(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。
【0017】
本実施形態の滑止手袋は、
図1に示すように着用者の手を覆う繊維製の手袋本体1と、この手袋本体の掌領域の外面の少なくとも一部を被覆する被覆層2とを備える。
【0018】
<手袋本体>
手袋本体1は、繊維を手袋状に編成したものである。この手袋本体1は、着用者の手本体を覆うよう袋状に形成された本体部と、着用者の指を覆うよう上記本体部から延設された延設部と、着用者の手首を覆うよう本体部から延設部とは反対方向に延設された筒状の裾部とを有する。上記延設部は、着用者の第一指(親指)、第二指(人差指)、第三指(中指)、第四指(薬指)及び第五指(小指)をそれぞれ覆う第一指部、第二指部、第三指部、第四指部及び第五指部を有している。この第一指部から第五指部は、指先部が閉塞された筒状に形成されている。また、上記裾部は、着用者が手を挿入可能な開口部を有している。
【0019】
上記手袋本体1を構成する繊維としては、特に限定されず、綿、麻等の天然繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、高強力ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、超高強度ポリエチレン繊維等の合成繊維、ステンレスなどの金属繊維、グラスファイバーなどの無機繊維が挙げられる。これらの繊維は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。例えば2種を混合して用いる繊維としては、ステンレス繊維をナイロン等でカバーリングした複合糸を挙げることができる。上記手袋本体1は、上記繊維からなる糸を編成して形成されているが、上記繊維を用いる織布又は不織布を手袋の形に切り抜き、縫製して形成した手袋を用いてもよい。中でも、シームレス編機で編成された手袋が、縫い目がなく好ましい。
【0020】
上記手袋本体1の編みゲージ数としては、適度な強度と柔軟性とを有する手袋本体1が得られれば特に限定されず、例えば78〜778dtexのナイロンの捲縮加工糸、5〜40綿番手相当の綿糸等を用いてシームレス編機で手袋本体1を編成する場合、10ゲージ以上18ゲージ以下が望ましい。
【0021】
上記手袋本体1の平均厚みの上限としては、1mmが好ましく、0.8mmがより好ましい。一方、上記手袋本体1の平均厚みの下限としては、0.1mmが好ましく、0.2mmがより好ましい。手袋本体1の平均厚みが上記上限値を超える場合、当該滑止手袋の厚みが大きくなることで柔軟性が低下して、着用時における作業性が低下するおそれがある。逆に、手袋本体1の平均厚みが上記下限値未満の場合、手袋自体の強度に欠け、耐久性が低下するおそれがある。なお、上記手袋本体1の平均厚みは、JIS−L1086/L1096準拠の定圧厚さ測定器(例えば株式会社テクロックの「PG−15」)を用いて、被覆層2が被覆されていない領域の任意の5箇所を測定して得た値の平均値である。
【0022】
なお、上記手袋本体1には、例えば柔軟剤、撥水撥油剤、抗菌剤等を用いて各種処理が行われてもよく、また、紫外線吸収剤等を塗布又は含浸等させて、紫外線防止機能が付与されてもよい。また、繊維そのものにこのような機能を示す薬剤が練り込まれてもよい。
【0023】
<被覆層>
被覆層2は、上記手袋本体1の掌側及び手の甲側の領域の外面の少なくとも一部を被覆する。この被覆層2は、非発泡のゴム組成物又は樹脂組成物から構成され、掌領域の被覆層にプレス加工による凹凸形状(凸部3及び凹部4)が形成されている。
【0024】
被覆層2の被覆は、
図1に示すように掌側の掌領域全体にわたって行われる。ここで、被覆について
図2の当該滑止手袋1の模式的部分断面図を用いて説明する。
図2において、符号12が上記手袋本体1の繊維束の断面を示す。上記手袋本体1は、繊維束12の内外に隙間を有しており、この隙間に非発泡のゴム組成物又は樹脂組成物が浸入することにより、このゴム組成物又は樹脂組成物で構成される被覆層2が手袋本体1の掌領域の外面側に含浸され、被覆層2が手袋本体1に強固に固着する。なお、手袋本体1の内面側は手に直接接触するため、内面側から見て繊維束12が被覆層2に完全に覆われることなく露出していることが好ましい。
