(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759519
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】脊髄刺激のための集合リード
(51)【国際特許分類】
A61N 1/34 20060101AFI20150716BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20150716BHJP
A61N 1/05 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
A61N1/34
A61N1/36
A61N1/05
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-166689(P2013-166689)
(22)【出願日】2013年8月9日
(62)【分割の表示】特願2009-540485(P2009-540485)の分割
【原出願日】2007年12月6日
(65)【公開番号】特開2013-240710(P2013-240710A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2013年9月9日
(31)【優先権主張番号】60/873,464
(32)【優先日】2006年12月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507075624
【氏名又は名称】スパイナル・モデュレーション・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SPINAL MODULATION INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】ミル・エイ・イムラン
【審査官】
佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2006/0052856(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0078633(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0167525(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/34
A61N 1/05
A61N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経組織を刺激するシステムであって、
システムは長い本体部および移植可能なパルス発生器を有し、
長い本体部は、その上に配設された少なくとも1つの第1の電極と、少なくとも1つの第1の電極から長手方向の距離を隔てて長手方向に配列された少なくとも1つの第2の電極とを有し、
長手方向の距離により、少なくとも1つの第1の電極が、選択的刺激を与えるために、後根神経節の上、近傍、または周囲に配置され、少なくとも1つの第2の電極が、前記後根神経節に付随する脊髄神経根の外側に配置され、
パルス発生器は、リードに接続可能であり、後根神経節を選択的に刺激するように少なくとも1つの第1の電極に刺激エネルギを与え、脊髄神経根の外側の神経の一部を刺激するように少なくとも1つの第2の電極に刺激エネルギを与えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、
長手方向の距離により、少なくとも1つの第1の電極が、選択的刺激を与えるために、後根神経節の上、近傍、または周囲に配置され、少なくとも1つの第2の電極が、前記後根神経節に付随する後根および前根の合流点を超えて末梢神経に沿って配置されることを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のシステムであって、
長手方向の距離により、少なくとも1つの第1の電極が、選択的刺激を与えるために、後根神経節の上、近傍、または周囲に配置され、少なくとも1つの第2の電極が、脊髄に沿って配置されることを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載のシステムであって、
少なくとも1つの第1の電極は、複数の第1の電極を含み、
