(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
TFTの半導体層に用いられるアモルファス(非晶質)薄膜としては、汎用のアモルファスシリコン(a−Si)のほか、最近では、例えばインジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)などの少なくとも一種を含む酸化物が使用されている。後者の酸化物をTFTの半導体層に用いた酸化物半導体薄膜は、電界効果移動度(移動度)が高いなど、優れた半導体特性を有するのみならず、低温で成膜でき、しかも光学バンドギャップが大きいことから、プラスチック基板、フィルム基板への成膜が可能であるなどの利点がある。
【0003】
これらの薄膜をTFTの半導体層として使用する場合、移動度が高く、TFT特性に優れた薄膜を得るために、ディスプレイなどの製造工程においては、成膜した半導体薄膜の特性を評価し、その結果をフィードバックして製造条件を調整して膜質の管理を行うことが生産性向上の観点からは重要となる。
【0004】
従来の半導体薄膜の特性の評価方法としては、通常、半導体薄膜にゲート絶縁膜やパッシベーション絶縁膜を形成して電極付けを行ったうえで、移動度やしきい値などの特性を測定しているが、電極付けを必要とする接触型の測定方法では、電極付けのための時間やコストがかかっていた。また電極付けをすることで、半導体薄膜に新たな欠陥が生じるおそれがあり、更に製造歩留まり向上の観点からも電極付けを必要としない非接触型の測定方法の確立が求められていた。
【0005】
このような事情に鑑み、本願出願人は、非接触型で半導体薄膜の特性を評価する方法として、レーザとマイクロ波を利用したマイクロ波光導電減衰法(μ−PCD法)による評価方法を提案している(特許文献1および2)。このうち特許文献1は、多結晶ポリシリコンなどの結晶質の半導体薄膜の結晶性を評価するために提案されたものであり、上記結晶質の半導体薄膜を形成した試料にレーザを照射し、該レーザ照射で励起された過剰キャリアに応じて変化するマイクロ波の反射率の変化を測定することによって、半導体薄膜の結晶性を評価している。
【0006】
また、特許文献2は、上記特許文献1の技術を、非晶質である酸化物半導体薄膜の特性を評価するために改変された技術であって、当該酸化物半導体薄膜に適した励起光の照射条件を設定したものである。具体的には、酸化物半導体薄膜の特性とライフタイムの測定結果との関係について研究を重ねた結果、(ア)酸化物半導体薄膜の移動度とライフタイム値(反射率変化の1/e)に高い相関関係があり、ライフタイム値を調べることによって酸化物半導体薄膜の移動度を簡便に評価できること、更に(イ)酸化物半導体薄膜の移動度と反射率のピーク値に高い相関関係があり、ライフタイム値の代わりにピーク値を調べることによっても、酸化物半導体薄膜の移動度を簡便に評価できることを知見した。これらの知見に基づき、特許文献2では、(ア)酸化物半導体薄膜が形成された試料に励起光及びマイクロ波を照射し、励起光の照射により変化するマイクロ波の酸化物半導体薄膜からの反射波の最大値(ピーク値)を測定した後、励起光の照射を停止し、励起光の照射停止後のマイクロ波の酸化物半導体薄膜からの反射波の反射率の変化を測定し、測定した値からライフタイム値(反射率変化の1/e)を算出することによって、酸化物半導体薄膜の移動度を判定する方法、および(イ)酸化物半導体薄膜が形成された試料に励起光及びマイクロ波を照射し、励起光の照射により変化するマイクロ波の酸化物半導体薄膜からの反射波の最大値(ピーク値)を測定することによって、酸化物半導体薄膜の移動度を判定する方法を開示している。
【0007】
一方、半導体薄膜の形成に当たっては、当該膜と同じ組成のスパッタリングターゲットをスパッタリングするスパッタリング法が好適に用いられている。スパッタリング法では、真空中にArガス等の不活性ガスを導入しながら、基板とターゲット部材との間に高電圧を印加し、イオン化した不活性ガスをターゲット部材に衝突させ、その衝突により弾き飛ばされたターゲット部材の構成物質を基板に堆積させて薄膜を形成する。スパッタリング法で形成された薄膜は、イオンプレーティング法や真空蒸着法、電子ビーム蒸着法で形成された薄膜に比べ、膜面方向(膜面内)における成分組成や膜厚などの面内均一性に優れており、スパッタリングターゲットと同じ成分組成の薄膜を形成できるという長所を有している。
【0008】