【0025】
被覆層2を構成する非発泡のゴム組成物又は樹脂組成物の主成分としては、特に制限されないが、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、天然ゴム、クロロプレンゴム、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン等を用いることができる。なお、「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。
【0026】
上記被覆層2は、熱加硫又は熱架橋されたゴムを主成分とするとよい。このように熱加硫又は熱架橋されたゴムを主成分とすることで、被覆層の製造が容易になる。具体的には、分子鎖同士の結び付きが弱い状態でプレス加工を行うことで容易に凹凸を形成した後、熱加硫又は熱架橋することで凹凸形状を固定し易くできる。
【0027】
上記ゴムとしては、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、天然ゴム又はクロロプレンゴムがよい。このようなゴムを用いることで、当該滑止手袋は、経済面、加工面、弾性、耐久性、耐候性等に優れる。上記ゴムの中でもアクリロニトリル−ブタジエン共重合体が好ましい。アクリロニトリル−ブタジエン共重合体を用いることで油性液状物を介して把持する際の耐摩耗性がさらに高く、また当該滑止手袋の寿命が長くなる。
【0028】
また、上記ゴム組成物又は樹脂組成物には、周知の架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、増粘剤、可塑剤、顔料等が添加されてもよい。
【0029】
爪領域5及び指股領域6を除く領域の被覆層の外面には、プレス加工による凹凸形状が形成される。一方、爪領域5及び指股領域6の被覆層2は、凹凸形状が形成されておらず平滑面を有する。また、上記手袋本体1の手の甲側には、
図3に示すように各指部の先端側の領域にのみ被覆層2が被覆されており、手の甲側に積層されている被覆層2は、凹凸形状が形成されておらず平滑面を有する。しかし、プレス加工時に手の甲側から押し付ける必要があることから、手の甲側に積層されている被覆層2にも凹凸形状が形成されてもよい。
【0030】
凸部3は、中指方向A(手袋本体1の裾部中心と中指中心とを結ぶ直線の方向)に並列して複数配置される。1つの凸部3は、
図4のように折れ曲がり部を有し、中指方向と直交する向きに凹部4を挟んで連続して形成される。上記折れ曲がり部はS字形状であり、S字の始点(S字の文字の書き始め位置に相当する位置)は隣接するS字の終点(S字の文字の書き終わり位置に相当する位置)と連結する。また、このS字は、平面視で略六角形の外形(
図4の太い破線部分)を有する。なお、凸部3は、
図1に示すように、一部(爪領域5及び指股領域6等)を除いて手袋本体1の掌領域の全体にわたって配置される。
【0031】
上記略六角形内の凸部3以外の部分は、凹部4の一部を形成する。この凹部4の一部はS字の始点近傍と終点近傍とに位置し、S字を構成する凸部3に囲まれ、略六角形の外周からの切り込み形状を有する(以下、「切り込み凹部4a」ともいう)。また、中指方向に並ぶ凸部3の間の部分が、複数の凹部4の本体部分(以下、「長鎖状凹部4b」ともいう)を形成する。上記切り込み凹部4aは、この長鎖状凹部4bに連結し、全体で凹部4を構成する。
【0032】
この凹部4は指を折り曲げたときに生じる皺のイニシエーションとなり易く、このように凹部4を設けることで手袋の柔らかさを向上させることができる。具体的には、上記長鎖状凹部4bの向きは、第一指(親指)を除く4本の指を折り曲げた際、掌が折れ曲がって生じる皺の向き(以下、「指を曲げ易くする向き」ともいう)と略一致する。このため、上記長鎖状凹部4bが折れ目となって曲がる際、掌の動きに追従し易くなり、より高い柔軟性が発揮される。
【0033】
