(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
通常、無電解めっきでは、被めっき物の表面に触媒を付着させた後、その被めっき物を無電解めっき液に浸漬させ、電流を流すことなく還元反応により被めっき物の表面に金属を析出させる。無電解めっきによれば、絶縁物の表面にも金属被膜を形成することが可能である。そのため、無電解めっきは、産業界で広く利用されている。
【0003】
近年、様々な電子機器に高密度化および高精細化された配線回路基板が用いられている。配線回路基板の製造時には、銅からなる配線パターンの表面にニッケルまたはクロム等の金属薄膜が無電解めっきにより形成される。この場合、通電が困難な微小な導体部分および絶縁体部分にも、金属薄膜の形成が可能となる。
【0004】
無電解めっきでは、電解めっきに比べて金属薄膜の成長速度は遅いが、面内での厚みのばらつきが小さいことから、大きな厚みを必要としない均一な金属薄膜の形成には有用である。
【0005】
特許文献1には、無電解めっきにより形成される金属薄膜の厚さを最適値に制御するために、無電解めっき液の析出速度を測定する無電解めっき析出速度測定装置が記載されている。その無電解めっき析出速度測定装置では、無電解めっき液中の電極対間に周期的に電圧を印加することにより分極抵抗を測定し、測定した分極抵抗に基づいて無電解めっき液の析出速度を算出する。特許文献1には、算出された析出速度を用いることにより、無電解めっきにより形成される金属薄膜の厚さを最適値に制御することができると記載されている。
【0006】
無電解めっき液中に参照電極を配置した状態で、無電解めっき液中に被めっき物を浸漬させると、被めっき物と参照電極との間に例えば約−450Vの電位差が生じる。この電位差は、数十秒程度の過渡期間の経過後に例えば約−950V程度で定常状態となる。それにより、めっき処理の化学反応が開始される。
【0007】
しかしながら、この過渡期間は、無電解めっき液の成分、温度および水素イオン指数等の要因に影響される。そこで、特許文献2に記載された無電解めっき装置では、無電解めっき液と接触する第1の電極、および被めっき物と接触する第2の電極を備える。第2の電極に安定化電源により−950Vの電圧が2秒間印加される。それにより、めっき処理の化学反応が強制的に開始される。このようにして、めっき時間を管理することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、特許文献1の無電解めっき析出速度測定装置を用いると、無電解めっき液中の金属の析出速度を測定することができる。また、特許文献2の無電解めっき装置を用いると、特定のタイミングでめっき処理の化学反応を強制的に開始させることができる。
【0010】
しかしながら、無電解めっきは、化学反応によるめっきであるため、無電解めっき液が使用とともに劣化する。無電解めっき液の劣化状態により析出速度が異なる。それにより、無電解めっきにより形成される金属薄膜の厚みにばらつきが生じる。金属薄膜の厚みを均一にするためには、被めっき対象の搬送速度またはめっき時間を変化させる必要がある。そのため、被めっき対象の搬送速度またはめっき時間の制御が複雑になる。
【0011】
本発明の目的は、簡単な制御で被めっき対象の表面に均一に金属薄膜を形成することが可能な
めっき装置、
めっき方法およびそれを用いた配線回路基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]本発明
(1)第1の発明に係るめっき装置は、導電性部分を有する被めっき対象にめっきを行うためのめっき装置であって、ニッケルイオンを含む無電解めっき液を収容するめっき槽と、めっき槽内の無電解めっき液に接するように配置される参照電極と、めっき槽内の無電解めっき液に接するように配置される対極と、被めっき対象の導電性部分と対極との間に流れる電流を制御することにより参照電極の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位をニッケルの析出電位以下の一定の値に保持するように構成された制御部とを備えるものである。
そのめっき装置においては、参照電極の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位がニッケルの析出電位以下の一定の値に保持される。それにより、ニッケルイオンを含む無電解めっき液の状態が変化した場合でも、被めっき対象の導電性部分での金属の析出速度が一定に保たれる。したがって、簡単な制御で被めっき対象の導電性部分に均一に金属薄膜を形成することができる。