リードに接続可能な移植可能なパルス発生器は、後根神経節に対し選択的に刺激を与えることにより、最も良好な効果が得られるように選択された複数の第1の電極に刺激エネルギを与えることを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載のシステムであって、
長手方向の距離は、異なる電極に刺激エネルギを与えることにより調整可能であることを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1に記載のシステムであって、
長手方向の距離は、少なくとも幾つかの電極を互いに対して物理的に移動させることにより調整可能であることを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載のシステムであって、
前記電極は、個別に刺激エネルギを与えることができることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1に記載のシステムであって、
長い本体部は、硬膜上腔を貫通して移動できるように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1に記載のシステムであって、
長い本体部は、後根神経節に向かって水平方向に移動できるように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1に記載のシステムであって、
長い本体部は、孔を貫通して移動できるように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項1に記載のシステムであって、
長手方向の距離により、少なくとも1つの第1の電極が、選択的刺激を与えるために、後根神経節の上、近傍、または周囲に配置され、少なくとも1つの第2の電極が、別の後根神経節の上、近傍、または周囲に配置されることを特徴とするシステム。
【請求項12】
請求項1に記載のシステムであって、
長い本体部は、その上に配設された少なくとも1つの第1の電極を有する長い管状本体部と、少なくとも1つの第2の電極が設けられた内側構造体とを有し、
内側構造体は、少なくとも1つの第1の電極と少なくとも1つの第2の電極の間の長手方向の距離を調整するために、長い管状本体部内を移動することができることを特徴とするシステム。
【請求項13】
請求項1に記載のシステムであって、
長い本体部は、その上に配設された少なくとも1つの第2の電極を有する長い管状本体部と、少なくとも1つの第1の電極が設けられた内側構造体とを有し、
内側構造体は、少なくとも1つの第1の電極と少なくとも1つの第2の電極の間の長手方向の距離を調整するために、長い管状本体部内を移動することができることを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2006年12月6日付けで出願された米国仮特許出願第60/873,464号(弁護士整理番号No.10088-706.101)を基礎とする優先権を主張するものであり、すべての目的において参考にここに一体に統合される。
【0002】
(連邦政府支援の研究開発でなされた発明に対する権利に関する陳述)
適用なし。
【0003】
(コンパクトディスクで提出する「配列表」、表、またはコンピュータプログラムリストの付録)
適用なし。
【背景技術】
【0004】
1960年代から、疼痛管理(軽減)を目的として脊髄に特定の電気エネルギを加えることが積極的に行われてきた。脊髄神経組織に電場をかけると、刺激された神経組織に関連する体の領域から伝達されるある種の疼痛を効率的に麻痺させる(マスクされる)ことが知られている。こうした麻痺は、痛みを感じる体の領域における無感覚または疼き、錯感覚として知られている。電気エネルギの付加はゲートコントロール理論に基づいている。メルザックおよびウォールにより発表されたこの理論によれば、触覚、冷覚、振動覚などの太い神経線維の情報(興奮)を受けると、痛みを与える細い神経線維の情報(興奮)を遮断または閉じることが提唱されている。したがって、その結果として痛みが緩和されることが期待される。ゲートコントロール理論に基づいて脊髄の太い神経線維に電気刺激を与えると、その脊髄部分における細い神経線維の情報が抑制または排除され、その脊髄部分より下方の他のすべての情報が同様に抑制または排除される。こうした脊髄部分への電気刺激は、脊髄後索刺激として知られているが、本願においては脊髄電気刺激法(SCS:Spinal Cord Stimulation)またはSCSという。
【0005】