上記凹凸形状における凸部3の断面形状(1つの凸部3を幅方向に切断した面の形状)としては、特に制限されないが、略矩形状、凸部3の手袋本体側の幅より表面側の幅が狭い略台形状等が挙げられる。
【0034】
また、用途に応じて他の形状を選択することもできる。例えば油作業では油が凸部3と把持物との間に溜まらないように上記凹凸形状における凸部3の中央部分が、他の部分より盛り上がっているとよい。具体的には、凸部3の上底面の中央部分が丸く膨らんだ形状(
図5(a)参照)、凸部3の手袋本体側及び上底面側の幅が共に狭く中間部分の幅が広い形状(
図5(b)参照)等が挙げられる。このように上記凸部3の中央部分が他の部分より盛り上がっていることでグリップ力を高めることができる。なお、「凸部の中央部分」とは、平面視において凸部の辺縁近傍を除いた部分を指す。
【0035】
また、上記凹凸形状における凸部3の辺縁近傍が、他の部分より盛り上がっていてもよい。具体的には、凸部3の上底面の中央部分が窪んだ形状(
図5(c)参照)等が挙げられる。このように上記凸部3の辺縁近傍が他の部分より盛り上がっていることで、上記凸部3が変形し易く、把持物への追従性を高めることができる。
【0036】
一般に、滑止手袋に凹凸形状を形成した場合、滑止手袋の凹凸形状を形成した部分の柔軟性は向上するが、凸部3の根元部分で引き裂き強度が低下し、滑止手袋の使用によって被覆層が劣化し易くなるおそれがある。これに対し、当該滑止手袋では、特に引っ張り負荷がかかり易く劣化し易い爪領域5及び指股領域6の被覆層2には凹凸形状を形成しないことで、爪領域5及び指股領域6の強度を保ち、被覆層2の劣化を防ぐことができる。
【0037】
被覆層2の凹凸形状が形成されている領域における凹部4の総面積割合(以下、「凹部4の占有率」ともいう)の上限としては、93%が好ましく、80%がより好ましい。一方、凹部4の占有率の下限としては、10%が好ましく、15%がより好ましい。凹部4の占有率が上記上限を超える場合、凹凸形状形成領域における凸部3の総面積が少なくなり、把持物との接触面積が不足し、グリップ力が十分に得られないおそれがある。逆に、凹部4の占有率が上記下限未満の場合、凹部4の平面視領域の総面積が不足し、例えば油作業等で凹部4の油を逃がす効果が不十分となり、グリップ力が十分に得られないおそれがある。
【0038】
上記凹凸形状における凹部4の平均厚さt1(
図2参照)は、50μm以上500μm以下である。上記凹部4の平均厚さt1の上限としては、350μmがより好ましい。一方、上記凹部4の平均厚さt1の下限としては、80μmがより好ましい。上記凹部4の平均厚さt1が上記上限を超える場合、被覆層2が厚くなり過ぎ、滑止手袋の柔軟性が不十分となるおそれがある。逆に、上記凹部4の平均厚さt1が上記下限未満の場合、凸部3の根元で被覆層2が裂けやすくなり、被覆層2の強度が低下するおそれがある。なお、上記凹部4の平均厚さt1は、走査型電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社の「JSM−6060A」)を用いて滑止手袋の掌領域の断面を観察し、被覆層2の最内面から凹部4の底面までの距離について任意の5箇所(掌の端の方など特異箇所を除く)を測定した値の平均値である。
【0039】
上記凹凸形状における凹部4の平均幅w(
図2参照)の上限としては、15mmが好ましく、10mmがより好ましい。一方、上記凹部4の平均幅wの下限としては、100μmが好ましく、500μmがより好ましい。上記凹部4の平均幅wが上記上限を超える場合、凹凸形状形成領域における凸部3の総面積が少なくなり、滑止手袋の滑止効果が十分に得られないおそれがある。逆に、上記凹部4の平均幅wが上記下限未満の場合、溝の幅が狭くなり油を逃がす効果が低下するため、滑止効果が十分に得られないおそれがある。なお、「凹部の平均幅」とは、凹部の平面視領域の幅の平均値を意味し、走査型電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社の「JSM−6060A」)を用いて滑止手袋の掌領域の断面を観察し凹部の平面視領域の幅について任意の5箇所を測定した値の平均値である。
