(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1は第1実施形態のハイブリッド吸着シート1の斜視図であり、
図2は
図1のハイブリッド吸着シート1をX−Z面で切断した断面図である。なお、
図1では、放射性物質吸着層11の端面が露出しているが、実際には
図2に図示するように、表面、裏面不織布12、13で覆われている。
【0014】
これらの図を参照して、ハイブリッド吸着シート1は、放射性物質吸着層11を表面不織布12(不織布)および裏面不織布13(不織布)で挟み、一体的に絡合したものである。
【0015】
図1に示すように、放射性物質吸着層11は、活性炭を含む帯状の堆積物である。活性炭は、無定形ないし微結晶状の炭素からできており、網目状に形成された多数の微細孔(表面積:500〜2500m
2/g)を備える。微細孔は、入口を大きい口径とするマクロポアと、その奥にあるマクロポアよりも口径が小さいミクロポアとからなる。マクロポアにおいて有機物などの粒子を吸着し、ミクロポアにより香り等の微細な粒子を吸着させる。このマクロポアおよびミクロポアにより、汚染
水中の放射性物質を吸着する。活性炭の吸着性能を維持するためには、微細孔の表面部位をクリーンに保つ必要がある。
【0016】
ここで、例えば、放射性物質とともに油が海洋中に流出した場合、汚染水には油、海水、放射性物質が含まれることになる。放射性物質は、油を含まない海水に含まれる場合もあれば、油を含む海水に含まれる場合もある。油を含まない海水においては、海面に浮遊する放射性物質を除去するために、放射性物質吸着層11を長時間海面に浮遊させる必要がある。また、油を含む海水においては、放射性物質吸着層11を長時間海面に浮遊させることに加えて、海水に含まれる油により活性炭の微細孔が塞がれないようにする必要がある。そこで、これらの課題を解決するために、放射性物質吸着層11の表裏を表面、裏面不織布12、13で覆う必要がある。ここで、表面不織布12及び裏面不織布13に用いられる資材は、海面に流出した油の量に応じて、次の3つのタイプのハイブリッド吸着シート1から選択すると良い。
【0017】
1つ目のタイプは、
図6のような製造装置により製造し、表面不織布12を脱脂綿およびPP製不織布とし、裏面不織布13を羊毛製不織布としたハイブリッド吸着シート1である。2つ目のタイプは、
図3のような製造装置により製造し、表面不織布12および裏面不織布13を羊毛製不織布としたハイブリッド吸着シート1である。3つ目のタイプは、
図3のような製造装置により製造し、表面不織布12および裏面不織布13をカポック繊維としたハイブリッド吸着シート1である。これらのハイブリッド吸着シート1は、汚染水に含有される油の量に応じて、選択的に汚染水に投下することができる。
【0018】
汚染水の水面において油がほとんど確認されない場合は、脱脂綿からなる表面不織布12と、羊毛からなる裏面不織布13との間に放射性物質吸着層11を介在させた積層体を、ニードルパンチ処理により一体化させたハイブリッド吸着シートにするとよい。脱脂綿は、高い吸水性を有する。羊毛は、通気性に優れ、比重が軽く、少量の油を吸着した後も水面に長時間浮遊することができる。また、羊毛は、少量の油も吸着することができる。
【0019】
この構成により、汚染水の水面に全く油膜が確認できない場合には、脱脂綿からなる表面不織布12を下面にした状態で汚染水に投下して、瞬時に汚染水を表面不織布12に吸水させ、汚染水中の放射性物質を放射性物質吸着層11で吸着させる。また、汚染水の水面にごく少量の油膜が確認できる場合については、羊毛製不織布からなる裏面不織布13を下面にした状態で汚染水に投下して、汚染水中の油を裏面不織布13で除去した後に、放射性物質吸着層11に汚染水を透過させることができる。これにより、油が除去された汚染水のみを放射性物質吸着層11に接触させることができるため、放射性物質吸着層11の微細孔が油により閉塞されることが防止され、汚染水中の放射性物質を効率良く放射性物質吸着層11に対して吸着させることができる。
【0020】
ここで、脱脂綿を資材とした表面不織布12の吸水速度は、羊毛を資材とした裏面不織布13の吸水速度に比べて極めて早い。脱脂綿により表面不織布12を構成すると、後述のニードルパンチング装置6のニードル611が表面、裏面不織布12、13および放射性物質吸着層11を挿通する際に、
