(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱可塑性プラスチック100質量部に対して、前記微粉炭及び前記石油コークス粉を合計で50〜500質量部混合し、加熱して前記熱可塑性プラスチックの少なくとも一部を溶融した後、溶融した前記熱可塑性プラスチックを冷却して再固化し、粒状化して得られる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の固体燃料。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
廃プラスチックを利用した固体燃料の製造方法は、通常工業スケールで行われるため、固体燃料を高収率且つ簡便な工程で製造することが求められる。また、製造される固体燃料は、良好な燃焼性を有することが求められる。しかしながら、上述の特許文献1の方法では、固体燃料(コークス)の製造に際し、プラスチックを含む原料を高温(1000℃以上)に加熱して乾留させているため、プラスチック及び石炭の揮発分が殆ど揮発し、得られる固体燃料の収率が低くなってしまう。また、そのような固体燃料は、揮発分が少ないために着火性が十分ではない。
【0009】
また、特許文献2の方法では、別途、融着防止材を調製する必要があることから、工程が煩雑となるうえに、融着防止材として、燃焼させて得られるダストや部分燃焼スラグを使用するため、得られる固体燃料の燃焼性に改善の余地がある。また、特許文献3の方法では、微粉炭の表面に溶融した熱可塑性樹脂が付着することとなるため、溶融した熱可塑性樹脂が加熱装置内部に付着することが懸念される。特に、工業スケールで大量に微粉炭を造粒する場合には、装置内部への付着が問題となり得る。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、原料として熱可塑性プラスチックを用いても、加熱装置内部への融着を抑制することが可能であり、良好な燃焼性を有する固体燃料を高収率で容易に製造することが可能な固体燃料の製造方法を提供することを目的とする。また、良好な燃焼性を有しており、加熱装置への融着を十分に低減することが可能な固体燃料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明では、石炭及び石油コークスから得られる粉体と、プラスチックを加熱して得られる加熱処理物と、を含む固体燃料であって、粉体は、石炭を粉砕した微粉炭及び当該微粉炭の熱分解物の少なくとも一方と、石油コークスを粉砕した石油コークス粉及び当該石油コークス粉の熱分解物の少なくとも一方と、を含有し、プラスチックは、熱可塑性プラスチックを含有し、加熱処理物は、熱可塑性プラスチックを溶融した後、冷却して得られる再固化物を含有し、揮発分の含有率が10〜80質量%、固定炭素の含有率が10〜80質量%、及び水分の含有率が0〜50質量%である固体燃料を提供する。
【0012】
本発明の固体燃料は、プラスチックの加熱処理物とともに、上記粉体を含んでいることから、加熱装置内に付着しやすい熱可塑性プラスチックを含んでいても、加熱装置の内部に熱可塑性プラスチックの溶融物が付着することを十分に低減することができる。また、揮発分と固定炭素と水分を特定の範囲で含有するため、良好な燃焼性を有する。
【0013】
本発明の固体燃料は、上記再固化物を主成分として含む第1の相と、上記粉体を主成分として含み、第1の相の外周を覆う第2の相と、を有することが好ましい。このような相構造を有することによって、プラスチックの再固化物の相の間に微粉炭、石油コークス粉又はそれらの熱分解物の相が介在することとなり、加熱して再固化物が溶融しても、装置内における融着を十分に抑制することができる。また、比較的燃焼の早い第1の相を覆うように第2の相を有しているため、長時間に亘って燃焼を維持することが可能となる。
【0014】
本発明の固体燃料は、JIS M 8819に準拠して測定される、C(炭素)の含有率が70〜90質量%、H(水素)の含有率が1〜20質量%、O(酸素)の含有率が0〜30質量%であることが好ましい。このような範囲で各元素を含有することによって、一層良好な燃焼性を有する固体燃料とすることができる。このような固体燃料は、特にセメント焼成用の燃料として特に好適である。
【0015】
本発明の固体燃料は、空気中、昇温速度10℃/分で昇温する熱重量分析において、昇温開始前の重量を基準としたときに、350℃における重量減少率(無水無灰基準)が1〜70%であり、500℃における重量減少率(無水無灰基準)が15〜100%であることが好ましい。これによって、一層良好な燃焼性を有する固体燃料とすることができる。
【0016】
本発明の固体燃料は、HGIが15〜40であることが好ましい。このようなHGIを有する固体燃料は、容易に粉砕することが可能であり、良好な取扱い性及び良好な燃焼性を兼ね備える。
【0017】
本発明の固体燃料は、粒状であり、全体の50質量%以上の粒子が1.0mm以上且つ30mm未満の粒子径を有することが好ましい。このような粒子径を有する粒状の固体燃料は、良好な取扱い性と良好な燃焼性を兼ね備える。
【0018】
本発明の固体燃料は、高位発熱量(気乾基準)が20000〜40000kJ/kgであることが好ましい。これによって、石炭とほぼ同等の発熱量を得ることができる。
【0019】
本発明の固体燃料は、熱可塑性プラスチック100質量部に対して、微粉炭及び石油コークス粉を合計で50〜500質量部混合し、加熱して熱可塑性プラスチックの少なくとも一部を溶融した後、溶融した前記熱可塑性プラスチックを冷却して再固化し、粒状化して得られるものであることが好ましい。これによって、廃棄物の有効利用を図りつつ、良好な取扱い性と良好な燃焼性を有する固体燃料とすることができる。
【0020】
本発明の固体燃料は、プラスチックが廃プラスチックを含むことが好ましい。これによって、廃棄物の有効利用を図りつつ、低コストで固体燃料を製造することができる。
【0021】
本発明の固体燃料は、上記粉体の平均粒子径が500μm以下であることが好ましい。このように、微細な微粉炭及び/又は熱分解物を含むことによって、装置内における融着が一層抑制された固体燃料とすることができる。
【0022】
本発明では、別の側面において、熱可塑性プラスチックを含むプラスチックと、石炭を粉砕して得られた微粉炭及び石油コークスを粉砕して得られた石油コークス粉を含む粉体とを、プラスチック100質量部に対して上記粉体を50〜500質量部の比率で加熱装置に投入する投入工程と、プラスチック及び上記粉体を混合して混合物を得る混合工程と、当該混合物を加熱して熱可塑性プラスチックを溶融物とした後に当該溶融物を固化して得られる再固化物と、上記粉体及び上記粉体の熱分解物の少なくとも一方と、を含む固体燃料を得る加熱工程と、を有する、固体燃料の製造方法を提供する。
【0023】