(2)析出電位以下の一定の値は、−0.75V以下の一定の値であってもよい。
(3)制御部は、被めっき対象の導電性部分、参照電極および対極に接続されるポテンショスタットを含んでもよい。
この場合、ポテンショスタットが被めっき対象の導電性部分と対極との間に流れる電流を制御することにより、参照電極の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位を容易にニッケルの析出電位以下の一定の値に保持することが可能となる。
(4)第2の発明に係るめっき方法は、導電性部分を有する被めっき対象にめっきを行うためのめっき方法であって、ニッケルのイオンを含む無電解めっき液をめっき槽に収容する工程と、めっき槽内の無電解めっき液に接するように参照電極および対極を配置する工程と、めっき槽内の無電解めっき液に被めっき対象を浸漬させる工程と、被めっき対象の導電性部分と対極との間に流れる電流を制御することにより参照電極の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位をニッケルの析出電位以下の一定の値に保持する工程とを備えるものである。
そのめっき方法においては、参照電極の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位がニッケルの析出電位以下の一定の値に保持される。それにより、ニッケルのイオンを含む無電解めっき液の状態が変化した場合でも、被めっき対象の導電性部分での金属の析出速度が一定に保たれる。したがって、簡単な制御で被めっき対象の導電性部分に均一に金属薄膜を形成することができる。
(5)析出電位以下の一定の値は、−0.75V以下の一定の値であってもよい。
(6)電位をニッケルの析出電位以下の一定の値に保持する工程は、ポテンショスタットを用いて被めっき対象の導電性部分と対極との間に流れる電流を制御する工程を含んでもよい。
この場合、ポテンショスタットにより被めっき対象の導電性部分と対極との間に流れる電流を制御することにより、参照電極の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位を容易にニッケルの析出電位以下の一定の値に保持することが可能となる。
(7)第3の発明に係る配線回路基板の製造方法は、絶縁層上に所定のパターンを有する導体層を形成する工程と、導体層の表面に第2の発明に係るめっき方法により金属薄膜を形成する工程とを備えるものである。
この場合、ニッケルのイオンを含む無電解めっき液の状態が変化する場合でも、簡単な制御で配線回路基板の導体層の表面に金属薄膜を均一に形成することが可能となる。
[2]参考形態
(1)第1の
参考形態に係る無電解めっき装置は、導電性部分を有する被めっき対象に無電解めっきを行うための無電解めっき装置であって、無電解めっき液を収容するめっき槽と、めっき槽内の無電解めっき液に接するように配置される参照電極と、参照電極の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位を一定に保持する制御部とを備えるものである。
【0013】
その無電解めっき装置においては、参照電極の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位が一定に保持される。それにより、無電解めっき液の状態が変化した場合でも、被めっき対象の導電性部分での金属の析出速度が一定に保たれる。したがって、簡単な制御で被めっき対象の導電性部分に均一に金属薄膜を形成することができる。
【0014】
(2)無電解めっき装置は、めっき槽内の無電解めっき液に接するように配置される対極をさらに備え、制御部は、参照電極
の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位が一定になるように被めっき対象の導電性部分と対極との間に流れる電流を制御してもよい。
【0015】
この場合、被めっき対象の導電性部分と対極との間に流れる電流を制御することにより、参照電極
の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位を容易に一定に保持することが可能となる。