スパッタリング法に用いられるスパッタリングターゲットは、一般的に、金属製部材のバッキングプレート(支持体)の上に、ボンディング材を用いて接合した状態で使用されており、このようなスパッタリングターゲットはターゲット接合体とも呼ばれる。バッキングプレートには、耐熱性、導電性、熱伝導性に優れるCuが汎用されており、純銅または銅合金の形で使用される。ボンディング材としては、熱伝導性と導電性が良好な低融点ハンダ材料(例えば、In系、Sn系の材料)が汎用されている。
【0009】
近年、スパッタリング法による大型基板への成膜の需要が増加しており、それに伴ってスパッタリングターゲットの大きさも大型化しつつある。スパッタリングターゲットによっては大型化が難しいものもあるため、後記する
図1、
図2に示すように、一枚のバッキングプレートの上に、複数の小片のターゲット部材を隙間をあけて並べ、ターゲット部材とバッキングプレートとを、ボンディング材で接合したターゲット組立体が用いられている。隣接するターゲット部材の間には、バッキングプレートのたわみにより隣接するターゲット同士が接触して欠陥が生じないように、室温時におおむね、0.1〜1.0mmの隙間ができるように調整して配置される。また、上記の隙間からボンディング材が漏出しないように、通常、上記隙間の裏側(ボンディング側、バッキングプレートに対向する側)に、高分子耐熱シートや導電性シート、純CuまたはCu合金のテープ状シートなどの裏打ち部材(当板とも呼ばれる)が設けられることもある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、ターゲット組立体の品質を簡便に評価するに当たり、特許文献1および2に記載のマイクロ波光導電減衰法をベースに検討した。特許文献2の方法で算出されるライフタイム値(反射率変化の1/e)は、酸化物半導体薄膜などの半導体薄膜の移動度と良好な相関関係を有し、TFT特性を評価するための間接的且つ精度の良い指標となることが開示されている。一方、ターゲット組立体では、前述したように当該ターゲット組立体製造時の隙間部に起因してTFT特性が大きく変化することから、本発明者らは、ターゲット組立体の隙間部に対応する薄膜の継ぎ目部分のライフタイム値に着目して検討を行なった。その結果、ターゲット組立体の隙間部に対応する薄膜の継ぎ目部分のライフタイム値(τ1)は、酸化物半導体薄膜などの半導体薄膜の移動度、更にはSS(Subthreshold Swing、サブスレッショルド スィング、ドレイン電流を1桁あげるのに必要なゲート電圧)値や、Id−Vg特性などのTFT特性と良好な相関関係を有し、TFT特性を評価するための間接的且つ良好な指標となることを見出した。更には、ターゲット組立体の隙間部に対応する薄膜の継ぎ目部分のライフタイム値(τ1)と、ターゲット組立体の非隙間部に対応する薄膜の非継ぎ目部分のライフタイム値(τ2)との比(τ1
/τ2)も、酸化物半導体薄膜などの半導体薄膜の移動度、更にはSS値などのTFT特性と良好な相関関係を有し、上記比を用いれば、ターゲット組立体を構成する材料によらずに評価できるなどの利点を有することを見出し、本発明を完成した。
【0021】
このように本発明の特徴部分は、ターゲット組立体の隙間に対応する薄膜の継ぎ目部分のライフタイム値(τ1)に基づいてターゲット組立体の品質を評価したところにある。ライフタイム値の算出方法自体は、特許文献2に詳述されており、それを参照することができるが、特許文献2には、ターゲット組立体に関する記載は一切なく、上記特徴部分は、特許文献2には記載されていない。具体的には、上記ライフタイム値(τ1)と、ターゲット組立体の非隙間部に対応する薄膜の非継ぎ目部分のライフタイム値(τ2)との比(τ1
/τ2)を、ターゲット組立体品質評価のための指標として用いることが推奨される。
【0022】
すなわち、本発明に係るターゲット組立体の品質評価方法は、バッキングプレート上に、ボンディング材を介して、複数の酸化物ターゲット部材が隙間をあけて配置されたターゲット組立体を用意する第1の工程と、前記ターゲット組立体をスパッタリングし、薄膜を形成する第2の工程と、前記薄膜の、前記ターゲット組立体の隙間に対応する継ぎ目部分Aを含む領域に励起光及びマイクロ波を照射し、前記励起光の照射により変化する前記マイクロ波の前記継ぎ目部分Aからの反射波の最大値を測定した後、前記励起光の照射を停止し、前記励起光の照射停止後の前記マイクロ波の前記継ぎ目部分Aからの反射波の反射率の変化を測定し、反射率が1/eとなるまでの時間を前記薄膜の前記継ぎ目部分Aのライフタイム値τ1として算出する第3の工程と、前記継ぎ目部分Aのライフタイム値τ1に基づいてターゲット組立体の品質を評価する第4の工程と、を含むところに特徴がある(第1の実施形態)。
