(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759104
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】核酸プロファイル及びプロテオミクスプロファイルを意思決定支援システムにおける健康管理の手順及び指針に関連づけるシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/22 20120101AFI20150716BHJP
【FI】
G06Q50/22 130
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2009-523399(P2009-523399)
(86)(22)【出願日】2007年8月2日
(65)【公表番号】特表2010-500640(P2010-500640A)
(43)【公表日】2010年1月7日
(86)【国際出願番号】IB2007053049
(87)【国際公開番号】WO2008017992
(87)【国際公開日】20080214
【審査請求日】2010年7月29日
【審判番号】不服2014-6747(P2014-6747/J1)
【審判請求日】2014年4月10日
(31)【優先権主張番号】60/822,091
(32)【優先日】2006年8月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】アルサファディ,ヤッセル
【合議体】
【審判長】
手島 聖治
【審判官】
石川 正二
【審判官】
緑川 隆
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/72011号公報
【文献】
特開2005−182362号公報
【文献】
特開2001−52056号公報
【文献】
特表2006−510435号公報
【文献】
特開2004−29927号公報
【文献】
特開2003−190097号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
意思決定支援用の健康管理の手順又は指針を利用するための指針表明と;
患者の状態及び前記健康管理の手順又は指針におけるステージに関連づけられた核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルと;
を含む記憶手段であって、
前記患者の状態が、患者の現況及び病歴の詳細を提供し、前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが、遺伝的構造、遺伝子発現、蛋白質修飾、又は疾患の状態のうち少なくとも1つ含み、さらに前記患者の状態の分子指標を提供する、記憶手段と;
患者の現在のプロファイルを前記健康管理の手順又は指針から得られた予期されたプロファイルと比較するための第1比較手段と;
前記第1比較手段による比較の結果に基づいて、前記患者の診断又は治療に対する示唆を提供する示唆手段と;
前記患者の現在のプロファイルから少なくとも1つの検査結果又は観察結果を検索する検索手段と;
前記患者の現在のプロファイルが不十分である又は存在していない場合、前記検索手段により検索された前記検査結果又は観察結果に基づいて、少なくとも1つの分子検査を行うよう忘備録を生じる生成手段と;
を有し、
前記指針表明が、措置段階、意思決定、及び患者の状態のうち少なくとも1つ含み、前記措置段階が、データ収集及びインターベンションのうち少なくとも1つ含む
システム。
【請求項2】
前記健康管理の手順又は指針が:
検診及び予防;
前記患者の診断及び予備診断の管理;
少なくとも1つの健康管理法の使用への指示;
健康管理のケアの一部として特定の技術及び検査の使用;
健康管理の状態のケア;
健康管理の試みに登録するための適格性;並びに
健康管理のサービスを利用するための適格性;
を含めた群から選択される目的を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記指針表明が、前記健康管理の手順又は指針に含まれる異種の情報を記録及び整理するXMLベースの指針文書モデルを含めたガイドラインエレメントモデルである、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1比較手段が:
少なくとも1つの分子検査の要請;
予期された治療応答からの観察された偏差の表示;
前記健康管理の手順又は指針における少なくとも1つの入口点の位置づけ;
正確な順の提案;
関連する患者のデータの提示;
関連する参照情報の提示;及び、
前記患者の状態における変化に対する臨床医への警告;
のうち少なくとも1つを含んださらなる意思決定支援を提供する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1比較手段は、さらに、前記現在のプロファイルを前記健康管理の手順又は指針の前記入口点と比較し、前記健康管理の手順又は指針に登録するための適格性を示す、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記入口点が、前記健康管理の手順又は指針においてどこで前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが必要とされているかを同定する、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