【0016】
(3)制御部は、被めっき対象の導電性部分、参照電極および対極に接続されるポテンショスタットを含んでもよい。
【0017】
この場合、ポテンショスタットが被めっき対象の導電性部分と対極との間に流れる電流を制御することにより、参照電極
の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位を容易に一定に保持することが可能となる。
【0018】
(4)第2の
参考形態に係る無電解めっき方法は、導電性部分を有する被めっき対象に無電解めっきを行うための無電解めっき方法であって、無電解めっき液をめっき槽に収容する工程と、めっき槽内の無電解めっき液に接するように参照電極を配置する工程と、めっき槽内の無電解めっき液に被めっき対象を浸漬させる工程と、参照電極の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位を一定に保持する工程とを備えるものである。
【0019】
その無電解めっき方法においては、参照電極の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位が一定に保持される。それにより、無電解めっき液の状態が変化した場合でも、被めっき対象の導電性部分での金属の析出速度が一定に保たれる。したがって、簡単な制御で被めっき対象の導電性部分に均一に金属薄膜を形成することができる。
【0020】
(5)無電解めっき方法は、めっき槽内の無電解めっき液に接するように対極を配置する工程をさらに備え、導電性部分の電位を一定に保持する工程は、参照電極
の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位が一定になるように被めっき対象の導電性部分と対極との間に流れる電流を制御する工程を含んでもよい。
【0021】
この場合、被めっき対象の導電性部分と対極との間に流れる電流を制御することにより、参照電極
の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位を容易に一定に保持することが可能となる。
【0022】
(6)電流を制御する工程は、ポテンショスタットを用いて
被めっき対象の導電性部分と対極との間に流れる電流を制御する工程を含んでもよい。
【0023】
この場合、ポテンショスタットにより被めっき対象の導電性部分と対極との間に流れる電流を制御することにより、参照電極
の電位を基準とする被めっき対象の導電性部分の電位を容易に一定に保持することが可能となる。
【0024】
(7)第3の
参考形態に係る配線回路基板の製造方法は、絶縁層上に所定のパターンを有する導体層を形成する工程と、導体層の表面に第2の
参考形態に係る無電解めっき方法により金属薄膜を形成する工程とを備えるものである。
【0025】
この場合、無電解めっき液の状態が変化する場合でも、簡単な制御で配線回路基板の導体層の表面に金属薄膜を均一に形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡単な制御で被めっき対象の導電性部分に均一に金属薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態に係る
めっき装置および
めっき方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
(1)
めっき装置の構成
図1は本発明の一実施の形態に係る
めっき装置の構成を示す模式図である。
図1の
めっき装置1は、被めっき対象として長尺状基材10に
めっきを行うために用いられる。
【0030】
図1の
めっき装置1は、めっき槽2を備える。めっき槽2は、無電解めっき液30を収容する。本実施の形態では、無電解めっき液30は、ニッケル(Ni)のイオンを含む。
【0031】
めっき槽2の対向する一対の側壁にはそれぞ開口が設けられる。一方の開口を閉塞するように、水平方向に延びる一対の搬送ローラ21,22が回転可能に設けられる。また、他方の開口を閉塞するように水平方向に延びる一対の搬送ローラ23,24が回転可能に設けられる。
【0032】
送出ロール31から長尺状基材10が送り出される。長尺状基材10は、一対の搬送ローラ21,22間、めっき槽2内および一対の搬送ローラ23,24間を通って巻取ロール32により巻き取られる。送出ロール31および巻取ロール32が回転することにより、長尺状基材10が矢印の方向に搬送される。送出ロール31および巻取ロール32の回転速度は、搬送制御装置7により制御される。それにより、長尺状基材10の搬送速度が制御される。