本発明の製造方法によって得られる固体燃料は、プラスチックと微粉炭及び石油コークス粉とを所定の比率で混合して固体燃料を製造しているため、加熱工程において熱可塑性プラスチックが溶融しても、熱可塑性プラスチックの溶融物の表面に微粉炭及び石油コークス粉が付着し、装置内部への熱可塑性プラスチックの溶融物の融着を十分に抑制することができる。また、製造される固体燃料は、熱可塑性プラスチックの再固化物、微粉炭又はその分解物、及び石油コークス粉又はその分解物を含んでいることから、良好な燃焼性を有する。
【0024】
本発明の製造方法は、加熱工程で、固体燃料の揮発分を30〜80質量%とすることが好ましい。また、加熱工程における、混合物に対する固体燃料の収率が、質量基準で70%以上であることが好ましい。これによって、原料である熱可塑性プラスチック、微粉炭及び石油コークス粉の揮発が抑制されて固体燃料の揮発分の含有率が高くなり、一層良好な燃焼性を有する固体燃料を製造することができる。
【0025】
本発明の製造方法は、上記粉体の平均粒子径が500μm以下であることが好ましい。これによって、加熱装置内部における融着を一層抑制することができる。
【0026】
本発明の製造方法は、加熱工程の少なくとも一部を負圧下で行うことが好ましい。これによって、プラスチックの熱分解によって生成するタール成分の分圧が低下しプラスチック溶融物の表面の融着性が低減されて、固体同士の一体化・塊状化を一層低減することができる。このような作用によって、粒子径がより小さい粒状の固体燃料を得ることができる。
【0027】
本発明の製造方法は、加熱工程を酸素ガス濃度が18体積%以下である雰囲気下で行うことが好ましい。このような雰囲気下で熱分解を行うことによって、酸化の進行が抑制されて、一層高い収率で固体燃料を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、原料として熱可塑性プラスチックを用いても、加熱装置内部への融着を抑制することが可能であり、良好な燃焼性を有する固体燃料を高収率で容易に製造することが可能な固体燃料の製造方法を提供することができる。また、良好な燃焼性を有しており、加熱装置への融着を十分に低減することが可能な固体燃料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図面において、同一又は同等の要素には同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0031】
本実施形態の固体燃料は、石炭及び石油コークスから得られる粉体と、プラスチックを加熱して得られる加熱処理物と、を含む固体燃料である。上記粉体は、石炭を粉砕した微粉炭及び/又は当該微粉炭を熱分解して得られる熱分解物とともに、石油コークスを粉砕した石油コークス粉及び/又は当該石油コークス粉を熱分解して得られる熱分解物を含む。また、プラスチックの加熱処理物は、熱可塑性プラスチックを溶融した後、冷却して得られる再固化物を含有する。そして、本実施形態の固体燃料は、揮発分の含有率が10〜80質量%、固定炭素の含有率が10〜80質量%、及び水分の含有率が0〜50質量%である。本明細書では、微粉炭、微粉炭の熱分解物、石油コークス粉及び石油コークス粉の熱分解物を、纏めて「熱分解物等」ということがある。
【0032】
本実施形態の固体燃料の揮発分の含有率は、好ましくは45〜65質量%であり、より好ましくは50〜60質量%である。固体燃料の揮発分の含有率が45質量%未満であると、得られる固体燃料の収率が低くなるとともに、着火性が悪化して良好な燃焼性が損なわれる傾向にある。
【0033】
ところで、固体燃料の原料であるプラスチックを加熱すると、ポリエチレン等塩素を含まない熱可塑性プラスチックからは、可燃性の揮発分のみが揮発する。一方、塩化ビニル等、塩素を含むプラスチックからは可燃性の揮発分とともに塩素が揮発する(脱塩)。そのため、固体燃料の揮発分の含有率が65質量%を超えた場合、原料となるプラスチックが塩素を含まない熱可塑性プラスチックであれば揮発分の収率が高くなるのみであるため問題はないが、塩素を含むプラスチックが原料に含まれていた場合、固体燃料中の揮発分が多いほど脱塩が不十分となり、固体燃料中の塩素等の不純物成分が多くなる。したがって、原料となる熱可塑性プラスチックに塩素が含まれている場合、固体燃料の揮発分は65%以下であることが好ましい。
【0034】
本実施形態の固体燃料の固定炭素の含有率は、好ましくは30〜45質量%であり、より好ましくは30〜42質量%である。このような範囲で固定炭素を含有することによって、廃プラスチックからなる固体燃料に比べて、一層長い期間に亘って良好な燃焼を維持することができる。なお、固体燃料の固定炭素の含有率が30質量%未満であると優れた高温場の形成が困難になる傾向にある。一方、固体燃料の固定炭素の含有率が45質量%を超えると優れた着火性が損なわれる傾向にある。
【0035】
本実施形態の固体燃料の水分の含有率は、好ましくは0〜30質量%であり、より好ましくは1〜20質量%であり、さらに好ましくは1〜10質量%である。原料として高水分の石炭を用いた場合であっても、融着を低減し、かつ燃焼性に優れた固体燃料を得ることができる。
【0036】
また、揮発分に対する固定炭素の比(燃料比)は、好ましくは0.5〜0.8であり、より好ましくは0.6〜0.8である。燃料比がこのような範囲にある固体燃料は、一層優れた燃焼性を有する。
【0037】
本実施形態の固体燃料の高位発熱量(気乾ベース)の下限は、好ましくは20,000kJ/kgであり、より好ましくは28,000kJ/kgであり、さらに好ましくは29,000kJ/kgである。固体燃料の高位発熱量が低くなり過ぎると、十分に優れた燃焼性が損なわれる傾向にある。一方、固体燃料の高位発熱量の上限は、実質的に40,000kJ/kgである。
【0038】
なお、本明細書において、高位発熱量は、JIS M−8814に準拠して測定される単位重量(1kg)当たりの気乾ベースの発熱量をいう。また、揮発分、固定炭素及び水分の含有率は、JIS M−8812に準拠して測定される、気乾ベースの含有率をいう。
【0039】
本実施形態の固体燃料の平均比表面積は、好ましくは1m
2/g以下、より好ましくは0.4m
2/g以下、さらに好ましくは0.3m
2/g以下である。このように小さい平均比表面積を有することによって、例えば同一粉砕条件で粉砕した石炭(微粉炭)に比べて、粉塵爆発の発生を十分に抑制することができる。なお、平均比表面積の下限に特に制限はないが、固体燃料の製造容易性の観点から、平均比表面積は、好ましくは0.05m
2/g以上、より好ましくは0.1m
2/g以上である。
【0040】
本実施形態の固体燃料は、粉砕すると、同一の粉砕条件で粉砕した石炭及び石油コークスよりも比表面積が小さくなると考えられる。すなわち、石炭及び石油コークスを粉砕して得られる粒子の平均比表面積をAとし、この石炭及び石油コークスと同一の粉砕条件で固体燃料を粉砕して得られる固体燃料粒子の平均比表面積をBとすると、以下の関係が成立すると考えられる。
固体燃料粒子の平均比表面積B≦石炭及び石油コークス粒子の平均比表面積A
と予想される。
ここで、同一の粉砕条件とは、粉砕後の平均粒子径が同一となるまで粉砕する条件をいう。