核酸プロファイル検査又はプロテオミクスプロファイル検査を実行する実行手段、及び、前記患者の以前のプロファイルと前記現在のプロファイルを比較する第2比較手段をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記第2比較手段が:
分子検査の要請;
予期された治療応答からの偏差の表示;
指針における入口点の位置づけ;
正確な順の提案;
関連する患者のデータの提示;
関連する参照情報の提示;
前記患者の状態における変化に対する臨床医への警告;及び、
前記患者の診断又は治療に対する示唆の提供;
のうち少なくとも1つ含んだ意思決定支援を提供する、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
当該システムが:
分子検査の要請;
予期された治療応答からの偏差の表示;
指針における入口点の位置づけ;
正確な順の提案;
関連する患者のデータの提示;
関連する参照情報の提示;
前記患者の状態における変化に対する臨床医への警告;及び、
前記患者の診断又は治療に対する示唆の提供;
のうち少なくとも1つ実行するために前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルを使用する、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルにおけるメタデータをさらに含み、
前記メタデータは、健康管理志向及び/又はプログラミング志向の措置段階に関連づけられ、
前記メタデータが関連付けられた前記健康管理志向の前記措置段階が、前記分子検査を前記患者に対して行うことを推奨することをさらに含み;
前記メタデータが関連付けられた前記プログラミング志向の前記措置段階が、当該システムに前記患者の記録を調べて前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルを検索するよう指示することをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが症例段階に関連づけられ、前記症例段階が少なくとも1つの意思決定の選択肢のプロファイルを記述し、当該システムが、患者のプロファイルを少なくとも1つの症例のプロファイルと比較し、当該システムが、対応する前記少なくとも1つの意思決定の選択肢のプロファイルに関連づけられた指針方針に従う、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
コンピュータが実行する、意思決定支援を提供する指針勧告の作成方法であって:
以下の、患者の現況及び病歴の詳細を提供する患者の状態に関するデータ;前記患者の家族又は仲間の病歴に関するデータ;並びに、前記患者の核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイル;のうち少なくとも1つを取得及び分析するステップ、
前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルを前記患者の状態に関連づけるステップ、及び、健康管理の手順又は指針におけるステージを前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルに関連づけるステップのうちの少なくとも1つのステップであって、前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが、前記患者の状態の分子指標を提供する、ステップ、
患者の現在のプロファイルを前記健康管理の手順又は指針から得られた予期されたプロファイルと比較するステップ;
前記比較の結果に基づいて、前記患者の診断又は治療に対する示唆を提供するステップ;
前記患者の現在のプロファイルから少なくとも1つの検査結果又は観察結果を検索するステップ;並びに
前記患者の現在のプロファイルが不十分である又は存在していない場合、前記検索ステップにおいて検索された前記検査結果又は観察結果に基づいて、少なくとも1つの分子検査を行うよう忘備録を生じるステップ;
を含み、
前記健康管理の手順又は指針を利用するための指針表明が、措置段階、意思決定、及び患者の状態のうち少なくとも1つ含み、前記措置段階が、データ収集及びインターベンションのうち少なくとも1つ含む
方法。
【請求項13】
分子検査の要請;予期された治療応答からの偏差の表示;指針における入口点の位置づけ;正確な順の提案;関連する患者のデータの提示;関連する参照情報の提示;前記患者の状態における変化に対する臨床医への警告;前記患者の診断又は治療に対する示唆の提供;健康管理の試みに登録するための適格性;及び、健康管理のサービスを利用するための適格性;のうち少なくとも1つ実行するために前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルを使用するステップ、
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記患者の以前のプロファイルと前記現在のプロファイルを比較するステップ;
対応する核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルを前記健康管理の手順又は指針において位置づけるステップ;及び