図1(a)および
図1(b)は、従来式のSCSシステム10の構成を示すものである。従来式のSCSシステムは、移植可能な電源または移植可能なパルス発生器(IPG:Implantable Pulse Generator)12と、移植可能なリード14とを有する。こうしたIPG12は、ペースメーカと同様の大きさと重量を有し、通常、患者Pの臀部に移植される。蛍光透視法を用いて、
図1(b)に示すように、脊柱の硬膜上腔Eにリード14を移植して、硬膜硬膜Sに対向するように配置する。リード14は、硬膜外ニードル(たとえば経皮リード)を用いて皮膚を通して移植されるか、(パドルリードについて)微小椎弓切除術による直接的かつ外科手術的に移植される。
【0006】
図2は、従来式のパドルリード16および経皮リード18の具体例を示す。パドルリード16は、通常、表面上に1つまたはそれ以上に電極20を有する平板状のシリコーンゴムの形態を有する。パドルリード16の具体的な寸法を
図3に示す。一方、経皮リード18は、その周囲に延びる1つまたはそれ以上に電極20を有するチューブまたはロッド状の形態を有する。経皮リード18の具体的な寸法を
図4に示す。
【0007】
経皮リード18の移植手術は、通常、(背および足の疼痛管理に対して)腰部領域を切開すること、または(腕の疼痛管理に対して)上背部および頸部を切開することを含む。経皮ニードルを切開口から硬膜上腔内に配置し、電気刺激を与えたときに、患者の痛みを感じる領域に心地よい疼き(錯感覚)が生じる脊髄領域に達するまで脊髄の上方に沿って挿入する。この領域に配置するために、患者が刺激範囲に対してフィードバックする際に、リードを移動させつつ、オンオフを繰り返す。患者がこの操作に関与して、脊髄に対する適正な位置をオペレータに指示するため、局所麻酔を用いてこの移植手術を行う。
【0008】
パドルリード16の移植手術は、通常、リードを移植するための微小椎弓切除術により行われる。切開口は、刺激すべき脊髄領域の少し下方または少し上方に形成される。硬膜上腔は椎孔を介して直接的に挿入され、パドルリード16は脊髄を刺激するためにその領域の上方に配置される。刺激のための標的領域は、経皮リード18による脊柱刺激の試行錯誤の際に、この手術の前に特定される。
【0009】
こうしたSCSシステムは、いくらかの患者に対して効果的に疼痛を緩和するが、数多くの問題点を有する。最初に、
図5に示すように、リード14は、電極20が脊柱の広範部位および関連する脊髄神経組織を刺激するように、脊柱硬膜D上に配置される。脊髄は連続体であり、脊髄の3つの脊髄レベルを示す。図示のため、脊髄レベルは、後根DRと前根VRとが脊髄Sに結合する部分を示す脊髄の複数の部分領域である。末梢神経Nは、後根DRおよび後根神経節DRGと、前根VRとに分かれ、これらは脊髄Sに延びている。上行経路17がレベル2とレベル1の間に図示され、下行経路19がレベル2とレベル3の間に図示されている。脊髄レベルは、脊髄の複数の脊柱本体部を記述する足に通常用いられる脊柱レベルに対応する。簡略化のため、各脊髄レベルは、一方側のみの神経系を示すが、正常な解剖学的構成は、リードに直接的に隣接する脊髄の側で図示されたものと同様の神経系を有する。
【0010】
脊髄運動神経組織、すなわち神経前根からの神経組織は、筋肉/運動制御信号を伝達する。脊髄感覚神経組織、すなわち神経後根からの神経組織は、疼痛信号を伝達する。対応する神経前根および神経後根は「個別に」脊髄から延びるが、神経前根および神経後根の神経組織はその直後に合体またはより合わさるものである。したがって、リード14により電気刺激を行うと、脊髄感覚神経組織に加えて脊髄運動神経組織に不要な刺激を与える場合がしばしばある。
【0011】
これらの電極は複数のレベルに拡がるので、形成された刺激エネルギ15は、2以上のレベルの神経組織に与えられ、これらを刺激する。さらに、これら、または他の従来式の非限定的刺激システムは、脊髄や意図した刺激標的以外の他の中立的な組織にも刺激エネルギを与える。本願明細書でいう「非限定的刺激」とは、刺激エネルギが広く差別することなく、神経および脊髄を含むすべての脊髄レベルに与えられることを意味するものである。ただ1つのレベルを刺激するように硬膜外電極の大きさを小さくしても、与えられたエネルギの範囲内にあるすべてのもの(すべての神経線維および他の組織)に無差別に刺激エネルギを与える。さらに硬膜外電極は、より大きいとき、脳脊髄液(Cerebral Spinal Fluid:CSF)の流れを変え、その結果として、局所的な神経興奮状態を変える場合がある。