【0041】
低品位炭は炭化が進んでおらず、微小な空隙が多い。また、石油コークスにも微小孔が多数存在する。そのため粉砕時における比表面積が大きいものの、溶融した熱可塑性プラスチックが空隙や微小孔を覆うことで比表面積が小さくなり、同一粉砕条件における石炭及び石油コークスよりも粉塵爆発の発生を十分に抑制することができる。なお、上述の平均比表面積は、JIS Z−8830に準拠して、島津製作所製のASAP2420(装置名)を用いて測定することができる。
【0042】
本実施形態の固体燃料は、C(炭素)の含有率が好ましくは70〜90質量%、より好ましくは70〜80質量%、さらに好ましくは75〜80質量%;H(水素)の含有率が好ましくは1〜20質量%、より好ましくは3〜8質量%;O(酸素)の含有率が好ましくは0〜30質量%、より好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは2〜10質量%;N(窒素)の含有率が好ましくは0〜2質量%、より好ましくは0.5〜1質量%;Cl(塩素)の含有率が好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。なお、上述の各元素の含有率は、JIS M−8819に準拠して測定される値(無水ベース)である。
【0043】
本実施形態の固体燃料は、空気気流中、昇温速度10℃/分で昇温する熱重量分析において、350℃にまで昇温したときの重量減少率が、昇温開始前の重量を基準として、好ましくは1〜70重量%、より好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは15〜40重量%である。また、同じ熱重量分析において、500℃にまで昇温したときの重量減少率が、昇温開始前の重量を基準として、好ましくは15〜100重量%、より好ましくは60〜100重量%、さらに好ましくは80〜100重量%である。このような重量減少率を有する固体燃料は、優れた着火性と高温場の形成を高水準で両立することができる。なお、上述の重量減少量は、空気雰囲気中において、通常の熱重量分析計を用いて測定される、無水無灰基準の値である。
【0044】
本実施形態の固体燃料のHGIは、好ましくは15〜40であり、より好ましくは20〜35である。このようなHGIを有する固体燃料は、容易に粉砕することが可能となり、粒度調整がし易くなって使用用途が広がるという利点がある。なお、HGI(ハードグローブインデックス、石炭の粉砕性指数)は、JIS M−8801に準拠して市販の測定装置を用いて測定することができる。
【0045】
本実施形態の固体燃料の平均粒子径(粉砕前)は、好ましくは2〜15mmであり、より好ましくは5〜10mmである。粉砕前にこのような平均粒子径を有する固体燃料は取り扱い性に優れるとともに燃焼性にも十分に優れる。固体燃料の平均粒子径(粉砕前)が大きくなり過ぎると、固体燃料を製造する加熱炉の取り出し口や固体燃料を使用する設備の投入口等で、固体燃料が閉塞し易くなる傾向にある。なお、本明細書における平均粒子径とは、積算分布曲線の50体積%に相当する粒子径(メジアン径)をいう。同様の観点から、固体燃料(粉砕前)の粒度分布は、粒子径が1.0mm以上且つ16mm未満である粒子が、固体燃料全体の70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。粉砕後の固体燃料の平均粒子径は、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは100μm以下である。このように微細な平均粒子径を有する固体燃料は、取扱い性に優れるとともに、様々な用途に用いることができる。なお、固体燃料の平均粒子径及び粒度分布は、市販の粒度分析計を用いて測定することができる。
【0046】
本実施形態の固体燃料は、熱可塑性プラスチック100質量部に対し、微粉炭及び石油コークス粉の少なくとも一方を合計で50〜500質量部、好ましくは50〜200質量部、より好ましくは80〜150質量部の質量割合で混合して加熱し、熱可塑性プラスチックを溶融した後、冷却して再固化する工程を有する製造方法によって製造することができる。このような固体燃料は、優れた着火性と高温場の形成とを高水準で両立することが可能であり、一層優れた燃焼性を有する。また、熱可塑性プラスチックの再固化物の周囲を微粉炭と石油コークス(及び/又は微粉炭や石油コークスの熱分解物)が取り囲む構造となるために、加熱装置内部に固体燃料(熱可塑性プラスチック)が融着したり、固体燃料同士が融着して凝集したりすることを抑制することができる。
【0047】
なお、本実施形態の固体燃料は、石油コークス粉及び微粉炭の双方を用いて製造することが可能であるため、製造コストを十分に低減することができる。また、使用する用途に応じて、石油コークス粉と微粉炭との割合を適宜調整することによって、所望の燃焼性を有する固体燃料とすることができる。
【0048】
ここで、固体燃料の揮発分と固定炭素の比(燃料比)は加熱工程に投入されるプラスチックに対する微粉炭及び石油コークスの量により変化するが、微粉炭及び石油コークスそのものの燃料比にも左右される。とりわけ石油コークスは石油を乾留して得られるため、石油の乾留度合いによって残留する揮発分の量も変化し、石油コークスの燃料比も変化する。したがって、あらかじめ使用する微粉炭と石油コークスに含まれる燃料比を計測した上で微粉炭と石油コークスの混合比を適宜設定することで、所望の燃料比を有する固体燃料を得ることができる。
【0049】
本実施形態の固体燃料を製造する場合、熱可塑性プラスチックと微粉炭とを含む混合物を、250〜350℃の加熱温度で加熱することが好ましい。この程度の加熱温度では、石炭及び石油コークスは、溶融せずに、種類によって熱分解するものとしないものがある。また、熱可塑性プラスチックのうち、塩化ビニル等、塩素を含む熱可塑性プラスチックは固体であるものの、他の熱可塑性プラスチックは、溶融して液状化するものが多い。このため、このような熱可塑性プラスチックを固体燃料の原料として用いると、加熱装置の内部に熱可塑性プラスチックの溶融物が融着したり、熱可塑性プラスチック同士が融着して凝集物を形成したりする。
【0050】
ところが、本実施形態の固体燃料は、微粉炭、石油コークス粉、又はこれらの熱分解物を含有しており、これらが溶融した熱可塑性プラスチックの溶融物の表面に付着することとなる。すなわち、溶融した熱可塑性プラスチックの表面に熱分解物等が付着し、溶融した熱可塑性プラスチック表面上に熱分解物等を主成分とする層(後述の第2の相)が形成される。この第2の相が存在することにより、加熱装置や他の塊状プラスチック溶融物との融着を低減することができる。したがって、塩化ビニル等、塩素を含まない熱可塑性プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド等)のみを用いて固体燃料を製造する場合に、本実施形態の固体燃料の製造方法の効果がより著しいものとなる。
【0051】
