(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記積層体が、前記繊維群含有層以外の層として、内包された繊維が立体網目状構造体である層を更に有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の臓器モデル。
前記ハイドロゲル材料からなる層の少なくとも一つが、或る色を有する第1有色層であり、該第1有色層と異なる層の少なくとも一つが該或る色とは異なる色を有する第2有色層であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の臓器モデル。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る臓器モデルは、ハイドロゲル材料からなる層を複数積層させた積層体であり、前記層の1以上が、該層の内部であり且つ該層の平面方向に亘って繊維群が略連続的に偏在している繊維群を含有する繊維群含有層であることを特徴とする。積層するハイドロゲル材料からなる層の数に制限はなく、使用目的により異なる。前記繊維群含有層についても、層の数に制限はなく、使用目的により異なる。前記繊維群含有層とそれ以外の層の配置についても、使用目的により異なる。また、本発明に係る臓器モデルとして、ハイドロゲル材料からなる層のみを含む積層体を例示しているが、これには限定されず、ハイドロゲル材料からなる層以外の層(ハイドロゲル材料以外の軟質材料からなる層や、硬質材料を含む層)を含んでいてもよい。
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。本明細書及び図面においては、同一の符号が付された構成要素は、実質的に同一の構造又は機能を有するものとする。
【0021】
本発明に係る臓器モデルについては、以下の順序で説明する。
1 第1実施形態
1−1 第1実施形態に係る臓器モデルの構成
1−2 第1実施形態に係る臓器モデルの性質
1−3 第1実施形態に係る臓器モデルの用途・使用方法
1−4 第1実施形態に係る臓器モデルの製造方法
2 第2実施形態
2−1 第2実施形態に係る臓器モデルの構成
2−2 第2実施形態に係る臓器モデルの用途・使用方法
2−3 第2実施形態に係る臓器モデルの製造方法
3 第3実施形態
3−1 第3実施形態に係る臓器モデルの構成
3−2 第3実施形態に係る臓器モデルの用途・使用方法
3−3 第3実施形態に係る臓器モデルの製造方法
【0022】
ここで、以下の実施形態は、あくまで一例であり、各層の材質、製造方法(例えば、積層方法)等に関し、以下の態様に限定されるものではない。また、各実施形態は、特定のものに対して適用されると限定的に解すべきでなく、どのような組み合わせであってもよい。例えば、技術的に矛盾しない限り、ある実施形態についての記載は、別の実施形態についての記載でもあると理解すべきであり、また、ある記載と別の記載が独立して記載されていたとしても、当該ある記載と当該別の記載を組み合わせたものも記載されていると理解すべきである。更に、以下の実施形態において示す具体的一例としての数値等の情報は、あくまで一例であり、以下の実施形態や変更例の趣旨を大きく逸脱しない限りにおいては、適宜変更してもよいものであると理解すべきである。
【0023】
『第1実施形態』
≪第1実施形態に係る臓器モデルの構成≫
<全体の構成>
本実施形態に係る臓器モデルは、目的に応じて、積層体が、少なくとも2の繊維群含有層として、第1繊維群が内包された繊維群含有層と、第2繊維群が内包された繊維群含有層と、を有しているか、又は前記積層体が、少なくとも1の繊維群含有層として、少なくとも第1繊維群と第2繊維群とが内包された繊維群含有層を有していることを特徴としている。以下においては、積層体が、少なくとも2の繊維群含有層として、第1繊維群が内包された繊維群含有層と、第2繊維群が内包された繊維群含有層と、を有している構成に関して詳述する。即ち、本実施形態においては、繊維群含有層のみを複数層積層させた積層体に関して詳述するが、繊維群を含有しないハイドロゲルからなる層を少なくとも1層と繊維群含有層を少なくとも1層とを有する積層体であってもよい。また、積層体全体の厚みや、各層の厚みは、目的に応じて適宜変更すればよい。
【0024】
図1を参照しながら、本実施形態に係る臓器モデルの構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る前記繊維群含有層が2層ある臓器モデルの模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る臓器モデルは、ハイドロゲル材料からなる層(前記繊維群含有層104及び繊維群含有層105)を2層積層させた臓器モデルであり、繊維群含有層104と繊維群含有層105の界面が101である。
【0025】
[ハイドロゲル材料からなる層]
本実施形態に係る臓器モデルにおける、ハイドロゲル材料からなる層(繊維群含有層104及び繊維群含有層105)を詳述する。尚、当該ハイドロゲル材料からなる層の上に、更にコーティング層{当該材料として、例えば、ハイドロゲル(例えば、ポリビニルアルコール)}を有していてもよい。当該コーティング層(薄膜)は、ディップコートや塗りつけ・吹きつけすることにより、或いは、当該膜を別製作してから貼付することにより形成され得る。
【0026】
(ハイドロゲル材料)
本実施形態に係るハイドロゲル材料は限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミドなどの高分子ゲル材料、あるいはセルロース、デンプン、コラーゲンなどの天然ゲル材料を用いることが可能である。本発明の課題においては、特に、ポリビニルアルコールからなる架橋ゲルを含有することが好ましい。
【0027】
ポリビニルアルコールの平均重合度は限定されないが、好適には500〜3000、より好適には1000〜2000、更に好適には1500〜2000である。また、ポリビニルアルコールのけん化度は限定されないが、好適には90モル%以上、より好適には95モル%以上である。尚、当該平均重合度は、例えば、重合度の異なる複数種のポリビニルアルコールをブレンドした場合においては、これら複数種のポリビニルアルコールの平均重合度を指す。
【0028】
また、架橋ゲルは、所望の性質(例えば、適度な硬度)を得るために、ジメチルスルホキシドを用いて架橋されることが好ましい。他方、例えば、皮膚における皮下組織を模す場合には、非架橋のハイドロゲルも好適に使用可能である。
【0029】