【0033】
長尺状基材10は、例えば、回路付きサスペンション基板の製造工程における半製品である。半製品は、例えばステンレスからなる長尺状の金属基板、例えばポリイミドからなる絶縁層および所定のパターンを有する例えば銅からなる導体層を順に備える。導体層は、例えば配線、パッド電極または接地導体である。
【0034】
めっき装置1は、ポテンショスタット3、一対の導通部材4、参照電極5および対極6を備える。一方の導通部材4は、めっき槽2の上流側で長尺状基材10の導体層に電気的に接触するように設けられ、他方の導通部材4は、めっき槽2の下流側で長尺状基材10の導体層に電気的に接触するように設けられる。この場合、長尺状基材10の導体層が作用電極となる。
【0035】
参照電極5および対極6は、めっき槽2内の無電解めっき
液30中に浸漬される。参照電極5は、例えば飽和カロメル電極である。対極6は、例えば白金(Pt)からなる不溶性電極である。対極6はアノード(陽極)となり、長尺状基材10の導体層がカソードとなる。
【0036】
導通部材4、参照電極5および対極6は、ポテンショスタット3に接続される。ポテンショスタット3は、参照電極5の電位を基準とする長尺状基材10の導体層(作用電極)の電位が一定になるように、長尺状基材10の導体層(作用電極)と対極6との間に流れる電流を制御する。すなわち、ポテンショスタット3は、長尺状基材10の導体層と参照電極5との間の電位差を一定に保持する。参照電極5の電位を基準とする長尺状基材10の導体層(作用電極)の電位は、−0.75V以下の一定値に保持されることが好ましく、ニッケルの析出電位以下であれば任意の値に設定することができる。参照電極5の電位を基準とする長尺状基材10の導体層(作用電極)の電位は、例えば約−0.8Vに保持される。
【0037】
(2)被めっき対象の一例および
めっき方法
図2は被めっき対象の一例を示す模式的断面図である。
図2(a)は
めっき前の被めっき対象を示し、
図2(b)は
めっき後の被めっき対象を示す。
【0038】
図2の被めっき対象は、
図1の長尺状基材10を用いて形成される回路付きサスペンション基板である。
図2には、回路付きサスペンション基板の一部が示される。
図2(a)に示すように、長尺状基材10は、例えばステンレスからなる金属基板11を備える。金属基板11上に、例えばポリイミドからなる絶縁層12、銅からなる導体層13、および例えばポリイミドからなる絶縁層14が順に形成される。絶縁層14は、導体層13の表面の一部が露出するように設けられる。
【0039】
回路付きサスペンション基板の製造工程では、
図2(b)に示すように、導体層13の露出した表面に
めっきにより例えばニッケルから金属薄膜15が形成される。金属薄膜15の厚みは、例えば0.03μm以上5μm以下である。
【0040】
長尺状基材10の
めっき時には、
図1のめっき槽2内に無電解めっき液30を収容する。また、無電解めっき液30に接触するように、参照電極5および対極6を配置する。長尺状基材10の導体層13に電気的に接触するように導通部材4を配置する。
【0041】
本例では、長尺状基材10の導体層13の一部が金属基板11に接続されている。この場合、導通部材4が金属基板11に接触するように設けられてもよい。
【0042】
この状態で、長尺状基材10がめっき槽2内の無電解めっき液30中を一定速度で搬送されるように搬送制御装置7が送出ロール31および巻取ロール32を回転させる。長尺状基材10の搬送中に、参照電極5の電位を基準とする長尺状基材10の導体層13の電位が一定となるように、ポテンショスタット3が長尺状基材10の導体層13と対極6との間に流れる電流を制御する。
【0043】
これにより、長尺状基材10の導体層13の露出した表面にニッケルからなる金属薄膜15が形成される。
【0044】
(3)実施の形態の効果
本実施の形態に係る
めっき装置1によれば、参照電極5の電位を基準とする長尺状基材10の導体層13の電位が一定に保持される。それにより、無電解めっき液30の劣化が進んだ場合でも、無電解めっき液30中の金属の析出速度が一定に保たれる。したがって、長尺状基材10の搬送速度を変化させることなく、長尺状基材10の導体層13の表面に均一にニッケルからなる金属薄膜15を形成することができる。その結果、
