(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759264
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】Niめっき特性に優れた異形断面銅合金板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 1/08 20060101AFI20150716BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
B21B1/08 Z
B21B3/00 L
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-116311(P2011-116311)
(22)【出願日】2011年5月24日
(65)【公開番号】特開2012-240117(P2012-240117A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176822
【氏名又は名称】三菱伸銅株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 淳一
(72)【発明者】
【氏名】▲すくも▼田 俊緑
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−136103(JP,A)
【文献】
特開2007−039735(JP,A)
【文献】
特開2009−009887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/08
B21B 3/00
B21B 37/00−37/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板であり、Fe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したときの前記厚肉部の測定値をT1、前記薄肉部の測定値をT2とするとき、Brass方位密度の比(T1/T2)が0.8〜2.0であり、Copper方位密度の比(T1/T2)が0.5〜1.2であり、Goss方位密度の比(T1/T2)が1.0〜2.5であることを特徴とするNiめっき特性に優れた異形断面銅合金板。
【請求項2】
Ni、Coからなる元素のうち少なくとも一種を0.01〜0.20質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のNiめっき特性に優れた異形断面銅合金板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のNiめっき特性に優れた異形断面銅合金板の製造方法であって、粗厚肉部を形成するための粗圧延用小径ロール部および粗薄肉部を形成するための粗圧延用大径ロール部が軸線方向に並んで形成された粗圧延用段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた粗圧延用平ロールとからなる粗圧延ロールにより、平板状銅合金素材を挟み込んで圧延加工して粗異形断面銅合金板を製造する粗圧延加工工程と、前記粗厚肉部を押圧して前記厚肉部を形成するための仕上げ圧延用小径ロール部および前記粗薄肉部を押圧して前記薄肉部を形成するための仕上げ圧延用大径ロール部が軸線方向に並んで形成された仕上げ圧延用段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた仕上げ圧延用平ロールとからなる仕上げ圧延ロールにより、前記粗異形断面銅合金板を挟み込んで圧延加工して異形断面銅合金板を製造する仕上げ圧延加工工程とを有し、前記平板状銅合金素材の幅をW1mmとし、前記異形断面銅合金板の幅をW2mmとしたとき、W2/W1が1.01〜1.2となるように粗圧延加工および仕上げ圧延加工することを特徴とするNiめっき特性に優れた異形断面銅合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Niめっき特性に優れた異形断面銅合金板およびその製造方法に関し、特に詳しくは、銅合金組成がFe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなるNiめっき特性の良好な異形断面銅合金板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板は、その後にプレス加工にて打抜きや曲げなどの加工が施され、端子材やリードフレーム材として使用されており、耐熱性、通電性、熱放散性、めっき特性が要求されている。
一般的に、この異形断面銅合金板は、銅合金鋳塊から板幅方向に一定の厚さを有する平板を製造する平板加工工程と、その平板を用いて板幅方向に厚さの異なる異形断面板を製造する異形加工工程により製造される。平板加工工程は、銅合金鋳塊の均熱、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、続いて必要に応じて行われる冷間圧延の各工程からなる。異形加工工程は、平板加工工程によって製造された平板を最終製品形状に加工するにあたり、必要とされる幅に切断した後に、粗冷間加工、焼鈍、仕上げ冷間加工、スリッタ加工、必要に応じて行われる矯正の各工程からなる。この場合、冷間加工の中間で焼鈍を行わず、仕上げ冷間加工後、焼鈍を行うこともある。また、異形加工工程における冷間加工は、異形ロールによる冷間圧延、或いは、異形金型による冷間圧延や鍛造などにより行われ、異なる加工方法が組み合わされることもある。