ジメチルスルホキシドを用いてポリビニルアルコールを架橋する場合、ポリビニルアルコール、ジメチルスルホキシド及び水の配合比は限定されないが、例えば、特開2007−316434号公報記載の配合比を用いることができる。より具体的には、ポリビニルアルコール、ジメチルスルホキシド及び水を含有する混合溶液の総重量を基準として、好適には3〜30重量%、より好適には8〜20重量%である。また、ジメチルスルホキシドと水との割合は限定されないが、好適には、ジメチルホキシド:水の重量比が3:1〜1:7、より好適には1:2〜1:6である。
【0030】
(繊維群)
ここで本実施形態に係るハイドロゲル材料からなる層は、繊維群を含有する層(繊維群含有層)であり、該層の内部であり且つ該層の平面方向に亘って繊維群が略連続的に偏在している。前記繊維群の繊維群含有層内部での位置・状態は、該層の内部であり且つ該層の平面方向に亘って繊維群が略連続的に偏在していれば足り、制限はない。本実施形態においては、繊維群をシート状の繊維シート103としているが、これには限定されず、例えば、丸めて埋没している状態、蛇腹状に織り込ませている状態等でもよい。
【0031】
・材料
繊維群の材料としては限定されず、目的に応じて一般的な繊維を適宜用いればよく、例えば、セルロース又はセルロースを主成分とする繊維(例えば、麻、紙、綿など)、毛、レーヨンなどの他にも、アクリル、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン等の化学繊維、あるいは炭素繊維等を用いればよい。また、繊維群の形状も限定されず、目的に応じて異なり、例えば、織布や不織布等のシート状、立体網目状(例えば、綿状)、起泡体状などが挙げられる。中でも、実際の臓器の層厚が薄いこと、面方向の張りを維持できるために引き剥がし面を容易に設定できることから、シート状が好適である。このようなシート状の繊維群を用いることにより、例えば、当該繊維群が芯材となることで伸縮方向への強度(特には引っ張り強度)を向上させることが可能となる。また、繊維が結合された状態であるため、引き裂き面を容易に設定可能となる。更に、薄い層とすることも可能となる。ここで、繊維群の形状として、立体網目状(例えば、綿状)とした態様に関しては、後述の第2実施形態において詳述する。
【0032】
・厚さ、目付
繊維群の厚さは目的に応じて異なり、限定されないが、例えば0.01〜10mm程度である。繊維群の目付は限定されないが、例えば5〜300g/m
2等とすればよい。
【0033】
このような繊維群含有層を設けることにより、例えば、層の引き剥がし性(これについては後述する。)を付与することが可能となるが、繊維群を含有させることにより、当該繊維群が芯材となることで伸縮方向への強度(特には引っ張り強度)を向上させることが可能となり、更には、薄い造形とすることも可能となる。また、繊維群の材質(材料)や厚さ・目付、繊維群の配置方法等を変更することにより、所望の強度を得ることが可能となる。
【0034】
(その他の成分)
前記ハイドロゲル材料には、使用目的に応じて、着色剤を添加することができる。着色剤で着色することによって、臓器モデルを人体の臓器に近い色にすることができる。より具体的には、本実施形態に係る臓器モデルは、或る色を有する第1有色層と、該或る色とは異なる色を有する第2有色層と、を含む積層体であってもよい。このように、異なる色を有する層を積層させることによって、実際の臓器に近い構成とすることができる。尚、この場合、該或る色及び該異なる色以外の色を有する層を更に含む積層体であってもよい。
【0035】
また、前記ハイドロゲル材料には、その他の公知の添加剤(例えば、酸化防止剤等)を添加してもよい。
【0036】
以上、本実施形態に係る板状の積層体100に関して説明したが、当該積層体100を適宜組み合わせる等して、袋状や筒状、管状等の、内部に空洞を有する構造である臓器モデルとしてもよい。
【0037】
≪第1実施形態に係る臓器モデルの性質≫
<引き剥がし性>
本実施形態に係る臓器モデルは、前記繊維群含有層と隣接する層を該繊維群含有層と該隣接する層の界面近傍で膜状に引き剥がし可能である。これは、繊維群含有層が、繊維群があるために、引き剥がしに対する強度を有し、結合の弱い界面近傍で層が膜状に引き剥がれるためである。このような性質は、下記試験によって確認できる。
【0038】
さらに、本実施形態に係る積層体における繊維群含有層は、前記強度を有することから、前記積層体において、前記繊維群含有層が第1繊維群含有層と第2繊維群含有層の2つ以上あり、該第1繊維群含有層が含有する前記繊維群が第1繊維群であり、かつ、該第2繊維群含有層が含有する前記繊維群が第2繊維群である、又は、前記繊維群含有層の1つ以上が前記繊維群を第1繊維群と第2繊維群の2枚以上含有する場合において、前記第1繊維群と前記第2繊維群の間で引き剥がし可能である。
【0039】
つまり、本実施形態に係る積層体100は、第1繊維群が内包された繊維群含有層と、第2繊維群が内包された繊維群含有層と、を有するものとしたが、その他にも、少なくとも1の繊維群含有層として、少なくとも第1繊維群と第2繊維群とが内包された繊維群含有層を有する構造であってもよい。このような構造とすることによっても、同様の効果を奏することができる{即ち、繊維群と繊維群との間(層内)において、膜状に引き剥がれることを可能とする}。
【0040】
(引き剥がし荷重試験)
対象物の層を成している界面より、層を2つに引き剥がす際の荷重であり、層の結合力が弱いと荷重は低く出る。層の結合力が強いと荷重は高く出る。本実施形態に係る引き剥がし荷重は、0.1〜50N/cmが好適であり、0.1〜10N/cmであることがより好適である。より具体的には、対象とする臓器モデルの種類によって異なるが、例えば胃のモデルの場合、0.2〜5N/cmが好ましいが、より好適には0.5〜2.5N/cmである。この範囲とすることにより、各層が適切に引き剥がれる性質を持ち、より現実に近い引き剥がしの感覚が得られる。ここで、本引き剥がし荷重は、下記測定方法に従って測定された値から算出したものである。尚、臓器モデルの場所により当該引き剥がし荷重が異なることがあるが、この場合、いずれかの場所における当該強度が前記範囲内であってもよく、或いは、すべての場所における当該強度が前記範囲内であってもよい。
【0041】
引張試験機として、イマダ製 SV−5−L、荷重計として、イマダ製 DPX-5TRを用いる。尚、試験サンプルはクランプ幅が5cm、他方が10cmの長方形に揃えておく。
図5に示されるように、引き剥がし対象とする箇所(
図5においては、層間)を予め3cm程度引き剥がしておき、その上層と下層の略中心の、端部から1cmを、各々クランプで固定して載置し、引張速度:30mm/分の試験条件において、引き剥がし荷重を測定する。尚、引き剥がし荷重としては、初期状態から層が完全に引き剥がされるまでの間の、最大の値とする。測定された値(N)を、試験サンプルのクランプ幅(5cm)で割ることにより、引き剥がし荷重(N/cm)が算出される。