図5に示すニードル611が脱脂綿により構成した表面不織布12の繊維を引掛けて、表面不織布12の表面に脱脂綿による凹凸が形成される。これにより、表面が平らな状態に比べて表面積が大きくなるため、表面不織布12の吸水面積が増加する。これに対して、羊毛は脱脂綿よりも硬く撥水性を備えているため、ニードル611の挿通動作において脱脂綿ほどの表面の凹凸が形成されず、汚染水の吸収速度の向上効果が期待できない。
【0021】
ところで、脱脂綿からなる表面不織布12にニードルパンチング装置6による処理を施すと、表面不織布12の強度不足により表面不織布12の形状が崩壊してしまう。表面不織布12の形状が崩壊すると、表面不織布12の内側にある放射性物質吸着層11の材料が脱落してしまう。そこで、表面不織布12の表面をPP製不織布で覆い、表面不織布12の形状維持を図る。この補強の役割をなすPP製不織布としては、目付けを60g/m
2としたものが好ましい。これにより、表面不織布12の形状をより確実に保護することができる。さらに、ニードルパンチング装置6におけるニードル611の形成密度は、40,000箇所/m
2とすると良い。これにより、PP製不織布の強度がより確実に保たれ、表面不織布12を裏面不織布13および放射性物質吸着層11に対して一体形成することができる。
【0022】
なお、ハイブリッド吸着シート1(表面不織布12:PP製不織布および脱脂綿、裏面不織布:羊毛繊維)を製造する際には、
図6に示すように上段ローラ31、第1下段ローラ321、第2下段ローラ322に対して、羊毛製不織布による母材シート、脱脂綿による母材シート、PP製不織布による母材シートがそれぞれ巻き付けられる。これらのローラから搬送されるシートに対して、ニードルパンチング処理を行い、ハイブリッド吸着シート1を製造する。
【0023】
汚染水の水面において油が確認される場合は、表面、裏面不織布12、13の資材を羊毛製不織布にすると良い。この場合、目付は、300g/m
2が望ましい。この構成により、表面不織布12および裏面不織布13の両面において汚染
水中の油を吸着することができる。すなわち、ハイブリッド吸着シート1(表面不織布12、裏面不織布13:羊毛製不織布)の周りにある汚染水のうち、油部分が表面不織布12および裏面不織布13において捕捉されるため、油が取り除かれた汚染水を放射性物質吸着層11に接触させることができる。これにより、油により放射性物質吸着層11の細孔が閉塞されるのを防止し、放射性物質11をより確実に吸着することができる。
【0024】
汚染水の水面において多量の油が確認される場合は、表面、裏面不織布12、13をカポック繊維を主材とした不織布とすると良い。ここで、不織布の目付は、200g/m
2が望ましい。カポック繊維は、ボンバセアエ(Bombaceae)科に属する植物の種子繊維であり、セルロース、リグニン、ペントザンを含む。カポック繊維自身は、1つの細胞を構成し、細胞壁は薄いがルーメンは厚いため、その中に気泡を有する。そのため比重は極めて軽く、例えばジャワ産のもので0.038、インド産のもので0.05であり、自重の20〜40倍まで増量しても水面に浮上することができる。また、カポック繊維は、素材1gに対して約50倍程度の高い吸油性能を備える。
【0025】
このような比重が軽く、高い吸油性能を備えるカポック繊維を用いて放射性物質吸着層11を覆うことにより、ハイブリッド吸着シート1(表面不織布12、裏面不織布13:カポック繊維)を汚染水の水面に長時間浮遊させて、汚染水中の油を多量に吸着させることができる。これにより、工場内の機械製品または石油タンカーから漏れ出し、海洋または河川に浮上する多量の油をハイブリッド吸着シート1で吸着させることができる。さらに、多量の油を含む汚染水に対しても、放射性物質吸着層11により、確実に放射性物質を吸着することができる。
【0026】