【0023】
上記は、ターゲット組立体の接合部に対応する薄膜の継ぎ目部分のライフタイム値(τ1)に基づいてターゲット組立体の品質を評価するという本発明の特徴部分を規定したものであるが、特に、上記第3の工程に基づいて算出されるライフタイム値(τ1)と、ターゲット組立体の非隙間部に対応する薄膜の非継ぎ目部分のライフタイム値(τ2)との比(τ1
/τ2)を、その指標として用いることが有効である。ここで、上記ライフタイム値τ2は、前記薄膜の、前記ターゲット組立体の非隙間部に対応する非継ぎ目部分Bを含む領域に励起光及びマイクロ波を照射し、前記励起光の照射により変化する前記マイクロ波の前記非継ぎ目部分Bからの反射波の最大値を測定した後、前記励起光の照射を停止し、前記励起光の照射停止後の前記マイクロ波の前記非継ぎ目部分Bからの反射波の反射率の変化を測定し、反射率が1/eとなるまでの時間を前記薄膜の前記非継ぎ目部分Bのライフタイム値τ2として算出する第5の工程によって算出することができる(第2の実施形態)。
【0024】
上記第2の実施形態のようにライフタイム値の比を用いれば、材料によらずターゲット組立体の品質を評価することができる。すなわち、上記第1の実施形態のように、継ぎ目部分Aのライフタイム値τ1のみに基づく方法では、材料によっては、全体的にτ1の値が小さくなったり、逆に大きくなったりするため、材料ごとに合格基準となる閾値を予め調べなければならないのに対し、上記の比を用いれば、ターゲットの隙間部の影響を示す指標が得られるため、材料ごとに合格基準となる閾値を調べる必要はなくなる。
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の第1および第2の実施形態に係るターゲット組立体の品質評価方法の各工程を詳細に説明する。
図1は、本発明に用いられるターゲット組立体の平面図であり、
図2は、
図1のA−A線拡大縦断面図である。但し、
図1および
図2のターゲット組立体は、本発明の好ましい実施形態の一例であって、本発明では、これに限定する趣旨では決してない。例えば以下の図では、長方形状のスパッタリングターゲットを示しているが、これに限定されず、例えば円盤状のものを用いても良い。また、以下では、酸化物薄膜を用いて説明しているが、これに限定されず、例えば、アモルファスシリコン薄膜を用いても良い。
【0026】
(1)第1の実施形態について
(第1の工程)
まず、
図1および
図2に示すように、バッキングプレート23上に、ボンディング材31a〜31cを介して、複数の酸化物ターゲット部材24a〜24dが隙間Tをあけて配置されたターゲット組立体21を用意する。
図1および
図2に示すターゲット組立体21は、4枚のターゲット部材24a〜24dを前後左右に二枚ずつ並べて構成されるスパッタリングターゲット22と、これを固定(支持)するバッキングプレート23と、複数のターゲット部材24a〜24dとバッキングプレート3とを接合する低融点ハンダボンディング材31a〜31cとで構成されている。隣接する複数のターゲット部材24a〜24dの隙間Tの裏側(低融点ハンダボンディング材31a側)には、隙間Tを塞ぐように、裏打ち部材25が設けられている。ターゲット部材24a〜24dとバッキングプレート23との間には、均一な隙間を形成することができるようにスペーサー32(Cuワイヤ)を配置している。
【0027】
ターゲット部材24a〜24dとしては、例えば、アモルファスシリコン、ポリシリコンなどのシリコン類、および酸化物が挙げられる。好ましいターゲット部材は非晶質のものである。上記薄膜の厚さは、おおむね、数十nm〜100nm程度であることが好ましい。
【0028】
上記酸化物としては、TFTの半導体層に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、In、Ga、Zn、およびSnよりなる群から選択される少なくとも一種以上の組み合わせからなる非晶質の酸化物半導体が用いられる。具体的には、例えばIn酸化物、In−Sn酸化物、In−Zn酸化物、In−Sn−Zn酸化物、In−Ga酸化物、Zn−Ga酸化物、In−Ga−Zn酸化物、Zn酸化物が挙げられる。各元素の比率は、基板(
図1、