【0012】
従来式の神経刺激システムが直面する別の課題は、硬膜外電極は、さまざまな組織および脳脊髄液に対して電気エネルギを与える必要がある(すなわちCSF量が脊髄に沿って脊髄軟膜の厚みが変化するときに同様に変化する)ので、所望される神経刺激を得るために必要な刺激エネルギ量を正確に制御することが困難である。したがって、十分な刺激エネルギが所望する刺激領域に到達するように、エネルギ量を増大させることができるものの、刺激エネルギが増大するほど、周辺の組織、構造体または神経経路に対して有害なダメージまたは刺激を与えるおそれが高くなる。
【0013】
そこで、刺激エネルギをより正確に、かつ有効に付加することができる改善された刺激システムまたは刺激方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、脊柱に沿った脊髄レベルなどのさまざまな標的位置にある脊髄組織を同時に刺激するための装置、システムおよび方法を提供する。上述のように、脊髄は連続体であり、数多くの脊髄レベルを有するものと考えられる。脊髄レベルは、たとえば後根と前根とが脊髄に結合する脊髄の複数の部分領域と考えられる。脊髄レベルは、脊椎の脊椎部分に対応するものであり、脊椎の脊椎本体を記述するために広く用いられる。
【0015】
広範な領域を包括的に刺激する従来式のSCSとは対照的に、標的部位は個別に刺激される。これは、疼痛症状に対するより有効な治療を提供し、副作用を低減する。本発明は、さまざまな脊髄レベルにある標的を絞って刺激するための装置、システムおよび方法を提供する。さらに、いくつかの実施形態は、各標的レベル内でのさらなる選択性を提供する。
【0016】
好適な実施形態に係る装置、システムおよび方法は、後根DR、とりわけ後根神経節DRGなどの特定の神経組織におけるさまざまな脊髄レベルを刺激するものである。ここで開示する具体例は、さまざまな脊髄レベルにある後根神経節に対する特定の刺激を図示するが、実施形態が限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様によれば、複数の後根神経節を刺激する方法が提供される。いくつかの実施形態では、この方法は、長手方向軸を有し、これに沿って配置された少なくとも2つの電極を含むリードを硬膜上腔内に配置するステップと、選択的に刺激を与えることができるように、少なくとも2つの電極のそれぞれが複数の後根神経節のうちの1つの距離の範囲内に配置されるようにリードを位置合わせするステップと、複数の後根神経節のうちの少なくとも1つを選択的に刺激するようにリードに電気的なエネルギを供給するステップとを有する。いくつかの事例において、電気的なエネルギを供給するステップは、互いに隣接しない少なくとも2つの後根神経節に選択的に刺激を与えるようにリードに電気的なエネルギを供給するステップを含む。他の事例では、リードは、互いに隣接する少なくとも2つの後根神経節に選択的に刺激を与える。さまざまな組み合わせの後根神経節を同時に、または任意のパターンで刺激してもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、少なくとも2つの電極は、長手方向軸に沿って配置された一連の電極を含む。こうした実施形態では、リードに電気的なエネルギを供給するステップは、一連の電極のうちの個別の電極であって、上記距離の範囲内に配置され、関連する後根神経節を選択的に刺激することができる個別の電極を選択的に電気的なエネルギを供給するステップを含む。個別の電極間の距離のいくつかが不規則であることが理解される。
【0019】
本発明の別の態様によれば、体の組織内の神経を刺激するための伸縮自在のリードが提供される。いくつかの実施形態では、伸縮自在のリードは、近位端、遠位端、およびこれらの間のルーメンを有し、表面上に少なくとも1つの電極を有する長い管状本体部を有する。またリードは、近位端、遠位端、および表面上に配置された少なくとも1つの電極を有する内側構造体を有し、内側構造体は、その遠位端が長い管状本体部の遠位端を越えて延びるようにルーメン内を移動することができ、内側構造体は、リードが組織内を押し進められるよう十分な強度を有するように、近位端および遠位端の間に延びる強化部材を有する。
【0020】