【0040】
また、上記凹凸形状の凹凸差h(凹部4の平均厚さt1と凸部3の平均厚さt2との差)の上限としては、0.7mmが好ましく、0.6mmがより好ましい。一方、上記凹凸差hの下限としては、0.15mmが好ましく、0.2mmがより好ましい。上記凹凸差hが上記上限を超える場合、凸部3が高くなり過ぎ、凸部3が脱離し易くなるおそれがある。また、凸部3が弾性変形しやすくなることで凸部3の根元に負荷がかかるため、被覆層2の強度が低下するおそれもある。逆に、上記凹凸差hが上記下限未満の場合、油を逃がす効果が弱くなりグリップ力が十分に得られないおそれがある。なお、上記凸部3の平均厚さt2は、被覆層2の最内面から凸部3の上底面までの距離について、凹部4の平均厚さt1と同様の方法で測定して得た平均値である。
【0041】
また、上記凸部3の平均厚さt2に対する上記凹部4の平均厚さt1の比(t1/t2)の上限としては、70%が好ましく、60%がより好ましい。一方、上記凸部3の平均厚さt2に対する上記凹部4の平均厚さt1の比の下限としては、10%が好ましく、15%がより好ましい。上記凸部3の平均厚さt2に対する上記凹部4の平均厚さt1の比が上記上限を超える場合、グリップ力又は柔軟性が十分に得られないおそれがある。逆に、上記凸部3の平均厚さt2に対する上記凹部4の平均厚さt1の比が上記下限未満であると、凸部3が脱離し易くなる、または被覆層2が裂けやすくなるおそれがある。
【0042】
また、隣り合う凸部3同士の厚さt2の差の上限としては、0.3mmが好ましい。当該滑止手袋は柔軟性があり、隣り合う凸部3の厚さt2の差を吸収して凸部3の上底面が把持物に接触するが、隣り合う凸部3同士の厚さt2の差が上記上限を超える場合、低い方の凸部3が把持物に接触し難くなり、グリップ力が十分に得られないおそれがある。
【0043】
<滑止手袋の製造方法>
当該滑止手袋は種々の方法によって製造可能であるが、その一例を以下に示す。
【0044】
まず、上記手袋本体1を浸漬用の立体手型に被せ、凝固剤へ掌や指先の一部もしくは手袋本体1全体を浸漬する。凝固剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カルシウム、酢酸、硝酸カルシウム、クエン酸等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも短時間で凝固効果が得られることから、硝酸カルシウムが好ましい。また、上記凝固剤の溶媒としては、例えばメタノール、水等が挙げられる。そして凝固剤を十分に滴下させた後、ゴム組成物又は樹脂組成物に掌領域や指先の一部もしくは手袋本体1全体を浸漬し、被覆層2を形成する。凝固剤を使用したこの方法を用いることで、被覆層2が手袋本体1の最内面まで浸透しにくくなり、手袋内面の触感を向上することができる。その後、手袋本体1を被せた手型を温度60℃〜95℃にて3〜10分間の乾燥を実施することにより、被覆層2が半架橋又は半加硫状態となる。または、凝固剤に再度浸漬することで被覆層2をゲル化させてもよい。このように被覆層2をゲル化することで、滑止手袋の制作時間を短縮することができる。なお、温度120℃〜140℃にて20〜60分間加熱を実施することにより、被覆層2を完全に加硫状態としてもよいが、次のプレス工程において凹凸形状が付きにくく、プレス温度やプレス圧力を高くする必要があり、手袋への負荷がかかるためこの方法は好ましくない。
【0045】
次に、その手袋本体1を上記立体手型から抜いて平型に被せ、凹凸板により掌領域の上からプレスすることにより手袋の外面に凹凸形状を形成する。このプレスは、プレス圧が0.1〜10MPa、プレス時間が1秒〜20分の条件で行うとよい。また、爪領域5及び指股領域6の部分には、このプレスを行わないことが好ましい。なお、ここで手袋をプレスする際は、凹凸板を加熱してプレスする等、60〜250℃に加熱しながらプレスすることが好ましい。加熱しながらプレスすることにより、手袋の外面に凹凸形状が形成され易くなる。なお、手型を替えず、被覆層2の形成とプレスとを同じ手型を用いて一連の工程として行ってもよい。