前記患者の前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが変化した場合、前記健康管理の手順又は指針における入口点を示唆するステップ;
のうち少なくとも1つをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
意思決定支援用の健康管理の手順又は指針を利用するための指針表明であって、データ収集及びインターベンションのうち少なくとも1つ含む措置段階、意思決定、及び患者の状態のうち少なくとも1つ含む、指針表明と;
患者の状態に関連づけられた核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルであり、前記患者の状態が患者の現況の詳細を提供し、前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが、遺伝的構造、遺伝子発現、蛋白質修飾、又は疾患の状態のうち少なくとも1つの分析結果である、核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルと;
を記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
前記健康管理の手順又は指針のステージを前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルに関連づけるステップであり、前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが前記患者の状態の分子指標を提供する、ステップと;
患者の現在のプロファイルを前記健康管理の手順又は指針から得られた予期されたプロファイルと比較するステップと;
前記比較の結果に基づいて、前記患者の診断又は治療に対する示唆を提供するステップと;
前記患者の現在のプロファイルから少なくとも1つの検査結果又は観察結果を検索するステップと;
前記患者の現在のプロファイルが不十分である又は存在していない場合、前記検索ステップにおいて検索された前記検査結果又は観察結果に基づいて、少なくとも1つの分子検査を行うよう忘備録を生じるステップと;
をコンピュータに実行させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項16】
請求項12に記載の方法をコンピュータに実行させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、意思決定支援用の健康管理の手順又は指針を利用するために核酸プロファイル及びプロテオミクスプロファイルを患者の状態に関連づけるシステム、方法、並びに、コンピュータ読み取り可能な媒体を提供することである。
【背景技術】
【0002】
健康管理の手順及び指針は、開業医及び/又は患者が特定の臨床的状態に対する適切な健康管理について意思決定するのに寄与する体系的に発展した声明である。健康管理の手順及び指針は、予防、診断、予後、及び治療を含めた医療モードに関係したトピックスに関するデータを提供する。これらの健康管理の手順及び指針は、意思決定の選択肢をつきとめ、健康管理の判断に寄与することができる。(United States Department of Health and Human Services Agency for Healthcare Research and Quality, http://www.ahrq.gov) 研究により、健康管理の手順及び指針のコンピュータベースの実行が、健康管理のワークフローと統合して患者にポイントオブケアで特定の勧告を与える場合に、臨床医の作業及び患者の結果を改善することができるということが示された(JM Grimshaw et al,Lancet,342(8883):1317−22,1993;ME Johnston et al.,Ann.Intern.Med.,120(2):135−42,1994)。
【0003】
神経障害の分子的診断における欧州神経学連盟のプロジェクトチームは、遺伝性神経疾患の分子的診断に対する指針を発行している。これらの指針には、一部の重要な遺伝性神経疾患の分子遺伝学的診断の可能性及び制限の要約が含まれている。分子診断検査を指示するべきかどうか決定するのに寄与する診断基準等の実用的な発行物が重要視されている。これらの指針により取り組まれている疾患の一部は、非変性の運動障害、遺伝性運動失調、神経変性障害、認知症、筋障害、及び筋萎縮症である。(European Journal of Neurology,8:299−314,2001)
【0004】
診断検査の質の改善は、例証的な遺伝障害としてのY染色体微小欠失の分子的診断に対する指針の発行を介して、欧州アンドロロジー学会及び欧州分子遺伝学クオリティネットワークにより支援されている。(M.Simoni et al.,International Journal of Andrology,27:240−249,2004) Y染色体の微小欠失及びクラインフェルター症候群は、不妊の男性における精子形成不全の最大の遺伝的原因である。Y染色体微小欠失の分子的診断は、無精子症又は深刻な精子減少症を有する男性における男性不妊症の精密検査において日常的に行われる。Y染色体の微小欠失もクラインフェルター症候群も、核酸プロファイル及び/又はプロテオミクスプロファイルを用いて容易に検出される。