図2には示さず)に成膜される酸化物薄膜の組成に応じて適切に決定される。
【0029】
ターゲット部材24a〜24dの間は、隙間Tをあけて配置されている。隙間Tの幅は、使用するターゲット部材や、低融点ハンダボンディング材31a〜31cのサイズ、更にはバッキングプレートプレート23のサイズなどに応じて適切に設定されることが好ましいが、おおむね、0.2mm〜1.0mmとすることが好ましい。
【0030】
図1および
図2において、ターゲット部材24a〜24dは、長方形の板材で構成されているが、これに限定されず、通常用いられる形状(例えば円盤状)であっても良い。また、ターゲット部材24a〜24dの厚さやサイズも特に限定されず、ターゲット組立体の分野において通常用いられるものを選択することができる。
【0031】
バッキングプレート23は、耐熱性、導電性、熱伝導性に優れた純CuまたはCu合金で構成されている。Cu製のバッキングプレートはスパッタリングターゲットの分野に通常用いられるものであれば、すべて使用することができる。
【0032】
低融点ハンダボンディング材31a〜31cとしては、代表的にはIn基材料またはSn基材料が挙げられる。その種類は特に限定されず、スパッタリングターゲットの分野に通常用いられるものであれば、すべて使用することができる。In基材料としては、例えば、In−Ag合金などが挙げられる。Sn基材料としては、例えばSn−Zn合金などが挙げられる。好ましくはIn基材料である。
図2において、31a〜31cは、同一または異なる低融点ハンダボンディング材を使用することができるが、作業効率などを考慮すると、同じ材料を用いることが好ましい。
【0033】
スペーサー32は、酸化物ターゲット部材24a〜24dとバッキングプレート23との間に、均一な隙間を形成することができるように配置されるものである。スペーサーは、導電性や熱伝導性に優れたものであれば特に限定されず、スパッタリングターゲットの分野に通常用いられるものであれば、すべて使用することができる。スペーサー12としては、例えばCuワイヤなどが挙げられる。なお、
図1および
図2では、リング状に形成されたスペーサーを示しているが、この形状に限定されない。
【0034】
裏打ち部材25は、各ターゲット部材の隙間からボンディング材が漏出しないように、隙間Tの裏側(ボンディング側、バッキングプレートに対向する側)に設けられる。裏打ち部材25としては、導電性や熱伝導性に優れており、スパッタリングターゲットの分野に通常用いられるものを用いることができる。詳細には
図2に示すように、裏打ち部材25とバッキングプレート23とは低融点ハンダボンディング材31bで接合されると共に、裏打ち部材25と酸化物ターゲット部材24a、24bとは、低融点ハンダボンディング材31aで接合される。隙間Tの直下部分Qでは、低融点ハンダボンディング材21は掻き出されて存在しないため、ここでは、裏打ち部材25は、低融点ハンダボンディング材31aを介さず、ターゲット部材24a、24bと直接接合している。
【0035】
但し、本発明では、隙間Tの裏側に裏打ち部材が少なくとも配置されていれば良く、裏打ち部材の存在形態は、
図2の態様に限定されない。また、
図2に示すように、隙間Tの直下部分Qに低融点ハンダボンディング材31aは存在しない方が好ましいが、これは、Q部分に低融点ハンダボンディング材があると、スパッタリング中に熱が加わり、ボンディング材が溶け出して異常放電が生じ、パーティクルやスプラッシュが発生するためである。特に、隙間をつたって、ボンディング材が這い上がってくると、このような現象が顕著になるため、当該現象を回避するうえで、直下部分Qにはボンディング材は出来るだけ存在しない方が良い。
【0036】
(第2の工程)
次に、上記ターゲット組立体をスパッタリングし、薄膜を形成する。スパッタリング条件は特に限定されず、所望となる薄膜が形成されるように適切な条件を選択することができる。
【0037】
(第3の工程)
次に、上記薄膜の、ターゲット組立体の隙間に対応する継ぎ目部分Aを含む領域に励起光及びマイクロ波を照射し、前記励起光の照射により変化する前記マイクロ波の前記継ぎ目部分Aからの反射波の最大値を測定した後、前記励起光の照射を停止し、前記励起光の照射停止後の前記マイクロ波の前記継ぎ目部分Aからの反射波の反射率の変化を測定し、反射率が1/eとなるまでの時間を前記薄膜の前記継ぎ目部分Aのライフタイム値τ1として算出する。本発明では、ターゲット組立体の隙間に対応する継ぎ目部分Aを含む領域に励起光及びマイクロ波を照射し、薄膜の継ぎ目部分Aのライフタイム値τ1として算出したところに特徴があり、ライフタイム値τ1の詳細な算出方法は、特許文献1に記載されており、これを参照することができるため、本明細書では、詳細な測定方法の説明を省略するが、その概略は以下のとおりである(以下の