【0003】
特許文献1には、鋳塊から板厚方向に一定の厚さを有する平板を製造し、その平板を異形ロールにより冷間圧延して、板幅方向に厚さの異なる異形断面銅合金板を製造するに当たり、異形ロールによる冷間圧延の中間又は最終で一度も焼鈍を行わずに、高耐熱性を有し、かつ高導電性及び優れた曲げ加工性を有する異形断面銅合金板が開示されている。Ni:0.03〜0.5質量%、P:0.01〜0.2質量%を含有し、NiとPとの質量比であるNi/Pが2〜10であり、残部銅及び不可避不純物からなる銅合金を用いる。望ましくはSn:0.005〜0.5%又は/及びFe:0.005〜0.20%を含む。必要に応じてZn:0.005〜0.5%を含む。異形ロールによる冷間圧延において、薄肉部の冷間加工率は30〜90%とされる。
【0004】
特許文献2には、良好な曲げ加工性を備えるとともに、芯線圧着部や嵌合凸部等を簡単にかつ高強度に成形することが可能な端子用銅合金条材及びその製造方法が開示されている。端子を製作するための端子用銅合金条材であって、時効析出型銅合金で構成されるとともに、条材の長手方向に直交する断面において、板厚の厚い厚板部と、この厚板部よりも板厚の薄い薄板部とを備えており、厚板部の引張強度TS1と薄板部の引張強度TS2との比TS1/TS2が、1<TS1/TS2≦1.4の範囲となるように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−39735号公報
【特許文献2】特開2009− 9887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のCu−Fe−P系、Cu−Ni−Si系などの異形断面銅合金板は、端子材やリードフレーム材としての耐熱性や曲げ加工性が重要視されているが、表面に全面或いは部分めっき処理、特にNiめっき、が施されて使用される事が多く、厚肉部と薄肉部とで、ばらつきの少ない良好なめっき特性も要求されている。従来のCu−Fe−P系、Cu−Ni−Si系などの異形断面銅合金板では、製造方法に起因する厚肉部と薄肉部との金属組織の相違により、均質なNiめっき特性を得ることは難しかった。
【0007】
本発明は、合金組成がFe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu−Fe−P系の異形断面銅合金板であり、厚肉部と薄肉部とで均質な厚みの変動が少ないNiめっき特性を有する異形断面銅合金板及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、Cu−Fe−P系の異形断面銅合金板の結晶組織に着目して鋭意検討の結果、その厚肉部と薄肉部の後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定した、Brass方位密度の比と、Copper方位密度の比と、Goss方位密度の比とを各々最適範囲内に収めることにより、Niめっき特性が向上することを見出した。
また、この異形断面銅合金板を製造するには、粗圧延加工および仕上げ圧延加工を異形の溝ロールによる冷間圧延にて実施し、圧延前の平板状銅合金素材の幅をW1mmとし、異形断面銅合金板の幅をW2mmとしたとき、W2/W1が1.01〜1.2となるように粗圧延加工および仕上げ圧延加工することにより、上述の厚肉部と薄肉部のEBSD法にて測定したBrass方位密度の比とCopper方位密度の比とGoss方位密度の比とを最適範囲内に収められることを見出した。
【0009】
即ち、本発明のNiめっき特性に優れた異形断面銅合金板は、厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板であり、Fe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したときの前記厚肉部の測定値をT1、前記薄肉部の測定値をT2とするとき、Brass方位密度の比(T1/T2)が0.8〜2.0であり、Copper方位密度の比(T1/T2)が0.5〜1.2であり、Goss方位密度の比(T1/T2)が1.0〜2.5であることを特徴とする。
後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるBrass方位密度の比(T1/T2)が2.0を超える、或いは、Copper方位密度の比(T1/T2)が1.2を超える、或いは、Goss方位密度の比(T1/T2)が2.5を超えると、表面に施されるNiめっきの均質性が悪くなり、Brass方位密度の比(T1/T2)が0.8未満、或いは、Copper方位密度の比(T1/T2)が0.5未満、或いは、Goss方位密度の比(T1/T2)が1.0未満であると、効果が飽和して製造時の圧延コストが上昇する。
【0010】
更に、本発明のNiめっき特性に優れた異形断面銅合金板は、Ni、Coからなる元素のうち少なくとも一種を0.01〜0.20質量%含有することを特徴とする。
これらの元素の添加は、更に耐熱性を向上させる役割を有する。添加量が0.01質量%未満では効果がなく、0.20質量%を超えると導電率を低下させる。