【0042】
<切開・刺突抵抗性>
また、前記繊維群含有層が繊維群を含有するために、メスが切り開いていくときに、当該繊維群を切ることによって、メスが切り開いていくときに感じる弾力感に加え、滑りや引っ掛かり感がある性質を有する。そして、縫合や吻合時の手術針を通した時に、当該繊維群に針が通ることによって、縫合や吻合時の手術針を通した時の抵抗度合や、糸の結び目が引っ掛かる性質を有する。このような性質は、下記試験によって確認できる。
【0043】
(メス刺荷重試験)
対象物へ垂直にメスを差し込んでいく際の荷重であり、対象物が柔らかいと荷重は低く出る。対象物が硬いと荷重は高く出る。繊維質であったり素材が均一でないと、ザクザクとした波形になる。波形の形状が実際の臓器で行った場合の波形の形状に近いものであれば、メスが切り開いていくときに感じる引っ掛かり感がより現実に近い感覚となる。また、本実施形態に係るメス刺荷重は、対象とする臓器モデルの種類によって異なるが、例えば胃のモデルの場合、0.5〜10Nが好ましく、より好適には1.5〜6Nである。この範囲とすることにより、メスが切り開いていくときに感じる弾力感、滑りや引っ掛かり感がより現実に近い感覚となる。ここで、本メス刺荷重は、下記測定方法に従って測定されたものである。
【0044】
上記引き剥がし荷重試験と同様に、引張試験機として、イマダ製 SV−5−L、荷重計として、イマダ製 DPX-5TRを用いる。使用メスは、ディスポメス アズワン製 NO.10を用いる。
図6に示されるように、対象臓器モデルに対してメスが垂直に刺し込まれるように臓器モデルを位置決めし、メスの刺し込み速度:30mm/秒の試験条件にてメスに掛かる荷重変化を測定する。初期状態からメスの刃が対象臓器モデルへ完全に埋没するまでの間計測する。
【0045】
(糸千切れ荷重試験)
対象物に糸を一度貫通させてから結び目を作り、対象物を挟んだ輪とする。この糸の輪を引っ張る際の荷重を測定する。対象物が弱いと荷重は低く出る。対象物が強いと荷重は高く出て、糸の強度を超えたところで荷重はゼロになる。本実施形態に係る糸千切れ荷重は、対象とする臓器モデルの種類によって異なるが、例えば大腸モデルの場合、1〜30Nが好ましいが、より好適には3〜20Nである。この範囲とすることにより、縫合糸の千切れない範囲の硬度に収まり、かつ臓器モデルが千切れたり裂けることなく結紮が行える性質が得られる。ここで、本糸千切れ荷重は、下記測定方法に従って測定されたものである。
【0046】
上記引き剥がし荷重試験と同様に、引張試験機として、イマダ製 SV−5−L、荷重計として、イマダ製 DPX-5TRを用いる。
図7に示されるように、対象臓器モデルのエッジ付近上面から5mmの所へ糸(B.BRAUN製 SAFIL 3/0 70cm HR26)を通し、エッジ付近側面5mmの所から糸を貫通させ、その糸の先頭と終端を結び輪状態にする。対象臓器モデルを引張試験機の測定台に固定し、糸輪の反対側を荷重計で引き、その際の荷重変化を測定する。初期状態から、糸が切れるか、または臓器モデルのエッジが千切れて糸輪が抜けるまでの間測定する。
【0047】
≪第1実施形態に係る臓器モデルの用途・使用方法≫
本実施形態に係る積層体100を臓器モデルとした場合には、各層が適切に剥がれる性質、メスが切り開いていくときに感じる弾力感に加え、滑りや引っ掛かり感がある性質、及び、縫合糸が埋没せずに結紮を行える性質や、糸の結び目が引っ掛かる性質を持つことから、手術前予行演習、手術トレーニング、または手術用器具の性能評価の精度を上げるための臓器モデルとして使用することができる。
【0048】
本実施形態に係る積層体100の具体的な用途は限定されないが、例えば、前記臓器が心臓、胸壁、腹壁、横隔膜、胆嚢、胃、膀胱、膜(例えば腹膜)又は皮膚の臓器モデルとして使用できる。
【0049】
図1に示す積層体100を胃の臓器モデルとする場合、繊維群含有層104が粘膜層であり、該繊維群含有層の上に積層させた繊維群含有層105が筋肉層である。層間の界面は101である。
【0050】
≪第1実施形態に係る臓器モデルの製造方法≫
次に、本実施形態に係る臓器モデルの製造方法として、袋状の臓器モデル(例えば、胃の臓器モデル)の製造方法を例に説明するが、臓器モデルの製造方法は公知の方法を用いることができ、限定されない。本実施形態に係る製造方法は一例である。
【0051】
図4Aを参照しながら、本実施例形態に係る臓器モデル200の作成方法を説明する。本実施例形態に係る臓器モデル200は、内部に空間を有する袋状の臓器モデルであり、繊維群を含む第2繊維群含有層105と、第2繊維群含有層105の内側に、繊維群を含む第1繊維群含有層104と、を有する2層構造(
図1に示される積層構造)となっている。第2繊維群含有層105が臓器外側層であり、第1繊維群含有層104が臓器内側層である。
【0052】
(第1繊維群含有層104の作製)
・混合液A2の作製
前記ハイドロゲル材料を構成する材料を配合させ、加熱しながら攪拌溶解させ、混合液A2を得る。加熱温度は限定されないが、60〜100℃が好適である。加熱攪拌時間は限定されないが、好適には1時間以上、より好適には3時間以上を目安とする。必要に応じて着色剤等を加えて、混ざる程度に再攪拌する。
【0053】
・繊維含浸
図4A(1)に示すように、型の内面が各臓器の形状であり、前面と背面に2分割された第1繊維群含有層成形用の当該臓器の前面樹脂型201と当該臓器の背面樹脂型202を準備する。尚、当該臓器の背面樹脂型202に関しては、当該臓器の前面樹脂型201と同様であるため、図示しない場合がある。
図4A(2)に示すように、前記混合液A2をこれら2つの当該臓器の前面樹脂型201と背面樹脂型202それぞれに流し込む。
図4A(3)に示すように、それぞれの樹脂型の上に当該臓器の形状にカットした繊維群103を乗せて混合液A2に含浸させる。
【0054】
・型締め
図4A(4)に示すように、当該臓器の前面樹脂型201の上に、当該臓器の形状にカットしたフィルム208を空気が内包しないように乗せる。更に、
図4A(5)に示すように、混合液A2の液面同士を合わせるように当該臓器の前面樹脂型201に当該臓器の背面樹脂型202を合わせ、型締めする。フィルム208の材料はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなど、前記混合液A2と癒着しないものであればよく、限定されない。
【0055】
尚、本例においては、胃が袋状であることから、モデルの芯部となる第1繊維群含有層において、胃の前面と背面とに型を分けると共にフィルム208を介して一体化させ、中空状の積層体を形成しているが、胃を袋状にする必要がない場合(視覚的に、臓器に似せる必要がない場合)には、単なる積層体(板状の積層体)としてもよい(この場合、以降の工程においても、工程の省略又は工程の変更が適宜行われてもよい)。