めっき時に搬送制御装置7による長尺状基材10の搬送速度の制御が簡単になる。
【0045】
また、ポテンショスタット3を用いることにより、参照電極5の電位を基準とする長尺状基材10の導体層13の電位を容易に一定に保持することができる。
【0046】
(4)他の実施の形態
上記実施の形態では、無電解めっき液30がニッケルのイオンを含むが、これに限定されない。例えば、無電解めっき液30が、金(Au)、Sn(錫)、銀(Ag)、銅(Cu)、錫合金、または銅合金等の種々の金属のイオンまたは合金を含んでもよい。
【0047】
また、上記実施の形態では、被めっき対象が長尺状基材10の銅からなる導体層13であるが、被めっき対象の材料はこれに限定されない。被めっき対象の材料は、銅合金、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、錫(Sn)または錫合金等の他の金属または合金であってもよい。
【0048】
さらに、上記実施の形態では、被めっき対象が回路付きサスペンション基板の半製品である長尺状基材10であるが、被めっき対象はこれに限定されない。被めっき対象がフレキシブル配線回路基板、またはリジッド配線回路基板等の他の配線回路基板またはそれらの半製品であってもよい。また、被めっき対象は配線回路基板に限らず、
めっき装置1を用いて種々の対象物に
めっきを行うことができる。
【0049】
また、上記実施の形態では、ロール・トゥ・ロール方式により長尺状基材10を搬送しつつ導体層13に
めっきを行う例について説明したが、本発明は、バッチ式の
めっき装置にも適用可能である。バッチ式の
めっき装置では、被めっき対象を搬送することなく、めっき槽内の無電解めっき液中に一定時間浸漬させる。この場合、無電解めっき液の劣化が進行しても、無電解めっき液中の金属の析出速度が一定に保たれる。したがって、無電解めっき液中への被めっき対象の浸漬時間を一定に管理することにより、被めっき対象の表面に均一に金属薄膜を形成することができる。
【0050】
さらに、上記実施の形態では、制御部の一例として
ポテンショスタット3が用いられる。制御部として、
ポテンショスタット3の代わりに他の制御回路が用いられてもよい。
【0051】
(5)実施例
実施例および比較例1,2,3では、
図3の構成を有する長尺状基材10の表面に
めっきによりニッケルからなる金属薄膜を形成した。
【0052】
図3は実施例および比較例1,2,3で用いた長尺状基材10の幅方向の断面図である。
図3に示すように、長尺状基材10はステンレスからなる金属基板11を備える。金属基板11上に、ポリイミドからなる絶縁層12および銅からなる導体層13が順に形成される。導体層13は、図示しない部分で金属基板11に電気的に導通している。長尺状基材10の幅は、30cmである。
【0053】
以下のように、長尺状基材10の導体層13の表面にニッケルからなる金属薄膜を
めっきにより形成した。
【0054】
図4は実施例において
図3の長尺状基材10に
めっきを行うために用いた
めっきシステムの概略図である。
【0055】
図4の
めっきシステムにおいては、
めっき装置1の上流側に酸洗処理槽51、水洗処理槽52,53、Pd(パラジウム)触媒処理槽54および水洗処理槽55が順に設けられる。
めっき装置1の下流側に水洗処理槽56,57、エアーナイフ処理槽58および乾燥処理槽59が順に設けられる。
めっき装置1の構成は、
図1に示した
めっき装置1の構成と同様である。
【0056】
送出ロール31から送り出された長尺状基材10が処理槽51〜55、
めっき装置1および処理槽57〜59を通過して巻取ロール32により巻き取られる。
【0057】
長尺状基材10には、酸洗処理槽51において酸洗処理が行われ、水洗処理槽52,53において水洗処理が行われる。さらに、Pd触媒処理槽54において、長尺状基材10の表面にパラジウム(Pd)触媒が付着される。
めっき装置1において、上記実施の形態の方法により長尺状基材10の導体層13の表面に
めっきによりニッケルからなる金属薄膜(Ni薄膜)が形成される。その後、水洗処理槽56,57において、長尺状基材10に水洗処理が行われた後、エアーナイフ処理槽58において、長尺状基材10の表面に付着する水分が吹き飛ばされ、乾燥処理槽59において長尺状基材10が乾燥される。
【0058】
図5は比較例1において
図3の長尺状基材10に