図3および
図4は、特許文献2から抽出したものである)。
【0038】
具体的には、
図3に記載のライフタイム測定装置(特許文献2に記載の
図1と同じ)を用い、試料(半導体薄膜)20aの測定部位に対して励起光、及びマイクロ波を照射し、その励起光の照射により変化するマイクロ波の試料からの反射波の強度を検出する。
図3の測定装置は、パルスレーザ1、マイクロ波発振器2、方向性結合器3、マジックT(4)、第1導波管(信号用導波管)5a、第2導波管(参照用導波管)5b、ミキサ6、信号処理装置7、コンピュータ8、ステージコントローラ9、試料台10、X−Yステージ11、基板保持部12、ミラー13及び集光レンズ14等を備えている。
【0039】
パルスレーザ1から出力された励起光は、ミラー13で反射されるとともに、集光レンズ14(集光手段)によって集光され、第1導波管5aに設けられた微小開口5cを通過し、その第1導波管5aの薄膜試料20aに近接する端部(開口部)を通じて、薄膜試料20aの測定部位(例えば,直径5〜10μm程度のスポット)に対して照射される。このように、ミラー13及び集光レンズ14が、パルスレーザ1から出力された励起光を集光して薄膜試料20aへ導く。これにより、薄膜試料20aにおける微小な励起光照射領域(測定部位)において、励起キャリアが発生する。
【0040】
上述したように酸化物などの晶質半導体薄膜のキャリア移動度は、ライフタイム値やキャリアピーク値(=反射率のピーク値)と相関関係があるため、ライフタイム値やピーク値を算出することによって、酸化物半導体薄膜のキャリア移動度を簡便に評価・判定できる。
【0041】
図4(特許文献2に記載の
図2と同じ)はマイクロ波光導電減衰法における過剰のキャリア密度の変化の様子を示した図である(グラフはキャリア密度を表す)。酸化物半導体薄膜試料に照射した励起光によって、酸化物半導体薄膜に吸収されて過剰キャリア(励起キャリア)を生成し、過剰キャリア密度が増加すると共にその消失速度が増え、キャリア注入速度と消失速度が等しくなったときに過剰キャリア密度は一定のピーク値となる。そして該過剰キャリアの生成と消滅の速度が等しくなると飽和して一定の値を維持するようになるが、励起光の照射を停止すると、過剰キャリアの再結合、消滅により、過剰キャリアが減少し、最終的には励起光照射前の値に戻ることが知られている。
【0042】
本発明では、上記測定部位として、ターゲット組立体の隙間に対応する薄膜の継ぎ目部分Aを含む領域を用いる。ターゲット組立体の隙間は、製造時におけるターゲット部材間の隙間に対応するものであり、おおむね、0.3〜1.0mmの幅を有している。上記隙間に対応する薄膜の継ぎ目部分Aの幅は、おおむね、3.5〜18.0mmであり、当該継ぎ目部分Aを含むように、おおむね、50.0mm×20.0mm〜100.0mm×60.0mmの領域を測定部位として用いることが推奨される。
【0043】
また、薄膜の継ぎ目部分Aのライフタイム値τ1を測定する時期は、特許文献2と同様、基板上への半導体薄膜の形成直後に行っても良いし、上記半導体薄膜を例えば酸素や水蒸気による熱処理後に行っても良いし、或いは、パッシベーション絶縁膜の形成前に行ってもよく、いろいろな工程後に測定することが可能である。但し、プロセスの影響を除いたターゲット自体の評価、および評価までの時間短縮などを考慮すると、半導体薄膜の形成直後にライフタイム値τ1を測定することが推奨される。さらに基材上の複数のポイントを測定することで酸化物半導体薄膜の面内分布を測定することもできる。
【0044】
(第4の工程)
次に、薄膜の継ぎ目部分Aのライフタイム値τ1に基づいてターゲット組立体の品質を評価する。継ぎ目部分Aのライフタイム値τ1が大きい程、上記ターゲット組立体を用いて得られる薄膜を備えたTFTの移動度も高くなる傾向にあるため、例えば、τ1が、所定の閾値(ターゲット材料に応じて変わる)を超えているかどうかにより、個々のターゲットの品質の良否を判定することができる。
【0045】
(2)第2の実施形態について