ところで、汚染水に投下された放射性物質及び油を含んだハイブリッド吸着シート1は、フック状の回収部材(以下、フック部材という)により回収される。ここで、フック部材は、回収時に表面不織布12又は裏面不織布13に引っ掛けられる。この際、表面不織布12又は表面不織布13の一部が破れ、その破片が油を含んだ状態で海水に再流出するおそれがある。しかしながら、油よりも環境上好ましくないとされる放射性物質を含んだ放射性物質吸着層11は、ハイブリッド吸着シート1の内側に位置するため、フック部材との当接が回避される。したがって、放射性物質を含んだ放射性物質吸着層11の破片が海洋に再流出することはない。このように、本実施形態に係るハイブリッド吸着シート1は、放射性物質及び油を吸着する吸着時のみならず、回収時においても優れた効果を発揮する構成となっている。
【0027】
次に、表面不織布12、裏面不織布13を羊毛不織布またはカポック繊維として、放射性物質吸着層11を挟んだハイブリッド吸着シート1の製造方法について説明する。
図3に示すように、シート製造装置2は、ハイブリッド吸着シート1の母材となる各種シートを搬送する搬送路を有し、搬送路の上流には、表面不織布12の母材シートが巻かれた上段ローラ31、裏面不織布13の母材シートが巻かれた下段ローラ32、および上段ローラ31と下段ローラ32の間に位置し、放射性物質吸着層11の資材である活性炭を充填したホッパー33が配置されている。上段ローラ31に巻かれた表面不織布12および下段ローラ32に巻かれた裏面不織布13は、ホッパー33から散布された放射性物質吸着層11を表面不織布12および裏面不織布13で挟むように第1加圧ローラ4および第2加圧ローラ5によって加圧する。また、この第1加圧ローラ4および第2加圧ローラ5は、モータ(不図示)によりX軸周りに回転可能な構成であり、加圧した表面、裏面不織布12、13および放射性物質吸着層11を下流に搬送する。
【0028】
ここで、表面、裏面不織布12、13の母材シートの幅は、放射性物質吸着層11の幅に比べて広くする。また、活性炭は、所定時間毎に散布を中止するように、間欠的に供給される。裏面不織布32の上面に散布された活性炭を所定の間隔で隙間を形成する。この所定時間とは、1枚の放射性物質吸着層11の長さ分、活性炭が裏面不織布32に対して散布されるのに要した時間とする。このように表面、裏面不織布12、13の母材シートの幅、およびホッパー33の散布時間を設定することで、
図4に示すように放射性物質吸着層11の幅方向端部および搬送方向端部が表面、裏面不織布12、13によって覆われ、汚染
水が放射性物質吸着層11に直接接触しないようすることができる。
【0029】
重ねあわされた表面不織布12、放射性物質吸着層11および裏面不織布13は、第1加圧ローラ4の搬送方向下流であって、かつ、第2加圧ローラ5の搬送方向上流に位置する、ニードルパンチング装置6に搬送される。
【0030】
ニードルパンチング装置6は、ニードルボード612に
図5のような外周部に突出した鋭利なハーブ613を有するニードル611を所定の間隔および密度で埋め込んだビーム61を含むものである。このビーム61は、駆動機構(不図示)により上下動して、表面不織布12、放射性物質吸着層11、裏面不織布13を重ね合わせたシートに対してニードル611を挿通させて、受け板に近接させる。このニードル611の挿通動作により、ニードル611に形成されたハーブ613が表面、裏面不織布12、13の繊維と放射性物質吸着層11の繊維とを引掛けて、繊維を互いに交絡させ、表面、裏面不織布12、13および放射性物質吸着層11を一体的に絡合させる。
【0031】
ここで、ニードル611は、ニードル611の密度を40,000本/m
2程度として、ニードル611のニードルボード612への埋め込み間隔を5mm程度とすることが好ましい。なぜなら、一般的には密な方が資材全体の強度保持に適するが、過度に密にすると脱脂綿の繊維が過度に短く切断されて、表面、裏面不織布12、13および放射性物質吸着層11の強度を低下させてしまうからである、また、放射性物質吸着層11には、固形物である活性炭が含まれるため、過度にニードル611の密度を大きくすると、ニードル611が活性炭に接触する頻度が増し、ニードル611が折損する可能性が高まる。
【0032】
