特許第5759145号(P5759145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759145
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】フォンダン
(51)【国際特許分類】
   A23G 3/00 20060101AFI20150716BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
   A23G3/00
   A23G3/00 101
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-254878(P2010-254878)
(22)【出願日】2010年11月15日
(65)【公開番号】特開2012-105552(P2012-105552A)
(43)【公開日】2012年6月7日
【審査請求日】2013年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046314
【氏名又は名称】旭化成ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151965
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 佳章
(74)【代理人】
【識別番号】100103436
【弁理士】
【氏名又は名称】武井 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108693
【弁理士】
【氏名又は名称】鳴井 義夫
(72)【発明者】
【氏名】林 裕司
(72)【発明者】
【氏名】上田 陽子
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−215450(JP,A)
【文献】 特表2002−529107(JP,A)
【文献】 国際公開第00/028833(WO,A1)
【文献】 特開平03−007542(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/135100(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/135101(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂糖に対して0.1〜3質量%で平均粒径が50μm以下の結晶性セルロース、及びレーザー回折により測定されるメジアン径が10〜25μmであり、粒度分布の標準偏差が5〜20μmである砂糖結晶を含有するフォンダン。
【請求項2】
砂糖に対して0.1〜3質量%で平均粒径が50μm以下の結晶性セルロースを含む砂糖溶液を作製し、その砂糖溶液を濃縮及び/又は冷却して結晶化させる、請求項に記載のフォンダンを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系粉末を含んだフォンダン類に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱することにより糖を水に溶解させ、濃縮及び/又は冷却して結晶化させて製造する食品としては、例えば、フォンダン(フォンダントと言う事もある。)やソフトキャンディー、キャラメル、菓子パン等の上掛け、チョコレートのセンター等(以後、フォンダン類という。)が知られている。一般的に、フォンダンはショ糖と水あめなどを混合した水溶液を115℃程度まで煮詰めて高濃度溶液とした後、急速に冷却して過飽和状態にしたあと、物理的な刺激を加えて結晶を析出させて作られるものであり、成長が適度に抑制された微細なショ糖結晶が高濃度の糖液中に均一に分散した滑らかなクリーム状のものである。また、近年の健康志向により、低カロリーの糖アルコール等を用いたフォンダン類が開示されている。例えば、特許文献1には、攪拌力の強い装置を用いた糖アルコール類の滑らかなフォンダン類の製造方法が開示されている。また、特許文献2にはマルチットの結晶化のプロパゲーションを抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−89175号公報
【特許文献2】特開平6−343416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フォンダン類は、一度溶解させた糖結晶を析出させることにより製造するものであり、また、糖液中に結晶の分散したものであるため、その後の成長も適度に抑制する必要があり、糖結晶の粒径をコントロールすることは非常に重要である。これまでの技術では結晶サイズをシャープにするために、非常に厳密な製造管理が行われてきた。特に糖アルコールを主成分とするフォンダン類の場合、厳密に温度管理を行わない限り、糖の粒度分布に幅ができてしまい、作業性が悪く経時的にザラツキが強くなるという問題があった。でんぷんや水飴等は糖結晶を小さくし、より粒度分布をシャープにするために一般的に用いられているが、粒度分布は十分にシャープなものではなく、保存状態によっては糖結晶が大きくなるという問題も生じていた。
【0005】
特許文献1では強い撹拌力を得ることが出来る押出機によりこれらの問題を解決しているが、設備投資が必要であるという欠点があった。また、特許文献2では多糖類を用いてマルチットの結晶が大きくなるのを抑制する技術を開示しているが、3%を越えて添加しないと十分な効果が得られない、さらに抑制できるものがマルチットに限定されているという欠点があった。
【0006】
すなわち、本発明は、セルロース系粉末を含むことにより、特別な設備投資も必要とせず、糖結晶の粒度分布がコントロールされ、滑らかで口溶け感に優れるフォンダンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、セルロース系粉末を加えることによって得られるフォンダンが、糖結晶の粒度分布がシャープで風味が良いことを見出し、本発明を成すに至った。すなわち本発明は下記の通りである。
