも4、さらにより好ましくは少なくとも6、さらにより好ましくは少なくとも8、最も好ましくは少なくとも10の同一のモノマー単位からなるポリマー単位であると理解される。
【0029】
従って、この水素化されているかまたは水素化されていないブロックコポリマーは、スチレン単位だけがブロック的に存在するコポリマー、ジエン単位(もしくはジエン単位の水素化された形態)だけがブロック的に存在するコポリマー、またはジエン単位(もしくはジエン単位の水素化された形態)およびスチレン単位の両方がブロック的に存在するコポリマーであってもよい。例えばモノマー状のスチレン単位およびジエン単位(もしくはジエン単位の水素化された形態)に加えてスチレンブロックが存在する水素化されているかもしくは水素化されていないブロックコポリマー、モノマー状のスチレン単位およびジエン単位(もしくはジエン単位の水素化された形態)に加えてジエンブロック(もしくはジエン単位の水素化された形態のブロック)が存在する水素化されているかもしくは水素化されていないブロックコポリマー、モノマー状のジエン単位(もしくはジエン単位の水素化された形態)に加えてスチレンブロックおよびジエンブロック(もしくはジエン単位の水素化された形態のブロック)が存在する水素化されているかもしくは水素化されていないブロックコポリマー、モノマー状のスチレン単位に加えてスチレンブロックおよびジエンブロック(もしくはジエン単位の水素化された形態のブロック)が存在する水素化されているかもしくは水素化されていないブロックコポリマー、またはモノマー状のジエン単位(もしくはジエン単位の水素化された形態)およびモノマー状のスチレン単位に加えてスチレンブロックおよびジエンブロック(もしくはジエン単位の水素化された形態のブロック)が存在する水素化されているかもしくは水素化されていないブロックコポリマーも想定される。
【0030】
本発明に係る錯体の特定の実施形態によれば、これらは、ブロックAがスルホン化ポリスチレンブロックに対応し、ブロックBが水素化されているかまたは水素化されていない、しかしながら好ましくは水素化されたポリイソプレンブロック(完全水素化ポリイソプレンブロックは、化学的には、交互共重合したエチレン−プロピレン単位のブロックに対応する)に対応する構造A−B−Aを持つ、水素化されているかまたは水素化されていない、好ましくは水素化されたスチレン−イソプレンブロックコポリマーを含む。ブロックAおよびBの長さは、好ましくは少なくとも5モノマー単位、特に好ましくは少なくとも10単位、最も好ましくは少なくとも20単位である。
【0031】
本発明に係る錯体の別の特定の実施形態によれば、これらは、ブロックAがtert−ブチル基で少なくとも部分的に置換されているポリスチレンブロックに対応し、ブロックBが水素化されているかまたは水素化されていない、しかしながら好ましくは水素化されたポリイソプレンブロック(完全水素化ポリイソプレンブロックは、化学的には、交互共重合したエチレン−プロピレン単位のブロックに対応する)に対応し、ブロックCがスルホン化ポリスチレンブロックに対応する構造A−B−C−B−Aを持つ、水素化されているかまたは水素化されていない、好ましくは水素化されたスチレン−イソプレンブロックコポリマーを含む。ブロックA、BおよびCの長さは、好ましくは少なくとも5モノマー単位、特に好ましくは少なくとも10単位、最も好ましくは少なくとも20単位である。このようなコポリマーは、例えば、米国、ヒューストンのKraton Polymers社から、製品名NEXAR(登録商標)で入手することができる。
【0032】
スルホン化のために使用される水素化されているかもしくは水素化されていないスチレン−ジエンコポリマーまたは水素化されているかもしくは水素化されていないスチレン−ジエンブロックコポリマーにおける、ジエン単位に対するスチレン単位の重量比に関しては、基本的には限定はない。例えば、当該コポリマーまたはブロックコポリマーは、5〜95重量%、特に好ましくは15〜80重量%、最も好ましくは25〜65重量%の重合したスチレンおよび95〜5重量%、好ましくは80〜15重量%、最も好ましくは65〜25重量%の重合した、水素化されていてもよいジエンに基づくことができ、このとき、水素化されていてもよいジエンおよびスチレンの総量は、好ましくは100重量%である。しかしながら、このスチレン単位および水素化されていてもよいジエン単位に加えてさらなるモノマー単位が当該コポリマーまたはブロックコポリマーの中に存在する場合には、この総量は、合計して100重量%になる必要はない。