【0056】
・冷凍
この合わせた樹脂型を冷凍庫に入れ放置する。冷凍温度は限定されないが、−5℃以下が好適である。徐々に温度を下げる場合もある。放置時間は限定されないが、0.5時間以上が好適である。
【0057】
・成型
冷凍庫より樹脂型を出し、その樹脂型より成形された模擬臓器を離型させ、外周部をトリミングし、形状を整え、
図4A(6)に示すように、第1繊維群含有層のみの臓器モデルA20を得る。
【0058】
(第2繊維群含有層105の作製)
・混合液B2の作製
前記ハイドロゲル材料を構成する材料を配合させ、加熱しながら攪拌溶解させ、混合液B2を得る。加熱温度は限定されないが、60〜100℃が好適である。加熱攪拌時間は限定されないが、好適には1時間以上、より好適には3時間以上を目安とする。必要に応じて着色剤等を加えて、混ざる程度に再攪拌する。
【0059】
・繊維含浸
図4B(1)に示すように、型の内面が各臓器の形状であり、前面と背面に2分割された第2繊維群含有層用の当該臓器の前面樹脂型205と当該臓器の背面樹脂型206を準備する。尚、当該臓器の背面樹脂型206に関しては、当該臓器の前面樹脂型205と同様であるため、図示しない場合がある。
図4B(2)に示すように、前記混合液B2をこれら2つの前面樹脂型205と背面樹脂型206それぞれに流し込み、
図4B(3)に示すように、それぞれの上に当該臓器の形状にカットした繊維群103を乗せて混合液B2に含浸させる。
【0060】
・型締め
更に、
図4B(4)に示すように、前記第1繊維群含有層のみの臓器モデルA20を、第2繊維群含有層用の前面樹脂型205の混合液B2の液面上に乗せ、
図4B(5)に示すように、それを挟み込みつつ、混合液B2の液面同士を合わせるように、前面樹脂型205に背面樹脂型206を合わせ、型締めする。
【0061】
・冷凍
この合わせた樹脂型を冷凍庫に入れ放置する。放置時間は限定されないが、0.5時間以上が好適である。
【0062】
・成型
図4B(6)に示すように、冷凍庫より第2繊維群含有層用樹脂型を出し、その樹脂型より成形された臓器モデルB20を離型させ、外周部を粗トリミングし、形状を整える。
【0063】
・冷凍
この臓器モデルB20を金属製容器であるバットに移し、冷凍庫に入れ放置する。冷凍温度は限定されないが、−5℃以下が好適である。放置時間は限定されないが、1時間以上が好適である。
【0064】
・開口
冷凍庫よりバットを取り出し、硬化の終わった模擬臓器の外周を、破らないよう慎重にトリミングする。この際、臓器に応じて、開口し、臓器モデルB20内部のフィルムを開口部より抜き取る。
図4Cに示すように、臓器モデルB20をバットに移し、例えば水に浸漬させて放置し、第1繊維群含有層104と、第2繊維群含有層105と、を有する臓器モデル200が完成する。水の温度、放置時間は限定されず、例えば、常温であり、放置時間は1時間である。
【0065】
『第2実施形態』
≪第2実施形態に係る臓器モデルの構成≫
次に、第2実施形態に係る臓器モデルに関して説明する。第2実施形態においては、ハイドロゲル材料からなる層(繊維群含有層)の構成や、積層体(臓器モデル)の性質等に関しては、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0066】
本実施形態に係る臓器モデルにおいて、繊維群含有層の数及び内包された繊維が立体網目状構造体である層の数は特に限られるものではないが、目的に応じて、前記積層体が、少なくとも2の繊維群含有層として、第1繊維群が内包された繊維群含有層と、第2繊維群が内包された繊維群含有層と、を有しているか、又は前記積層体が、少なくとも1の繊維群含有層として、少なくとも第1繊維群と第2繊維群とが内包された繊維群含有層を有し、前記繊維群含有層以外の層として、内包された繊維が立体網目状構造体である層を更に有する場合がある。以下の説明においては、2の繊維群含有層がある場合を例として用いている。
【0067】
<全体の構成>
[内包された繊維が立体網目状構造体である層]
内包された繊維が立体網目状構造体である層を更に有する場合の本実施形態に係る臓器モデルを
図2に示す。
図2に示すように、前記積層体100において、前記繊維群含有層106、108の2つがあり、これらの繊維群含有層の下に内包された繊維が立体網目状構造体である層110がある。繊維111は内包された繊維である。
【0068】
内包された繊維が立体網目状構造体である層がある目的は、繊維を内包して特有の性質を保ちながら柔らかさを出すためである。
【0069】
・内包された繊維
前記内包された繊維は目的に応じて異なり、限定されないが、例えば、綿、麻、毛などが挙げられる。
【0070】
≪第2実施形態に係る臓器モデルの用途・使用方法≫
本実施形態に係る臓器モデルは目的に応じて、前記積層体が、前記繊維群含有層以外の層として、内包された繊維が立体網目状構造体である層を更に有する場合がある。この臓器モデルの用途は限定されないが、例えば、皮膚、舌咽頭、肺、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓、甲状腺、副甲状腺、副腎、膜(例えば腹膜)又は前立腺である。
【0071】
図2に示す臓器モデルが皮膚の臓器モデルである場合、繊維群含有層106が表皮層であり、繊維群含有層108が真皮層であり、立体網目状構造の繊維を含有する層110が皮下組織層である。皮膚は、表皮層、真皮層、皮下組織層、筋肉層の4つの機能層から成るが、臓器モデルでは、部位や目的によって機能層の一部が省略されることがあり、
図2に示す臓器モデルが皮膚の臓器モデルである場合、筋肉層が省略されている。
【0072】
≪第2実施形態に係る臓器モデルの製造方法≫
次に、本実施形態に係る臓器モデルの製造方法を、板状の臓器モデル(例えば、皮膚の臓器モデル)の製造方法を例に説明する。本実施形態に係る製造方法は一例である。
【0073】
本実施形態に係る皮膚の臓器モデルは、繊維群を含む第3層106と、第3層106の内側の層であり繊維群を含む第2層108と、第2層108の更に内側の層であり網状立体構造繊維を含む第1層110と、を有する3層構造となっている。第1層が臓器内側層(例えば、皮下組織模擬層)であり、第2層が臓器中間層(例えば、真皮模擬層)であり、第3層が臓器外側層(例えば、表皮模擬層)である。前述のように、皮膚は、表皮層、真皮層、皮下組織層、筋肉層の4つの機能層から成るが、臓器モデルでは、部位や目的によって機能層の一部が省略されることがあり、本実施形態に係る臓器モデルは、筋肉層が省略されている。
【0074】
(第3層106の作製)