【0046】
プレス加工後、手袋を親指が内側に配置された人の手に近い形状の手型に被せ、90〜150℃にて10〜60分間硬化(加硫又は架橋)を実施し、手型から離型する。離型後必要に応じて例えばズレ防止の面ファスナーを縫い付ける等の処理が行われてもよい。
【0047】
<利点>
当該滑止手袋は、手袋本体1の掌領域の外面の少なくとも一部を被覆する被覆層2を備えるので、優れた滑止効果を示す。また上記被覆層2が非発泡のゴム組成物又は樹脂組成物から構成されるので、被覆時に偶発的に噛み込む泡以外に気泡の含有がほとんどなく、プレス加工によりさらに気泡割合が低減され、また手袋本体1に被覆層2が強固に固着するので、当該滑止手袋は耐摩耗性に優れる。さらに、プレス加工による凹凸形状における凹部4の平均厚さが上記下限以上であるので、着用時に凹部4から手袋本体が露出することを防止でき、当該滑止手袋の耐久性が向上する。また、上記凹部4の平均厚さが上記上限以下であるので、凹部4が折れ目となって曲がり易く、当該滑止手袋は、良好な柔軟性を発揮する。加えて被覆層2が1層で構成されるので、強度にも優れる。また、被覆層2が凹凸形状を有しているので、当該滑止手袋の摩耗が進んだ際に上記凹凸形状による模様が薄くなることから、上記凹凸形状を手袋の摩耗のインジケータとして利用することができ、滑止効果が低下した際の手袋の使用を予防できる。
【0048】
[その他の実施形態]
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。上記実施形態において、
図2に示す構成では、被覆層2が手袋本体1の外面側に含浸しているが、この手袋本体内部へ含浸させる程度を変えてもよい。例えば、被覆層を手袋本体内部の厚み方向の中央より内側まで含浸させてもよい。
【0049】
上記実施形態では、被覆層2が手袋本体1の掌領域を被覆するが、手袋本体の手の甲側の領域も被覆してよい。手の甲側の領域にも被覆層を形成することにより、滑止手袋の手の甲側の領域の保護機能を向上させることができる。
【0050】
上記実施形態の凹凸形状を構成する1つの凸部3の形状は、略六角形状としたが、例えば正六角形状とし、その凸部を同一方向に等間隔で複数配置する構成(ハニカム状)としてもよい。また、1つの凸部3の形状を楕円形状や六角形以外の多角形状としてもよい。
【0051】
これらの凹凸形状は掌領域全体に限らず、任意の部分に施してもよく、さらに、一種類の凹凸形状に限らず複数の凹凸形状を組み合わせてもよい。このように凸部を形成及び配置することによっても柔軟性が得られる。中でも指の曲げやすさから、中指方向と垂直な方向に、相対的に多く溝が入っている構造が好ましい。
【0052】
また、例えば
図6(a)に示すように凹部4を正方形状とし、一部(爪領域5及び指股領域6等)を除く手袋本体1の掌領域の全体にわたって中指方向Aに平行な方向と中指方向Aに垂直な方向とに複数の凹部4を格子状に配置してもよい。この場合、格子状に配置された凹部4以外の部分が凸部3となる。
【0053】
さらに別の凹凸形状としては、
図6(b)に示すように凸部3と凹部4とが、中指方向A(手袋本体1の裾部中心と中指中心とを結ぶ直線方向)に、交互に縞状に配置されてもよい。上記縞の向きとしては、特に制限されないが、例えば指を曲げ易くする向きと略一致するとよい。上記縞の向きが指を曲げ易くする向きと略一致することで、掌の動きに追従し易くなり、より高い柔軟性が発揮される。
【0054】
また、あらかじめ手袋本体1に形成された模様(編み模様等)をプレスによって凸部上底面に浮き上がらせることで、複雑な凹凸を付けてもよい。このように手袋本体1に形成された模様を浮き上がらせることで、グリップ性や意匠性が向上する。
【0055】
また、凹凸形状の凸部の断面形状を階段状にすることで、インジケータ機能を強調させることもできる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、当該発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