第1の相と第2の相を有する固体燃料の構造は、固体燃料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することによって確認することができる。第1の相は主成分である熱可塑性プラスチックの再固化物の他に、副成分として熱分解物等を含んでいてもよい。また、第2の相は、主成分である微粉炭、石油コークス粉及びこれらの熱分解物から選ばれる少なくとも一種の他に、副成分として熱可塑性プラスチックの再固化物を含んでいてもよい。
【0052】
固体燃料において、熱分解物等の合計の質量割合が過大になると、廃棄物の有効利用ができないことのみならず、十分優れた着火性が損なわれる傾向にある。一方、熱分解物等の合計の質量割合が過小になると、固定炭素の割合が減少して十分優れた高温場の形成が困難になる傾向にある。このような観点から、プラスチックの加熱処理物と熱分解物等との合計を基準として、プラスチックの加熱処理物の比率は、好ましくは15〜60質量%であり、より好ましくは20〜50質量%であり、さらに好ましくは20〜40質量%である。
【0053】
石油コークス粉及びその熱分解物の合計に対する微粉炭及びその熱分解物の合計の質量比は、好ましくは0.5〜3.0であり、より好ましくは0.8〜2.0であり、さらに好ましくは1.0〜1.5である。当該質量比が小さくなりすぎると、微粉炭及びその熱分解物の含有率が少なくなって、優れた高温場の形成が困難になる傾向にあり、当該質量比が大きくなりすぎると、石油コークス粉及びその熱分解物の含有率が少なくなって、優れた着火性が損なわれる傾向にある。
【0054】
次に、本発明の固体燃料の製造方法の好適な実施形態について説明する。
【0055】
図1は、本実施形態の固体燃料の製造方法の工程図である。本実施形態の固体燃料の製造方法は、熱可塑性プラスチックを含むプラスチック、並びに石炭を粉砕して得られた微粉炭及び石油コークスを粉砕して得られた石油コークス粉を加熱装置に投入する投入工程と、熱可塑性プラスチック並びに微粉炭及び石油コークス粉を混合して混合物を得る混合工程と、混合物を加熱して微粉炭及び/又は微粉炭の熱分解物、並びに石油コークス粉及び/又は石油コークス粉の熱分解物を含む固体燃料を得る加熱工程と、を有する。以下、各工程の詳細について説明する。
【0056】
投入工程では、熱可塑性プラスチックを含むプラスチックと微粉炭及び石油コークス粉とを、プラスチック100質量部に対して微粉炭及び石油コークス粉を合計で50〜500質量部、好ましくは50〜200質量部、より好ましくは80〜150質量部の割合で投入する。石炭及び石油コークスはプラスチックに比べて揮発分が少なく、逆にプラスチックは石炭及び石油コークスに比べて固定炭素が少ない。そのため、プラスチックに対する微粉炭及び石油コークス粉の合計の投入割合が高過ぎると、廃棄物の有効利用が十分にできなくなるだけでなく、得られる固体燃料の優れた着火性が損なわれる傾向にある。一方、プラスチックに対する微粉炭及び石油コークス粉の合計の投入割合が低過ぎると、加熱工程において、熱可塑性プラスチックの溶融物同士が融着して、得られる加熱物が塊状になってハンドリングが困難になる傾向がある。また、加熱炉壁面に溶融した熱可塑性プラスチックが融着して、設備にダメージを与え易くなる傾向がある。これは、溶融した熱可塑性プラスチックの表面に付着する微粉炭、石油コークス粉、及び/又はこれらの熱分解物の量が少なくなり、融着防止機能を有する微粉炭、石油コークス粉、及び/又はこれらの熱分解物の相(第2の相)の形成が不十分となるためである。
【0057】
投入工程における微粉炭の水分の含有率は0〜50質量%であり、好ましくは0〜30質量%であり、より好ましくは0〜20質量%である。燃焼性に一層優れる固体燃料を得る観点から、高位発熱量(気乾ベース)が、好ましくは20,000kJ/kg以上、より好ましくは22,000kJ/kg以上の微粉炭を用いる。また、着火性に優れる固体燃料を得る観点から、揮発分の含有率が好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜45質量%である微粉炭を用いる。
【0058】
また、固定炭素の含有率が、好ましくは30〜70質量%、より好ましくは40〜65質量%の微粉炭を用いる。微粉炭の固定炭素の含有率が小さくなり過ぎると、得られる固体燃料による高温場の形成が困難になる傾向にあり、微粉炭の固定炭素の含有率が大きくなり過ぎると、相対的に揮発分が少なくなって得られる固体燃料の優れた着火性が損なわれる傾向にある。
【0059】
本実施形態の製造方法で用いる微粉炭の種類は特に制限されず、一層優れた燃焼性を有する固体燃料を得る観点から、瀝青炭及び無煙炭など、燃料比(固体炭素分を揮発分で除した数値)が大きい高品位炭、すなわち固定炭素分の多いものを好適に用いることができる。一方、低コストで固体燃料を製造する観点から、褐炭、亜瀝青炭、泥炭などの低品位炭を用いてもよい。
【0060】
一般的に低品位炭は含水量が高い場合が多い。含水量の高い低品位炭には微小孔が多く存在し、この微小孔の中に水分が保持されている。このような低品位炭を粉砕するとともに水分を乾燥させると、この微小孔が表面に露出するため、微小孔が多く含水量の高い低品位炭は、微小孔の少ない石炭と比べて比表面積が大きくなる。
【0061】
そこで、含水量の高い低品位炭を熱可塑性プラスチックとともに加熱することにより、溶融した熱可塑性プラスチックを微小孔内部に導入させて、微小孔を閉塞することにより、乾燥・粉砕時における微小孔の露出を低減させる。これにより、含水量の高い低品位炭単体の粉砕物と比べ、本実施形態の固体燃料の粉砕物の比表面積を低下させることが可能となる。これによって、粉塵爆発の発生を十分に抑制することができる。
【0062】
同様に、石油コークスにも微小孔が多数存在するため、溶融した熱可塑性プラスチックによりこの微小孔を閉塞することで、微小孔の多い石炭と同様に粉砕時の比表面積を低下させることができる。
【0063】
なお、低品位炭には酸素含有量の高いものもある。このような酸素含有量の高い低品位炭は酸素官能基が多い傾向にある。酸素官能基は親水性および自己着火性が高いため、酸素含有量の高い低品位炭の粉砕物も親水性、自己着火性が高い。しかしながら、本実施形態の固体燃料は、溶融プラスチックで表面をコーティングすることにより酸素官能基の露出が抑制されているため、酸素官能基の多い低品位炭を用いた場合であっても、親水性や自己着火性が低減されたものとなる。とりわけ固体燃料を粉砕して燃料とする場合は、粉砕により比表面積が増大するため、酸素官能基の露出抑制による自己着火性の低減作用は一層有効である。
【0064】
なお、微粉炭の平均粒子径は、好ましくは10〜1000μmであり、より好ましくは50〜500μmである。微粉炭の平均粒子径が大きくなり過ぎると、加熱装置内における熱可塑性プラスチックの融着を十分に抑制できなくなる傾向にある。一方、微粉炭の平均粒子径が小さくなり過ぎると、原料の取扱いが難しくなる傾向にある。
【0065】