上記の第1の実施形態では、薄膜の継ぎ目部分Aのライフタイム値τ1に基づいてターゲット組立体の品質を評価する方法について説明したが、第2の実施形態に記載のように、薄膜の継ぎ目部分Aのライフタイム値τ1と、薄膜の非継ぎ目部分Bのライフタイム値τ2との比(τ1/τ2)に基づいてターゲット組立体の品質を評価することもできる。第2の実施形態において、第1〜第3の工程は第1の実施形態と同じであるため、以下では、第5工程および第6工程について説明する。
【0046】
(第5の工程)
ここでは、ターゲット組立体の非隙間部に対応する薄膜の非継ぎ目部分Bを含む領域を測定領域として用い、第3の工程と同様にして、薄膜の非継ぎ目部分Bのライフタイム値τ2を算出する。
【0047】
ここで、ターゲット組立体の非隙間部とは、ターゲット組立体の隙間T以外の領域を意味し、上記非隙間部に対応する薄膜の非継ぎ目部分Bを含む領域とは、具体的には、継ぎ目を除く部分のほぼ中央であり、おおむね継ぎ目部分から20mmの部分を意味する。
【0048】
また、薄膜の非継ぎ目部分Bのライフタイム値τ2を測定する時期は、前述したライフタイム値τ1の場合と同様であり、基板上への半導体薄膜の形成直後に行っても良いし、上記半導体薄膜を例えば酸素や水蒸気による熱処理後に行っても良いし、或いは、パッシベーション絶縁膜の形成前に行ってもよく、いろいろな工程後に測定することが可能である。但し、プロセスの影響を除いたターゲット自体の評価、および評価までの時間短縮などを考慮すると、半導体薄膜の形成直後にライフタイム値τ2を測定することが推奨される。
【0049】
(第6の工程)
上記第3の工程によって算出された、薄膜の継ぎ目部分Aのライフタイム値τ1と、上記第5の工程によって算出された、薄膜の非継ぎ目部分Bのライフタイム値τ2との比(τ1
/τ2)に基づいてターゲット組立体の品質を評価する。例えば、この比(τ1
/τ2)が1になるということは、ターゲットの隙間部の悪影響が全くないことを意味し、この比が1よりもかなり小さい値になるということは、ターゲットの隙間部の悪影響が大きいことを意味する。上記比の使用により、ターゲット材料による影響は排除されるため、この比の値が所定の閾値(ターゲット材料に依らない)を超えるかどうかで、ターゲット組立体の品質の良否を判断することができる。
【0050】
本発明の方法はターゲット組立体の品質を評価する方法に関するものであるが、上記ターゲット組立体によって形成された薄膜(ターゲット部材間の隙間に対応して、薄膜中に継ぎ目を有する薄膜)の品質評価方法としても有用である。よって、本発明の方法を、半導体薄膜を基板上に形成した後の製造工程のいずれかの工程に適用することによって、ターゲット組立体によって形成される半導体薄膜の特性を評価し、その結果をフィードバックして製造条件を調整して膜質の評価を行うことができるため、半導体薄膜の品質評価を適切に行うことができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0052】
まず、以下のようにしてターゲット組立体1〜6を製造し、製造したターゲットを用いて形成した酸化物半導体薄膜のライフタイム値を測定した。
【0053】
(ターゲット組立体1の製造)
ターゲット組立体1(処理無し)は、以下のようにして製造した。まず、バッキングプレートの上にIn基材料のボンディング材を充填し、融点以上に加熱して溶融状態とした。次いで、スペーサーとともに、複数の酸化物ターゲット部材を隙間をあけて並べて配置し、冷却した。ターゲット組成はInGaZnO
4(In:Ga:Zn=1:1:1、原子%比)とした。ターゲット部材間の隙間は、0.8mmとした。裏打ち部材は使用しなかった。
【0054】
(ターゲット組立体2の製造)
ターゲット部材間の隙間を0mm(隙間なし)とした点以外は、ターゲット組立体1と同様にしてターゲット組立体2を製造した。
【0055】
(ターゲット組立体3の製造)
頂上部の角を1mm程度面取りしたターゲット部材を用いた以外は、ターゲット組立体1と同様にしてターゲット組立体2を製造した。
【0056】
(ターゲット組立体4の製造)
ターゲット組立体4は、以下のようにして製造した。まず、バッキングプレートの上にIn基材料のボンディング材を充填し、融点以上に加熱して溶融状態とした。次いで、スペーサーと純Cuからなる裏打ち部材を配置した後、その上に複数の酸化物ターゲット部材を隙間をあけて並べて配置し、冷却した。ターゲット組成はInGaZnO
4(In:Ga:Zn=1:1:1、原子%比)とした。裏打ち部材は、ターゲット部材間の隙間に相当する位置に配置した。ターゲット部材間の隙間は、0.5mmとした。