管状本体部および内側構造体はさまざまな断面形状を有していてもよい。いくつかの実施形態では、内側構造体は、ルーメン内での回転を防止するような形状を有していてもよい。さもなければ、管状本体部は、内側構造体の周りで回転することを防止するような形状を有していてもよい。いくつかの実施形態では、管状本体部は、楕円形または長方形のルーメンを有する
【0021】
通常、少なくとも1つの電極は、実質的に長手方向に位置合わせされている。しかし、いくつかの電極は、互いに隣接するか、または互いに対して長手方向にずれていてもよい。任意であるが、複数の電極は独立してエネルギ供給することが可能であってもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、内側構造体は、孔を貫通するような寸法を有する。通常、管状本体部は、同様に、こうした移動に適した寸法を有する。
【0023】
いくつかの実施形態では、伸縮自在のリードは、近位端、遠位端、およびこれらの間のルーメンを有し、表面上に少なくとも1つの電極を有する追加的な長い管状本体部をさらに備える。この追加的な長い管状本体部は、前記長い管状本体部のルーメン内を移動できるように構成され、内側構造体は、追加的な長い管状本体部のルーメン内を移動することができる。通常、少なくとも1つの電極は、実質的に長手方向に位置合わせされている。
【0024】
長い管状本体部および内側構造体は、長い管状本体部上の少なくとも1つの電極が第1の後根神経節に位置合わせされる一方、内側構造体上の少なくとも1つの電極が第2の後根神経節に位置合わせされるように移動可能であってもよい。あるいは、長い管状本体部および内側構造体は、長い管状本体部上の少なくとも1つの電極が後根神経節の第1部分に位置合わせされる一方、内側構造体上の少なくとも1つの電極が後根神経節の第2部分に位置合わせされるように移動可能であってもよい。
【0025】
本発明に係る別の態様によれば、少なくとも1つの後根神経節を刺激する方法が提供される。いくつかの実施形態によれば、この方法は、伸縮自在のリードを後根神経節に向かって移動させるステップを有し、前記リードは、近位端、遠位端、およびこれらの間のルーメンを有し、表面上に少なくとも1つの電極を有する長い管状本体部と、表面上に少なくとも1つの電極を有する内側構造体であって、その遠位端が長い管状本体部の遠位端を越えて延びるようにルーメン内を移動することができる内側構造体とを有する。この方法は、後根神経節に刺激を与えるために、少なくとも1つの電極を後根神経節の付近に配置するステップをさらに有する。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、伸縮自在のリードを移動させるステップは、少なくとも部分的に孔を貫通するようにリードを移動させるステップを含む。また伸縮自在のリードを移動させるステップは、脊柱の外部から水平方向に後根神経節に接近させるステップを含むものであってもよい。あるいは、伸縮自在のリードを移動させるステップは、伸縮自在のリードが硬膜上腔を貫通するように移動させるステップを含むものであってもよい。
【0027】
通常、電極を配置するステップは、後根神経節に隣接する内側構造体上の少なくとも1つの電極を後根神経節の付近に配置するために、内側構造体を伸張または収縮させるステップを含む。
【0028】
いくつかの実施形態によれば、電極を配置するステップは、内側構造体上に配置された少なくとも1つの電極を後根神経節に隣接して配置させ、管状本体部上に配置された少なくとも1つの電極を別の後根神経節に隣接して配置させるように、内側構造体を移動させるステップを含む。後根神経節および別の後根神経節は隣接する脊髄レベル上にあってもよい。しかし、後根神経節および別の後根神経節は隣接する脊髄レベル上になくてもよい。
【0029】
本発明の他の目的および利点は、添付図面を参照しつつ、以下の詳細な説明を読めば、より明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】(a)および(b)は先行技術を示すものである。
【
図6】本発明に係る装置の構成を示し、脊髄のさまざまなレベルを任意的に同時刺激するものである。
【
図7】各椎骨孔を長手方向に貫通して延びる装置を示す。
【
図9】(a)〜(c)は、さまざまな間隔で配置された電極を有し、電極間の間隔を調整できる集合リード装置の実施形態を示す。
【
図10】(a)は伸縮自在シャフトを有する集合リード装置の実施形態を示し、(b)は(a)の装置の断面図であり、(c)は(a)の装置の択一的な実施形態であって、ほぼ円形の断面を有する装置を示す。
【