【0008】
(1)糖に対して0.1〜3質量%のセルロース系粉末、及びレーザー回折により測定される粒度分布の標準偏差が5〜20である糖結晶を含有するフォンダン。
(2)セルロース系粉末が、結晶性セルロースである(1)に記載のフォンダン。
(3)糖に対して0.1〜3質量%のセルロース系粉末を含む糖溶液を作製し、その糖溶液を濃縮及び/又は冷却して結晶化させる、(1)または(2)に記載のフォンダンを製造する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、特別な設備投資も必要とせず、糖結晶の粒度分布がコントロールされ、滑らかで口溶け感に優れるフォンダンを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のフォンダンは、糖に対して0.1〜3質量%のセルロース系粉末、及びレーザー回折により測定される粒度分布の標準偏差が5〜20である糖結晶を含有する。
【0011】
本発明のフォンダンとは、糖を水に溶解した後に、その糖溶液を濃縮及び/又は冷却して、糖を析出させて、クリーム状になるまで練ったものであり、ソフトキャンディー、キャラメル、菓子パン等の上掛け、チョコレートのセンター等に用いられるものである。
【0012】
本発明で用いるセルロース系粉末とは、草木類や微生物などから得られる粒径が0.1〜200μmのセルロース粉末のことであり、最も一般的なものとしては木材パルプを機械的若しくは化学的に処理して得られる粉末セルロースや結晶性セルロースなどが挙げられる。
【0013】
セルロース系粉末としては、具体的には例えば、KC−フロック W−50、KC−フロック W−100(G)、KCフロック W−200(G)、KCフロック W−250、KCフロック W−300G、KCフロック W−400G(いずれも製品名、日本製紙ケミカル株式会社)等が挙げられる。
【0014】
結晶性セルロースとは、例えば木材パルプ、精製リンターなどのセルロース系素材を、酸加水分解、アルカリ酸化分解、酵素分解などにより解重合処理して得られる平均重合度30〜400、結晶性部分が10%を超えるものをいう。
【0015】
結晶性セルロースとしては、具体的には例えば、セオラス FD−101、セオラス FD−301、セオラス ST−100、セオラス FD−F20、セオラス UF−F711、セオラス UF−F702(いずれも製品名、旭化成ケミカルズ株式会社)、エンデュランスMCC VE−050(製品名、FMCバイオポリマー社製)などが挙げられる。特に、本発明ではセルロース系粉末のなかでも極めて純度が高く、好食感である結晶性セルロースを用いることが好ましい。
【0016】
また、セルロース系粉末として、結晶性セルロース複合体を用いても構わない。結晶性セルロース複合体は、例えば、結晶性セルロースと親水性高分子を混合し、湿式磨砕して、乾燥・粉砕することにより得られるものである。
【0017】
親水性高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロース及びその塩、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デキストリン、キサンタンガム、カラヤガム、カラギーナン、アラビアガム、グルコマンナン、ジェランガム、アルギン酸及びその塩や、アルギン酸プロピレングリコールエステルのようなエステル体などが挙げられる。
【0018】
さらに、結晶性セルロース複合体には、結晶性セルロースと親水性高分子以外にも、水溶性物質を含んでいても構わない。水溶性物質としては、ショ糖、乳糖、麦芽糖、ブドウ糖、果糖、水あめ、粉末水あめ、還元水あめ、トレハロース、キシロース、アラビノースなどの糖類、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトールなどの糖アルコール類、フラクトオリゴ糖、セロオリゴ糖、キシロオリゴ糖、マンノオリゴ糖などのオリゴ糖類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの無機塩類などが挙げられる。
【0019】
一般的に市販されている結晶性セルロース複合体としては、例えばセオラス RC−N81、セオラス RC−N30、セオラス DX−2、セオラス RC−591(いずれも製品名、旭化成ケミカルズ株式会社製)、アビセル RC−591、アビセル RC−581、アビセル BV1518、ノバゲル GP3282(製品名、FMCバイオポリマー社製)などが挙げられる。
【0020】
セルロース系粉末の平均粒径は50μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下である。平均粒径が50μm以下であると、食感への影響が少なく、20μm以下では非常に滑らかな食感が得られる。
【0021】
本発明のフォンダンに含まれる糖結晶は、サイズが小さく、粒度分布がシャープである。糖結晶のサイズや粒度分布はレーザー回折により測定する。
糖結晶のサイズは50μm以下が好ましく、10〜25μmがより好ましい。この範囲にあると、滑らかで口溶けの良い食感である。
【0022】
糖結晶の粒度分布の標準偏差は、5〜20の範囲にあることが必要であり、5〜10が好ましい。5未満であると、フォンダンの伸展性が悪くなる場合があり、20を超えると、食感の滑らかさが失われる傾向である。
【0023】