【0033】
当該スルホン化合成ゴムの、好ましくはスチレンコポリマーに基づくスルホン化合成ゴムの、特に好ましくは水素化されているかまたは水素化されていない、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ジエンコポリマーに基づくスルホン化合成ゴムの、なおより好ましくは水素化されているかまたは水素化されていない、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ジエンブロックコポリマーに基づくスルホン化合成ゴムの、なおより好ましくは水素化された、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ジエンブロックコポリマーに基づくスルホン化合成ゴムの、なおより好ましくは水素化された、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ブタジエンまたはスチレン−イソプレンブロックコポリマーに基づくスルホン化合成ゴムの、最も好ましくは水素化された、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−イソプレンブロックコポリマーに基づくスルホン化合成ゴムのスルホン化度は、好ましくは、当量重量またはイオン交換能によって定められる。本発明の意味の範囲内で、当量重量は、1リットルの1N 水酸化ナトリウム溶液を中和するのに必要なポリマーの量であると理解される。従って、この当量重量は、イオン交換性スルホン酸基の濃度の尺度である。当量重量はeq/g単位で与えられる。この当量重量の逆数はイオン交換能である。イオン交換能はeq/gまたはmeq/gの単位で与えられる。本発明によれば、当該スルホン化合成ゴムのイオン交換能は、好ましくは0.01〜5meq/g、特に好ましくは0.05〜4meq/g、さらにより好ましくは0.2〜3.5meq/g、最も好ましくは1〜2.5meq/gである。
【0034】
このスルホン化合成ゴムと併用して、このスルホン化合成ゴムは、1000〜10,000,000g/molの範囲、特に好ましくは10,000〜1,000,000g/molの範囲、最も好ましくは100,000〜1,000,000g/molの範囲の重量平均分子量(M
w)を有することがさらに好ましい。この分子量は、明確な分子量を持つポリマーを使用して、特に水非混和性溶剤中の溶液の場合にはポリスチレンを使用して、または水混和性溶剤の場合にはポリスチレンスルホン酸を使用して、ゲル透過クロマトグラフィによって決定される。
【0035】
官能基化された合成ゴム、例えばスチレン−ブタジエンコポリマーの製造方法は、例えばIdibieら、Journal of Applied Polymer Science、2010年、第116巻、第6号、3473−3479頁に、Picchioniら、Polymer International、2001年、第50巻、714−721頁に、H.Q.Xieら、J.Appl.Polym.Sci.、2005年、第96巻、第4号、1398−1404頁に、または欧州特許出願公開第0 587 360(A)号明細書に記載されている。官能基化されたスチレン−ブタジエンコポリマーの製造に関するこれらの刊行物の開示は、出典を明記することにより参考として援用され、本発明の開示の一部を形成する。
【0036】
水素化されたスルホン化合成ゴムの調製方法は、例えば、J.Kimら、J.Membrane Sci.、2002年、第207巻、第1号、129−137頁、C.Wuら、Macromolecules、1996年、第29巻、第16号、5361−5367頁、S.ManiらMacromolecules、1999年、第32巻、第11号、3663−3670頁およびJ.M.Serpicoら、Macromolecules、2002年、第35巻、第15号、5916−5921頁に記載されている。KimらおよびWuらは、水素化されたスチレン−ブタジエンゴムのスルホン化を、Maniらは、水素化されたスチレン−イソプレンゴムのスルホン化を、Serpicoらはスチレン−エチレンコポリマーのスルホン化を記載する。
【0037】
ポリアニオンとして存在することが好ましい上述のスルホン化合成ゴムに加えて、本発明に係る錯体は、好ましくはポリカチオンとして、従って電気伝導性ポリマーとして存在するポリチオフェンを含む。
【0038】
当該ポリチオフェンは、好ましくは、一般式(III)の繰り返し単位