ところで、ニードル611としては、表1のような所定の形状および間隔を有するハーブ613を備えた細針を用い、放射性物質吸着層11としては、粒径を2〜3mmとした活性炭により構成することが好ましい。ニードルが表面、裏面不織布12、13および放射性物質吸着層11を貫通する際に、この表面、裏面不織布12、13および放射性物質吸着層11の搬送に伴いニードル611が湾曲してしまう。そのため、ニードル611は、弾力性の高い細針を用いると良い。また、放射性物質吸着層11には、活性炭等の粒状固形物が存在するため、単にニードル611を細針として、放射性物質吸着層11の粒径を任意とすると、放射性物質吸着層11を挿通する際に、ニードル611の剛性が活性炭の剛性に負けて、ニードル611が折損する場合がある。そのため、ニードル611を細針とした場合、ニードル611が折損しないように、放射性物質吸着層11の粒径を3mm以下とすると良い。さらに、放射性物質吸着層11における活性炭の粒径を細かくし過ぎると、表面、裏面不織布12、13の繊維間から活性炭の粒子が脱落してしまう。そのため、活性炭の粒径を2mm以上とすると良い。
【0033】
なお、ハーブ613とは、ニードル611の正三角形をした断面の鋭角部を外側に突出させた部分で、ニードル611が表面、裏面不織布12、13および放射性物質吸着層11の繊維を引掛けて、この表面、裏面不織布12、13および放射性物質吸着層11間での繊維を互いに交絡させる役割をなすものである。
【0035】
このニードルパンチング装置6の搬送方向下流には、表面不織布12、放射性物質吸着層11、裏面不織布13を一体的に絡合させたシートを所定の大きさで切断する切断機(不図示)が位置する。
【0036】
上記のような製造装置において、まず、第1加圧ローラ4および第2加圧ローラ5を駆動して、下段ローラ32に巻かれた裏面不織布13を下流に搬送する。第1加圧ローラ4において、表面、裏面不織布12、13および放射性物質吸着層11は重ね合わせ、さらに、ニードルパンチング装置6による処理位置に向かって搬送する。ニードルパンチング装置6は、搬送された表面不織布12、放射性物質吸着層11、裏面不織布13に対してニードルパンチング処理を行い、これらのシートの繊維を交絡させて一体的に絡合する。その後、表面不織布12、放射性物質吸着層11および裏面不織布13が絡合されたシートは、切断機により所定の寸法に切断され、ハイブリッド吸着シート1が得られる。
【0037】
次に、表面不織布12を脱脂綿およびPP製不織布とし、裏面不織布13を羊毛製不織布として、放射性物質吸着層11を挟んだハイブリッド吸着シート1の製造方法について説明する。この場合は、上記製造装置における表面不織布12の母材シートを、脱脂綿による母材シートが巻かれた第1下段ローラ321とPP製不織布による母材シートが巻かれた第2下段ローラ322とで構成する。具体的には
図6のように、ホッパー33の搬送方向上流側に第3加圧ローラ7、第1下段ローラ321、第2下段ローラ322を順に位置させる。この構成により、ホッパー33による活性炭の供給位置よりも上流において、第3加圧ローラ7で第1下段ローラ321の母材と第2下段ローラ322の母材を密着させる。
(他の実施形態)
上記第1実施形態において、放射性物質吸着層11を活性炭により構成したが、本発明はこれに限られるものではなく、
図7に示すように活性炭化層111とゼオライトを含むゼオライト層112とを組み合わせた構成であってもよい。また、放射性物質吸着層11は、セオライト層112のみで構成してもよい。なお、ゼオライトは、活性炭と同様のメカニズムにより、汚染物質や香りを吸着することができる。
【0038】
さらに、上記実施形態におけるハイブリッド吸着シート1はシート形状であるが、本発明はこれに限られるものではなく、
図8に示すような円筒状であってもよい。具体的には円筒状の放射性物質吸着体11の外面を表面不織布12で覆うことにより構成することができる。この円筒状のハイブリッド吸着シート1は、海洋中の汚染水を囲むように複数個投入され、外層の表面不織布12にて油を吸収し、内層の放射性物質吸着体11にてヨウ素、セシウムを吸着することができる。
【0039】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他の様々な形で実施することができる。そのため、前述の実施の形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する全ての変形、様々な改良、代替および改質は、すべて本発明の範囲内のものである。