・混合液の作製
前記ハイドロゲル材料を構成する材料を配合させ、加熱しながら攪拌溶解させ、混合液A3を得る。加熱温度は限定されないが、60〜100℃が好適である。加熱攪拌時間は限定されないが、好適には1時間以上、より好適には3時間以上を目安とする。必要に応じて着色剤等を加えて、混ざる程度に再攪拌する。
【0075】
・繊維含浸
図8A(1)に示すような型301に前記混合液A3を均一な厚さになるまで流し込み(
図8A(2))、その上に型301の形状にカットした繊維シート103を乗せて混合液A3に含浸させる(
図8A(3))。
【0076】
・冷凍
この型301を冷凍庫に入れ放置し、硬化された層状物A30を得る(
図8A(4))。冷凍温度は限定されないが、−5℃以下が好適である。徐々に温度を下げる場合もある。放置時間は限定されないが、0.5時間以上が好適である。
【0077】
(第1層110の作製)
・混合液B3の作製
前記ハイドロゲル材料を構成する材料を配合させ、加熱しながら攪拌溶解させ、混合液B3を得る。加熱温度は限定されないが、60〜100℃が好適である。加熱攪拌時間は限定されないが、好適には1時間以上、より好適には3時間以上を目安とする。必要に応じて着色剤等を加えて、混ざる程度に再攪拌する。
【0078】
・網状立体構造繊維含浸
図8B(1)に示すような型303に前記混合液B3を流し込み(
図8B(2))、その中に網状立体構造繊維111(例えば、綿)を投入し、繊維に混合液B3を吸水させ、厚さや密度が均一になるよう、繊維を解しながら型内に広げる(
図8B(3))。
【0079】
・冷凍
この型303を冷凍庫に入れ放置する。冷凍温度は限定されないが、−5℃以下が好適である。徐々に温度を下げる場合もある。放置時間は限定されないが、0.5時間以上が好適である。
【0080】
(第2層108の作製)
・混合液C3の作製
前記ハイドロゲル材料を構成する材料を配合させ、加熱しながら攪拌溶解させ、混合液C3を得る。加熱温度は限定されないが、60〜100℃が好適である。加熱攪拌時間は限定されないが、好適には1時間以上、より好適には3時間以上を目安とする。必要に応じて着色剤等を加えて、混ざる程度に再攪拌する。
【0081】
・層の形成
前記型303の、既に硬化後に常温へ戻された混合液B3(網状立体構造繊維111)の上から、前記混合液C3を均一な厚さになるまで流し込み(
図8B(4))、その上にバットの形状にカットした繊維群103を乗せて混合液C3に含浸させる。さらに層の総厚が所望の厚さになるまで混合液C3を流し込み、均一な厚さになるよう広げる(
図8B(5))。
【0082】
・両層の貼り合わせ
硬化前の混合液C3液面の上から、層状物A30を貼り合わせる(
図8C(1)、
図8C(2))。
【0083】
・冷凍
この3つの層が積層された型303を冷凍庫に入れ放置する。冷凍温度は限定されないが、−5℃以下が好適である。徐々に温度を下げる場合もある。放置時間は限定されないが、0.5時間以上が好適である。
【0084】
・成型
冷蔵庫より取り出し、型303より取り出し、純水に浸漬させて常温で1時間放置する。模擬臓器の外周をトリミングし、第3層106と、第2層108と、第1層110と、を有する、本実施形態に係る臓器モデル300が完成する(
図8C(3))。
【0085】
『第3実施形態』
≪第3実施形態に係る臓器モデルの構成≫
次に、第3実施形態に係る臓器モデルに関して説明する。第3実施形態においては、ハイドロゲル材料からなる層の構成や、積層体(臓器モデル)の性質等に関しては、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0086】
本実施形態に係る臓器モデルは、目的に応じて、1のみの前記繊維群含有層を有する場合がある。この場合の本実施形態に係る臓器モデルを
図3に示す。
図3に示すように、本実施形態では、前記積層体100において、前記繊維群含有層104と繊維群を含有しない層102がある。
【0087】
本発明に係る臓器モデルが、1のみの前記繊維群含有層を有する場合、積層方向の断面で見たときに管状である臓器モデルである場合がある。これは、対象となる管状の臓器を模しているためである。
【0088】
≪第3実施形態に係る臓器モデルの用途・使用方法≫
本発明に係る臓器モデルは、目的に応じて、前記積層体が、1のみの前記繊維群含有層を有することを特徴とする場合がある。この臓器モデルの用途は限定されないが、例えば、食道、胃、小腸、大腸、胆管、膵管、膀胱、尿管、尿道、膣、肛門、門脈、又は大血管である。
【0089】
図3に示す臓器モデルが大腸、小腸の臓器モデルである場合、層102が筋肉層であり、繊維群含有層104が粘膜層である。層間の界面は101である。
【0090】
≪第3実施形態に係る臓器モデルの製造方法≫
次に、本実施形態に係る臓器モデルの製造方法を、管状の臓器モデル(例えば、小腸、大腸の臓器モデル)の製造方法を例に説明する。
【0091】
本実施形態に係る大腸の臓器モデルは、中空のモデルであり、環状に配置された繊維シートを含む第1層104と、第1層104の外側の層である第2層と、を有する環状の2層構造となっている。第1層が臓器内側層(例えば、粘膜模擬層)であり、第2層が臓器外側層(例えば、筋肉模擬層)である。
【0092】
(第1層104の作製)
・混合液A4の作製
前記ハイドロゲル材料を構成する材料を配合させ、加熱しながら攪拌溶解させ、混合液A4を得る。加熱温度は限定されないが、60〜100℃が好適である。加熱攪拌時間は限定されないが、好適には1時間以上、より好適には3時間以上を目安とする。必要に応じて着色剤等を加えて、混ざる程度に再攪拌する。
【0093】
・繊維の配置(巻きつけ)
必要に応じて形状を整えた繊維シート103(例えば、短冊状の不織布)を、
図9A(1)に示されるような中子とする棒401へ、らせん状に巻きつける(
図9A(2))。この際、棒401の形状は限定されず、形成されるモデルに合わせて適宜変更すればよく、またその材質も何ら限定されない。また、繊維シート103の、棒への配置方法も何ら限定されず、各工程において、繊維シート103が棒401から外れない程度に略固定されていればよい。例えば、テープ等を用いて、繊維シート103を棒401に仮留めしたり、管状の繊維シート103を棒401に被せるように設けてもよい。
【0094】
・繊維含浸
次に、第1層形成用型(バット)を準備する(
図9A(3))。尚、本実施形態においては、当該第1層形成用型は、上下対称の下面型403と上面型404に2分割され、その両端に中子とする為の棒401を型の中心に位置決めできる構造を持つ型としている(以降、上面型404に関しては省略する場合がある。)。次に、前記混合液A4をこれら2つの各型(下面型403、上面型404)それぞれに流し込む(