めっきを行うために用いた
めっきシステムの概略図である。
【0059】
図5の
めっきシステムにおいては、
図4の
めっき装置1の代わりに
めっき装置1Aが設けられる。
めっき装置1Aは、無電解めっき液を収容するめっき槽2を備える。
めっき装置1Aには、
図4のポテンショスタット3、導通部材4、参照電極5および対極6が設けられない。
【0060】
図6は比較例2,3において図
3の長尺状基材10に
めっきを行うために用いた
めっきシステムの概略図である。
【0061】
図6の
めっきシステムにおいては、図
4の
めっき装置1の代わりに
めっき装置1Bが設けられる。
めっき装置1Bにおいては、
図4のポテンショスタット3の代わりに整流器8が設けられる。整流器8は、導通部材4および対極6に接続される。また、
図4の参照電極5は設けられない。
【0062】
実施例および比較例1〜3において、Pd触媒として、奥野製薬株式会社製ICPアクセラを用い、Pd触媒処理槽54にて、30℃で1分間触媒処理を行った。また、Niを含む無電解めっき液として、奥野製薬株式会社製ICPニコロンFPFを用い、
めっき装置1,1A,1Bにて、82℃で6分間
めっきを行った。長尺状基材10の搬送速度は、1m/分(一定)とした。
【0063】
実施例では、
図4のポテンショスタット3により参照電極5の電位を基準とする長尺状基材10の導体層13の電位を−0.83Vで一定に保持した。
【0064】
比較例1では、長尺状基材10の導体層13の電位を制御しなかった。比較例2では、
図6の整流器8により
めっきの開始後の30秒間、70mAの電流を対極6と長尺状基材10の導体層13との間に流した。比較例3では、
図6の整流器8により
めっきの期間中に、継続して70mAの電流を対極6と長尺状基材10の導体層13との間に流した。
【0065】
実施例および比較例1〜3において長尺状基材10の導体層13の表面に形成されたNi薄膜の平均の厚みを表1に示す。
【0067】
無電解めっき
液が新しい時点(新液時)、長尺状基材10を1000m
めっき処理した時点、長尺状基材10を2000m
めっき処理した時点、および長尺状基材10を3000m
めっき処理した時点で長尺状基材10の導体層13の表面に形成されたNi薄膜の平均厚みをそれぞれ測定した。Ni薄膜の平均厚みは、長尺状基材10の幅方向の複数の位置におけるNi薄膜の厚みの平均値である。
【0068】
表1に示されるように、実施例では、4回の測定時点でのNi薄膜の平均厚みが0.85μm、0.92μm、0.81μmおよび0.86μmとなり、ばらつき(最大の平均厚みと最小の平均厚みとの差)が0.11μmとなった。この場合、無電解めっき液の劣化によるNi膜の厚みの低下は見られなかった。
【0069】
比較例1では、3回の測定時点でのNi薄膜の平均厚みが1.03μm、0.78μmおよび0.68μmとなり、ばらつき(最大の平均厚みと最小の平均厚みとの差)が0.35μmとなった。長尺状基材10を3000m
めっき処理した時点では、導体層13の表面にNiが析出しなかった。この場合、無電解めっき液の劣化によるNi膜の厚みの低下の傾向が顕著に現れた。
【0070】
比較例2では、4回の測定時点でのNi薄膜の平均厚みが0.98μm、0.85μm、0.78μmおよび0.65μmとなり、ばらつき(最大の平均厚みと最小の平均厚みとの差)が0.33μmとなった。この場合も、無電解めっき液の劣化によるNi膜の厚みの低下の傾向が顕著に現れた。
【0071】
比較例3では、4回の測定時点でのNi薄膜の平均厚みが1.05μm、0.93μm、0.83μmおよび0.85μmとなり、ばらつき(最大の平均厚みと最小の平均厚みとの差)が0.22μmとなった。この場合、無電解めっき液の劣化によるNi膜の厚みの低下の傾向が現れた。また、無電解めっき液が新しい初期の段階では、対極6と長尺状基材10の導体層13との間に流した電流の効果はなかった。
【0072】
このように、実施例では、無電解めっき液が劣化した場合でも、Ni膜の平均厚みのばらつきが比較例1〜3に比べて小さくなるとともに、Ni膜の厚みが低下しなかった。したがって、参照電極5の電位を基準とする長尺状基材10の導体層13の電位を一定に保持することにより、無電解めっき液30の劣化が進んだ場合でも、長尺状基材10の搬送速度を変化させることなく、長尺状基材10の導体層13の表面に均一にニッケルからなるNi薄膜を形成できることがわかった。