【0011】
また、Niめっき特性に優れた異形断面銅合金板の製造方法は、粗厚肉部を形成するための粗圧延用小径ロール部および粗薄肉部を形成するための粗圧延用大径ロール部が軸線方向に並んで形成された粗圧延用段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた粗圧延用平ロールとからなる粗圧延ロールにより、平板状銅合金素材を挟み込んで圧延加工して粗異形断面銅合金板を製造する粗圧延加工工程と、前記粗厚肉部を圧延して前記厚肉部を形成するための仕上げ圧延用小径ロール部および前記粗薄肉部を圧延して前記薄肉部を形成するための仕上げ圧延用大径ロール部が軸線方向に並んで形成された仕上げ圧延用段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた仕上げ圧延用平ロールとからなる仕上げ圧延ロールにより、前記粗異形断面銅合金板を挟み込んで圧延加工して異形断面銅合金板を製造する仕上げ圧延加工工程とを有し、前記平板状銅合金素材の幅をW1mmとし、前記異形断面銅合金板の幅をW2mmとしたとき、W2/W1が1.01〜1.2となるように粗圧延加工および仕上げ圧延加工することを特徴とする。
【0012】
粗圧延加工と仕上げ圧延加工とを、大径ロール部が軸線方向に並んで形成された段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた平ロールとからなる圧延ロールにより、素材を挟み込む、所謂、溝ロールによる異形加工方式、で実施し、そのW2/W1を1.01〜1.2とすることにより、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したときの前記厚肉部の測定値をT1、前記薄肉部の測定値をT2とするとき、Brass方位密度の比(T1/T2)が0.8〜2.0であり、Copper方位密度の比(T1/T2)が0.5〜1.2であり、Goss方位密度の比(T1/T2)が1.0〜2.5とすることができる。
W2/W1が1.2を超えると、Brass方位密度の比(T1/T2)、或いは、Copper方位密度の比(T1/T2)、或いは、Goss方位密度の比(T1/T2)が、各上限値を超え、厚肉部と薄肉部の金属組織の差が大きくなり、Niめっき特性が悪化を来たす。
W2/W1が1.01未満では、Brass方位密度の比(T1/T2)、或いは、Copper方位密度の比(T1/T2)、或いは、Goss方位密度の比(T1/T2)が、各下限値を下回り、Niめっき特性の悪化を来たす傾向が見られる。
また、W2/W1を1.01〜1.2の範囲内に収めるためには、仕上げ圧延加工において、圧延ロールと粗異形断面銅合金板との接触長さをLmmとし、接触角度をθ°としたとき、L/θの値が1.0〜5.0の範囲となるように圧延加工することが好ましい。
L/θの値が1.0未満では、W2/W1が1.2を超え易く、L/θの値が5.0を超えると、W2/W1が1.01〜1.2に収まり難くなる。
粗圧延加工、或いは、仕上げ圧延加工を、厚肉部となる凸部及び前記薄肉部となる凹部を形成するための成形面を有するダイと、ダイの成形面に対向する位置とダイの成形面からずれた位置との間でダイの成形面の長さ方向に沿って往復移動させられる押圧ロールとにより、押圧ロールがダイの成形面からずれた位置にあるときに、素材を長さ方向に間欠送りし、押圧ロールがダイの成形面に対向する位置にあるときに、押圧ロールとダイの成形面との間に素材を挟み込む、所謂、ダイ・ロールによる異形加工方式、で実施すると、幅方向の拡がりが大きくなり、W2/W1を1.01〜1.2の範囲内に収めることが非常に難しくなる。
また、粗粗圧延加工後に、調質のための焼鈍を施し、その後に仕上げ圧延加工を施しても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、合金組成がFe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu−Fe−P系の異形断面銅合金板であり、厚肉部と薄肉部とで均質な厚みの変動が少ないNiめっき特性を有する異形断面銅合金板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の異形断面銅合金板の一実施形態について、平板状銅合金素材、粗異形断面銅合金板、異形断面銅合金板の製造工程順に示す斜視図である。
【
図2】粗圧延ロールにより平板状銅合金素材から粗異形断面銅合金板を製造している状態を示す斜視図である。
【
図3】仕上げ圧延ロールにより粗異形断面銅合金板から異形断面銅合金板を製造している状態を示す斜視図である。
【
図4】
図3の仕上げ圧延ロールと粗銅合金異形断面板との接触長さLと接触角度θとの関係を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1〜
図5を参照に、本発明の異形断面銅合金板及びその製造方法の一実施形態を説明する。
本発明のプレス打抜き加工性に優れた異形断面銅合金板1は、厚肉部2と薄肉部3とが幅方向に並んだW2の幅を有する異形断面銅合金板(