金属製立体手型に13ゲージの編機にて311dtexウーリーナイロンを編んだシームレス手袋を被せ、70℃雰囲気で加温した。次に、メタノール100質量部、硝酸カルシウム1質量部からなる凝固剤浴槽に上記シームレス手袋を浸漬した後、室温30〜40℃の間で30秒間放置することにより、ゴム配合液浸漬直前のシームレス手袋表面温度を40℃に調整した。この手型を後述するゴム配合液の浴槽に浸漬し、その状態で4秒間静止した後、浴槽から引き上げて、75℃で10分間乾燥させた。
【0058】
続いて、立体手型から手袋を抜き、金属平型に被せ直して、凹凸版を用いて120℃下で1.0MPaの圧力で10分間プレスを行った。ここで、正方形状の凹部が
図6(a)のように格子状に配置された手袋とするために、凹凸版は凸部(手袋の凹部)を正方形状とし、格子状に配置した。また、手袋の凹凸形状形成領域における凹部の総面積割合が44%となるように、凹凸版の凸部の平均幅(手袋の凹部の平均幅w)を2mmとし、凹凸版の凹部の平均幅(手袋の凸部の平均幅)を1mmとした。また、凹凸版の凹凸差(手袋の凹凸形状の凹凸差h)は0.25mmとした。
【0059】
その後、手袋を立体手型に被せ直して110℃で40分間加熱し、手型から手袋を抜いて滑止手袋を得た。
【0060】
(ゴム配合液)
実施例1に用いたゴム配合液は、固形分換算で、NBRラテックス(日本ゼオン株式会社の「Lx550L」)を100質量部、アンモニア(大盛化工株式会社製)を0.4質量部、水酸化カリウム(EXCELKOS(M)SDN.BHD.社製)を0.4質量部、硫黄(EXCELKOS(M)SDN.BHD.社製)を0.5質量部、酸化亜鉛(METOXIDE(M)SDN.BHD社製)を2質量部、加硫促進剤(LANXESS社の「VukacitLDA−ZDEC」)を0.2質量部、老化防止剤(LANXESS社の「VulkanoxBKF」)を0.5質量部、酸化チタン(Huntsman製)を2質量部、消泡剤(東レ・ダウコーニング株式会社の「SM−5533」)を0.005質量部及び増粘剤(東亜合成株式会社の「A−7075」)を0.3質量部含有する。上記ゴム配合液の固形分濃度は40質量%であり、V6粘度(B型粘度)は、2000mPa・sである。
【0061】
[実施例2〜8]
プレス加工する際に、凹凸版の凹部の平均幅を一定とし凹凸版の凸部の平均幅を変えた凹凸版を用いることで、実施例1の凹凸版の凸部の総面積割合(手袋の凹部の総面積割合)を表1のように8%から91%まで変えたものを実施例2〜8の滑止手袋として用意した。
【0062】
[実施例9〜15]
プレス加工する際に、凹凸版の凸部の上底面及び凹部の底面の面積と形状とを一定とし、実施例1の凹凸版の凹凸差を表1のように0.1mmから0.8mmまで変えたものを実施例9〜15の滑止手袋として用意した。
【0063】
[実施例16、実施例17]
実施例1のゴム配合液への浸漬時間を長くすることで、手袋の凹部の平均厚さt1を表1のように変えたものを実施例16、実施例17の滑止手袋として用意した。
【0064】
[実施例18]
実施例1のゴム配合液を以下に記載のゴム配合液としたものを実施例18の滑止手袋として用意した。
【0065】
(ゴム配合液)
実施例18に用いたゴム配合液は、固形分換算で、天然ゴムラテックス(Kilang Getah Bukit Perak社の「LATZ」)を100質量部、ワックスエマルション(H&R WAX(M)SDN.BHD社の「VIVASHIELD9176」)を2質量部、水酸化カリウム(EXCELKOS(M)SDN.BHD.社製)を0.2質量部、硫黄(EXCELKOS(M)SDN.BHD.社製)を1質量部、酸化亜鉛(METOXIDE(M)SDN.BHD社製)を1質量部、加硫促進剤(LANXESS社の「VukacitLDA−ZDEC」)を0.2質量部、老化防止剤(LANXESS社の「VulkanoxBKF」)を1質量部、増粘剤(東亜合成株式会社の「A−7075」)を適量含有する。上記ゴム配合液の固形分濃度は47質量%であり、V6粘度(B型粘度)は、2000mPa・sである。
【0066】