投入工程における石油コークス粉の水分の含有率は0〜50質量%であり、好ましくは0〜30質量%であり、より好ましくは0〜20質量%である。燃焼性に一層優れる固体燃料を得る観点から、高位発熱量(気乾ベース)が、好ましくは25,000kJ/kg以上、より好ましくは30,000kJ/kg以上の石油コークス粉を用いる。また、着火性に優れる固体燃料を得る観点から、揮発分の含有率が好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜20質量%である石油コークス粉を用いる。
【0066】
また、石油コークス粉の固定炭素の含有率は、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは60〜90質量%である。石油コークス粉の固定炭素の含有率が小さくなり過ぎると、得られる固体燃料による高温場の形成が困難になる傾向にあり、石油コークス粉の固定炭素の含有率が大きくなり過ぎると、相対的に揮発分が少なくなって得られる固体燃料の優れた着火性が損なわれる傾向にある。
【0067】
本実施形態の製造方法で用いる石油コークス粉の種類は特に制限されず、通常のコークス製造装置で製造された、市販の石油コークスをローラーミル等で粉砕したものを用いることができる。石油コークス粉の平均粒子径は、好ましくは10〜1000μmであり、より好ましくは50〜500μmである。石油コークス粉の平均粒子径が大きくなり過ぎると、加熱装置内における熱可塑性プラスチックの融着を十分に抑制できなくなる傾向にある。一方、石油コークス粉の平均粒子径が小さくなり過ぎると、原料の取扱いが難しくなる傾向にある。
【0068】
プラスチックとしては、通常の廃プラスチックを用いることができる。廃プラスチックは通常汎用性プラスチックが廃棄されたものであり、汎用性プラスチックの大部分は熱可塑性である。
【0069】
本実施形態の廃プラスチックには、熱可塑性樹脂(本実施形態の熱可塑性プラスチックと同様の成分である)及び/又はエラストマーが添加配合されている。添加配合される熱可塑性樹脂やエラストマーは、合成樹脂製品の樹脂材料と同じ樹脂、又は同質の樹脂を用いることが望ましい。従って、廃プラスチック材料の粉砕物の再利用に利用できる熱可塑性樹脂材料の例としては、オレフィン系樹脂(例、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、結晶性ポリプロピレン)、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂−スチレン系樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエンスチレン樹脂)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェエレンスルフィドなどのポリフェニルエーテル系樹脂;ポリメタクリル酸メチルのようなポリアクリル酸系樹脂;6−ナイロン、66−ナイロン、12−ナイロン、6・12−ナイロンなどのポリアミド系樹脂;ポリスルホンなどを挙げることができる。
【0070】
エラストマーは、明確な降伏点を有しない熱可塑性の低結晶性エラストマー、又は明確な融点及び降伏点を有しない熱可塑性の非晶性エラストマーであり、常温でゴム弾性を有するエラストマー又はゴムを用いることができる。使用できるエラストマーの具体例としては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーを挙げることができる。エラストマーは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
スチレン系エラストマーとしては、ブタジエン−スチレン共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体等の全てを含む。)及びその水添物、スチレンブタジエンスチレン共重合体(SBSなど)、水添スチレン−ブタジエンスチレン共重合体(SEBSなど)、イソプレン−スチレン共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等の全てを含む)及びその水添物、水添スチレン−イソプレン共重合体(SEPSなど)、水添スチレン−ビニルイソプレン共重合体(V−SEPSなど)、スチレンイソプレン−スチレン共重合体(SISなど)、水添スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SEPSなど)、水添スチレン−ブタジエンオレフィン結晶ブロック共重合体(SEBCなど)等を用いることができる。
【0072】
ポリオレフィン系エラストマーとしては、非晶性又は低結晶性ポリオレフィン−α−オレフィン共重合体、ポリオレフィンとオレフィン系ゴムとの混合物等を用いることができる。具体的には、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンエラストマー、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体エラストマー、エチレン・1−ブテンエラストマー(EBM、EBSなど)、エチレン・ヘキセンエラストマー、エチレン・オクテンエラストマー、プロピレン・1−ブテンエラストマーなどのエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体エラストマーやプロピレンと炭素数2〜12のα−オレフィン(炭素数3を除く)との共重合体エラストマーなどのポリオレフィン系エラストマーなどを挙げることができる。さらにポリオレフィン系エラストマーとしては、水素添加アクリロニトリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エピクロロヒドリンゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴムなどを挙げることができる。エラストマーとしては、特にエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体エラストマーやプロピレンと炭素数2〜12のα−オレフィン(炭素数3を除く)との共重合体エラストマーなどのポリオレフィン系エラストマーを好ましく用いることができる。
【0073】
ポリエステル系エラストマーとしては、ポリエステル−ポリエーテル共重合体、ポリエステルーポリエステル共重合体等からなるエラストマーを用いることができる。
【0074】
ポリアミド系エラストマーとしては、ポリアミド−ポリエステル共重合体、ポリアミド−ポリエーテル共重合体等からなるエラストマー等を用いることができる。上記のエラストマーの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
なお、廃プラスチックは、その他のプラスチックを含んでいてもよく、不純物としてプラスチック以外の廃棄物を少量含有していてもよい。不純物は廃プラスチックとともにあらかじめ所定の大きさに破砕されており、金属片や熱硬化性プラスチック等の不純物が含まれていた場合であっても、溶融した塊状の熱可塑性プラスチックに付着し、または内部に取り込まれることにより、固体燃料に一体化される。