図1参照)であり、図示例では、厚肉部2の両側に薄肉部3が配置され、厚肉部2と薄肉部3との間は、立ち上げ傾斜角度βの傾斜部4とされている。この異形断面銅合金板1は、Fe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したときの厚肉部2の測定値をT1、薄肉部3の測定値をT2とするとき、Brass方位密度の比(T1/T2)が0.8〜2.0であり、Copper方位密度の比(T1/T2)が0.5〜1.2であり、Goss方位密度の比(T1/T2)が1.0〜2.5である。
また、異形断面銅合金板1は、Ni、Coからなる元素のうち少なくとも一種を0.01〜0.20質量%含有していても良い。これらの元素の添加は、更に耐熱性を向上させる役割を有する。添加量が0.01質量%未満では効果がなく、0.20質量%を超えると導電率を低下させる。
【0016】
後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるBrass方位密度の比(T1/T2)が2.0を超える、或いは、Copper方位密度の比(T1/T2)が1.2を超える、或いは、Goss方位密度の比(T1/T2)が2.5を超えると、表面に施されるNiめっきの均質性が悪くなり、Brass方位密度の比(T1/T2)が0.8未満、或いは、Copper方位密度の比(T1/T2)が0.5未満、或いは、Goss方位密度の比(T1/T2)が1.0未満であると、効果が飽和して製造時の圧延コストが上昇する。
【0017】
EBSD法によるBrass方位密度、Copper方位密度、Goss方位密度は次のように測定した。
試料の測定領域を、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた。そして、各結晶粒が、対象とするBrass方位(理想方位から15°以内)か、Copper方位(理想方位から15°以内)か、Goss方位(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるBrass方位密度(結晶方位の面積率)、Copper方位密度(結晶方位の面積率)、Goss方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
【0018】
次に、本発明の異形断面銅合金板の製造方法につき説明する。
先ず、Fe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有する幅がW1である平板状銅合金素材10を用意する。
そして、
図1に矢印の順に示すように、この平板条銅合金素材10を圧延して粗厚肉部12と粗薄肉部13とが幅方向に並んだ粗異形断面銅合金板11を形成する粗圧延加工工程と、この粗異形断面銅合金板11をさらに圧延する仕上げ圧延加工工程とにより、厚肉部2と薄肉部3とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板1を製造する。
粗圧延加工工程では、
図2に示すような粗圧延用段付きロール21と粗圧延用平ロール22とからなる粗圧延ロール23を備える溝ロール方式による冷間圧延にて、粗圧延加工して粗異形断面銅合金板11を得る。この方式では、粗圧延用段付きロール21は、粗厚肉部12を形成するための粗圧延用小径ロール部24及び粗薄肉部13を形成するための粗圧延用大径ロール部25が軸線方向に並んで形成されており、粗圧延用平ロール22は、半径が軸線方向に沿って一定とされている。そして、これら粗圧延用段付きロール21と粗圧延用平ロール22とからなる粗圧延ロール23により平板条銅合金素材10を挟みこんで圧延し、粗厚肉部12の両側に粗薄肉部13が配置され、粗厚肉部12と粗薄肉部13との間が立ち上げ傾斜角度β´の傾斜部14とされた粗異形断面銅合金板11を得る。
【0019】
次に、
図1に矢印の順に示すように、この粗異形断面銅合金板11を仕上げ圧延加工工程により異形断面銅合金板1に形成する。
仕上げ圧延加工工程では、
図3に示すような仕上げ圧延用段付きロール31と仕上げ圧延用平ロール32とからなる仕上げ圧延ロール33を備える溝ロール方式による冷間圧延にて、平板状銅合金素材10の幅をW1mmとし、異形断面銅合金板1の幅をW2mmとしたとき、W2/W1が1.01〜1.2となるように仕上げ圧延加工して異形断面銅合金板1を得る。この方式では、仕上げ圧延用段付きロール31は、厚肉部2を形成するための仕上げ圧延用小径ロール部34及び薄肉部3を形成するための仕上げ圧延用大径ロール部35が軸線方向に並んで形成されており、仕上げ圧延用平ロール32は、半径が軸線方向に沿って一定とされている。そして、これら仕上げ圧延用段付きロール31と仕上げ圧延用平ロール32とからなる仕上げ圧延ロール33により粗異形断面銅合金板111を挟みこんで仕上げ圧延し、厚肉部2の両側に薄肉部3が配置され、厚肉部2と薄肉部3との間が立ち上げ傾斜角度βの傾斜部4とされた異形断面銅合金板1を得る。
【0020】
この場合、W2/W1が1.2を超えると、Brass方位密度の比(T1/T2)、或いは、Copper方位密度の比(T1/T2)、或いは、Goss方位密度の比(T1/T2)が、各上限値を超え、厚肉部2と薄肉部3の金属組織の差が大きくなり、Niめっき特性が悪化を来たす。
W2/W1が1.01未満では、Brass方位密度の比(T1/T2)、或いは、Copper方位密度の比(T1/T2)、或いは、Goss方位密度の比(T1/T2)が、各下限値を下回り、Niめっき特性の悪化を来たす傾向が見られる。