【0005】
しかし、分子的指針には、現在、健康管理の手順又は指針における種々の「プリミティブ」若しくはステージを関連づけるための体系的手段及び方法、並びに、疾患の状態に関する分子指標が存在しない。より明確には、現在の健康管理の手順及び指針の表明は、健康管理の手順又は指針において特定のポイントで患者の核酸検査又はプロテオミクス検査の予期された又は現在の状態を決定する能力を支援していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、意思決定支援用の健康管理の手順又は指針を利用するための指針表明を有したシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本明細書における本発明の実施形態は、意思決定支援用の健康管理の手順又は指針を利用するための指針表明を有したシステムを提供する。核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが患者の状態に関連づけられる。前記患者の状態は、患者の現況及び病歴の詳細を提供し、前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルは、遺伝的構造、遺伝子発現、蛋白質修飾、又は疾患の状態の分析結果である。当該システムは、前記健康管理の手順又は指針におけるステージも前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルに関連づける。前記健康管理の手順又は指針は、それだけに限らないが、検診及び予防;前記患者の診断及び予備診断の管理;少なくとも1つの健康管理法の使用への指示;健康管理のケアの一部として特定の技術及び検査の使用;健康管理の状態のケア;健康管理の試みに登録するための適格性;並びに、健康管理のサービスを利用するための適格性を含めた目的を有している。前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルは、前記患者の状態に対する分子指標を提供する。
【0008】
関連した実施形態は、措置段階(action step)、意思決定、及び患者の状態から構成された指針表明を提供する。前記措置段階は、データ収集及びインターベンションを含む。
【0009】
関連した実施形態において、前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルにおけるメタデータは、健康管理志向及び/又はプログラミング志向の措置段階に関連づけられる。前記健康管理志向の措置段階に関連づけられた前記メタデータは、前記分子検査を前記患者に対して行うことを推奨する。前記プログラミング志向の措置段階に関連づけられた前記メタデータは、当該システムに前記患者の記録を調べて前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルを検索するよう指示する。
【0010】
別の実施形態は、前記健康管理の手順又は指針に含まれる異種の情報を記録及び整理するXMLベースの指針文書モデルを含めたガイドラインエレメントモデル(Guideline Element Model)である指針表明を提供する。
【0011】
関連した実施形態は、患者の現在のプロファイルと前記健康管理の手順又は指針から得られた予期されたプロファイルとの比較を提供する。この比較により、それだけに限らないが、分子検査の要請;予期された治療応答からの観察された偏差の表示;前記健康管理の手順又は指針における少なくとも1つの入口点の位置づけ;正確な順の提案;関連する患者のデータの提示;関連する参照情報の提示;前記患者の状態における変化に対する臨床医への警告;及び、前記患者の診断又は治療に対する示唆の提供を含めたさらなる意思決定支援が提供される。
【0012】
別の実施形態は、核酸プロファイル検査又はプロテオミクスプロファイル検査の実行、及び、前記患者の以前のプロファイルと前記現在のプロファイルを比較する手段を提供する。この比較は、さらに意思決定支援を提供する。
【0013】
関連した実施形態は、前記健康管理の手順又は指針に登録するための適格性を示すために、前記現在のプロファイルと前記健康管理の手順又は指針の前記入口点との比較を提供する。前記入口点は、前記健康管理の手順又は指針においてどこで前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが必要とされているかを同定する。
【0014】
関連した実施形態は、前記患者の現在のプロファイルから検査結果又は観察結果を検索し、前記患者の現在のプロファイルが不十分である又は存在していない場合、分子検査を行うよう忘備録を生じる手段を提供する。
【0015】
別の実施形態では、前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルは、症例段階(case step)に関連づけられる。前記症例段階は意思決定の選択肢のプロファイルを記述し、患者のプロファイルは症例のプロファイルと比較される。対応する前記意思決定の選択肢のプロファイルに関連づけられた指針方針に従われる。
【0016】