【0076】
なお、本実施形態の加熱工程(後述)では脱塩のために300℃〜350℃で加熱を行っており、通常、この300℃〜350℃では溶融してしまうポリエチレン、ポリプロピレンやポリスチレン等が多く含まれる廃プラスチックの場合、加熱工程において融着が発生しやすい。その場合、本実施形態のように微粉炭による融着防止効果がより顕著となる。
【0077】
燃焼性に一層優れる固体燃料を得る観点から、プラスチック全体の高位発熱量(気乾ベース)は、好ましくは25,000〜40,000kJ/kg、より好ましくは30,000〜40,000kJ/kgである。また、着火性に優れる固体燃料を得る観点から、プラスチック全体として、揮発分の含有率が好ましくは70〜95質量%、より好ましくは80〜90質量%である。
【0078】
混合工程では、投入工程で投入したプラスチック、微粉炭及び石油コークス粉を混合する。通常、微粉炭などの炭素分の多い物質は、溶融プラスチックとの濡れ性があまり良好ではない。そのため、加熱工程の前に、混合工程によって微粉炭及び石油コークス粉とプラスチックとを混合することによって、微粉炭及び石油コークス粉と熱可塑性プラスチックとが分離してしまうのを抑制し、熱可塑性プラスチックの再固化物を主成分とする第1の相と、熱分解物等を主成分とする第2の相とが良好に分散した固体燃料を得ることができる。
【0079】
図2は、本実施形態の固体燃料の製造方法に用いられる加熱装置のブロック図である。本実施形態の固体燃料の製造方法は、廃プラスチックの溶融に通常用いられる加熱炉を備える加熱装置を用いることができる。
【0080】
図2に示すように、原料である廃プラスチック10は、搬送クレーンなどの搬送機11によってストックヤードから破砕機12に搬送され所定のサイズに破砕される。破砕された破砕物は、移送装置13により加熱炉20に移送される。加熱炉20では、微粉炭及び/又は石油コークスと廃プラスチックとが混合された後、廃プラスチックは加熱されて溶融する。なお、微粉炭と石油コークス粉の双方を用いる場合、これらは予め別の混合装置を用いて混合しておいてもよい。この場合、石炭と石油コークスの粉砕と同時に混合を行って、微粉炭と石油コークス粉の混合物を調製してもよい。
【0081】
加熱工程では、混合物を加熱して熱可塑性プラスチックを溶融物にした後に、冷却して当該溶融物が固化した再固化物と熱分解物等を含む固体燃料を得る。なお、加熱工程内で加熱後に冷却してもよく、加熱工程後に、溶融した熱可塑性プラスチックを含む加熱物を冷却する冷却工程を別途設けてもよい。微粉炭及び石油コークス粉は、炭種及び種類によって熱分解されるものとされないものがあるため、微粉炭及び石油コークス粉は、加熱工程後には、熱分解されない微粉炭及び石油コークス粉と、熱分解された微粉炭及び熱分解された石油コークス粉との混合物となる。したがって、加熱工程では、熱可塑性プラスチックの再固化物と熱分解物等とを含む粒状の固体燃料が得られる。
【0082】
加熱炉20で混合物を加熱すると、熱可塑性プラスチックが溶融し、熱分解物等が、溶融した熱可塑性プラスチックの表面に付着した状態になる。その後、熱可塑性プラスチックの溶融が進行し、プラスチックの溶融物の表面に熱分解物等が付着する。その後冷却すると、熱可塑性プラスチックの再固化物(第1の相)の表面が熱分解物等(第2の相)で覆われた構造を有する固体燃料を得ることができる。
【0083】
図3は、本実施形態の固体燃料の断面構造を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真(倍率:150倍)である。本実施形態の製造方法によって得られる固体燃料は、熱可塑性プラスチックを加熱して溶融した後、冷却して得られる再固化物を主成分とする第1の相100と、熱分解物等を主成分とする第2の相200とを有しており、第2の相200が第1の相100の周囲を覆うように設けられている。本実施形態の固体燃料は、このような構造を有することによって、装置内への融着が十分に抑制されるとともに一層良好な燃焼性を有する。
【0084】
加熱炉20としては、回転式加熱炉、例えば間接加熱ロータリキルン型の加熱炉を使用することができる。このような加熱炉を用いることによって、熱可塑性プラスチックの破砕物と微粉炭及び石油コークス粉との混合物を加熱することができる。なお、熱可塑性プラスチックの破砕物と微粉炭及び石油コークス粉との混合は、加熱炉20に投入する前に行ってもよく、加熱炉に20に投入した後に行ってもよい。できるだけ均一な固体燃料を得る観点から、加熱炉20内における加熱は、熱可塑性プラスチックの破砕物と微粉炭及び石油コークス粉とを混合しながら行うことが好ましい。
【0085】
熱可塑性プラスチックの破砕物、微粉炭及び石油コークス粉とを含む混合物は、加熱炉20によって加熱される。加熱炉20における加熱温度は、250〜500℃、好ましくは250〜450℃、さらに好ましくは280〜400℃、特に好ましくは300〜350℃である。加熱温度が高すぎると、得られる固体燃料の揮発分が少なくなり、固体燃料の収率が低くなるとともに固体燃料の優れた燃焼性が損なわれる傾向にある。一方、熱可塑性プラスチックに塩素を含むプラスチックが含まれる場合、加熱温度が低すぎると固体燃料中に塩素等の成分の残存量が増える傾向にある。
【0086】
加熱炉20において上述の加熱温度に加熱する加熱時間は、30〜120分間、好ましくは45〜90分間である。加熱時間が長過ぎると、得られる固体燃料の揮発分が少なくなり、固体燃料の収率が低くなる傾向にある。一方、加熱時間が短過ぎるとプラスチックの脱塩素が不十分となり、固体燃料中に塩素等の成分の残存量が増える傾向にある。なお、一層優れた燃焼性を有する固体燃料を高収率で得る観点から、固体燃料は熱分解していない微粉炭及び/又は石油コークス粉を含有することが好ましい。このような固体燃料は、加熱工程における加熱温度及び/又は加熱時間を調整することによって得ることができる。
【0087】
加熱炉20における加熱は、大気圧未満の圧力下で行うことが好ましい。これによって、プラスチックの熱分解によって生じるタール成分の加熱炉外への排出が促進される。その結果、熱可塑性プラスチックの溶融物の表面に存在するタール成分の量が減少して、熱可塑性プラスチックの溶融物の表面の融着性が低減されることとなる。したがって、熱可塑性プラスチックの溶融物の表面に、熱分解物等が過剰に付着することが抑制され、熱可塑性プラスチック再固化物(第1の相)を覆う熱分解物等(第2の相)の厚みが大きくなりすぎるのを抑制することができる。このような作用によって、最終的に得られる固体燃料の粒子径を小さくすることができる。
【0088】
加熱炉20における加熱は、具体的には、好ましくは99kPaA以下、より好ましくは98kPaA以下の減圧下で行うことが好ましい。なお、加熱炉20内の圧力に特に下限はないが、設備の耐圧性の観点から90kPaA以上であることが好ましい。