図11】電極が後根神経節DRG付近に配置された伸縮自在シャフトを示す。
【
図12】複数の選択的に利用可能な電極を有する装置を用いて個別の後根神経節DRGを刺激する様子を示す。
【
図13】伸縮自在シャフトを有する装置を用いて個別の後根神経節DRGを刺激する様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図6は、さまざまなレベル(階層、この具体例ではレベル1,2,3)にある脊髄Sを随意的に同時刺激することができるように構成された本発明に係る実施形態の装置200の構成を示すものである。装置200は、脊柱の正中線Mから所定の水平距離を隔てた位置の脊柱の硬膜上腔内に配置され、その正中線により、装置200が後根神経節DRG1,DRG2,DRG3に対して位置合わせされる。すなわち、装置200の複数の部分が後根神経節DRG1,DRG2,DRG3に位置合わせされ、任意的には、陰影を付したところで、これらと接触してもよい。これらの位置合わせされた部分により、1つまたはそれ以上の後根神経節DRG1,DRG2,DRG3について、標的とした刺激または選択した刺激が与えられ、前根VR1,VR2,VR3などの周辺組織に対する刺激を低減または回避することができる。
【0032】
装置200は、患者の体内に移植される電源または図示された移植可能なパルス発生器(IPG)202に電気的に接続されている。
図6は、装置200の順行性配置構成を示すものであるが、後行性の手法も採用することができる。すなわち装置200は、IPG202への単一の延長部を有するか、または標的レベルの数より小さい任意の数の延長部を有する集合リードの形態で、複数のレベルにわたって延びる。
【0033】
図7は、骨構造、すなわち脊髄Sを包囲し保護する脊椎骨Vを含む脊髄Sの側面図である。図示された装置200は、脊椎骨Vの椎孔を貫通して長手方向に延びる。任意であるが、移動しないようにするため、図示のように骨ねじまたは骨鋲などの固定手段204を用いて、装置200を脊椎骨Vに固定してもよい。
図8は、
図7の装置200の断面図であり、装置200がDRGに対して配置されている様子を示す。装置200は、長手方向の配向を維持しつつ、DRGに隣接または近接したさまざまな位置に配置することができる。
【0034】
図9(a)〜
図9(c)は、本発明に係る実施形態による装置200を示し、この装置は、さまざまな間隔で配置された複数の電極210を有し、そして/または活性電極間の間隔を調節することができる。
図9(a)は、表面上に少なくとも2つの電極210を含む長い本体部201を有する。長い本体部201は長手方向軸203を有し、この実施形態において、少なくとも2つの電極210が長手方向軸203に沿って配置されている。少なくとも2つの電極210は、(平均的な患者の母集団または特定の生体構造に基づいて)脊髄レベル間の距離または脊柱に沿ったDRG間の長手方向の距離に応じた長手方向軸203に沿った一定間隔を有する。距離Xおよび距離Yは、少なくとも2つの電極210の間の距離を示す。距離Xおよび距離Yは、同一でもよく、互いに異なっていてもよい。電極210が標的とするDRGの範囲内に収まるように、この距離が選択され、各電極210は、DRGを選択的に刺激することができるような距離内に配置される。
【0035】
図9(b)は、表面上に複数の電極210を含む長い本体部201を有する装置200の実施形態を示すものである。2つまたはそれ以上の電極210は、離間距離を隔てた位置に集合して配置される。たとえば
図9(b)は、長い本体部201の遠位端付近に配設された電極210aの第1の集合体と、長い本体部201に沿って中間部に配設された電極210bの第2の集合体と、長い本体部201の近位端付近に配設された電極210cの第3の集合体とを有する。この具体例では、各集合体210a,210b,210cは、長手方向軸203に沿って3つずつの電極を有する。長い本体部201が解剖学的範囲に配置されるとき、DRG間の距離に解剖学的な変動が生じる場合がある。したがって、各集合体210a,210b,210c内の電極210のうち、(陰影を付したように)標的とするDRGに最も適確に位置合わせされた、または最も好適な治療的効果が得られた集合体内の電極210を用いてもよい。集合体内の残りの2つの電極には刺激エネルギが供給されない。いくつかの実施形態において、各集合体内の2つ以上の電極210を用いると、より好ましい結果が得られる場合には、2つ以上の電極を用いてもよい。刺激電極間の距離Xおよび距離Yを変えて、個々の患者に対する異なるDRG間隔に対応することができる。さらに装置200が長時間において変位した(すれた)とき、または最適な効能が得られたときに比して効果が薄れたとき、長い本体部201の位置を変えずに、電気エネルギを供給する電極210を変更することができる。こうして、距離Xおよび距離Yを調整することにより、電極をDRGに位置合わせし直すことができる。