【化3】
(式中、
R
4およびR
5は、互いに独立に、各々、H、置換されていてもよいC
1−C
18アルキルラジカルまたは置換されていてもよいC
1−C
18アルコキシラジカルを表し、R
4およびR
5は一緒に、置換されていてもよいC
1−C
8アルキレンラジカル(この置換されていてもよいC
1−C
8アルキレンラジカルにおいて、1以上のC原子は、OもしくはSから選択される1以上の同一のもしくは異なるヘテロ原子によって置き換えられてもよく、好ましくはC
1−C
8ジオキシアルキレンラジカルである)、置換されていてもよいC
1−C
8オキシチアアルキレンラジカル、または置換されていてもよいC
1−C
8ジチアアルキレンラジカル、または置換されていてもよいC
1−C
8アルキリデンラジカル(この置換されていてもよいC
1−C
8アルキリデンラジカルにおいて、少なくとも1つのC原子は、OもしくはSから選択されるヘテロ原子によって置き換えられてもよい)を表す)
を含む。
【0039】
これらは、特に好ましくは、一般式(III−a)および/または(III−b)の繰り返し単位を含むポリチオフェン
【化4】
(式中、
Aは、置換されていてもよいC
1−C
5アルキレンラジカル、好ましくは置換されていてもよいC
2−C
3アルキレンラジカルを表し、
YはOまたはSを表し、
R
6は、直鎖状もしくは分枝状の、置換されていてもよいC
1−C
18アルキルラジカル、好ましくは直鎖状もしくは分枝状の、置換されていてもよいC
1−C
14アルキルラジカル、置換されていてもよいC
5−C
12シクロアルキルラジカル、置換されていてもよいC
6−C
14アリールラジカル、置換されていてもよいC
7−C
18アラルキルラジカル、置換されていてもよいC
7−C
18アルカリールラジカル、置換されていてもよいC
1−C
4ヒドロキシアルキルラジカル、またはヒドロキシルラジカルを表し、
yは、0〜8の整数、好ましくは0、1または2、特に好ましくは0または1を表し、
複数のラジカルR
6がAに結合されている場合、それらは、同じであってもよいしまたは異なってもよい)
である。
【0040】
一般式(III−a)は、置換基R
6が、y個、アルキレンラジカルAに結合されていてもよいというように理解されるべきである。
【0041】
本発明に係る錯体のさらなる最も特に好ましい実施形態では、一般式(III)の繰り返し単位を含むポリチオフェンは、一般式(III−aa)および/または一般式(III−ab)の繰り返し単位を含むポリチオフェン
【化5】
(式中、R
6およびyは、これまでに与えられた意味を有する)
である。
【0042】
本発明に係る錯体のなおさらなる例示の好ましい実施形態では、一般式(III)の繰り返し単位を含むポリチオフェンは、一般式(III−aaa)および/または一般式(III−aba)のポリチオフェンを含むポリチオフェンである。
【化6】
【0043】
本発明に関しては、接頭辞「ポリ」は、複数の同一のまたは異なる繰り返し単位が当該ポリチオフェンの中に含まれるということを意味すると理解されたい。このポリチオフェンは、合計n個の、一般式(III)の繰り返し単位の繰り返し単位を含み、nは2〜2,000、好ましくは2〜100の整数であることができる。ポリチオフェン内の一般式(III)の繰り返し単位は、いずれも同一であってもよいしまたは異なってもよい。いずれも同一の一般式(III)の繰り返し単位を含むポリチオフェンが好ましい。
【0044】
当該ポリチオフェンは、末端基に、各々Hを有することが好ましい。
【0045】
特に好ましい実施形態では、一般式(III)の繰り返し単位を有するポリチオフェンは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンオキシチアチオフェン)またはポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)、すなわち、Y=Sである式(III−aaa)、(III−aba)または(III−b)の繰り返し単位を含むホモポリチオフェンであり、(III−aaa)の繰り返し単位を含むホモポリマー(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))が最も好ましい。
【0046】
当該置換されていてもよいポリチオフェンはカチオン性であり、「カチオン性」は、当該ポリチオフェン主鎖上に存在する電荷のみに関する。ラジカルR
4およびR