図9A(4))。
【0095】
・型締め
混合液A4が流し込まれた下面型403の中に、繊維シート103の設けられた棒401をセットし(
図9A(5))、下面型403及び上面型404を勘合させ、型締めする(
図9A(6))。
【0096】
・冷凍
混合液A4及び繊維シート103の設けられた棒401が内包された第1層形成用型(下面型403及び上面型404)を、冷凍庫に入れ、放置する。冷凍温度は限定されないが、−5℃以下が好適である。徐々に温度を下げる場合もある。放置時間は限定されないが、例えば、0.5時間以上が好適である。
【0097】
・成型
混合液A4が固まり、繊維シート103とが一体化した状態となった内容物(模造臓器A40)を第1層形成用型から取り出す(
図9A(7))。この際、下面型403及び上面型404の勘合面のバリ部分のトリミングや、後述の第2層形成用型に合わせて、余剰部分(模擬臓器長手方向の両端)のトリミング等を行ってもよい。
【0098】
(第2層102の作製)
・混合液B4の作製
前記ハイドロゲル材料を構成する材料を配合させ、加熱しながら攪拌溶解させ、混合液B4を得る。加熱温度は限定されないが、60〜100℃が好適である。加熱攪拌時間は限定されないが、好適には1時間以上、より好適には3時間以上を目安とする。必要に応じて着色剤等を加えて、混ざる程度に再攪拌する。
【0099】
・第2層の積層
次に、第2層形成用型(バット)を準備する(
図9B(1))。尚、本実施形態においては、当該第2層形成用型は、上下対称の上面樹脂型408と下面樹脂型407に2分割され、その両端に中子とする為の樹脂棒を型の中心に位置決めできる構造を持つ型としている(以降、上面型408に関しては省略する場合がある。)。次に、前記混合液B4をこれら2つの各型(下面型407、上面型408)それぞれに流し込む(
図9B(2))。
【0100】
・型締め
混合液B4が流し込まれた第2層形成用型(下面型407)の中に、模擬臓器A40(第1層として硬化した混合液A4が略固定されている樹脂棒401)をセットし((
図9B(3)))、第2層形成用型(下面型407、上面型408)を勘合させ、型締めする(
図9B(4))。
【0101】
・冷凍
混合液B4、硬化された混合液A4及び繊維シート103の設けられた棒401が内包された第2層形成用型(下面型407、上面型408)を、冷凍庫に入れ、放置する。冷凍温度は限定されないが、−5℃以下が好適である。徐々に温度を下げる場合もある。放置時間は限定されないが、例えば、0.5時間以上が好適である。
【0102】
・成型
硬化した混合液B4が、硬化した混合液A4の外周を覆うように一体化した状態となった内容物(模擬臓器B40)を第2層形成用型から取り出す(
図9B(5))。この際、下面型407及び上面型408の勘合面のバリ部分のトリミング等を行ってもよい。
【0103】
・冷凍
この模擬臓器B40を、更に冷凍してもよい(例えば、−5℃以下の冷凍庫にて、10時間以上放置することが好適である)。その後、冷凍庫より取り出した後は、常温で適宜(例えば、5分間)放置すればよい。
【0104】
・成型
模擬臓器B40から樹脂棒401を引き抜き(
図9B(6))、臓器モデル400が完成する(
図9C)。尚、所望の形状に合わせて、臓器モデル400の両端部を切断してもよい。また、完成した臓器モデル400は、水(例えば純粋)に適宜浸漬させることが好適である。
【実施例】
【0105】
次に、本発明を実施例及び比較例により、更に具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0106】
≪実施例≫
<実施例1:胃モデルの作成>
図4を参照しながら、実施例1に係る胃の臓器モデル200の作成方法を説明する。実施例1に係る胃の臓器モデル200は、内部に空間を有する袋状のモデルであり、繊維シートを含む筋肉模擬層105と、筋肉模擬層の内側の層であり、繊維シートを含む粘膜模擬臓器(粘膜模擬層104)と、を有する2層構造となっている。
【0107】
(粘膜模擬層の作製)
・粘膜用混合液の作製
ポリビニルアルコール(けん化度99%)とジメチルスルホキシドと純水とを混合した溶液をビーカーに入れ、配合させ、ビーカーをマントルヒーター(アズワン製 型式:HB−2000T)にて100℃に加熱しながら、4時間攪拌溶解させ、混合液を得た。当該混合液130gあたり、桃色の水性着色剤を3.9gの割合で加え、攪拌機(シンキー製、型式:AR−250)にて40秒間混合させ、粘膜用混合液A2を得た。
【0108】
・繊維含浸
型の内面が胃の形状であり、粘膜成形用樹脂型(前面と背面に2分割された粘膜成形用の胃の前面樹脂型201と胃の背面樹脂型202)を準備した(
図4A(1))。尚、胃の背面樹脂型202に関しては、胃の前面樹脂型201と同様であるため、図示しない場合がある。各樹脂型は、組織の厚み方向となる型深さが双方とも1mmである。前記粘膜用混合液A2をこれら2つの粘膜成形用胃の前面樹脂型201と背面樹脂型202それぞれに流し込んだ(
図4A(2))。それぞれの樹脂型の上に胃の形状にカットした不織布103を乗せて粘膜用混合液A2に含浸させた(
図4A(3))。
【0109】
・型締め
粘膜成形用胃の前面樹脂型201の上に、胃の形状にカットしたポリエチレンフィルム208(日本生産者製、型式:ユニパックJ−4)を空気を内包しないように乗せた(
図4A(4))。更に、粘膜用混合液A2の液面同士を合わせるように胃の前面樹脂型201に胃の背面樹脂型202を合わせ、型締めした(
図4A(5))。
【0110】
・冷凍
この合わせた粘膜成形用樹脂型を、庫内−20℃の冷凍庫に入れ、4時間放置した。
【0111】
・成型
冷凍庫より粘膜成形用樹脂型を出し、その粘膜成形用樹脂型より成形された粘膜のみの模擬臓器を離型させ、外周部をトリミングし、形状を整え、粘膜模擬臓器A20を得た(
図4A(6))。
【0112】
(筋肉模擬層の作製)
・筋肉用混合液の作製
ポリビニルアルコール(けん化度99%)とジメチルスルホキシドと純水を混合した溶液をビーカーに入れ、配合させ、ビーカーをマントルヒーター(アズワン製 型式:HB−2000T)にて100℃に加熱しながら、4時間攪拌溶解させ、混合液を得た。当該混合液180gあたり、ペールオレンジの水性着色剤を5.4gの割合で加え、攪拌機(シンキー製、型式:AR−250)にて40秒間混合させ、筋肉用混合液B2を得た。
【0113】
・繊維含浸
型の内面が胃の形状であり、筋肉成形用樹脂型(前面と背面に2分割された筋肉成形用の胃の前面樹脂型205と胃の背面樹脂型206)を準備した(