【0036】
図9(c)は、装置200の実施形態を示し、この装置200は、長手方向軸203に沿って表面上に配置された複数の電極を含む長い本体部201を有する。この実施形態では、複数の電極210が装置200に沿って実質的に連続的に配置されている。これらの電極は(陰影を付したように)選択的に用いられ、距離Xおよび距離Yを調節して、個々の患者に対する異なるDRG間隔に対応することができる。任意の数の電極を任意の構成で設けてもよい。また任意の数の間隔を設けて、距離X、距離Yおよび距離Zを形成することができる。
【0037】
図10(a)〜
図10(c)は、集合リード装置200の実施形態を示し、この装置は、複数の電極の位置を調節することができる伸縮自在の(telescoping:入れ子式の)シャフト220を有する。この実施形態において、伸縮自在シャフト220は、第1の構造体または管状本体部220aと、第2の構造体または管状本体部220bとを有する。第1の管状本体部220aおよび第2の管状本体部220bのそれぞれは、近位端、遠位端、およびその間に延びる内腔部を有する。第1および第2の管状本体部220a,220bは、同様に、表面上であって、好適には遠位端付近に少なくとも1つの電極を有する。この実施形態において、第2の長い管状本体部の遠位端およびその上の電極210が第1の長い管状本体部220aの遠位端を越えて延びるように、第2の長い管状本体部は、第1の長い管状本体部220aの中を並進移動できる。また、シャフト220は、遠位端を含む内側構造体220cを有し、この内側構造体は、その遠位端が第2の長い管状本体部の遠位端を越えて延びるように、第2の長い管状本体部220bの中を並進移動することができる。内側構造体220cは、同様に、表面上に少なくとも1つの電極210を有し、この電極が第2の長い管状本体部220bの遠位端を越えて露出する。すなわち、3つの電極210は、同時に露出し、組織を刺激するために用いることができる。電極間の距離Xおよび距離Yは、管状本体部220a,220bおよび内側構造体220cを互いに対して伸張または収縮させることにより移動させることにより調節することができる。
【0038】
伸縮自在の構造体220a,220b,220cは、さまざまな材料を用いて、好適には可撓性を有するポリマを用いて形成することができる。いくつかの実施形態では、内側構造体220cは、装置200の孔内移動を押し進めるのに十分な強度を有するように、近位端および遠位端の間に延びる強化部材を有する。任意ではあるが、配置の際、構造体220a,220b,220cをスタイレットで支持してもよい。伸縮自在の構造体220a,220b,220cは、回転することを防止するようなさまざまな断面形状を有していてもよい。
図10(b)は、回転防止形状の具体例としての扁平形状を示すが、楕円形状や長方形、矩形、多角形などであってもよい。平坦な形状により、たとえば内側構造体220cが第2の長い管状本体部220b内で回転すること、または第2の長い管状本体部220bが第1の長い管状本体部220a内で回転することを防止することができる。このように回転を防止することにより、電極の長手方向の位置合わせに際して、複数の電極の回転方向の向きを互いに対して一定に維持することができる。択一的には、円形、正方形、矩形、多角形などの断面形状を厚くしてもよい(
図10(c))。円形形状である場合には、電極の回転方向の向きを調節することができる。
【0039】
電極210は、平坦な設計への固定や、エネルギの節約等がより容易である場合がある。上述のように、平坦に設計すると、電極210の送達および移植の際、電極の向きを決定しやすくなる場合がある。断面形状も同様に、装置が配置される解剖学上の位置に基づいて選択してもよい。
図11は、電極210が複数の脊髄レベル上のDRGに隣接するように硬膜上腔内に配置された伸縮自在シャフト220を図示する。これは、電極210がDRGに実質的に位置合わせされるように、伸縮自在の構造体220a,220b,220cを伸張または収縮させることにより実現することができる。電極210に電気的に接続された導電性ワイヤは、近位端から外部へパルス発生器(IPG)に延びている。