5の置換基に応じて、上記ポリチオフェンは、構造単位に正電荷および負電荷を有していてもよく、この場合この正電荷はポリチオフェン主鎖上に存在し、負電荷は、スルホネートまたはカルボキシレート基によって置換されたラジカルR上に存在してもよい。その場合、このポリチオフェン主鎖の正電荷は、ラジカルR上に存在してもよいアニオン性基によって一部または完全に飽和していてもよい。全体で見ると、これらの場合のポリチオフェンは、カチオン性であってもよく、電荷を帯びていなくてもよく、またはアニオン性でさえあってもよい。とはいうものの、本発明に関しては、それらはすべてカチオン性ポリチオフェンと考えられる。なぜなら、このポリチオフェン主鎖上の正電荷が重要だからである。正電荷は式には示されていない。なぜなら、その正電荷は共役して非局在化しているからである。正電荷の数は、しかしながら、少なくとも1でありかつ多くともnである(ここでnはこのポリチオフェン内の(同一のまたは異なる)すべての繰り返し単位の総数である)。
【0047】
本発明に係る錯体におけるポリチオフェンとスルホン化合成ゴムとの重量比(ポリチオフェン:スルホン化合成ゴム)は、好ましくは1:0.1〜1:100の範囲、好ましくは1:0.2〜1:20の範囲、特に好ましくは1:0.5〜1:10の範囲にある。
【0048】
最初に掲げた目的の成就に向けた寄与は、
ポリチオフェンと、
スルホン化合成ゴム、好ましくはスチレンコポリマーに基づくスルホン化合成ゴム、特に好ましくは水素化されているかまたは水素化されていない、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ジエンコポリマーに基づくスルホン化合成ゴム、なおより好ましくは水素化されているかまたは水素化されていない、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ジエンブロックコポリマーに基づくスルホン化合成ゴム、なおより好ましくは水素化された、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ジエンブロックコポリマーに基づくスルホン化合成ゴム、なおより好ましくは水素化された、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−ブタジエンまたはスチレン−イソプレンブロックコポリマーに基づくスルホン化合成ゴム、最も好ましくは水素化された、部分的にアルキル置換されていてもよいスチレン−イソプレンブロックコポリマーに基づくスルホン化合成ゴムと、
を含む錯体の製造方法であって、
このスルホン化合成ゴムの存在下でチオフェンモノマーが酸化的に重合される、
製造方法によってもなされる。
【0049】
一般式(III)の繰り返し単位を含むポリチオフェンおよびその誘導体の製造のためのモノマー状の前駆体の製造方法は、当業者には公知であり、例えばL.Groenendaal、F.Jonas、D.Freitag、H.Pielartzik & J.R.Reynolds、Adv.Mater.、2000年、第12巻、481−494頁およびその中で引用される文献に記載されている。異なる前駆体の混合物も使用することができる。
【0050】
本発明の意味の範囲内で、上記のチオフェンの誘導体は、例えばこれらのチオフェンの二量体または三量体であると理解される。このモノマー状の前駆体のより高分子量の誘導体、すなわち四量体、五量体なども、誘導体として可能である。この誘導体は、同じモノマー単位から構築されるか異なるモノマー単位から構築されるかのいずれでもよく、純粋な形態で使用されてもよいし、誘導体どうしの混合物および/または本願明細書中上記のチオフェンとの混合物として使用されてもよい。本発明の意味の範囲内で、これらのチオフェンおよびチオフェン誘導体の酸化された形態または還元された形態も、用語「チオフェン」および「チオフェン誘導体」に包含されるが、ただしこれはその重合が、上に記載したチオフェンおよびチオフェン誘導体を用いた場合と同じ導電性ポリマーを与える場合に限る。
【0051】
置換されていてもよい一般式(III)の繰り返し単位を含むポリチオフェンの製造のための特に好適なチオフェンモノマーは、置換されていてもよい3,4−アルキレンジオキシチオフェンであり、これは、例として、一般式(IV)
【化7】
(式中、A、R
6およびyは式(III−a)に関連して記載した意味を有し、複数のラジカルRがAに結合されている場合、それらは、同じであってもよいしまたは異なってもよい.)