[比較例1]
実施例1のプレス加工を行わないことで、滑止手袋を表1のように凹凸形状を有しない構成としたものを比較例1として用意した。
【0067】
[比較例2]
実施例1のゴム配合液を以下に記載のゴム配合液とすることで、被覆層に気泡を含有させたものを比較例2の滑止手袋として用意した。
【0068】
(ゴム配合液)
比較例2に用いたゴム配合液は、固形分換算で、NBRラテックス(日本ゼオン株式会社の「Lx550L」)を100質量部、硫黄(EXCELKOS(M)SDN.BHD.社製)を2.0質量部、酸化亜鉛(METOXIDE(M)SDN.BHD社製)を1.0質量部、加硫促進剤(LANXESS社の「VukacitLDA−ZDEC」)を0.2質量部、老化防止剤(LANXESS社の「VulkanoxBKF」)を0.5質量部、起泡剤(花王株式会社製の「ペレックスTA」)を3質量部、整泡剤(竹本油脂株式会社の「パイオニンC−158−D」)を3質量部及び増粘剤(東亜合成株式会社の「A−7075」)を0.2質量部含有する。上記ゴム配合液の固形分濃度は38質量%であり、この配合液をハンドミキサーにて空気含有率50%、平均泡直径50μmに調整した。
【0069】
[測定]
上記実施例1〜18及び比較例1、2の全て又は一部について、動摩擦係数、グリップ力、耐摩耗性及び柔軟性を評価した。
【0070】
<動摩擦係数>
動摩擦係数は、凹凸形状が形成された部分から20×50mmの試験片を用い、DRY条件及びOIL条件の2条件で測定した。DRY条件での測定方法としては、試験機に株式会社島津製作所の「万能試験機オートグラフASG−J」を使用し、摩擦子(437g)に、その接触面(20×20mm)が隠れるように上記試験片を張り付け、水平に設置したステンレス板(表面はバフ研磨仕上げ)上にて150mm/分で移動距離130mm走行させ、その間の摩擦力を測定した。動摩擦係数は、引張開始30mmの位置から停止前20mmの位置のまでの間の平均摩擦力から算出した。なお測定環境は温度20℃±2℃、相対湿度40%±10%である。OIL条件での測定では、ステンレス板上に切削油(協同油脂株式会社の「エマルカットFA500KS」を20倍希釈したもの)を0.5ml塗る他はDRY条件と同様の条件で測定を行った。なお、動摩擦係数の値が高いほど滑止効果が高いと評価した。具体的には、OIL条件において、下記の評価基準に基づいて5段階の評価をした。この結果を表1に示す。
【0071】
(動摩擦係数評価の基準)
A:動摩擦係数が、0.65以上
B:動摩擦係数が、0.60以上0.65未満
C:動摩擦係数が、0.55以上0.60未満
D:動摩擦係数が、0.50以上0.55未満
E:動摩擦係数が、0.50未満
【0072】
<グリップ力官能評価>
被験者10人に手袋を装着してもらい、切削油のついたステンレス棒(直径30mm、長さ200mm)を握った時の感想を下記の5段階で評価した。評価結果を平均したものを表1に記載した。
【0073】
(グリップ力評価の基準)
A:非常にグリップ力が高く、まったく滑らない
B:グリップ力が高く、ほとんど滑らない
C:少しグリップ力があり、滑りにくい
D:どちらともいえない
E:グリップ力が低く、滑る
【0074】
<耐摩耗性>
耐摩耗性試験は欧州統一規格EN388:2003の「Protective gloves against mechanical risksの6.1 Abrasion resistance」に従って行い、摩擦回数をカウントした。耐摩耗性試験は、DRY条件及びOIL条件の2条件で行った。試験機はEN−ISO−12947−1で定める試験機Nu−Martindaleであり、摩耗紙はKlingspor PL31B 180 gritである。試験片は手袋1枚当たり1枚採取した。試験片を採取した箇所は凹凸形状が形成された掌領域である。また、試験環境は温度20±2℃、相対湿度40±10%であり、OIL条件ではさらに上記環境下で、白灯油に被覆層面側のみ30分間浸漬した後、表面に付着した油を拭き取った試験片を用いて試験した。なお、数値が大きくなる程破れるまでの摩擦回数が多いことを示しており、耐摩耗性が高いことを意味する。この結果を表1に示す。表1において「1000<」と示しているものは、摩耗回数1000回で試験片が破れなかったことを示している。