【0057】
(ターゲット組立体5の製造)
カプトンからなる裏打ち部材を用い、ターゲット部材間の隙間は、0.6mmとした以外は、ターゲット組立体4と同様にしてターゲット組立体5を製造した。
【0058】
(ターゲット組立体6の製造)
Niからなる裏打ち部材を用い、ターゲット部材間の隙間を0.3mmとした以外は、ターゲット組立体4と同様にしてターゲット組立体6を製造した。
【0059】
(成膜およびライフタイム値の測定)
ガラス基板(コーニング社製EAGLEXG、直径100mm×厚さ0.7mm)に、表1に記載のターゲット組立体1〜6を用いて、下記のスパッタリング条件で酸化物半導体薄膜[IGZO(In:Ga:Zn:O(原子%比)=1:1:1:4))](厚さ:200nm)をスパッタリング法で成膜した。
基板温度:室温
酸素分圧:O
2/(Ar+O
2)=4%
【0060】
上記のようにして酸化物半導体薄膜を成膜後、膜質を向上させるために、水蒸気雰囲気(H
2O/O
2=50%)にて350℃で1時間のプレアニール処理を行なった。プレアニール処理後、下記条件で
図3に示す構成を有する装置(株式会社コベルコ科研製:LAT−1820SP)を用いてマイクロ波光導電減衰法によって反射率の変化を測定し、薄膜の継ぎ目部分のライフタイム値τ1、および薄膜の非継ぎ目部分のライフタイム値τ2を測定した。
レーザ波長:349nm(紫外光)
パルス幅:15ns
パルスエネルギー:1μJ/pulse
ビーム径:1.5mmφ
1測定におけるパルス数=64ショット
【0061】
具体的には、薄膜の継ぎ目部分および薄膜の非継ぎ目部分を含むライン(基板の最左端から100mm近傍位置まで)についてライフタイム値を測定し、薄膜の継ぎ目部分X
1のライフタイム値τ1、および薄膜の非継ぎ目部分X
2(継ぎ目部分X
1から十分離れた点)のライフタイム値τ2を測定し、その比(τ1/τ2)を算出した。ここでは、各ライフタイム値は、プレアニール直後に測定した。
【0062】
これらの結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
参考のため、
図5および
図6に、ターゲット組立体1およびターゲット組立体2を用いたときの、基板の最左端から所定置までにおけるライフタイム値を測定したときの結果を示す。図中、X
1は薄膜の継ぎ目部分であり、X
2は薄膜の非継ぎ目部分である。なお、
図5(ターゲット組立体1を使用)において、X
1=43mmであり、X
2=77mmである。
図6(ターゲット組立体2を使用)において、X
1=41mmであり、X
2=58mmである。参考のため、上記以外のターゲット組立体の各値は以下のとおりである。
ターゲット組立体3:X
1=27,X
2=6
ターゲット組立体4:X
1=33,X
2=6
ターゲット組立体5:X
1=31,X
2=8
ターゲット組立体6:X
1=40,X
2=4
【0065】
これらの結果から、τ1あるいはτ1/τ2の値が小さいターゲット組立体1の品質は良くなく、τ1あるいはτ1/τ2の値が大きいターゲット組立体2〜6、とりわけターゲット組立体2、6の品質が良いことが分かる。
【0066】
(TFT特性の測定)
次に、上記の評価が妥当であるかどうかを検証するために、前述したターゲット組立体1、2、および6を用い、以下のようにして
図7に記載のTFTを作製したときの、トランジスタ特性、移動度およびSS値を測定した。
【0067】
まず、ガラス基板(コーニング社製イーグルXG、直径100mm×厚さ0.7mm)上に、ゲート電極としてMo薄膜を100nm、およびゲート絶縁膜SiO
2(200nm)を順次成膜した。ゲート電極は純Moのスパッタリングターゲットを使用し、DCスパッタ法により、成膜温度:室温、成膜パワー:300W、キャリアガス:Ar、ガス圧:2mTorrにて成膜した。また、ゲート絶縁膜はプラズマCVD法を用い、キャリアガス:SiH
4とN
2Oの混合ガス、成膜パワー:100W、成膜温度:300℃にて成膜した。
【0068】
次に、前述した製造例と同様にして酸化物薄膜(厚さ40nm)を成膜した。
【0069】
上記のようにして酸化物半導体薄膜を成膜した後、フォトリソグラフィーおよびウエットエッチングによりパターニングを行った。ウエットエッチャント液としては、関東化学製「ITO−07N」を使用した。
【0070】