によって表すことができる。
【0052】
最も特に好ましいチオフェンモノマーは置換されていてもよい3,4−エチレンジオキシチオフェンであり、チオフェンモノマーとしての非置換3,4−エチレンジオキシチオフェンの使用が最も特に好ましい。
【0053】
本発明に係る製造方法では、当該チオフェンモノマーが、スルホン化合成ゴムの存在下で、好ましくは水素化されているかもしくは水素化されていないスルホン化スチレン−ジエンコポリマーまたはスチレン−ジエンブロックコポリマーの存在下で酸化的に重合され、スルホン化合成ゴムとしては、特に水素化されているかもしくは水素化されていないスルホン化スチレン−ジエンコポリマーまたはスチレン−ジエンブロックコポリマーとしては、本発明に係る錯体に関連して好ましいスルホン化合成ゴムとしてすでに挙げられた合成ゴム、コポリマーおよびブロックコポリマーが特に好ましい。
【0054】
ピロールの酸化重合に好適な酸化剤を酸化剤として使用することができる。実務面の理由から、安価で取扱いが容易な酸化剤が好ましく、例としては、例えばFeCl
3、Fe(ClO
4)
3などの鉄(III)塩、ならびに有機酸の鉄(III)塩および有機ラジカルを含む無機酸の鉄(III)塩が挙げられる。C
1−C
20アルカノールの硫酸ヘミエステルの鉄(III)塩、例えばラウリル硫酸のFe(III)塩が、有機ラジカルを含む無機酸の鉄(III)塩の例として挙げられる。以下のものが、有機酸の鉄(III)塩の例として挙げられる:C
1−C
20アルキルスルホン酸、例えばメタンスルホン酸およびドデカンスルホン酸、のFe(III)塩;脂肪族C
1−C
20カルボン酸、例えば2−エチルヘキシルカルボン酸、のFe(III)塩;脂肪族ペルフルオロカルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸およびペルフルオロオクタン酸、のFe(III)塩;脂肪族ジカルボン酸、例えばシュウ酸、のFe(III)塩、ならびにとりわけ、C
1−C
20アルキル基で置換されていてもよい芳香族スルホン酸、例えばベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸およびドデシルベンゼンスルホン酸、のFe(III)塩。有機酸の鉄(III)塩は、それらが有機溶剤に、特に水非混和性有機溶剤に部分的にまたは完全に可溶であるという応用面での大きな長所を有する。例えばtert−ブチルペルオキシド、ジイソブチリルペルオキシド、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート、ジデカノイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、過安息香酸tert−ブチル、ジ−tert−アミルペルオキシドなどの有機過酸化物も、酸化剤として使用することができる。例えば2,2’−アゾジイソブチロニトリルなどの有機アゾ化合物も使用することができる。
【0055】
本発明に係る製造方法では、チオフェンモノマーの酸化重合が、水非混和性有機溶剤または水非混和性有機溶剤の混合物の中で、当該スルホン化合成ゴムの存在下で行われることがさらに好ましい。
【0056】
例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンもしくはシクロヘプタンなどの直鎖状、分枝状もしくは環状の脂肪族炭化水素、例えばベンゼン、トルエンもしくはキシレンなどの芳香族炭化水素、例えばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル tert−ブチルエーテルなどのエーテル、例えばジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、トリクロロエタンおよびトリクロロエテンなどのハロゲン化炭化水素、例えばクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、例えばアセトニトリルなどの脂肪族ニトリル、例えばジメチルスルホキシドもしくはスルホランなどの脂肪族スルホキシドおよびスルホン、例えばメチルアセトアミド、ジメチルアセトアミドもしくはジメチルホルムアミドなどの脂肪族カルボン酸アミド、例えばアセトン、メチルエチルケトンもしくはメチル t−ブチルケトンなどのケトン、例えば酢酸メチル、酢酸エチルもしくは酢酸ブチルなどのエステル、またはこれらの水非混和性有機溶剤の混合物が、好適な水非混和性有機溶剤の例として挙げられる。
【0057】
この水非混和性有機溶剤中または水非混和性有機溶剤の混合物の中のチオフェンモノマーおよびスルホン化合成ゴムの濃度は、スルホン化合成ゴムの存在下でのチオフェンモノマーの酸化重合後に、0.1〜30重量%の範囲、好ましくは0.5〜20重量%の範囲、さらにより好ましくは1〜10重量%の範囲の濃度のポリチオフェンおよびスルホン化合成ゴムを含む錯体を含む分散液が得られるように選ばれることが好ましい。
【0058】
本発明に係る製造方法のさらなる特定の実施形態によれば、スルホン化合成ゴムの存在下でのチオフェンモノマーの酸化重合が、いずれの場合も反応混合物の総重量に対して5重量%未満の、さらにより好ましくは1重量%未満の、最も好ましくは0.5重量%未満の水の存在下で行われることが好ましい。