また、仕上げ圧延ロール33と粗異形断面銅合金板11との接触長さをLmmとし、接触角度をθ°としたとき、L/θの値が1.0〜5.0の範囲となるように仕上げ圧延加工し、W2の幅を有する異形断面銅合金板1を製造する。
図4及び
図5に示すように、接触長さLは、粗異形断面銅合金板11が仕上げ圧延ロール33と接触している距離であり、接触角度θは、粗異形断面銅合金板11の厚みをh
0、異形断面銅合金板1の厚みをh
1としたときに、tanθ={(h
0−h
1)/2}/Lで表される。
L/θの値が1.0未満では、W2/W1が1.2を超え易く、L/θの値が5.0を超えると、W2/W1が1.01〜1.2の範囲に収まり難くなる。
厚肉部2と薄肉部3とは、仕上げ圧延加工の前の粗圧延加工においてほぼ外形が成形されており、仕上げ圧延加工工程においては、粗厚肉部12及び粗薄肉部13の表面を最終の形状に成形することになる。
また、粗圧延加工後に、調質のための焼鈍を施し、その後に仕上げ圧延加工を施しても良い。
【実施例】
【0021】
合金組成がFe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる鋳塊に熱間圧延と冷間圧延を施し、厚さ2.0mm、幅600mmのコイルを製造し、スリッタラインに通して幅50mmの条材を作製した。
この条材を素材として、厚み2.0mm×幅50mm(W1)のコイルを、粗厚肉部を形成するための粗圧延用小径ロール部及び粗薄肉部を形成するための粗圧延用大径ロール部が軸線方向に並んで形成された粗圧延用段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた粗圧延用平ロールとからなる粗圧延ロールにより、挟み込んで圧延加工して、幅W3が50mm、粗厚肉部の幅が20mm、粗薄肉部の厚さが0.2〜0.4mm、粗厚肉部の厚さが1.1〜1.35mm、粗厚肉部の立上傾斜角度β´が10°で、粗厚肉部の両側に粗薄肉部を有する粗異形断面銅合金板を連続的に作製した。
【0022】
次に、この粗異形断面銅合金板を、表1に示すW2/W1、L/θにて、厚肉部を形成するための仕上げ圧延用小径ロール部及び薄肉部を形成するための仕上げ圧延用大径ロール部が軸線方向に並んで形成された仕上げ圧延用段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた仕上げ圧延用平ロールとからなる仕上げ圧延ロールにより、挟み込んで圧延加工して、幅がW2mm、厚肉部の幅が23〜24mm、薄肉部の厚さが0.15〜0.32mm、厚肉部の厚さが1.0〜1.20mm、厚肉部の立上傾斜角度βが10°(水平面から80°)で、厚肉部の両側に薄肉部を有する
図1に示す形状の実施例1〜8及び比較例1〜5の異形断面銅合金板を連続的に作製した。
【0023】
実施例1〜8及び比較例1〜5の各異形断面銅合金板から試料を採取し、厚肉部と薄肉部を後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定し、Brass方位密度の比(T1/T2)、Copper方位密度の比(T1/T2)、Goss方位密度の比(T1/T2)を求めた。
Brass方位密度、Copper方位密度、Goss方位密度は次のように測定した。
試料の測定領域を、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた。そして、各結晶粒が、対象とするBrass方位(理想方位から15°以内)か、Copper方位(理想方位から15°以内)か、Goss方位(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるBrass方位密度(結晶方位の面積率)、Copper方位密度(結晶方位の面積率)、Goss方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
次に、実施例1〜8及び比較例1〜5の長さ50mmの異形断面銅合金板に、表2に示す条件にて、1.50μm厚のNiめっきを施し、厚肉部、傾斜部、薄肉部でのNiめっきの厚さを測定した。
Niめっき膜厚の測定は、蛍光X線膜厚計を使用して連続的に測定し、その平均値を各部のめっき厚みとした。その結果を表3に示す。表3において、傾斜部1は二つの傾斜部のうちの一方、傾斜部2は他方を示す。薄肉部1も二つの薄肉部のうちの一方であり、薄肉部3は他方を示す。
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
これらの結果より、本発明の異形断面銅合金板は、厚肉部と薄肉部とで均質な厚みの変動が少ないNiめっきを得られることがわかる。
【0029】
以上、本発明の実施形態であるめっき付銅条材の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 異形断面銅合金板
2 厚肉部
3 薄肉部
10 平板状銅合金素材
11 粗異形断面銅合金板
12 粗厚肉部
13 粗薄肉部
21 粗圧延用段付きロール
22 粗圧延用平ロール
23 粗圧延ロール
24 粗圧延用小径ロール部
25 粗圧延用大径ロール部
31 仕上げ圧延用段付きロール
32 仕上げ圧延用平ロール
33 仕上げ圧延ロール
34 仕上げ圧延用小径ロール部
35 仕上げ圧延用大径ロール部