別の実施形態は、意思決定支援を提供する指針勧告の作成方法を提供する。当該方法は、以下の、患者の現況及び病歴の詳細を提供する患者の状態に関するデータ;前記患者の家族又は仲間の病歴に関するデータ;及び、前記患者の核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルを取得及び分析する。当該方法は、以下の、前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルを前記患者の状態に、及び、健康管理の手順又は指針におけるステージを前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルにも関連づける。前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルは、前記患者の状態の分子指標を提供する。
【0017】
別の実施形態は、意思決定支援用の健康管理の手順又は指針を利用するための指針表明;患者の状態に関連づけられた核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイル;及び、前記健康管理の手順又は指針におけるステージの前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルへの関連づけを含んだコンピュータ読み取り可能な媒体を提供する。前記患者の状態は患者の現況の詳細を示し、前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルは、遺伝的構造、遺伝子発現、蛋白質修飾、又は疾患の状態の分析結果である。前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルは、前記患者の状態の分子指標を示している。
【0018】
前記健康管理の手順又は指針のプリミティブ若しくはステージを前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルに関連づけることが本発明の目的である。これらの指針又は健康管理の手順を含んだ意思決定支援システムは、この情報を使用して、分子検査の要請;予期された治療に対する応答からの偏差の表示;健康管理の手順又は指針における入口点の位置づけ;正確な順の提案;関連する参照情報の提示;前記患者の状態における変化に対する臨床医への警告;及び、前記患者の診断又は治療に対する示唆の提供等、少なくとも1つの作業を行う。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルに関連づけられた健康管理の手順又は指針の例を示す、マイクロアレイの写真を有した図である。
【
図2】患者の状態の分析、患者に関するデータの収集、意思決定支援の提供、患者の状態の分析、インターベンションの示唆、及び、さらなる患者の分析を含む意思決定支援システムを示す、マイクロアレイの写真を有した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
遺伝的構造及び遺伝子発現の分析は分子的診断の中心をなす。DNAスポットを有するゲノム若しくは核酸のマイクロアレイ、又は、蛋白質スポットを有するプロテオミクスマイクロアレイは、細胞全体、さらには生物全体の遺伝的構造及び/又は遺伝子発現の調査を可能にする手段であり、細胞機能の包括的な写真を得るのに有用である。マイクロアレイは、その卓越した感度、特異性、及び再現性のため、特に強力な手段である。核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルに基づいた疾患の再分類は、マイクロアレイから得られたデータに基づき発展させることができる。
【0021】
各マイクロアレイは、ガラス又はプラスチックの表面上にあるグリッドパターンに配置された、一本鎖DNA断片の小片における多数の複写から作製される。DNA又はRNA試料がマイクロアレイに適用された場合、試料内の対を見つけた配列がマイクロアレイ上の特異的スポットに結合する。DNA又はRNA配列がアレイにも片方又は両方の試料にも存在する場合、一部が蛍光でタグされた配列は結合し、蛍光信号をアレイ上の特異的なスポットで検出することができる。アレイのデジタル画像を作成するために共に機能するレーザー、特別な顕微鏡、及びカメラを含んだ「読み取り装置」又は「走査装置」を用いて信号は採取される。次に、特別なコンピュータプログラムにより、結合の割合、例えば、赤から緑の蛍光染料、及び、各スポットにおけるそれらの染料の比が算出される。アレイ上の各スポットに対する算出された比は、2つの試料における所与の遺伝子、遺伝子マーカー、又は核酸配列の相対的な発現又は存在を反映している。例えば、赤の信号は特定の遺伝子が試料Bではなく試料Aにおいて存在するか又は発現されることを示し;緑の信号は遺伝子が試料Aではなく試料Bにおいて存在するか又は発現されることを示し;黄色の信号は遺伝子がどちらの試料においてもほぼ等しいレベルで存在するか又は発現されることを示す。信号の欠如は、例えば遺伝子がどちらの試料にも存在していないか又は発現されないことを示している。核酸若しくはプロテオミクスの分析又はアッセイから得られたデータは、核酸又はプロテオミクスの「プロファイル」と呼ばれ、分子サインである。遺伝的構造及び遺伝子発現を分析する核酸プロファイル間での区別は、患者のDNAの試料を使用することによって、又は、逆転写によりcDNAに変えられる患者のRNAを使用することによってつけることができる。さらなる異常に高レベルの存在又は発現を、マイクロアレイによって検出して既知の状態に相関させることもできる。