【0059】
最初に掲げた目的の成就に向けた寄与は、上記の製造方法によって得ることができる錯体によってもなされる。
【0060】
最初に掲げた目的の成就に向けた寄与は、水非混和性有機溶剤もしくは水非混和性有機溶剤の混合物を含む組成物によっても、この有機溶剤もしくはこの有機溶剤の混合物に溶解もしくは分散した本発明に係る錯体によっても、または本発明に係る製造方法によって得ることができる錯体によってもなされる。
【0061】
本発明に係る錯体の製造方法に関連して好ましい水非混和性有機溶剤として上ですでに挙げられた溶剤は、水非混和性有機溶剤として好ましい。
【0062】
上記チオフェンモノマーの酸化重合が、対応する水非混和性有機溶剤または対応する水非混和性有機溶剤の混合物の中で、スルホン化合成ゴムの存在下で実施されるならば、このような組成物は、好ましくは、本発明に係る錯体の製造方法によって得ることができる。
【0063】
当該組成物は、好ましくは、ポリチオフェンと、スルホン化合成ゴム、好ましくは水素化されているかもしくは水素化されていないスルホン化スチレン−ジエンコポリマーまたはスチレン−ジエンブロックコポリマーとを含む錯体を、0.1〜40重量%の範囲、さらにより好ましくは1〜30重量%の範囲、なおより好ましくは1〜10重量%の範囲の濃度で含む。特定の実施形態では、この組成物は、高固形分含量によって際立つ。0.1〜60重量%、特に好ましくは1〜50%、最も特に好ましくは2〜40重量%、さらにより好ましくは5〜30%、最も好ましくは7.5〜20重量%の固形分含量が好ましい。
【0064】
本発明に係る組成物の特に好ましい実施形態によれば、本発明に係る組成物が、いずれの場合も当該組成物の総重量に対して5重量%未満、特に好ましくは1重量%未満、最も好ましくは0.5重量%未満の、本願明細書に記載される試験方法によって求められた水分含量を有することがさらに好ましい。
【0065】
最初に掲げた目的の成就に向けた寄与は、基板と、その基板表面の少なくとも一部に対して付与された導電層とを含む層構造であって、この導電層は、本発明に係る錯体または本発明に係る製造方法によって得ることができる錯体を含む、層構造によってもなされる。
【0066】
特にプラスチックフィルムは、本発明に関する基板として好ましく、最も特に好ましくは、従来どおり、5〜5000μmの範囲、特に好ましくは10〜2500μmの範囲、最も好ましくは100〜1000μmの範囲の厚さを有する透明なプラスチックフィルムである。このようなプラスチックフィルムは、例えば、ポリカーボネート、例えばPETおよびPEN(ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレンジカルボキシレート)などのポリエステル、コポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンまたは環状ポリオレフィンまたは環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、水素化されたスチレンポリマーまたは水素化されたスチレンコポリマーなどのポリマーに基づくことができる。プラスチック材料に加えて、特に金属または金属酸化物に基づく基板も基板として好適であり、例としては、例えばITO層(酸化インジウムスズ層)などが挙げられる。ガラスも基板として使用することができる。
【0067】
最初に掲げた目的の成就に向けた寄与は、層構造の製造方法であって、
I)基板を準備する工程と、
II)本発明に係る組成物を付与する工程と、
III)この有機溶剤を少なくとも部分的に除去して、本発明に係る錯体または本発明に係る製造方法によって得ることができる錯体を含む導電層を得る工程と
を含む製造方法によってもなされる。
【0068】
この方法の工程I)では、まず基板が準備され、この際には、本発明に係る層構造に関連して好ましい基板として上ですでに挙げられた基板が基板として好ましい。表面の極性、従ってぬれ性および化学親和性を改良するために、この基板の表面は、導電層を付与する前に、例えばコロナ処理、火炎処理、フッ素化またはプラズマ処理によって、前処理されてもよい。
【0069】
工程II)で、層を形成する目的で、本発明に係る組成物が基板表面に付与される前に、例えば電気伝導率を上昇させるさらなる添加剤も、この組成物に加えられてもよく、その例としては、例えばテトラヒドロフランなどのエーテル基を含む化合物、ブチロラクトン、バレロラクトンなどのラクトン基を含む化合物、カプロラクタム、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルホルムアミド、N−メチルホルムアニリド、N−メチルピロリドン(NMP)、N−オクチルピロリドン、ピロリドンなどのアミド基もしくはラクタム基を含む化合物、例えばスルホラン(テトラメチレンスルホン)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホンおよびスルホキシド、例えばスクロース、グルコース、フルクトース、ラクトースなどの糖または糖誘導体、例えばソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール、例えば2−フランカルボン酸、3−フランカルボン酸などのフラン誘導体、ならびに/または例えばエチレングリコール、グリセロールもしくはジエチレングリコールもしくはトリエチレングリコールなどのジアルコールもしくはポリアルコールが挙げられる。テトラヒドロフラン、N−メチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシドまたはソルビトールが、電気伝導率を上昇させる添加剤として使用されることが特に好ましい。