酸化物半導体薄膜をパターニングした後、膜質を向上させるためにプレアニール処理を行った。プレアニールは、水蒸気雰囲気にて、350℃で1時間行った。更に後述するソース・ドレイン電極エッチング時の酸化物半導体薄膜保護のためのエッチストップ層(100nm)をプラズマCVD法より成膜し、ドライエッチングによりパターニングを行った。プラズマCVD法の条件はSiO
2膜の形成にはN
2OおよびSiH
4の混合ガスを用いた。いずれも成膜パワーを100W、成膜温度を230℃としたであり、ドライエッチングの条件はAr、CHF
3の混合ガスを用い、圧力6Pa,パワー150Wである。
【0071】
次に、純Moを使用し、ソース・ドレイン電極を形成した。具体的には、前述したゲート電極と同様のDCスパッタリング法により純Mo膜を成膜(膜厚100nm)した後、フォトリソグラフィーおよびウエットエッチングによりパターニングを行った。ウエットエッチャント液は「AC101」であり、エッチャント原液1に対し、0.75の割合の純水で希釈した。液温は室温でエッチングを行った。TFTのチャネル長を10μm、チャネル幅を25μmとした。パターニングを確実に行い、短絡を防ぐため、ソース・ドレイン電極の膜厚に対して20%に相当する時間、追加で上記のウエットエッチャント液(AC101)に浸漬(オーバーエッチング)した。
【0072】
このようにしてソース・ドレイン電極を形成した後、酸化物半導体を保護するための保護膜を形成した。保護膜としては、SiO
2(膜厚200nm)とSiN(膜厚150nm)の積層膜(合計膜厚250nm)を用いた。上記SiO
2およびSiNの形成は、サムコ製「PD−220NL」を用い、プラズマCVD法を用いて行った。本実施例ではN
2Oガスによってプラズマ処理を行った後、SiO
2、およびSiN膜を順次形成した。SiO
2膜の形成にはN
2OおよびSiH
4の混合ガスを用い、SiN膜の形成にはSiH
4、N
2、NH
3の混合ガスを用いた。いずれも成膜パワーを100W、成膜温度を150℃とした。
【0073】
次にフォトリソグラフィー、およびドライエッチングにより、保護膜にトランジスタ特性評価用プロービングのためのコンタクトホールを形成し、TFTを作製した。
【0074】
このようにして得られた各TFTについて、以下のようにして、トランジスタ特性(ドレイン電流−ゲート電圧特性、Id−Vg特性)、SS値、および移動度(電界効果移動度μ
FE)を求めた。なお、トランジスタ特性の測定は、ターゲット組立体1、2について行った。
【0075】
(1)トランジスタ特性の測定
トランジスタ特性(Id−Vg特性)は、National Instruments社製「4156C」の半導体パラメータアナライザーを使用した。詳細な測定条件は以下のとおりである。
ソース電圧:0V
ドレイン電圧:10V
ゲート電圧:−30V〜30V(測定間隔:1V)
【0076】
(2)SS値
ドレイン電流を一桁増加させるのに必要なゲート電圧の最小値をSS値とした。
【0077】
(3)移動度μ
FE
電界効果移動度μ
FEは、TFT特性からV
g>V
d−V
thである線形領域にて導出した。線形領域ではV
g、V
dをそれぞれゲート電圧、ドレイン電圧、V
thをドレイン電流が1nAを超えたときの電圧、I
dをドレイン電流、L、WをそれぞれTFT素子のチャネル長、チャネル幅、C
iをゲート絶縁膜の静電容量、μ
FEを電界効果移動度とした。μ
FEは以下の式から導出される。本実施例では、線形領域を満たすゲート電圧付近におけるドレイン電流−ゲート電圧特性(I
d−V
g特性)の傾きから電界効果移動度μ
FEを導出した。
【0078】
【数1】
【0079】
これらの結果を表2、並びに
図8および
図9に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
τ1およびτ1/τ2の値が小さかったターゲット組立体1を用いて作製したTFTは、
図8に示すようにトランジスタ特性に劣り、表2に示すように移動度も低く、且つ、SS値も高くなった。
【0082】
これに対し、τ1およびτ1/τ2の値が大きかった分割スパッタリングターゲット2、6を用いて作製したTFTは、
図9に示すように良好なトランジスタ特性を示し、表2に示すように移動度も高く、且つ、SS値も低かった。
【0083】
以上の結果より、マイクロ波光導電減衰法によって薄膜のライフタイム値を測定することによって、ターゲット組立体の品質を簡便に精度良く、判定・評価できることがわかった。