【0022】
図1を参照すると、患者の核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルを使用して、胸痛等の医療問題を有する患者のための意思決定支援を提供することができる。患者の現況及び病歴を含んだ患者の状態が分析される。データ収集及び/又はインターベンションの措置段階は、患者の状態が分析された後に生じる。これは、例えば患者の病歴の取得及び/又は身体検査の実行を含むことができる。次に、診断検査を行うことができる。当該システムは、患者の病歴に基づき、患者に対する特定の診断の確率を決定することに寄与する。例えば、患者の病歴により前記患者に対する冠状動脈疾患の確率が低いと示された場合、胸痛の原因に対する診断検査を次に行うことができる。
【0023】
胸痛の原因が例えば非心臓性であると決定された場合、当該システムは、次に、どのようにして適切に胸痛を治療するか示唆する。
【0024】
胸痛の原因が例えば心臓性であると決定された場合、又は、冠状動脈疾患の確率が中位若しくは高い場合、当該システムは次に追加の意思決定支援を提供する。例えば、患者が中等又はハイリスクの不安定狭心症を有している場合、次に、不安定狭心症に対する保健政策研究庁(AHCPR)の指針を、患者のプロファイルに関連づけ、治療に寄与するよう使用することができる。
【0025】
患者が中等又はハイリスクの不安定狭心症を有しておらず、例えば心筋梗塞(MI)、経皮的冠動脈形成(PTCA)、又は、冠動脈バイパス(CABG)を最近有している場合、次に、例えばアメリカ心臓病学会(ACC)又はアメリカ心臓協会(AHA)のもの等の適切な指針を使用して患者の治療に寄与することができる。
【0026】
意思決定支援システムは、
図2に示されているように、一連のいくつか別の段階を有している。早期のステージにて、患者の状態は、患者の核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルに基づき分析される。患者の状態は、核酸プロファイル若しくはプロテオミクスプロファイル、並びに/又は他の情報源の分析から得られた患者の現況及び病歴を説明している。患者の病歴、分子検査、又は身体検査等の供給源から集められた情報を含み得るデータが、患者に対して収集される。当該システムは、患者のケアに関して意思を決定するための支援を提供する。例えば患者の治療コースに関して意思が決定された後、患者の状態は再検査される。患者の状態が再検査されると、患者のケアにおいてインターベンションを行う場合がある。患者のケアにおけるインターベンションに続いて、患者の状態はさらに分析される。
【0027】
健康管理の手順及び指針を表すためのコンピュータに理解可能なフォーマットの開発は、医療用人工知能(AI)研究の主目的であった。コンピュータで解釈可能な指針への早期のアプローチは、Arden Syntax(Arden Syntax for Medical Logic Systems, Columbia University http://www.cpmc.columbia.edu/arden/)等、1つの措置をトリガする単純なルールベースのシステム、又は、ガイドラインエレメントモデル(GEM)システム等の単純な意思決定テーブルに制限された。(Shiffman,R.N.,et al.,J Am Med Inform Assoc.,7(5):488−498,2000) より最近では、この研究は、時間的な論証及び計画としての問題、不確定度の処理、並びに概念体系に焦点を合わせた、公式的な表明に基づいた多段階指針のモデリング法まで広がった。GLIF、EON、Asbru、Prodigy、Prestige、及びProFormaを含めた(階層的な一組の入れ子指針タスク(nested guideline tasks)として作られた)多くの多段階指針表明フォーマットが開発されてきた(Peleg,M.,et al.,Stanford University,Report No.:SMI−2002−0923,2002)。
【0028】
意思決定支援システムは、意思決定支援用の健康管理の手順又は指針を利用するための指針表明を含んでいる。分子的指針は、意思決定支援システムにおいて利用するために、実行可能な表明において表すことができる。指針表明は、Guideline Interchange Format(GLIF)等の実行可能な指針フォーマットであり得る。GLIF等の実行可能な指針表明は以下の:例えばデータ収集及びインターベンション等の措置段階;意思決定;及び、患者の状態を含む。(D.W.Wang,User Manual of the GLIF3 Guideline Execution Engine(GLEE),Columbia University,2003) Guideline Interchange Format(GLIF)の特定化は、GLIFモデル及びGLIFシンタックスからなる。GLIFモデルは、指針エンティティに対する一組のクラス、それらのクラスに対する属性、及び、属性値に関するデータ型からなるオブジェクト指向の表明である。GLIFシンタックスは、コード化を含んだ試験ファイルのフォーマットを規定している。(L.Ohno−Machado,et al.,The Guideline Interchange Format:a model for representing guidelines.JAMIA,5(4):p.357−372,1998) GLIFの表明において、健康管理の手順又は指針におけるステージは、核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルの表明に対する基準を含んでおり、グラフ、画像、又はリストを含むことができる。指針のモデラーにより、健康管理の知識に基づき異なる程度の正確さで何がプロファイル間での一致に相当するかという基準が規定される。