【0089】
加熱炉20内部の酸素ガス濃度は、好ましくは10〜18体積%であり、より好ましくは14〜18体積%である。酸素ガス濃度が高くなり過ぎると、熱可塑性プラスチック、微粉炭、石油コークス粉の少なくとも一種の酸化が進行してしまい、得られる固体燃料の収率が低くなる傾向にある。一方、酸素ガス濃度が低くなり過ぎると、プラスチックが熱分解して生じるタール分の酸化が促進されず、タールの残留分が多くなり、溶融した熱可塑性プラスチックの融着が発生し易くなる傾向にある。
【0090】
図4は、本実施形態の固体燃料の製造方法に好適に用いられるロータリキルン型加熱炉の内部の攪拌板の例を示す模式図である。攪拌板(リフタ)30は、加熱炉20の軸方向に沿って延びるように備えられる。このような攪拌板30を備えることによって、加熱炉20内に投入された原料(熱可塑性プラスチック、微粉炭及び石油コークス粉)の撹拌及び混合を円滑に行うことができる。攪拌板30の設置枚数は、加熱炉の規模等によって適宜設定される。例えば、加熱炉20の内径が50mmから300mm程度であれば、
図4(a)から(c)に示すように、2〜4枚の攪拌板30を設けることが好ましく、加熱炉20の内径が600mm程度であれば、
図4(d)に示すように8枚の攪拌板30を設けることが好ましい。
【0091】
攪拌板30は、その高さhの0.3倍から3倍程度のピッチで取り付けられることが好ましい。また、攪拌板30の高さhは、原料(混合物)に含まれる熱可塑性プラスチックが柔らかくなって微粉炭及び石油コークス粉とともに粒状化するまでは、加熱炉20の内径に対し、10%から30%程度のサイズであることが好ましい。このように、内部に攪拌板30を備えるキルンを用いることによって、加熱炉20に投入された熱可塑性プラスチック、微粉炭及び石油コークス粉は、キルンの回転に伴って攪拌板30によって掻きあげられ、混合されながら加熱されることとなる。
【0092】
本実施形態の固体燃料の製造方法では、塩化ビニル等の塩素を含む熱可塑性プラスチック(塩化ビニル等を含む廃プラスチック)を簡便に処理することができる。すなわち、塩化ビニルのような塩素を含有する廃プラスチックを加熱すると、塩素が塩化水素ガスとなり固体原燃料から除去(脱塩)される。これにより、塩素含有率が十分に低減された固体燃料を得ることができる。ただし、廃プラスチック中の塩素含有率が過剰になると、生成した固体原燃料に塩素分が残存し、固体燃料を用いる設備(例えばセメント製造装置や発電用ボイラ)や当該設備を用いて得られる製品品質(例えばセメント)に悪影響を及ぼす可能性がある。従って、原料であるプラスチックに含まれる塩素分は少ないほうが好ましい。すなわち、投入工程では、塩化ビニル等、塩素を含まない熱可塑性プラスチックのみを投入することが好ましい。具体的には、原料として用いる熱可塑性プラスチック中の塩素含有率は、30質量%以下、好ましくは10質量%以下である。なお、塩化ビニル等の廃プラスチックを有効に活用する観点から、原料である熱可塑性プラスチックの塩素含有率は、1質量%以上、より好ましくは2質量%以上である。
【0093】
なお、塩化ビニル等、塩素を含む熱可塑性プラスチックは、脱塩素(熱分解)が始まると炭素主体の固形物となる。本実施形態の加熱工程における特に好ましい温度領域は300〜350℃であり、この温度領域では、塩素を含む熱可塑性プラスチックは、通常固体である。そのため、上述の温度領域では、塩素を含む熱可塑性プラスチックは、通常溶融することはなく、装置内に融着することもない。
【0094】
これに対し、他の熱可塑性プラスチックは、上記温度領域(300〜350℃)では溶融・液状化しており、微粉炭及び石油コークス粉を添加せずに加熱炉20に投入すると融着してしまう。そこで、本実施形態では、微粉炭及び石油コークス粉を添加することにより、溶融した熱可塑性プラスチックの周囲に微粉炭及び石油コークス粉を付着させ、塩化ビニル等、塩素含有プラスチックに比べて溶融しやすい熱可塑性プラスチックであっても、融着を回避しつつ固体燃料を製造することが可能となる。
【0095】
このように、塩化ビニル等、塩素を含まない熱可塑性プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル等)のみを用いて固体燃料を製造する場合、本実施形態の固体燃料の製造方法の効果がより顕著となる。
【0096】
本実施形態の製造方法では、投入する原料(混合工程における混合物)全体に対する、生成物(固体燃料)の収率が、70質量%以上であり、好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは78質量%以上である。このように、生成物の収率を高く維持することによって、揮発分の含有量が十分に高く良好な燃焼性を有する固体燃料を得ることができる。なお、生成物の収率は、加熱炉における加熱温度や加熱時間を変えることによって調整することができる。
【0097】
加熱工程によって生成した加熱物(固体燃料)は、生成物として加熱炉20より排出され、図示しない冷却装置によって冷却され、必要に応じて後段の回収・分離装置に移送される。
【0098】
一方、加熱炉20における混合物の加熱によって発生したタールを含む熱分解ガスは図示しない燃焼室にて燃焼され、完全に分解される。原料として、塩化ビニルのような塩素を含有する廃プラスチックを使用した場合、燃焼排ガスに含まれる塩化水素は、排ガス洗浄装置23によって回収される。
【0099】
加熱工程で得られる固体燃料は、主成分として、熱可塑性プラスチックが溶融した後、冷却して得られる再固化物、及び熱分解物等を含有することが好ましい。また、主成分以外に、熱分解されていない熱硬化性プラスチックを少量含んでいてもよい。
【0100】
なお、石炭及び石油コークス粉の種類によっては300〜350℃(本実施形態の加熱工程において特に好ましい温度領域)に加熱しても、熱分解されないものもある。したがって、主成分に含まれる微粉炭及び石油コークス粉は、それぞれ、熱分解されたものと熱分解されていないものとが混在していてもよい。
【0101】
加熱工程後に、得られた固体燃料を粉砕する粉砕工程を行ってもよい。粉砕工程では、加熱工程で得られた熱分解物を通常の粉砕装置を用いて所望のサイズになるまで粉砕して粒状化する。これによって、所望の粒子径サイズを有する固体燃料を得ることができる。
【0102】
なお、粉砕工程の前に、加熱炉20から冷却装置を介して得られた固体燃料を振動篩などの手段によって、粒子径が大きいものと小さいものに分離してもよい。この場合、粒子径が小さいものについては、そのまま固体燃料として使用することもできる。
【0103】
以上の通り説明した本実施形態の固体燃料の製造方法によれば、特別な前処理を施すことなく、熱可塑性プラスチック、微粉炭及び石油コークス粉を原料として用いることによって、装置内への融着が抑制され良好な取扱い性と良好な燃焼性とを有する固体燃料を高収率で得ることができる。
【0104】