図4B(1))。尚、胃の背面樹脂型206に関しては、胃の前面樹脂型205と同様であるため、図示しない場合がある。各樹脂型は、組織の厚み方向となる型深さが双方とも2.5mmである。前記筋肉用混合液B2をこれら2つの筋肉成形用胃の前面樹脂型205と胃の背面樹脂型206それぞれに流し込み(
図4B(2))、それぞれの上に胃の形状にカットした不織布103を乗せて筋肉用混合液B2に含浸させた(
図4B(3))。
【0114】
・型締め
更に、前記粘膜のみの模擬臓器A20を、筋肉成型用胃の前面樹脂型205の筋肉用混合液B2の液面上に乗せ(
図4B(4))、それを挟み込みつつ、筋肉用混合液B2の液面同士を合わせるように、筋肉成形用胃の前面樹脂型205に胃の背面樹脂型206を合わせ、型締めした(
図4B(5))。
【0115】
・冷凍
この筋肉成形用樹脂型を、庫内−20℃の冷凍庫に入れ、12時間放置した。
【0116】
・成型
冷凍庫より筋肉成形用樹脂型を出し、その筋肉成形用樹脂型より成形された模擬臓器B1を離型させ、外周部を粗トリミングし、形状を整えた(
図4B(6))。
【0117】
・冷凍
この模擬臓器を金属製容器であるバットに移し、庫内−20℃の冷凍庫に入れ、10時間放置した。
【0118】
・開口
冷凍庫よりバットを取り出し、硬化の終わった模擬臓器の外周を、破らないよう慎重にトリミングした。この際、食道に至る部分と腸に至る部分の外周部のみやや臓器中心部寄りでトリミングして、開口させ、模擬臓器内部のポリエチレンフィルムを開口部より抜き取った。模擬臓器をバットに移し、純水に浸漬させて常温で1時間放置し実施例1の胃の臓器モデル200が完成した(
図4C)。写真を
図10に示す。
【0119】
<実施例2:皮膚モデルの作成>
次に、実施例2に係る皮膚の臓器モデル300の作成方法を説明する。実施例2に係る皮膚の臓器モデルは、繊維シートを含む表皮模擬層106と、表皮模擬層106の下の層であり、繊維シートを含む真皮模擬層108と、真皮模擬層108の下の層であり、立体網目状構造体の繊維として綿を含む皮下組織模擬層110と、を有する3層構造となっている。前述のように、皮膚は、表皮層、真皮層、皮下組織層、筋肉層の4つの機能層から成るが、臓器モデルでは、部位や目的によって機能層の一部が省略されることがあり、実施例2に係る臓器モデルは、筋肉層が省略されている。
【0120】
(表皮模擬層106の作製)
・表皮用混合液の作製
ポリビニルアルコール(けん化度99%)とジメチルスルホキシドと純水とを混合した溶液をビーカーに入れ、配合させ、ビーカーをマントルヒーターにて100℃に加熱しながら、4時間攪拌溶解させ、混合液を得た。当該混合液100gあたり、水性でペールオレンジの着色剤を3gの割合で加え、攪拌機にて40秒間混合させ、表皮用混合液A3を得た。
【0121】
・繊維含浸
金属製容器の表皮硬化用バット301に前記表皮用混合液A3を1.5mmの均一な厚さになるまで流し込み(
図8A(2))、その上にバットの形状にカットした不織布103を乗せて表皮用混合液A3に含浸させた(
図8A(3))。
【0122】
・冷凍
この表皮硬化用バット301を、庫内−20℃の冷凍庫に入れ、0.5時間放置した。その後冷凍庫より取り出し、常温になるまで放置し、表皮硬化用バット301より表皮用層状物A30(表皮模擬層)を取り出した(
図8A(4))。
【0123】
(皮下組織模擬層110の作製)
・皮下組織用混合液の作製
ポリビニルアルコール(けん化度99%)と純水をビーカーに入れ、配合させ、ビーカーをマントルヒーターにて100℃に加熱しながら、4時間攪拌溶解させ、混合液を得た。当該混合液250gあたり、水性で桃色の着色剤を7.5gの割合で加え、攪拌機にて40秒間混合させ、皮下組織用混合液B3を得た。
【0124】
・繊維含浸
金属製容器の皮下組織硬化用バット303に前記皮下組織用混合液B3を13mmの厚さまで流し込み(
図8B(2))、その中に綿繊維12gを投入し、綿繊維が皮下組織用混合液B3を飽和するまで吸水し、厚さや密度が均一になるよう、繊維を解しながらバット303内に広げた(
図8B(3))。
【0125】
・冷凍
この皮下組織硬化用バット303を、庫内−20℃の冷凍庫に入れ、2時間放置した。その後冷凍庫より取り出し、常温になるまで放置した。
【0126】
(真皮模擬層108の作製)
・真皮用混合液の作製
ポリビニルアルコール(けん化度99%)とジメチルスルホキシドと純水とを混合した溶液をビーカーに入れ、配合させ、ビーカーをマントルヒーターにて100℃に加熱しながら、4時間攪拌溶解させ、混合液を得た。当該混合液150gあたり、水性で白色の着色剤を4.5gの割合で加え、攪拌機にて40秒間混合させ、真皮用混合液C3を得た。
【0127】
・層の形成
前記皮下組織用バット303の、既に硬化後に常温へ戻された皮下組織用混合液B3の上から、前記真皮用混合液C3を1mmの均一な厚さになるまで流し込み(
図8B(4))、その上にバット303の形状にカットした不織布を乗せて真皮用混合液C3に含浸させた。さらに層の総厚が16mmになるまで前記真皮用混合液C3を流し込み、均一な厚さになるよう広げた(
図8B(5))。
【0128】
・両層の貼り合わせ
前記皮下組織用バット303の、既に硬化前の真皮用混合液C3液面の上から、取り出した表皮用層状物A30(表皮模擬層)を空気を内包しないよう手前から奥へ慎重に貼り合わせた。
【0129】
・冷凍
この3層が積層された模擬皮膚の入ったバット303を、庫内−20℃の冷凍庫に入れ、24時間放置した。
【0130】
・成型
冷蔵庫より取り出し、バット303より取り出し、純水に浸漬させて常温で1時間放置した。外周をトリミングし、実施例2の皮膚の模擬モデル300が完成した。写真を
図11に示す。
【0131】
<実施例3:大腸モデルの作成>
次に、実施例3に係る大腸の臓器モデル400の作成方法を説明する。実施例3に係る大腸の臓器モデルは、中空のモデルであり、環状に配置された繊維シートを含む粘膜模擬層104と、粘膜模擬層104の外側の層である筋肉模擬層102と、を有する環状の2層構造となっている。
【0132】
(粘膜模擬層104の作製)
・粘膜用混合液A4の作製
ポリビニルアルコール(けん化度99%)とジメチルスルホキシドと純水とを混合した溶液をビーカーに入れ、配合させ、ビーカーをマントルヒーターにて100℃に加熱しながら、4時間攪拌溶解させ、混合液を得た。当該混合液220gあたり、水性で桃色の着色剤を6.6gの割合で加え、攪拌機にて40秒間混合させ、粘膜用混合液A4を得た。
【0133】
・繊維の配置(巻きつけ)
短冊状にカットした不織布103を、
図9A(1)に示されるような中子とする直径31mmかつ長さ300mmの樹脂棒401へ、らせん状に巻きつけた(
図9A(2))。この時、不織布は樹脂棒からはみ出させない範囲で十分に樹脂棒を覆うようにした。
【0134】
・繊維含浸