【0029】
指針表明は、読み取り専用の文書又はガイドラインエレメントモデル(GEM)等の実行不能なフォーマットでもあり得る。多くの指針表明が、通常、PDFファイルにおいて、又は、HTMLファイルにおいて、例えば紙上への報告様式の形状で、読み取り専用の文書として広められている。GEMは、健康管理の手順又は指針に含まれる異種の情報を記録及び整理することができるXMLベースの指針文書モデルである。コンピュータにより処理することができるフォーマットへの自然言語の指針文書の変換を促進するよう意図されている。GEMは、9つの主要なブランチ:識別、開発業者、目的、意図された聴衆、対象人口、開発の方法、検査、計画の再検討、及び知識の構成要素を有した100個を超える分離したタグの階層として構築される。
【0030】
目的により分類された5種類の指針又は健康管理の手順が、医学研究所による報告に含まれている。これらの目的には、それだけに限らないが:例えば、海外旅行を計画している妊婦の予防接種に対する検診及び防止;例えば救急室における胸痛の評価等、患者の予備診断及び診断管理;例えば頚動脈内膜切除術に対する指示等、外科手技の使用への指示;例えば輸血用の自己血又はドナーの血液の使用等、健康管理の一部としての特定の技術及び検査の適切な使用;並びに、例えば冠動脈バイパスを求める患者の管理等、健康管理の状態のケアに対する指針が含まれる。(医学研究所、http://www.iom.edu;L.Ohno−Machado,et al.,The Guideline Interchange Format:a model for representing guidelines.JAMIA,5(4):p.357−372,1998)
【0031】
核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイル等のプロファイルは、患者の現況及び病歴を説明する患者の状態に関連づけられる。cDNAを用いた核酸プロファイル及びプロテオミクスプロファイルは、遺伝的構造又は遺伝子発現、すなわち、それぞれRNA及び蛋白質である遺伝子産物を分析する。本明細書における本発明に適したプロファイルの他の例を使用して、遺伝子産物のプロファイルを得ることもでき、例えば、質量分析試験から得られたデータを使用して、患者から採取された試料の蛋白質の構成を決定することができる。遺伝子における欠失又は増幅も、質量分析法と組み合わせてプロファイルの一部として含むことができる。核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルは、それだけに限らないが、遺伝的構造、遺伝子発現、及び蛋白質修飾を含めた特徴の分析結果であり、それら全てが患者の疾患の状態における診断に寄与する。「蛋白質修飾」は、本明細書において使用されている場合、プロテオミクスプロファイル、質量分析法、又は、いかなる他の分析技術によっても示される、細胞又は組織試料の蛋白質含有量の変化を意味している。一般に、蛋白質修飾は、遺伝子発現の変化によるものであるが、正常な対象と比較すると、遺伝的構造の変化によるものであり得る。しかし、プロテオミクスプロファイルにおける変化は、グリコシル化、アセチル化、ホルミル化、アデニリル化等の1又は複数の蛋白質に対する翻訳後の変化、又は、一般的に蛋白質修飾と呼ばれる変化によるもの、及び、そのような変化を含むことができると構想される。意思決定支援システムは、健康管理の手順又は指針におけるステージを核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルに関連づけ、核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルに患者の状態の分子指標を提供させる。
【0032】
最近得られた患者のプロファイル、すなわち現在のプロファイルは、健康管理の手順又は指針に記録されてそこから得られた予期されたプロファイルと比較される。例えば、治療に対する患者の応答が予期されたものから逸脱している等、現在のプロファイルと予期されたプロファイルの間の矛盾は、臨床医及び/又は使用者に対して警告を生じる。現在のプロファイルと予期されたプロファイルとの比較は、それだけに限らないが、分子検査の要請、予期された治療応答からの観察された偏差の表示、健康管理の手順又は指針における入口点の位置づけ、正確な順の提案、関連する参照情報の提示、患者の状態における変化に対する臨床医への警告、及び、患者の診断又は治療に対する示唆の提供を含めたさらなる意思決定支援の提供にも寄与する。さらに、当該システムは、正確な臨床医の診療における審査及びフィードバックを可能にすることによってレトロスペクティブレポート法に寄与する。
【0033】