得られた固体燃料は、セメント製造装置の仮焼炉やロータリキルンの窯前又は窯尻などに供給して燃焼させ、燃料として使用することができる。また、微粉炭の代替燃料として発電用ボイラに供給して燃焼させることができる。
【0105】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0106】
本発明の内容を、実施例及び比較例の内容を参照しつつより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0107】
(実施例1)
原料として、ポリエチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、塩化ビニル樹脂及びABS樹脂等を含む廃プラスチック、市販の微粉炭、及び市販の石油コークス粉を準備した。準備した廃プラスチックの組成の一例を表1に示す。表1に示すような複数種類の廃プラスチックを混合して、固体燃料の原料とした。原料である廃プラスチック、微粉炭、石油コークス粉、及び当該石油コークス粉と微粉炭とを35:65の質量比率で混合して得た有機物粉末の性状を、表2に纏めて示す。また、石油コークス塊状物の粒度分布を表3に示す。
図5は、該有機物粉末の粒度分布(体積基準)を示すグラフである。
【0108】
【表1】
【0109】
なお、廃棄物の特性上、どのようなプラスチックがどれくらいの割合で含まれるかは一義的には定まらないため、表1で示される割合はあくまでも例である。上述のように、ポリエチレン、ポリプロピレンやポリスチレン等、溶融しやすいプラスチックが多く含まれる場合は加熱工程における融着が発生しやすい傾向にあるため、微粉炭による融着防止効果がより顕著となる。
【0110】
本実施例では、高位発熱量(気乾ベース)の分析はJIS M−8814に準拠し、1013−J(装置名、吉田製作所製)を用いて行った。工業分析(気乾ベース)は、JIS M−8812に準拠して行った。元素分析(無水ベース)は、JIS M−8819に準拠し、MT−5(装置名、ヤナコ製)を用いて行った。HGI(ハードグローブインデックス、石炭の粉砕性指数)測定は、JIS M−8801に準拠して行った。平均粒子径及び粒度分布の測定は、レーザー回折粒度分布測定装置(堀場製作所製、装置名:LA−920、溶媒:純水250ml、相対屈折率1.50、平均粒子径:積算体積50%、試料分散時間:3分間、測定時間:20秒間、測定繰り返し回数:2回、He−Neレーザー、波長:632.8nm、出力:1Mw、タングステンランプ50W)を用いて行った。平均粒子径は、積算分布曲線の50体積%に相当する粒子径(メジアン径)とした。微粉炭(平均粒子径:13μm)、および微粉炭と石油コークス粉(平均粒子径:20μm)の平均比表面積は、市販の比表面積測定装置(島津製作所製、装置名:ASAP2420、窒素ガス使用、BET比表面積多点法)を用いて測定した。
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
上述の廃プラスチック100質量部に対し、上述の有機物粉末100質量部を、
図4に示すようなロータリキルン型加熱炉(炉径:φ600mm)を備える加熱装置に投入し、廃プラスチックと有機物粉末とを混合しながら5℃/分で昇温して加熱し、廃プラスチックと有機物粉末の混合物を、窒素と酸素の混合ガス雰囲気下(酸素濃度:5体積%以下、圧力:98〜101.3kPaA)、300℃で50分間加熱する加熱工程を行った。
【0114】
ロータリキルン型加熱炉としては、耐熱鋼SUS310S製容器(掻き上げ羽根(攪拌板)4枚(羽根高さ70mm×4枚付き)と、当該容器を外部から加熱する電気炉とを備えるものを用いた。ロータリキルン型加熱炉は、隣り合う攪拌板間のインタバル時間が0.1分間となるように回転させながら炉外温度を制御して、炉内試料温度を調整した。
【0115】
ロータリキルン型加熱炉において加熱工程が終了した後、生成物を冷却して、微粉炭、微粉炭の熱分解物、石油コークス粉、石油コークス粉の熱分解物、廃プラスチックの再固化物、及び廃プラスチックの熱分解物を含有する固体燃料を得た。固体燃料の工業分析及び元素分析の結果を、表4に示す。また、固体燃料(粉砕前)の粒度分布の分析結果を表5に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
表4中、収率は、以下の計算式(1)によって求めた。
収率(質量%)=固体燃料の質量/(加熱炉に投入した廃プラスチック、微粉炭及び石油コークス粉の合計質量)×100 ・・・(1)
【0118】
【表5】
【0119】
固体燃料(粉砕前)の粒度分布の分析結果は表5に示されるとおりであった。このように、実施例1における固体燃料は1.0mm以上16mm未満の粒子の割合が85.8質量%であり、運搬、貯蔵の障害となるような大きな塊状物は存在しなかった。また、微小粒子の割合が大きい場合は運搬時および貯蔵時に煩雑な工程が多くなるが、実施例1の固体燃料では1.0mm未満の微小粒子の割合は13.7質量%と小さくなっており、運搬、貯蔵におけるハンドリング性が向上する。
【0120】
実施例1で得られた固体燃料を粉砕し、それぞれ篩い分けして、粒子径が500〜1000μmのものを用いて、熱重量分析(TG)を行った。熱重量分析(TG)は、(株)マック・サイエンス製のMTC1000(装置名)を用い、空気雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した。なお、比較のため、原料である石油コークス粉を篩い分けしたもの(粒子径45μm以下)、及び微粉炭を篩い分けしたもの(粒子径45〜90μm)についても、同様の測定を行った。石油コークス粉の熱重量分析は、空気中、昇温速度5℃/分の条件で行った。
【0121】
図6は、原料である石油コークス粉単体の熱重量分析(TG)結果を示すグラフ、
図7は微粉炭単体の熱重量分析(TG)結果を示すグラフである。また、
図8は原料である微粉炭と石油コークス粉の混合物(質量%での混合比は微粉炭:石油コークス=65:35)の熱重量分析(TG)結果を示すグラフ、
図9は実施例1の固体燃料の熱重量分析(TG)結果を示すグラフである。実施例1の固体燃料は、250℃付近から傾きが増大(燃焼開始)している(
図9参照)。これに対し石油コークス単体では420℃付近から傾きが増大(燃焼開始)しており(
図6参照)、微粉炭単体では350℃付近から傾きが増大(燃焼開始)している(
図7参照)。また微粉炭と石油コークス粉の混合物では400℃付近から傾きが増大(燃焼開始)しており(
図8参照)、これにより、実施例1の固体燃料は微粉炭、石油コークス粉、および微粉炭と石油コークス粉の混合物のいずれよりも着火性が向上していることが確認された。
【0122】
これにより、微粉炭と石油コークス粉の混合物100質量部(微粉炭65質量部、石油コークス35質量部)に対し、安価な廃プラスチックを100質量部用いた固体燃料であっても、微粉炭単体と同等以上の燃焼特性を有する燃料を得ることができた。また、石油コークスは石炭と比べて安価であるため、微粉炭単体と同等以上の燃焼特性を有する固体燃料をさらに低コストで得ることができる。