本発明のフォンダンには、糖とセルロース系粉末以外にも例えば、ゼラチンや寒天、ペクチンのようなゲル化剤、リンゴ酸、クエン酸、アジピン酸、フマル酸などの酸味料、リンゴ、ナシ、オレンジ、ぶどう、マンゴー、レモン、モモ、グレープフルーツ、ストロベリーなどの果汁や香料、フラクトオリゴ糖、セロオリゴ糖、キシロオリゴ糖、マンノオリゴ糖などのオリゴ糖類、ネオテーム、スクラロース、アスパラテーム、サッカリンナトリウム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物などの高甘味度甘味料、モノグリセリド類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル類およびレシチンなどの乳化剤、ビタミンC、ビタミンB類、ビタミンAなどのビタミン類、フラボノイド、アントシアニン、カラメル、カロチノイド、紅花黄などの着色料を含んでいても構わない。
【0024】
本発明のフォンダンは、製造工程中にセルロース系粉末を添加することにより、糖結晶が小さく、粒度分布がシャープとなり、非常に口当たりの良いことが特徴である。
【0025】
本発明のフォンダンは、糖に対して0.1〜3質量%のセルロース系粉末を、糖に加えた後に水に溶解させるか、もしくは糖を水に溶解させた後に加え、得られた糖溶液を濃縮及び/又は冷却して結晶化させることにより得られる。
【0026】
セルロース系粉末の含有量は、糖に対して0.1〜3質量%であり、好ましくは0.3〜2質量%、より好ましくは0.5〜1.5質量%である。この範囲であれば食感に悪影響を与えることなく糖の粒径をコントロール可能となる。
【0027】
本発明のフォンダンの製造に用いる糖とは、砂糖、ブドウ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、砂糖混合ブドウ糖果糖液糖、砂糖混合果糖ブドウ糖液糖、乳糖、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、ソルビトールおよび、これらの共晶体、水飴、還元水飴及び粉糖の中から選択された少なくとも一種類等が挙げられる。
【0028】
糖を水に溶解させる際は加熱して溶解することが好ましい。セルロース系粉末はあらかじめ、糖などの原料と混合してから水を加えても良いし、濃縮及び/又は冷却の途中で加えても構わない。また、一部をあらかじめ加えておき、残りを工程の途中で加えても構わない。濃縮及び/又は冷却で、糖結晶が析出し始める前に加えるのであれば、添加方法は特に制限はない。
【0029】
本発明のフォンダンは、フォンダンそのもののほかに、一部、糖結晶を結晶化させるタイプのソフトキャンディー、キャラメル、菓子パン等の上掛け、チョコレートのセンターなどの菓子への使用にも好適である。
【実施例】
【0030】
実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらによって本発明は何ら制限されるものではない。なお、セルロース系粉末の平均粒径、糖結晶のメジアン径、粒度分布の標準偏差、および本発明のフォンダンの官能評価は以下の方法で行った。
【0031】
<セルロース系粉末の平均粒径>
(1)セルロース系粉末15gを2Lステンレスビーカーに入れた1485gの純水に加え、汎用攪拌翼かい十字(半径35mm)を取り付けたプロペラ攪拌機(スリーワンモーターHEIDON(商品名)BL−600)を用いて25℃、500rpmで20分間分散する。
(2)(1)にて作製した分散液を、レーザー回折散乱装置(堀場製作所製 LA−910、超音波分散1分、フローセル使用)により分析し、積算体積が50%になる値(メジアン径)を読み取った値を平均粒径とする。
【0032】
<糖結晶のメジアン径と粒度分布の標準偏差>
(1)得られたフォンダンをエタノールに0.5質量%になるように加えて、十分に分散させる。
(2)(1)にて作製した分散液を、レーザー回折散乱装置(堀場製作所製 LA−910、超音波分散1分、バッチセル使用)により分析し、積算体積が50%になる値(メジアン径)、標準偏差を読み取る。標準偏差が小さいほど粒度のばらつきが小さいことを示している。
【0033】
<官能評価>
一晩冷蔵保存したフォンダンを40℃の湯せんで温めて、固形分が69%になるようにリキュールで薄めて、バームクーヘンに塗布し、塗りやすさと食感を評価する。
【0034】
[実施例1、2、比較例1、2]
表1の組成を濃縮してフォンダンを製造した。
実施例1ではセルロース系粉末として、セオラスFD−F20(製品名、旭化成ケミカルズ株式会社製、平均粒径19μm)を糖に対して0.67質量%、実施例2では1.3質量%を使用した。比較例1はグラニュー糖のみ、比較例2では還元水あめ(製品名 エスイー30、物産フードサイエンス株式会社製)を併用した。
【0035】
それぞれ、原材料全てを鍋に入れ、中火で沸騰させて糖を溶解させたのち、液温が115℃に達したら、火からおろして冷水で鍋を急冷しながらヘラでかき混ぜた。白くポロポロした塊になったら、滑らかなペーストになるように手で練ってフォンダンを作成し、出来たフォンダンは冷蔵保存した。手で練る際、実施例1、2および比較例2は水分が出てきて練りやすかったが、比較例1は水分が出てきにくく、硬く練りにくかった。
【0036】
得られたフォンダンに含まれる糖結晶の粒度分布を測定した結果を表2に示す。実施例ではいずれもメジアン径は小さく、標準偏差も小さいことからより、粒度分布がシャープになっていることが分かる。一方、比較例2では、グラニュー糖のみの比較例1よりもメジアン径は小さくなっているが、標準偏差は大きく、粒度分布がシャープではなかった。
【0037】
また、一晩冷蔵保存したフォンダンを40℃の湯せんで温めて、固形分が69%になるようにリキュールで薄めて、バームクーヘンに塗布したところ、実施例1、2は滑らかで塗り易く表面も均一であった。一方、比較例1、2は少し塗りにくく、塗る時に生地の表面を引っ張ってしまう感じであった。また、実施例1、2は比較例1、2に比べて口溶け感が良く、滑らかで美味しかった。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、糖結晶の粒度分布のシャープなフォンダンが得られるため、菓子製造業に好適に利用できる。