【0070】
特に有機溶剤に可溶である1以上の有機バインダ、例えばポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸アミド、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸アミド、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、シリコーン、エポキシ樹脂、スチレン−アクリレート、酢酸ビニル/アクリレートおよびエチレン/酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルアルコールまたはセルロース誘導体も、当該組成物に加えられてもよい。使用される場合の、この高分子バインダの割合は、従来どおり、コーティング組成物の総重量に対して0.1〜95重量%の範囲にある。
【0071】
pHを調整するために、例えば、酸または塩基をこのコーティング組成物に加えることができる。分散液の膜形成に悪影響を与えない添加剤が好ましく、例えば塩基2−(ジメチルアミノ)−エタノール、2,2’−イミノジエタノールまたは2,2’,2”−ニトリロトリエタノールが挙げられる。
【0072】
層構造を製造するための本発明に係る製造方法の特に好ましい実施形態によれば、基板表面上への付与後の当該組成物の架橋を可能にする架橋剤も、基板表面への付与の前に、当該組成物に添加されてもよい。有機溶剤に対する当該コーティングの溶解性も、このようにして低下させることができる。メラミン化合物、ブロック化イソシアネート、官能性シラン、例えばテトラエトキシシラン,アルコキシシラン加水分解生成物、例えばテトラエトキシシランに基づく加水分解生成物、または3−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシランなどのエポキシシランが、好適な架橋剤の例として挙げられる。これらの架橋剤は、いずれの場合も組成物の総重量に対して0.01〜10重量%の範囲の量、特に好ましくは0.05〜5重量%の範囲の量、最も好ましくは0.1〜1重量%の範囲の量で、当該組成物に加えられてもよい。
【0073】
次いで、工程II)において、このコーティング組成物は、公知の方法によって、例えば、スピンコーティング、ディッピング(浸漬)、注ぎ込み、滴下、注入、噴霧、ドクターブレード塗布、塗装または印刷、例えば、インクジェット印刷、スクリーン印刷、凹版印刷、オフセット印刷またはパッド印刷によって、0.1μm〜250μmの乾燥前膜厚、好ましくは0.5μm〜50μmの乾燥前膜厚で基板に付与され、その後、20℃〜200℃の温度で乾燥されてもよい。
【0074】
本発明に係る層構造において基板表面を少なくとも部分的に覆う層は、好ましくは0.01〜50μmの範囲、特に好ましくは0.02〜25μmの範囲、最も好ましくは0.02〜10μmの範囲の膜厚を有する。
【0075】
次いで工程III)では、有機溶剤が少なくとも部分的に除去されて、本発明に係る錯体または本発明に係る製造方法によって得ることができる錯体を含む導電層が得られ、この除去は、簡便な蒸発によって実施されることが好ましい。
【0076】
最初に掲げた目的は、上記の製造方法によって得ることができる層構造によっても成し遂げられる。
【0077】
本発明に係る層構造または本発明に係る製造方法によって得ることができる層構造に関連して、本願明細書に記載される試験方法によって決定される導電層の比抵抗が、好ましくは10,000Ω・cm未満であることがさらに好ましい。比抵抗は、任意に、当該組成物への、さらなるポリアニオンの選択的な添加によって、特にさらなるスルホン化合成ゴムの選択的な添加によって、特にさらなる水素化されているかもしくは水素化されていないスルホン化スチレン−ジエンコポリマーまたはスチレン−ジエンブロックコポリマーの選択的な添加によって、個々の応用例についての最適値へと調整されてもよい。
【0078】
最初に掲げた目的の成就に向けた寄与は、本発明に係る層構造を含む電子部品によってもなされる。好ましい電子部品は、特に有機発光ダイオード、有機太陽電池または有機コンデンサであり、コンデンサにおける使用、特に誘電体としての酸化アルミニウムを伴うコンデンサにおける固体電解質としての使用が特に好ましい。
【0079】
最初に掲げた目的の成就に向けた寄与は、電子部品における、特に有機発光ダイオード、有機太陽電池もしくはコンデンサにおける導電層を製造するため、または帯電防止コーティングを製造するための本発明に係る組成物の使用によってもなされる。
【0080】
このあと、本発明は、図表、試験方法および非限定的な実施例を参照してより詳細に説明される。