さらに、患者の状態に関連づけられた核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルは、健康管理の手順又は指針への入口点として役立つ。患者が診療所に到着すると、核酸又はプロテオミクスの検査が行われ、その患者に対して記録された最後の患者の状態と患者の現在の状態が比較される。患者が同じ状態でない場合、意思決定支援システムは、健康管理の手順又は指針において対応する核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルを見つけ出し、特定の点での登録を示唆する。現在のプロファイルを健康管理の手順又は指針の入口点と比較することにより、健康管理の手順又は指針に登録するための適格性を示すこともできる。前記入口点は、健康管理の手順又は指針においてどこで前記核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが必要とされているかを同定することができる。検査結果及び観察結果を、患者の現在のプロファイルから検索することができる。患者の現在のプロファイルが患者の記録において不十分であるか又は存在しない、すなわちまだ得られていない場合、必要な分子検査を行うための警告又は忘備録が生じる。
【0034】
患者の核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが変化した場合、対応する核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが健康管理の手順又は指針において位置づけられ、健康管理の手順又は指針における入口点が示唆される。健康管理の手順若しくは指針の第一ステップに関連づけられた核酸プロファイル若しくはプロテオミクスプロファイル、又は、健康管理の手順若しくは指針の入口点により、この指針に登録するための適格性を示すことができる。健康管理の手順又は指針のリポジトリと比較して現在の患者のプロファイルを検索し、どの健康管理の手順又は指針がこの特定の患者又は患者のグループに適しているかを見つけ出すシステムを想像することができる。この方法は、患者の核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルに基づいて処置が選ばれる個別化医療の一種である。
【0035】
核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルはメタデータを含むこともできる。検査の種類等、核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルに関連づけられたメタデータは、データ収集又はインターベンション等の、健康管理志向及び/又はプログラミング志向の措置段階に関連づけられる。健康管理志向の措置段階に関連づけられたメタデータは、分子検査を患者に対して行うことを推奨する。プログラミング志向の措置段階に関連づけられたメタデータは、当該システムに患者の記録を調べて核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルを検索するよう指示する。
【0036】
核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルは、症例段階(case step)にも関連づけることができる。核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルが症例段階に関連づけられた場合、異なる意思決定の選択肢のプロファイルが記述される。健康管理の手順又は指針が実行された場合、意思決定支援システムは、患者の核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルを症例段階に関連づけられた基準のプロファイルと比較する。意思決定支援システムは、対応する意思決定の選択肢のプロファイルに関連づけられた指針又は健康管理の手順の方針に従う。健康管理の手順又は指針のデザイナーは、対応するプロファイルが発見されなかった場合に対してデフォルト選択肢を作成することができる。
【0037】
種々のデータを取得及び分析することによって意思決定支援を提供する指針勧告が生じる。含み得るデータの種類は:患者の現況の詳細を提供する患者の状態に関するデータ;患者の病歴に関するデータ;及び、患者の核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルである。核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルは、患者の状態に関連づけることができる。健康管理の手順又は指針におけるステージを核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルに関連づけることもできる。核酸プロファイル又はプロテオミクスプロファイルは、患者の状態の分子指標を提供する。
【0038】
本発明の他の及びさらなる形状、並びに、上記の特定の及び例証的な実施形態以外の実施形態を付随の特許請求の範囲並びにその同等物の真意及び範囲から逸脱することなく考案することができるということがさらに明らかであり、従って、本発明の範囲はこれらの同等物を含み、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲は例証的であると意図され、さらなる限定として解釈されるべきではない。