型の内面が大腸の形状である粘膜成形用樹脂型(上面樹脂型404と下面樹脂型403に2分割され、その両端に中子とする為の樹脂棒を型の中心に位置決めできる構造を持つ)を準備した(
図9A(3))。各粘膜成形用樹脂型(上面樹脂型404及び下面樹脂型403)は、上下対称であり、勘合時の型の内径は32mmである(上面樹脂型と下面樹脂型とを区別せずに、単に粘膜成形用樹脂型等とすることがある)。前記粘膜用混合液A4をこれら2つの粘膜成形用樹脂型それぞれに流し込んだ(
図9A(4))。
【0135】
・型締め
粘膜用混合液A4が流し込まれた粘膜成形樹脂型403の中に、不織布の巻かれた樹脂棒をセットし(
図9A(5))、粘膜成形樹脂型403、404を素早く勘合させ、型締めした(
図9A(6))。
【0136】
・冷凍
この粘膜成形用樹脂型を、庫内−20℃の冷凍庫に入れ、4時間放置した。その後冷凍庫より取り出し、常温になるまで放置した。
【0137】
・成型
粘膜成形用樹脂型から粘膜のみの模擬臓器A40を取り出し(
図9A(7))、樹脂型勘合面のバリと模擬臓器長手方向の両端を5mmずつを、樹脂棒401に装着されたままの状態でトリミングした。
【0138】
(筋肉模擬層102の作製)
・筋肉用混合液B4の作製
ポリビニルアルコール(けん化度99%)とジメチルスルホキシドと純水とを混合した溶液をビーカーに入れ、配合させ、ビーカーをマントルヒーターにて100℃に加熱しながら、4時間攪拌溶解させ、混合液を得た。当該混合液220gあたり、ペールオレンジの水性着色剤を6.6gの割合で加え、攪拌機にて40秒間混合させ、筋肉用混合液B4を得た。
【0139】
・筋肉模擬層の積層
型の内面が大腸の形状である筋肉成形用樹脂型(上面樹脂型408と下面樹脂型407に2分割され、その両端に中子とする為の樹脂棒を型の中心に位置決めできる構造を持つ)を準備した(
図9B(1))。各筋肉成形用樹脂型は、上下対称であり、勘合時の型の内径は33mmである(上面樹脂型と下面樹脂型とを区別せずに、単に筋肉成形用樹脂型等とすることがある)。前記筋肉用混合液B4をこれら2つの筋肉成形用樹脂型それぞれに流し込んだ(
図9B(2))。
【0140】
・型締め
筋肉用混合液B4が流し込まれた筋肉成形樹脂型407の中に、模擬臓器A40(既に粘膜層が形成されている樹脂棒401)をセットし((
図9B(3))、筋肉成形樹脂型407、408を素早く勘合させ、型締めした(
図9B(4))。
【0141】
・冷凍
この粘膜成形用樹脂型を、庫内−20℃の冷凍庫に入れ、12時間放置した。その後冷凍庫より取り出し、常温になるまで放置した。
【0142】
・成型
筋肉成形用樹脂型から大腸模擬臓器B40を取り出し(
図9B(5))、樹脂型勘合面のバリを、樹脂棒401に装着されたままの状態でトリミングした。
【0143】
・冷凍
この樹脂棒を、庫内−20℃の冷凍庫に入れ、10時間放置した。その後冷凍庫より取り出し、常温で5分間放置した。
【0144】
・成型
樹脂棒から大腸模擬臓器B40を引き抜き(
図9B(6))、中心部200mmを残して両端部を切断する。純水に浸漬させて常温で1時間放置し実施例の大腸の臓器モデル400が完成した(
図9C)。写真を
図12に示す。
【0145】
≪比較例≫
<比較例1〜3>
実施例1〜3と不織布103を入れない以外は、同じ材料を混合し、同じ方法で、繊維群含有層を有さない胃、皮膚、大腸の臓器モデルを作製し比較例1〜3とした。
【0146】
≪参考例1〜3≫
豚の胃、皮膚、大腸を参考例1〜3とした。
【0147】
≪測定≫
実施例、比較例及び参考例に対し、前記測定方法に従い各測定を行った。測定の結果を
図13〜15に示す。
【0148】
(引き剥がし荷重試験)
前述の方法に従って、実施例、比較例及び参考例に係る引き剥がし荷重試験を行った。ただし、実施例3の大腸の臓器モデルは、現実の大腸の手術において各層を引き剥がさないために、引き剥がし試験を行っていない。なお、管状であっても同じ構造であるから、引き剥がす性質を持たせる事は可能である。
図13に、実施例、比較例及び参考例の強度変化を示した。表1に、実施例及び比較例の官能評価を示した。官能評価基準は、実物との比較において、A:良好、B:やや物足りない、C:訓練用途に適さない、D:実施不可である。実施例2の皮膚の臓器モデルの官能評価後の写真を、
図16に示す。
【0149】
【表1】
【0150】
図13をみると、実施例1、実施例2において、引き剥がすことができ、この強度変化は参考例1、2の豚の胃、皮膚と同様であることがわかる。また、官能評価は、いずれもAであり、引き剥がしの感覚が実物に非常に近い。
【0151】
図13に示すように、不織布なしの各比較例ではそもそも引き剥がすことができなかった。これは、繊維群含有層がないためである。
【0152】
(メス刺荷重試験)
前述の方法に従って、実施例、比較例及び参考例に係る引き剥がしメス刺荷重試験を行った。
図14に、実施例、比較例及び参考例の強度変化を示した。表1に、実施例及び比較例の官能評価を示した。官能評価基準は、実物との比較において、A:良好、B:やや物足りない、C:訓練用途に適さない、D:実施不可である。
【0153】
図14Aをみると、比較例1の波形の形状が、参考例1と異なりピークが見られないのに対し、実施例1の波形の形状は参考例1の波形の形状に近いといえる。
図14B、
図14Cにおいても同様である。また、
図14Aをみると、比較例1の強度が低いのに対し、実施例1の強度が高く、この強度は参考例1の豚の胃の強度と変わらないことが分かる。
図14Bに示す実施例2においても同様である。さらに、官能評価はいずれもAである。以上のことから、実施例1〜3のいずれの臓器モデルもメスが切り開いていくときに感じる弾力感、滑りや引っ掛かり感が現実にかなり近い。
【0154】
(糸千切れ試験)
前述の方法に従って、実施例、比較例及び参考例に係る糸千切れ試験を行った。
図15に、実施例、比較例及び参考例の強度変化を示した。表1に、実施例及び比較例の官能評価を示した。官能評価基準は、実物との比較において、A:良好、B:やや物足りない、C:訓練用途に適さない、D:実施不可である。
【0155】
図15Aをみると、比較例1の強度が低いのに対し、実施例1の強度が高く、この強度は参考例1の豚の胃の強度と変わらないことが分かる。
図15Bに示す実施例2、
図15Cに示す実施例3においても同様である。また、官能評価はいずれもAである。以上のことから、実施例1〜3のいずれの臓器モデルも縫合糸が埋没せずに結紮を行える性質や、糸の結び目が引っ掛かる性質などが現実にかなり近い。
【課題】 各層が適切に剥がれる性質、メスが切り開いていくときに感じる弾力感に加え、滑りや引っ掛かり感がある性質、及び、縫合糸が埋没せずに結紮を行える性質や、糸の結び目が引っ掛かる性質、を持つ臓器モデルを提供する。