【0075】
<柔軟性官能評価>
被験者10人に上記実施例1、実施例16及び実施例17の手袋を着用してもらい、指を屈伸してもらった。その際の手にかかる力について下記の評価基準に基づいて評価し、その平均を求めた。この結果を表1に示す。
【0076】
(柔軟性評価の基準)
A:柔軟性に非常に優れ、指の屈伸が極めて良好
B:柔軟性に優れ、指の屈伸が良好
C:柔軟性が有り、指の屈伸に支障はない
D:どちらともいえない
E:柔軟性が無く、指の屈伸が困難
【0077】
【表1】
【0078】
なお、表1において「素材」とは、被覆層を構成するゴム組成物又は樹脂組成物の主成分を示し、「凹凸の平均厚さの比」とは、凸部の平均厚さに対する上記凹部の平均厚さの比(t1/t2)を示す。
【0079】
表1の結果より、実施例1〜17の滑止手袋は、比較例1、2の手袋に比べ滑止効果、耐摩耗性及び柔軟性に優れる。被覆層が非発泡のゴム組成物又は樹脂組成物から構成され、掌領域の被覆層にプレス加工による凹凸形状が形成され、上記凹凸形状における凹部の平均厚さを50μm以上500μm以下とすることにより、滑止効果、耐摩耗性及び柔軟性に優れることがわかる。
【0080】
表1において被覆層の素材についてみると、実施例1及び実施例18を比較して、被覆層の素材(主成分)がアクリロニトリル−ブタジエン共重合体であることにより、耐摩耗性がさらに高くなることがわかる。
【0081】
表1において凹部の総面積割合についてみると、実施例1〜8を比較して、実施例1及び実施例5においてグリップ力官能評価の評価結果が高くなることから、凹部の総面積割合を一定の範囲内とすることで、滑止手袋のグリップ力がさらに高まることがわかる。
【0082】
表1において凹凸差の平均についてみると、実施例1及び実施例9〜15を比較して、実施例1及び実施例12においてOIL条件の動摩擦係数が最大となることから、凹凸差の平均を一定の範囲内とすることで当該滑止手袋の油作業等での滑止効果がさらに高まることがわかる。
【0083】
<硝酸カルシウムによる凝固効果の検討>
平型に被せたシームレス手袋をゴム配合液の浴槽から引き上げるまで実施例1と同様に処理した後、75℃で10分乾燥する代わりに10%硝酸カルシウム水溶液の凝固剤浴槽に浸漬してゴム配合液を固め、そのまま実施例1と同じ凹凸版を用いて室温で1.0MPaの圧力で10分間プレスを行った。その後、手袋を立体手型に被せ直して110℃で40分間加熱し、手型から手袋を抜いて滑止手袋を得た。得られた手袋は滑止効果と耐摩耗性とに優れる手袋であった。このようにプレス前の乾燥の代わりに凝固剤(硝酸カルシウム)でゴム配合液をゲル化させることにより、滑止手袋の制作時間を短縮できることがわかる。
【0084】
<凸部の断面形状の検討>
熱プレスする際に凹部の底面の中央部分が丸く窪んだ形状を有する凹凸版を用いることで、凸部の表面の中央部分が丸く膨らんだ形状(
図5(a)に示す凸部の断面形状)を有する手袋を得た。この凸部形状を有する滑止手袋は、実施例1の手袋に比べて、特に油作業でのグリップ力が高い手袋であることを確認した。
【0085】
また、熱プレスする際に凹部の上面側及び底面側の幅が共に狭く中間部分の幅が広い形状を有する凹凸版を用いることで、凸部の手袋本体側及び上底面側の幅が共に狭く中間部分の幅が広い形状(
図5(b)に示す凸部の断面形状)を有する手袋を得た。この凸部形状を有する滑止手袋は、実施例1の手袋に比べて、例えば油作業時に把持物に対するグリップ力が高く、把持物への追従性が高い手袋であることを確認した。
【0086】
さらに、プレス加工する際に、実施例1の凹凸版の凸部の上底面及び凹部の底面の面積と形状とを一定とし、凹凸版の凹凸差を1.0mmとしたものを使用することにより滑止手袋を得た。この滑止手袋の凸部は、表面の中央部分が窪んだ形状(
図5(c)に示す凸部の断面形状)であった。この滑止手袋は、実施例1の手袋に比べて把持物への追従性が高い手袋であることを確認した。