【0040】
上述の実施形態においては、他の生体組織に対する不要な刺激を与えることを極力抑え、または回避しつつ、後根、とりわけ後根神経節(DRG)を直接的に刺激する装置、システムおよび方法について説明してきた。いくつかの実施形態において、これは、単一の装置を用いて、脊柱の複数レベルにアクセスすることを可能にするものである。これは、脊柱の各レベルに個別のアクセス経路を設けるのではなく、単一の経路を形成するため、施術上の煩雑性、所用時間、および回復を低減するものである。また、これらの実施形態は、パルス発生器(IPG)に至る経路の数を低減するものである。本発明に係る装置、システムおよび方法を用いて、他の脊髄組織の部位または他の生体組織を刺激することができる。
【0041】
本発明に係る装置およびシステムを用いて、単一の後根神経節(DRG)を刺激することができる。たとえば
図12は、
図9(c)の装置と同様または類似の装置を図示するが、装置200は、表面上に実質的に連続的に長手方向軸203に沿って配置された複数の電極210を含む長い本体部201を有する。装置200は硬膜上腔を通して移動させ、装置200の少なくとも一部は、単一の後根神経節(DRG)に向かって水平方向に移動する。いくつかの事例においては、これは孔を介して移動させる。複数の電極210のうちの少なくとも1つは、後根神経節の上、近傍、または周囲に配置されるように装置200を配設する。そして、もっとも好ましい結果をもたらす電極210に刺激エネルギが供給されるように、複数の電極を(陰影を付したように)選択的に用いる。それ以外の電極には、低レベルの刺激エネルギが供給されるか、または刺激エネルギがまったく供給されない。
【0042】
また
図13は、
図10(a)の装置と同様または類似の伸縮自在シャフト220を有する装置200を図示する。同様に、伸縮自在シャフト220は、第1の構造体または長い管状本体部220aと、第2の構造体または長い管状本体部220bとを有する。管状本体部220a,220bのそれぞれは、近位端、遠位端、およびこれらの間に延びるルーメンを有する。また各管状本体部220a,220bは、その表面上に配置された少なくとも1つの電極を有する。この実施形態では、第2の長い管状本体部220bの遠位端およびその上にある電極210が第1の長い管状本体部220aの遠位端を越えて延びるように、第2の長い管状本体部220bは、第1の長い管状本体部220aのルーメン内を移動することができる。シャフト220は、遠位端を含む内側構造体220cを有し、内側構造体220cし、その遠位端が第2の長い管状本体部220bの遠位端を越えて延びるように、第2の長い管状本体部220bのルーメン内を移動することができる。内側構造体220cは、その表面上に少なくとも1つの電極210を有し、その電極210は第2の長い管状本体部220bの遠位端を越えて延びるものである。すなわち3つすべての電極210は、同時に露出し、組織を刺激するために用いることができる。
【0043】
図13は、脊柱の外部から水平方向に個別の後根神経節(DRG)に接近する装置200を図示する。少なくとも1つの電極20が後根神経節の上、近傍、または周囲に配置されるように、1つまたはそれ以上の第1の長い管状本体部220a、第2の長い管状本体部220b、および内側構造体220cが伸張または収縮することができる。そして、もっとも好ましい結果をもたらす電極210に刺激エネルギが供給されるように、複数の電極を(陰影を付したように)選択的に用いる。
【0044】
本発明について、明確に理解されるように図面および実施例を用いて、これまで詳細に説明してきたが、さまざまな変形例、変更例、および均等物を採用できることは明白であり、上記記載事項は本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
【符号の説明】
【0045】
10:脊髄電気刺激(SCS)システム、12,202:パルス発生器(IPG)、14:リード、16:パドルリード、17:上行経路、18:経皮リード、19:下行経路、20:電極、200:装置、201:長い本体部、203:長手方向軸、204:固定手段、210:電極、220:伸縮自在シャフト、220a:第1の構造体または管状本体部、220b:第2の構造体または管状本体部、220c:内側構造体、N:末梢神経、S:脊髄、E:硬膜上腔、D:脊柱硬膜、VR:前根、DR:後根、V:脊椎骨、DRG:後根神経節。